JP4094701B2 - 貯蔵に安定なフィブリノーゲン調製物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、組織接着剤として用いるための濃縮フィブリノーゲン溶液を調製するための、もしくは別の用途、例えば、点滴物のためのフィブリノーゲン溶液を調製するための貯蔵に安定なフィブリノーゲン調製物に関する。
【0002】
上記貯蔵に安定なフィブリノーゲン調製物は、凍結乾燥した形態で、あるいは冷凍貯蔵された(特に高度に濃縮された)フィブリノーゲン溶液として存在することができ、そしてそれらが以前から知られていた即時使用可能な(ready-to-use)フィブリノーゲン溶液および/または組織接着性溶液と同様の調製物より、それぞれより簡便にそしてより迅速に再構成および融解され得るという利点を有している。
【0003】
さらに、本発明はまた、本発明の調製物から得ることができるフィブリノーゲン溶液および/または組織接着性溶液にも関する。
【0004】
フィブリノーゲンを基にした組織接着剤は、ヒトもしくは動物の組織もしくは器官部分の継ぎ目のない(seamless)結合および/または継ぎ目を補強する結合、創傷の封鎖、止血、および創傷の治癒の促進に用いられる。
【0005】
それらの作用様式は、トロンビンの働きにより、即時使用可能な液体組織接着剤に含まれている(可溶性)フィブリノーゲンが(不溶性の)フィブリンに変換され、そして同様にそれらに含まれている第XIII因子も第XIIIa 因子へと活性化されるという事実に基づいている。これにより形成されたフィブリンは、組織接着剤の有効性に必須の高分子に架橋されるのである。必要とされるトロンビン活性は接着されるべき組織(創傷表面)に由来するか、あるいはトロンビンとCa2+イオンとを含む溶液の形態で封鎖過程で組織接着剤に添加することもできる。
【0006】
【従来の技術】
フィブリノーゲンを基にした組織接着剤はAT−B−359 653、AT−B−359 652およびAT−B−369 990から既に公知である。フィブリノーゲンおよび第XIII因子は別にして、それらはまたフィブロネクチンおよびアルブミンのようなさらなるタンパク質、ならびに場合によっては抗生物質をも含んでいる。組織接着剤は、冷凍貯蔵溶液の形態で、もしくは凍結乾燥物としてのいずれかで市場に出されているが、それは液体溶液の場合、それらは長時間にわたって非常に安定というわけではないからである。このような環境は、商品が、それらを適用する前に、それらの凍結乾燥物から解凍、すなわち融解あるいは再構成されなければならないということに結びつく。どちらの方法も多大な労力を伴うものである。
【0007】
最適な接着のためには、フィブリノーゲン濃度が少なくとも70mg/ml の即時使用可能な組織接着性溶液が必要であり、ある量の第XIII因子が必要とされ、それにより、フィブリノーゲン1g当たりの第XIII因子の単位数で表される、フィブリノーゲンに対する第XIII因子の比が少なくとも80となる。
【0008】
そのような調製物により、創傷治癒過程において、特に、安全な止血、シールの創傷および/または組織領域への良好な接着、接着および創傷の封鎖の高度な強さ、接着剤の完全な再吸収が可能になり、そしてそれらは創傷治癒促進特性を有する。
【0009】
しかし、必要な高度なフィブリノーゲンの濃縮は、結果として凍結乾燥したおよび/または冷凍貯蔵したフィブリノーゲン調製物は、徐々に既製品、液体組織接着剤へ再構成されるか、および/または融解(「溶解」)されるだけで、しかも温度は上昇している−一般に25℃以上、ほとんどは30℃以上−という事実を生じる。
【0010】
医学的観点からすると、即時使用可能な組織接着性溶液の迅速な利用可能性が望ましい。なぜなら、特に手術上の緊急事態においては、それが決定的に重要であるためである。
【0011】
さらに、手術を補佐する人の負担をできるだけ少なくするためにも、できるだけ操作が少ないことが即時使用可能な溶液の調製物には要求されるべきであり、そしてもしもそれにはこれ以上付加的手段が必要とされないならば、有利であると考えられる。
【0012】
さらに、医学的な観点からすると、即時使用可能な組織接着性溶液は、それらのフィブリノーゲン含有量が高いにも関わらず、室温、すなわち、20℃で容易に加工されるのに十分なほど既に流動化していることが望ましい。
【0013】
比較的流動性の組織接着性溶液は、特に、組織接着剤が細いカテーテルによって体腔に誘導されてそこに適用される場合に、あるいは、スプレー技術によって適用され、それによりその組織接着剤が噴霧されて薄い層として創傷表面に適用される場合に有利である。組織接着剤の適切な適用器具は、既に利用可能である(EP0315222、EP0455626)。
【0014】
先行技術のフィブリノーゲン調製物の可溶性は、ウイルス不活性化法を用いることによりさらに低下させることができる。それらは、例えば、EP0159311にしたがって、凍結乾燥した物質を熱処理するという方法で好適に実施される。
【0015】
したがって、凍結乾燥したフィブリノーゲン調製物の可溶性を改良するために多くの努力が傾注されたのである。
【0016】
凍結乾燥物の再構成は特定の添加物により改良することができることは公知である。したがって、EP−A−0345246は、フィブリノーゲンとは別に、さらに少なくとも1つの生物学的に受容可能な界面活性剤を含む凍結乾燥したフィブリノーゲン調製物を記載している。界面活性剤を添加した結果、凍結乾燥物は溶媒により改良された湿り気を有するようになり、それによりある温度での溶解率が改善するが、フィブリノーゲン自体の可溶性は改善しなかった。したがって、そのような調製物もまた25℃より高い温度で、このましくは37℃より高い温度で再構成されなければならない。
【0017】
EP−A−085923は、フィブリノーゲンとは別に尿素もしくはグアニジン基を有する物質をさらに含む凍結乾燥したフィブリノーゲン調製物を記載している。しかし、それにしたがって作成した組織接着性調製物は、細胞毒性に作用し、線維芽細胞の成長を阻害して、変化した非生理学的フィブリン構造を生じ、それによりフィブリンの所望の弾力性およびシールが失われることが示された(Redl et al., Medizinische Welt 36, 769-76 (1985) 参照)。線維芽細胞、すなわち、創傷治癒過程を開始する細胞の成長を阻害することにより、フィブリノーゲンを基にした組織接着剤の所望の創傷治癒促進特性は失われる。さらに、in vivo 要求される高度な接着強度は得られたフィブリンの弾力性の欠除により損なわれる。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、凍結乾燥した形態のもしくは冷凍貯蔵している液体調製物(冷凍貯蔵)から得られた形態の貯蔵に安定なフィブリノーゲン調製物を提供することである。この調製物は、好ましくは装置の加熱および/または撹拌のような付加的手段を用いずに、即時使用可能なフィブリノーゲンおよび/または組織接着性溶液に迅速かつ簡単な方法で再構成および融解され、ここで、上記即時使用可能な組織接着性溶液(フィブリノーゲン濃度は少なくとも70mg/ml)は、容易に加工されるのにすでに十分流動性であり、そして、これにも関わらず、上記で考察した公知の調製物、特にEP−A−085923に対応するものの不利な点を持たない。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上記目的は本発明により解決される。ここで、上記調製物は、フィブリノーゲンおよび場合によってはさらなるタンパク質ならびにアジュバントおよび添加物とは別に、この調製物の可溶性を改良し、および/またはそれらの融解温度を低下させ、そして即時使用可能な組織接着性溶液の室温での粘度を減少させる少なくとも1つの物質を含む。それにより、その物質は、それらがフィブリノーゲンの可溶性に与える効果によるだけでなく、溶解した調製物がアクチベーターと反応してフィブリン血餅が形成される場合の生理学的フィブリン構造のフォーメーションによっても選択される。このことは、形成された血餅が生理学的なフィブリン構造、すなわち、生理学的条件下(すなわち、イオン強度がおよそ0.15でpH値がおよそ7.4)でトロンビンがフィブリノーゲンに作用することにより形成された典型的な空間的に分岐したフィブリル構造を有するなら、フィブリノーゲン溶液を等容量のトロンビン−CaCl2 溶液(実質的に4IUのトロンビンおよび20−40μmol CaCl2/mlを含有する)と混合することにより証明することができる。この生理学的構造は、不透明で粘性で可塑性の血餅により肉眼で特徴づけられる。代表的な生理学的もしくは非生理学的フィブリン血餅の走査電子顕微鏡(SEM)写真が、例えば、Redl et al., Medizinische Welt 36, 769-76 (1985)の刊行物に示されている。
【0020】
本発明の調製物は、組織接着剤として用いられた場合に細胞毒性効果を持たないように構成されている。すなわち、それは細胞によってよく寛容されており、良好な細胞の成長を可能にし、それによる良好な創傷治癒のための理想的な調製物を提供する。このことは、組織接着剤を等容量の半等張性のもしくは等張性の塩化ナトリウム溶液で希釈することにより証明することができ、線維芽細胞に損傷を与えるような効果は検出されていない。
【0021】
Redlらによれば(上記参照)、フィブリノーゲンもしくは組織接着性溶液は、それが細胞トッピングテストにおいて線維芽細胞に損傷を与えるような効果をおよぼさなければ、一般に、非細胞毒性といわれる。
【0022】
さらに、本発明の調製物は、好ましくは組織接着剤に対する全てのさらなる要件を満たすように構成され、それらは、
−ウイルス安全性
−高度な接着強度および/または手当可能な創傷の封鎖ならびに安全で継続した止血
−プラスミノーゲンおよび/またはフィブリン溶解阻害剤の含有量の変化による体内での接着の制御可能な耐久性
−創傷治癒過程における接着剤の完全な再吸収性、および
−創傷治癒促進特性
すなわち、通常所望される組織接着剤の生化学的および物理的性質は、調製物の可溶性を改善するか、および/またはその融解温度を低下させ、そして室温での即時使用可能な組織接着剤の粘性を減少させる本発明の組織接着剤の物質の成分によって事実上、ネガティブな影響を受けないということである。
【0023】
このことは、以下のさらなる例示的テストにより実証することができる:
−トロンビン溶液との混合後の凝固反応(凝固時間)
−フィブリン−γ鎖およびα鎖の架橋
−フィブリン溶解耐性
−引っ張り強さ
−接着強度
融解温度は冷凍貯蔵濃縮フィブリノーゲン溶液が温度の上昇によって融解する温度であると理解される。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明の流動性冷凍貯蔵形態の貯蔵に安定なフィブリノーゲン調製物は、それが、0〜25℃の温度で、好ましくは20℃未満で、特に好ましくは15℃未満で、フィブリノーゲン含有量が少なくとも70mg/ml である溶液に融解するように可溶性を改善する物質を含む。融解温度が低くなったということは、冷凍貯蔵した濃縮フィブリノーゲン溶液が、例えば、20〜25℃の周囲の温度(室温)に曝された場合に、それがより迅速に融解するという意味である。このことは、本発明の冷凍貯蔵調製物に特に当てはまり、この調製物は、即時使用可能な滅菌した使い捨てシリンジに充填されており、無菌性という理由によりプラスチックフィルムで2重に密封されている。必要な二重のコーティングにより熱交換はより困難であり、そのため、現在まで、このようにパックされた冷凍貯蔵調製物は、水槽(37℃)という手段によって妥当な時間内に融解する、すなわち即時使用可能な状態にすることしかできなかった。しかし、水槽の利用は面倒で、例えば、滅菌状態の維持に関して、取り扱いの不利を伴うものである。
【0025】
本発明の凍結乾燥したフィブリノーゲンおよび/または組織接着性調製物はまた、これらが室温で、フィブリノーゲン含有量が少なくとも70mg/ml の溶液に、特別な手段(例えば、AT−B−371 719による組み合わせた加熱および撹拌装置)を用いずに、妥当な時間内に、すなわち、約1/2分〜15分まで、好ましくは7分未満で、特に好ましくは5分未満で、再構成され得るという利点を有する。現在まで、EP−A−085923による調製物が唯一の事例であったが、これらの調製物は上記のように重大な不利な点を有している。
【0026】
さらに、本発明の調製物はまた、他の目的、例えば、点滴のためのフィブリノーゲン溶液の特に迅速で容易な提供を可能にする。
【0027】
驚くべきことに、一連の物質が上述の要件、すなわち、EP−A−085923による添加物のさらなる上述の望ましくない副作用を引き起こすことなく、フィブリノーゲンの溶解性を増加させ、濃縮冷凍貯蔵フィブリノーゲンおよび/または組織接着性溶液の融解温度ならびに室温でのそれらの粘性を低下させること、を満たしていることが見いだされた。
【0028】
本発明の調製物は、ベンゼン化合物、ピリジン化合物、ピペリジン化合物、ピリミジン化合物、モルホリン化合物、ピロール化合物、イミダゾール化合物、ピラゾール化合物、フラン化合物、チアゾール化合物、プリン化合物、あるいはビタミン、核塩基、ヌクレオシドもしくはヌクレオチドの群から選択される一以上の物質を、好ましくはフィブリノーゲン1g当たり、0.03mmol〜3mmol、最も好ましくは0.07mmol〜1.4mmolの量で含む。
【0029】
凍結乾燥したフィブリノーゲン調製物からの点滴溶液の調製には、フィブリノーゲンに関して比較的高い比率の量の上記物質を選択することが有利である。例えば、この物質は、点滴物中のフィブリノーゲン1g当たり0.12〜12mmol、好ましくは0.28〜5.6mmolの量で存在し得る。
【0030】
これらの物質は、例えば、安息香酸、p−アミノ安息香酸(ビタミンH)、p−アミノサリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシサリチル酸、フェニルアラニン、プロカイン、ナイアシン、ナイアシンアミド、ピコリン酸、ビタミンB6 (ピリドキシン)、ヒドロキシピリジン、ピリジンジカルボン酸、ピリジンスルホン酸、ピペリジンカルボン酸エステル、ピリミジン、バルビツル酸、ウラシル、ウリジン、ウリジンリン酸(ウリジル酸)、チミン、シトシン、シチジン、ヒドロキシピリミジン、チアミン(ビタミンB1)、モルホリン、ピロリドン、イミダゾール、ヒスチジン、ヒダントイン、ピラゾール、ジカルボン酸、フェナゾン、アデノシン、アデノシンリン酸、イノシン、グアノシンリン酸、α−フロ酸(フラン−2−カルボン酸)、アスコルビン酸(ビタミンC)およびキサントシンを含む。
【0031】
上記の物質のタイプおよび量は、即時使用可能な組織接着性調製物が問題なく噴霧され得るために室温で十分に流動性であり、それに対応する粘度が400cSt 未満、好ましくは300cSt 未満であり、そして生理学的血餅が上記の即時使用可能な組織接着性溶液とトロンビン−CaCl2 溶液とを1:1の比で混合した後に形成されるように選択される。
【0032】
本発明のフィブリノーゲン調製物は、濃縮組織接着性溶液のオスモル濃度が好ましくは500mOsm未満、最も好ましくは400mOsm未満であるような比較的低い塩含有量によって特徴づけられる。この制限は、所望の良好な細胞寛容性(細胞毒性特性がない)を得るために必要である。本発明の物質により、今や、比較的低い塩含有量の凍結乾燥フィブリノーゲン調製物を作製することが可能である。塩含有量が比較的低いにも関わらず、この凍結乾燥フィブリノーゲン調製物は、上記のように、室温で即時使用可能な比較的流動性の組織接着性溶液(フィブリノーゲン含有量は少なくとも70mg/ml)に再構成され得、そして細胞によって良好に寛容される。
【0033】
以前には、室温で可溶性であるが、細胞に損傷を与えるか(Beriplast, Biocol, Bolheal HG)、細胞によって良好に寛容されるが上昇した温度−好ましくは37℃でしか再構成されない調製物が公知であった(Tissucol)。
【0034】
本発明の調製物はまた、それらの組成物によりウイルスに対して安全な調製物として提供され得る。それらは、ウイルスを不活化または涸渇するための前処理にもかかわらず良好に溶解する。多工程の熱処理法、例えば、EP159311による60℃および80℃での蒸気処理、あるいは、化学的処理法および/または物理的処理法の組合せが特に有効な処理方法である。
【0035】
熱処理法は、溶解性を改善する物質を調製物に添加する前に行われ、そして場合によっては最終的な容器に充填する前にナノ濾過を行う。
【0036】
好ましくは、本発明の調製物は、さらに第XIII因子を含み、場合によっては、創傷治癒の過程で利点があるフィブロネクチンもしくは少量のプラスミノーゲンを含む。
【0037】
一方、ある場合には、本発明の調製物は実質的にフィブリノーゲンのみからなり、すなわち、フィブリノーゲンを単一の活性物質として含む。
【0038】
さらに好ましい実施態様は、フィブリノーゲンおよびプラスミノーゲンアクチベーター阻害剤およびプラスミン阻害剤(例えば、アプロチニン、α2 −プラスミン阻害剤、α2 −マクログロブリンなど)を基にした組織接着剤に関する。即時使用可能な組織接着性溶液は一般に1ml当たり、70〜120mgのフィブリノーゲン、場合によっては0.5〜50U の第XIII因子、場合によっては0.5〜15mgフィブロネクチン、0〜150μg のプラスミノーゲン、および0〜20,000KIU のアプロチニン、好ましくは1,000〜15,000KIU のアプロチニンを含む。好ましい調製物はさらに、凍結乾燥調製物のより良好な湿り気のため、および/または冷凍貯蔵調製物の改善のため低濃度の界面活性剤を含む。
【0039】
本発明を、以下の実施例によりより詳細に例示する。
【0040】
【実施例】
実施例1:異なる冷凍貯蔵組織接着性溶液の融解温度
ウイルスを不活化した(蒸気処理した)組織接着性調製物を公知の方法(AT−B−369653、EP0345246を参照)にしたがって以下のように生成した:
【0041】
プールしたヒトクエン酸処理血漿からの血漿低温沈降物を緩衝液(2℃で1L 当たり6.6gのクエン酸ナトリウム・2H2 O、3.4gのNaCl、10gグリシン、25,000KIU のアプロチニン、および200IUのヘパリンを含む)で洗浄し、遠心分離した。この沈殿物をさらなる緩衝液(9.0gのグリシン、1.0gのクエン酸ナトリウム・2H2 O、25,000KIU のアプロチニン、および0.2gのTriton WR1339 を含む)を用いてタンパク質濃度が42g/L になるよう調整した。次いで、1L 当たり4.5gの純粋なヒトアルブミン、および15,000U の第XIII因子を添加し、pH値を7.3に調整した。この溶液をバルクで凍結乾燥し、水分含量を7.5%に調整し、そしてN2 雰囲気下で10時間60℃で加熱した。こうして得られたウイルスを不活化した材料を、蒸留水で溶解してタンパク質濃度を47g/L とし、滅菌濾過して再び凍結乾燥した。凍結乾燥した材料の一部を蒸留H2 Oで溶解して、表1に示した添加物(=即時使用可能な組織接着性溶液)ありまたはなしでフィブリノーゲン濃度を85mg/ml とし、それぞれ2mlを試験管に満たして冷凍貯蔵した。
【0042】
このようにして得た冷凍貯蔵組織接着性溶液の融解温度は以下の融解テストで測定した:
【0043】
冷凍貯蔵した試料を最初に水槽で10℃の一定温度30分間インキュベーションした。その後、この温度を30分ごとに2.5℃ずつ上昇させた。各インキュベーション時間の後に試料の凝固状態を試験管をチッピングすることにより評価した。固体状態から液体状態への移行は急激に起きたわけではなく、いくつかの温度工程の範囲にわたっておこり、ゼラチン状の状態と粘性の移行状態とを経る。
【0044】
このテストによると、試料は、試験管をチッピングしたときに水平な液体レベルが形成されて初めて、すなわち、試料が出血後直ちに目に見える膨張を起こさない場合に、「液体」と見なされる。
【0045】
この単純なテストの助けを借りて、組織接着性溶液が容易に用いられるために所定の温度で十分に流動的であるかどうかを測定することができる。
【0046】
結果を表1にまとめる。
【0047】
さらに、列挙した組織接着性溶液が、等容量のトロンビン−CaCl2 溶液(1ml当たり4IUのトロンビン、および40μmol のCaCl2 、Thrombin 500, Immuno AG が生産)と混合した後で生理学的で不透明、粘性塑性の血餅を所望通り形成したかどうかも調査した。列挙した全ての組織接着性溶液も同様であった。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
実施例2:ナイアシンアミドが組織接着性溶液の粘度に与える影響
実施例1と同様に、流動性冷凍貯蔵組織接着性溶液(凝固し得るタンパク質含有量:81mg/ml)を異なるナイアシンアミド含有量を用いて作製した。
【0051】
解凍後、異なる温度における動粘度をキャピラリー粘度計で測定した。
【0052】
結果を表2にまとめた。
【0053】
【表3】
【0054】
実施例3:ピリドキシン・HClが組織接着性溶液の粘度におよぼす影響
実施例2と同様に行った;結果を表3に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
実施例4:ナイアシンアミドが凍結乾燥した組織接着性調製物の再構成時間におよぼす影響
凍結乾燥し、ウイルス不活化した組織接着性調製物を加熱工程まで実施例1と同様に生成した。
【0057】
その後、この材料を蒸留H2 Oおよび/または異なる濃度の水性ナイアシンアミド溶液でタンパク質濃度が30g/L となるよう溶解し、滅菌濾過し、それぞれ4mlを最終滅菌容器(小さなガラス瓶)に満たして凍結乾燥した。
【0058】
1.0mlのH2 Oもしくは水性アプロチニン溶液を用いて再構成した後、各変性物が1ml当たり85mgのフィブリノーゲン含有量を持つ即時使用可能な組織接着性溶液を得た。室温での必要な再構成時間は手で緩やかに振盪することにより測定した。数回の測定を数個の小さな瓶について行った。結果を表4にまとめる。
【0059】
溶媒中の3,000KIU/mlまでのアプロチニンは再構成時間に有意な影響を及ぼさなかった。
【0060】
【表5】
【0061】
実施例5:本発明の組織接着剤の細胞適合性
実施例4の組織接着性調製物を、Redl et al., Med. Welt 36, 769-776, 1985にしたがってそれらの細胞適合性について試験した。EP−A−0085923に対応する公知の細胞毒性組織接着性調製物をコントロールとして供した。
【0062】
結果:
実施例4の全ての調製物(ナイアシンアミド含有量は200mmol/Lまで)は、細胞によってよく寛容されることを示した。対照的に、EP−A−0085923に対応する組織接着性調製物は、予想通り数分で深刻な細胞の損傷にいたり、それによってテストシステムの感度が確認された。
【0063】
精製された凍結乾燥フィブリノーゲン調製物(バルク材料)を、実質的にL.A.Kazal et al., Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 113, 989-994, 1963 にしたがって、フィブリノーゲン含有ヒト血漿画分からのグリシン沈殿により生成した。
【0064】
この材料を残存水分が7〜8%になるよう調整し、さらに、N2 雰囲気下で10時間、60℃で、その後3時間80℃でウイルスを不活化した。
【0065】
材料の分析結果は以下の通りであった。
タンパク質 73.0%(g/g)
凝固可能なタンパク質(フィブリノーゲン) 69.4%(g/g)
Na3 −クエン酸・2H2 O 19.5%(g/g)
【0066】
1L 当たり22gのフィブリノーゲンと10gのヒトアルブミンを含み、異なるナイアシンアミド含量の溶液(pH7.4)をこの材料のアリコートから作製し、そしてこれらの溶液のオスモル濃度をNaClの添加により約300mOsmに調整した。
【0067】
滅菌濾過した後、これらの溶液を125ml容の瓶にそれぞれ50ml入れて凍結乾燥した。
【0068】
このようにして得た凍結乾燥したフィブリノーゲン調製物を、それぞれ50mlのH2 Oで室温で、手で緩やかに振盪しながら溶解し、再構成時間を測定した。それにより、非常に正確な終点が規定された:調製物は、透過光中でそれ以上目に見える非溶解粒子がなくなって初めて溶解したと見なされた。結果(三回の測定の平均値)を次の表にまとめる。
【0069】
【表6】
【0070】
この実施例は、点滴調製物として用いられるよう処方され、そして再構成後の最適な適合性のためにほぼ等張である本発明の溶解性を改善する物質が、加熱し凍結乾燥したフィブリノーゲン調製物の不溶性におよぼす好ましい影響を示す。
【0071】
実施例7
フィブリノーゲン含有ヒト血漿画分を、実質的にAU−B−18306/92に記載してあるように、ヒト血漿中に存在するかもしれないHIVのようなウイルスを不活化するためにTween 80で処理した。
【0072】
この最初のウイルス不活化工程の後、この材料をさらに実施例6と同様にグリシン沈殿し、得られた沈殿物を25mMのNa−クエン酸溶液、pH7.3、0−2℃で洗浄することにより精製した。
【0073】
精製した沈殿物を溶解して1L 当たり50gのタンパク質および10mmolのNa−クエン酸、pH7.3の溶液を生じ、凍結乾燥した。
【0074】
得られた凍結乾燥したバルクの材料を残存水分が7〜8%となるよう調整し、N2 雰囲気下で10時間、60℃で、その後1時間80℃でさらにウイルスを不活化するために加熱した。
【0075】
その後、この材料を、1L 当たり40mmolのヒスチジンHCl、40mmolのナイアシンアミド、80gのTween 80、および100,000KIU のアプロチニンを含む溶液を用いてタンパク質濃度40g/L に溶解し、NaOHでpH7.3に調整した。ウイルスを不活化したヒトアルブミンを6g/L の濃度で添加し、オーストラリア国特許出願A1548/93にしたがってウイルスを不活化したヒトの精製第XIII因子を1L 当たり15,000U の濃度で添加した。
【0076】
この溶液を滅菌濾過し、それぞれ2.5mlを滅菌した最終容器(ガラス瓶)に入れ、凍結乾燥した。
【0077】
1.0mlの水もしくはアプロチニン溶液を用いて再構成した際には、1ml当たり90mgのフィブリノーゲン、2.5mgのフィブロネクチン、15mgのアルブミン、100μmol のヒスチジンおよび100μmol のナイアシンアミドを含む即時使用可能な組織接着性溶液が得られた。
【0078】
室温での平均再構成温度は実施例4で測定したようにわずか4分であった。
【0079】
実施例7は、本発明の溶解性を改善する物質の組合せが、高度に可溶性の凍結乾燥組織接着性調製物の提供において特に効果的であることを示している。この組織接着性調製物は同時に、操作の間の2回の異なるそして独立したウイルス不活化工程故に非常に高度なウイルス安全性を有している。
Claims (9)
- 即時使用可能な組織接着性溶液を迅速に調製するための凍結乾燥した形態の貯蔵に安定なフィブリノーゲン調製物であって、
(i)該凍結乾燥した調製物が、室温で水に溶解した場合に少なくとも70mg/mlのフィブリノーゲン濃度を有する溶液への再構成時間が15分までであるようにフィブリノーゲンの溶解性を改善する物質を含み、該フィブリノーゲンの溶解性を改善する物質が、ナイアシンアミドであり、そして
(ii)該調製物から得られた該即時使用可能な組織接着性溶液が、トロンビン−CaCl2溶液との混合後に生理学的フィブリン構造を有するフィブリン血餅を形成することを特徴とする、フィブリノーゲン調製物。 - 即時使用可能な組織接着性溶液を迅速に調製するための冷凍した形態での貯蔵に安定なフィブリノーゲン調製物であって、
(i)該冷凍した調製物が、この調製物が0〜25℃の温度で、少なくとも70mg/mlのフィブリノーゲン濃度を有する溶液に融解し得るようにフィブリノーゲンの溶解性を改善する物質を含み、該フィブリノーゲンの溶解性を改善する物質が、ナイアシンアミドであり、そして
(ii)該調製物から得られた該即時使用可能な組織接着性溶液が、トロンビン−CaCl2溶液との混合後に生理学的フィブリン構造を有する血餅を形成することを特徴とする、フィブリノーゲン調製物。 - 工程(i)における再構成時間が7分より短い、請求項1に記載の貯蔵に安定なフィブリノーゲン調製物。
- 工程(i)における調製物が20℃未満の温度で、少なくとも70mg/mlのフィブリノーゲン濃度を有する溶液に融解し得る、請求項2に記載の貯蔵に安定なフィブリノーゲン調製物。
- 前記物質がフィブリノーゲン1g当たり0.03〜3mmolの量で含まれていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の調製物。
- 前記物質がフィブリノーゲン1g当たり0.7〜1.4mmolの量で含まれていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の調製物。
- 前記組織接着性溶液が、1ml当たり4IUのトロンビンと40μmolのCaCl2を含む当容量のトロンビン−CaCl2溶液と混合した後に、不透明で粘性弾性のフィブリン血餅を、37℃で最大10分以内に形成することができることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の調製物。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の調製物の再構成および/または融解により得られ得る即時使用可能な組織接着性溶液。
- ナイアシンアミドであるフィブリノーゲンの溶解性を改善する物質を含む、凍結乾燥したフィブリノーゲン調製物。
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