JP4086447B2 - 乳入り缶飲料の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、風味の良好な乳入り缶飲料の製法に関する。
【0002】
【従来の技術】
缶容器に封入し製造される乳入りのコーヒー、紅茶、ココア、スープ等の飲料製品は、殺菌処理を行なわなければならない。殺菌方法としては、飲料を缶容器に充填後、容器ごと加熱殺菌するレトルト殺菌法や、飲料を短時間に加熱殺菌し無菌環境下で殺菌処理した缶容器に充填するUHT殺菌法があり、これらの殺菌法を用いて乳入り缶飲料が製造されている。
しかし、レトルト殺菌法及びUHT殺菌法は優れた殺菌効果を有するものであるが、加熱処理することによりしばしば乳タンパク質等の分離、沈殿が生じ、飲料の持つ本来の風味が著しく損なわれることが問題点として認識されている。例えば、乳入りコーヒー缶飲料の場合は、レトルト殺菌における通常の条件、すなわち、124℃、20分間の加熱処理を行なうが、長い時間の殺菌処理による風味の著しい劣化やコーヒー成分が乳成分、糖類等と相互に種々の反応を生じること等が原因で、乳タンパク質を中心とする分離、沈殿が生じる様子が認められる。そして、それらの現象がコーヒー自体の風味を著しく損ない、レギュラーコーヒーとは程遠い風味、味覚となることから、この問題の解決が強く求められている。
【0003】
このように加熱処理工程を必須とするレトルト殺菌法及びUHT殺菌法は、共に缶飲料の種類ごとに設定される一定値以上の殺菌価(F0 値)を満たす殺菌条件を採用するため、当該加熱処理に本質的に由来する沈殿の発生、風味劣化に対し、これを抑止することは必然的な課題となる。
この風味の問題解決のための一般的指針としては、殺菌・除菌実用便覧の第121頁、殺菌・除菌応用ハンドブック第61頁に記載されているように、瞬時に高温処理し、短時間保持することで、食品の品質の劣化をある程度抑制しつつ要求される殺菌効果を達成する方法である。この一般的指針に従った先行技術として、UHT殺菌法を用いた缶飲料の製造がある。
【0004】
特開平3−67548号公報には、コ−ヒ−豆より抽出した液に乳製品を添加し、特定条件下で加熱処理を施し、沈澱を除去することにより、風味や酸味を損なうことなく、且つ沈澱を防止したコ−ヒ−飲料を得る方法が開示されている。この方法は、コ−ヒ−豆より抽出した液に乳製品を添加し、Y=10↑(↑1↑1↑0↑−↑X↑)↑/↑1↑6↑.↑7(X軸は加熱温度℃;Y軸は加熱時間分)の直線の上位部分に属する範囲で加熱処理を施し、例えば、濾布やペ−パ−フイルタ−で濾過して沈澱を除去し、目的のコ−ヒ−飲料を得るというものである。しかし、前記式で特定される非常に広範囲のすべての条件で製造されたコーヒー飲料が風味のよいものであることは考えられず、更に、沈殿を除去するために濾過等の処理を行なうことは、手間が煩雑になりすぎるという大きな欠点がある。
【0005】
次に、特開平10−262620号には、コーヒー飲料を約135℃以上の高温に急速加熱し、約60のF↓0値が得られるような時間高温に保持して、100℃以下に冷却後、容器に充填して容器を約10までのF↓0を得る条件でレトルト処理する滅菌方法が開示されている。しかし、この殺菌方法を用いた缶飲料の製造も冷却工程、沈殿除去工程と手間が煩雑になり過ぎ、また、冷却、沈殿除去を非常に厳格な条件で行なわないと、風味のよい乳入り缶飲料が得られないという欠点があった。
【0006】
一方、レトルト殺菌法を用いた缶飲料製造の技術においては、加熱処理後に沈殿物除去のための濾過等の工程を経ることはできないために、加熱による沈殿発生を防止する目的で飲料溶液にカラギナン、アルギン酸ナトリウム等のゲル化剤をあらかじめ添加する方法が開示されている(特開平8−149952号)。しかし、ゲル化剤の使用により沈殿発生は防止できるものの、コーヒー自体の風味を著しく損なった、レギュラーコーヒーとは程遠い風味のものしか得られないという欠点があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、レトルト殺菌法を用いて、風味、味覚の点で非常に優れた乳入り缶飲料の製造方法及び当該飲料を提供することを目的とする。具体的には、レトルト殺菌法を用いて、良好な乳感を伴ったすぐれた飲料の風味、味覚を有し、さらに清澄感を伴なった高品質の乳入り缶飲料の製造方法及び当該飲料を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意検討を行なった結果、特定の加熱処理条件下でレトルト殺菌を行なうと、風味、味覚の点で非常に優れた乳入り缶飲料が得られることを見出し、本発明に到達した。換言すれば、単なる加熱処理を施した場合に生ずる風味劣化、清澄度の低下等により、レギュラーコーヒーとは程遠い風味、味覚となる乳入り缶飲料におけるこれらの問題点を、限定された特定の温度範囲及び保持時間でレトルト殺菌処理し解決することを特徴とする乳入り缶飲料の製造方法を見出したのである。
【0009】
すなわち、乳入り缶飲料の製造方法に係る本発明の第一は、レトルト殺菌機による加熱処理を、缶容器の中身品温が少なくとも130℃に達するまで1〜5℃/分の昇温加熱を行い、130℃から140℃の範囲で最大8分間行なうことを特徴とする方法である。
また、本発明の第二は、レトルト殺菌機による加熱処理において、110℃から120℃の範囲の一定温度で少なくとも0.5分間加熱処理した後、更に135℃から140℃の範囲で最大8分間加熱処理することを特徴とする方法である。
【0010】
第一の発明による乳入り缶コーヒー飲料の製造方法は、まず、通常の方法で調製したコーヒー抽出液に必要に応じて甘味料、pH調整剤、乳化剤等を添加し、さらに所定の乳を添加して、攪拌調製後、通常の方法で缶容器に充填する。次に、この缶容器をレトルト殺菌機に装填し、中身品温が少なくとも130℃に達するまで1〜5℃/分の昇温を行なう。そして、130〜140℃で最大8分間加熱処理を行なう方法である。
【0011】
次に、第二の発明による乳入り缶コーヒー飲料の製造方法は、まず、通常の方法で調製したコーヒー抽出液に、必要に応じて甘味料、pH調整剤、乳化剤等を添加し、さらに所定の乳を添加して、攪拌調製後、通常の方法で缶容器に充填する。次に、この缶容器をレトルト殺菌機に装填し、中身品温が110〜120℃に達するまで1〜5℃/分の昇温を行なう。そして、少なくとも0.5分間、110〜120℃の範囲内の一定温度に中身品温を保持する。その後、1〜5℃/分昇温して130〜140℃で最大8分間加熱処理を行なう方法である。
このようにして製造された乳入り缶コーヒー飲料は、後述する実施例で示したように、良好なコーヒー感、乳感を伴った風味・味覚の点で非常に優れた性質のものを得ることができ、更に、第二の発明によれば、前記性質に加え沈殿等のない清澄感を伴ったものを得ることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明でいうレトルト殺菌は、100℃を超える温度で加熱処理する方法であって、通常の農産物、水産物の缶詰、レトルト食品及び缶入り飲料などの製品製造に一般的に利用されているものである。基本的には、レトルト(retort)と呼ばれる大型の高圧殺菌釜に容器を収容して、蒸気又は熱水で加熱処理するもので、種々の方法がある。缶飲料の場合、缶を静置して加熱処理する方法、あるいはコンベアで移送しながら加熱処理する方法等があり、いずれのものでも使用することができる。
【0013】
本発明でいう乳入り缶飲料の種類は、コーヒー、ココア、紅茶、スープ等で、乳入りであり且つ缶容器に充填されたものに限定される。すなわち、乳入りコーヒー缶飲料、乳入りココア缶飲料、乳入り紅茶缶飲料、又は乳入りスープ缶飲料である。業界においては、コーヒーの場合、100g中に生豆換算で5g以上のコーヒーを含むものを「コーヒー」、100g中に生豆換算で2.5g以上5g未満のコーヒーを含むものをコーヒー飲料、100g中に生豆換算で2.5g未満のコーヒーを含むものをコーヒー入り清涼飲料とされているが、本発明においては、これらを総称して「コーヒー」とし、このコーヒー抽出液に乳を添加したもの、更に甘味料等を添加した乳入りコーヒーであって缶に充填された乳入りコーヒー缶飲料である。
また、乳入り缶飲料はコーヒー等の抽出液に牛乳等を添加することにより得られるが、ここで、牛乳等とは、加熱処理していない、あるいは、若干の加熱処理がされていてレトルト処理により乳成分の分離、沈殿が生じるようなものをいう。具体的には、生乳、牛乳、濃縮乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂乳等をいう。
【0014】
まず、第一の発明は、常法により、焙煎したコーヒー豆を粉砕し、熱水等により抽出したコーヒー抽出液に牛乳等を適宜添加して乳入りコーヒーを調製する。必要により砂糖、乳糖、ステビア等の甘味料、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤等の原料を更に添加することもできる。炭酸水素ナトリウム等のpH調整剤は、レトルト殺菌後、乳入り缶コーヒー溶液がpH6.0からpH7.0になる量を添加する。次に、自動分注器等を使用して160〜500g/2P缶又は160〜500g/3P缶等の缶に溶液を充填し、レトルト殺菌を行なう。本発明のポイントである加熱条件,すなわち、缶容器の中身品温が少なくとも130℃に達するまで1〜5℃/分の昇温加熱を行なう。130℃に達したならば、130〜140℃の一定の温度範囲で最大8分間加熱処理を行なう。その後、自然冷却又は強制冷却することにより、本発明の乳入り缶コーヒー飲料の製造を行うことができる。
この乳入り缶コーヒー飲料は、良好なコーヒー感、乳感を伴った風味・味覚の点で非常に優れた性質のものである。しかし、前記130〜140℃の温度範囲で最大8分間加熱処理条件を満たさない条件で製造されたものは、必要な殺菌価が得られないか、あるいは目的とする乳入り缶飲料は得られない。
【0015】
次に、第二の発明は、常法により、焙煎したコーヒー豆を粉砕し、熱水等により抽出したコーヒー抽出液に牛乳等を適宜添加して乳入りコーヒーを調製する。必要により砂糖、乳糖、ステビア等の甘味料、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤等の原料を更に添加することもできる。炭酸水素ナトリウム等のpH調整剤は、レトルト殺菌後、乳入り缶コーヒー溶液がpH6.0からpH7.0になる量を添加する。次に、自動分注器等を使用して160〜500g/2P缶又は160〜500g/3P缶等の缶に溶液を充填し、レトルト殺菌を行なう。本発明のポイントである加熱条件、すなわち、缶容器の中身品温が少なくとも110℃に達するまで1〜5℃/分の昇温加熱を行なう。そして、少なくとも0.5分間、110〜120℃の範囲内の一定温度に中身品温を保持する。保持時間は0.5分以上であるなら約12分程度まで保持して差し支えない。その後、1〜5℃/分昇温して130〜140℃で最大8分間加熱処理を行なう。その後、自然冷却又は強制冷却することにより、本発明の乳入り缶コーヒー飲料を製造することができる。
この乳入り缶コーヒー飲料は、良好なコーヒー感、乳感を伴った風味・味覚の点で非常に優れた性質のものであり、更に清澄感を伴う高品質のものが得られる。しかし、130〜140℃の温度範囲で最大8分間の加熱処理条件を満たさない条件で製造されたものは、必要な殺菌価が得られないか、あるいは目的とする乳入り缶飲料は得られない。
【0016】
第一の発明で得られる乳入り缶コーヒー飲料の性質に加え清澄感を伴ったものを得る場合には、第二の発明を利用するのがよい。清澄感が付与される理由は明らかではないが、経験的に、加熱処理による缶飲料内の熱伝導速度が関係しているものと考えられる。すなわち、加熱処理により熱は、缶表面から内部にかけて徐々に伝わるため、最初に缶表面付近の牛乳等の成分が固形分の分離を生じ易い熱環境になる。そして、一定割合の昇温がかかり、中心付近との温度差(缶表面部分の液温が過度に高い状態でヒートショックがかかる)で沈殿が形成される。本発明のレトルト殺菌条件では、通常問題となる量の乳成分の分離・沈殿は生じないが、目視観察できない非常に微量な程度は発生していると考えられる。しかし、少なくとも0.5分間、110〜120℃の範囲内の一定温度に中身品温を保持する操作を行なうことで、缶内部との温度差がなくなり、内容液のヒートショックが緩和されるので、結果として、良好なコーヒー感、乳感を伴った風味・味覚の点で非常に優れた性質に加え、更に清澄感を伴う高品質のものが製造できると考えられる。
この性質は、レギュラーコーヒーが持つ風味と共通する性質である。
【0017】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、これらの実施例及び比較例は、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
焙煎し、粉砕したコーヒー豆を抽出してコーヒー液を得、表1に示す処方にてミルクコーヒーの調合液を定法により作成、飲料缶に充填、密封の後、レトルト殺菌機にて殺菌を行い製品を得た。その際の殺菌条件(温度×時間)を表2に示す水準とした。官能評価についてはミルクコーヒーの評価に熟達した専門パネリスト5名により、各項目にて5段階評価、総合評価については4段階評価の採点法で行い、平均値を算出し、結果を表2に示した。
【0018】
各評価項目の説明
「風味の残存度;コーヒー感」:レギュラーコーヒーのような香り立ちの広がり、香味の上質感。
「風味の残存度;乳感」:牛乳をそのまま飲んだときのフレッシュ感、おいしさ。
「加熱劣化香味;コーヒー感」:加熱後に発生するコーヒー由来の焦げ味、エグ味。
「加熱劣化香味;乳感」:加熱後に発生する乳成分由来のムレ臭、べたつき。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
【実施例2】
焙煎し、粉砕したコーヒー豆を抽出してコーヒー液を得、表3に示す処方にてミルクコーヒーの調合液を定法により作成、飲料缶に充填、密封の後、レトルト殺菌機にて殺菌を行い製品を得た。その際、殺菌工程中の品温推移及び殺菌条件(温度×時間)を表4に示す水準とした。官能評価についてはミルクコーヒーの評価に熟達した専門パネリスト5名により、各項目にて5段階評価、総合評価については4段階評価の採点法で行い、平均値を算出し、結果を表5に示した。各評価項目については実施例1と同様である。
【0022】
【表3】
【0023】
【表4】
【0024】
【表5】
【0025】
【発明の効果】
本発明によれば、食感、乳感を伴った風味・味覚の点で非常に優れ、更に清澄感を伴う高品質の乳入り缶飲料が得られる。
Claims (4)
- レトルト殺菌機による加熱処理を、缶容器の中身品温が少なくとも130℃に達するまで1〜5℃/分の昇温加熱を行い、135℃から140℃の範囲で最大8分間行なうことを特徴とする乳入り缶飲料の製造方法。
- レトルト殺菌機による加熱処理において、110℃から120℃の範囲の一定温度で少なくとも0.5分間加熱処理した後、更に135℃から140℃の範囲で最大8分間加熱処理することを特徴とする乳入り缶飲料の製造方法。
- 乳入り缶飲料が乳入りコーヒーである請求項1又は2記載の製造方法。
- 乳入り缶飲料が乳入り紅茶である請求項1又は2記載の製造方法。
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