JP4088470B2 - アルミニウム含有廃液からの多孔性アルミナ水和物顔料の製造方法 - Google Patents
アルミニウム含有廃液からの多孔性アルミナ水和物顔料の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウムを使用する航空機、船舶、車両、各種機械・電気部品、建築材などのアルミニウム関連工業において排出される多価アニオンを含むアルミニウム含有廃液、特にエッチング廃液について、これを有効に再利用するための多孔性アルミナ水和物顔料の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
多価アニオンを含むアルミニウムを含有する廃液は、アルミニウム関連工業において、例えば、アルミニウムの耐食性を施すために行う陽極酸化処理工程から大量に排出される。ここでは、アルミニウム電解コンデンサー製造工業の硫酸やリン酸などの多価アニオンを含むエッチング廃液を代表例にとり、従来技術について説明する。
【0003】
アルミニウム電解コンデンサー製造工業において、アルミニウム箔をエッチングするために塩酸を主成分とした硝酸、硫酸、リン酸などの混酸溶液がエッチング液として多量に使用されている。このエッチング液はアルミニウム箔エッチング工程で繰り返し使用されるが、液中のアルミニウムイオン濃度が高くなると、エッチング性能が劣化し使用できなくなるため、アルミニウム箔エッチング廃液として排出される。通常、このアルミニウム箔エッチング廃液には30質量%程度の塩化アルミニウムと0.1〜2質量%程度の硝酸、硫酸および0.1〜7質量%程度のリン酸が含まれている。
【0004】
塩酸や硝酸のような揮発性の酸は、蒸発操作で回収され、成分調整後、再びエッチング混酸溶液として再使用される。しかし、硫酸およびリン酸は、不揮発性のため留出させることができず、濃縮アルミニウム箔エッチング廃液中に残留してしまう。
【0005】
このような硫酸およびリン酸の回収方法としては、アルミニウム箔エッチング廃液に100%の塩化水素ガスを吸収させ、塩化アルミニウムを結晶として析出・分離・洗浄する操作を行い、分離母液中および結晶洗浄液中に硫酸およびリン酸を回収する方法が行われている(特開平4−346680号公報)。
【0006】
しかしながら、アルミニウム箔エッチング廃液あるいは濃縮されたアルミニウム箔エッチング廃液は、大量に排出されており、上記硫酸およびリン酸の回収方法では再利用に十分ではなく、その他有用な再利用方法があまり無いのが現状である。
【0007】
従来行われているアルミニウム箔エッチング廃液の他の再利用方法について説明する。
アルミニウム箔エッチング廃液から、塩酸や硝酸等の揮発性遊離酸を蒸発させ回収した後、この濃縮廃液を廃水処理用凝集沈殿剤として利用する方法、あるいはアルミニウム箔エッチング廃液にアルミニウム屑を加え遊離酸を中和し、廃水処理用凝集沈殿剤として使用する方法などがある。しかし、両者共に廃液中に硝酸イオンやリン酸イオンが含まれ、特にリン酸イオンが多く含まれるため、これが処理廃水中の微生物の栄養源となってしまうので、廃水処理用凝集沈殿剤としては大量に使用できず、凝集沈殿剤の付加価値の低い代替品あるいは増量品として使用されるに留まっている。
【0008】
また、アルミニウム箔のエッチングに使用されるアルミナ箔は純度が99.9%(3ナイン)〜99.99%(4ナイン)と高純度であることから、アルミニウム箔エッチング廃液を高純度アルミナセラミックスの原料として再利用する可能性についても検討されている(特開平5−330820号公報)。この方法は、アルミニウム箔エッチング廃液を水蒸気が含まれる加熱雰囲気下で焙焼し、分解生成物である塩化水素とアルミナを回収する方法である。
【0009】
しかし、アルミニウム箔エッチング廃液中に硝酸イオンや硫酸イオンが含まれるため、焙焼時に、大気汚染の原因物質となるNOxやSOxが発生してしまう懸念がある。更に、アルミニウム箔エッチング廃液には、アルミニウムに比してリン酸が大量に含まれているため、焙焼によって製造されるアルミナ中にリン酸がリン酸アルミニウムの形で固定化され、アルミナの純度を低下させてしまう懸念がある。そのため、処理するアルミニウム箔エッチング廃液から、リン酸イオンを事前に除去しておくことが要求される。
【0010】
以上、アルミニウム電解コンデンサー製造工業において排出されるアルミニウム箔エッチング廃液を例に挙げて従来技術の問題点を説明したが、その他各種アルミニウム関連工業においても、多価アニオンを含むアルミニウム含有廃液が排出される場合があり、上記同様の問題が存在する。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明は、アルミニウム電解コンデンサー製造工業に代表されるアルミニウム関連工業において排出される多価アニオンを含むアルミニウム含有廃液について、これを有効に再利用する方法、より具体的には、これを原料として多孔性アルミナ水和物顔料を製造する方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決しようとする手段】
上記目的は、硫酸イオン、リン酸イオンのような多価アニオンを含むアルミニウム含有廃液を、簡単な中和操作で有効に再資源化し得る以下の本発明により達成される。
【0013】
すなわち本発明は、多価アニオンを含むアルミニウム含有廃液とアルカリとを交互に添加し、酸性側およびアルカリ性側にpHスイングさせることでアルミナ水和物を合成し、その後、共存するカチオンおよびアニオンを洗浄、除去してアルミナ水和物を得る多孔性アルミナ水和物顔料の製造方法であって、
前記pHスイング時において、酸性側のpHを1〜3、アルカリ性側のpHを8〜10とし、合成温度を60〜100℃、pHスイング回数を3〜15回の条件で行い、酸性側での保持時間が5〜60分、アルカリ性側での保持時間が1〜10分、かつ、酸性側での保持時間よりもアルカリ性側での保持時間を短くすることを特徴とするアルミニウム含有廃液からの多孔性アルミナ水和物顔料の製造方法である。
【0014】
アルミニウム含有廃液中に硫酸イオンやリン酸イオンのような多価アニオンを含む場合、本発明の方法を採用することなく多孔性アルミナ水和物顔料を製造しようとすると、pHスイング時にアルカリ性側で生成するアルミナ水和物の一次粒子は、前記アルミニウム含有廃液中に含まれる硫酸イオンやリン酸イオンのような多価アニオンを媒介として、一次粒子同士の架橋を起こし、凝集した二次粒子を生成し、マクロポアを生成してしまう。
【0015】
しかし、本発明においては、酸性側での保持時間を5〜60分と長く取り、アルカリ性側での保持時間を1〜10分と短くし、かつ、酸性側での保持時間よりもアルカリ性側での保持時間を短くしているため、アルカリ性側でアルミナ水和物粒子の成長は起こるが、アルミナ水和物粒子の凝集は起こらないか、または弱い凝集しか起こらない短い保持時間となる。一方、それでも凝集してしまったアルミナ水和物の凝集体については、pH1〜3という強酸性の酸性側で、多価アニオンの介在による凝集結合を切断するに十分な保持時間が確保され、有効に解膠される。したがって、均質な粒子成長のみが進行し、マクロポアの生成が抑制される。
【0016】
また、アルカリ性側のpHを8〜10の範囲、合成温度を60〜100℃の範囲に制御する理由は、顔料として好適なベーマイトあるいは擬ベーマイト結晶構造のアルミナ水和物粒子を生成させるためである。更に、pHスイング回数を3〜15回の範囲とする理由は、多孔性アルミナ水和物顔料の細孔構造を最適に制御するためである。
このように本発明によれば、有用な多孔性アルミナ水和物顔料を容易に得ることができる。
【0017】
なお、本発明において「pHスイング」とは、pHを酸性側とアルカリ性側との間で、酸またはアルカリを添加することにより逆性側に変化させることを言う。また、「pHスイング回数」とは、pHを中性あるいはアルカリ性から酸性側に変化させて再度アルカリ性に戻した回数、或いはpHを中性あるいは酸性からアルカリ性側に変化させて再度酸性側に戻した回数を意味する。特に1回目は、合成槽に中性の水が張り込まれているため、pHは中性であり、次いで原料となる酸性のアルミニウムエッチング廃液あるいはアルカリが添加され、酸性あるいはアルカリ性となり、さらにこの液に対して逆性の液を添加してアルカリ性あるいは酸性側に変化させた時点で「1回」とカウントする。
【0018】
本発明において、酸性側とアルカリ性側の両保持時間の関係としては、酸性側での保持時間(ta)が、アルカリ性側での保持時間(tb)の1.5倍以上(ta≧1.5×tb)であることが好ましい。この条件を満たすようにすることで、マクロポアの生成がより一層抑制される。
【0019】
前記アルミニウム含有廃液に含まれる多価アニオンとしては、リン酸イオンおよび硫酸イオンが挙げられ、どちらか一方あるいは双方とも含むもの全てに、本発明は適用することができる。
【0020】
前記pHスイング時において、添加するアルミニウム含有廃液のみでは、pH1〜3もの強酸性の酸性側に制御するのが困難な場合には、pH降下のため、添加するアルミニウム含有廃液中に塩酸および/または硝酸をさらに添加しておくこともできる
前記pHスイング時において、添加する前記アルカリとしては、水酸化ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、アンモニア、および水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つのアルカリであることが好ましい。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を項目に分けて詳細に説明する。
<原料>
本発明においては、多価アニオンを含むアルミニウム含有廃液を原料とする。ここで多価アニオンとしては、特に制限はないが、アルミニウム電解コンデンサー製造工業において排出されるアルミニウム箔エッチング廃液の場合には、硫酸およびリン酸が含まれる。両者とも含んでもよいし、どちらか一方のみを含むもの、さらに他の多価アニオンを含むものでも構わない。
【0022】
本発明では、かかる多価アニオンの影響を排除して、良好な多孔性アルミナ水和物顔料を製造することを目的とする。
アルミニウム含有廃液中の多価アニオン濃度の下限値は、本発明の目的からして存在しない。
【0023】
アルミニウム含有廃液中におけるアルミニウムの含有量には、特に制限はない。
【0024】
原料としてのアルミニウム含有廃液については、pHに制限はない。すなわち、後述する1回目のpHスイング操作の出発点で、pHが1〜3の範囲であることは要求されない。
【0025】
<pHスイング>
本発明においてポイントとなるpHスイングの操作は、合成槽に水を収容しておき、これにアルカリあるいは酸(アルミニウム含有廃液)を交互に添加することにより行う。添加は、まずアルカリ(または酸)、次いで酸(またはアルカリ)の順に交互に行われ、アルカリ性側および酸性側間でpHが1往復するごとに、pHスイング回数がカウントされる。
【0026】
(1回目)
適当な合成槽に収容された水に対して、原料としての前記アルミニウム含有廃液およびアルカリを、一方が先で、他方を後に添加することで、溶液のpHを酸性側とアルカリ性側とで1往復させて、1回目のpHスイング操作が為される。このとき、添加するアルカリとしては、特に制限はないが、水酸化ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、アンモニアおよび水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つのアルカリであることが好ましい。これらのアルカリを用いた場合、廃水中に含まれる塩類が食塩(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化アンモニウム(NH4Cl)、硝酸ナトリウム(NaNO3)、硝酸カリウム(KNO3)、硝酸アンモニウム(NH4NO3)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、硫酸カリウム(K2SO4)、硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)などの無害な塩類になるため、廃水処理の観点から特に好ましい。
【0027】
合成槽の溶液におけるアルカリ性側のpHとしては、8〜10の範囲とすることが必須であり、このpHが8よりも低いと、アルミナ水和物粒子の成長が起こらず、一方、10よりも高いと、バイヤライトやギブサイトが生成し多孔性アルミナ水和物顔料としては好ましいものではなくなる。
【0028】
アルカリ性側での保持時間としては、1〜10分とすることが必須であり、アルカリ性側での保持時間を、このように短くすることで、アルカリ性側でアルミナ水和物粒子の成長は起こるが、アルミナ水和物粒子の凝集は起こらないか、または弱い凝集しか起こらない。
【0029】
合成温度としては、60〜100℃の範囲とすることが好ましい。かかる合成温度の範囲とすることで、最終的に得られる多孔性アルミナ水和物顔料が、顔料として好適なベーマイトあるいは擬ベーマイト結晶構造のものとなる。この合成温度は、2回目以降(酸性側を含む)のpHスイングにおいても上記範囲内に保持することが望ましい。
【0030】
(2回目以降)
1回目のpHスイング操作が為された合成槽内の溶液に、原料としての前記アルミニウム含有廃液およびアルカリを、1回目と同様の順番で添加し、溶液のpHを酸性側とアルカリ性側とで1往復させることで、2回目以降のpHスイング操作が為される。
【0031】
・酸性側へのpHスイング操作
酸性側へのpHスイング操作において、添加するアルミニウム含有廃液のみでは、pH1〜3もの強酸性の酸性側に制御するのが困難な場合には、pH降下のため、添加するアルミニウム含有廃液中に塩酸および/または硝酸をさらに添加しておくことが出来る。このとき添加するのは、溶液に窒素源を供給することのない塩酸が、特に好ましい。
【0032】
合成槽の溶液における酸性側のpHとしては、1〜3の範囲とすることが必須であり、このpHが3よりも高いと、アルカリ性側で凝集してしまったアルミナ水和物の凝集体の凝集結合を切断するに不十分であり、一方、1よりも低いと、折角アルカリ性側で生成したアルミナ水和物の粒子を再溶解させてしまう。
【0033】
酸性側での保持時間としては、5〜60分とすることが必須であり、酸性側での保持時間を、このように長めにすることで、アルカリ性側での多価アニオンの介在による凝集結合を十分に切断することができる。
【0034】
酸性側とアルカリ性側の両保持時間の関係としては、酸性側での保持時間(ta)が、アルカリ性側での保持時間(tb)の1.5倍以上(ta≧1.5×tb)であることが好ましく、2倍以上(ta≧2×tb)であることがより好ましい。この条件を満たすようにすることで、マクロポアの生成がより一層抑制される。
【0035】
3回目以降における酸性側へのpHスイング操作は、上記2回目の酸性側へのpHスイング操作と同様であり、これと同一の条件で行ってもよいが、条件を変更して行っても構わない。勿論、その場合も上記好ましい条件の範囲内で変更することが望ましい。
【0036】
・アルカリ性側へのpHスイング操作
2回目以降のアルカリ性側へのpHスイング操作は、既述の1回目のpHスイング操作と同様であり、1回目と同一の条件で行ってもよいが、条件を変更して行っても構わない。勿論、その場合も上記好ましい条件の範囲内で変更することが望ましい。
【0037】
(pHスイング回数)
以上のように、本発明においては、アルカリ性側へのpHスイング操作と酸性側へのpHスイング操作とを繰り返すことで、目的の多孔性アルミナ水和物顔料が製造される
本発明において、pHスイング回数としては、3〜15回行うことが必須であり、pHスイング回数を上記範囲内とすることで、多孔性アルミナ水和物顔料の細孔構造を最適に制御することができる。
【0038】
<後処理>
pHスイングを終えた後の多孔性アルミナ水和物合成溶液は、共存するカチオンおよびアニオンを洗浄、除去して多孔性アルミナ水和物顔料を得る。かかる洗浄、除去方法としては特に制限はなく、従来公知の方法が問題なく適用される。
【0039】
<得られる多孔性アルミナ水和物顔料の用途>
本発明で得られる多孔性アルミナ水和物顔料は、多孔性のアルミナ原料、各種触媒担体/吸着剤、医薬品の添加物、化粧品の添加物、防火材料など種々の用途で使用され得るが、極めて均質かつ多孔性であることから、紙等の記録媒体、とりわけインクジェット記録媒体用のサイズ剤として高性能なものであり、最適である。
【0040】
以下に、インクジェット記録媒体用の顔料に要求される高性能な多孔性アルミナ水和物顔料に求められる性状について説明する。
インクジェット記録媒体は、支持体と、その片面に少なくとも一層のインク受容層と、光沢発現層とが積層されて構成される。
【0041】
インク受容層は、支持体上にあり、インクジェットプリンターから噴射されたインクを速やかに吸収、定着させ、長期に文字や画像情報を記録する機能を有する塗層である。
また、光沢発現層は、インクジェット記録媒体の最表面に設けられた層で、塗工乾燥後、あるいは何らかの光沢性を与える後処理を施すことによって、インクジェット記録媒体に光沢を発現させる塗層である。
【0042】
ここで、本発明の製造方法により得られる多孔性アルミナ水和物顔料は、平均細孔径、細孔容積、比表面積などの細孔物性が制御されることによって、これらのインク受容層および光沢発現層の両者に対して高性能な顔料として使用される。具体的に多孔性アルミナ水和物顔料に要求される細孔物性は以下の通りである。
【0043】
インクジェットプリンターから噴射されたインクは、多孔性アルミナ水和物顔料に速やかに吸収される必要があり、その最適なインク吸収速度を多孔性アルミナ水和物顔料に持たせるためには、多孔性アルミナ水和物顔料の平均細孔直径が2〜30nmの範囲であることが好ましく、6〜20nmの範囲にあることがより好ましい。また、多孔性アルミナ水和物顔料は、噴射されたインクに対して十分な吸収容量を有する必要があり、そのためには多孔性アルミナ水和物顔料の細孔容積が0.3〜1.0ml/gの範囲で有ることが好ましく、0.4〜0.8ml/gの範囲に有ることがより好ましい。さらに、インク中の染料が十分に吸収され、定着されるためには、比表面積が70〜400m2/gの範囲に有ることが好ましく、100〜350m2/gの範囲に有ることがより好ましい。
【0044】
以上のような細孔物性を有する多孔性アルミナ水和物顔料をインク受容層および光沢発現層に使用した場合、例えば、光沢発現層では発色性が高まり好ましいものとなる。また、インク受容層ではインクの吸収速度およびインクの吸収容量や定着性などの受容性を高めることができ好ましいものとなる。
【0045】
これに対して、多孔性アルミナ水和物顔料の細孔構造が前記好ましい物性範囲から外れた場合には、以下の理由で顔料として好ましくない。
多孔性アルミナ水和物顔料の平均細孔直径が小さ過ぎると、インクの吸収速度は速くなるが、細孔容積が小さくなるためにインクの受容量が小さくなり、インクの吸収が困難となる。平均細孔直径が大き過ぎると、比表面積が小さくなりインク中の染料の定着が悪くなり、文字や画像に滲みが発生し易くなる。
【0046】
また、多孔性アルミナ水和物顔料の細孔容積が大き過ぎると、インク受容層および光沢発現層にひび割れや粉落ちが発生し易くなり、好ましくない。特に、一次粒子が凝集した二次粒子による50nm以上のマクロポアが多くなると、インク受容層のインク吸収量は良くなるものの、二次粒子間空隙での光の散乱が大きくなり透明性に欠け好ましくない。更に、インク受容層および光沢発現層のひび割れや粉落ち等の塗膜欠陥も大幅に発生し易くなる。一方、多孔性アルミナ水和物顔料の細孔容積が小さ過ぎると、噴射されたインクに対して十分な吸収容量を確保することが困難となる。
多孔性アルミナ水和物顔料の比表面積が大き過ぎると、細孔容積が小さくなりインクの吸収が困難となる。
【0047】
光沢発現層では発色性を高める必要があり、光の散乱を抑制し、透明性を持たせ、表面にインクを多く分布させる必要があるが、二次粒子間隙のマクロポアはこれらに対して好ましいものでは無く、多孔性アルミナ水和物顔料に対してマクロポアの生成は特に避けなければならない課題である。しかしながら、多孔性アルミナ水和物顔料を製造するための一般的な方法である、アルミニウムを含む酸あるいは塩基化合物を中和する湿式法においては、硫酸イオンやリン酸イオンのような多価アニオンの存在によってマクロポアが容易に生成してしまい、細孔容積が大きくなり、細孔径も大きくなってしまう。マクロポアの生成は、生成したアルミナ水和物の一次粒子間を多価アニオンが介在して架橋するために起こるものであり、価数の多いアニオンほどマクロポアの生成が容易になる。即ち、三価のリン酸イオンは特に好ましくない。これに対して、塩素イオンや硝酸イオンのような一価のアニオンは、アルミナ水和物の一次粒子間に存在しても架橋する作用が無いために問題とはならない。
【0048】
多孔性アルミナ水和物顔料を製造する一般的な方法としては、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミン酸ソーダ、硫酸アルミニウムなどの原料を酸あるいはアルカリで中和し製造する方法が挙げられるが、リン酸イオンはこれらの原料に含まれていない。これに対して、一般的なアルミニウム関連工業におけるアルミニウム含有廃液には、多価アニオンである硫酸イオンやリン酸イオンを含む場合があり、とりわけアルミニウム電解コンデンサー製造工業におけるアルミニウム箔エッチング廃液は、これらを多量に含むため、かかる廃液をそのまま多孔性アルミナ水和物顔料の製造原料にしようとすると、マクロポアの生成が容易に起こり、多孔性アルミナ水和物顔料を製造する一般的な方法の原料としては、既述の好ましい物性を有するものを製造することが困難であり適当でない。
【0049】
しかし、本発明の多孔性アルミナ水和物顔料の製造方法によれば、多価アニオンによるマクロポアの生成が効果的に抑制されるため、上記のような多価アニオンを含むアルミニウム含有廃液をそのまま原料として、特にインクジェット記録媒体を含む各種記録媒体のサイズ剤として極めて好適な多孔性アルミナ水和物顔料を容易に製造することができる。
【0050】
【実施例】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
<実施例1>
[模擬アルミニウム含有廃液1の調製]
アルミニウム箔エッチング廃液を模して、塩化アルミニウム29質量%、硝酸1.5質量%、硫酸0.2質量%、リン酸6質量%の水溶液を試薬で調合し、模擬アルミニウム含有廃液1とした。
【0051】
[アルミニウム水和物顔料の製造]
(製造準備)
ヒーターおよび撹拌機の付いた容量15リットルの合成槽に6リットルの水を加え、回転数300rpmで撹拌しながら90℃まで加熱した。
【0052】
(pHスイング)
・1回目
1回目のpHスイング操作として、次の操作を行った。
前記合成槽に、調製した模擬アルミニウム含有廃液1を400g加え、温度が90℃であることを確認した。合成槽内に、34.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を440g添加し、1分間90℃に保持した。この時の合成槽内のpHは9であった。
【0053】
・2回目以降
次に、2回目のpHスイング操作として、次の操作を行った。
1回目のpHスイング操作後の合成槽に、酸性側へのpHスイング操作として、前記調製した模擬アルミニウム含有廃液1を400g加え、10分間90℃に保持した。この時の合成槽内のpHは2であった。さらに、アルカリ性側へのpHスイング操作として、1回目と同様の操作を行った。
さらに、上記と同様にして、合計4回のpHスイング操作を行い、アルミナ水和物を得た。
【0054】
(後処理)
得られたアルミナ水和物を真空濾過し、濾過液に塩素イオンが検出できなくなるまで洗浄し、多孔性アルミナ水和物顔料を得た。
この多孔性アルミナ水和物顔料を120℃にて3時間乾燥して、細孔分布および細孔容積を島津製作所製オートポア9200型水銀ポロシメーター(測定圧力414MPa)で測定した。また、比表面積は、マウンテック社製Macsorb Model−1201を用いて、BETの3点法にて測定した。これらの測定結果を下記表1に示す。
【0055】
<実施例2>
[模擬アルミニウム含有廃液2の調製]
アルミニウム箔エッチング廃液を模して、塩化アルミニウム29質量%、硝酸2.0質量%、硫酸0.1質量%、リン酸0.3質量%の溶液を試薬で調合し、模擬アルミニウム含有廃液2とした。
【0056】
[アルミニウム水和物顔料の製造]
模擬アルミニウム含有廃液2および27.8質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用い、pHスイング回数を10回に、かつ、2回目以降のpHスイング操作における保持時間を酸性側6分、アルカリ性側4分にした以外は、実施例1と同様の方法で、多孔性アルミナ水和物顔料を得た。
得られた多孔性アルミナ水和物顔料の物性を、実施例1と同様にして測定した。その結果を下記表1に示す。
【0057】
<比較例1>
pHスイング操作の回数を6回に、かつ、2回目以降のpHスイング操作における保持時間を酸性側5分、アルカリ性側5分にした以外は、実施例1と同様の方法で、多孔性アルミナ水和物顔料を得た。
得られた多孔性アルミナ水和物顔料の物性を、実施例1と同様にして測定した。その結果を下記表1に示す。
【0058】
<比較例2>
ヒーターおよび撹拌機の付いた容量15リットルの合成槽に6リットルの水を加え、回転数300rpmで撹拌しながら90℃まで加熱した。この合成槽に、実施例1で調製した模擬アルミニウム含有廃液1を1600gと、34.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液1760gと、を合成槽内のpHを9に保ちながら、34分かけて連続的に添加し、アルミナ水和物を得た。その後、実施例1と同様の後処理の操作を行い、多孔性アルミナ水和物顔料を得た。
得られた多孔性アルミナ水和物顔料の物性を、実施例1と同様にして測定した。その結果を下記表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
なお、上記表1において、「マクロポア」とは、孔径が50nm以上の細孔を言う。
【0061】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、アルミニウム電解コンデンサー製造工業に代表されるアルミニウム関連工業において排出される、多価アニオンを含むアルミニウム含有廃液について、これを原料として多孔性アルミナ水和物顔料を製造する方法を提供することができる。特に、多価アニオンを含むアルミニウム箔エッチング廃液から、インクジェット記録媒体用のサイズ剤として適した物性を有する多孔性アルミナ水和物顔料を、簡単な操作で容易に製造することができ、大量に排出され、あまり有用な再利用先のない、アルミニウム箔エッチング廃液の再資源化に貢献することができる。
Claims (5)
- 多価アニオンを含むアルミニウム含有廃液とアルカリとを交互に添加し、酸性側およびアルカリ性側にpHスイングさせることでアルミナ水和物を合成し、その後、共存するカチオンおよびアニオンを洗浄、除去してアルミナ水和物を得る多孔性アルミナ水和物顔料の製造方法であって、
前記pHスイング時において、酸性側のpHを1〜3、アルカリ性側のpHを8〜10とし、合成温度を60〜100℃、pHスイング回数を3〜15回の条件で行い、酸性側での保持時間が5〜60分、アルカリ性側での保持時間が1〜10分、かつ、酸性側での保持時間よりもアルカリ性側での保持時間を短くすることを特徴とするアルミニウム含有廃液からの多孔性アルミナ水和物顔料の製造方法。 - 酸性側での保持時間(ta)が、アルカリ性側での保持時間(tb)の1.5倍以上(ta≧1.5×tb)であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム含有廃液からの多孔性アルミナ水和物顔料の製造方法。
- 前記アルミニウム含有廃液に含まれる多価アニオンが、リン酸イオンおよび/または硫酸イオンであることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム含有廃液からの多孔性アルミナ水和物顔料の製造方法。
- 前記pHスイング時において、pHを酸性側に制御するために、添加するアルミニウム含有廃液中に塩酸および/または硝酸をさらに添加しておくことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム含有廃液からの多孔性アルミナ水和物顔料の製造方法。
- 前記pHスイング時において、添加する前記アルカリが、水酸化ナトリウム、アルミン酸ナトリウムおよび水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つのアルカリであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム含有廃液からの多孔性アルミナ水和物顔料の製造方法。
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