JP4100027B2 - ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、昇温時の寸法変化が少なく寸法安定性に優れ、かつ機械的強度、溶融流動性、低バリ性にも優れたポリアリーレンサルファイド樹脂組成物に関し、更に詳しくは、CD(コンパクトディスク)、DVD(デジタルバーサタイルディスクもしくはデジタルビデオディスク)、レーザーディスク(登録商標)、光磁気ディスクなどに用いられる、レーザー焦点の環境安定性に優れた光ピックアップ部品用ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物およびそれを射出成形してなる光ピックアップ部品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリアリーレンサルファイド樹脂は、優れた耐熱性、難燃性、剛性、耐薬品性、電気絶縁性および耐湿熱性などを有することから、エンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有しており、射出成形用を中心として、各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などの用途に広く使用されている。
【0003】
かかる用途の一つとして光ピックアップ部品が挙げられる。該用途ではレーザー焦点の環境安定性(環境温度の変化によってレーザー焦点が安定していること)と言う特殊な特性が要求され、これまで特にCD用途ではフィラーを高充填したポリアリーレンサルファイド樹脂組成物がしばしば用いられてきた。しかし、昨今普及してきたDVD用途では、よりすぐれたレーザー焦点の環境安定性が要求され、従来のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物ではレーザー焦点の環境安定性の点で不十分な場合が生じてきた。
【0004】
ポリアリーレンサルファイド樹脂にアルコールと高級脂肪族モノカルボン酸からなるエステル化合物を配合した組成物は、例えば特開昭62−230848号公報、特公平5−18353号公報に開示されている。ポリアリーレンサルファイド樹脂に有機酸と高級脂肪族アルコールからなるエステル化合物を配合した組成物は、例えば特開平4−154866号公報に開示されている。またポリアリーレンサルファイド樹脂に、高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸とジアミンからなるアミド化合物を配合した組成物については、例えば特開平9−3326号公報に開示されている。しかしいずれも非繊維状充填材と繊維状充填材を同時に配合し、かつ非繊維状充填材の含有量が繊維状充填材の含有量より多い組成物については何ら記載されておらず、ましてやかかる組成により、レーザー焦点の環境安定性と機械的強度、溶融流動性に均衡してに優れた組成物が得られることについては何ら記載されていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、レーザー焦点の環境安定性に飛躍的に優れ、かつ機械的強度、溶融流動性にも均衡して優れたポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を提供せんとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
(1)(a)ポリアリーレンサルファイド樹脂100重量部に対し、(b)ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノ−ル酸、ベヘン酸、およびモンタン酸から選ばれる少なくとも1種の化合物のカルシウム塩0.1〜5重量部、(c)非繊維状充填材40〜200重量部、(d)繊維状充填材25〜180重量部を配合してなり、(c)非繊維状充填材の含有量が(d)繊維状充填材の含有量より多いことを特徴とするポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
(2)(a)ポリアリーレンサルファイド樹脂が溶融粘度(310℃、剪断速度1000/秒)80Pa・s以下のポリアリーレンサルファイド樹脂である、上記(1)項に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
(3)ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物が、光ピックアップ部品用である上記(1)または(2)項に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
(4)上記(1)〜(3)項のいずれかに記載の樹脂組成物を射出成形してなることを特徴とする光ピックアップ部品。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明で使用する(a)ポリアリーレンサルファイド樹脂の代表例としては、ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略す場合もある)、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられ、中でもポリフェニレンスルフィドが特に好ましく使用される。かかるポリフェニレンスルフィドは、下記構造式で示される繰り返し単位を好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む重合体であり、上記繰り返し単位が70モル%以上の場合には、耐熱性が優れる点で好ましい。
【0008】
【化1】
【0009】
また、かかるポリアリーレンサルファイド樹脂は、その繰り返し単位の30モル%以下を、下記の構造式を有する繰り返し単位などで構成することが可能であり、ランダム共重合体、ブロック共重合体であってもよく、それらの混合物であってもよい。
【0010】
【化2】
【0011】
かかるポリアリーレンサルファイド樹脂は、通常公知の方法、つまり特公昭45−3368号公報に記載される、比較的分子量の小さな重合体を得る方法あるいは特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法などによって製造することができる。
【0012】
本発明においては、上記のようにして得られたポリアリーレンサルファイド樹脂を、空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水、酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネート、官能基含有ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化などの種々の処理を施した上で使用することも、もちろん可能である。
【0013】
ポリアリーレンサルファイド樹脂を加熱により架橋/高分子量化する場合の具体的方法としては、空気、酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素、アルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法を例示することができる。この場合の加熱処理温度としては、好ましくは150〜280℃、より好ましくは200〜270℃の範囲が選択して使用されるものであり、処理時間としては、好ましくは0.5〜100時間、より好ましくは2〜50時間の範囲が選択されるが、この両者をコントロールすることによって、目標とする粘度レベルを得ることができる。かかる加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0014】
ポリアリーレンサルファイド樹脂を窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合の具体的方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧(好ましくは7,000Nm-2以下)下で、加熱処理温度150〜280℃、好ましくは200〜270℃、加熱時間0.5〜100時間、好ましくは2〜50時間の条件で加熱処理する方法を例示することができる。かかる加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0015】
ポリアリーレンサルファイド樹脂を有機溶媒で洗浄する場合の具体的方法としては、たとえば、洗浄に用いる有機溶媒としては、ポリアリーレンサルファイド樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく使用することができる。例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが使用される。これらの有機溶媒のなかでも、特にN−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどが好ましく使用される。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0016】
かかる有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にポリアリーレンサルファイド樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でポリアリーレンサルファイド樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなるほど洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分な効果が得られる。なお、有機溶媒洗浄を施されたポリアリーレンサルファイド樹脂は、残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。
【0017】
ポリアリーレンサルファイド樹脂を熱水で処理する場合の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、熱水洗浄によるポリアリーレンサルファイド樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するために、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のポリアリーレンサルファイド樹脂を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、撹拌することにより行われる。ポリアリーレンサルファイド樹脂と水との割合は、水の多い方がよく、好ましくは水1リットルに対し、ポリアリーレンサルファイド樹脂200g以下の浴比で使用される。
【0018】
ポリアリーレンサルファイド樹脂を酸処理する場合の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、酸または酸の水溶液にポリアリーレンサルファイド樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。用いられる酸は、ポリアリーレンサルファイド樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸などのハロ置換脂肪族飽和カルボン酸、アクリル酸、クロトン酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸、安息香酸、サリチル酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などのジカルボン酸、および硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物などが用いられる。これらの酸のなかでも、特に酢酸、塩酸がより好ましく用いられる。酸処理を施されたポリアリーレンサルファイド樹脂は、残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。また、洗浄に用いる水は、酸処理によるポリアリーレンサルファイド樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。
【0019】
本発明で用いられるポリアリーレンサルファイド樹脂の溶融粘度は、310℃、剪断速度1000/秒の条件下で80Pa・s以下であることが好ましく、50Pa・s以下がより好ましく、20Pa・s以下であることが更に好ましい。下限については特に制限はないが、5Pa・s以上であることが好ましい。また溶融粘度の異なる2種以上のポリアリーレンサルファイド樹脂を併用して用いても良い。
【0020】
ポリアリーレンサルファイド樹脂の溶融粘度が80Pa・sを越えると、溶融流動性の点で不利となる傾向があるばかりでなく、レーザー焦点の環境安定性が劣る傾向にある。溶融粘度が高いと何故レーザー焦点の環境安定性が低下するかは定かではないが、恐らく成形時の繊維状充填材の配向を促すため、成形体の温度変化による変形の異方性が増すためと推定している。なお、溶融粘度は、キャピログラフ(東洋精機(株)社製)装置を用い、ダイス長10mm、ダイス孔直径0.5〜1.0mmの条件により測定することができる。
【0021】
次に、本発明で用いられる(b)ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノ−ル酸、ベヘン酸、およびモンタン酸から選ばれる少なくとも1種の化合物のカルシウム塩について説明する。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
かかる(b)ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノ−ル酸、ベヘン酸、およびモンタン酸から選ばれる少なくとも1種の化合物のカルシウム塩の配合量は、(a)ポリアリーレンサルファイド樹脂100重量部に対し、0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜3重量部の範囲が選択される。
【0040】
また樹脂成分として後述するように(a)ポリアリーレンサルファイド樹脂と(e)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性熱可塑性樹脂からなる樹脂混合物を用いる場合は、その樹脂混合物100重量部に対し、(b)ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、 ステアリン酸、オレイン酸、リノ−ル酸、ベヘン酸、およびモンタン酸から選ばれる少なくとも1種の化合物のカルシウム塩を0.1〜5重量部の配合量範囲が選択され、0.3〜3重量部の範囲がより好ましい。
【0041】
(b)ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノ−ル酸、ベヘン酸、およびモンタン酸から選ばれる少なくとも1種の化合物のカルシウム塩の配合量が0.1重量部未満では、レーザー焦点の環境安定性向上効果が不十分であり、5重量部を越える範囲で添加してもより優れたレーザー焦点の環境安定性向上効果が得られないばかりか、樹脂組成物からのガス発生量の増加などの弊害が顕在化するため好ましくない。
【0042】
本発明においては(c)非繊維状充填材を配合することが必須である。かかる(c)非繊維状充填材の具体例としては、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などが用いられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填剤を2種類以上併用することも可能である。また、これらの充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。中でも炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、カオリン、クレー、タルクなどの珪酸塩、アルミナ、黒鉛が特に好ましい。
【0043】
かかる(c)非繊維状充填材の配合量は、ポリアリーレンサルファイド樹脂100重量部に対し、40〜200重量部の範囲が選択され、50〜150重量部の範囲が特に好ましい。また樹脂成分として(a)ポリアリーレンサルファイド樹脂と(e)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性熱可塑性樹脂からなる樹脂混合物を用いる場合は、その樹脂混合物100重量部に対し、40〜200重量部の範囲が選択され、50〜150重量部の範囲が特に好ましい。(c)非繊維状充填材の配合量が40重量部未満では、十分なレーザー焦点の環境安定性が得られず、180重量部を越えて配合すると、樹脂組成物の溶融流動性が大きく損なわれるため好ましくない。
【0044】
本発明においては(d)繊維状充填材を非繊維状充填材と共に配合することもまた必須である。かかる(d)繊維状充填材としては、具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などが用いられ、これらは2種類以上併用することも可能である。また、これら充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。中でもガラス繊維、炭素繊維がより好適に用いられる。
【0045】
かかる(d)繊維状充填材の配合量はポリアリーレンサルファイド樹脂100重量部に対し、25〜180重量部の範囲が選択され、40〜140重量部の範囲が特に好ましい。また樹脂成分として(a)ポリアリーレンサルファイド樹脂と(e)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性熱可塑性樹脂からなる樹脂混合物を用いる場合は、その樹脂混合物100重量部に対し、25〜180重量部の範囲が選択され、40〜140重量部の範囲が特に好ましい。(d)繊維状充填材の配合量が25重量部未満では、光ピックアップ部品としての十分な機械的強度が得られず、180重量部を越えて配合すると、レーザー焦点の環境安定性が悪化する他、溶融流動性も損なわれるため好ましくない。
【0046】
なお本発明においては、優れたレーザー焦点の環境安定性を得るために、(c)非繊維状充填材の含有量が(d)繊維状充填材の含有量より多いことも重要であり、5重量部以上多いことが好ましく、10重量部以上多いことがより好ましい。
【0047】
本発明では、バリ低減効果、より優れたレーザー焦点の環境安定性を得るために(e)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性熱可塑性樹脂を(a)ポリアリーレンサルファイド樹脂と併用して用いることも好ましい態様の一つである。かかる(e)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性熱可塑性樹脂としては、この条件を満たすものであればよく、具体例としてはポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂が例示できるが、なかでもポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂が特に適しており、ポリフェニレンエーテル系樹脂が特に好ましい。
【0048】
かかる(e)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性熱可塑性樹脂を適用する場合、その配合量は、(a)と(b)の合計量に対し、(a)ポリアリーレンサルファイド樹脂95〜60重量%と(e)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性熱可塑性樹脂5〜40重量%の範囲が選択され、(a)ポリアリーレンサルファイド樹脂90〜70重量%と(e)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性熱可塑性樹脂10〜30重量%の範囲が特に好ましい。(e)ガラス転移温度が140℃以上の非晶性熱可塑性樹脂の配合量が5重量%未満であると、低バリ効果及びより優れたレーザー焦点の環境安定性を得る上で不十分であり、40重量%を越えると溶融流動性を著しく阻害するため好ましくない。
【0049】
本発明のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、さらに他の樹脂をブレンドして用いてもよい。かかるブレンド可能な樹脂には特に制限はないが、その具体例としては、環状オレフィンコポリマーやナイロン6,ナイロン66,ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、芳香族系ナイロンなどのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシルジメチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、カルボキシル基やカルボン酸エステル基や酸無水物無水物基やエポキシ基などの官能基を有するオレフィン系コポリマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー、ポリアミドイミド、ポリアセタールおよびポリイミドなどが挙げられる。
【0050】
また、本発明のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、チオエーテル系化合物、その他のエステル系化合物、有機リン化合物などの可塑剤、タルク、カオリン、有機リン化合物などの結晶核剤、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物などの酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、多官能エポキシ化合物などの強度向上剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤および発泡剤などの通常の添加剤を添加することができる。
【0051】
さらに、本発明のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、機械的強度、靱性などの向上を目的に、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基およびウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシランを添加してもよい。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、およびγ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0052】
かかるシラン化合物の好適な添加量は、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、0.05〜5重量部の範囲が選択される。
【0053】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の調製方法には特に制限はないが、原料の混合物を単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなど通常公知の溶融混合機に供給して、280〜380℃の温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。原料の混合順序にも特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、さらに残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法などのいずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することももちろん可能である。
【0054】
このようにして得られる本発明のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に射出成形が好ましく採用される。
【0055】
また本発明の樹脂組成物は、優れたレーザー焦点の環境安定性を有するとともに、機械的強度、溶融流動性、低バリ性にも均衡して優れており、CD、DVD、レーザーディスク、光磁気ディスクの光ピックアップ部品用途に特に好適に用いられる。
【0056】
更に本発明の樹脂組成物のその他用途としては、例えばセンサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;水道蛇口コマ、混合水栓、ポンプ部品、パイプジョイント、水量調節弁、逃がし弁、湯温センサー、水量センサー、水道メーターハウジングなどの水廻り部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター,ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナーなどの自動車・車両関連部品などに好適に使用することができる。
【0057】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0058】
[光軸安定性評価]
樹脂ペレットをシリンダー温度320℃、金型温度140℃に設定した住友−ネスタール社製射出成形機(SG75−HIPRO・MIII)に供給し、成形下限圧力+5kgf/cm2ゲージの条件で、射出成形し、図1に示す形状の光ピックアップモデル射出成形品1を得た。上記光ピックアップモデル射出成形品1の中央切欠部分にハーフミラー2を設置し、恒温槽の中で焦点距離200mm、波長650nm、出力0.3mWの半導体レーザーオートコリメーターから発振したレーザー光を当て、反射してくるレーザー光をCCDカメラにて受光した。
【0059】
30℃における反射レーザー光の位置を原点とし、30分かけて70℃まで昇温し、30分放置後の光軸変動値を測定した。この値が小さいほどレーザー焦点の環境安定性に優れていると言える。
【0060】
図1は、ハーフミラー2を設置した射出成形品の斜視図であり、射出成形品1の中央切欠部分にはハーフミラー2が設置されている。半導体レーザーオートコリメーターから発振されたレーザー光は、ハーフミラー2の表面に対して直角に入射し、反射する。
【0061】
[バリ長さの測定]
円周上に(a)幅4mm×長さ20mm×厚み500μm、(b)幅4mm×長さ20mm×厚み20μmの2つの突起部を有する80mm直径×2mm厚の円盤形状金型を用いてシリンダー温度320℃、金型温度130℃で射出成形を行い、厚みの厚い(a)の突起部が先端まで充填される時の厚みの薄い(b)の突起部の充填長さを測定しバリ長さとした。なお、ゲート位置は円板中心部分とした。射出成形には日精樹脂工業(株)社製PS20E2ASEを用いた。
【0062】
[曲げ強度の測定]
ASTM D790に準じて測定を行った。具体的には次の様に測定を行った。本発明の樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度320℃、金型温度140℃に設定した住友−ネスタール社製射出成形機(SG75−HIPRO・MIII)に供給し、射出圧力=成形下限圧力+5kgf/cm2ゲージ圧にて射出成形を行い、幅12.7mm×高さ6.4mm×長さ127mmの試験片を得た。この試験片を用い、23℃、相対湿度50%の雰囲気下、スパン100mm、歪み速度3mm/minの条件で測定を行った。
【0063】
[溶融流動性の測定]
シリンダー温度320℃、金型温度140℃に設定した住友−ネスタール社製射出成形機を用い(SG75−HIPRO・MIII)ASTM1号試験片、幅12.7mm×高さ6.4mm×長さ127mmの試験片、幅12.7mm×厚み3.1mm×長さ64mmの試験片2個の計4個取り試験片を成形し、全て充填するのに要する射出圧力(成形下限圧)を測定して溶融流動性の目安とした。この値が低い程、溶融流動性に優れていると言える。
【0064】
[使用原材料]
(a)ポリアリーレンサルファイド樹脂PPS−1:東レ(株)製M2888(直鎖タイプ)、溶融粘度60Pa・s、PPS−2:東レ(株)製M2900(架橋タイプ)、溶融粘度40Pa・sPPS−3:東レ(株)製M2100(架橋タイプ)、溶融粘度130Pa・sなお、溶融粘度はキャピログラフ1C(東洋精機(株)社製、ダイス長10mm、孔直径0.5〜1mm)を用い、310℃、剪断速度1000/秒の条件で測定した値である。
【0065】
(b)添加剤b−1:エチレングリコールジモンタネート(クラリアント社製“リコワックスE”、炭素数58b−2:反応器にステアリン酸2モルとセバシン酸1モルを仕込み、加熱溶解後、エチレンジアミン2モルを加え、窒素気流中160℃より脱水反応を開始し、250〜260℃にてアミン価が5以下になるまで反応させたアミド化合物。炭素数38〜50なお、炭素数はGPC法により求めた。
b−3:ステアリン酸カルシウム(片山化学工業(株)社製)
b−4:ステアリン酸メチル(片山化学工業(株)社製)、炭素数19b−5:ポリブチレンテレフタレート(東レ(株)社製“PBT樹脂1100S”)、炭素数>500b−6:シリコーンオイル(東レ・ダウコーニングシリコーン社製、SH−200)。
【0066】
(c)非繊維状充填材炭酸カルシウム:金平鉱業社製 KSS−1000アルミナ:平均粒子径4.0μm、α結晶粒径3.8μm、平均粒子径/α結晶粒径=1.1(昭和電工(株)製 AL−43PC)
黒鉛:ティムカルジャパン(株)社製 KS75。
【0067】
(d)繊維状充填材ガラス繊維:旭ファイバーグラス社製 03JAFT523。
【0068】
【0069】
[実施例1]
ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPSと略す場合もある)と添加剤、非繊維状充填材、繊維状充填材を表1に示す割合でドライブレンドし、スクリュー型2軸押出機(池貝PCM−30)を用いてシリンダー温度320℃、200rpmで溶融混練、ペレタイズを行った。
【0070】
このペレットを用いて、光軸安定性評価試験片、曲げ強度試験片を射出成形するとともに、成形下限圧、バリ長さの測定を行った。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
[比較例1〜2]
添加剤b−2を添加しないこと以外は、実施例1、3と同様にして溶融混練、ペレタイズ、評価を行った。
【0078】
本発明で用いる(b)成分を添加しないと光軸変動値が大きくなり、流動性も低下することがわかる。
【0079】
[比較例3〜5]
添加剤b−2の替わりに、b−4、b−5、b−6を用いた以外は、実施例1と同様にして溶融混練、ペレタイズ、評価を行った。
【0080】
本発明で用いる(b)成分以外の添加剤を用いると光軸変動値が大きくなることがわかる。
【0081】
[比較例6]
充填材の量を変えた以外は、実施例1と同様にして溶融混練、ペレタイズ、評価を行った。
【0082】
繊維状充填材の量が非繊維状充填材の量より多くなると、光軸変動値が大きくなることがわかる。
【0083】
[比較例7〜12]
充填材の量を変えた以外は、実施例2、1と同様にして溶融混練、ペレタイズ、評価を行った。
【0084】
充填材の量が多すぎると溶融粘度が上がりすぎて射出成形が困難となり、充填材の量が少なすぎると光軸変動値が大きくなり、強度も低下傾向にあることがわかる。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【発明の効果】
本発明によれば、CD(コンパクトディスク)、DVD(デジタルバーサタイルディスク)、レーザーディスク、光磁気ディスクなどに用いられる、レーザー焦点の環境安定性に優れた光ピックアップ部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例において光軸安定性評価に用いた、ハーフミラーを設置した射出成形品の斜視図である。
【符号の説明】
1:射出成形品
2:ハーフミラー
a:半導体レーザーオートコリメーターから発振されたレーザー光の入射方向
b:反射レーザー光の反射方向
Claims (4)
- (a)ポリアリーレンサルファイド樹脂100重量部に対し、(b)ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノ−ル酸、ベヘン酸、およびモンタン酸から選ばれる少なくとも1種の化合物のカルシウム塩0.1〜5重量部、(c)非繊維状充填材40〜200重量部、(d)繊維状充填材25〜180重量部を配合してなり、(c)非繊維状充填材の含有量が(d)繊維状充填材の含有量より多いことを特徴とするポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
- (a)ポリアリーレンサルファイド樹脂が溶融粘度(310℃、剪断速度1000/秒)80Pa・s以下のポリアリーレンサルファイド樹脂である、請求項1記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
- ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物が、光ピックアップ部品用である請求項1または2に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を射出成形してなることを特徴とする光ピックアップ部品。
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