JP4084476B2 - 積層シートの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,シートを貼り合わせて積層シートを製造する方法に関する。さらに詳細には,貼り合わせ後に反りやねじれが生じないようにした積層シートの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から,複数層の樹脂シートを貼り合わせた積層シートが,配線基板やICカード等の用途に使用されている。このような積層シートは,図9に示すように,長尺状の樹脂シート(単シート)をロール状に巻回したシートロール1から切片2A〜2Fを切り出し,切り出された切片同士を貼り合わせることによって製造される。さらに,シートロール1から切り出された切片以外のシートをも貼り合わせることもある。また,貼り合わせの層間には,配線パターン等が挟み込まれる。この配線パターン等は通常,シートにおける層間となる面にあらかじめ形成される。シートの貼り合わせは通常,80℃程度の温度でなされる。
【0003】
このような積層シートには,図10に示すような反りが生じやすい傾向がある。このため平坦なものはなかなか得難いのである。積層シートの構成要素であるシートの切片に,シートロールとして巻回されていた状態での巻き癖が残るからである。特に,積層シートが後にICの実装や塗装などのために再加熱されるときに反りが顕著に現れることが多い。このため,切片を貼り合わせる際に,巻き癖を相殺するため,シートロールにおいて内面であった面同士,または外面であった面同士が対面するように重ね合わせる等の工夫がなされていた。ここで,3枚,あるいはさらに多数の切片を貼り合わせる場合もあった。単に2枚の切片を上記のように貼り合わせるだけでは,なかなか完全には反りを防止できないからである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,積層シートの変形は,意外なほど複雑な現象であり,図10のような反りばかりでなく,図11に示すようなねじれもある。このねじれは,シートロールにおける巻き癖に起因するものではない。このため,上記の手法のように単に巻き癖を相殺するだけでは防止できないのである。
【0005】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点の解決を目的としてなされたものである。すなわちその課題とするところは,シートを貼り合わせて積層シートを製造するに際し,積層シートにねじれが生じないようにすることにある。特に,当該積層シートが後に加熱を受けることがあってもねじれが生じないような製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この課題を解決するためになされた本発明に係る積層シートの製造方法では,シートをロール状に巻回してなるシートロールにおける幅方向の中央に対する同一の側から2枚の切片を切り出し,その2枚の切片を,シートロールにおける幅方向同士が一致し,シートロールにおける内側の面と外側の面とが対面するようしつつ,もう1枚のシートとともに,反りの傾向が2枚の切片ともう1枚のシートとで逆向きになるように重ね合わせて,2枚の切片と前記もう1枚のシートとを貼り合わせる。
【0007】
この製造方法により製造される積層シートにねじれが生じない理由は,次のように推察される。まず,現在考えられているねじれの原因を説明する。シートロールとして巻回されている長尺状のシートは通常,樹脂等の原材料のインゴットを2軸圧延して製造される。その際の縦横両方向の圧下率の比は,1:1からほど遠い。また,シートのいかなる場所でも均一であるとは限らない。このため,シートにおいては(特に幅方向の中央以外の部分),実際の圧延方向が直交していないと考えられる。このことは,2軸圧延の過程には,シート中の長方形の領域を,傾斜した平行四辺形の領域に変化させる変形(以下,これを「斜交変形」と呼ぶこととする)が含まれることを意味する。そして,この斜交変形に伴う応力が,シートロール中のシートには残留していると考えられる。このため,積層シートが後に加熱される際に,斜交変形の分が元に戻ろうとして,ねじれの原因となると考えられる。
【0008】
この製造方法では,シートロールにおける幅方向の中央に対する同一の側から切り出された2枚の切片が用いられる。これらは,2軸圧延時に同じ向きの斜交変形を受けている。したがってこれらを,シートロールにおける幅方向同士が一致し(長手方向同士を一致させても同じことである),シートロールにおける内側の面と外側の面とが対面するように貼り合わせて積層シートとすればよい。かくして製造された積層シートでは,後に加熱される等の際に切片の斜交変形が元に戻ろうとすると,次のようなことが起こる。すなわち,一方の切片が他の切片を厚さ方向に引っ張ろうとする位置では,逆に他の切片も一方の切片を引っ張ろうとする。また,一方の切片が他の切片を厚さ方向に押しつけようとする位置では,逆に他の切片も一方の切片を押しつけようとする。このように両切片の変形が相殺されるので,ねじれが防止される。
【0009】
あるいは,本発明に係る積層シートの製造方法では,2軸圧延後にスライスされていないシートロールにおける幅方向の中央に対する異なる側から各1枚の切片を切り出し,回路パターンを形成したシート,または,ICチップを搭載したシートであるもう1枚のシートを用意し,これらの切片を,シートロールにおける幅方向同士が一致し,シートロールにおける内側の面同士もしくは外側の面同士が対面しつつ,もう1枚のシートとともに重ね合わせ,各切片ともう1枚のシートとを貼り合わせてもよい。
【0010】
この場合の製造方法では,シートロールにおける幅方向の中央に対する異なる側から切り出された2枚の切片が用いられる。これらは,2軸圧延時に逆向きの斜交変形を受けている。したがってこれらを,シートロールにおける幅方向同士が一致し,シートロールにおける内側の面同士もしくは外側の面同士が対面するように貼り合わせて積層シートとすればよい。かくして製造された積層シートでは,後に加熱される等の際に切片の斜交変形が元に戻ろうとすると,次のようなことが起こる。すなわち,一方の切片が他の切片を厚さ方向に引っ張ろうとする位置では,逆に他の切片も一方の切片を引っ張ろうとする。また,一方の切片が他の切片を厚さ方向に押しつけようとする位置では,逆に他の切片も一方の切片を押しつけようとする。このように両切片の変形が相殺されるので,ねじれが防止される。
【0011】
また,本発明に係る積層シートの製造方法においては,貼り合わせる各切片を同一のシートロールから切り出して使用することが望ましい。こうすると,前述の効果が確実に得られるからである。さらに好ましくは,貼り合わせる各切片を同一のシートロールにおける幅方向の中央から同じ距離の位置(同じ位置もしくは対称位置)から切り出して使用することが望ましい。同一のシートロールにおける幅方向の中央からの距離が同じであれば,斜交変形の程度がほぼ均一と考えられるからである
【0012】
【発明の実施の形態】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,図面を参照しつつ詳細に説明する。本実施の形態は,樹脂製シートの切片をラミネートして積層シートを製造する方法である。
【0013】
[第1の形態]
第1の実施の形態では,出発材料として,図9に示したようなポリエステル樹脂製のシートロール(以下,「大ロール」という)1から切り出された切片シート2A〜2Fのいずれか1つ(どれでもよい,以下の説明では切片シート2Aを用いる)を使用する。原材料である大ロール1の幅Wは,ここでは1mとする。また,シート厚は,0.2mmとする。ここでは,1つの大ロール1を幅方向に6等分して6本の切片シート2A〜2Fを得るものとする。したがって各切片シート2A〜2Fの幅は,約16.7cmである。
【0014】
まず,切片シート2A(他の切片シート2B〜2Fも同じ)について,図1により説明する。切片シート2Aは図1に示すように長尺状のシートである。この切片シート2Aについて,以下,各部分を次のように称する。まず,長手方向については,一方をTPといい,他方をBTという。TPは,大ロール1における先端(最外端)に対応する。対してBTは,大ロール1における後端(最内端)に対応する。次に幅方向については,一方の辺をOPといい,他方の辺をDRという。OPは,大ロール1においても辺であった箇所である。対してDRは,大ロール1における隣の切片シート2Bと切断された箇所である。そして厚み方向については,一方の面をINといい,他方の面をOUTという。INは,大ロール1において巻きの内側になっていた面である。対してOUTは,大ロール1において巻きの外側になっていた面である。
【0015】
そして,図1の切片シート2Aを,図2に示すように長手方向に2分して,切片シート2A1および切片シート2A2を得る。切片シート2A1および切片シート2A2についても,切片シート2Aと同様にTP,BT,OP,DR,IN,OUT,の各部位記号を用いる。
【0016】
また,切片シート2A1および切片シート2A2とは別に,もう1枚のシートを準備しておく。もう1枚のシートには,必要に応じて回路パターンを形成したりICチップを搭載したりしておく。
【0017】
そして,図3に示すように,切片シート2A1と切片シート2A2ともう1枚のシート3とを重ね合わせてラミネートする。このときにおける切片シート2A1と切片シート2A2との重ね合わせ方は,一方のIN面と他方のOUT面とを対面させ,また両シートのTP同士およびBT同士を一致させる。したがって両シートのOP同士およびDR同士も一致する。すなわち,両シートの幅方向は互いに平行である。なお,両シートのTP同士およびBT同士を一致させる代わりに,切片シート2A1と切片シート2A2との一方を面内に180°回して,両シートのTPとBTとを互いに逆にしてもよい。この場合には両シートのOPとDRとも互いに逆になる。
【0018】
そして,重ね合わせた状態で80℃程度の熱処理を施すと,3枚のシートが一体化して積層シート4が得られる(図4)。この積層シート4は,適当なサイズに裁断されてプリペイドカードや電子マネー等の用途に用いられる。
【0019】
かくして得られた積層シート4は,従来の積層シートと異なり,図11のようなねじれを起こすことがない。この積層シート4は,後に塗装等のために再度加熱されることとなるが,それでもねじれを起こさない。その理由は,ラミネート時における切片シート2A1および2A2の重ね合わせ方を前述のようにしていることにある。以下,これを詳細に説明する。
【0020】
そのためにまず,大ロール1の特性を説明する。大ロール1として巻回されている長尺状のシートは,ポリエステル樹脂のインゴットを2軸圧延して製造される。その際,図5に示すように,TP−BT方向(長手方向)には非常に大きな圧下率で延伸されているが,OP−DR方向(幅方向)の圧下率はさほど大きくない。このように縦横両方向の圧下率の比は,1:1からほど遠い。また,その比は,微視的にはシートの幅方向位置により異なると考えられる。このため,シートにおいては(特に幅方向の中央以外の部分),実際の圧延方向が直交していないと考えられる。このため,2軸圧延されたシートは,その過程で図6に示すような斜交変形(図6の(a)→(b),図6は誇張して描いている)を受けていると考えられる。そしてシートには,この斜交変形に伴う応力が残留していると考えられる。
【0021】
このため,後に加熱される際に,斜交変形の分が回復しようとすると考えられる。このような回復が,積層されていない単独のシートについて起これば,長方形のシートが傾いた平行四辺形に変化する変形(図6の(c)→(d))として現れる。しかし積層シート中のシートの場合には,他のシートと面状に接合されているためにこのような変形ができない。このため当該シートが厚み方向に変形して,図11のようなねじれを起こすと考えられる。これは,図6の(d)で鋭角をなしている箇所Aと鈍角をなしている箇所Oとでは,積層シートにおいて厚み方向に外に出ようとするか内に入ろうとするかの傾向が異なるからであると考えられる。
【0022】
ところが積層シート4においては,切片シート2A1および2A2が前述のように重ね合わせられている。このため,図7に模式的に示すように,切片シート2A1および2A2の一方が他のシートを厚さ方向に引っ張ろうとする位置(G,I)では,他方も他のシートを引っ張ろうとする。また,一方が他のシートを厚さ方向に押しつけようとする位置(H,J)では,他方も他のシートを押しつけようとする。このように両シートの変形が互いに相殺しあうので,積層シート4全体としてはねじれが防止される。
【0023】
もし,重ね合わせ方を間違えて,切片シート2A1と2A2との一方を裏返した状態でラミネートしてしまうと,逆に各箇所での変形が倍加されてしまう。そうすると,積層シートに顕著なねじれが生じてしまうのである。本実施の形態の積層シート4においては,切片シート2A1と2A2とを前述のように重ね合わせてラミネートすることにより,そのような事態を防いでいる。
【0024】
なお,積層シートに起こりうる変形としては前述のようにねじれの他に,図10のような反りもある。これは切片シート2A1および2A2ともう1枚のシート3との関係で解消すればよい。すなわち,図3の重ね合わせ方では,切片シート2A1および2A2は,反りに関しては明らかに同じ向きの傾向を有している。したがって,シート3の反りの傾向がこれと逆向きになるように重ね合わせればよい。
【0025】
[第2の形態]
第2の実施の形態では,大ロール1から切り出された切片シート2A〜2Fのうち,幅方向に対称位置にある2つ(2Aと2F,2Bと2E,等,以下の説明では2Aと2Fを用いる)を使用する。また,これらとは別のもう1枚のシートをも使用する。
【0026】
そして,図8に示すように,切片シート2Aと切片シート2Fともう1枚のシート3とを重ね合わせてラミネートする。このときにおける切片シート2Aと切片シート2Fとの重ね合わせ方は,両シートのOUT面同士を対面させ(IN面同士を対面させてもよい),また両シートのTP同士およびBT同士も一致させる。したがって両シートのOPとDRとは互いに逆になる。なお,TP同士およびBT同士を一致させる代わりに,切片シート2Aと切片シート2との一方を面内に180°回して,両シートのOP同士およびDR同士を一致させてもよい。この場合には両シートのTPとBTとが互いに逆になる。
【0027】
そして,重ね合わせた状態で第1の形態の場合と同様に3枚のシートが一体化させられる。これにより,図4に示したものと同様の積層シートが得られる。かくして得られた積層シートも,第1の形態の場合の積層シート4と同様に,図11のようなねじれを起こすことがない。その理由は以下の通りである。切片シート2Aと切片シート2Fとでは,2軸圧延時における斜交変形は互いに逆向きである。このため,回復時の変形も互いに逆向きである。しかし図8の重ね合わせ方では,切片シート2Aと切片シート2Fとが互いに裏返しである。このため結局,図7の場合と同様に,両シートの変形が互いに相殺しあうので,積層シート全体としてはねじれが防止される。
【0028】
もし,重ね合わせ方を間違えて,切片シート2Aと切片シート2Fとの裏表の向きが一致した状態でラミネートしてしまうと,逆に各箇所での変形が倍加されてしまう。そうすると,積層シートに顕著なねじれが生じてしまうのである。本実施の形態の積層シートにおいては,切片シート2Aと切片シート2Fとを前述のように重ね合わせてラミネートすることにより,そのような事態を防いでいる。
【0029】
なお,図8の重ね合わせ方では,切片シート2Aと切片シート2Fとは,反りに関しても互いに逆向きの傾向を有している。したがって,積層シート全体としては,ねじればかりでなく反りも防止されている。
【0030】
ただし,本実施の形態を実施するためには,大ロール1として,2軸圧延後にスライスされていないものを用いなければならない。一般的には,2軸圧延直後の元ロールが6m程度の幅を有しており,これを1m幅ずつにスライスして得た大ロール1が,樹脂材メーカから提供されている場合が多い。このような場合に本実施の形態を実施するためには,元の6m幅ロールにおける対称位置から採取した切片シートを重ね合わせなければならない。だがこれは現実的ではない。
【0031】
以上詳細に説明したように前述の各実施の形態では,切片シートがその製造段階で受けている斜交変形の向きを考慮して,回復時の変形が表裏で互いに相殺されるように,切片シート2A1と2A2と(または2Aと2Fと)を重ね合わせてラミネートするようにしている。これにより,ラミネート後に熱処理等を受けてもねじれ変形を起こすことがない積層シートの製造方法が実現されている。
【0032】
なお,前述の各実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,ラミネートするシートの総数はもっと多くてもよい。
【0033】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように本発明によれば,シートを貼り合わせて積層シートを製造するに際し,積層シートにねじれが生じない製造方法が提供されている。また,当該積層シートが後に加熱を受けることがあってもねじれが生じないようにされている。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態に係る積層シートの製造方法に使用される切片シートの説明図である。
【図2】切片シートの分割を示す図である。
【図3】第1の実施の形態におけるシートの重ね合わせ方を示す説明図である。
【図4】積層シートを示す図である。
【図5】シートが製造段階で受ける2軸圧延を模式的に示す図である。
【図6】2軸圧延に起因する斜交変形およびその回復に伴う変形を模式的に示す図である。
【図7】本発明の製造方法で製造された積層シートにおいてねじれ変形が防止される理由を説明する模式図である。
【図8】第2の実施の形態におけるシートの重ね合わせ方を示す説明図である。
【図9】シートロール(大ロール)から切片シートを切り出す様子を示す図である。
【図10】積層シートの反りを示す図である。
【図11】積層シートのねじれを示す図である。
【符号の説明】
1 大ロール
2A〜2F,2A1,2A2 切片シート
3 他のシート
4 積層シート
IN 内面
OUT 外面

Claims (3)

  1. シートをロール状に巻回してなるシートロールにおける幅方向の中央に対する同一の側から2枚の切片を切り出し,
    前記2枚の切片を,
    シートロールにおける幅方向同士が一致し,
    シートロールにおける内側の面と外側の面とが対面するようにしつつ,
    もう1枚のシートとともに,反りの傾向が前記2枚の切片と前記もう1枚のシートとで逆向きになるように重ね合わせて,
    前記2枚の切片と前記もう1枚のシートとを貼り合わせることを特徴とする積層シートの製造方法。
  2. 2軸圧延後にスライスされていないシートをロール状に巻回してなるシートロールにおける幅方向の中央に対する異なる側から各1枚の切片を切り出し,
    回路パターンを形成したシート,または,ICチップを搭載したシートであるもう1枚のシートを用意し,
    前記各切片を,
    シートロールにおける幅方向同士が一致し,
    シートロールにおける内側の面同士もしくは外側の面同士が対面するようにしつつ,前記もう1枚のシートとともに重ね合わせ,
    前記各切片と前記もう1枚のシートとを貼り合わせることを特徴とする積層シートの製造方法。
  3. 請求項1または請求項2に記載する積層シートの製造方法において,
    前記各切片を同一のシートロールから切り出して貼り合わせることを特徴とする積層シートの製造方法。
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