JP4167283B2 - 甘味料 - Google Patents

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Description

本発明は単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコールを有効成分とし、その瀉下作用を解消することで、内リンパ水腫減荷効果を確実に発現させ、さらに増強したメニエール病治療薬、及び瀉下作用の改善された甘味料に関する
メニエール病の病因は未だ不明の部分が多いが、その病態が内リンパ水腫であることはメニエール病患者の剖検例の組織学的検討の結果から、広く知られている。この内リンパ水腫は、内リンパ液の産生過剰や吸収障害など、内耳の水代謝の異常によって内リンパ液が貯留することで形成され、耳鳴、難聴、めまい、耳閉感等のメニエール病の特徴的な症状が発現するとされる。したがってこの内リンパ水腫を減荷することがメニエール病治療の目標となると考えられている。
内耳の水代謝を司るものの1つとして、アルギニンバゾプレシンーアクアポリン2(arginine vasopressin−aquaporin2)システムが近年注目されている(非特許文献1)。
臨床的にはメニエール病患者では、急性期に抗利尿ホルモン(Antidiuretic hormone,ADH)のアルギニンバゾプレシン(arginine vasopressin、以後AVP)の上昇が報告されており(非特許文献2)、このAVP1mu/kgをプライエル反射正常のモルモットの皮下に2週間連続投与した結果、血清AVPが数倍(メニエール病の急性期の血清AVPとほぼ同値)に上昇し、組織学的には内リンパ水腫が生じた(非特許文献3)。したがってメニエール病治療にあたっては、ストレスや脱水などによりAVPが上昇しないよう、特に留意しなくてはならない。
歴史的には、メニエール病の治療薬として、内リンパ水腫の減荷を目的として、尿素や浸透圧利尿剤であるグリセロール、マニトールなどの糖アルコールが用いられてきた。糖及び糖アルコールは経口投与後に内外リンパ液の浸透圧勾配を生じることから、内リンパ腔の容積が減少、すなわち内リンパ腔虚脱効果、または内リンパ水腫減荷効果が生じるとされている。
このうち、3単糖であるグリセロール2.8g/kgをモルモットに経口投与したところ、投与後2時間で正常耳において虚脱が認められたが、6時間目には逆に軽度の水腫形成が観察された(非特許文献4)。すなわち、組織学的なリバウンド現象が観察された。メニエール病診断のため行われるグリセロールテストにおいては、投与後約2時間後に一時的に聴力の改善が見られた後、6時間後には逆に聴力が悪化する、いわゆる「リバウンド現象」が知られている(非特許文献5)が、このことが組織学的に裏付けられた。現在このリバウンド現象のため本邦ではグリセロールは治療薬としては用いられていない。
また元来、糖又は糖アルコールは浸透圧下剤として用いられてきたことからも推測されるように、糖又は糖アルコールは、一度に大量を経口投与すると消化器官において浸透圧勾配を生じ、下痢など胃腸症状を発現するおそれがある。なかには一般的な胃腸薬が効果を示さない重篤な下痢を生じる。重篤な下痢の場合には脱水症状が続発し、抗利尿ホルモンのAVPが10〜15倍にも上昇することが報告されている(非特許文献6)。上記の通り、AVP上昇は内リンパ水腫を形成することから、糖又は糖アルコールの内リンパ水腫減荷効果は下痢による脱水により相殺されると考えられる。したがって、糖又は糖アルコールをメニエール病治療に用いる場合には、下痢などの消化器症状を発現させないように、細心の注意が必要である。
特許文献1には、4単糖であるエリスリトール単味を有効成分とするメニエール病治療薬か記載されている。エリスリトールは風味の点で優れたものであるが、エリスリトールを低カロリー甘味料として添加したスポーツ飲料を短時間に大量に摂取したことで一過性の激しい下痢が発現したことが報告されていることから、このままでは治療効果は期待できないと思われる。
現在、メニエール病治療薬として臨床応用されている糖は、イソソルビド(1,2:3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール)であるが、これには独特の苦みがあり、その苦味が口腔内に長時間残存すること、さらに1回服用量が30ml以上で、1日3回服用する必要があり、服用量が大量であることから、服用に困難を感じる患者が多く、服用を中断する例もある。さらに、剤型が液体で、衛生上の問題から500ml入りのボトルを携行する必要があるため不便があった。
また、3単糖であるグリセロールが経口投与後約2時間で効果が発現するのに対し、6単糖であるイソソルビドは作用発現まで約6時間を要する(非特許文献7)。
単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコールは、各種食品類用の甘味料としても知られているが、大量に使用した場合には、前記と同様の問題が生じる欠点があった。
特開平11−180863 Sawada S et al:Aquaporin−2regulation by vasopressin in the ratinner ear.Neuroreport 13:1127−9(2002) Takeda T et el:Antidiuretic hormone(ADH)and endolymphatic hydrops.Acta otolaryngol Suppl 519:219−22,(1995) Takeda T et al:Endolymphatic hydrops induced by chronic administration of vasopressin.Hear Res.140:1−6,(2000) Takeda T et al:The rebound phenomenon of glycerol−induced changes in the endolymphatic space.Acta Otolaryngol 119:341−4(1999) Matsubara H et al:Rebound phenomenon in glycerol test.Acta Otolaryngol Suppl.419:115−22(1984) Safwate A et al:Renin−aldosterone system and arginine vasopressin in diarrhoeic calves.Br Vet J 147:533−7,(1991) Kakigi A et al:Time course of dehydratic effects of isosorbide on experimentally induced endolymphatic hydrops in guinea pigs.O R L J Otorhinolaryngol Relat Spec 66:291−296(2004) Takeda T:The effects of V2 antagonist(OPC−31260)on endolymphatic hydrops.Hear Res.183:9−18,(2003)
上記のとおり、糖又は糖アルコールを有効成分とするメニエール病治療薬には、減荷効果発現までに長時間を要するものやリバウンド現象が生じるものがある。また、大量(1回量20〜30g)を1日に3回、2週間程度にわたって経口投与するため、特有の瀉下作用がみられ、下痢も一過性にとどまらない。そのため、脱水などが続発しやすく、結果としてAVP上昇は必定で、確実な治療効果は期待するには止瀉作用を持つものを添加するなどしてAVP上昇を抑える工夫が必要となるが、通常用いられる止瀉薬では改善は期待しにくい。大量投与に伴う副作用としては、下痢のほか、腹部の膨満感、ゴロゴロ感などの消化器症状が知られている。
さらに、大量投与であるために、服用のし易さ及び携行の便が求められている。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、糖又は糖アルコールを有効成分としながら瀉下作用などの消化器症状がなく、服用と携行が容易なメニエール病治療薬を提供すること、及び、糖又は糖アルコールを含有する、瀉下作用などの消化器症状がなく携行が容易な甘味料を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究の結果、糖又は糖アルコールに、一定範囲量の多糖類を1種以上配合することによって、瀉下作用などの消化器症状を消失させ、容量、重量とも約2分の1に減量することが可能であることを見出して本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコール、及び単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコールに対し5〜50重量%の1種または2種以上の多糖類を含有するメニエール病治療薬。
(2)多糖類の含有量が10〜50重量%である、(1)のメニエール病治療薬。
(3)糖アルコールがエリスリトール又はキシリトールである、(1)又は(2)のメニエール病治療薬。
(4)多糖類がペクチン及び/又はキサンタンガムである、(1)〜(3)のいずれか1のメニエール病治療薬。
(5)単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコール、及び単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコールに対し5〜50重量%の1種または2種以上の多糖類を含有する、メニエール病治療のためのゲル製剤。
(6)水分量が10〜55重量%である、(5)のゲル製剤。
(7)単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコール、単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコールに対し5〜50重量%の1種または2種以上の多糖類、及び単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコールと多糖類の総量に対し10〜55重量%の水を加えて練和することからなる(6)のゲル製剤の製造方法。
(8)単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコール、単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコールに対し5〜50重量%の1種または2種以上の多糖類、及び単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコールと多糖類の総量に対し10〜55重量%の水を練和してゲル製剤とし、ついで、このゲル製剤を乾燥、粉砕、造粒することからなるメニエール病治療のための粉剤又は顆粒剤の製造方法。
(9)上記(8)の製造方法によって得られる、メニエール病治療のための粉剤又は顆粒剤。
(10)単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコール、及び単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコールに対し5〜50重量%の1種または2種以上の多糖類を含有する甘味料。
(11)糖アルコールがエリスリトール又はキシリトールである、(10)の甘味料。
(12)単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコール、単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコールに対し5〜50重量%の1種または2種以上の多糖類、及び単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコールと多糖類の総量に対し10〜55重量%の水を練和してゲル製剤とし、ついで、このゲル製剤を乾燥、粉砕、造粒することからなる甘味料の製造方法。
本発明のメニエール病治療薬は、単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコール(以下、「糖アルコール類」という。)に多糖類を一定範囲量で配合することにより、糖アルコール類に起因する下痢などの消化器症状を主訴とする副作用を軽減ないし消失させることができ、リバウンド現象もなく、内リンパ水腫の減荷作用を有効に達成することができる。また、該配合物はゲル剤とすることによって容量を圧縮することが可能であるため、保存・携行・服用が容易であり、さらに、ゲル剤を乾燥後、粉砕、造粒などによって粉剤、顆粒剤などの任意の製剤とすれば、保存・携行・服用が一層簡便となる。粉剤又は顆粒剤等の乾燥製剤は、服用時に少量の水を加えれば、直ちに服用のしやすいゲル剤(ゼリー状)となる。
本発明の甘味料は風味がよく、また、上記と同様の作用効果を有する。
本発明において、糖アルコール類としては、グリセロール、エリスリトール、キシリトール、キシロース、ソルビトール、イソソルビトール、マルチトール、ラクチトールなどの単糖類又は少糖類アルコールが挙げられるが、このうちエリスリトール及びキシリトールが好ましい。
多糖類としては、キサンタンガム、ペクチン、アラビアガム、ゼラチン、アルジネートナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、寒天などが挙げられる。これらを単独でも数種組み合わせてもよい。
糖アルコール類に対する多糖類の配合量は、糖アルコール類に対し5〜50重量%、好ましくは10〜50重量%であり、10〜40重量%が特に好ましい。多糖類の配合量が上記範囲を外れると瀉下効果が十分に達成され難い傾向にある。
糖アルコール類と多糖類の規定量を混合し、混合物に対し約10〜約55重量%、好ましくは約15〜約50%の精製水を加えて、常温又は必要に応じて加熱下に練和すると、練和物はゲル化しゼリー状になる。精製水の量が10重量%より少ないと粘度が上がりすぎ、また、55重量%を超えると希薄になりすぎて良質なゲルが得られないため好ましくない。
このゲル剤を乾燥、粉砕すれば粉剤が得られる。また、上記練和物を押し出し造粒等の方法で造粒し、乾燥後製粒することによって顆粒剤が得られる。
乾燥、粉砕、及び造粒は、慣用の方法が何れも適用できる。
製剤化に際し、必要に応じて、有効成分に加えて、医薬上許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、防腐剤、安定剤、香味・着色剤などを配合することができる。
そのほかに、本発明の目的を損なわない限り、糖アルコール類以外の他の薬効成分、例えば制酸作用、整腸作用を有する薬物として乾燥水酸化アルミニウムゲル、天然ケイ酸アルミニウム、沈降炭酸カルシウムなど、内耳循環改善作用を有する薬物として交感神経β作動薬、血管拡張薬あるいは脳循環改善薬、迷路水腫の軽減を図る薬物として利尿剤、鎮静ないし制吐を図る薬物として鎮静剤、自律神経調節剤を適宜配合することも可能である。
糖アルコール類の投与量は、病態によるが成人1日あたり0.5〜3.0g/kg、好ましくは0.8〜1.5g/kgであり、これを1ないし数回に分けて投与する。
本発明のメニエール病治療薬は、糖アルコール類と多糖類とを練和して得たゲル剤をそのまま服用してもよく、また、ゲル剤から定法で製剤化して得られる粉剤又は顆粒剤を服用してもよい。
ゲル剤から得られる粉剤又は顆粒剤は、糖アルコール類原末に比較して容量が約2分の1に減量するため、保存、携帯に有利であり、患者にとって服用の負担が軽減される。
また、粉剤又は顆粒剤に用時に約10〜約55重量%の水を加えれば、再ゲル化して一塊のゼリー状となるため、服用がさらに容易となる。
本発明によるゲル剤は、糖アルコール類原末の飽和水溶液に対し容量が約4分の1に激減するため、従来の液状製剤と比較しても服用上格段に有利である。
本発明の甘味料において、糖アルコール類としては、エリスリトール、キシリトール、ソルビトールなどが挙げられるが、このうちエリスリトール及びキシリトールが好ましい。
多糖類としては、キサンタンガム、ペクチン、アラビアガム、ゼラチン、アルジネートナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、寒天などが挙げられる。これらを単独でも数種組み合わせてもよい。
多糖類の配合量は、上記と同様であり、糖アルコール類と多糖類を混合し、混合物に対し約10〜約55重量%、好ましくは約15〜約50%の精製水を加えて、常温又は必要に応じて加熱下に練和することによって、ゼリー状のゲル剤が得られる。
このゲル剤を、定法により乾燥、粉砕、あるいは顆粒剤に成形すれば、容量が原末に比較して顕著に低減した粉剤又は顆粒剤を得ることができる。粉剤又は顆粒剤は、用時に約10〜約55重量%の水を加えれば再ゲル化して、利用性のよいゲル剤とすることができる。
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
糖アルコール類による下痢とその解決方法を調べた。糖アルコール類のうち、5単糖であるキシリトール、キシロース、4単糖であるエリスリトール(以下Ery)に多糖類を添加するなどして、モルモットに経口投与し、投与後6時間目まで便を観察した。
対象と方法)体重280〜320mgのモルモットで、正常な便をしている90匹を、3グループに分け、第1−aグループにはキシリトールのみ[比較例1]、キシリトールとキサンタンガムまたはペクチン、第1−bグループにはキシロースとペクチン、第1−cグループにはEryのみ[比較例2]、Eryとペクチン(以下Pec)、EryとPecと天然ケイ酸アルミニウムゲル、さらに炭酸カルシウムを加えたものを経口投与した。
投与する糖アルコール類と多糖類の量は表1、表2に示すとおりである。投与薬剤は蒸留水に溶解させ、いずれの場合も水溶液の1回の投与量は8ml/kgとなるようにした。
便の固さ、形状を観察する際の判定基準は表3に示す。蒸留水を投与した群の便の固さ及び性状を「正常便」として、形状は正常であるが、指で押さえると比較的容易に変形するものを、「やや軟便」、形状が既に変形しているものを「軟便」、形のないものを「泥状便」とした。便の観察は投与後6時間行い、もっとも症状が重篤になった時点の便の固さと形状をその動物の糖アルコールによる症状として判定し、その結果を表1、表2に記した。
Figure 0004167283
Figure 0004167283
Figure 0004167283
Figure 0004167283
結果
1−a)キシリトール投与の場合
投与前、正常な便をしているモルモット45匹を、5匹ずつ9群に分け、表1に示すようにキシリトール等の水溶液を経口投与した。
ア)キシリトールのみを投与した場合の投与量による影響[比較例1]
キシリトール1.4g/kgでは下痢は起きなかったが、2.1g/kg投与群では3時間後には手指で押さえると便が容易に変形する程度の軟便の動物が1匹いた。2.8g/kgでは投与後1時間では異常は認められなかったが、投与後2時間ですべての動物に程度の差はあったが、明らかな下痢症状があらわれた。投与後3〜4時間で全動物が水様便となり、症状がもっとも重篤になったが、6時間後にはほぼ正常な便に戻った。
イ)キシリトールにキサンタンガムを添加
キシリトール2.8g/kgに、各々キサンタンガムを0.12g/kg、0.2g/kg、0.3g/kg添加し経口投与したところ、2時間目まではほとんど異常な便は認められなかったが、3〜4時間後に症状が出現した。その時点の便の評価を表に示した。便はキサンタンガムの量が増加するにつれ正常な便をするものが多くなり、0.3g/kgでは観察時間中に軟便は認められなかった。
ウ)キシリトールにペクチン(Pec)を添加
キシリトール2.8g/kgに、各々Pecを0.25g/kg、0.35g/kg添加し経口投与すると、0.25g/kgでは、便は2時間目から軟化傾向を示しはじめ、3〜4時間目にピークになった。0.35g/kgで軟便は認められなかった。
1−b)キシロース投与の場合
正常な便をしているモルモット5匹にキシロース2.8g/kgにペクチン0.3g/kgを添加し経口投与したところ、軟便は見られなかった。
1−c)エリスリトール(Ery)にペクチン(Pec)を添加した場合
投与前、正常な便をしているモルモット40匹を、5匹ずつ8群に分け、表2に示すようにEry溶液及び添加物を経口投与した。
ア)エリスリトール(Ery)のみ2.8g/kgを投与した場合[比較例2]
3時間後には全動物が泥状便となり、6時間後にも3匹は泥状便が続いていた。
イ)エリスリトール(Ery)にペクチン(Pec)を添加
Ery2.8g/kgにPecを各々0.1g/kg、0.3g/kg、0.5g/kg、1.0g/kg、1.5g/kg添加し、経口投与した。0.5g添加すると便は過半数が正常になり、1.5g/kg添加すると、便は正常よりむしろやや固くなることが分かった。
ウ)エリスリトール(Ery)にペクチン(Pec)、アドソルビン、炭酸カルシウムを添加
表2に示すようにEry2.8g/kgにPec0.5g/kgさらに天然ケイ酸アルミニウム(アドソルビン)0.17g/kgと炭酸カルシウム50mg/kgを加えた場合、Pec0.5g/kgさらに天然ケイ酸アルミニウム0.17g/kgを加えた場合のいずれも殆どの動物が正常な便であった。
以上の結果から、糖アルコール類の経口投与により下痢症状が生じること、この下痢は投与後3〜4時間でピークに達するが、6時間目にはいくらか回復傾向を示すこと、多糖類を添加することで、糖アルコール類の瀉下作用が軽減されることが分かった。制酸作用、整腸作用を有する薬物を加えることで作用はより確実になる傾向も認められた。これは他の多糖類、例えばアルギン酸ナトリウムでも同様のことが観察された。
糖アルコール類の内リンパ水腫減荷効果を評価するため、以下のとおり、2系列の試験を行った。まず、100匹のモルモットの左側のみに内リンパ嚢閉鎖術を施行し、「実験的内リンパ水腫モデル動物」を作成した。内リンパ嚢の閉鎖は内リンパ嚢の骨外部分を双極性電気凝固器(bipolar electrocoagulator)で焼灼することで行った。内リンパ液の吸収に重要な役割を演じる内リンパ嚢を焼灼することで内リンパ液の吸収障害がもたらされ、実験的内リンパ水腫が形成される。この水腫は進行的に形成され、その大きさは約2週間ないし1ヶ月後にはほぼ一定となって、数ヶ月間持続する。術式の詳細は既報(Takeda T:Hear Res.183:9−18,(2003))と同様である。
1ヶ月後、第2−1グループ(第1−6群)60匹、第2−2グループ(第7−10群)40匹の2グループに分け、第2−1グループには、糖アルコール類のみを投与[比較例3)、第2−2グループには、糖アルコール類に多糖類を添加した薬剤を経口投与した。動物は設定した時間経過後、灌流固定し、胃腸症状と主に術側(左側)の蝸牛の組織学的変化を検討した。
胃腸症状は灌流固定の際、大腸、直腸、結腸の状態、便の形成状況については、1)便の固さと形、2)形のある便の形成された長さと便の間隔と配列状態の2点について特に観察し、表3の基準により判定した。直腸、結腸内で正常便の形成された長さは肛門を起点に計測し、便の間隔が一定かどうかもあわせて観察した。
灌流固定後、両側側頭骨を摘出し、トリクロロ酢酸で脱灰、アルコール系列で脱水、パラフィン・セロイジンの2重包埋を行った。薄切により得た蝸牛軸切片をヘマトキシリン・エオジン染色し、光学顕微鏡で主に術側(左側)を中心に蝸牛組織の観察、ライスネル膜の長さと内リンパ腔の面積の変化を観察、計測を行った。
各回転毎にライスネル膜の伸展と内リンパ腔の容積変化を計測し、その結果を下記の計算式により積分して、蝸牛毎に膜の伸展率、内リンパ嚢の面積増加率を求めた。術側の左側では内リンパ腔の容積変化から、内リンパ水腫減荷効果を評価した。
Figure 0004167283
Figure 0004167283
組織作成法、計測法、評価法の詳細は既報(Takeda T:Hear Res.183:9−18,(2003))と同様である。
(1)第2−1グループ:エリスリトール(Ery)のみを投与した場合[比較例3]
モルモット60匹を各群10匹ずつ6群に分け、各群に次に示すように薬物の投与を行った。Ery水溶液は1回投与量が8ml/kgとなるように調整した。
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第1群:対照群 蒸留水8ml/kg 3時間後
第2群:E1H群 Ery2.8g/kg 1時間後
第3群:E2H群 同 2時間後
第4群:E3H群 同 3時間後
第5群:E6H群 同 6時間後
第6群:E12H群 同 12時間後
A)胃腸症状についての検討
結果を表4に示す。
Figure 0004167283
ア)便の固さの判定
対照群はすべて正常便であった。E1H,E2H群は直腸付近では正常な便が形成されていたが、次第に軟便に移行していた。E3H,E6H群はすべて泥状便であった。E6H群の5匹中1匹は泥状便にわずかな軽回が認められたが、形は形成されていなかった。E12H群では全動物でほぼ正常な固さの便が形成されていた。
イ)形のある便の形成された長さと便の間隔と配列状態
対照群では55.0±8.8cmで、便の大きさは一定で、その間隔も一定であったが、E1H群では一部軟便で、大きさは不整、間隔もバラバラになっているなど不定になっており、便の形成された長さは22.8±6.9cmであった。E2H−E6H群では一部軟便に近い部分もあったが、腸内はほぼ泥状便で満たされており、形の形成は0cmであった。投与後12時間のE12H群では、ほぼ一定の形をした便が66.0±12.1cm形成されていた。便の間隔は対照群では通常約0.7〜1cmでほぼ一定であるところ、E12H群の一部の動物では8〜10cmの箇所もあり、不定であった。
以上から、Ery投与による下痢は2〜3時間で重篤なものとなり、6時間後も継続しているが、12時間後には正常に復することが分かった。
B)内リンパ水腫減荷効果
術側における膜の伸展と面積の増加の関連
術側における膜の伸展率(IR−L)、面積増加率(IR−S)の平均±標準偏差を表5に示す。なお、対照群は閉鎖術を施行していない右側(対照側)をも計測して、閉鎖術を施行していない、すなわち無処置のライスネル膜の伸展率、内リンパ腔の面積増加率を表5に加えて示した。
Figure 0004167283
対照群の対照側では水腫の形成は認められない。術側においては、閉鎖術による実験的水腫の形成程度は数%から百数十%とバラツキが大きく、膜の伸展率、面積増加率の平均±標準偏差を比較することではEryの効果、その経時変化などを検討することには困難がある。
図1は横軸に膜の伸展率、縦軸に面積増加率をとり、各動物群毎に術側の2変数の散布図と回帰直線を示したものである。内リンパ水腫が生ずると、内リンパ腔の体積が増加し、ライスネル膜が伸展する。図1から、蒸留水を投与した対照群術側では、この両者の間に統計学的に1次相関が存在すると推計される。薬剤投与により水腫の減荷が起こると、膜が伸展しているにもかかわらず、内リンパ腔の面積増加が少なくなり、回帰直線が下方に移動することになる。
図1において、対照群の回帰直線とE1H群(1時間後)ないしE12H群(12時間後)の計5群の回帰直線を比較すると各群間に有意差はなかった(ANCOVA)。このことから、糖アルコール類投与により期待された減荷効果は、単味で投与した場合には認められないことがわかった。その理由としては、瀉下効果による脱水により、バゾプレシンなど抗利尿ホルモンが上昇したことが考えられる(Safwate A et al:Br Vet J 147:533−7,(1991))。
糖アルコール類の内リンパ水腫減荷作用を確実なものとするには、糖アルコール類の瀉下作用を打ち消す方法を考案しなくてはならないことが分かった。
(2)第2−2グループ:エリスリトール(Ery)にペクチン(Pec)を添加し投与した場合
左側内リンパ嚢の閉鎖術施行1ヶ月後、モルモット40匹を各群10匹ずつ4群に分け、各群に次に示すように薬物投与を行い、一定時間経過後に灌流固定した。
[2−2−a:ペクチン(P)の添加量による効果の違いを観察する]
Figure 0004167283
[2−2−b:ペクチン(Pec)0.5g/kg添加し、投与後の経時的変化を観察する]
Figure 0004167283
なお、薬剤の1回投与量は第7群から10群までは8ml/kgとした。
灌流固定の際、大腸、直腸、結腸の状態、特に便の形成状況を観察した。灌流固定後の脱灰、脱水、包埋、染色、光学顕微鏡での観察、計測は第1グループと同様に行った。
A)胃腸症状についての検討
便の固さ、間隔の判定と便の形成された長さは上記の2グループに分けて観察した。
[2−2−a:ペクチン(Pec)の添加量による投与後3時間後の効果の違いを観察する]
結果は表6に示す。
Figure 0004167283
第4グループのE3H群(Pecを添加せずEryのみ投与)は10匹すべてが泥状便であったが、第7群(E+P0.1g群:Pec0.1g/kg添加)では10匹中、泥状便の動物が5匹、軟便の動物が3匹で、肛門から2〜3cm程度の便の形がみられた。残りの2匹はやや軟便で、23cm、42cmの便が形成されていたが、その間隔は不定で、間隔が10cm以上開いているところもあった。10匹の平均は7.3±13.3cmであった。
第8群(E+P3H群:Pec0.5g/kg添加)では3匹が泥状便、他の7匹のうち軟便、やや軟便が各1匹、3匹は正常な固さであった。これら7匹の便の間隔はいずれも不定であった。形成された便の長さの平均(10匹)は19.2±21.7であった。
[2−2−b:ペクチン(Pec)0.5g/kg添加し、投与後の経時的変化を観察する]
結果は表7に示す。
Figure 0004167283
2−2−aの第8群(E+P3H群:3時間後灌流)では泥状便は3匹、正常便4匹であった。投与後6時間で灌流した第9群(E+P6H群)では、1匹が泥状便、2匹が軟便で、I匹がやや軟便で、他の6匹は正常な固さであった。間隔は依然として不定で、形成された便の長さは30.8±23.6cm(10匹の平均)であった。直腸付近では泥状便、軟便の動物も、結腸付近ではほぼ正常な便が形成されつつあったことから、下痢は一過性のものであると考えられた。
第10群(E+P12H::12時間後灌流)では全動物が正常便で、便の間隔は一定、形成された便の長さの平均は45.4±11.5cmであった。
B)内リンパ水腫減荷効果
ペクチンの添加量の差による内リンパ水腫減荷効果の違い、さらに減荷効果の経時変化を検討する場合に、術側においては、各群の膜の伸展率、面積変化率の平均と標準偏差を比較検討しても、効果を明確に判定することは困難である。そこで第1グループでの観察と同様に、図2及び3の直線の傾きとY切片を比較することにより、検討した。
[2−2−a:ペクチン(Pec)の添加量による投与後3時間後の効果の違いを観察する]
表8に各群の膜の伸展率と面積増加率の平均と標準偏差、図2に散布図と回帰直線を示す。
Figure 0004167283
第7群(Pec0.1g/kg添加、約3.6重量%添加)と、対照群(蒸留水)、E3H群(Eryのみ投与)との間に有意差は認められない(ANCOVA)。一方、Pecを0.5g/kg添加した第8群は対照群、E3H群と比べ有意に下方に移動している(いずれもP<0.001)。このことから懸濁剤や乳化剤の安定化剤として通常使用される量では減荷効果は認められず、Pecを0.5g(17.9重量%)添加することによってはじめて明らかな減荷効果が現れることが分かった。
なお、表8の第7群は膜の伸展率、面積増加率ともに他の群と比べ大きな値をとる。これは閉鎖術により、動物の個体差に起因して高度の水腫形成が生じたためである。図2に示すとおり、対照群と比べて有意差もないことから、薬剤の投与により水腫が増悪したものではないと分かる。
[2−2−b:ペクチン(Pec)0.5g/kg添加し、投与後の経時的変化を観察する]
表9に各群の伸展率と面積増加率の平均と標準偏差、図3に散布図と回帰直線を示す。
Figure 0004167283
図3においては、2−2−aに示したとおり、第8群(3時間後)は対照群(蒸留水)、E3H群(Eryのみ)と比べ有意に減荷が生じている。さらに第9群(6時間後)も対照群、E3H群と比較し、有意に減荷されている(P<0.001)。また、第9群は第8群と比較すると有意に上方に移動している(P<0.05)。第10群(12時間後)E3H群、E6H群と比較し有意差が認められた(各々P<0.001,P<0.01)が、対照群、E3H群とは有意差は認められなかった。以上から、投与後3時間で減荷効果が最大になり、6時間後にも十分な減荷効果は認められるが、3時間後と比べると効果は有意に減弱しつつあり、12時間後には減荷効果は消失していることが分かった。
[比較例4]
多糖類自体に内リンパ水腫減荷効果があるかどうかを組織学的に検討した。まず、5匹のモルモットの左側のみに内リンパ嚢閉鎖術を施行し、1ヶ月後、正常な便をしている事を確認した上で多糖類であるペクチンを0.5g/kg経口投与し、3時間後灌流固定した。閉鎖術、組織作成などの手順、及び便と組織の観察、計測は上記と同様で行った。
Figure 0004167283
その結果、便は5匹すべてが正常でその間隔は一定であった。また、膜の伸展率と面積の増加率を、実施例2と同様に散布図及び回帰直線を描き(図4)、対照群の回帰直線と比較すると、2つの直線はほぼ重なり合う結果となり、有意差は認められなかった。このことから多糖類自体には内リンパ水腫減荷効果は認められない事が分かった。
[投与薬剤の容量の減少について]
Eryを成人(体重60kg)に1日3回投与する場合、1回量は10〜80g、好ましくは15〜30gになると考えられる。Ery21gを粉剤として投与すると、その容積は約53mlとなる。また、飽和水溶液として投与するなら、65mlの蒸留水を要し、その容積は78ml、重量は86gとなる。1日3回服用するため、これを携行することはメニエール病の患者にとって大変面倒なことであるのに対し、本発明のゲル剤は、次のとおり、容量、重量ともに顕著に軽減される。
処方例1
エリスリトール 21g
ペクチン 3.75g
蒸留水 11.25ml
このゲル剤の体積は20.3ml、重量は36gとなる。このゲル剤を乾燥、粉砕すると、体積は33mlとなり、増加するが、携帯には便利になる。この乾燥粉砕した粉剤粒子の大きさを表11に示した。また、服用する際に再度10mlの水を加え混和すると、ゲル剤が得られ、その体積は23.3mlとなった。
処方例2
エリスリトール 21g
キザンタンガム 2.25g
蒸留水 4.25ml
このゲル剤の体積は20.3ml、重量は27.5gとなる。このゲル剤を乾燥、粉砕すると、体積は31.4mlとなる。この乾燥粉剤粒子の大きさを表11に示した。また、再度3mlの水を加え混和して得られたゲル剤の体積は24.0mlとなった。
Figure 0004167283
処方例1及び2のいずれもゲル剤に剤型を変えることで、Eryを飽和水溶液にした場合の容量の約4分の1、重量は3分の1に激減し、携行と服用が容易になった。
現在我が国において一般に用いられているイソソルビド製剤は、体積30ml、重量40.5g(イソソルビトール含有量21g)であるのに対し、本発明のゲル剤は、容量、重量とも約3分の2とすることができる。
また、イソソルビド製剤の利用において患者が最も不便を感じているのは、独特の苦味と並んで、500ml(約700g)のボトル入りの液体での運搬の困難さ、保存の煩雑さであるが、本発明のゲル剤は乾燥粉砕して粉剤とし、また造粒も容易なことから、粉剤、顆粒剤の形で必要な服用回数分だけ携行できるため便利である。また、粉剤、顆粒剤に蒸留水を加えることで瞬間的にゲル剤になり、服用時に患者が希望により水を加えゲル剤にすることで、さらに服用が便利なものとなった。
比較例3:第1グループの術側の膜変化と面積変化との関連を示した図であり、各群の回帰直線は殆ど差がないことから、Eryのみでは減荷効果は認められないことが分かる。
Figure 0004167283
実施例2:第2−2グループの2−2−a:ペクチンの添加量の違いにより、術側の減荷効果にどのような差が出るかをみるための、膜の伸展率と面積変化率の関連を示す図である。第1グループで見たとおり、E3H群(Eryのみ)では対照群(蒸留水)と有意差がない。第7群(ペクチン0.1g/kg添加)も、対照群、E3H群と有意差がないが、第8群(ペクチン0.5g/kg)は有意差がある(P<0.001)ことから、第8群では明らかな減荷効果が認められる。
Figure 0004167283
実施例2:第2−2グループの2−2−b:第8群(ペクチン0.5g/kg添加、3時間後)の術側で認められた減荷効果の経時的変化を示す図である。第9群(6時間後)は対照群と有意差がある(P<0.001)ことから、依然として十分な減荷効果が認められるが、第8群(3時間後)と比較し、減荷効果は有意に減弱しつつある(P<0.05)。第10群(12時間後)では減荷効果はさらに有意に減弱し、対照群(蒸留水)との間には有意差はない。これらのことから時間が経過するにつれ、減荷効果が減少し、12時間後には減荷効果が消失したと考えられる。○:IR−S(蒸留水)vsIR−L(蒸留水)、■:IR−S(E+P3時間)vsIR−L(E+P3時間)、×:
Figure 0004167283
比較例4:ペクチンのみを投与した群の膜変化と面積変化を対照群(蒸留水)と比較した。両者の回帰直線はほぼ重なり合い、有意差がないことが分かる。○:IR−S(蒸留水)vsIR−L(蒸留水)、■:IR−S(ペクチンのみ)vsTR−L(ペクチンのみ)

Claims (3)

  1. 単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコール、並びに該単糖類、少糖類又は糖アルコールに対し5〜50重量%の、ペクチン、キサンタンガム、アルジネートナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース及び寒天よりなる群から選ばれる1種の多糖類を有効成分として含有する消化器症状を防止するための甘味剤。
  2. 糖アルコールがエリスリトール又はキシリトールである、請求項1に記載の甘味料。
  3. 単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコール、並びに該単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコールに対し5〜50重量%の、ペクチン、キサンタンガム、アルジネートナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース及び寒天よりなる群から選ばれる1種の多糖類、並び該単糖類、少糖類、又はそれらの糖アルコールと該多糖類の総量に対し10〜55重量%の水を練和してゲル製剤とし、ついで、このゲル製剤を乾燥、粉砕、造粒することからなる消化器症状を防止するための甘味剤の製造方法。
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