JP4087590B2 - ウッド型ゴルフクラブヘッド - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐久性を損ねることなく反発性能を向上しうるウッド型ゴルフクラブヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来、ウッド型ゴルフクラブヘッドにおいて、打球の飛距離を増大させるために、ボールとの衝突時の反発性能を高めることが提案されている。具体的には、フェース部の材料を改良する方法、或いはフェース部の各部の厚さを設計する方法など(より具体的にはフェース部を薄くすること)が知られている。
【0003】
ところが、フェース部の厚さを均一に薄くすると、フェース部そのものの強度が低下し耐久性能が著しく悪化するという問題がある。このような不具合を改善するために、ボールが頻繁に衝突するフェース部の中央領域を厚くし、ボールとの衝突機会が少ない周辺領域を薄くすることによって、強度の低下を招くことなく高い反発性能を発揮させることが例えば特許第3064905号等により提案されている。
【0004】
しかしながら、従来の提案では、いずれも具体的なフェース部の厚さ、形状等について詳細な示唆が無い。また発明者らは、鋭意研究の結果、フェース部材の材料及びその加工工程を見直すことによって、さらにヘッドの反発性能と耐久性とをバランス良く向上しうることを見出した。
【0005】
以上のように、本発明は、フェース部の形状、厚さ等を具体的に限定することを基本として、耐久性を損ねることなく反発性能を向上しうるウッド型ゴルフクラブヘッドを提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明のうち請求項1記載の発明は、ボールを打球するフェース面を有するフェース部材と、このフェース部材を固着しかつシャフトが装着されるネック部を一体に具えしかもロストワックス精密鋳造法によって一体成形されるヘッド本体とからなる2ピース構造のゴルフクラブヘッドであって、
前記フェース部材は、前記フェース面を形成する基部と、この基部の裏面からヘッド後方にのびる延長部とを有する椀状をなし、
前記延長部は、クラウン部の一部を形成するクラウン部側の延長部と、ソール部の一部を形成するソール部側の延長部と、サイド部のトウ側部分の一部を形成するトウ側の延長部と、前記サイド部5のヒール側部分の一部を形成するヒール側の延長部とを含むとともに、
前記クラウン部側の延長部は前記ヘッド本体の前記ネック部が嵌まり合う凹部を具え、
かつ規定のライ角、フェース角で水平面に載置した基準状態において、前記フェース面の垂直方向の最大長さであるフェース高さが40〜60mm、かつ前記フェース面の水平方向の最大長さであるフェース巾が70〜110mmであり、
しかも前記基部は、前記フェース高さ及びフェース巾の各中間位置が交差するフェース中心を含みかつ厚さが2.5〜2.9mmである中央厚肉部と、この中央厚肉部を囲む環状をなしかつ厚さが1.9〜2.3mmである周辺薄肉部とを含むとともに、
前記フェース中心を通る垂直断面において、前記中央厚肉部の長さが10〜30mmかつ前記周辺薄肉部の長さが基部の端縁から3〜10mmであり、
しかも前記フェース中心を通る水平断面において、前記中央厚肉部の長さが30〜60mmかつ前記周辺薄肉部の長さが基部の端縁から3〜20mm、
しかも前記フェース部材が、Ti−4.5Al−3V−2Mo−2Feからなり、かつ800〜880℃の温度で熱間鍛造された後、0〜100℃の温度範囲の雰囲気中で冷却された熱間鍛造品からなることにより前記基部と延長部とが一体に構成されるとともに、
前記冷却された熱間鍛造品を、再び800〜880℃の温度で熱間鍛造を行いかつ0〜100℃の温度範囲の雰囲気中で冷却する2サイクル加工を行うことを特徴とするウッド型ゴルフクラブヘッドである。
【0007】
また請求項2記載の発明は、前記中央厚肉部の厚さが2.6〜2.8mmかつ前記周辺薄肉部の厚さが1.9〜2.1mmからなるとともに、前記垂直断面において、中央厚肉部の長さが10〜24mmかつ周辺薄肉部の長さがフェース部裏面の端縁から5〜10mmであることを特徴とし、かつ請求項3記載の発明は、前記水平断面において、中央厚肉部の長さが40〜60mmかつ周辺薄肉部の長さが基部の端縁から5〜20mmであることを特徴とする。
【0008】
また請求項4記載の発明は、反発係数が0.840以上であることを特徴とする。
【0009】
なお前記「反発係数」は、U.S.G.A.の Procedure for Measureing the Velocity Ratio of a Club Head for Conformance to Rule 4-1e, Revision 2 (February 8, 1999) に基づき測定するものとする。
【0010】
具体的にはゴルフボールをボール発射装置を用いて発射し、台座上に固着することなく載置されたヘッドのフェース部のスイートスポットに衝突させ、ゴルフボールの衝突直前の入射速度Viと跳ね返り速度Voとを測定する。そして、ゴルフボールの入射速度をVi、跳ね返り速度をVo、ヘッド質量をM、ゴルフボールの平均質量をmとした場合に、次式により反発係数eを算定した。
(Vo/Vi)=(eM−m)/(M+m)
なおゴルフボールの発射口からフェース部までの距離は55インチとし、ボールがヘッドのスイートスポットの位置から5 mm 以上離れない位置でかつフェース面に対して直角に衝突させる。またゴルフボールはタイトリスト社製のピナクルゴールドを使用し、ボール初速は160フィート±0.5フィートに設定する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下本発明の実施の一形態を図面に基づき説明する。
図1は本発明の実施形態に係るウッド型ゴルフクラブヘッドの斜視図、図2はその分解斜視図、図3は基準状態の正面図、図4はその平面図をそれぞれ例示している。
【0012】
図において、ウッド型ゴルフクラブヘッド(以下、単に「ヘッド」ということがある。)1は、ボールを打撃するフェース面Fを表面とするフェース部2と、前記フェース面Fの上縁Eaに連なりかつヘッド上面をなすクラウン部3と、前記フェース面Fの下縁Ebに連なりヘッド底面をなすソール部4と、前記クラウン部3とソール部4との間をフェース面のトウ側縁Ecからヒール側縁Edまでのびヘッド側面を形成するサイド部5と、図示しないシャフトが装着されるネック部6とを具えたものが例示される。またヘッド1は、金属材料からなりかつ内部に中空部iを有する中空形状をなしている。
【0013】
本実施形態のヘッド1は、図2に分解して示すように、前記フェース面Fを有するフェース部材1Aと、このフェース部材1Aと本例では溶接により固着されて該ヘッド1を形成するヘッド本体1Bとからなり、この2つのパーツを接合することにより構成されるいわゆる2ピース構造を有する。このような2ピース構造のヘッド1は、3ピース構造のものに比して溶接箇所を減じ作業工程を削減し生産性を向上しうる他、ヘッドの諸寸法や諸角度のバラツキなどを抑制するのにも役立つため、精度の良いヘッドを提供できる。
【0014】
前記ヘッド本体1Bは、例えばクラウン部3の主要部をなすクラウン基体部14と、ソール部4の主要部をなすソール基体部15と、前記クラウン基体部14とソール基体部15との間を継ぎかつヘッド周囲をなすサイド基体部16と、前記ネック部6とを一体に具えるとともに、前面に前記フェース部材1Aが配される開口部Oを有するものが示される。開口部Oには、例えば前記フェース部材12を隙間を介して仮保持可能な爪片17などを適宜設け、両部材を溶接する際の作業性を向上しうる。なおネック部6は、筒状体を具えることにより円形のシャフト差込孔6aが内部に形成され、ヘッド1を規定のライ角に傾ける際にはこのシャフト差込孔6aの軸中心線CLを基準としうる。
【0015】
またヘッド本体1Bは、例えばアルミニウム合金、チタン、チタン合金、ステンレスなどの各種の金属材料により形成することができる。本例ではα+β型チタン合金であるTi−6Al−4Vが採用され、ロストワックス精密鋳造法によって前記各部を一体成形している。このため、ソール基体部15に対してネック部6を精度良く成形することができ、ライ角などのバラツキを減じ精度を向上するのに役立つ。
【0016】
前記フェース部材1Aは、本例では、前記フェース面Fを形成する基部7と、この基部の裏面からヘッド後方(バックフェース側)にのびる延長部9とを一体に具えて構成されている。延長部9は、例えばフェース面Fの周縁E(前記上縁Ea、下縁Eb、トウ側縁Ec及びヒール側縁Edを含めて周縁Eと称する。)から例えば7〜30mm程度の水平方向の長さDを有して終端している。
【0017】
前記基部7は、本例では前記フェース面2の実質的に全域を形成する好ましい態様をしている。また前記延長部9は、クラウン部3の一部を形成するクラウン部側の延長部9aと、ソール部4の一部を形成するソール部側の延長部9bと、サイド部5のトウ側部分の一部を形成するトウ側の延長部9cと、前記サイド部5のヒール側部分の一部を形成するヒール側の延長部9dとを含む。基部7と延長部9とは、溶接等により接合されているのではなく、熱間鍛造品からなり一体に構成されている。これにより、フェース部材1Aは、略お椀状に形成されたものを示す。なお図2から自明のように,前記クラウン部側の延長部9aには、前記フェース部材1Aのネック部側部分が凹状に切り欠かれており、この凹部にヘッド本体1Bに設けたネック部6が嵌まり合う。即ち、前記ヘッド本体1Bがシャフトが装着されるネック部6を一体に具えるとともに、フェース部材1Aは、このネック部6が嵌まり合う凹部を具える。
【0018】
このようなヘッド1は、フェース面Fの周縁Eに溶接にて継ぎ合わされた溶接部が形成されない。溶接がフェース面Fの周縁Eで行われると、作業性が悪いばかりか、ヘッド1の中空部i側には研磨し得ない溶接ビード(図示省略)が残存し、その部分の厚さを増すことによる高剛性化によって、ヘッド1の反発性能を低下させる傾向がある。ヘッド1では、前記延長部9を設けたことにより、フェース部材1Aとヘッド本体部1Bとの溶接部をフェース面Fの周縁Eからヘッド後方へと遠ざけることができる。従って、これによりヘッドの反発性能の低下を抑制できる。
【0019】
上記の観点より、特に好ましくは、延長部9の前記長さDを8mm以上、さらに好ましくは10mm以上とするのが望ましい。他方、前記延長部9の長さDが大きすぎると、例えば鍛造、プレス等の塑性加工によってフェース部材12を成形するのが困難となり、生産性を低下させる傾向がある。かかる観点より、延長部9の前記長さDは30mm以下、特に好ましくは、前記下限値のいずれかとの組み合わせにおいて、25mm以下、さらに好ましくは20mm以下とするのが望ましい。
【0020】
またヘッド1は、図3、図4に示す如く、規定のライ角β、フェース角δとして水平面HPに載置した基準状態において、フェース面Fの垂直方向の最大長さであるフェース高さhが40〜60mm、かつ前記フェース面Fの水平方向の最大長さであるフェース巾Wが70〜110mmに設定されている。
【0021】
ヘッド1には予め、ライ角β、フック角δが定められる。本明細書では、ヘッド1の基準状態を、ライ角、フェース角に設定する。ヘッド1をライ角βに設定する際は、図4の如く前記シャフト差込孔6aの軸中心線CLを垂直面VP1内に配し水平面HPに対してライ角βで傾けるものとする。またフェース角δは、このライ角βを設定した後、シャフト差込孔6aの軸中心線CL周りにヘッド1を回転させフェース面の面積重心FGを通る水平な接線Nがフェース角δとなるように合わせる。またフェース巾は、図4のように、前記垂直面VP1と直角方向の長さとして測定する。
【0022】
前記フェース巾Wが70mm未満であると、ボール衝突時のたわみ量が小さくなり十分な反発性能が得られない。逆に110mmを超えると、たわみ量が大きくなり、反発性能は向上するが、フェース面Fの周縁部への負担が大きくなり耐久性能が低下するという不具合がある。より好ましくはフェース巾Wを90〜105mmとすることが望ましい。またフェース高さhが40mm未満であると、フェース巾と同様にたわみ量が小さくなるため十分な反発性能が得られない。逆に60mmを超えると、反発性能は向上させ得るが、耐久性能が低下するという不具合がある。より好ましくは前記フェース高さhを45〜55mmとすることが望ましい。
【0023】
また前記フェース巾W、フェース高さhは、いずれもフェース面Fの周縁Eを基準として測定される。該周縁Eは、実質的に稜線で特定しうる場合にはその稜線とするが、稜線が明瞭でない部分については、図5(A)に示す如く、前記スイートスポット点SSを通るフェース面Fに対する接線(図5(A)では、AないしDの4本のみを例示)Rを引くとともに、同図(B)、(C)に示すように、この各接線Rに対して45゜の角度でヘッド後方へと広がる傾斜線Uを引き、この傾斜線Uとヘッド表面とが交わる交点を連続して求めて特定することもできる。なお符号Gはヘッド重心、同Kは該ヘッド重心Gからフェース面Fに引いた法線であり、この法線Kとフェース面Fとの交点をスイートスポット点SSとして表示している。
【0024】
またフェース面Fは、前記フェース高さh、フェース巾Wの規定を満たしつつ、その表面積を3000〜5500mm2 、より好ましくは3500〜5000mm2 とするのが望ましい。前記表面積が3000mm2 未満又は5500mm2 よりも大になると、フェース面の形状がいびつ化し、反発性能と耐久性能とをバランス良く向上させることが困難な傾向がある。
【0025】
また前記基部7は、図3に示す如く、前記フェース高さh及びフェース巾Wの各中間位置P3、P2が交差するフェース中心FCを含みかつ厚さTcが2.5〜2.9mmである中央厚肉部7aと、この中央厚肉部7aを囲む環状をなしかつ厚さTeが1.9〜2.3mmである周辺薄肉部7bとを含んでいる。そして図3、図6に示すように、前記フェース中心FCを通る垂直断面VP2において、前記中央厚肉部7aの長さLc1が10〜30mmかつ前記周辺薄肉部7bの長さLe1が基部7の端縁7eから3〜10mmであり、しかも図7に示す如く、前記フェース中心FCを通る水平断面HP2において、前記中央厚肉部7aの長さLc2が30〜60mmかつ前記周辺薄肉部7bの長さLe2が基部7の端縁7eから3〜20mmに設定されている。なお図8には、前記垂直断面における基部7の厚さを示すグラフであって、横軸にフェース中心FCを基準とした高さ方向の位置、縦軸に基部の厚さが示される。同様に図9には、前記水平断面における基部の厚さを示すグラフを示している。
【0026】
本発明では、フェース面Fの大きさを上述の如く限定するとともに、この限定されたフェース面Fの形状を基に種々実験を試みその中で反発性能と耐久性とをよりバランス良く向上しうる最適な厚さ分布を見出したものである。即ち前記中央厚肉部7aは、頻繁にボールと衝突を繰り返す部分であるため、十分な強度を維持する必要があり、このためにも所定の厚さ及び所定の領域を具えていることが重要となる。他方、中央厚肉部7aの厚さが大きすぎてもまたこの中央厚肉部7aが占める領域が大きすぎても反発性能の悪化を招き、打球の飛距離を向上することが困難となる。
【0027】
そこで、本発明では中央厚肉部7aの厚さTc1を2.5〜2.9mmとするが、より好ましくは2.6〜2.8mmに設定することが望ましい。2.5mm未満では耐久性能が不足し、2.9mmを超えると反発性能が悪化するためである。本例の中央厚肉部7aは実質的に一定の厚さで形成されたものを示すが、前記数値範囲で厚さを変化させることもできる。なお基部7の厚さを測定する場合、フェース溝のない部分で行うこととする。
【0028】
また中央厚肉部7aは、本例では図3に示すように、フェース面Fの形状に沿った横長楕円状をなしており、前記垂直断面において10〜30mmの長さLc1を有することが必要であり、また前記水平断面においては30〜60mmの長さLc2を有することが必要である。中央厚肉部7aの前記長さLc1が10mm未満、又は前記長さLc2が30mm未満であると、基部7の強度が得られ難く満足のゆく耐久性能が得られない傾向があり、逆に前記長さLc1が30mmよも大、又は前記長さLc2が60mmよりも大であると、基部の剛性が大となって反発性能の向上が実現できない。好ましくは前記長さLc1を10〜24mm、さらに好ましくは14〜24mmとするのが望ましい。また好ましくは前記長さLc2を40〜60mmとするのが望ましい。なお特に限定はされないが、前記中央厚肉部7aの前記長さLc1、Lc2の比(Lc1/Lc2)は、0.25〜0.60、より好ましくは0.35〜0.50程度とするのが望ましい。
【0029】
また周辺薄肉部7bは、ボールと直接衝突する機会は少ないため中央厚肉部7aよりも薄肉化でき、しかも薄肉化によって打球時に基部7を十分に撓ませ反発性能を向上させる働きをする。このような観点より、周辺薄肉部7bは、厚さTeを1.9〜2.3mmに設定することが必要であるが、より好適には1.9〜2.1mmに設定されるのが望ましい。1.9mm未満では反発性能には優れるものの耐久性能が悪化し、逆に2.3mmを超えると、この周辺薄肉部7bが撓みにくくなり、反発性能の向上が期待できない。本例ではこの周辺薄肉部7bを実質的に一定の厚さで形成したものを例示しているが、前記数値範囲で変化するようにも構成できる。
【0030】
また周辺薄肉部7bは厚さが小であるため、その面積を大とすると耐久性を損ねやすく、逆に小さすぎても打球時にヘッドを十分に撓ませることが困難となり反発性能の向上を図ることが困難となる。このような観点より、前記垂直断面において周辺薄肉部7bの長さLe1を基部7の端縁7eから3〜10mm(端縁7eからの長さが3〜10mmを意味しており、以下同趣旨である。)とし、しかも前記水平断面において、周辺薄肉部7bの長さLe2を基部7の端縁7eから3〜20mmに設定する。
【0031】
周辺薄肉部7bの前記長さLe1又はLe2が3mm未満の場合、いずれも基部7の撓み量が減少し反発性能の向上が期待できず、逆に前記長さLe1が10mmよりも大の場合、又は前記長さLe2が20mmよりも大の場合、基部7の耐久性能が低下する傾向がある。より好ましくは周辺薄肉部7bの前記長さLe1を5〜10mmとするのが望ましい。また周辺薄肉部7bの前記長さLe2は、より好ましくは5〜20mm、さらに好ましくは10〜20mmとするのが望ましい。
【0032】
また前記周辺薄肉部7bの前記長さLe1においては、クラウン部側とソール部側とで同一としても良く、また違えることもできる。一般にクラウン部側は、ソール部側に比べて剛性が低い。従って、前記周辺薄肉部7bの長さLe1をクラウン部側とソール部側とで違えることによって、剛性をコントロールすることができ、打撃時のフェース部の変形をよりバランス良く向上することができる。
【0033】
同様に周辺薄肉部7bの前記長さLe2においては、トウ側とヒール側とで同一としても良く、また違えることもできる。一般にトウ側はヒール側に比べて剛性が低い。従って周辺薄肉部7bの前記長さLe2をトウ側とヒール側とで違えることによって、剛性をコントロールすることができ、打撃時のフェース部の変形をよりバランス良く向上することができる。
【0034】
なお前記各断面における基部7の端縁7eは、図11に拡大して示す如く、ヘッド1の中空部i側を向く内面における基部7と延長部9(図11ではクラウン部側の延長部9a)との交わり部において、延長部9側の端点X1と基部側の端点X2との間を滑らかに継ぐ継ぎ円弧Rの前記端点X2として定義する。
【0035】
なお基部7は、前記中央厚肉部7aと前記周辺薄肉部7bとの間に、フェース面Fの周縁Eに向かって厚さが滑らかにかつ連続的に漸減する環状の厚さ変化部7cを含む。このように、中央厚肉部7aと周辺薄肉部7bとの間の厚さを滑らかに変化させることによって、剛性段差が生じるのを防ぎ打球時の応力集中を抑制し、さらにフェース部2の耐久性を向上しうる。なお図10には、参考として基部7の厚さの変化を示す等高線図を示している。なお各部の厚さは重み付けした最小自乗法による近似処理を行ったものである。
【0036】
以上のような構成を具えたヘッドは、フェース部2の厚さを種々限定したことにより、耐久性能を損ねることなく反発性能を高め、打球の飛距離を向上することができる。より具体的には、反発係数が0.830以上、より好適には0.840以上、さらに好ましくは0.860〜0.870程度まで高めることができる。
【0037】
また発明者らは、さらなる研究を重ねたところ、前記フェース部材1Aについて特定の加工法を採用することによって前記効果をより高めうることを見出した。具体的には、前記フェース部材1Aに、Ti−4.5Al−3V−2Mo−2Feのチタン合金からなり、かつ800〜880℃の温度で熱間鍛造された後、室温にて冷却された熱間鍛造品を用いることが有効であることを見出した。
【0038】
このような熱間鍛造品からなるフェース部材1Aは、鋳造品に比べて結晶構造が緻密化し、強度を高める他、表面硬さを増すことができる。これはフェース面の耐久性能を悪化させる主な原因である微細なクラック等の初期割れを発生し難くし、これによって耐久性能を大幅に向上できる。
【0039】
チタン合金として、α+β型のチタン合金の1種であるTi−4.5Al−3V−2Mo−2Feを採用したのは、この材料が本発明の目的に最も合致するためである。即ち、α型チタン、例えば、純チタンを採用した場合には、引張強度が小さく打球時の衝撃力に耐えるフェース部材1Aを形成するのが困難となる。またβ型チタンを採用した場合、本例の如く延長部9を一体に有する複雑な形状のフェース部材1Aを鍛造成形する場合、比較的高い温度で一定時間保持した後、加工しなければならない場合が多く、この場合、結晶粒の粗大化、針状化が生じて強度やじん性、疲労強度が低下しやすくなるという不具合がある。なおα+β型チタン合金としては、例えばTi−6Al−4V(6−4チタン)、Ti−3Al−2.5V等も挙げられるが、前者は一般に加工性が悪く、複雑な形状のフェース部材1Aを鍛造成形する場合、900℃以上に加熱する必要があり、加工時のコストが高くなるとともに、表面酸化も促進され易く、この酸化層により疲労亀裂が生じ易いなど好ましくなく、後者のものは加工性はTi−6Al−4Vより向上するものの、材料そのものの絶対強度が不足するため好ましくない。
【0040】
また、前記熱間鍛造の温度は、鍛造時の材料自体の温度を意味する。またこの熱間鍛造時の温度が800℃よりも低くなると、Ti−4.5Al−3V−2Mo−2Feの塑性加工性が低下するため金型等の疲労が大きく生産性が悪化しやすい。逆に熱間鍛造時の温度が880℃よりも高くなると、鍛造時の表面酸化が著しくなって耐久性が低下する。また前記チタン合金のβ変態点が約890℃であるから、これよりも高い温度で加工すると、結晶組織が全てβ相に変態し、その後、冷却によってβ結晶内に針状のα結晶が析出する。β結晶は初析α結晶の50倍以上の大きさであるため、亀裂が伝播し易くなる他、疲労特性が悪化したり、材料の硬さが過度に上昇し、脆くかつ割れやすくなるなどフェース部材1Aの強度不足を招き易く本発明の意図する目的が達成できない。このような観点より、前記熱間鍛造時の温度は、より好ましくは800〜850℃、さらに好ましくは820〜830℃とするのが望ましい。
【0041】
なお熱間鍛造では、例えば板材、丸棒などの塊状の前記チタン合金材料を前記温度に加熱しかつハンマーやプレス型で打撃ないし加圧してフェース部材1Aを得る。このように鍛造により加工されたフェース部材1Aは、前記の如く鋳造に比して緻密な結晶構造が得られ、材料の強度を向上させうる点で好ましく、かつ材料に大きな塑性変形を伴わせることができるため、かかる大きな塑性変形を利用してコ字状ないし略お椀状のフェース部材1Aを容易に成形することが可能になる。特に前記チタン合金を前記温度に加熱して加工する熱間鍛造の場合には、材料の延性がより向上しさらに加工性を高めるのに役立つ。また鍛造における成形法は、例えば自由鍛、型鍛造(開放型、密閉型、或いは半密閉型を含む)、高速鍛造又は等温鍛造など各種のものを含み、素材に圧縮塑性変形を生じさせるものであれば適宜のものが採用できる。好ましくは、鍛造によって得られた素形材の表面に酸化膜(スケール)が生じにくい密閉型型鍛造法を用いるのが望ましい。
【0042】
またフェース部材1Aは、上記熱間鍛造により成形された後、室温にて冷却する必要がある。室温とは、0〜100℃の温度範囲、より好ましくは10〜50℃を意味し、熱間鍛造後、フェース部材1Aを処理炉から取り出し、前記温度雰囲気中で空冷(自然放置)する。なお熱間鍛造は、高温の処理炉内で行われ、従来では炉内に放置し徐冷していたが、この方法では材料が高温で保持されている時間が大となるため、時効効果が大きく材料硬さが大となって打球フィーリングを悪化させやすいなど好ましくない。また、水冷などの急冷も考えられるが、この方法では熱間鍛造時の残留応力が大きくなり、溶接時に歪が生じやすく形状が安定しないという不具合がある。なお空冷中に表面酸化を防止する適宜の手段を施すことも好ましい。
【0043】
また、本発明においては、上記温度で熱間鍛造を行い、しかる後、室温にて空冷するとともに、冷却後、再び800〜880℃の温度で熱間鍛造を行いかつ室温による自然冷却を行うこと、即ち2サイクルの加工を行う。複雑な形状、肉厚を精度良く加工するためには、このような2サイクルにて加工する方が、寸法精度がより向上しうる。また量産性を考慮した場合、形状や肉厚のコントロールによる良劣は、鍛造加工後の後工程での工数に影響するが、2サイクルではこの後工程での工数を削減でき、結果的に加工時間の短縮、精度向上につながる点で好ましい。
【0044】
以上本発明の実施形態について説明したが、クラウン部側の延長部9aとソール部側の延長部9bとで長さを違えることもできる。
【0045】
【実施例】
本発明の効果を確認するために表1の仕様によりのウッド型ゴルフクラブヘッド(#1:ドライバー)を試作し、各種のテストを行った。フェース部材には、Ti−4.5Al−3V−2Mo−2Fe(以後、SP700と称する。日本鋼管(株)社製のα+β型チタン合金でβ変態点890℃である。)及びTi−6Al−4V(β変態点990℃)を用いた。加工条件などは表1に示す通りとした。またヘッド本体はTi−6Al−4Vに統一し、これにTIG溶接にてフェース部材を溶接した。テスト方法は、次の通りである。
【0046】
<耐久テスト1>
各供試ヘッドにFRP製の同一のシャフトを装着しウッド型ゴルフクラブを試作するとともに、該クラブをスイングロボットに取り付け、ヘッドスピードが51m/sとなるように調節して2ピースゴルフボールを各クラブ毎に3000球づつ打撃し、フェース部が破損したときの打球数を調べた。破損しなかったものは「OK」と評価した。
【0047】
<耐久テスト2>
ヘッドスピードを54m/sとし、上記と同様のテストを行った。
【0048】
<反発係数>
前述のU.S.G.A.の Procedure for Measureing the Velocity Ratio of a Club Head for Conformance to Rule 4-1e, Revision 2 (February 8, 1999) に基づき行った。数値が大きいほど反発性能が高く良好である。
テストの結果などを表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
テストの結果、実施例のものは比較例に比べると、強度、反発性能、フィーリングとも良好な結果を示していることが確認できた。特に熱間鍛造、空冷の処理を2階繰り返して行った実施例7、8については、非常に高い耐久性能と反発係数とを実現していることが確認し得た。
【0051】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1ないし3記載の発明では、フェース面の巾、高さを限定するとともに、フェース中心を含む中央厚肉部とその外側の周辺薄肉部の厚さの分布を実験により確かめ得た最適なものとしたことによって、耐久性能を損ねることなく反発性能を向上することができる。
【0052】
また請求項1記載の発明において、フェース部材に特定のチタン合金を用いるとともに、その加工法を限定することによって、さらに反発係数と耐久性能とをバランス良く向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態を示すヘッドの斜視図である。
【図2】その分解斜視図である。
【図3】基準状態のヘッドの正面図である。
【図4】その平面図である。
【図5】(A)〜(C)はフェース面の周縁を説明する線図である。
【図6】ヘッドのフェース中心を通る垂直断面図である。
【図7】ヘッドのフェース中心を通る水平断面図である。
【図8】垂直断面における基部の厚さを示すグラフである。
【図9】水平断面における基部の厚さを示すグラフである。
【図10】基部の厚さの等高線近似図である。
【図11】基部の端縁を説明する拡大断面図である。
【符号の説明】
1 ウッド型ゴルフクラブヘッド
1A フェース部材
1B ヘッド本体
2 フェース部
3 クラウン部
4 ソール部
5 サイド部
6 ネック
7 基部
9 延長部
9a クラウン側の延長部
9b ソール側の延長部
9c トウ側の延長部
9d ヒール側の延長部
F フェース面
Claims (4)
- ボールを打球するフェース面を有するフェース部材と、このフェース部材を固着しかつシャフトが装着されるネック部を一体に具えしかもロストワックス精密鋳造法によって一体成形されるヘッド本体とからなる2ピース構造のゴルフクラブヘッドであって、
前記フェース部材は、前記フェース面を形成する基部と、この基部の裏面からヘッド後方にのびる延長部とを有する椀状をなし、
前記延長部は、クラウン部の一部を形成するクラウン部側の延長部と、ソール部の一部を形成するソール部側の延長部と、サイド部のトウ側部分の一部を形成するトウ側の延長部と、前記サイド部5のヒール側部分の一部を形成するヒール側の延長部とを含むとともに、
前記クラウン部側の延長部は前記ヘッド本体の前記ネック部が嵌まり合う凹部を具え、
かつ規定のライ角、フェース角で水平面に載置した基準状態において、前記フェース面の垂直方向の最大長さであるフェース高さが40〜60mm、かつ前記フェース面の水平方向の最大長さであるフェース巾が70〜110mmであり、
しかも前記基部は、前記フェース高さ及びフェース巾の各中間位置が交差するフェース中心を含みかつ厚さが2.5〜2.9mmである中央厚肉部と、この中央厚肉部を囲む環状をなしかつ厚さが1.9〜2.3mmである周辺薄肉部とを含むとともに、
前記フェース中心を通る垂直断面において、前記中央厚肉部の長さが10〜30mmかつ前記周辺薄肉部の長さが基部の端縁から3〜10mmであり、
しかも前記フェース中心を通る水平断面において、前記中央厚肉部の長さが30〜60mmかつ前記周辺薄肉部の長さが基部の端縁から3〜20mm、
しかも前記フェース部材が、Ti−4.5Al−3V−2Mo−2Feからなり、かつ800〜880℃の温度で熱間鍛造された後、0〜100℃の温度範囲の雰囲気中で冷却された熱間鍛造品からなることにより前記基部と延長部とが一体に構成されるとともに、
前記冷却された熱間鍛造品を、再び800〜880℃の温度で熱間鍛造を行いかつ0〜100℃の温度範囲の雰囲気中で冷却する2サイクル加工を行うことを特徴とするウッド型ゴルフクラブヘッド。 - 前記中央厚肉部の厚さが2.6〜2.8mmかつ前記周辺薄肉部の厚さが1.9〜2.1mmからなるとともに、
前記垂直断面において、中央厚肉部の長さが10〜24mmかつ周辺薄肉部の長さが基部の端縁から5〜10mm であることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。 - 前記水平断面において、中央厚肉部の長さが40〜60 mm かつ周辺薄肉部の長さが基部の端縁から5〜20 mm であることを特徴とする請求項1又は2に記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
- 反発係数が0.840以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
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