JP4091228B2 - 垂直磁気記録媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高密度磁気記録に適する磁性膜を備えた磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年のコンピュータの処理速度向上に伴って、情報の記録・再生を行う磁気記録装置(HDD)には高速・高密度化が要求されている。現在、HDDの記録方式としては、磁化が媒体面内方向に向いている面内記録方式が主流である。しかし、より一層の高密度化を考えると、磁化反転境界付近における減磁界が小さく、鋭い反転磁化が得られる垂直磁気記録の方が適している。また、近年磁気記録媒体で問題になってきている熱揺らぎ劣化に関しても、垂直媒体は面内記録媒体よりも膜厚を大きく設定することができるために劣化を低く抑えることができる。
【0003】
従来、垂直磁化膜としては、CoCrPtをはじめとするCoCr系不規則合金磁化膜が主に研究されてきた。しかし、垂直媒体においても将来的には熱揺らぎ劣化が問題化することを考えると、従来のCoCr系よりも垂直磁気異方性の大きな材料が必要となってくる。その有力な候補として、Fe,CoおよびNiから選択される少なくとも1種の磁性元素と、Pt,Pd,AuおよびIrから選択される少なくとも1種の貴金属元素とが規則相を形成する、規則相合金系材料の研究が盛んに行われるようになってきている。特に、fct結晶構造を持つ規則合金であるFePtとCoPtは、それぞれ7×107erg/ccおよび4×107erg/ccという大きな磁気異方性をc軸方向に有することが知られている。
【0004】
このようにc軸方向に大きな磁気異方性を持つ多結晶薄膜を面内または垂直磁気記録媒体に適用するには、各結晶粒を配向成長させる必要がある。一般的な磁気記録層の形成方法であるスパッタリングを用いて磁気記録層の配向を制御する有力な方法として、ある結晶性を持つ下地の上に磁性薄膜を積層する方法が挙げられる。これに加えて、磁性薄膜の成膜後および/または成膜中にアニールすることもある。
【0005】
具体的には、{100}配向したMgO単結晶基板上に垂直磁化膜を堆積する方法や、ガラスなどの非晶質基板上に下地層としてMgO薄膜またはMgO薄膜とCrなどのシード層もしくはPtなどのバッファー層との積層膜を堆積し、その上に垂直磁化膜を堆積する方法が開示されている(特開平9−320847号公報)。
【0006】
しかし、上記のような下地層を用いた場合、格子整合の悪さから下地層とその上の磁性層との間に内部応力が発生しやすく、成膜中または磁気記録媒体としての動作中の熱負荷により磁性層の付着力が低下し、膜剥離が起こるという問題が発生している。
【0007】
特に、MgOは磁性層との格子整合性の悪さに加えて、空気中の水分や二酸化炭素と反応して潮解性を示すため化学的にも不安定である。このため、MgOは基板および磁性層または他の下地層との密着性が著しく低下するという問題がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、FePt規則合金に代表されるfct構造を持つ磁性膜を用いた場合に、下地層と磁性層との格子整合の悪さに起因する内部応力のために膜剥離が発生しやすいという問題を解決し、動作特性に優れた面内または垂直磁気記録媒体を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の垂直磁気記録媒体は、基板と、前記基板上に形成され、CrN、NiO、TiO、VO、VNおよびVCからなる群より選択される少なくとも1種である、{100}配向のNaCl型結晶からなり、かつその格子定数が3.52〜4.20Åである下地層と、前記下地層上に形成され、Fe、CoおよびNiからなる群より選択される少なくとも1種の磁性金属元素およびPt、Pd、AuおよびIrからなる群より選択される少なくとも1種の貴金属元素を主成分とし、fct構造を持つ結晶粒を含む磁性層とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の垂直磁気記録媒体は、基板と、前記基板上に形成され、CuPd、MnAl、NiAl、AlCo、AlCu 2 Zn、AlCu 2 Ti、AlFe、AlIr、AlRe、AlRh、CoFe、CoGa、Co 2 MnSi、CoTi、Cu 5 Sn、Cu 2 SnTi、CuZn、FeTi、GaIr、Mn3Si、MnV、OsSi、RhSi、RuSiからなる群より選択される少なくとも1種である{100}配向のCsCl型結晶からなり、かつその格子定数が2.49〜3.00Åである下地層と、前記下地層上に形成され、Fe、CoおよびNiからなる群より選択される少なくとも1種の磁性金属元素およびPt、Pd、AuおよびIrからなる群より選択される少なくとも1種の貴金属元素を主成分とし、fct構造を持つ結晶粒を含む磁性層とを有することを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の垂直磁気記録媒体は、基板と、前記基板上に形成され、Ag 3 Mg、AgPt 3 、AgTi、AlPt 3 、AuCu 3 、Au 3 Pt、AuV 3 、CdPt、CdPt 3 、CePd 3 、CrIr 3 、CrPd、Cr 2 Pt、Cu 3 Pd、Cu 3 Pt、ErPd 3 、GaPt 3 、Hf 3 Ir、HfRh 3 、HoPd 3 、HoPt 3 、IrMn 3 、IrNb、Ir 3 Ta、Ir 3 Ti、Ir 7 Ti 3 、Ir 3 V、IrV、Ir 3 Zr、MgPt 3 、MnNi 3 、MnPt 3 、Mn 3 Pt、Mn 3 Rh、PbPd 3 、PbPt 3 、PdCr、Pd 3 Sn、Pd 4 Th、Pd 3 Y、PdZn、Pt 3 Sn、Pt 3 Y、PtZn、Pt 3 Zn、Rh 3 Ta、Rh 3 Th、RhTi、Rh 3 V、Rh 3 Zr、TiPt 3 、TiZn 3 、VZn 3 、AlTi、AuCuからなる群より選択される少なくとも1種である{001}配向のL1 0 型構造または{001}配向のL1 2 型構造を有する金属間化合物からなり、かつその格子定数が3.52〜4.20Åである下地層と、前記下地層上に形成され、Fe、CoおよびNiからなる群より選択される少なくとも1種の磁性金属元素およびPt、Pd、AuおよびIrからなる群より選択される少なくとも1種の貴金属元素を主成分とし、fct構造を持つ結晶粒を含む磁性層とを有することを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0017】
本発明において、基板としては、ガラス、セラミックスなどの非晶質または多結晶質の材料が用いられる。硬質の材料からなる基板本体に金属またはセラミックスなどを堆積したものを基板として用いてもよい。その他、Si、MgO、Al2O3等の単結晶基板を用いることができる。
【0018】
本発明においては、基板上に下地層および磁性層の薄膜が形成される。薄膜形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、化学気相成長法、レーザーアブレーション法を用いることができる。下地層および/または磁性層の成膜の際に、基板を120〜800℃に加熱すると、磁性層の規則化が進行して望ましい場合がある。基板を加熱する代わりに、基板にRFおよび/またはDC電力を投入するバイアススパッタ、基板へのイオンや中性粒子の照射などを行ってもよい。これらの処理は成膜中だけでなく、成膜後または成膜前に行ってもよい。
【0019】
本発明において、磁性層はfct構造を持つ結晶粒からなり、かつ磁性金属元素および貴金属元素を主成分とするものが用いられる。前記磁性金属元素はFe、CoおよびNiからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記貴金属元素はPt、Pd、AuおよびIrからなる群より選択される少なくとも1種である。磁性層の特性向上のために、Ta、W、Mo、B等の他の元素を添加してもよい。本発明において、磁性層は磁性粒子間に非磁性体であるCr等の金属またはSiO2等の誘電体が存在する構成でもよい。本発明において、磁性層は特性の異なる2層以上の磁性層を積層させたものでもよい。この場合、積層している磁性層間には交換結合相互作用、静磁結合相互作用のいずれかまたは両方が作用していてもよい。2層以上の磁性層間に1層以上の非磁性層が存在していてもよい。このような磁性層の構成は、システムが要求する磁気特性や製造プロセスによって決定されるものである。
【0020】
本発明の媒体を垂直磁気記録媒体として用いる場合には、磁性結晶粒子はc軸が膜面垂直方向に配向したfct構造をとる必要がある。ただし、この条件を全ての粒子が満たしている必要はなく、fct構造である粒子の割合は6割以上であればよく、8割以上であることがより好ましい。c軸配向性に関しては、配向軸の標準偏差が10°以内であればよく、5°以内であることがより好ましい。
【0021】
磁性層を構成する結晶粒子が規則化しているかどうかは、一般的なX線回折装置で確認することができる。(001)、(002)、(003)面を表すピークがそれぞれ観察できれば、fct構造が存在し、かつc軸が膜面に垂直に配向しているといえる。(001)、(002)、(003)面を表すピークの強度は具体的にはバックグラウンドレベルに対して有意なピークとして観察される強度であればよい。また、面内配向を示す(111)のピークが観察されても、(001)、(002)、(003)面を表すピークがより大きな強度(100倍以上)で観察できれば、c軸が膜面に垂直に配向しているといえる。また、磁性粒子が10nm程度に小さくなり、隣接粒子との間に結晶格子の相関性(コヒーレンシー)が小さい場合、c軸が膜面に垂直配向していてもX線回折ではアモルファスのように見える場合もある。このような場合には透過型電子顕微鏡(TEM)などによる微細構造観察を行うことで、c軸の膜面垂直配向を確認することができる。
【0022】
磁性層の膜厚は、システムの要求値によって決定されるが、一般的に200nmより薄いことが好ましく、50nmより薄いことがより好ましい。ただし、0.5nmより薄いと連続膜にならず、磁気記録媒体には適しない。
【0023】
本発明において、下地層は磁性層の磁気記録媒体としての機能を補強するために磁性層と基板との間に挿入される薄膜である。下地層は1つの材料からなる層でもよいし、いくつかの層から構成される多層膜であってもよい。下地層が上記の要件を満たしていれば、必ずしも薄膜状である必要もない。
【0024】
本発明において用いられる下地層は、バルクで潮解性を示さない物質から構成されている。下地層として潮解性を示す物質を用いた場合、下地層が空気中の水分を吸収するため、その部分での膜の密着性が著しく低下し、好ましくない。潮解性を示す物質としては、周期律表の1族および2族の金属元素およびその酸化物などが挙げられる。
【0025】
ここで、fct構造の磁性層をc軸配向させるためには、格子整合性を考慮すれば、下地層としては磁性層と格子定数が近く、(100)面が磁性層と同じ構造をしているfcc結晶を{100}配向させるのが望ましい。しかし、単元素fcc金属は、ガラス基板や多結晶基板などの格子間隔に直接の対応がとれない基板に対して{100}配向を得るのが困難である。これに対して、本発明では特定の下地層を用いることにより基板および磁性層の両方に対する良好な格子整合性を得ることに特徴がある。
【0026】
本発明の1つの実施形態においては、下地層が{100}配向のNaCl型結晶からなる薄膜からなっている。NaCl型結晶はガラス基板や多結晶基板などの基板上で{100}配向膜が得られやすく、かつ格子が面心立方格子であるため磁性層を構成する結晶粒子のc軸を膜面に対して垂直方向に配向させるのに有効である。NaCl型結晶は、fct規則合金結晶粒子からなる磁性層との格子整合を考慮すると、一般式M−G(MはTi、Ta、V、Cr、Co、FeおよびNiからなる群より選択される少なくとも1種、GはB、C、NおよびOからなる群より選択される少なくとも1種)で表される材料からなることが好ましい。具体的には、NaCl型結晶をなす材料として、現状の技術で作製が容易な、CrN、NiO、TiO、VO、VNおよびVCなどが挙げられる。NaCl型結晶に1種以上の他の元素が添加されていてもよい。磁性層の結晶配向性や磁性層との格子整合性が満たされる限りにおいては、他の元素が添加された結果として下地層がNaCl型とは異なる結晶型をとってもよい。NaCl型結晶からなる下地層の格子定数は3.52〜4.20Åであることが好ましい。
【0027】
本発明の他の実施形態においては、下地層が{100}配向のCsCl型結晶からなる薄膜からなっている。CsCl型結晶はガラス基板や多結晶基板などの基板上で{100}配向膜が得られやすく、かつその{100}面がfct結晶の{001}面と格子整合し得るため磁性層を構成する結晶粒子のc軸を膜面に対して垂直方向に配向させるのに有効である。CsCl型結晶としては、CuPd、MnAl、NiAlなど、多数のものが挙げられる。これらの物質は、バルク状態においてfct磁性層との格子整合が良好でfct磁性層を垂直配向させるのに適している。種々の実験により、これらの物質をスパッタリング等によって基板上に堆積させた場合においても、バルク物質と同等の格子整合が得られることが明らかになった。CsCl結晶に1種以上の他の元素が添加されていてもよい。磁性層の結晶配向性や磁性層との格子整合性が満たされる限りにおいては、CsCl結晶に他の元素が添加された結果としてCsCl型とは異なる結晶型をとってもよい。CsCl型結晶からなる下地層の格子定数は2.49〜3.00Åであることが好ましい。
【0028】
本発明のさらに他の実施形態においては、下地層が{001}配向のL10型構造または{001}配向のL12型構造を有する金属間化合物からなっている。{001}配向のL10型構造または{001}配向のL12型構造を有する金属間化合物はガラス基板や多結晶基板などの基板上でそれぞれ{001}配向膜または{100}配向膜が得られやすく、かつ格子が面心立方格子であるため磁性層を構成する結晶粒子のc軸を膜面に対して垂直方向に配向させるのに有効である。このような金属間化合物からなる下地層の格子定数は3.52〜4.20Åであることが好ましい。
【0029】
本発明においては、上記のNaCl結晶やCsCl結晶などからなる(第1の)下地層と磁性層との間に{100}配向のfcc結晶粒からなる第2の下地層を積層してもよい。基本的には、第1下地層/fcc第2下地層/fct磁性層の順に積層すればよい。ただし、各層間で良好な格子整合性を得ることが目的であるので、この目的が達成できる限りにおいては、各層の間に他の層(薄膜状でなくてもよい)が挿入されていてもよい。fcc結晶の{100}面はfct結晶の{001}面と幾何学的に同じ構造であり、第1の下地層によっておおむね配置が一致している原子サイトをfct磁性層の格子定数により近い格子定数を持つものにすることができる。
【0030】
fcc結晶粒からなる第2の下地層と磁性層との格子整合性を考えた場合、その格子定数は3.52〜4.20Åであることが好ましい。この条件を満たす物質は、バルク状態においてfct磁性層との格子整合が良好でfct磁性層を垂直配向させるのに適している。具体的には、fcc結晶粒からなる第2の下地層として、Ag、Al、Au、Cu、Ir、Ni、Pt、PdおよびRhからなる群より選択される少なくとも1種を含む元素、合金または化合物を用いることができる。種々の実験により、これらの物質をスパッタリング等によって第1の下地層上に堆積させた場合においても、バルク物質と同等の格子整合が得られることが明らかになった。fcc結晶に1種以上の他の元素が添加されていてもよい。磁性層の結晶配向性や磁性層との格子整合性が満たされる限りにおいては、第2の下地層に他の元素が添加された結果としてfcc型とは異なる結晶型をとってもよい。
【0031】
本発明においては、上記のNaCl結晶やCsCl結晶などからなる(第1の)下地層と磁性層との間に{100}配向のbcc結晶粒からなる第2の下地層を積層してもよい。基本的には、第1下地層/bcc第2下地層/fct磁性層の順に積層すればよい。ただし、各層間で良好な格子整合性を得ることが目的であるので、この目的が達成できる限りにおいては、各層の間に他の層(薄膜状でなくてもよい)が挿入されていてもよい。図3に示すように、bcc結晶の{200}面とfct結晶の{001}面は格子整合することが可能である。したがって、第1の下地層によっておおむね配置が一致している原子サイトをfct磁性層の格子定数により近い格子定数を持つものにすることができる。
【0032】
bcc結晶粒からなる第2の下地層と磁性層との格子整合性を考えた場合、その格子定数は2.49〜3.00Åであることが好ましい。この条件を満たす物質は、バルク状態においてfct磁性層との格子整合が良好でfct磁性層を垂直配向させるのに適している。具体的には、bcc結晶粒からなる第2の下地層として、CrおよびFeからなる群より選択される少なくとも1種を含む元素、合金または化合物を用いることができる。種々の実験により、これらの物質をスパッタリング等によって第1の下地層上に堆積させた場合においても、バルク物質と同等の格子整合が得られることが明らかになった。bcc結晶に1種以上の他の元素が添加されていてもよい。磁性層の結晶配向性や磁性層との格子整合性が満たされる限りにおいては、第2の下地層に他の元素が添加された結果としてbcc型とは異なる結晶型をとってもよい。
【0033】
本発明において、(第1の)下地層としてNaCl型結晶、CsCl型結晶、またはL10型構造もしくはL12型構造を有する金属間化合物のいずれを用いるかは、また第2の下地層としてfcc結晶またはbcc結晶のいずれを用いるかは、磁性層などの他の層の材料および形成方法に依存する。製造コストを考慮した場合、第2の下地層を用いないことが好ましい場合もある。
【0034】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。以下の実施例においては、図1または図2に示す構造を有する磁気記録媒体を作製した。図1の磁気記録媒体は、基板1上に、下地層21、磁性層3、および保護層4を積層した構造を有する。図2の磁気記録媒体は、基板1上に、下地層21、第2の下地層22、磁性層3、および保護層4を積層した構造を有する。
【0035】
作製した磁性層の微細構造はX線回折法を用いて評価した。図4に一例としてガラス基板/VO下地層/FePt磁性層からなる試料のX線回折プロファイルを示す。図4では、FePt(001)、(002)、(003)ピークが有意な強度で観測されている。このことから、FePt規則相が形成され、(001)配向していることがわかる。本発明に含まれる他の下地層を用いた場合にも同様にFePt規則相の(001)配向が確認された。
【0036】
なお、第1および第2の下地層の(100)配向または(001)配向もX線回折法により確認できる。また、第1および第2の下地層の格子定数もX線回折評価により推定できる。
【0037】
試料の密着性はJIS K5400−1990に規定されている粘着テープを用いた剥離試験(碁盤目テープ法)に準拠して以下のようにして評価した。試料面にカッターナイフで1mm間隔に桝目の数が10×10=100個となるように碁盤目状に切れ目を入れた後、粘着テープを貼り付け、消しゴムでこすってテープを完全に付着させた。テープを付着させてから1分後に、テープの一方の端を持って瞬間的に引き剥がした。引き剥がした後の傷の状態を観察し、JIS K5400−1990と同様に評価点数を与えた。表1に傷の状態に応じた評価点数の評価基準を示す。
【0038】
【表1】
【0039】
密着性と磁気記録媒体としての特性との関係は以下のようにして調べた。例として2.5インチガラス基板上に、DCスパッタリングにより、70nmのCr下地層、15nmのCoCrPt磁性層、および10nmのカーボン保護層を順次堆積したディスク試料を作製した。その際、Cr下地層の成膜前にガラス基板にスパッタエッチング処理を施した。また、Cr下地層のスパッタ圧力を0.1〜10Paの範囲で変化させた。スパッタエッチング処理の有無およびスパッタ圧力の違いにより、密着性指標の異なる13個の試料を作製した。これらの試料に対して、磁気ヘッドを接触摺動させるコンタクト−スタート−ストップ(CSS)実験を行った。AEセンサーによる異常音発生と目視による検査により、媒体が破壊されるまでの摺動回数を測定し、その対数値をCSS耐性とした。図5に密着性指標とCSS耐性との関係を示す。図5から、密着性指標8以上において、CSS動作に問題のない磁気記録媒体が得られることがわかった。
【0040】
格子定数と密着性指標との関係は以下のようにして調べた。例としてガラス基板/VN第1下地層/第2下地層/FeNiPt磁性層/Pt保護層という構造の試料を作製した。ここで、第2の下地層として、fcc結晶であるPb、Pt、Ni、Ir、Auより複数の元素を選択して組成を変えることにより、格子定数を変えたものを形成した。これらの試料について、第2の下地層の格子定数と密着性指標(評価点数)との関係を調べた。図6にその結果を示す。この図から、fcc結晶からなる第2の下地層を用いる場合、その格子定数が3.52〜4.20Åであれば、好ましい密着性(評価点数8点以上)が得られることがわかった。
【0041】
また、ガラス基板/CrN第1下地層/第2下地層/FePtIr磁性層/Pt保護層という構造の試料を作製した。ここで、第2の下地層として、bcc結晶であるV、Cr、Feより複数の元素を選択して組成を変えることにより、格子定数を変えたものを形成した。これらの試料について、第2の下地層の格子定数と密着性指標(評価点数)との関係を調べた。その結果、bcc結晶からなる第2の下地層を用いる場合、その格子定数が2.49〜3.00Åであれば、好ましい密着性(評価点数8点以上)が得られることがわかった。
【0042】
実施例1
下地層としてNaCl型結晶からなるものを用い、以下のようにして図1に示す磁気記録媒体を作製した。
【0043】
ディスク状のガラス基板をマルチチャンバーのスパッタリング装置内に入れ、真空チャンバー内の圧力を2×10-5以下にして排気した後、0.67PaのAr雰囲気とし、RFスパッタリングにより10nmのNaCl型結晶からなる下地層を成膜した。次の真空チャンバー内で基板を500℃に加熱した状態で、DCスパッタリングにより50nmの磁性層を成膜した。次の真空チャンバー内でDCスパッタリングにより2nmのPtからなる保護層を成膜した。
【0044】
また、第1の下地層としてNaCl型結晶からなるもの、第2の下地層としてfcc結晶またはbcc結晶からなるものを用い、以下のようにして図2に示す磁気記録媒体を作製した。
【0045】
上記と同様にして、ガラス基板上にRFスパッタリングにより50nmのNaCl型結晶からなる第1の下地層を成膜し、DCスパッタリングにより100nmのfcc結晶からなる第2の下地層を成膜し、基板を500℃に加熱した状態でDCスパッタリングにより50nmの磁性層を成膜し、DCスパッタリングにより2nmのPtからなる保護層を成膜した。
【0046】
同様に、ガラス基板上にRFスパッタリングにより50nmのNaCl型結晶からなる第1の下地層を成膜し、DCスパッタリングにより50nmのbcc結晶からなる第2の下地層を成膜し、基板を500℃に加熱した状態でDCスパッタリングにより50nmの磁性層を成膜し、DCスパッタリングにより2nmのPtからなる保護層を成膜した。
【0047】
表2に使用した材料を示す。第1の下地層としてMgOまたはTiB、第2の下地層としてPbまたはVを用いた試料は比較例である。
【0048】
X線回折によれば、fcc結晶またはbcc結晶の第2の下地層は(100)配向しており、磁性層は主として(001)配向のfct構造をとっていることがわかった。また、作製した磁気記録媒体の磁気特性をVSMを用いて評価した結果、全ての試料において磁化容易方向が膜面に垂直な垂直磁化膜であることがわかった。
【0049】
表2には密着性試験の評価点数を併記する。表2から第1の下地層または第1および第2の下地層として適切な材料を用いた試料では、良好な密着性が得られることがわかる。
【0050】
【表2】
【0051】
なお、VO、NiO、TiOを酸素を分圧で数%導入して反応性スパッタにより成膜した場合、VN、CrNを窒素を導入して反応性スパッタにより成膜した場合、VCをメタンなどの炭素源を導入して反応性スパッタにより成膜した場合にも表2と同様な結果が得られた。
【0052】
実施例2
下地層としてCsCl型結晶からなるものを用い、以下のようにして図1に示す磁気記録媒体を作製した。
【0053】
実施例1と同様にして、ディスク状のSi基板上にDCスパッタリングにより10nmのCsCl型結晶からなる下地層を成膜した。次の真空チャンバー内で基板を500℃に加熱した状態で、DCスパッタリングにより50nmの磁性層を成膜した。次の真空チャンバー内でDCスパッタリングにより2nmのPtからなる保護層を成膜した。
【0054】
また、第1の下地層としてCsCl型結晶からなるもの、第2の下地層としてfcc結晶またはbcc結晶からなるものを用い、以下のようにして図2に示す磁気記録媒体を作製した。
【0055】
上記と同様にして、Si基板上にDCスパッタリングにより50nmのCsCl型結晶からなる第1の下地層を成膜し、DCスパッタリングにより100nmのfcc結晶からなる第2の下地層を成膜し、基板を500℃に加熱した状態でDCスパッタリングにより50nmの磁性層を成膜し、DCスパッタリングにより2nmのPtからなる保護層を成膜した。
【0056】
同様に、Si基板上にDCスパッタリングにより50nmのCsCl型結晶からなる第1の下地層を成膜し、DCスパッタリングにより50nmのbcc結晶からなる第2の下地層を成膜し、基板を500℃に加熱した状態でDCスパッタリングにより50nmの磁性層を成膜し、DCスパッタリングにより2nmのPtからなる保護層を成膜した。
【0057】
表3および表4に使用した材料を示す。第1の下地層としてMgOまたはBaCd、第2の下地層としてPbまたはEuを用いた試料は比較例である。
【0058】
X線回折によれば、fcc結晶またはbcc結晶の第2の下地層は(100)配向しており、磁性層は主として(001)配向のfct構造をとっていることがわかった。
【0059】
表3および表4には密着性試験の評価点数を併記する。これらの表から第1の下地層または第1および第2の下地層として適切な材料を用いた試料では、良好な密着性が得られることがわかる。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
また、上記と同様な方法で第2の下地層の格子定数と密着性指標(評価点数)との関係を調べた結果、fcc結晶からなる第2の下地層では格子定数が3.52〜4.20Å、bcc結晶からなる第2の下地層では格子定数が2.49〜3.00Åであれば、好ましい密着性(評価点数8点以上)が得られることがわかった。
【0063】
実施例3
下地層としてL10型構造またはL12型構造を有する金属間化合物からものを用い、以下のようにして図1に示す磁気記録媒体を作製した。
【0064】
実施例1と同様にして、ディスク状の結晶化ガラス基板上にDCスパッタリングにより10nmの下地層を成膜した。次の真空チャンバー内で基板を500℃に加熱した状態でDCスパッタリングにより50nmの磁性層を成膜した。次の真空チャンバー内でDCスパッタリングにより2nmのPtからなる保護層を成膜した。
【0065】
また、第1の下地層としてL10型構造またはL12型構造を有する金属間化合物からなるもの、第2の下地層としてfcc結晶またはbcc結晶からなるものを用い、以下のようにして図2に示す磁気記録媒体を作製した。
【0066】
上記と同様にして、結晶化ガラス基板上にDCスパッタリングにより50nmの第1の下地層を成膜し、DCスパッタリングにより100nmのfcc結晶からなる第2の下地層を成膜し、基板を500℃に加熱した状態でDCスパッタリングにより50nmの磁性層を成膜し、DCスパッタリングにより2nmのPtからなる保護層を成膜した。
【0067】
同様に、結晶化ガラス基板上にDCスパッタリングにより50nmの第1の下地層を成膜し、DCスパッタリングにより50nmのbcc結晶からなる第2の下地層を成膜し、基板を500℃に加熱した状態でDCスパッタリングにより50nmの磁性層を成膜し、DCスパッタリングにより2nmのPtからなる保護層を成膜した。
【0068】
表5〜表7に使用した材料を示す。第1の下地層としてMgOまたはPt3Sc、第2の下地層としてPbまたはEuを用いた試料は比較例である。
【0069】
X線回折によれば、fcc結晶またはbcc結晶の第2の下地層は(100)配向しており、磁性層は主として(001)配向のfct構造をとっていることがわかった。
【0070】
表5〜表7には密着性試験の評価点数を併記する。これらの表から第1の下地層または第1および第2の下地層として適切な材料を用いた試料では、良好な密着性が得られることがわかる。
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
【表7】
【0074】
また、上記と同様な方法で第2の下地層の格子定数と密着性指標(評価点数)との関係を調べた結果、fcc結晶からなる第2の下地層では格子定数が3.52〜4.20Å、bcc結晶からなる第2の下地層では格子定数が2.49〜3.00Åであれば、好ましい密着性(評価点数8点以上)が得られることがわかった。
【0075】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、FePt規則合金に代表されるfct構造を持つ磁性膜を用いた場合に、下地層と磁性層との密着性を改善することができ、動作特性に優れた面内または垂直磁気記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体の一例を示す断面図。
【図2】本発明に係る磁気記録媒体の他の例を示す断面図。
【図3】bcc{100}面とfct{001}面との格子整合を表す模式図。
【図4】本発明の実施例におけるFePt磁性層のX線回折プロファイルを示す図。
【図5】本発明の実施例における密着性指標とCSS耐性との関係を示す図。
【図6】本発明の実施例における第2の下地層の格子定数と密着性指標の評価点数との関係を示す図。
【符号の説明】
1…基板
21…下地層
22…第2の下地層
3…磁性層
4…保護層
Claims (5)
- 基板と、
前記基板上に形成され、CrN、NiO、TiO、VO、VNおよびVCからなる群より選択される少なくとも1種である、{100}配向のNaCl型結晶からなり、かつその格子定数が3.52〜4.20Åである下地層と、
前記下地層上に形成され、Fe、CoおよびNiからなる群より選択される少なくとも1種の磁性金属元素およびPt、Pd、AuおよびIrからなる群より選択される少なくとも1種の貴金属元素を主成分とし、fct構造を持つ結晶粒を含む磁性層と
を有することを特徴とする垂直磁気記録媒体。 - 基板と、
前記基板上に形成され、CuPd、MnAl、NiAl、AlCo、AlCu 2 Zn、AlCu 2 Ti、AlFe、AlIr、AlRe、AlRh、CoFe、CoGa、Co 2 MnSi、CoTi、Cu 5 Sn、Cu 2 SnTi、CuZn、FeTi、GaIr、Mn3Si、MnV、OsSi、RhSi、RuSiからなる群より選択される少なくとも1種である{100}配向のCsCl型結晶からなり、かつその格子定数が2.49〜3.00Åである下地層と、
前記下地層上に形成され、Fe、CoおよびNiからなる群より選択される少なくとも1種の磁性金属元素およびPt、Pd、AuおよびIrからなる群より選択される少なくとも1種の貴金属元素を主成分とし、fct構造を持つ結晶粒を含む磁性層と
を有することを特徴とする垂直磁気記録媒体。 - 基板と、
前記基板上に形成され、Ag 3 Mg、AgPt 3 、AgTi、AlPt 3 、AuCu 3 、Au 3 Pt、AuV 3 、CdPt、CdPt 3 、CePd 3 、CrIr 3 、CrPd、Cr 2 Pt、Cu 3 Pd、Cu 3 Pt、ErPd 3 、GaPt 3 、Hf 3 Ir、HfRh 3 、HoPd 3 、HoPt 3 、IrMn 3 、IrNb、Ir 3 Ta、Ir 3 Ti、Ir 7 Ti 3 、Ir 3 V、IrV、Ir 3 Zr、MgPt 3 、MnNi 3 、MnPt 3 、Mn 3 Pt、Mn 3 Rh、PbPd 3 、PbPt 3 、PdCr、Pd 3 Sn、Pd 4 Th、Pd 3 Y、PdZn、Pt 3 Sn、Pt 3 Y、PtZn、Pt 3 Zn、Rh 3 Ta、Rh 3 Th、RhTi、Rh 3 V、Rh 3 Zr、TiPt 3 、TiZn 3 、VZn 3 、AlTi、AuCuからなる群より選択される少なくとも1種である{001}配向のL1 0 型構造または{001}配向のL1 2 型構造を有する金属間化合物からなり、かつその格子定数が3.52〜4.20Åである下地層と、
前記下地層上に形成され、Fe、CoおよびNiからなる群より選択される少なくとも1種の磁性金属元素およびPt、Pd、AuおよびIrからなる群より選択される少なくとも1種の貴金属元素を主成分とし、fct構造を持つ結晶粒を含む磁性層と
を有することを特徴とする垂直磁気記録媒体。 - 前記下地層と前記磁性層との間にAg、Al、Au、Cu、Ir、Ni、Pt、PdおよびRhからなる群より選択される少なくとも1種を含有する元素、合金または化合物からなり、{100}配向のfcc結晶粒からなる第2の下地層を設け、前記第2の下地層の格子定数が3.52〜4.20Åであることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の垂直磁気記録媒体。
- 前記下地層と前記磁性層との間にCrおよびFeからなる群より選択される少なくとも1種を含有する元素、合金または化合物からなり、{100}配向のbcc結晶粒からなる第2の下地層を設け、前記第2の下地層の格子定数が2.49〜3.00Åであることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の垂直磁気記録媒体。
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