JP4092175B2 - マルチピースソリッドゴルフボール - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高打出角化および低スピン量化を実現することにより、高弾道で飛行性能に優れ、かつ良好な打球感を有するマルチピースソリッドゴルフボールに関する。
【0002】
【従来の技術】
ゴルフクラブで打撃されたゴルフボールの弾道は、打出角とバックスピンとに大きく影響される。即ち、打出角が大きなゴルフボールは高弾道となる傾向にあり、逆に打出角が小さいゴルフボールは低弾道となる傾向がある。また、バックスピンによって打撃されたゴルフボールに揚力が生じるので、このバックスピン量が大きなゴルフボールは高弾道となる傾向にあり、逆にバックスピン量が小さいゴルフボールは低弾道となる傾向がある。ゴルフボールに対するゴルファーの要求性能として、飛距離、打球感、コントロール性等が挙げられる。特にゴルファーがウッド(ドライバー等)、ロングアイアン、ミドルアイアン等のゴルフクラブを使用する場合は、飛距離が重要な要求性能となる。
【0003】
ウッド等のゴルフクラブで打撃された場合の飛距離増大のためには、ゴルフボールはある程度の高い弾道および長い滞空時間を有する必要があることはよく知られている。前述のように、打出角が大きいゴルフボールや、バックスピン量の大きいゴルフボールは高弾道となるが、バックスピン量が大き過ぎるゴルフボールは飛距離が短い傾向がある。これは、運動エネルギーがバックスピンによって消費されることや、揚力が飛行方向に対して垂直にかかるので弾道最高点まではゴルフボールを後方に引き戻す力が揚力によって生じることに起因すると推測される。バックスピン量があまり大きくなく、高い打出角によって高弾道が達成されるゴルフボールが、ウッド等のゴルフクラブで打撃された場合の飛距離が大きいゴルフボールであると言える。
【0004】
また、打球感も重要な要素であり、ゴルファーにとって打球感が硬過ぎるとバックスピン量が小さくても、球離れが早過ぎて安心して打撃できず、打球感が軟らか過ぎると物足りなさを感じる。
【0005】
このような知見に基づき、良好な打球感を有し、打撃時のバックスピン量が小さく、かつ打出角が大きくて飛距離が大きいゴルフボールの開発が、材料の配合面からも構造面からも数多くなされている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3等)。
【0006】
特許文献1には、センターと、該センター上に形成され、かつ内層および外層の2層から成る中間層と、上記中間層を被覆するカバーとから成るフォーピースソリッドゴルフボールが記載されており、上記センターが直径15〜25mmおよびJIS‐C硬度65〜80を有し、上記中間層内層が厚さ2〜13mmおよびJIS‐C硬度70〜85を有し、上記中間層外層が厚さ1.3〜2.5mmおよびJIS‐C硬度40〜80を有し、上記カバーが厚さ1.7〜2.9mmおよびショアーD硬度62〜72を有することが記載されている。
【0007】
特許文献2には、(A)ポリアミド系熱可塑性エラストマー40〜95重量%と、(B)ポリエステル系熱可塑性エラストマー5〜60重量%と、(C)上記(A)と(B)との合計量100重量%の外数として、エポキシ基およびカルボキシル基のうち少なくともいずれか1成分を含有するコア・シェル型ポリマー1〜10重量%と、を配合してなり、ショアD硬度が20〜50の範囲内にあることを特徴とするゴルフボール用熱可塑性組成物が記載されている。
【0008】
特許文献3には、最内層に配設される内層コアと内層コア上に被覆された1層以上のコア外層とから構成されるコア、および上記コア上に形成された1層以上のカバーから成るマルチピースソリッドゴルフボールが記載されており、上記内層コアが弾性率50〜200MPaを有し、上記コア外層が上記内層コアより15〜100MPaだけ低い弾性率を有する1層以上の低弾性率層を含み、上記低弾性率層中に含まれているコア中で最も低い弾性率を有する1層以上の最低弾性率層が、合計厚さ0.2〜5.0mmを有し、かつ上記コアの中心からの距離6.5〜20.5mmの範囲内に配設され、上記コアが直径37〜41mmを有することが記載されている。
【0009】
しかしながら、ゴルファーの飛距離および打球感への要求は高く、前述のような打撃時のバックスピン量が小さく、かつ打出角が大きくて飛距離が大きく、かつ打球感の良好であるという要求をすべて満足するゴルフボールは未だに得られていない。
【0010】
【特許文献1】
特開平10‐179798号公報
【特許文献2】
特開平11‐267247号公報
【特許文献3】
特開2001‐87422号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような従来のマルチピースソリッドゴルフボールの有する問題点を解決し、高打出角化および低スピン量化を実現することにより、高弾道で飛行性能に優れ、かつ良好な打球感を有するマルチピースソリッドゴルフボールを提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記目的を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、内層コア、中間層コアおよび外層コアから成るコアとカバーとから成るマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、内層コアの曲げ剛性、中間層コアの位置およびコア内の曲げ剛性分布を特定範囲内に規定することにより、高打出角化および低スピン量化を実現することにより、高弾道で飛行性能に優れ、かつ良好な打球感を有するマルチピースソリッドゴルフボールが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、内層コア(1)、該内層コア(1)上に形成した中間層コア(2)および該中間層コア(2)上に形成した外層コア(3)から成るコア(5)と、該コア(5)を被覆するカバー(4)とから成るマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、
該内層コア(1)が曲げ剛性20〜80MPaを有し、
該中間層コア(2)が、ゴルフボールの中心からの距離がゴルフボールの半径の70〜83%に相当する範囲内の少なくとも一部に存在し、
該中間層コア(2)の曲げ剛性(RM)の該内層コア(1)の曲げ剛性(RI)に対する比(RM/RI)が0.6〜1.4であり、
該外層コア(3)の曲げ剛性が該内層コア(1)の曲げ剛性より70〜400MPaだけ高い
ことを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボールに関する。
【0014】
本発明者等は、コアとカバーから成るゴルフボールにおいて、コアの曲げ剛性と得られるゴルフボールのバックスピン量について鋭意検討を行った結果、ゴルフボールの中心からの距離がゴルフボールの半径の70〜83%に相当する層では他の位置に比較して、曲げ剛性のバックスピン量への影響が最も小さいことを見出した。そこで、本発明のゴルフボールにおいては、上記コアを内層コア、中間層コアおよび外層コアから成る3層構造とし、上記中間層コアをゴルフボールの中心からの距離がゴルフボールの半径の70〜83%に相当する範囲内に配設した。その結果、中間層コアより内側の内層コアの曲げ剛性を低くするとバックスピン量が小さくなり、高くするとバックスピン量が大きくなることがわかった。更に、中間層コアより外側の外層コアの曲げ剛性を高くするとバックスピン量が小さくなり、低くするとバックスピン量が大きくなることがわかった。
【0015】
そこで、本発明のゴルフボールでは、内層コアの曲げ剛性を20〜80MPaと設定し(80MPaより高くなるとバックスピン量が大きくなる)、外層コアの曲げ剛性を内層コアの曲げ剛性より70〜400MPaだけ高く設定した(上記外層コアと内層コアとの曲げ剛性差が70MPa未満となるとバックスピン量を抑制する効果が十分に得られなくなる)。即ち、上記のようにバックスピンへの影響が最も少ない中間層コアに対して内側の内層コアの曲げ剛性を低く設定し、上記中間層に対して外側の外層コアの曲げ剛性を高く設定することにより、得られるゴルフボールのバックスピン量を小さくすることを達成したものである。
【0016】
更に、本発明のゴルフボールにおいては、上記のように中間層コアでは他の層に比較して曲げ剛性のバックスピンへの影響が小さいことから、中間層コア以外の層、特に内層コアに対して中間層の曲げ剛性を調節することによって、得られるゴルフボールの打球感を良好なものとしたものである。即ち、中間層コアの曲げ剛性(RM)を、内層コアの曲げ剛性(RI)±40%に設定することによって、バックスピン量には影響を与えずに良好な打球感を達成したものである。以上のことから、本発明では、バックスピン量が小さくて飛行性能に優れ、かつ良好な打球感を有するマルチピースソリッドゴルフボールを達成し得たものである。
【0017】
更に、本発明を好適に実施するためには、
上記中間層コア(2)が厚さ0.5〜2.7mmを有し、かつ上記内層コア(1)が曲げ剛性30〜80MPaを有し;
上記外層コア(3)の曲げ剛性が上記内層コア(1)の曲げ剛性より70〜150MPaだけ高く;
上記内層コア(1)が曲げ剛性50〜80MPaを有し、上記中間層コア(2)が厚さ0.8〜2.0mmを有し、かつ上記記外層コア(3)が曲げ剛性120〜500MPaを有する;ことが好ましい。
【0018】
以下、図1を用いて本発明のゴルフボールについて更に詳しく説明する。図1は、本発明のゴルフボールの1つの態様を示す概略断面図である。図1に示すように、本発明のゴルフボールは内層コア(1)、内層コア上に形成された中間層コア(2)、および中間層コア上に形成された外層コア(3)とから成るコア(5)と、コアを被覆するカバー(4)とから成る。
【0019】
本発明のゴルフボールの内層コア(1)、中間層コア(2)および外層コア(3)は、特に限定されないが、シス‐1,4‐ポリブタジエンゴムを主成分とするゴム組成物の加硫成形物から形成されることが好ましく、例えば上記ポリブタジエンゴム100重量部に対して、アクリル酸、メタクリル酸等のような炭素数3〜8のα,β‐不飽和カルボン酸またはその亜鉛、マグネシウム等の一価または二価の金属塩や、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の官能性モノマーから成る加硫剤(架橋剤)を単独または合計で、内層コア(1)では3〜20重量部、中間層コア(2)では20〜35重量部、外層コア(3)では35〜50重量部配合し、それぞれ、有機過酸化物等の共架橋開始剤0.5〜5重量部、好ましくは0.7〜4重量部、酸化亜鉛、硫酸バリウム等の充填材4〜20重量部、好ましくは5〜18重量部、要すれば有機硫黄化合物、老化防止剤等0.5〜5重量部、好ましくは0.7〜4重量部を含有するゴム組成物を、通常の混練ロール等の適宜の混練機を用いて均一に混練し、金型内で加硫成形することにより得ることができる。但し、上記内層コア(1)、中間層コア(2)および外層コア(3)は単なる例示であって、それらに限定されるものではない。
【0020】
本発明のゴルフボールに用いる内層コア(1)は、前述のゴム組成物を均一に混合および混練し、金型内で加熱プレスすることにより得ることができる。この際の条件は特に限定されないが、通常は130〜180℃、圧力2.9〜9.8MPa、15〜60分間で行われる。
【0021】
本発明のゴルフボールでは、上記内層コア(1)は直径29.5〜35.5mm、好ましくは29.5〜33.0mm、より好ましくは30.0〜31.4mmを有する。上記直径が29.5mmより小さいと、打撃時のスピン量が大きくなって吹き上がる弾道となり、飛距離が低下する。上記直径が35.5mmより大きいと、得られるゴルフボールが軟らかくなり過ぎて、所望の硬度を得ることが困難となり、反発性が低下し、また打球感が反発感のない悪いものとなる。
【0022】
本発明のゴルフボールにおいて、内層コア(1)が曲げ剛性20〜80MPaを有することを要件とするが、好ましくは30〜80MPa、より好ましくは50〜80MPaである。上記内層コア(1)の曲げ剛性が20MPaより低くなると、反発性が低下し、飛距離が低下する。上記曲げ剛性が80MPaより高くなると、打球感が硬くて悪くなり、打撃時のスピン量が大きくなって吹き上がる弾道となりやすく飛距離が低下する。
【0023】
次いで、上記内層コア(1)上には中間層コア(2)を形成する。上記中間層コア(2)を被覆する方法は、ゴルフボールの2層構造コアの形成に使用されている一般に公知の方法を用いて形成することができ、特に限定されるものではない。中間層コア用組成物を均一に混合、混練し、上記内層コア上に同心円状に被覆し、金型内で130〜180℃で10〜40分間加熱プレスするか、または中間層コア用組成物を予め半球殻状のハーフシェルに成形し、それを2枚用いて内層コア(1)を包み、130〜180℃で10〜40分間加圧成形する方法が用いられる。
【0024】
本発明のゴルフボールでは、上記中間層コア(2)の全体が、ゴルフボールの中心からの距離がゴルフボールの半径の70〜83%に相当する範囲内の少なくとも一部に存在することを要件とするが、好ましくは74〜78%である。上記中間層コア(2)が、ゴルフボールの中心からの距離がゴルフボールの半径の70%より内側に存在すると打撃時のスピン量が大きくなる方へ寄与し、83%より外側に存在すると打撃時のスピン量に与える影響が大きくなる。
【0025】
本発明のゴルフボールでは、上記中間層コア(2)の曲げ剛性(RM)の上記内層コア(1)の曲げ剛性(RI)に対する比(RM/RI)が0.6〜1.4であることを要件とするが、好ましくは1.0〜1.4である。上記比(RM/RI)が0.6未満であると打球感が軟らかくなり過ぎ、1.4を超えると打球感が硬くなり過ぎて悪いものとなる。
【0026】
本発明のゴルフボールでは、上記中間層コア(2)は、厚さ0.3〜2.8mm、好ましくは0.5〜2.7mm、より好ましくは0.8〜2.7mmを有することが望ましい。上記中間層コア(2)の厚さが0.3mmより小さいと外層コアに硬い材料を用いているため打球感が硬くて悪いものとなり、2.8mmより大きいと得られるゴルフボールの反発性が低下して飛距離が低下する。
【0027】
本発明のゴルフボールでは、次いで、上記中間層コア(2)上には外層コア(3)を形成して3層構造を有するコア(5)を形成する。上記外層コア(3)を被覆する方法も、上記中間層コア(2)を被覆する方法と同様の方法を用いて形成することができ、特に限定されるものではない。
【0028】
本発明のゴルフボールでは、上記外層コア(3)は、厚さ1.5〜3.5mm、好ましくは2.2〜3.2mmを有することが望ましい。上記外層コア(3)の厚さが1.5mmより小さいと中間層コアに軟らかい材料を用いているためコアが軟らかくなり過ぎて適正なゴルフボール硬度が得られなくなり、3.5mmより大きくなると打球感が硬くて悪いものとなる。
【0029】
本発明のゴルフボールでは、上記外層コア(3)の曲げ剛性が上記内層コア(1)の曲げ剛性より70〜500MPaだけ高いことを要件とするが、上記曲げ剛性差は好ましくは70〜150MPa、より好ましくは70〜120MPaである。上記曲げ剛性差が70MPaより低くなると、打撃時のスピン量が大きくなって飛距離が低下し、400MPaより高くなると打球感が硬くて悪くなり、またボールの耐久性が悪いものとなる。
【0030】
本発明のゴルフボールでは、上記外層コア(3)が曲げ剛性120〜500MPa、好ましくは120〜180MPaを有することが望ましい。上記外層コア(3)の曲げ剛性が、120MPaより小さいと打撃時のスピン量が大きくなって飛距離が低下し、500MPaより大きいと打球感が硬くて悪くなる。尚、本明細書中で、内層コア、中間層コアおよび外層コアの曲げ剛性とは、各層用組成物を用いて厚さ約2mmの熱プレスシートを作製し、23℃で2週間保存後、JIS K7106に準じて測定した曲げ剛性を意味する。
【0031】
本発明のゴルフボールでは、上記コア(5)は直径38.0〜41.7mm、好ましくは39.5〜41.7mm、より好ましくは39.8〜41.1mmである。上記直径が38.0mmより小さいと、外層コアの曲げ剛性を高くする上記曲げ剛性分布においてスピン量が大きくなるので飛距離が低下する。上記直径が41.7mmより大きいと、カバー成形後のゴルフボール直径が大きくなり過ぎるため、空気抵抗が大きくなって飛距離が低下する。
【0032】
前述のように、内層コア(1)、中間層コア(2)および外層コア(3)を含む本発明のコア(5)は、シス‐1,4‐ポリブタジエンゴムを主成分とするゴム組成物を加熱成形して形成される。このように、コア(5)が、アイオノマー樹脂、熱可塑性エラストマー、ジエン系共重合体等の熱可塑性樹脂から構成されるのではなく、上記ゴム組成物の加熱成形体から構成されることによって、反発特性が向上し、打球感が良好となる。また、内層コア(1)、中間層コア(2)および外層コア(3)の各層が同様の加硫ゴム組成物から成るために、コア(5)中の各層と隣接する層の間の優れた密着性により耐久性も向上する。更に、周知の通り、ゴムは樹脂に比較して、常温以下の低温領域での性能低下が小さいため、それを用いた本発明のコア(5)は低温反発特性が優れる。
【0033】
次いで、上記コア(5)上にはカバー(4)を被覆する。本発明のゴルフボールでは、カバー(4)が厚さ0.5〜2.3mm、好ましくは0.5〜1.6mm、より好ましくは0.8〜1.5mmを有することが望ましい。上記カバー厚さが0.5mmより小さいと得られるゴルフボールの耐久性が悪くなり、2.3mmより大きくなると打撃時のスピン量が大きくなって飛距離が低下する。
【0034】
本発明のゴルフボールに用いられるカバー材料としては、耐擦過傷性に優れるポリウレタン系熱可塑性エラストマーが好ましく、特にその原料であるジイソシアネートが脂環式ジイソシアネートであるポリウレタン系熱可塑性エラストマーが反発性、耐擦過傷性、変色性の面から好ましい。上記脂環式ジイソシアネートの例としては、4,4’‐ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の水素添加物である4,4’‐ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)の水素添加物である1,3‐ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)およびトランス‐1,4‐シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)からなる群から選択される1種、または2種以上の組み合わせ等が挙げられ、汎用性および加工性の面からH12MDIが好適である。上記ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの具体例として、BASFポリウレタンエラストマーズ(株)から商品名「エラストラン」で市販されている(例えば、「エラストランXNY585」、「エラストランXNY90A」、エラストランXNY97A」等)4,4’‐ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)を使用したポリウレタン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0035】
更に、本発明のカバー(4)の好ましい材料の例として、上記ポリウレタン系熱可塑性エラストマーのみであってもよいが、上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーに、その他の熱可塑性エラストマー、ジエン系ブロック共重合体またはアイオノマー樹脂等の1種以上とを組合せて用いてもよい。その他の熱可塑性エラストマーの例として、上記以外の他のポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。上記その他の熱可塑性エラストマーとしては、カルボキシル基、グリシジル基、スルホン基、エポキシ基等の官能基を有するものを用いてもよい。
【0036】
上記その他の熱可塑性エラストマーの具体例として、例えばBASFポリウレタンエラストマーズ(株)から商品名「エラストラン」で市販されている(例えば、「エラストランET880」)ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、東レ(株)から商品名「ペバックス」で市販されている(例えば、「ペバックス2533」)ポリアミド系熱可塑性エラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル」で市販されている(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)ポリエステル系熱可塑性エラストマー、旭化成工業(株) から商品名「タフテック」で市販されている(例えば、「タフテックH1051」)スチレン系熱可塑性エラストマー、三菱化学(株)から商品名「サーモラン」で市販されている(例えば、「サーモラン3981N」)オレフィン系熱可塑性エラストマー、住友化学工業(株)から商品名「住友TPE」で市販されている(例えば、「住友TPE3682」、「住友TPE9455」等)ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0037】
上記ジエン系ブロック共重合体は、ブロック共重合体または部分水添ブロック共重合体の共役ジエン化合物に由来する二重結合を有するものである。その基体となるブロック共重合体とは、少なくとも1種のビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと少なくとも1種の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBとから成るブロック共重合体である。また、部分水添ブロック共重合体とは、上記ブロック共重合体を水素添加して得られるものである。ブロック共重合体を構成するビニル芳香族化合物としては、例えばスチレン、α‐メチルスチレン、ビニルトルエン、p‐t‐ブチルスチレン、1,1‐ジフェニルスチレン等の中から1種または2種以上を選択することができ、スチレンが好ましい。また、共役ジエン化合物としては、例えばブタジエン、イソプレン、1,3‐ペンタジエン、2,3‐ジメチル‐1,3‐ブタジエン等の中から1種または2種以上を選択することができ、ブタジエン、イソプレンおよびこれらの組合せが好ましい。上記ジエン系ブロック共重合体の具体例としては、例えばダイセル化学工業(株)から商品名「エポフレンド」市販されているもの(例えば、「エポフレンドA1010」)、(株)クラレから商品名「セプトン」で市販されているもの(例えば、「セプトンHG‐252」)等が挙げられる。
【0038】
上記アイオノマー樹脂としては、エチレンとα,β‐不飽和カルボン酸との共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、またはエチレンとα,β‐不飽和カルボン酸とα,β‐不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したものである。上記のα,β‐不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸とメタクリル酸が好ましい。また、α,β‐不飽和カルボン酸エステル金属塩としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のメチル、エチル、プロピル、n‐ブチル、イソブチルエステル等が用いられ、特にアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルが好ましい。上記エチレンとα,β‐不飽和カルボン酸との共重合体中や、エチレンとα,β‐不飽和カルボン酸とα,β‐不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を中和する金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、アルミニウム、錫、ジルコニウム、カドミウムイオン等が挙げられるが、特にナトリウム、亜鉛、マグネシウムイオンが反発性、耐久性等からよく用いられ好ましい。
【0039】
上記アイオノマー樹脂の具体例としては、それだけに限定されないが、ハイミラン(Hi‐milan)1555、ハイミラン1557、ハイミラン1605、ハイミラン1652、ハイミラン1702、ハイミラン1705、ハイミラン1706、ハイミラン1707、ハイミラン1855、ハイミラン1856(三井デュポンポリケミカル社製)、サーリン(Surlyn)8945、サーリン9945、サーリン6320(デュポン社製)、アイオテック(Iotek)7010、8000(エクソン(Exxon)社製)等を例示することができる。これらのアイオノマーは、上記例示のものをそれぞれ単独または2種以上の混合物として用いてもよい。
【0040】
上記その他の熱可塑性エラストマー、ジエン系ブロック共重合体やアイオノマー樹脂の配合量は、カバー用の基材樹脂100重量部に対して、0〜40重量部、好ましくは0〜30重量部である。40重量部より多いと耐擦過傷性、反発性、耐変色性のいずれかが低下する。
【0041】
本発明に用いられるカバー(4)には、上記樹脂以外に必要に応じて、種々の添加剤、例えば二酸化チタン等の顔料、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料、蛍光増白剤等を、ゴルフボールカバーによる所望の特性が損なわれない範囲で含有していてもよいが、通常、着色剤の配合量はカバー用樹脂100重量部に対して0.1〜5.0重量部が好ましい。
【0042】
上記カバー(4)を被覆する方法についても、特に限定されるものではなく、通常のゴルフボールのカバーを被覆する方法で行うことができる。カバー用組成物を予め半球殻状のハーフシェルに成形し、それを2枚用いてコアを包み、130〜170℃で1〜5分間加圧成形するか、または上記カバー用組成物を直接コア上に射出成形してコアを包み込む方法が用いられる。そして、カバー成形時に、ボール表面にディンプルを形成し、また、カバー成形後、ペイント仕上げ、スタンプ等も必要に応じて施し得る。本発明のゴルフボールは、ゴルフボール規則に基づいて、直径42.67mm以上(好ましくは42.67〜42.82mm)、重量45.93g以下に形成される。
【0043】
上記のように、ゴルフボールの直径は規格にて42.67mm以上と制限されているが、直径が大きくなると飛行中の空気抵抗が増大して飛距離が低下するので、通常のゴルフボールの直径は42.67〜42.82mmに設定されており、本発明はこの直径のゴルフボールに適用し得る。また、ゴルフボールの直径を大きくして打ち易さの向上を狙った大径のゴルフボール等も存在し、更に顧客の要望や目的に応じて規格を外れるゴルフボールが必要とされる場合もあり、それらも含めると、ゴルフボールの直径は42〜44mm、更には40〜45mmの範囲も想定し得るものであり、本発明はこれら直径範囲のゴルフボールにも適用し得るものである。
【0044】
本発明では、中間層コアの位置、並びに、内層コア、中間層コアおよび外層コアから成るコア内の各層の曲げ剛性および曲げ剛性分布を特定範囲内に規定することにより、高打出角化および低スピン量化を実現することにより、高弾道で飛行性能に優れ、かつ良好な打球感を有するマルチピースソリッドゴルフボールを提供させ得たものである。
【0045】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
(1)コアの作製
(i)内層コアの作製
以下の表1に示した配合のゴム組成物AおよびBを混合、混練し、金型内で170℃で15分間加熱プレスすることにより球状の内層コアを得た。得られた内層コアの直径および曲げ弾性(RI)を測定し、その結果を表4(実施例)および5(比較例)に示した。上記内層コアの半径のゴルフボール半径に対する半径比率(内層コア/ゴルフボール)を計算により求め、その結果を同表に示した。
【0047】
(ii)中間層コアの被覆
以下の表1および表2に示した配合のゴム組成物C〜Gを混合、混練し、上記(i)で作製した内層コア上に同心円状に被覆し、金型内で170℃で15分間加熱プレスすることにより、内層コア上に中間層コアを形成して、2層構造を有する球状成形物を作製した。得られた中間層コアの厚さおよび曲げ弾性(RM)を測定し、その結果を表4(実施例)および5(比較例)に示した。上記2層構造を有する球状成形物の半径のゴルフボール半径に対する半径比率(2層球状成形物/ゴルフボール)および曲げ剛性比(RM/RI)を計算により求め、その結果を同表に示した。
【0048】
(iii)外層コアの被覆
以下の表2に示した配合のゴム組成物FおよびHを混合、混練し、上記(ii)で作製した2層球状成形物上に同心円状に被覆し、金型内で170℃で15分間加熱プレスすることにより、2層球状成形物上に外層コアを形成して、3層構造の球状コアを作製した。得られた外層コアの厚さおよび曲げ弾性(RO)を測定し、その結果を表4(実施例)および5(比較例)に示した。上記曲げ弾性値から曲げ剛性差(RO-RI)を計算により求め、その結果を同表に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
(注1)JSR(株)製のハイシスポリブタジエンゴム
(1,4‐シス‐ポリブタジエン含量:96%)
【0052】
(2)カバー用組成物の調製
以下の表3に示すカバー用配合材料を二軸混練型押出機によりミキシングし、ペレット状のカバー用組成物を得た。押出条件は、スクリュー径=45mm,スクリュー回転数=200rpm,スクリューL/D=35であり、配合物は押出機のダイの位置で160〜260℃に加熱された。
【0053】
【表3】
【0054】
(注2):BASFポリウレタンエラストマーズ(株)から商品名「エラストランXNY97A」で市販の4,4’‐ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)を使用したポリウレタン系熱可塑性エラストマー、JIS‐A硬度=97
【0055】
実施例1〜5および比較例1〜4
上記(2)で得られたカバー用組成物を射出成形することにより、上記(iii)で得られた3層コアを被覆することにより、厚さ1.45mmを有するカバー層を形成し、表面にクリヤーペイントを塗装して、直径42.7mm(半径21.35mm)を有するゴルフボールを得た。得られたゴルフボールに関して、飛行性能(打出角、スピン量および飛距離)および打球感を測定または評価し、その結果を表6および7に示す。試験方法は以下の通りとした。
【0056】
(試験方法)
【0057】
(1)曲げ剛性
各層用ゴム組成物をシート成形用金型に投入して170℃で15分間加熱成形して、厚さ約2mmの熱プレスシート(スラブ)を作製し、23℃で2週間保存後、JIS K7106に準じて測定した。
【0058】
(2)飛行性能
ゴルフラボラトリー社製スイングロボットにメタルヘッド製ウッド1番クラブ(住友ゴム工業(株)製のXXIO、W#1、ドライバー、ロフト角10度、Sシャフト)を取付け、ヘッドスピードを45m/秒に設定して各ゴルフボールを打撃し、打ち出し直後の打出角およびスピン量(バックスピン量)並びに飛距離を測定した。飛距離としてトータル(停止点までの距離)を測定した。測定は各ゴルフボールについて12回ずつ行い(n=12)、その平均を算出して、各ゴルフボールの結果とした。
【0059】
(3)打球感
ゴルファー10人による、メタルヘッド製ウッド1番クラブ(W#1、ドライバー)での実打テストを行い、打撃時の衝撃の大きさを評価し、最も多い評価をそのゴルフボールの結果とした。評価基準は以下の通りである。
評価基準
○ … 打球感が良好である。
×(H) … 打球感が硬くて悪い。
×(S) … 打球感が軟らか過ぎて悪い。
【0060】
(試験結果)
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
【表7】
【0064】
以上の結果より、実施例1〜5の本発明のゴルフボールは、比較例1〜4の比較例のゴルフボールに比べて、打出角が高く、スピン量が低くて飛距離が大きくなっており、かつ良好な打球感を有することがわかる。
【0065】
これに対して、比較例1のゴルフボールは、曲げ剛性比(RM/RI)が大きいため、打球感が硬くて悪いものとなっている。比較例2のゴルフボールは、曲げ剛性比(RM/RI)が小さいため、打球感が軟らか過ぎて悪いものとなっている。
【0066】
比較例3のゴルフボールは、内層コアおよび中間層コアの半径比率が小さくて中間層コアが内側にあるため、曲げ剛性の高い外層コアがボール内側よりに存在し、スピン量が大きくなって飛距離が低下する。比較例4のゴルフボールは、内層コアおよび中間層コアの半径比率が大きくて中間層コアが外側にあるため、スピン量が大きくなって飛距離が低下する。
【0067】
【発明の効果】
本発明によれば、内層コア、中間層コアおよび外層コアから成るコアとカバーとから成るマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、内層コアの曲げ剛性、中間層コアの位置およびコア内の各層の曲げ剛性分布を特定範囲内に規定することにより、高打出角化および低スピン量化を実現することにより、高弾道で飛行性能に優れ、かつ良好な打球感を有するマルチピースソリッドゴルフボールを提供し得たものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のゴルフボールの1つの態様の概略断面図である。
【符号の説明】
1 … 内層コア
2 … 中間層コア
3 … 外層コア
4 … カバー
5 … コア
Claims (4)
- 内層コア(1)、該内層コア(1)上に形成した中間層コア(2)および該中間層コア(2)上に形成した外層コア(3)から成る3層構造を有するコア(5)と、該3層構造を有するコア(5)を被覆するカバー(4)とから成るマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、
該内層コア(1)が曲げ剛性20〜80MPaおよび直径29.5〜33.0mmを有し、
該中間層コア(2)が、ゴルフボールの中心からの距離がゴルフボールの半径の70〜83%に相当する範囲内の少なくとも一部に存在し、
該中間層コア(2)の曲げ剛性(RM)の該内層コア(1)の曲げ剛性(RI)に対する比(RM/RI)が0.6〜1.4であり、
該外層コア(3)の曲げ剛性が該内層コア(1)の曲げ剛性より70〜150MPaだけ高い
ことを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。 - 前記中間層コア(2)が厚さ0.5〜2.7mmを有し、かつ該内層コア(1)が曲げ剛性30〜80MPaを有する請求項1記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
- 前記内層コア(1)が曲げ剛性50〜80MPaを有し、前記中間層コア(2)が厚さ0.8〜2.0mmを有し、かつ前記外層コア(3)が曲げ剛性120〜500MPaを有する請求項1または2のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
- 前記カバー(4)が、熱可塑性ポリウレタンエラストマー或いは熱可塑性ポリウレタンエラストマーとその他の熱可塑性エラストマー、ジエン系ブロック共重合体またはアイオノマー樹脂との混合物から形成される請求項1〜3のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
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