JP4103641B2 - ラッピング加工装置およびラッピング加工方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワークの加工面を砥粒付きのラッピングフィルム(以下単にフィルムと称することもある)によりフィルムラッピング加工(以下単にラッピング加工)するラッピング加工装置およびラッピング加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、カムシャフトのカムロブ部やジャーナル部あるいはクランクシャフトのジャーナル部やピン部等のような断面円弧状外周面を有するワークを仕上げ加工する場合は、最近、一面に砥粒が設けられたラッピングフィルムによりラッピング加工されている。
【0003】
このラッピング加工は、ワークの加工面をラッピングフィルムで覆い、このフィルムを背面からシューで加圧し、フィルムをワークに押付けた状態でワークを回転しながらフィルムの砥粒面でワークを加工する。ラッピング加工装置は、シューをフィルムを介してワークに押付ける機構のほか、ワークおよびラッピングフィルムのうちの少なくとも一方にワークの軸線方向に沿うオシレーションを付与するオシレーション機構を有している(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】
特開平7−237116号公報 (図1、図2参照)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ラッピング加工が施された加工面の形状には、ワークの軸線方向に沿う幾何学形状(以下、「軸方向幾何学形状」とも言う)と、周方向に沿う幾何学形状とがあるが、前者の軸方向幾何学形状が、両端部に比べて中央部が僅かに窪んだいわゆる中凹形状になることがある。これは、オシレーションに伴い、ラッピングフィルムに対して相対的に移動するワークのエッジ部によって砥粒がダメージを受けるため、中央部での作用砥粒数に比べて両端部で作用砥粒数が相対的に減少し、その結果、加工面の除去量が、両端部に比べて中央部が相対的に増加するためである。軸方向幾何学形状が中凹形状になると、真直度が要求されたレベルに達せず、加工不良になる虞がある。
【0006】
ワークの中には、荷重に対する強度を確保しつつ軽量化を図る観点から、ワークの軸線方向に沿う厚さ寸法を部位によって異ならせたワークも存在する。この種のワークにあっては、エッジ部がワークの軸線方向に沿って変位する領域は、厚さ寸法を均一にしたワークの場合に比べて広くなる。したがって、砥粒がダメージを受ける領域が広く、軸方向幾何学形状が中凹形状になる現象が顕著に発生する。
【0007】
しかしながら、従来のラッピング加工装置では、ラッピング加工中におけるオシレーション速度などの加工条件は一定とされており、加工条件だけで、軸方向幾何学形状が所望の形状となるように制御することは事実上不可能である。
【0008】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、厚さ寸法が異なる部位を備えるワークの加工面に対してラッピング加工を施すに当たり、ワークの軸線方向に沿う加工面の幾何学形状を制御し得るラッピング加工装置およびラッピング加工方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、下記する手段により達成される。
【0010】
本発明は、回転駆動されるとともに軸線方向に沿う厚さ寸法が異なる部位を備えるワークの加工面に対してラッピング加工を施すラッピング加工装置であって、
薄肉基材の一面に砥粒が設けられ前記軸線方向に沿う幅寸法が前記ワークの前記軸線方向に沿う厚さ寸法よりも大きいラッピングフィルムと、
前記ラッピングフィルムの背面側に配置され前記ラッピングフィルムの砥粒面を前記ワークに押付けるシューと、
前記ワークを回転駆動する回転駆動手段と、
前記ワークおよび前記ラッピングフィルムのうちの少なくとも一方に前記ワークの前記軸線方向に沿うオシレーションを付与するとともにオシレーションに伴ってラッピングフィルムに対して相対的に移動する前記ワークのエッジ部を前記ラッピングフィルムの砥粒面に接した状態で変位させるオシレーション手段と、
前記ワークの回転位置を検出する検出手段と、
加工中におけるワークの回転位置に応じてオシレーション速度を可変制御する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記ワークの回転位置が他の部位に比べて厚さ寸法が小さい部位を加工する位置であるときのオシレーション速度が、前記他の部位を加工する位置であるときのオシレーション速度に比べて小さくなるように、前記オシレーション手段の作動を制御することによって、オシレーション速度を一定とする場合に比べて、前記ワークの軸線方向に沿う加工面の幾何学形状において両端部に比べて中央部が窪む寸法を小さくすることを特徴とするラッピング加工装置である。
【0011】
また、本発明は、軸線方向に沿う厚さ寸法が異なる部位を備えるワークの加工面に向けてラッピングフィルムの背面側に配置されたシューを押付けて、前記軸線方向に沿う幅寸法が前記ワークの前記軸線方向に沿う厚さ寸法よりも大きい前記ラッピングフィルムの砥粒面を前記ワークに押付けた状態で、前記ワークを回転駆動し、かつ、前記ワークおよび前記ラッピングフィルムのうちの少なくとも一方に前記ワークの軸線方向に沿うオシレーションを付与するとともにオシレーションに伴って前記ラッピングフィルムに対して相対的に移動する前記ワークのエッジ部を前記ラッピングフィルムの前記砥粒面に接した状態で変位させつつラッピング加工を施すラッピング加工方法であって、
前記ワークの回転位置を検出手段により検出し、前記ワークの回転位置が他の部位に比べて厚さ寸法が小さい部位を加工する位置であるときのオシレーション速度が、前記他の部位を加工する位置であるときのオシレーション速度に比べて小さくなるように制御することによって、オシレーション速度を一定とする場合に比べて、前記ワークの前記軸線方向に沿う加工面の幾何学形状において両端部に比べて中央部が窪む寸法を小さくすることを特徴とするラッピング加工方法である。
【0012】
【発明の効果】
本発明に係るラッピング加工装置およびラッピング加工方法によれば、厚さ寸法が異なる部位を備えるワークの加工面に対してラッピング加工を施すに当たり、加工中におけるワークの回転位置に応じてオシレーション速度を可変制御することにより、オシレーション速度を一定とする場合に比べて、ワークの軸線方向に沿う加工面の幾何学形状において両端部に比べて中央部が窪む寸法を小さくし得るという効果を奏する。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係るラッピング加工装置1の構成を示す概念図、図2は、上下のシュー21によりラッピングフィルム11をワークWに押付けた状態を示す図である。また、図3(A)は、ラッピング加工されるワークWとしてのカムシャフト60の一例を示す斜視図、図3(B)は、カムシャフト60のカムロブ部61における各部位の説明に供する図である。なお、説明の便宜上、カムシャフト60の軸線方向(図1において左右方向)をX方向と定義し、X方向に対して直交する水平方向(図1において紙面に直交する方向)をY方向と定義し、X方向に対して直交する鉛直方向(図1において上下方向)をZ方向と定義する。
【0015】
図1および図2を参照して本実施形態のラッピング加工装置1について概説すれば、非伸縮性でかつ変形可能な薄肉基材の一面に砥粒が設けられたラッピングフィルム11と、ラッピングフィルム11の背面側に配置されたシュー21と、シュー21を押付けてラッピングフィルム11の砥粒面をワークWに押付けるシュー押付けユニット30と、ワークWを回転駆動する回転駆動ユニット40(回転駆動手段に相当する)と、ワークWおよびラッピングフィルム11のうちの少なくとも一方にワークWの軸線方向に沿うオシレーションを付与するオシレーションユニット50(オシレーション手段に相当する)と、を有し、回転するワークWにラッピングフィルム11を押圧しラッピング加工を施している。
【0016】
本実施形態のラッピング加工装置1は、厚さ寸法が異なる部位を備えるワークWの加工面に対してラッピング加工を施すために好適に用いられる。この種のワークWとして、図3(A)に示すように、カムシャフト60を挙げることができ、このカムシャフト60におけるカムロブ部61の外周面が、ラッピング加工を施す加工面65となる。カムシャフト60には複数個のカムロブ部61が設けられているが、図1および図3(A)では1個のみを図示してある。カムロブ部61の位置に対応して、対をなす上下のシュー21が複数対配置されている。
【0017】
カムロブ部61は、図3(B)に示すように、ベースサークルをなすベース部d、カムのリフトを定めるトップ部a、トップ部aの両側に連続し、エンジンのバルブを開き始めたり、閉じ始めたりするイベント部b、ベース部dからイベント部bへのアプローチをなすランプ部cの複数の部位を備えている。図示例のカムロブ部61にあっては、荷重に対する強度を確保しつつ軽量化を図る観点から、ワークWの軸線方向に沿う厚さ寸法を部位によって異ならせてある。すなわち、図3(A)に示すように、ベース部dの厚さ寸法、および、ベース部dからランプ部cにかけての厚さ寸法が、トップ部aおよびイベント部bに比べて小さく形成されている。ベース部dは、トップ部aやイベント部bの厚さ寸法の例えば1/3の厚さ寸法に設定されている。なお、この比率は、荷重に対する強度の確保と軽量化とを両立し得る範囲で適宜選択できることは言うまでもない。
【0018】
以下、ラッピング加工装置1について詳述する。
【0019】
図1を参照して、前記回転駆動ユニット40は、カムシャフト60が着脱自在に連結される主軸41と、主軸41に接続される主軸モータM1と、を有する。カムシャフト60は、主軸モータM1の回転動が主軸41を介して伝達されて回転駆動される。主軸モータM1の回転速度を変えることにより、ワークW回転速度Vwが所望の速度に設定される。主軸41には、加工中におけるワークWの回転位置を検出するロータリエンコーダS1(検出手段に相当する)が取り付けられている。
【0020】
前記オシレーションユニット50は、ガイドレール53に沿ってX方向にスライド移動自在に設けられたスライダ54と、スライダ54の端面に当接する偏心回転体51と、偏心回転体51を回転駆動するオシレーション用モータM2と、を有している。オシレーションユニット50には、スライダ54の端面と偏心回転体51とを常時当接させるためにスライダ54を偏心回転体51に向けて押圧する弾発力を付勢するバネなどの弾性手段52が設けられている。スライダ54には、シュー21を保持したシューケース28がZ方向に移動自在に保持されている。図中符号55は、シューケース28のZ方向への移動をガイドするガイド部材である。ラッピング加工中においては、シュー21に対してラッピングフィルム11が滑ることはない。したがって、スライダ54に付与したオシレーションは、シューケース28を介してシュー21に付与され、さらに、シュー21を介してラッピングフィルム11にまで付与される。オシレーション用モータM2の回転速度を変えることにより、オシレーション速度Voが所望の速度に設定される。オシレーションの振幅は、オシレーション用モータM2の軸心に対する偏心回転体51の偏心量に基づいて定まる。偏心量は約1mmであり、オシレーションの振幅は約2mmである。なお、偏心回転体51の偏心量は、例えば調整プレート(図示せず)の挿入枚数を変えるなどの公知の手段により調整自在となっている。偏心回転体51の軸には、偏心回転体51の回転位置を検出するロータリエンコーダS2が取り付けられている。
【0021】
前記ラッピングフィルム11は、種々のタイプがあるが、本実施形態では、基材が非伸縮性の高い材料、例えば、板厚が25μm〜130μm程度のポリエステルなどから構成され、この基材の一面には、数μm〜200μm程度の粒径を有する多数の砥粒(具体的には、酸化アルミニウム、シリコンカーバイト、ダイアモンドなどからなる)が接着剤により取り付けられている。砥粒は、基材の一面に全面にわたって接着してもよく、また、所定幅の無砥粒領域を間欠的に形成したものであってもよい。基材の他面には、シュー21に対する滑り止めのため、ゴムあるいは合成樹脂等からなる抵抗材料(図示せず)を取り付けるバックコーティングか、場合によっては滑り止め加工が施されている。
【0022】
図2を参照して、ラッピングフィルム11は、供給リール15から引き出され、図示しない複数のガイドローラにガイドされ、巻取りリール16に巻き取られる。巻取りリール16にはモータM3が接続されている。モータM3を作動し巻取りリール16を回転すると、供給リール15からラッピングフィルム11が順次繰り出される。ラッピングフィルム11の繰り出し量を検出するために、巻取りリール16の軸には、回転量を検出するロータリエンコーダS3が取り付けられている。供給リール15および巻取りリール16の近傍にはロック装置(図示せず)が設けられ、このロック装置の作動によりフィルム11全体に所定のテンションが付与される。
【0023】
シュー21は、その先端部の形状から凸シューと凹シューとに分類される。図示する実施形態では、前記シュー21は、所定の軸としての揺動ピン29を中心に回動自在に保持され、ラッピングフィルム11を介してカムロブ部61の加工面65に複数箇所(例えば2点)で当接する凹状先端部を有する凹シューから構成されている。凹シューは、先端部はへこ(凹)んでいるものの、ワークWとの当接面自体は断面凸状の円弧面に形成されている。凹シューは、フィルム11を介してではあるが、加工面65とは2点での線接触となる。上下のシュー21によりカムロブ部61は4点支持されることから、当該カムロブ部61を安定的に回転させることができる。
【0024】
前記シュー押付けユニット30は、シューケース28の背面とスライダ54との間に配置されたワーククランプ用バネ33を有している。ワーククランプ用バネ33は圧縮コイルバネからなる。ワーククランプ用バネ33によりシューケース28を押付けると、当該シューケース28に保持されたシュー21が押付けられ、ラッピングフィルム11の砥粒面がカムロブ部61に押付けられる。
【0025】
図4(A)は、オシレーションが付与されたラッピングフィルム11の移動状態を、カムロブ部61とともに概念的に示す図、図4(B)は、オシレーション速度Voを一定とした対比例において、カムロブ部61のエッジ部Weによって砥粒12が受けるダメージDの大きさを概念的に示す図、図4(C)は、対比例においてラッピング加工後のワークWの軸線方向に沿うトップ部aの幾何学形状を誇張して示す図である。また、図5(A)は、カムロブ部61のエッジ部Weによって砥粒12が受けるダメージDの大きさとオシレーション速度Voすなわちオシレーション振動数との関係を概念的に示す図、図5(B)は、ラッピングフィルム11の砥粒12による加工面65の単位時間あたりの除去量と砥粒ダメージDの大きさとの関係を概念的に示す図である。
【0026】
図4(A)において、ラッピングフィルム11が中心位置にある状態は実線によって示され、ラッピングフィルム11が中心位置に対して−X方向に偏位(最左端)した状態は一点鎖線によって示され、ラッピングフィルム11が中心位置に対して+X方向に偏位(最右端)した状態は二点鎖線によって示されている。図4中、符号「Lf」はラッピングフィルム11の幅を、符号「Ao」はラッピングフィルム11のオシレーションの振幅を示している。
【0027】
オシレーションに伴って移動するラッピングフィルム11の砥粒12は、カムロブ部61のエッジ部Weによって、割られたり、ひどい場合には基材から脱落されたりするというダメージを受けている。このため、図4(B)に示すように、ラッピングフィルム11のうち加工面65に常時圧接している領域においては、エッジ部Weによって砥粒12が受けるダメージDは実質的にゼロであるが、エッジ部Weに当たる領域においては、砥粒ダメージDが大きくなる。このときの砥粒ダメージDの程度をDaとする。
【0028】
ここで、砥粒ダメージDはオシレーション振動数の増加に伴って大きくなり(図5(A))、ラッピングフィルム11の砥粒12による加工面65の単位時間あたりの除去量は砥粒ダメージDが大きくなるのに伴って減少する(図5(B))。
【0029】
したがって、図4(C)に示すように、オシレーション速度Voを一定とした対比例においては、加工面65の除去量が、両端部に比べて中央部が相対的に増加するため、トップ部aやイベント部bでの軸方向幾何学形状が中凹形状になる。このように軸方向幾何学形状が中凹形状になると、真直度が要求されたレベルに達せず、加工不良になる虞がある。特に、厚さ寸法を部位によって異ならせたカムロブ部61では、砥粒12がダメージを受ける領域が広く、また、幅を狭くしたベース部dなどでは接触面圧が高く砥粒12に及ぼすダメージDも大きいことから、軸方向幾何学形状が中凹形状になる現象が顕著に発生する。
【0030】
そこで、本実施形態のラッピング加工装置1にあっては、ロータリエンコーダS1でカムロブ部61の回転位置を検出し、加工中におけるカムロブ部61の回転位置に応じてオシレーション速度Voを可変制御し、カムロブ部61の軸線方向に沿う加工面65の幾何学形状を制御するようにしてある。
【0031】
上記の制御について、図6〜図8を参照しつつ説明する。図6は、本発明に係るラッピング加工装置1の制御系を示す概略ブロック図、図7は、加工中におけるワークWの回転位置に応じてオシレーション速度Voを可変制御し、加工面65の軸方向幾何学形状を制御する例を示す図である。また、図8(A)は、オシレーション速度Voを可変制御した実施形態において、カムロブ部61のエッジ部Weによって砥粒12が受けるダメージDの大きさを概念的に示す図、図8(B)は、実施形態においてラッピング加工後のワークWの軸線方向に沿うトップ部aの幾何学形状を示す図である。
【0032】
図6を参照して、ロータリエンコーダS1、S2、S3は、CPUやメモリを主体とするコントローラ100(制御手段に相当する)に接続され、加工中におけるカムロブ部61の回転位置や、オシレーションを付与する偏心回転体51の回転位置に関する検出信号などがそれぞれコントローラ100に入力される。ワーク回転速度Vwを定める主軸モータM1の回転速度、および、オシレーション速度Voを定めるオシレーション用モータM2の回転速度に関する検出信号のそれぞれもコントローラ100に入力される。コントローラ100は、ロータリエンコーダS1からのカムロブ部61の回転位置に関する信号に基づいて、カムロブ部61のいずれの部位が加工中であるかを判断する。そして、コントローラ100は、加工中の部位に応じてオシレーション速度Voを可変制御する。
【0033】
オシレーション速度Voの可変制御は次のとおりである。図7に示すように、コントローラ100は、カムロブ部61の回転位置が他の部位(すなわち、トップ部aおよびイベント部b)に比べて厚さ寸法が小さい部位(すなわち、ベース部dおよび当該ベース部dからランプ部cにかけての部位)を加工する位置であるときのオシレーション速度Voが、他の部位を加工する位置であるときのオシレーション速度Voに比べて小さくなるように、オシレーション用モータM2の作動を制御する。
【0034】
具体的には、コントローラ100は、トップ部aおよびイベント部bを加工するときにはオシレーション振動数を例えば10Hzとし、ランプ部cを加工している間にオシレーション振動数を例えば3Hzまで減少させ、ベース部dを加工するときにはオシレーション振動数を例えば3Hzとするように、オシレーション用モータM2の回転速度を制御する制御信号を当該モータM2に出力する。本実施形態では、トップ部aとベース部dとの接触面積の比から、ベース部dでのラッピングフィルム11の仕事量は、トップ部aでのラッピングフィルム11の仕事量の約1/3であることから、ベース部dを加工するときのオシレーション振動数を、トップ部aを加工するときのオシレーション振動数の約1/3としてある。
【0035】
オシレーション速度Voを上記のように可変制御すると、オシレーション速度Voを一定とした対比例(図4(B)を参照)と比較すると、図8(A)に示すように、エッジ部Weに当たる領域における砥粒ダメージDが小さくなる。このときの砥粒ダメージDの程度をDb(Da>Db)とする。砥粒ダメージDが小さくなるということは、同じシュー押付け力の下では、砥粒12による加工面65の単位時間あたりの除去量が増加することを意味する(図5(B)を参照)。したがって、加工面65の両端部と中央部とにおける除去量の不均一さが改善され、軸方向幾何学形状がフラットになり、真直度の低下が抑えられる。
【0036】
なお、オシレーション振動数の変化率は、ワークWの各部位での厚さ寸法の比、ワークWの軸方向幾何学形状、ベースとなる加工条件(シュー押付け力、ワーク回転速度およびオシレーション速度Voのベース値)、要求される面粗度などによって変化するので、一義的に決まるものではなく、トライアンドエラーによって最終的な変化率を決定している。
【0037】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0038】
まず、ラッピング加工装置1にカムシャフト60を回転自在に保持し、カムロブ部61の位置に上下のシュー21を移動する。
【0039】
シュー21をカムロブ部61に押付ける前に、モータM3を作動して巻取りリール16を回転する。ラッピングフィルム11は、所定量移動し、新規な砥粒面が加工面65上にセットされるようになる。その後、供給リール15近傍に設けられたロック装置をロックして、巻取りリール16を回転すると、ラッピングフィルム11に所定のテンションが付与される。次いで、巻取りリール16近傍のロック装置をロックすると、テンションが付与され弛みのない状態のラッピングフィルム11となる。
【0040】
カムロブ部61をシュー21によりクランプすると、シュー押付けユニット30により両シュー21がカムロブ部61に向けて押付けられ、ラッピングフィルム11の砥粒面が加工面65に押付けられる。
【0041】
そして、オシレーションユニット50を作動させてラッピングフィルム11にカムシャフト60の軸線方向に沿うオシレーションを付与しつつ、回転駆動ユニット40を作動させてカムシャフト60を軸中心で回転すると、シュー21を保持したシューケース28がカムロブ部61の回転に倣って進退移動しながら、加工面65がラッピング加工される。
【0042】
この加工中においては、ロータリエンコーダS1は、カムロブ部61の回転位置を検出し、コントローラ100は、加工中におけるカムロブ部61の回転位置に応じてオシレーション速度Voを可変制御する。すなわち、カムロブ部61の回転位置に応じてオシレーション用モータM2の作動を制御し、トップ部aおよびイベント部bに比べて厚さ寸法が小さいベース部dおよび当該ベース部dからランプ部cにかけての部位を加工するときのオシレーション速度Voを、トップ部aおよびイベント部bを加工するときのオシレーション速度Voに比べて小さくしている(図7)。
【0043】
これにより、カムロブ部61の加工面65の両端部と中央部とにおける除去量の不均一さが改善され、トップ部aおよびイベント部bの軸方向幾何学形状がフラットになり、真直度の低下が抑えられる。もって、加工条件の一つであるオシレーション速度Voだけで、ワークWの軸線方向に沿う加工面65の幾何学形状を制御できる。
【0044】
カムシャフト60は、多数のカムロブ部61を有しているが、ラッピング加工は、これらカムロブ部61に対し一斉に行なわれる。ラッピング加工が完了すると、シュー21をカムロブ部61から離間させ、カムシャフト60を取り出し可能な状態とする。カムシャフト60を取り出した後、他のカムシャフト60をセットすれば、同様のラッピング加工を開始することができる。
【0045】
以上説明したように、上述した実施形態によれば、厚さ寸法が異なる部位を備え回転駆動されるワークWの加工面65に対してラッピング加工を施すラッピング加工装置1であって、薄肉基材の一面に砥粒12が設けられたラッピングフィルム11と、ラッピングフィルム11の背面側に配置されラッピングフィルム11の砥粒面をワークWに押付けるシュー21と、ワークWを回転駆動する回転駆動ユニット40と、ラッピングフィルム11にワークWの軸線方向に沿うオシレーションを付与するオシレーションユニット50と、ワークWの回転位置を検出するロータリエンコーダS1と、加工中におけるワークWの回転位置に応じてオシレーション速度Voを可変制御するコントローラ100と、を有し、ワークWの軸線方向に沿う加工面65の幾何学形状を制御するようにしたので、厚さ寸法が異なる部位を備えるワークWの加工面65に対してラッピング加工を施すに当たり、加工条件の一つであるオシレーション速度Voを可変制御するだけで、ワークWの軸線方向に沿う加工面65の幾何学形状を所望の形状に制御し得るという効果を奏する。
【0046】
また、コントローラ100は、ワークWの回転位置が他の部位に比べて厚さ寸法が小さい部位を加工する位置であるときのオシレーション速度Voが、他の部位を加工する位置であるときのオシレーション速度Voに比べて小さくなるように、オシレーションユニット50の作動を制御するので、ワークWの軸線方向に沿う加工面65の幾何学形状をフラットにすることができる。
【0047】
また、ワークWの加工面65は、カムシャフト60におけるカムロブ部61の外周面であり、カムロブ部61におけるベース部dおよび当該ベース部dからランプ部cにかけての厚さ寸法が、トップ部aおよびイベント部bに比べて小さいので、ベース部dやランプ部cはもちろんのこと、トップ部aおよびイベント部bでの加工面65の幾何学形状を制御して、フラットにすることができる。
【0048】
また、ラッピングフィルム11は、非伸縮性でかつ変形可能であるので、ワークWに対して、好適なラッピング加工を行い得る。
【0049】
また、本実施形態のラッピング加工装置1は、ワークWの回転位置をロータリエンコーダS1により検出し、加工中におけるワークWの回転位置に応じてオシレーション速度Voを可変制御し、ワークWの軸線方向に沿う加工面65の幾何学形状を制御するラッピング加工方法を具現化したものであり、上述したように、厚さ寸法が異なる部位を備えるワークWの加工面65に対してラッピング加工を施すに当たり、加工条件の一つであるオシレーション速度Voだけで、ワークWの軸線方向に沿う加工面65の幾何学形状を所望の形状に制御し得るという効果を奏する。
【0050】
(改変例)
ワークWの加工面65はカムシャフト60のカムロブ部61に限定されるものでもなく、他の種々のワークWに適用できることはいうまでもない。
【0051】
また、図示例のオシレーションユニット50ではラッピングフィルム11にオシレーションを付与しているが、ワークW側にオシレーションを付与しても、加工面65の幾何学形状を所望の形状に制御できる。オシレーションを発生させる機構も偏心回転体51を用いたものに限定されず、例えば、超音波加振機を用いてもよい。
【0052】
また、シュー21として凹シューを例示したが、先端部が凸状円弧となった凸シューを使用する場合にも、本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態に係るラッピング加工装置の構成を示す概念図である。
【図2】 上下のシューによりラッピングフィルムをワークに押付けた状態を示す図である。
【図3】 図3(A)は、ラッピング加工されるワークとしてのカムシャフトの一例を示す斜視図、図3(B)は、カムシャフトのカムロブ部における各部位の説明に供する図である。
【図4】 図4(A)は、オシレーションが付与されたラッピングフィルムの移動状態を、カムロブ部とともに概念的に示す図、図4(B)は、オシレーション速度を一定とした対比例において、カムロブ部のエッジ部によって砥粒が受けるダメージの大きさを概念的に示す図、図4(C)は、対比例においてラッピング加工後のワークの軸線方向に沿うトップ部の幾何学形状を誇張して示す図である。
【図5】 図5(A)は、カムロブ部のエッジ部によって砥粒が受けるダメージDの大きさとオシレーション速度すなわちオシレーション振動数との関係を概念的に示す図、図5(B)は、ラッピングフィルムの砥粒による加工面の単位時間あたりの除去量と砥粒ダメージの大きさとの関係を概念的に示す図である。
【図6】 本発明に係るラッピング加工装置の制御系を示す概略ブロック図である。
【図7】 加工中におけるワークの回転位置に応じてオシレーション速度を可変制御し、加工面の軸方向幾何学形状を制御する例を示す図である。
【図8】 図8(A)は、オシレーション速度を可変制御とした実施形態において、カムロブ部のエッジ部によって砥粒が受けるダメージの大きさを概念的に示す図、図8(B)は、実施形態においてラッピング加工後のワークの軸線方向に沿うトップ部の幾何学形状を示す図である。
【符号の説明】
1…ラッピング加工装置
11…ラッピングフィルム
12…砥粒
21…シュー
28…シューケース
30…シュー押付けユニット
33…ワーククランプ用バネ
40…回転駆動ユニット(回転駆動手段)
50…オシレーションユニット(オシレーション手段)
51…オシレーション用の偏心回転体
52…弾性手段
53…ガイドレール
54…スライダ
60…カムシャフト(ワークW)
61…カムロブ部
a…トップ部(他の部位)
b…イベント部(他の部位)
c…ランプ部(他の部位に比べて厚さ寸法が小さい部位)
d…ベース部(他の部位に比べて厚さ寸法が小さい部位)
65…加工面
100…コントローラ(制御手段)
M1…主軸モータ
M2…オシレーション用モータ
S1…ロータリエンコーダ(検出手段)
S2、S3…ロータリエンコーダ
W…ワーク
We…ワークのエッジ部
Claims (4)
- 回転駆動されるとともに軸線方向に沿う厚さ寸法が異なる部位を備えるワークの加工面に対してラッピング加工を施すラッピング加工装置であって、
薄肉基材の一面に砥粒が設けられ前記軸線方向に沿う幅寸法が前記ワークの前記軸線方向に沿う厚さ寸法よりも大きいラッピングフィルムと、
前記ラッピングフィルムの背面側に配置され前記ラッピングフィルムの砥粒面を前記ワークに押付けるシューと、
前記ワークを回転駆動する回転駆動手段と、
前記ワークおよび前記ラッピングフィルムのうちの少なくとも一方に前記ワークの前記軸線方向に沿うオシレーションを付与するとともにオシレーションに伴ってラッピングフィルムに対して相対的に移動する前記ワークのエッジ部を前記ラッピングフィルムの砥粒面に接した状態で変位させるオシレーション手段と、
前記ワークの回転位置を検出する検出手段と、
加工中におけるワークの回転位置に応じてオシレーション速度を可変制御する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記ワークの回転位置が他の部位に比べて厚さ寸法が小さい部位を加工する位置であるときのオシレーション速度が、前記他の部位を加工する位置であるときのオシレーション速度に比べて小さくなるように、前記オシレーション手段の作動を制御することによって、オシレーション速度を一定とする場合に比べて、前記ワークの軸線方向に沿う加工面の幾何学形状において両端部に比べて中央部が窪む寸法を小さくすることを特徴とするラッピング加工装置。 - 前記ワークの前記加工面は、カムシャフトにおけるカムロブ部の外周面であり、
前記カムロブ部におけるベース部および当該ベース部からランプ部にかけての厚さ寸法が、トップ部およびイベント部に比べて小さいことを特徴とする請求項1に記載のラッピング加工装置。 - 前記ラッピングフィルムは、非伸縮性でかつ変形可能であることを特徴とする請求項1に記載のラッピング加工装置。
- 軸線方向に沿う厚さ寸法が異なる部位を備えるワークの加工面に向けてラッピングフィルムの背面側に配置されたシューを押付けて、前記軸線方向に沿う幅寸法が前記ワークの前記軸線方向に沿う厚さ寸法よりも大きい前記ラッピングフィルムの砥粒面を前記ワークに押付けた状態で、前記ワークを回転駆動し、かつ、前記ワークおよび前記ラッピングフィルムのうちの少なくとも一方に前記ワークの軸線方向に沿うオシレーションを付与するとともにオシレーションに伴って前記ラッピングフィルムに対して相対的に移動する前記ワークのエッジ部を前記ラッピングフィルムの前記砥粒面に接した状態で変位させつつラッピング加工を施すラッピング加工方法であって、
前記ワークの回転位置を検出手段により検出し、前記ワークの回転位置が他の部位に比べて厚さ寸法が小さい部位を加工する位置であるときのオシレーション速度が、前記他の部位を加工する位置であるときのオシレーション速度に比べて小さくなるように制御することによって、オシレーション速度を一定とする場合に比べて、前記ワークの前記軸線方向に沿う加工面の幾何学形状において両端部に比べて中央部が窪む寸法を小さくすることを特徴とするラッピング加工方法。
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