JP4084484B2 - スイング式パワーユニット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンと該エンジンの駆動力を駆動輪に伝達する変速機とを一体に備えて車体フレームに揺動自在に支持されるスイング式パワーユニットに関する。
【0002】
【従来の技術】
かかるスイング式パワーユニットは小型の自動二輪車や自動三輪車の簡便な動力源として好適であり、その一例が特許第2649179号公報に開示されている。上記従来のものは、スイング式パワーユニットの前部に配置されたエンジンのシリンダブロックの軸線が車体前方に延びており、かつ剛性の高いエンジンのクランクケースの上面に設けたハンガーブラケットがピボットを介して車体フレームに上下揺動自在に枢支されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところでシリンダブロックの軸線が車体前方に延びているスイング式パワーユニットの場合、前記ピボットの位置がシリンダヘッドから大きく後方に離れていると、スイング式パワーユニットの揺動に伴ってシリンダヘッドが上下方向に大きく移動するため、そのシリンダヘッドがステップフロア等の他部材と干渉し易くなる問題がある。これを回避するには、ピボットの位置をできるだけ前方に移動させてシリンダヘッドに近づければ良いが、特許第2649179号公報のものの如くクランクケースとシリンダブロックとが別部材で構成されていると、ピボットの位置を前方に移動させることが難しいという問題がある。
【0004】
即ち、ピストンおよびシリンダを収納するシリンダブロックに歪みを与えるのを避けるために、大きな荷重が作用するハンガーブラケットは剛性の高いクランクケースに設ける必要があるが、クランクケースとシリンダブロックとが別部材で構成されていると、その割り面の加工を行うためにハンガーブラケットを該割り面を越えてシリンダブロック側に延ばすことができなくなる。従って、クランクケースに設けたハンガーブラケットの前端をシリンダブロックが結合される割り面の後方位置に止めることが必要になり、必然的にピボットの位置が車体後方寄りになって上記問題が発生してしまう。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、スイング式パワーユニットを車体フレームに枢支するためのハンガーブラケットをできるだけ車体前方側に配置できるようにし、シリンダヘッドがステップフロア等の他部材と干渉し難くすることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、自動二輪車や自動三輪車の車体フレームに揺動自在に支持され、エンジンと該エンジンの駆動力を駆動輪に伝達する変速機とを一体に備えたスイング式パワーユニットにおいて、エンジンブロックを、車体前方に延びてシリンダヘッドが結合されるシリンダブロックおよびクランクケースの半部を継ぎ目無く一体化した第1エンジンブロックと、クランクケースの他の半部を含む第2エンジンブロックとに分割するとともに、エンジンをピボットを介して車体フレームに揺動自在に枢支するためのハンガーブラケットを、前記第1エンジンブロックのクランクケースの半部に一体に形成し、ハンガーブラケットは、第1,第2エンジンブロック間の割り面よりも車体前方側で、且つ第1エンジンブロックとシリンダヘッド間の割り面よりも車体後方側に配置されることを特徴とするスイング式パワーユニットが提案される。
【0007】
上記構成によれば、エンジンブロックを第1エンジンブロックおよび第2エンジンブロックに分割し、シリンダブロックおよびクランクケースの半部を含む第1エンジンブロックの前記クランクケースの半部に、エンジンをピボットを介して車体フレームに揺動自在に枢支するためのハンガーブラケットを一体に形成したので、割り面の加工の妨げになることなくピボットの位置をシリンダヘッドに充分に接近させることができる。その結果、エンジンがピボット回りに揺動したときにシリンダヘッドの上下方向の移動範囲が小さくなり、ステップフロア等の他部材との干渉を回避することができる。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、ピボットの直後に位置するようにキャブレタを配置し、このキャブレタとシリンダヘッドとを吸気管で接続したことを特徴とするスイング式パワーユニットが提案される。
【0009】
上記構成によれば、シリンダヘッドに充分に接近して設けられたピボットの直後に位置するようにキャブレタを配置したので、キャブレタとシリンダヘッドとを接続する吸気管の長さを短縮してエンジン出力を高めることができる。
【0010】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1又は2の構成に加えて、第1,第2エンジンブロック間の割り面からピボットまでの距離が、第1エンジンブロックとシリンダヘッド間の割り面からピボットまでの距離よりも長いことを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0012】
図1〜図11は本発明の一実施例を示すもので、図1はスクータ型の自動二輪車の全体側面図、図2は図1の要部拡大図、図3は図2の3−3線断面図、図4は図3の4−4線矢視図、図5は図3の5−5線断面図、図6は図3の6−6線断面図、図7は図3の7−7線断面図、図8は図2の要部拡大図、図9は図8の9−9線断面図、図10はパワーユニットの左側面図、図11はパワーユニットの組み立て時の作用説明図である。
【0013】
図1および図2に示すように、操向ハンドル11により操舵される前輪Wfとスイング式のパワーユニットPにより駆動される後輪Wrとを備えたスクータ型の自動二輪車Vの車体フレームFは、フロントフレーム12、センターフレーム13およびリヤフレーム14に3分割される。フロントフレーム12は、ヘッドパイプ121 、ダウンチューブ122 およびステップフロア支持部123 を一体に備えたアルミ合金の鋳造品から構成される。パワーユニットPがピボット15を介して上下揺動自在に支持されるセンターフレーム13はアルミ合金の鋳造品から構成され、前記フロントフレーム12の後端に結合される。パワーユニットPの後上方に延びるリヤフレーム14は環状のパイプ材から構成され、その上面に燃料タンク16が支持される。センターフレーム13の上面にはヘルメットケース17が支持されており、シート18を一体に有するカバー19によってヘルメットケース17および燃料タンク16が開閉自在に覆われる。
【0014】
パワーユニットPは、シリンダを車体前方に向けて配置した水冷式の単気筒4サイクルエンジンEと、エンジンEの左側面から車体後方に延びるベルト式無段変速機Tとを一体に結合してなり、ベルト式無段変速機Tの後部上面がリヤクッション20を介してセンターフレーム13の後端に結合される。ベルト式無段変速機Tの上面にはエアクリーナ21およびキャブレタ24が支持され、ベルト式無段変速機Tの右側面にはマフラー22が支持され、エンジンEの下面には起立・倒伏可能なメインスタンド23が支持される。またベルト式無段変速機Tの左側面にはキック式スタータ25のキックシャフト26が突出しており、このキックシャフト26の先端にクランク状のキックペダル27が設けられる。
【0015】
図3〜図5から明らかなように、エンジンEは、クランクシャフト31に沿って鉛直方向に延びる割り面P1 により分割された第1エンジンブロック32および第2エンジンブロック33を備えており、第1エンジンブロック32はシリンダブロック321 およびクランクケースの半部322 を構成するとともに、第2エンジンブロック33はクランクケースの他の半部を構成する。第1エンジンブロック32の前端には割り面P2 を介してシリンダヘッド34が結合され、シリンダヘッド34の前端には割り面P3 を介してヘッドカバー35が結合される。第1、第2エンジンブロック32,33の右側面には割り面P4 を介して発電機カバー36が結合される。
【0016】
ベルト式無段変速機Tは、割り面P5 を介して結合された右側の第1変速機ケーシング37および左側の第2変速機ケーシング38を備えており、第1変速機ケーシング37の前部右側面が、第1、第2エンジンブロック32,33の左側面に割り面P6 を介して結合される。また第1変速機ケーシング37の後部右側面には割り面P7 を介して減速機ケーシング39が結合される。
【0017】
図3に示すように、第1エンジンブロック32に内装したシリンダ41の内部に摺動自在に嵌合するピストン42は、コネクティングロッド43を介してクランクシャフト31に連接される。シリンダヘッド34にはカムシャフト44が回転自在に支持されており、シリンダヘッド34に設けた図示せぬ吸気バルブおよび排気バルブが前記カムシャフト44によって開閉駆動される。第1エンジンブロック32に設けたチェーン通路321 内に収納されたタイミングチェーン45が、クランクシャフト31に設けた駆動スプロケット46とカムシャフト44に設けた従動スプロケット47とに巻き掛けられる。従って、クランクシャフト31の2回転につき、カムシャフト44は1回転する。
【0018】
クランクシャフト31の右側に設けられた交流発電機48は前記発電機カバー36により覆われており、その発電機カバー36の右側にラジエータ49が設けられる。ラジエータ49に冷却風を供給すべく、クランクシャフト31の右端に固定された冷却ファン50が交流発電機48およびラジエータ49間に配置される。また内部にサーモスタット51を収納したサーモスタットケース52がシリンダヘッド34の右側面に割り面P8 を介して結合されており、カムシャフト44の右端に設けられた冷却水ポンプ53がシリンダヘッド34およびサーモスタットケース52によって囲まれた空間に収納される。
【0019】
第1変速機ケーシング37および第2変速機ケーシング38の内部に突出するクランクシャフト31の左端に、ベルト式無段変速機Tの入力回転部材である駆動プーリ54が設けられる。駆動プーリ54は、クランクシャフト31に固定された固定側プーリ半体55と、固定側プーリ半体55に対して接近・離間可能な可動側プーリ半体56とを備えており、可動側プーリ半体56はクランクシャフト31の回転数の増加に応じて半径方向外側に移動する遠心ウエイト57によって固定側プーリ半体55に接近する方向に付勢される。
【0020】
第1変速機ケーシング37の後部および減速機ケーシング39間に支持された出力軸58に設けられた従動プーリ59は、出力軸58に相対回転可能に支持された固定側プーリ半体60と、固定側プーリ半体60に対して接近・離間可能な可動側プーリ半体61とを備えており、可動側プーリ半体61はスプリング62で固定側プーリ半体60に向けて付勢されるとともに、固定側プーリ半体60と出力軸58との間に発進用クラッチ63が設けられる。そして駆動プーリ54および従動プーリ59間に無端状のVベルト64が巻き掛けられる。
【0021】
第1変速機ケーシング37および減速機ケーシング39間には前記出力軸58と平行な中間軸65および車軸66が支持されており、これら出力軸58、中間軸65および車軸66間に減速ギヤ列67が設けられる。そして減速機ケーシング39を貫通して右側に突出する車軸66の右端に後輪Wrが設けられる。
【0022】
而して、エンジンEのクランクシャフト31の回転はベルト式無段変速機Tの入力部材である駆動プーリ54に伝達され、その駆動プーリ54からVベルト64、従動プーリ59、発進用クラッチ63および減速ギヤ列67を介して後輪Wrに伝達される。
【0023】
エンジンEの低速回転時には、駆動プーリ54の遠心ウエイト57に作用する遠心力が小さいため、従動プーリ59のスプリング62によって固定側プーリ半体60および可動側プーリ半体61間の溝幅が減少し、変速比はLOWになっている。この状態からクランクシャフト31の回転数が増加すると、遠心ウエイト57に作用する遠心力が増加して駆動プーリ54の固定側プーリ半体55および可動側プーリ半体56間の溝幅が減少し、それに伴って従動プーリ59の固定側プーリ半体60および可動側プーリ半体61間の溝幅が増加するため、変速比はLOWからTOPに向かって無段で変化する。
【0024】
図3および図4から明らかなように、ラジエータ49の前下部とサーモスタットケースカバー521 とが冷却水配管71で接続され、サーモスタットケース52と第1エンジンブロック32とが冷却水配管72で接続され、シリンダヘッド34とラジエータ49の後上部とが冷却水配管73で接続される。
【0025】
エンジンEの暖機運転が完了した状態では、カムシャフト44により駆動される冷却水ポンプ53から排出された冷却水は、サーモスタットケース52および冷却水配管72を経て第1エンジンブロック32およびシリンダヘッド34内のウオータジャケットに供給され、そこを通過する間にエンジンEを冷却した後に冷却水配管73を経てラジエータ49に供給される。そしてラジエータ49を通過する間に温度低下した冷却水は、冷却水配管71およびサーモスタット51を経て前記冷却水ポンプ53に戻される。一方、エンジンEが暖機運転中であって冷却水温度が低いときにはサーモスタット51が作動し、冷却水はラジエータ49を通過することなくエンジンEの内部を循環して速やかに温度上昇する。
【0026】
このように、エンジンEの右側面にラジエータ49、冷却ファン50、サーモスタット51、冷却水ポンプ53、冷却水配管71,72,73等のエンジン冷却用の補機類を集中的に配置したので、組み立て時やメンテナンス時にエンジンEの姿勢を大きく変更することなく前記補機類を一方向から効率よく着脱することが可能となり、しかも冷却水配管71,72,73の長さを最小限に抑えることができる。
【0027】
特に、エンジンEに対してベルト式無段変速機Tが分離可能であるためにエンジンEの運搬や姿勢変更等が容易になるだけでなく、ベルト式無段変速機Tが結合される割り面P6 を下向きにしてエンジンEを支持することにより、前記補機類の着脱が容易なようにエンジンEの姿勢を安定させることができる。またカムシャフト44および冷却水ポンプ53を駆動するタイミングチェーン45もエンジンEの右側面に配置されているため、冷却水ポンプ53の組み付け時にタイミングチェーン45を同時に組み付けることが可能になって作業性が一層向上する。またエンジンブロックおよび変速機ケーシングを分離不能な一体構造とした従来のものに比べて、個々の部品を小型化して鋳造金型のコストを削減することができるだけでなく、複数種類のエンジンおよび複数種類の変速機を種々の態様で組み合わせることが可能になって汎用性が向上する。
【0028】
更に、エンジンブロックをクランクシャフト31の軸線に沿って第1エンジンブロック32および第2エンジンブロック33に2分割し、第1エンジンブロック32側にシリンダ41、ピストン42、コネクティングロッド43およびクランクシャフト31を予め組み付けることができるので、エンジンEの組み立てが容易になる。
【0029】
図3および図5〜図7から明らかなように、第1、第2エンジンブロック32,33と第1変速機ケーシング37とは、第1変速機ケーシング37側から螺入される4本のボルト74,74;75,75によって一体に結合される。第1変速機ケーシング37を第1エンジンブロック32に結合する前側の2本のボルト74,74の頭部と、第1変速機ケーシング37を第2エンジンブロック33に結合する下部後側の1本のボルト75の頭部とはベルト式無段変速機Tの外部に露出しており、また第1変速機ケーシング37を第2エンジンブロック33に結合する上部後側の1本のボルト75の頭部は第2変速機ケーシング38により覆われてベルト式無段変速機Tの外部からは目視不能である。
【0030】
第1、第2エンジンブロック32,33の左側面にはクランクシャフト31を中心とする円形の開口76(図5参照)が形成され、また第1変速機ケーシング37にもクランクシャフト31を中心とする円形の開口77(図6および図7参照)が形成される。第1、第2エンジンブロック32,33および第1変速機ケーシング37を結合するとき、第1、第2エンジンブロック32,33の開口76の周縁に形成した環状の座部78と、第1変速機ケーシング37の開口77の周縁に形成した環状の座部79とが、環状のシール部材80(図3参照)を介して当接する。第1変速機ケーシング37の開口77の直径は、ベルト式無段変速機Tの駆動プーリ54の最大外径よりも僅かに大きくなっており、従って駆動プーリ54は第1変速機ケーシング37の開口77を通過可能である。
【0031】
また第1エンジンブロック32および第1変速機ケーシング37には前側の2本のボルト74,74が貫通する各2個のボス部81,81;82,82が突設されるとともに、第2エンジンブロック33および第1変速機ケーシング37には後側の2本のボルト75,75が貫通する各2個のボス部83,83;84,84が突設される。
【0032】
従って、第1、第2エンジンブロック32,33を4本のボルト74,74;75,75で第1変速機ケーシング37に結合するとき、第1、第2エンジンブロック32,33の4個のボス部81,81;83,83が第1変速機ケーシング37の4個のボス部82,82;84,84にそれぞれ当接する。尚、図5および図6において、第1、第2エンジンブロック32,33および第1変速機ケーシング37の相互に当接する部分が網目で示されている。
【0033】
而して、相互に当接する第1、第2エンジンブロック32,33の座部78および第1変速機ケーシング37の座部79と、相互に当接する第1、第2エンジンブロック32,33のボス部81,81;83,83および第1変速機ケーシング37のボス部82,82;84,84との間に、断熱空気層を構成する空間S(図3参照)が形成される。このように、第1、第2エンジンブロック32,33と第1変速機ケーシング37との間に断熱空気層を構成する空間Sを形成することにより、エンジンEの熱がベルト式無段変速機Tに伝達されるのを防止し、ベルト式無段変速機Tの冷却機能を特別に高めることなく熱に弱いVベルト64の耐久性を確保することができる。
【0034】
また図11に示すように、パワーユニットPを組み立てる際に、予めサブアセンブリとして組み立てたエンジンEのクランクシャフト31にベルト式無段変速機Tの駆動プーリ54を組み付けておき、その後に第1、第2エンジンブロック32,33と第1変速機ケーシング37とを4本のボルト74,74;75,75で結合する。このとき、第1変速機ケーシング37の開口77の直径はクランクシャフト31に組み付けた駆動プーリ54の最大外径よりも大きいため、第1、第2エンジンブロック32,33と第1変速機ケーシング37とを支障なく結合することが可能となって組み付け性が向上する。
【0035】
図2および図3から明らかなように、キック式スタータ25のキックシャフト26およびスタータシャフト85は車体外側に位置する第2変速機ケーシング38に片持ち状に支持されており、キックシャフト26は第2変速機ケーシング38から外部に突出するとともに、スタータシャフト85はクランクシャフト31の軸端に同軸に対向する。スプリング86で原位置に向けて付勢されたキックシャフト26に固定されたセクタギヤ87は、スタータシャフト85に一体に形成したピニオン88に噛合する。スタータシャフト86はクランクシャフト31に対して軸方向に接近・離反可能に支持されており、スプリング89に抗してクランクシャフト31に接近したときに該クランクシャフト31の軸端に噛合可能である。
【0036】
而して、キックペダル27をキックするとキックシャフト26の回転がセクタギヤ97およびピニオン88を介してスタータシャフト85に伝達され、スタータシャフト85が回転しながら軸方向に移動してクランクシャフト31の軸端に噛合する。その結果、スタータシャフト85によってクランクシャフト31がクランキングされてエンジンEが始動する。
【0037】
キックシャフト26を車体外側に位置する第2変速機ケーシング38に片持ち状に支持したことにより、第1、第2変速機ケーシング37,38内に収納したVベルト64とキックシャフト26とが干渉する虞がなくなるため、キックシャフト26の位置を充分に上方に移動させることができる。図2から明らかなように、キックシャフト26の位置は、ベルト式無段変速機Tの駆動プーリ54の中心(クランクシャフト31の軸心)と従動プーリ59の中心(出力軸58の軸心)とを結ぶ線分L1 よりも上方、かつ駆動プーリ54の中心を通って路面と平行な直線L2 よりも上方に配置されており、側面視でVベルト64と重なっているが、それを第2変速機ケーシング38に片持ち状に支持したためにVベルト64と干渉することはない(図3参照)。
【0038】
図7に示すように、第1、第2変速機ケーシング37,38の上面の一部が上方に張り出して張出部90を構成しており、この張出部90に位置する第1ケーシング37の内面に、該第1変速機ケーシング37を第2エンジンブロック33に結合する上側のボルト75を挿入するボス部84が配置される。またキックペダル27をキックしてキックシャフト26と共にセクタギヤ97が図7の時計方向に回転したとき、このセクタギヤ97は前記張出部90内に収納されて第1、第2変速機ケーシング37,38の上壁との干渉が防止される。このように、第1、第2変速機ケーシング37,38の上面の張出部90を利用して前記上側のボルト75のボス部84およびキック式スタータ25のセクタギヤ97を収納したので、第1、第2変速機ケーシング37,38の大型化を最小限に抑えながらボス部84およびセクタギヤ97をコンパクトに配置することができる。
【0039】
図8および図9に示すように、センターフレーム13にゴムブッシュ91,91を介して支持した左右一対のボルト92,92に、左右のリンクプレート93,94が揺動自在に枢支される。車体左側のリンクプレート93の外側面に設けた2個のボックス状のストッパラバー支持部材95,95にストッパラバー96,96がそれぞれ装着され、またセンターフレーム13に前記ストッパラバー96,96がそれぞれ当接する2個の受け面131 ,132 が形成される。左右のリンクプレート93,94は連結ロッド97および前記ピボット15で一体に連結されており、シリンダブロック321 およびクランクケースの半部322 が一体に形成された第1エンジンブロック32の前記クランクケースの半部322 の上面から前上方に突出する右ハンガーブラケット98R(図5参照)と、第1変速機ケーシング37の上面から前上方に突出する左ハンガーブラケット98L(図6参照)とが、前記ピボット15にそれぞれゴムブッシュ99,99を介して支持される。
【0040】
前記ハンガーブラケット98Rは、第1,第2エンジンブロック32,33間の割り面P 1 よりも車体前方側で、且つ第1エンジンブロック32とシリンダヘッド34間の割り面P 2 よりも車体後方側に配置されている。しかも第1,第2エンジンブロック32,33間の割り面P 1 からピボット15までの距離が、第1エンジンブロック32とシリンダヘッド34間の割り面P 2 からピボット15までの距離よりも長くなっている。
【0041】
而して、パワーユニットPから左右のハンガーブラケット98L,98Rを介してピボット15に入力された荷重は、ピボット15を支持するゴムブッシュ99,99の弾性変形により吸収されるとともに、リンクプレート93,94がボルト92,92回りに揺動してストッパラバー96,96がセンターフレーム13の受け面131 ,132 に押し付けられて弾性変形することにより吸収される。また前記荷重はボルト92,92をセンターフレーム13に支持するゴムブッシュ91,91の弾性変形によっても吸収される。
【0042】
図5から明らかなように、シリンダブロック321 と一体に形成したクランクケースの半部322 に右ハンガーブラケット98Rを一体に形成したので、その右ハンガーブラケット98Rをシリンダブロック321 の上方に張り出してシリンダヘッド34が結合される割り面P2 に充分に接近させることができる。
【0043】
なぜならば、シリンダブロックとクランクケースとを別部材で構成して割り面で結合したと仮定すると、クランクケースの前記割り面を加工する都合上から、該クランクケースに設けたハンガーブラケットを前記割り面を越えてシリンダブロック側に延ばすことができず、従ってハンガーブラケットをシリンダブロックの上方に張り出してシリンダヘッドに接近させることができないからである。
【0044】
尚、第1変速機ケーシング37に設けた左ハンガーブラケット98Lは、車体前方側に任意に延ばすことができるため、前記右ハンガーブラケット98Rに対して左右対称に形成される。
【0045】
以上のように、クランクシャフト31の軸線から前方に測ったピボット15までのを距離d(図5参照)を充分に大きく確保できるので、ピボット15からエンジンEの前端のシリンダヘッド34部分までの距離が小さくなり、パワーユニットPがピボット15回りに上下に揺動した際にエンジンEのシリンダヘッド34部分の上下方向の移動範囲が小さくなる。その結果、エンジンEの前部が車体のステップフロア等の他部材との干渉するのを効果的に回避することが可能となる。
【0046】
また、図2および図10から明らかなように、ヘルメットケース17および左右のハンガーブラケット98L,98R間に挟まれるように配置されたキャブレタ24はピボット15の直後に位置している。而して、左右のハンガーブラケット98L,98Rおよびピボット15がシリンダヘッド34に接近して設けられていることにより、キャブレタ24の位置をシリンダヘッド34に接近させることができる。その結果、キャブレタ24とシリンダヘッド34とを接続する吸気管40の長さを短縮して吸気抵抗を低減し、エンジンEの出力向上に寄与することができる。
【0047】
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0048】
例えば、実施例では自動二輪車Vのスイング式パワーユニットPを例示したが、本発明のスイング式パワーユニットPは自動三輪車に対しても適用することができる。また実施例では第1、第2エンジンブロック32,33に対して第1変速機ケーシング37を分離可能としているが、エンジンブロックおよび変速機ケーシングを分離不能に一体化することができる。また実施例では右ハンガーブラケット98Rだけを第1エンジンブロック32に設けているが、左右のハンガーブラケット98L,98Rを何れも第1エンジンブロック32に設けることができる。
【0049】
【発明の効果】
以上のように請求項1に記載された発明によれば、エンジンブロックを第1エンジンブロックおよび第2エンジンブロックに分割し、シリンダブロックおよびクランクケースの半部を継ぎ目無く一体化した第1エンジンブロックにおけるクランクケース半部に、エンジンをピボットを介して車体フレームに揺動自在に枢支するためのハンガーブラケットを一体に形成し、ハンガーブラケットは、第1,第2エンジンブロック間の割り面よりも車体前方側で、且つ第1エンジンブロックとシリンダヘッド間の割り面よりも車体後方側に配置されるので、各割り面の加工の妨げになることなくピボットの位置をシリンダヘッドに充分に接近させることができる。その結果、エンジンがピボット回りに揺動したときにシリンダヘッドの上下方向の移動範囲が小さくなり、ステップフロア等の他部材との干渉を回避することができる。
【0050】
また請求項2に記載された発明によれば、シリンダヘッドに充分に接近して設けられたピボットの直後に位置するようにキャブレタを配置したので、キャブレタとシリンダヘッドとを接続する吸気管の長さを短縮してエンジン出力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 スクータ型の自動二輪車の全体側面図
【図2】 図1の要部拡大図
【図3】 図2の3−3線断面図
【図4】 図3の4−4線矢視図
【図5】 図3の5−5線断面図
【図6】 図3の6−6線断面図
【図7】 図3の7−7線断面図
【図8】 図2の要部拡大図
【図9】 図8の9−9線断面図
【図10】 パワーユニットの左側面図
【図11】 パワーユニットの組み立て時の作用説明図
【符号の説明】
E エンジン
F 車体フレーム
P 1 ,P 2 割り面
T ベルト式無段変速機(変速機)
Wr 後輪(駆動輪)
15 ピボット
24 キャブレタ
32 第1エンジンブロック(エンジンブロック)
321 シリンダブロック
322 クランクケースの半部
33 第2エンジンブロック(エンジンブロック)
34 シリンダヘッド
40 吸気管
98R 右ハンガーブラケット(ハンガーブラケット)
Claims (3)
- 自動二輪車や自動三輪車の車体フレーム(F)に揺動自在に支持され、エンジン(E)と該エンジン(E)の駆動力を駆動輪(Wr)に伝達する変速機(T)とを一体に備えたスイング式パワーユニットにおいて、
エンジンブロック(32,33)を、車体前方に延びてシリンダヘッド(34)が結合されるシリンダブロック(321 )およびクランクケースの半部(322 )を継ぎ目無く一体化した第1エンジンブロック(32)と、クランクケースの他の半部を含む第2エンジンブロック(33)とに分割するとともに、エンジン(E)をピボット(15)を介して車体フレーム(F)に揺動自在に枢支するためのハンガーブラケット(98R)を、前記第1エンジンブロック(32)のクランクケースの半部(322 )に一体に形成し、
ハンガーブラケット(98R)は、第1,第2エンジンブロック(32,33)間の割り面(P 1 )よりも車体前方側で、且つ第1エンジンブロック(32)とシリンダヘッド(34)間の割り面(P 2 )よりも車体後方側に配置されることを特徴とするスイング式パワーユニット。 - ピボット(15)の直後に位置するようにキャブレタ(24)を配置し、このキャブレタ(24)とシリンダヘッド(34)とを吸気管(40)で接続したことを特徴とする、請求項1に記載のスイング式パワーユニット。
- 第1,第2エンジンブロック(32,33)間の割り面(P 1 )からピボット(15)までの距離が、第1エンジンブロック(32)とシリンダヘッド(34)間の割り面(P 2 )からピボット(15)までの距離よりも長いことを特徴とする、請求項1又は2に記載のスイング式パワーユニット。
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