図1は、本発明の一実施例である車両に搭載される車両速度制御装置10のシステム構成図を示す。また、図2は、道路上のカーブを構成する構成部位を模式的に表した図を示す。本実施例の車両速度制御装置10は、マイクロコンピュータ等により構成される速度制御ユニット(以下、速度ECUと称す)12を備えており、速度ECU12により比較的短い走行区間でカーブの連続する峠道を自車両が通行する際にその自車両の速度を車両運転者の運転操作によることなく自動的に制御する装置である。以下、この制御を速度制御と称す。
速度ECU12には、ナビゲーションシステム14が接続されている。ナビゲーションシステム14は、道路の地図データを格納する地図データベースと、GPS衛星等を用いて車両の現在位置を測位するコンピュータからなる測位部と、車両乗員に対して地図表示や音声出力を行うディスプレイ,スピーカ等からなる案内部と、を備えている。地図データベースに格納されるデータには、特に、道路が比較的短い走行区間でカーブの連続する峠道であるのか否かを区別する情報(例えば峠道の開始地点及び終了地点の位置情報、又は、道路の属性としての峠道の情報)、並びに、峠道において図2に示す如くカーブを構成する曲率半径が一定である円弧部、2つのカーブ間を結ぶ直線部、及び円弧部と直線部とを接続する曲率半径の変化するクロソイド部の各パラメータ情報(例えば各部位の長さや勾配,円弧部の曲率半径,クロソイド部のクロソイドパラメータ)が含まれている。尚、地図データベースは、車両に搭載されるDVD等の記録媒体でもよいし、車載機が通信し得る情報センタに設けられているものでもよい。
ナビゲーションシステム14は、自車両の現在位置を測位した後、その現在位置情報およびその現在位置が峠道に属するか否かの情報を速度ECU12へ向けて供給すると共に、現在位置が峠道に属する場合には現在位置を含むその峠道のすべての或いは現在位置から一定距離におけるカーブを構成する各部位のパラメータを速度ECU12へ向けて供給する。速度ECU12は、ナビゲーションシステム14から供給される情報に基づいて現在位置が峠道に含まれるかの判定を行うと共に、峠道走行時にカーブを構成する各部位のパラメータを検出する。
速度ECU12には、また、車速センサ16が接続されている。車速センサ16は、車両の速度に応じた信号を速度ECU12へ向けて出力する。速度ECU12は、車速センサ16の出力信号に基づいて車速を検出する。速度ECU12には、メモリ18が内蔵されている。メモリ18には、車両がカーブ路を走行する際に速度ECU12において検出される速度情報が各カーブの構成部位ごとのパラメータに対応して記録される。
速度ECU12には、また、アクセル操作量センサ20及びブレーキ操作量センサ22が接続されている。アクセル操作量センサ20は、吸気管に設けられたスロットル開度を調整して車両エンジンへの吸入空気量を調整すべく車両運転者に操作されるアクセルペダルの操作量に応じた信号を出力する。また、ブレーキ操作量センサ22は、マスタシリンダから車輪のホイルシリンダへブレーキフルードを導くべく車両運転者に操作されるブレーキペダルの操作量に応じた信号を出力する。速度ECU12は、アクセル操作量センサ20の出力信号に基づいてアクセル操作量を検出し、また、ブレーキ操作量センサ22の出力信号に基づいてブレーキ操作量を検出する。
速度ECU12には、また、車両運転者に操作可能な開始スイッチ24が接続されている。開始スイッチ24は、後に詳述する如く峠道における速度制御を実行するか否かを決定するためのスイッチであり、常態でオフ状態に維持され、車両運転者による操作がなされた場合にオン状態に移行する。速度ECU12は、開始スイッチ24の状態に基づいて速度制御の実行が車両運転者に許可されたか否かを判別する。
速度ECU12には、前方車間距離センサ26及び後方車間距離センサ28が接続されている。これらのセンサ26,28は共にミリ波レーダ等により構成されており、前方車間距離センサ26は、自車両の前方所定範囲内に存在する先行車両との車間距離に応じた信号を出力し、また、後方車間距離センサ28は、自車両の後方所定範囲内に存在する後続車両との車間距離に応じた信号を出力する。速度ECU12は、前方車間距離センサ26の出力信号に基づいて自車両の前方所定範囲内に先行車両が存在する場合にその先行車両との車間距離を検出すると共に、その車間距離の変化から相対車速を検出し、また、後方車間距離センサ28の出力信号に基づいて自車両の後方所定範囲内に後続車両が存在する場合にその後続車両との車間距離検出すると共に、その車間距離の変化から相対車速を検出する。
速度ECU12には、更に、エンジンへの吸入空気量や燃料噴射量等を制御するエンジンECU30及び車両に生ずるブレーキを制御するブレーキECU32が接続されている。速度ECU12は、後に詳述する如く峠道における速度マップを生成した後、その速度マップに従って車両の速度が可変される速度制御を実現すべく、適宜エンジンECU30及びブレーキECU32に対して指令信号を供給する。エンジンECU32は、アクセルペダルの操作に応じて車両を駆動させると共に、速度ECU12から速度制御実行時に供給される指令に従って車両を駆動させる。ブレーキECU32には、マスタシリンダからホイルシリンダにブレーキフルードを導くことにより車輪を制動させるディスクブレーキ装置34、及び、自動変速機からなるエンジンブレーキ装置36が接続されている。ブレーキECU32は、速度ECU12から速度制御実行時に供給される指令に従って車両を制動させる。この際、ブレーキECU32は、車両を制動させるうえで適当な使用割合でディスクブレーキ装置34とエンジンブレーキ装置36とを用いる。
速度ECU12には、また、車内に設けられたスピーカ38が接続されている。速度ECU12は、適当なタイミングで車両運転者に対して注意喚起や情報提供がなされるようにスピーカ38に対して指令を発する。スピーカ38は、速度ECU12から供給される指令に従って情報提供装置として音声による注意喚起や情報提供を行う。
次に、本実施例の車両速度制御装置10の動作について説明する。図3は、本実施例の車両速度制御装置10において速度ECU12が実行するメインルーチンの一例のフローチャートを示す。図3に示すルーチンは、その処理が終了するごとに繰り返し起動されるルーチンである。図3に示すルーチンが起動されると、まずステップ100の処理が実行される。
ステップ100では、ナビゲーションシステム14から供給される情報に基づいて自車両が現時点で峠道を走行しているか否かが判別される。本ステップ100の処理は、現在位置が峠道に該当し、肯定判定がなされるまで繰り返し実行される。その結果、肯定判定がなされた場合は、次にステップ102の処理が実行される。
ステップ102では、車両が峠道を走行し始めた後、その通過する峠道におけるカーブを構成する円弧部、直線部、及びクロソイド部それぞれにおける車両の現実の速度情報や加減速情報をその部位の形状や勾配,曲率半径,クロソイドパラメータ等のパラメータに対応させて履歴としてメモリ18に記録する処理が実行される。尚、速度情報や加減速情報は車速センサ16を用いて検出され、また、カーブを構成する部位のパラメータはナビゲーションシステム14からの情報に基づいて検出される。
図4は、メモリ18に記録されたあるカーブ路での速度情報をグラフ的に表した図を示す。尚、図4(A)には直線部での速度情報を、また、図4(B)には円弧部での速度情報を、それぞれ示している。直線部での速度情報は、図4(A)に示す如くその直線部の長さ及び勾配に対応して記録される。また、円弧部での速度情報は、図4(B)に示す如くその円弧部の長さ及び勾配並びに曲率半径(図4(B)においては100m)に対応して記録される。更に、クロソイド部での速度情報は、そのクロソイド部の長さ及び勾配並びにクロソイドパラメータに対応して記録される。かかるメモリ18への記録処理によれば、カーブ路の各部位ごとに自車両がどのような速度で走行するかをモニタすることができる。
ステップ104では、上記ステップ102で一カーブごとの速度情報として記録されたN個のサンプルが一定範囲内に収束しているか否かが判別される。尚、このサンプルの数(N値)は、地図データベースに格納されているカーブ同士の構成部位の各パラメータのバラツキを考慮して決定されてもよい。また、N個のサンプルが一定範囲内に収束しているか否かを判別する代わりに、サンプルが一定範囲内に収束してきたか否かを判別することとしてもよい。その結果、否定判定がなされた場合は、再びステップ100の処理が実行される。一方、肯定判定がなされた場合は、この峠道における自車両運転者の運転特性を把握することができたとして、次にステップ106の処理が実行される。
ステップ106では、峠道における速度制御を開始することができる状態にあることを車両運転者に通知すべくスピーカ38に指令信号が供給される。本ステップ106の処理が実行されると、以後、車両運転者は、速度制御が開始可能であることを知ることができる。
ステップ108では、速度制御を開始すべく、開始スイッチ24が車両運転者により操作されたか否かが判別される。本ステップ108の処理は、肯定判定がなされるまで繰り返し実行される。その結果、肯定判定がなされた場合は、次にステップ110の処理が実行される。
ステップ110では、峠道における速度制御が実行される。具体的には、まず、メモリ18に記録されたカーブごとの構成部位それぞれにおける速度履歴に基づいて、速度とカーブ構成部位のパラメータとの関係を規定した、この峠道における自車両運転者の運転特性が作成される。次に、この運転特性と、自車両の現在位置から進行方向側に位置するカーブの円弧部、直線部、及びクロソイド部の各パラメータとに基づいて、自車両がそのカーブを通過する際に実現すべき速度マップが生成される。この速度マップは、自車両がカーブ路を車両運転者の運転操作で通過したものとした際に実現されると予想されるものにほぼ一致する。そして、かかる速度マップが生成されると、その速度マップに従って自車両の速度が制御されるようにエンジンECU30及びブレーキECU32に対して指令がなされる。本ステップ110の処理が実行されると、自車両が運転者の加減速操作によらずに自動的に速度制御されることとなる。
ステップ112では、ナビゲーションシステム14から供給される情報に基づいて自車両の現在位置が峠道に該当しなくなったか否かが判別される。その結果、否定判定がなされた場合は、未だ自車両が峠道を走行していると判断できるので、以後、上記ステップ110における速度制御の実行が継続される。一方、肯定判定がなされた場合は、次にステップ114の処理が実行される。
ステップ114では、峠道における速度制御を終了することを車両運転者に通知すべくスピーカ38に指令がなされる。本ステップ114の処理が実行されると、以後、車両運転者は、速度制御が終了したことを知ることができる。本ステップ114の処理が終了すると、今回のルーチンは終了される。
上記図3に示すルーチンによれば、自車両が峠道を走行する際、走行初期は、その峠道における自車両運転者の運転特性を把握すべく、カーブを構成する円弧部、直線部、及びクロソイド部のそれぞれに対する速度履歴を記録すると共に、かかる速度履歴から自車両の運転特性が作成された後は峠道が終了するまで、その運転特性に基づいてその後に現れるカーブ路のパラメータに合致するように生成された速度マップに従って自車両の速度制御を実行することができる。このように速度マップに従った速度制御が実行されれば、車両運転者は運転操作を行うことが不要となるため、運転者の運転操作が短時間に繰り返されることの多い峠道においては有効に車両運転者の運転操作負担を軽減することが可能となる。
また、峠道は、一般に、カーブを構成する円弧部、直線部、及びクロソイド部におけるそれぞれのパラメータがカーブ相互間でほぼ一定であることが多い道路であるため、車両運転者は、カーブごとに同じような加減速操作を行ってほぼ同一の速度や加減速を実現させることが多く、峠道の初期と後期とで運転特性が大きく異なることはほとんどない。上述の如く、本実施例において、車両の速度制御は、峠道の走行初期における自車両の運転特性を基に自車両が走行しようとするカーブのパラメータに合致する速度マップに従って行われる。このため、本実施例の車両速度制御装置10によれば、形状等のパラメータが共通するカーブの連続する峠道において、自車両の運転特性が作成された後は、速度制御の実行により車両運転者の運転操作の負担軽減を図ることができると共に、その速度制御を自車両運転者の運転感覚に合致させることができる。すなわち、自車両が始めて走行する峠道においても運転者の運転感覚に合致する速度制御を実現させることが可能となっている。
尚、峠道はカーブが連続するものであるため、車両運転者の運転疲れや気分等に起因して、その走行初期と走行後期とで運転者の運転感覚が変わり車両の速度状態が変化することがある。このように速度状態が変化しているにもかかわらず、走行初期に作成された運転特性やその運転特性に基づいて生成される速度マップが維持された状態で速度制御が実行されると、車両走行が運転者の運転感覚に合致しないものとなってしまう。そこで、本実施例の車両速度制御装置10は、かかる事態に対応すべく、事後的に、運転特性に基づいて生成される速度マップを運転者により行われた加減速操作に合わせて補正することとしている。以下、図5を参照して、かかる特徴点について説明する。尚、運転特性に基づいて生成される速度マップに代えて、運転特性自体を補正することとしても、同様の効果を得ることができる。
図5は、上記の機能を実現すべく、本実施例の速度制御装置10において速度ECU12が実行するサブルーチンの一例のフローチャートを示す。図5に示すルーチンは、所定時間ごとに繰り返し起動されるルーチンである。図5に示すルーチンが起動されると、まずステップ150の処理が実行される。
ステップ150では、峠道における自車両の速度制御が実行されているか否かが判別される。その結果、速度制御が行われていないと判別された場合は、以後何ら処理が進められることなく今回のルーチンは終了される。一方、速度制御が行われていると判別された場合は、次にステップ152の処理が実行される。
ステップ152では、アクセル操作量センサ20及びブレーキ操作量センサ22を用いて自車両の運転者により加減速操作が行われたか否かが判別される。その結果、アクセル操作及びブレーキ操作が共に行われていないと判別された場合は、今回のルーチンは終了される。一方、アクセル操作又はブレーキ操作が行われたと判別された場合は、次にステップ154の処理が実行される。
ステップ154では、アクセル操作が行われたかブレーキ操作が行われたか否かの判別が行われる。その結果、アクセル操作が行われたと判別された場合は、次にステップ156の処理が実行される。一方、ブレーキ操作が行われたと判別された場合は、次にステップ158の処理が実行される。
ステップ156では、速度制御における演算において、速度履歴に基づく運転特性と自車両の進行方向側に位置するカーブの円弧部、直線部、及びクロソイド部の各パラメータとに基づいて生成された速度マップを、アクセル操作量センサ20によるアクセル操作量に合わせて補正する処理、具体的には、速度増加させる処理が実行される。この補正量は、アクセル操作量とその操作時間とに基づいて設定される。また、この補正は、アクセル操作量とその操作時間とに応じた値に一気に行うこととしてもよいし、時間をかけて段階的に徐々に行うこととしてもよい。本ステップ156の処理が終了すると、今回のルーチンは終了される。
ステップ158では、前方車間距離センサ26を用いて自車両の前方所定範囲内に存在する先行車両と自車両とが接近する状態にあるか否か判別される。その結果、先行車両と自車両とが接近する状態にあると判別される場合は、今回のルーチンは終了される。一方、先行車両と自車両とが接近する状態にないと判別される場合は、次にステップ160の処理が実行される。
ステップ160では、速度制御における演算において、速度履歴に基づく運転特性と自車両の進行方向側に位置するカーブの円弧部、直線部、及びクロソイド部の各パラメータとに基づいて生成された速度マップを、ブレーキ操作量センサ22によるブレーキ操作量に合わせて補正する処理、具体的には、速度減少させる処理が実行される。この補正量は、ブレーキ操作量とその操作時間とに基づいて設定される。また、この補正は、ブレーキ操作量とその操作時間とに応じた値に一気に行うこととしてもよいし、時間をかけて段階的に徐々に行うこととしてもよい。本ステップ160の処理が終了すると、今回のルーチンは終了される。
上記図5に示すルーチンによれば、峠道の走行初期に速度履歴に基づいて作成された運転特性に従って以後のカーブ路の速度マップが生成され、速度制御が開始された後において、運転者が行う加減速操作に応じて、その加減速操作後に自車両が通過するカーブ路の速度マップを補正することができる。かかる構成においては、車両運転者は、一旦運転特性が作成された後、アクセル操作やブレーキ操作を行うことにより速度制御の速度マップを修正することが可能である。
従って、本実施例の車両速度制御装置10によれば、カーブを特定するパラメータに対する運転特性が一旦作成された後においても、通行するカーブのパラメータに対応した速度マップを加減速操作により修正することにより、車両運転者の運転操作によらない速度制御を運転者の新たな運転感覚に合致させることができ、峠道における運転者の疲れや気分の変化に柔軟に対応することが可能となっている。
また、上記図5に示すルーチンにおいて、運転者の減速操作に伴う速度マップの補正は、自車両と先行車両との接近が生じている場合には行われず、その接近が生じていない場合にのみ行われる。自車両と先行車両とが接近している場合には、運転者の行う減速操作は、その運転者の運転感覚に基づいたものではなく、先行車両との車間距離が小さくなったことに起因したものであると判断できる。かかる状況において減速操作に伴う速度マップの補正が行われるものとすると、先行車両が存在しなくなった直後に速度制御が運転者の運転感覚に合わないものとなり、更に加速操作が必要になる等、運転者の行う運転操作が煩わしいものとなってしまう。これに対して、本実施例においては、上記の如く減速操作に伴う速度マップの補正が自車両と先行車両とが接近していない場合においてのみ行われるので、その補正が過剰に行われるのは防止され、上記した不都合が生ずるのは回避されている。
ところで、峠道走行中に自車両の直前に先行する先行車両が存在するときは、自車両の走行はその先行車両の走行に応じたものとなる。この際、先行車両の速度が自車両の運転特性に基づいて生成される速度マップの速度よりも小さい状況、すなわち、自車両が先行車両に接近する状況においては、自車両の速度制御を自車両の運転特性に基づいて行うことは適切でなく、また、自車両の速度を先行車両に合わせるために運転者にブレーキ操作やアクセル操作を強いることは妥当でない。
そこで、本実施例の車両速度制御装置10は、かかる事態に対応すべく、自車両の直前に先行車両が存在するときには、まず、自車両の運転特性を作成した場合と同様の手法によりその先行車両の運転特性を作成し、その後は、自車両が先行車両に接近するものとなる場合に自車両の速度制御を自車両の運転特性に基づくものからその先行車両の運転特性に基づくものに切り替えることとしている。以下、図6を参照して、かかる特徴点について説明する。
図6は、上記の機能を実現すべく、本実施例の車両速度制御装置10において速度ECU12が実行するサブルーチンの一例のフローチャートを示す。図6に示すルーチンは、所定時間ごとに繰り返し起動されるルーチンである。図6に示すルーチンが起動されると、まずステップ200の処理が実行される。
ステップ200では、峠道における自車両の速度制御が実行されているか否かが判別される。その結果、速度制御が行われていないと判別された場合は、以後何ら処理が進められることなく今回のルーチンは終了される。一方、速度制御が行われていると判別された場合は、次にステップ202の処理が実行される。
ステップ202では、前方車間距離センサ26を用いて自車両の前方所定範囲内に先行車両が存在するか否かが判別される。その結果、先行車両が存在しないと判別された場合は、今回のルーチンは終了される。一方、先行車両が存在すると判別された場合は、次にステップ204の処理が実行される。
ステップ204では、自車両の運転特性を作成するのと同様の手法により、前方車間距離センサ26を用いて検出される自車両と先行車両との相対速度と、車速センサ16を用いて検出される自車速とから推定される先行車両の速度情報や加速度情報を、峠道におけるカーブを構成する円弧部、直線部、及びクロソイド部それぞれのパラメータに対応させて先行車両の速度履歴としてメモリ18に記録し、そして、その速度履歴に基づいてこの峠道における先行車両の運転特性を作成する処理が実行される。
本ステップ204の処理が実行されると、以後、自車両の運転特性と、自車両の現在位置から進行方向側に位置するカーブの円弧部、直線部、及びクロソイド部の各パラメータとに基づいて、自車両がそのカーブを通過する際に実現すべき速度マップが生成されると同時に、先行車両の運転特性と、自車両の現在位置から進行方向側に位置するカーブの円弧部、直線部、及びクロソイド部の各パラメータとに基づいて、先行車両がそのカーブを通過する際に実現すべき速度マップが生成される。
ステップ206では、先行車両の運転特性に従った速度マップの速度が自車両の運転特性に従った速度マップの速度よりも小さいか否かが判別される。その結果、否定判定がなされた場合は、先行車両が自車両から離れていくと判断でき、自車両の速度制御を自車両の運転特性に基づくものにすることが運転者の運転感覚に合致するうえで有効であるので、以後何ら処理が進められることなく今回のルーチンは終了される。一方、肯定判定がなされた場合は、そのままの速度制御が実行されると自車両が先行車両に異常接近すると判断でき、自車両の運転特性に基づく速度制御を行うことは適切でないので、次にステップ208の処理が実行される。
ステップ208では、峠道における速度制御が、自車両の運転特性に基づくものからその先行車両の運転特性に基づくものに切り替わって実行される。この場合、速度制御は、先行車両がカーブ路を通過する際に行われると予想される速度マップに従ってエンジンECU30及びブレーキECU32に対して指令が行われることにより実現される。本ステップ208の処理が終了すると、自車両が運転者の加減速操作によらずに自動的に先行車両に追従して速度制御されることとなる。
上記図6に示すルーチンによれば、峠道で自車両の運転特性に基づく速度制御が実行されている状況において、自車両の直前に先行車両が存在する際には、その先行車両のカーブパラメータに対する運転特性を作成すると共に、その運転特性に基づく速度マップの速度が自車両の運転特性に基づく速度マップの速度よりも小さいときには、自車両の速度制御を自車両の運転特性に基づくものからその先行車両の運転特性に基づくものに切り替えることができる。
かかる構成によれば、先行車両の存在に起因して自車両の運転特性に基づく速度制御を有効に実行することができなくなった場合にも、先行車両の運転特性に基づく速度制御を実行することができる。この場合には、自車両運転者が先行車両との接触を回避するための加減速操作を行うことは不要である。従って、本実施例の車両速度制御装置10によれば、自車両の運転特性に基づく速度制御の実行中に自車両が先行車両に接近するものとなる場合において、運転者に加減速操作を行わせることなく、自車両を先行車両に追従して走行させることが可能となる。
尚、このように速度制御が自車両の運転特性に基づくものから先行車両の運転特性に基づくものに切り替わった後に、その先行車両が峠道の本線から脇道へ進入したり路肩に停止したり、或いは、自車両が運転者の意思で先行車両を追い越したりして先行車両が存在しなくなったときには、通常どおりの速度制御すなわち自車両の運転特性に基づく速度制御を再開することが、自車両運転者の運転感覚に合致した速度制御を実現するうえで適切となる。
ところで、自車両の運転特性に基づく速度制御が行われる際は、自車両の走行は自車両運転者のカーブパラメータに対する運転特性に応じたものとなる。この際、自車両のものと比較して速度の高い後続車両が自車両に近づいてきたときには、その状況を自車両の運転者に知らせることが、後続車両を自車両に先行させるなどの対応を自車両運転者にとらせるうえで有効である。そこで、本実施例の車両速度制御装置10は、峠道における速度制御実行中に後続車両が存在するときには、その接近状態を自車両運転者に情報提供することとしている。以下、図7を参照して、かかる特徴点について説明する。
図7は、上記の機能を実現すべく、本実施例の車両速度制御装置10において速度ECU12が実行するサブルーチンの一例のフローチャートを示す。図7に示すルーチンは、所定時間ごとに繰り返し起動されるルーチンである。図7に示すルーチンが起動されると、まずステップ250の処理が実行される。
ステップ250では、峠道における自車両の速度制御が実行されているか否かが判別される。その結果、速度制御が行われていないと判別された場合は、以後何ら処理が進められることなく今回のルーチンは終了される。一方、速度制御が行われていると判別された場合は、次にステップ252の処理が実行される。
ステップ252では、後方車間距離センサ28を用いて自車両の後方所定範囲内に後続車両が存在するか否かが判別される。その結果、後続車両が存在しないと判別された場合は、今回のルーチンは終了される。一方、後続車両が存在すると判別された場合は、次にステップ254の処理が実行される。
ステップ254では、後方車間距離センサ28を用いて検出される自車両と後続車両との相対速度と、車速センサ16を用いて検出される自車速とから推定される後続車両の速度が、自車両の運転特性に従った速度マップの速度よりも大きいか否かが判別される。その結果、否定判定がなされた場合は、以後何ら処理が進められることなく今回のルーチンは終了される。一方、肯定判定がなされた場合は、次にステップ256の処理が実行される。
ステップ256では、上記した自車両と後続車両との相対速度の変化に基づいて後続車両が自車両に後方から接近する状態にあるか否かが判別される。その結果、後続車両が自車両に接近してきていないと判別された場合は、今回のルーチンは終了される。一方、後続車両が自車両に後方から接近してきていると判別された場合は、次にステップ258の処理が実行される。
ステップ258では、スピーカ38に対して指令を発することにより車両運転者に対して後続車両が自車両に近づいてきていることを音声により報知する注意喚起,情報提供がなされる。本ステップ258の処理が実行されると、以後、車両運転者は、スピーカ38からの音声を聞くことにより後続車両が自車両に近づいてきていることを知ることができる。本ステップ258の処理が終了すると、今回のルーチンは終了される。
上記図7に示すルーチンによれば、峠道で自車両の運転特性に基づく速度制御が実行されている状況において、自車両の直後に後続車両が存在する際、その後続車両が自車両に後方から接近してきているときには、その旨を車両運転者に知らせるべくスピーカ38からの注意喚起や情報提供を行うことができる。かかる構成においては、車両運転者は、スピーカ38からの音声を聞くことにより後続車両が自車両に近づいてきていることを知ることが可能であるので、従って、本実施例によれば、車両運転者に後続車両を自車両に先行させるなどの対応を、後続車両の接近直後に速やかにとらせることが可能となっている。
尚、上記の実施例では、後続車両の運転特性を、上述した先行車両の運転特性の如く作成することとはしていないが、かかる後続車両の運転特性を作成して、その後続車両の運転特性から求まる速度マップの速度に基づいて後続車両の自車両への接近を検知することとしてもよい。
ところで、峠道の特に下り坂においては、車両ブレーキが頻繁に実行される。ここで、ホイルシリンダの作動により車輪のディスクロータにブレーキパッドを押圧するディスクブレーキ装置34では、ブレーキが頻繁に行われると、温度上昇によるフェード現象が発生する可能性がある。従って、上述した速度制御において車両の制動力を得るうえでディスクブレーキ装置34を過度に作動させると、そのディスクブレーキ装置34にフェード現象が発生する不都合が生ずる。そこで、本実施例の車両速度制御装置10は、かかる事態の発生を防止すべく、ディスクブレーキ装置34のブレーキ負荷が過大となるおそれがある場合にはその使用割合を下げ、エンジンブレーキ装置36の使用割合を上げることとしている。以下、図8を参照して、かかる特徴点について説明する。
図8は、上記の機能を実現すべく、本実施例の速度制御装置10において速度ECU12が実行するサブルーチンの一例のフローチャートを示す。図8に示すルーチンは、所定時間ごとに繰り返し起動されるルーチンである。図8に示すルーチンが起動されると、まずステップ300の処理が実行される。
ステップ300では、峠道における自車両の速度制御が実行されているか否かが判別される。その結果、速度制御が行われていないと判別された場合は、以後何ら処理が進められることなく今回のルーチンは終了される。一方、速度制御が行われていると判別された場合は、次にステップ302の処理が実行される。
ステップ302では、ナビゲーションシステム14から供給される自車両が走行する峠道のすべてのカーブを構成する各部位の勾配や長さ等のパラメータに基づいて、峠道終了までの全行程のうち車両が減速走行する減速部分を抽出する処理が実行される。
ステップ304では、速度制御に用いる速度マップとカーブ構成部位のパラメータ(特に勾配)とに基づいて、上記ステップ302で抽出された減速部分のうちエンジンブレーキ装置36による減速度では要求制動力をカバーできず、ディスクブレーキ装置34を使用する部分を抽出すると共に、そのディスクブレーキ装置34の使用度合い(具体的には、発生させるべき減速度から求まる摩擦熱、及び、車両の速度と外気温とから求まるディスクブレーキの使用地点と使用地点との間でのディスクブレーキの冷却効率)を算出する処理が実行される。
ステップ306では、上記ステップ304で算出された摩擦熱と冷却効率との関係に基づいてディスクブレーキ装置34のブレーキ負荷が推定されると共に、その推定ブレーキ負荷が予め定められているブレーキ能力を保証できる所定値を超えるか否かが判別される。その結果、ディスクブレーキ装置34のブレーキ負荷が所定値以下であると判別された場合は、以後、何ら処理が進められることなく今回のルーチンは終了される。一方、ディスクブレーキ装置34のブレーキ負荷が所定値を超えると判別された場合は、次にステップ308の処理が実行される。
ステップ308では、速度制御における演算において、速度履歴に基づく運転特性と自車両の進行方向側に位置するカーブの円弧部、直線部、及びクロソイド部の各パラメータとに基づいて生成された速度マップを、ディスクブレーキ装置34の使用割合を下げてエンジンブレーキ装置36の使用割合を上げるように、具体的には、例えば峠道のカーブの各部位における上限速度が小さく抑制されるように補正する処理が実行される。かかる処理が行われると、ディスクブレーキ装置34のブレーキ負荷が小さくなり、熱によるフェード現象が生じ難くなる。
ステップ310では、スピーカ38に対して指令を発することにより、車両運転者に対してディスクブレーキ装置34にフェード現象の発生を抑制すべく速度マップを補正してエンジンブレーキ装置36の使用割合を比較的上げることを音声により知らせる情報提供がなされる。本ステップ310の処理が実行されると、以後、車両運転者は、スピーカ38からの音声を聞くことにより速度制御の実行に際しディスクブレーキ装置34のフェードを抑制する処理が行われることを知ることができる。本ステップ310の処理が終了すると、今回のルーチンは終了される。
上記図8に示すルーチンによれば、峠道で自車両の運転特性に基づく速度制御の実行に際し、ディスクブレーキ装置34のフェード現象が発生する可能性がある場合に、その発生が抑制されるように速度マップを補正することができる。この場合には、車両の制動力を得るうえでエンジンブレーキ装置36の使用割合が上がりディスクブレーキ装置34の使用割合が下がるので、ディスクブレーキ装置34のブレーキ負荷が小さくなる。従って、本実施例の車両速度制御装置10によれば、カーブの連続する峠道の特に下り坂において自車両の速度制御を実行するうえで、ディスクブレーキ装置34の熱によるフェードが発生するのを抑制することが可能となっている。
尚、上記の実施例においては、速度ECU12が、メモリ18に記録された峠道のカーブごとの各構成部位それぞれにおける速度履歴に基づいて、速度とカーブ構成部位のパラメータとの関係を規定した当該峠道における自車両運転者の運転特性を作成することにより特許請求の範囲に記載した「カーブ路運転特性作成手段」が、上記図3に示すルーチン中ステップ110の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「速度制御手段」が、上記図5に示すルーチン中ステップ156及び160の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「補正手段」が、上記図6に示すルーチン中ステップ204の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「先行車両運転特性作成手段」が、上記図7に示すルーチン中ステップ258の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「後続車両接近報知手段」が、上記図8に示すルーチン中ステップ304の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「ブレーキ負荷推定手段」が、ステップ308の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「マップ補正手段」が、ステップ100の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「峠道判別手段」が、それぞれ相当している。
ところで、上記の実施例においては、車両運転者による開始スイッチ24のオン操作により速度制御を開始することとしているが、開始スイッチ24のオン操作によらず、速度制御が開始されることを車両運転者に通知した後に自動的にその速度制御を開始することとしてもよい。
また、上記の実施例においては、自車両の直前に存在する先行車両を前方車間距離センサ26を用いて、また、後続する後続車両を後方車間距離センサ28を用いて、それぞれ検知することとしているが、自車両と先行車両又は後続車両との車々間通信により先行車両又は後続車両を検知することとしてもよい。
また、上記の実施例においては、速度制御を自車両の運転特性に基づくものから先行車両の運転特性に基づくものに切り替えるうえで、図6に示すルーチン中のステップ206に示す如く速度マップの速度同士を比較することとしているが、自車両と先行車両との車間距離が所定以下となり、自車両が先行車両に所定車間距離以下に接近しているか否かを判別することとしてもよい。かかる構成においても、速度マップの速度同士を比較する場合と同様の効果を得ることができる。
また、上記の実施例においては、ディスクブレーキ装置34のブレーキ負荷を推定するうえで摩擦熱と冷却効率との関係を用いることとしているが、ブレーキオイルの温度やブレーキパッドの温度をセンサを用いて直接検出し、その温度に基づいてブレーキ負荷を推定することとしてもよい。
更に、上記の実施例においては、自車両が一の峠道に進入するごとに自車両の運転者による速度履歴が保存され、その運転特性が作成されることとなるが、本発明はこれに限定されるものではなく、一旦運転特性が作成された後は、別の峠道に進入した際、運転特性を作成することなく、既に作成されている運転特性に従って速度マップを生成し、速度制御を実行することとしてもよい。