JP4094119B2 - 水性塗料用樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は新規な水性塗料用の樹脂組成物に関し,とりわけ水性室内塗料用として好適な樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来技術】
近年,室内塗料においては臭気や安全性の面から溶剤系塗料から水性塗料への転換が進み,現在では一部の限定された用途を除いて水性エマルジョンをベースとした水性塗料が主流となっている。
更に近年,室内空気汚染の問題がクローズアップされてきたことから,水性塗料であっても,それに含まれる微量の揮発性有機化合物(VOC)が問題視されている。
【0003】
このVOCについては必ずしも統一化された定義は存在しないが,一般にはWHO(世界保健機構)による沸点に基づいた分類で,沸点が50〜260℃までの有機化合物を指す。
この分類からすれば,従来の室内向けの水性塗料中には,VOCとしてエマルジョンの低温成膜性を確保するための造膜助剤,塗料の凍結を防止するための凍結防止剤等が含まれている。しかし,これらVOCは室内塗料としての諸性能を満足させるためには必要な成分と考えられてきた。
【0004】
即ち,室内塗料には一般に5℃以下での成膜性が求められているが,これを造膜助剤なしに達成しようとすれば,予めエマルジョン中の樹脂のガラス転移温度(Tg)を低く設定しなければならない。しかし,その結果として,塗膜表面が粘着性で汚れやすいものとなってしまう。
一方,凍結防止剤については,添加しないで水性塗料にすることも可能であるが,その場合は0℃で凍結しても,融解させれば,また塗料として使用できることが前提となる。そのため,ベースとなるエマルジョンが凍結融解を行なっても安定であるような工夫が必要である。
【0005】
【解決しようとする課題】
本発明はかかる問題に鑑み,VOCを全く含まないか,含んでもごく微量であるにもかかわらず,従来の造膜助剤の入ったエマルジョンベースの水性塗料並みの低温成膜性を有すると共に得られる塗膜の表面に粘着性がなく,かつ塗料を凍結と融解のサイクルを行っても安定な水性塗料用樹脂組成物を提供しようとするものである。
【0006】
【課題の解決手段】
請求項1の発明は,最低造膜温度が0℃以下であり,かつ樹脂のガラス転移温度がー20℃から20℃である共重合体の水性エマルジョン(A)と,ガラス転移温度が20℃以上のアルカリにより水に可溶化された樹脂(B)とからなる組成物であって,
上記(A)と上記(B)との不揮発分の重量比が,A/B=95/5〜60/40の範囲にあることを特徴とする水性塗料用樹脂組成物である。
【0007】
本発明者らは,鋭意検討の結果,最低造膜温度が0℃以下であり,かつその樹脂が特定の範囲のガラス転移温度(Tg)を有する共重合体の水性エマルジョンと特定のTgを有する水溶性樹脂との特定の割合の組成物が本課題を満たすことを見出し本発明に至った。
【0008】
本発明において,上記最低造膜温度が0℃以下であり,かつ樹脂のガラス転移温度がー20℃から20℃である共重合体の水性エマルジョン(A)としては,例えばスチレン,ブタジエン共重合体の水性エマルジョン,スチレン(メタ)アクリル酸エステル共重合体の水性エマルジョン及び(メタ)アクリル酸エステル共重合体の水性エマルジョン等があげられる。
これらの中で,スチレン(メタ)アクリル酸エステル共重合体の水性エマルジョン,及び(メタ)アクリル酸エステル共重合体の水性エマルジョンは,多種多様の(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する分子設計のし易さ及び耐久性の点からして,特に好ましい。
【0009】
上記の最低造膜温度とは,この温度以上では,当該水性エマルジョンがクラックのない均一なフィルムを与える温度と定義され,ISO規格2115に記載された方法,及び装置で測定される温度であり,共重合体水性エマルジョンはそれぞれ固有の値を有する。
【0010】
一方,共重合体のTgは,その重合に使用される単量体iのホモポリマーのTgiと単量体iの分率Xiとから,以下の関係式で求められる。
1/Tg(共重合体)=Σ(Xi/Tgi)
Xi: 単量体iの分率
Tgi:単量体iのTg
【0011】
エマルジョンの最低造膜温度とその共重合体のTgとは相関性があるが,厳密なものではなく,単量体の組み合わせ,或いはエマルジョンを製造する際の単量体の添加方法等によって相関性がずれるのが一般的である。
【0012】
上記単量体の例としては,アクリル酸もしくはメタクリル酸の炭素数1〜18のアルキルエステル例えばアクリル酸メチル(22℃;Tgを示す。以下同様),アクリル酸エチル(−8℃),アクリル酸ブチル(−43℃),アクリル酸2エチルヘキシル(−58℃)アクリル酸ラウリル(−17℃),アクリル酸シクロヘキシル(19℃),メタクリル酸メチル(105℃),メタクリル酸エチル(67℃),メタクリル酸ブチル(32℃),メタクリル酸t−ブチル(102℃),メタクリル酸シクロヘキシル(83℃)がある。
【0013】
また,スチレン(107℃),α−メチルスチレン(168℃)等のビニル芳香族,酢酸ビニル(28℃),プロピオン酸ビニル(5℃)等の飽和カルボン酸ビニルエステル,塩化ビニリデン(−18℃)塩化ビニル(74℃),ブタジエン(−78℃)等がある。
【0014】
また,上記水性エマルジョンに様々な極性を与えるため,アクリロニトリル(105℃),アクリルアミド(220℃),ヒドロキシエチルアクリレート(−34℃),ヒドロキシエチルメタクリレート(55℃),ヒドロキシプロピルアクリレート(−21℃),ヒドロキシプロピルメタクリレート(26℃),ジアセトンアクリルアミド(65℃)等の単量体を使用することができる。かかる単量体の共重合比は,耐水性の点より,通常0〜15重量%,好ましくは0〜10重量%である。
【0015】
上記水性エマルジョンの製造においては,主として製造時の安定性を確保するため,その共重合成分として不飽和カルボン酸を使用することが好ましい。その具体例としては,3〜5個の炭素原子を有する不飽和モノカルボン酸及びジカルボン酸があげられ,アクリル酸(130℃),メタクリル酸(162℃),イタコン酸(130℃)等があげられる。これらの不飽和カルボン酸は2種以上を併用しても良い。また,その共重合比は,重合安定性,耐水性の点より好ましくは0.1〜7重量%,更に好ましくは0.5〜5重量%である。
【0016】
上記水性エマルジョンの製造にあたっては,上記の単量体を適宜組み合わせて使用し,その共重合体のTgが−20〜20℃となるように設計することが必要であると同時に,製造した共重合体水性エマルジョンの最低造膜温度は0℃以下でなければならない。
【0017】
共重合体のTgが20℃を越えるか,或いは最低造膜温度が0℃を越える場合は,本組成物から得られる塗料の成膜性が低下する。逆に,共重合体のTgが−20℃未満であると,例え最低造膜温度が0℃以下であっても,塗料から得られる塗膜表面が粘着性を持つため,実用性のないものとなってしまう。
なお,更に好ましくは,粘着性と成膜性の両立性の点より−15〜15℃,最も好ましくは−10〜10℃である。
【0018】
また,水性エマルジョン(A)の重合方法自体は,既知の方法を用いれば良く,乳化重合用の乳化剤を用いる乳化重合法,或いは水溶性又はアルカリ可溶性の共重合体を分散剤として用いる保護コロイド重合法によって製造できる。また単量体混合物を多段でフィードするいわゆるコア/シェル重合法や,重合中にフィードする単量体組成を逐次変化させるパワーフィード法をとることもできる。
更に上記方法で製造した2種以上の水性分散液を混合して使用することもできる。
【0019】
上記製造に用いる乳化剤としては,例えば,高級アルコールの硫酸エステル塩,高級アルキルスルホン酸塩,アルキルベンゼンスルホン酸塩,ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩,ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテルサルフェート塩,ビニルスルホン酸塩,ビニルスルホサクシネート等のアニオン性界面活性剤や反応性乳化剤が使用される。
【0020】
また,これらアニオン性界面活性剤と併用して,ポリオキシエチレンアルキルエーテル,ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル,エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体,ソルビタン誘導体等のノニオン性界面活性剤も使用することができる。
【0021】
また保護コロイドとしては,デンプンやヒドロキシエチルセルロースのようなセルロース系,ポリオキシエチレン系,ポリカルボン酸系等が使用できるが,水に可溶化された上記樹脂(B)との相溶性,及び塗料から得られる塗膜の耐水性の点でポリカルボン酸系が望ましい。
【0022】
製造に用いる重合開始剤としては,例えば過硫酸カリウム,過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩,過酸化水素,ベンゾイルパーオキサイド,t−ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物などがあげられる。これらの重合開始剤は有機アミン,ロンガリット等と組み合わせてレドックス重合開始剤系として用いることもできる。また共重合体の分子量調節のため,各種メルカプタン類,アルコール類等の連鎖移動剤を使用しても良い。
【0023】
一方,ガラス転移温度が20℃以上の,アルカリにより水に可溶化された,樹脂(B)としては,例えばカルボキシル基を有する単量体を含む単量体混合物から製造される共重合体,スチレンマレイン酸共重合体,水性ウレタン樹脂等にアルカリを添加して,その酸の一部,又は全部を中和することによって製造される。
これらの中で,上記水性エマルジョン(A)との相溶性の点から,カルボキシル基を有する単量体を含む単量体混合物から製造される共重合体を中和したものが好ましい。
【0024】
カルボキシル基を有する単量体の具体例としては,3〜5個の炭素原子を有する不飽和モノカルボン酸及びジカルボン酸があげられ,アクリル酸(130℃),メタクリル酸(162℃),イタコン酸(130℃)が特に好ましい。
水に可溶化された樹脂(B)は,これらの不飽和カルボン酸と水性エマルジョン(A)を製造する場合に例示した単量体と適宜組み合わせて共重合され,アルカリを添加して製造されるが,その共重合体のTgが20℃以上となるように組み合わせる必要がある。
【0025】
樹脂(B)のTgが20℃未満であると,本樹脂組成物から得られる塗料の塗膜の粘着性が高くなるので好ましくない。
【0026】
また,この共重合に際し,これらカルボキシル基を有する単量体は2種以上を併用しても良く,その共重合比は好ましくは2〜40重量%,更に好ましくは4〜20重量%である。不飽和カルボン酸の共重合比が2重量%未満の場合は,得られた共重合体が水溶性とはならず,本組成物から得られる塗料の低温成膜性が悪化することに加えて凍結融解安定性も低下する傾向にある。逆に40重量%よりも多い場合は塗料から得られる塗膜の耐水性が悪化するおそれがある。
【0027】
更に,その中和に用いるアルカリは,水溶性のアルカリであることを除き特に制約はないが,本組成物から得られる塗膜の耐水性を良好に保つ点では,揮発性のアルカリが望ましく,同様な理由からアンモニアが最も適している。
また,中和の方法は,この共重合体を製造後アルカリを添加するか,水性エマルジョン(A)に予め共重合体を水に可溶化するに充分なアルカリを添加しておくか,或いは水性エマルジョン(A)と混合後アルカリを添加して中和する方法のいずれの方法も採用できる。
【0028】
樹脂(B)の共重合体の製造方法は,当業者に既知である。最も一般的な製造法は▲1▼溶液重合法▲2▼懸濁重合法,及び▲3▼塊状重合法であるが,▲4▼乳化重合法でも製造することが可能である。但し,▲1▼の溶液重合で製造した場合には,製造に使用した溶剤はほぼ完全に留去しておく必要がある。また特に▲2▼の懸濁重合法や,▲4▼の乳化重合法を用いる場合には,各種メルカプタン類,アルコール類,αーメチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤を併用して分子量を調節し,共重合体のアルカリ可溶性や水性エマルジョン(A)との混和性を向上させることが好ましい。
【0029】
上記水性エマルジョン(A)は,上記樹脂(B)と,(A)と(B)との不揮発分の重量比(A/B)が,95/5〜60/40の範囲となるように混合される。
重量比が95/5を越えると低温成膜性が悪化するし,かつ凍結融解安定性が低下する。逆に,60/40未満の場合は低温成膜性の悪化と同時に耐水性の悪化を招く。
【0030】
低VOC塗料用水性樹脂分散液,及びそれを使用した水性塗料組成物の製造は,基本的には(A)と(B)とのブレンド品であるが,そのブレンド方法において制限はない。(A)に(B)を添加しても良いし,逆に(B)を(A)に添加する方法でも良い。また可溶化された樹脂(B)を保護コロイドとして用い共重合させて水性エマルジョンを製造し,結果的に(A)と(B)が共存する組成物とする方法も採用できる。更に本組成物はアルカリが添加されるが,その添加量は(B)の樹脂成分が可溶化されるに必要な量以上あればよい。
【0031】
本発明によれば,VOCを全く含まないか,含んでもごく微量であるにもかかわらず,従来の造膜助剤の入ったエマルジョンベースの水性塗料並みの低温成膜性を有すると共に得られる塗膜の表面に粘着性がなく,かつ塗料を凍結と融解のサイクルを行っても安定な水性塗料用樹脂組成物を提供することができる。
【0032】
次に,請求項2の発明のように,上記の水性塗料用樹脂組成物は,更に多価アルコール化合物(C)を含有することもできる。この場合には,特に凍結安定性が一層向上する。
上記多価アルコール化合物(C)の具体例としては,グリセリン,ペンタエリスリトール,ポリビニルアルコール等が挙げられるが,先に定義したVOCに分類されないものであることが必要である。そして,その安定化効果の点からは,グリセリンとペンタエリスリトールが特に好ましい。
【0033】
次に,請求項3の発明のように,上記多価アルコール化合物(C)は,上記水性エマルジョン(A)と上記樹脂(B)との合計量に対して,0.1〜5重量%添加してなることが好ましい。
添加量が0.1重量%未満は,凍結融解に対する安定化効果が明確に現われ難く,一方5重量%を越えると本組成物から得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。なお,更に好ましくは0.3〜3重量%である。
【0034】
なお,この凍結融解安定性に関しては,特に水性エマルジョン(A)の共重合体,及び又は可溶化された樹脂(B)中にカルボニル基が存在する場合,本組成物中にヒドラジノ基を2つ以上有する化合物が存在すると,顕著に低下する。
【0035】
以上の組成物は,そのままコーティング剤として使用に供することも可能であるし,着色顔料,体質顔料,充填材,骨材,分散剤,湿潤材,造膜助剤,消泡剤等の各種添加剤を配合して塗料として用いる。
但し,添加剤等にも極力VOCの含有量の少ない物を使用し,塗料中に最終的に含まれる全VOCの含有量は1%未満に抑えることが好ましい。
また,このように配合された水性塗料の顔料容積濃度(PVC)については,特に制限は無いが,通常1〜90%の範囲で使用される。
【0036】
次に,請求項4の発明のように,上記水性塗料用樹脂組成物は,水性室内塗料用樹脂組成物として用いることが好ましい,
この場合には,上記の効果が最も良く発揮される。
【0037】
【発明の実施の形態】
実施形態例1
以下に,水性樹脂分散液の製造例,実施例及び比較例をあげて説明する。
これらの例に記載の「部」及び「%」は,特に記載しない限りそれぞれ「重量部」及び「重量%」を意味する。
【0038】
樹脂(B)の製造例1
樹脂(B)を製造するために,まず温度調製機,撹拌機,還流冷却機,供給容器及び窒素導入管の付いた反応器に,水200部を挿入してから,この反応容器内を窒素ガス置換した。
別に,供給物Iとして下記のものを用意した。また,重合開始剤として,供給物IIを用意した。
【0039】
[供給物I]
水 200部
エチレンオキサイド20モルを付加したp−ノニルフェノール
の硫酸エステルナトリウム塩の35%水溶液 30部
エチレンオキサイド25モルを付加したp−ノニルフェノール
の20%水溶液 30部
メタクリル酸メチル 248部
アクリル酸ブチル 112部
アクリル酸 20部
メタクリル酸 20部
t−ドデシルメルカプタン 4部
【0040】
[供給物II]
水 85部
過硫酸カリウム 2.5部
【0041】
次に,上記の窒素ガス置換した反応器内に,上記供給物Iの10%を加え,その混合物を90℃に加熱した。
次いで,供給物IIの10%を同反応器内に投入してから,供給物Iと供給物IIの残りを3.5時間かけて均一に同反応器に供給した。その供給終了後なお2時間,90℃に保持して乳化重合させ,可溶化前の樹脂(B)が分散する水性エマルジョンを得た。この水性エマルジョンの樹脂濃度は約45%であった。
【0042】
樹脂(B)の製造例2〜4
樹脂(B)の製造例1と同一の装置を用い,モノマー組成を表1に示すように変更して,各各均一な水性エマルジョンを得た。また,得られた樹脂(B)の固形分20%に希釈し,アンモニアによりpH8.5に調整して,それらの溶解性を評価し,その結果を表1に示した。
【0043】
樹脂(B)の製造例5
製造例1と同一装置を用い,反応器内にイソプロピルアルコール800部を仕込み窒素置換した。
そして,反応器を80℃に加熱後,メタクリル酸メチル160部,アクリル酸ブチル120部,アクリル酸60部,メタクリル酸60部からなるモノマー混合溶液を供給容器から,またアゾビスイソブチロニトリル16部をイソプルアルコール400部に溶解したものを別の供給容器から,各各2時間かけて均一に添加した。
添加終了後,反応器を80℃に保って更に1時間熟成し,均一な重合体溶液を得た。
【0044】
次に,ロータリーエバポレーターを使って減圧により,過剰のイソプロピルアルコールを留去した後,脱イオン水を加え更にアンモニアを加えて中和した。更に,残存するイソプロピルアルコールを共沸により減圧留去,アンモニアによる中和,脱イオン水の添加を繰り返すことにより,pH8.3の水に可溶化された樹脂(B)である樹脂固形分27%の水溶液を得た。
【0045】
樹脂(B)の製造例6
樹脂(B)の製造例5と同一の装置を用い,モノマー組成を表1に示すように変更して,各各均一な重合体溶液を得た。
以上の樹脂(B)につき表1に示した。
【0046】
水性エマルジョン(A)の製造例1
樹脂(A)を製造するために,まず温度調製機,撹拌機,還流冷却機,供給容器及び窒素導入管の付いた反応器に,水200部を挿入してから,この反応容器内を窒素ガス置換した。
別に,供給物Iとして下記のものを用意した。また,重合開始剤として,供給物IIを用意した。
【0047】
[供給物I]
水 200部
エチレンオキサイド20モルを付加したp−ノニルフェノール
の硫酸エステルナトリウム塩の35%水溶液 30部
エチレンオキサイド25モルを付加したp−ノニルフェノール
の20%水溶液 30部
メタクリル酸メチル 136部
アクリル酸ブチル 256部
アクリル酸 4部
イタコン酸 4部
【0048】
[供給物II]
水 85部
過硫酸カリウム 2.5部
【0049】
次に,上記の窒素ガス置換した反応器内に,上記供給物Iの10%を加え,その混合物を90℃に加熱した。
次いで,供給物IIの10%を同反応器内に投入してから,供給物Iと供給物IIの残りを3.5時間かけて均一に同反応器に供給した。その供給終了後なお2時間,90℃に保持して乳化重合させ,水性エマルジョン(A)を得た。この水性エマルジョンの樹脂濃度は約50%であった。
【0050】
水性エマルジョン(A)の製造例2
製造例1と同一装置を用い,その反応器中に,水150部,エチレンオキサイド20モルを付加したp−ノニルフェノールの硫酸エステルナトリウム塩の35%水溶液7.2部,エチレンオキサイド25モルを付加したp−ノニルフェノールの20%水溶液8部を挿入してから,この反応容器内を窒素ガス置換した。
別に,供給物I,II,IIIを用意した。
【0051】
[供給物I]
水 150部
エチレンオキサイド20モルを付加したp−ノニルフェノール
の硫酸エステルナトリウム塩の35%水溶液 14.8部
エチレンオキサイド25モルを付加したp−ノニルフェノール
の20%水溶液 14部
メタクリル酸メチル 117部
アクリル酸ブチル 154部
アクリル酸2−エチルヘキシル 48部
アクリル酸 1.3部
【0052】
[供給物II]
水 32部
エチレンオキサイド20モルを付加したp−ノニルフェノール
の硫酸エステルナトリウム塩の35%水溶液 3.2部
エチレンオキサイド25モルを付加したp−ノニルフェノール
の20%水溶液 4.2部
メタクリル酸メチル 74.4部
アクリル酸ブチル 2.4部
アクリル酸 3.2部
【0053】
[供給物III]
水 48部
過硫酸カリウム 2部
【0054】
次に,上記の窒素ガス置換した反応器内に上記供給物Iの10%を加え,その混合物を90℃に加熱した。
次いで,供給物IIIの10%を同反応器内に投入してから,供給物Iの残りを3時間かけて均一に同反応器に供給し,1時間の間隔をおいて供給物IIを1時間かけて添加した。
供給物IIIは供給物Iの添加開始から供給物IIの添加終了まで連続して一様に供給した。その供給終了後なお1.5時間90℃に保持して乳化重合させ,水性エマルジョン(A)を得た。この水性エマルジョン(A)の樹脂濃度は約50%であった。
【0055】
水性エマルジョン(A)の製造例3〜6
水性エマルジョン(A)の製造例1と同一装置を用い,単量体組成を表2に示すようにそれぞれ変更したほかは,水性エマルジョン(A)の製造例1にしたがって水性樹脂エマルジョンを合成した。
製造例4に関しては,得られた水性エマルジョン(A)に対して,アジピン酸ジヒドラジドの20%水溶液を10部加えた。
その結果は表2にまとめて示した。
【0056】
水性エマルジョン(A)の製造例7
水性エマルジョン(A)の製造例1と同一装置を用い,反応器内に,水305部及び樹脂(B)の製造例2で製造された樹脂(B)380部を挿入し,アンモニアを加え完全に可溶化させた。
別に,下記に示す供給物I,供給物IIを用意した。
【0057】
[供給物I]
メタクリル酸メチル 100部
アクリル酸ブチル 280部
スチレン 20部
【0058】
[供給物II]
水 100部
過硫酸ナトリウム 2部
アンモニア 0.5部
【0059】
次に,上記の水分散性共重合体(A)と,開始剤溶液とを装入した反応器内を窒素ガス置換した後,同反応器内に上記供給物Iの10%を加え,その混合物を90℃に加熱した。
次いで,供給物IIの10%を同反応器内に投入してから,供給物Iと供給物IIの残りを3時間かけて均一に同反応器に供給した。その供給終了後なお1.5時間,90℃に保持して乳化重合させ,水性樹脂エマルジョン(I)を得た。この水性樹脂エマルジョンの樹脂濃度は約46%であった。
以上の水性エマルジョン(A)につき,表2に示した。
なお,表2の最下欄の実測MFTとは,ISO規格2115に記載された方法及び装置で,実際に測定した最低造膜温度をいう。
【0060】
実施例1〜8及び比較例1〜6
上記製造例で製造した水性エマルジョン(A)と樹脂(B)とを,表3,表4に記載の割合で混合し,同表記載の中和剤の添加により,pHを8.5〜9.0に調整し,更に必要に応じて,多価アルコールを添加し,水性塗料用の樹脂組成物を調整した。
ただし,実施例3では,水性エマルジョンの製造例7で得られた樹脂(可溶化された樹脂(B)を含有)の使用であるため,樹脂(B)のさらなる添加は,行わなかった。得られた樹脂組成物は,以下の塗料配合により,塗料化を行った。
【0061】
(塗料配合)
水 80部
ノプコスパース44C(サンノプコ社製) 1.4部
酸化チタンJR600A(シイカ社製) 72部
炭酸カルシウムKS1000(同和カルファイン社製) 86部
を混合し,充分分散させ顔料ペーストを作成した。
この顔料ペーストに,表3記載の組成物を98部(固形分50%換算)及び増粘剤としてのシックナー612(サンノプコ社)1部を加えて,更にアルカリを添加してPVC50%の塗料を調整した。
【0062】
以上に,各試験法につき,説明する。
<低温造膜性>
試験法は,JIS K 5400に従い,5℃において,塗料を500μm厚及び100μm厚で塗工した場合の造膜性につき,以下の基準で評価した。
○ 500μm厚で造膜性良好
△ 100μm厚で造膜可能
× 500μm,100μm共に造膜性不良
【0063】
<表面粘着性>
塩化ビニールクロス上に,塗料を150μm厚で塗工し,50℃,一週間乾燥いた後,塗膜表面の粘着性につき,指触により評価した。
◎ 粘着性が全くない
○ 粘着性がかすかにある
△ 粘着性がある
× 強い粘着性がある
【0064】
<低温安定性>
試験法は,JIS K 5400に従い,塗料を−10℃に保持した低温恒温器に18時間入れた後,室温で6時間放置する操作を繰り返し,塗料の変質の有無を評価した。
○ 3回繰り返し異常なし
△ 2回繰り返し異常なし
× 2回目までに,塗料に変質あり
【0065】
<耐水性>
試験法は,JIS K 5663に従い,フレキシブル板に塗工した試験片を,20℃7日間浸漬後の塗膜を評価した。
◎ 異常なし
○ 基材表面の5%未満の面積でブリスター発生
△ 基材表面の20%未満の面積でブリスター発生
× 全面ブリスター発生
【0066】
これらの試験結果につき,表3,表4に示した。なお,表3,表4において,多価アルコール化合物(C)(ディス100部に対して)とは,上記(A)と(B)とよりなる水性塗料用樹脂組成物(ディスパージョン)100重量部に対する,該(C)成分の割合をいう。
表3より知られるごとく,本発明にかかる実施例1〜8は,低温造膜性,表面粘着性,低温安定性及び耐水性のいずれにも「×」はなく,総合評価においても優れた性能を有している。
一方,表4より知られるごとく,比較例1〜6は,1つ又は2つの「×」があり,本発明品に劣っている。
【0067】
【表1】
【0068】
【表1】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
【発明の効果】
本発明によれば,VOCを全く含まないか,含んでもごく微量であるにもかかわらず,従来の造膜助剤の入ったエマルジョンベースの水性塗料並みの低温成膜性を有すると共に得られる塗膜の表面に粘着性がなく,かつ塗料を凍結と融解のサイクルを行っても安定な水性塗料用樹脂組成物を提供することができる。
Claims (4)
- 最低造膜温度が0℃以下であり,かつ樹脂のガラス転移温度がー20℃から20℃である共重合体の水性エマルジョン(A)と,ガラス転移温度が20℃以上のアルカリにより水に可溶化された樹脂(B)とからなる組成物であって,
上記(A)と上記(B)との不揮発分の重量比が,A/B=95/5〜60/40の範囲にあることを特徴とする水性塗料用樹脂組成物。 - 請求項1において,上記の水性塗料用樹脂組成物は,更に多価アルコール化合物(C)を含有することを特徴とする水性塗料用樹脂組成物。
- 請求項2において,上記多価アルコール化合物(C)は,上記水性エマルジョン(A)と上記樹脂(B)との合計量に対して,0.1〜5重量%添加してなることを特徴とする水性塗料用樹脂組成物。
- 請求項1〜3のいずれか一項において,上記水性塗料用樹脂組成物は,水性室内塗料用樹脂組成物であることを特徴とする水性塗料用樹脂組成物。
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