JP4080066B2 - 偏心レンズ用金型 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラスチックで形成された偏心レンズ(プリズムレンズ)を得る上で有用な偏心レンズ用金型に関する。
【0002】
【従来の技術】
紫外線などの光線、特にオゾン層の破壊による有害光線による悪影響を回避するため、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いたプラスチックレンズを有するサングラスなどが利用されている。また、スポーツ分野においても、紫外線の強いウインタースポーツのみならず、マラソン,自転車競技などにもサングラスが利用されている。これらのスポーツ用サングラスでは、空気抵抗を低減するため、顔面に対して傾斜したサングラスが比較的多く利用される。
【0003】
なお、光学軸がレンズの中心に位置する一般的なサングラスでは、前記光学軸を中心にしてレンズをカットし、カットされた製品レンズを顔面に対して平行なフレームに装着している。そのため、このようなレンズを、顔面に対して傾斜したスポーツ用フレームに装着すると、顔面に対して垂直に入射する光がプリズム作用により、実像と、レンズを通して見た物体との位置関係にずれが生じる。そのため、俊敏又は高速で競技し、瞬間的に対象物の位置関係を判断するようなスポーツ用サングラスとしては適さない。
【0004】
顔面に対して傾斜したフレームが用いられるスポーツ用サングラスにおいては、顔面に対して垂直に入射する光線がプリズム効果を生じさせないため、レンズの光学軸が顔面に対して垂直となるようなレンズを採用する必要がある。このようなレンズは、光学軸とレンズの幾何学的中心が一致する一般的なレンズからも作製できる。しかし、このようなレンズを得るたには、レンズ中心が製品レンズの端部に位置するようにカットする必要があるため、レンズとして有効な部位よりも廃棄部が多くなり、レンズを有効に利用できず非効率的である。そのため、成形工程で光学軸を傾斜させたレンズを作製し、レンズ中心を製品レンズの中心軸としてカットしている。
【0005】
特開平5−96580号公報には、互いに直角な壁面にネジ孔を穿設した型枠と、前記ネジ孔を貫通する操作部を有するネジ軸と、このネジ軸により前記壁面と垂直方向に移動可能な内壁面と、この内壁面に入子(コア)を押し付ける入子押さえとで構成されたプラスチックレンズ成形のための金型が開示されている。この金型では、ネジ軸の回動操作により偏心量だけ内壁面を移動してネジ軸および内壁面を固定することにより、プラスチックレンズの偏心を解消できる。逆に言うと、偏心量の調整により、偏心レンズを製造することも可能である。
【0006】
しかし、プラスチックレンズの成形において、通常、1つの金型で4〜8個程度の成形レンズを製造するのが通例である。そのため、上記構造の単一の金型で多数のレンズを成形しようとすると、金型が非常に複雑化するとともに、大きな金型寸法となり、現実的でない。
【0007】
実開昭61−135612号公報には、可動型の可動板圧入部と、固定型の固定板圧入部と、固定板ブッシュ嵌合部の中心軸を偏心して加工したガイドピン又はテーパー付きインタロックピンを用いた射出成型用金型装置が開示されている。このような金型装置を用いると、ガイドピン又はインタロックピンにより固定型に対して可動型の位置をずらして可動型と固定型との間に形成されるキャビティに樹脂を注入することにより、偏心レンズを作製できる。
【0008】
しかし、金型の可動型又は固定型の全体を相対的にずらす必要があるため、複数のキャビティを用いてレンズを製造する場合、キャビティの配列によっては、個々のレンズの偏心方向がそれぞれ異なる可能性がある。そのため、後工程でのレンズカットに支障をきたす場合がある。
さらに、この金型装置を用いて複数のレンズを製造する場合、偏心により各キャビティに通じるランナーおよびゲート部の寸法が変動するため、各キャビティにおける樹脂の流動性が変化する。そのため、均一なレンズ成形品を効率よく有利に得ることが困難である。また、前記金型装置を用いると、各キャビティにおける偏心量は同一となる。
【0009】
一般的に、偏心レンズを作製するためには、レンズを成形するための金型において、凸面を有するコアおよび凹面を有するコアのうち一方のコアを偏心させたいわゆる偏心コアが使用されている。この方法において、偏心量は、レンズの幾何学的中心からの角度で表したとき、レンズの偏心角度とフレームの角度(顔面と平行な面に対する角度)とを一致させると適正な組み合わせとなる。しかし、多種多様なフレームに対応させるためには、上記凸面を有するコア,或いは凹面を有するコアを、偏心させた偏心コアとしてそれぞれフレームに対応させて作製する必要があるが、高い精度および鏡面処理を必要とするコアは高価である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、単一の金型であっても偏心量の異なるレンズ成形品をすることができる偏心レンズ用金型を提供することにある。
本発明の他の目的は、複数のキャビティを用いてレンズ成形品を製造しても、レンズの偏心方向を一致させることができるとともに、キャビティ内での溶融樹脂の流動性を損なうことなく均一なレンズ成形品を安価に製造可能な偏心レンズ用金型を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討の結果、凸面を有するコア(凸型)と凹面を有するコア(凹型)とで一対のコアを構成し、少なくとも一方のコアをリング部材で移動させて凹凸面の中心軸をずらすと、単一の金型であっても偏心度に応じて偏心量の異なるレンズ成形品を得ることができること、複数のコア対においては、リング部材の偏心方向を所定方向に揃えることにより、各一対のコアでの偏心方向を一致させることができることを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明の偏心レンズ用金型は、偏心プラスチックレンズを得るための射出成形用金型であって、(1)凸面を有するコアと、凹面を有するコアとで構成された一対のコアを複数有する複数のコア対と、(2)各一対のコアにおいて、一対のコアのうち少なくともいずれか一方のコアの外周部に配設され、直径方向において一方の側が肉厚に形成され、他方の側が薄肉に形成され、かつ凸面と凹面との中心軸を相対的に偏心させるためのリング部材とで構成され、前記複数のコア対において、前記リング部材の偏心方向が所定方向に揃えられている。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に、添付図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。
図1はレンズ用金型の一例を示す断面図であり、図2は本発明の偏心レンズ用金型の偏心状態を示す概略断面図であり、図3は図2のリング部材を示す概略平面図である。
【0013】
本発明の金型は偏心プラスチックレンズ(プリズムレンズ)を得るために利用される。この金型は、湾曲凹面1aを有するコア1と、この凹面に対応した湾曲凸面2aを有するコア2とで構成された少なくとも一対のコア1,2を備えており、前記凹面1aと凸面2aとの間には、プラスチックレンズに対応するキャビティ3が形成される。前記一対のコア1,2のうち一方のコア1は固定側コアとして形成され、他方のコア2は可動側コアとして形成されている。
【0014】
前記固定側コア1の外周部には、リング部材4が配設又は装着されている。さらに、前記可動側コア2には、前記キャビティ3の厚みを調整するため、ライナー(厚み調整部材)5が設けられている。なお、レンズ中心軸は、湾曲凹面1aにより形成される球面r1 の中心O1 と、湾曲凸面2aにより形成される球面r2 の中心O2 とを結ぶ線で表される。
【0015】
そのため、図1に示すように、リング部材4として非偏心リング部材を用いると、可動側コア2を基準にしたレンズのレンズ中心軸a2 とレンズの光学軸a1 とが一致し、前記キャビティ3に溶融樹脂を射出すると、レンズ中心軸a2 とレンズの光学軸a1 とが一致したいわゆる非偏心レンズが得られる。
【0016】
そして、図2に示されるように、前記固定側コア1の外周部(外周保持部)に、可動側コア2の湾曲凸面2aに対して、湾曲凹面1aの中心軸を偏心させるためのリング部材(偏心リング部材)4を配設又は装着して組み込むと、偏心レンズを得ることができる。このリング部材4は、図1に示す非偏心リング部材4と比較して、リングの外径D,内径寸法Rは同じであるが、非偏心リング部材に比べて、内径の中心位置が外径の中心位置からt(mm)だけずれている。すなわち、図1に示す非偏心リング部材の内壁の半径をRとすると、図3に示されるように、直径方向においてリング部材4の一方の側は肉厚に形成され、他方の側は薄肉に形成されており、内周円の中心軸が半径方向に変位している。そのため、リング部材4の一方の側では、非偏心リング部材の中心を基準にして内壁半径がR−tに形成され、他方の側では、非偏心リング部材の中心を基準にして内壁半径がR+tに形成されている。
【0017】
すなわち、前記リング部材4により、固定側コア1を、キャビティ3に対応するレンズのレンズ中心軸a2に対して垂直方向に所定距離t(mm)だけずらしている。そのため、固定側コア1の湾曲凹面1aにより形成される球面r1 の中心O1 も位置ずれし、湾曲凸面2aにより形成される球面r2 の中心O2 と、中心O1 とを結ぶ線で表される光学軸a1 も幾何学的中心線に対して角度θをなす線上に移動する。すなわち、リング部材4の使用により偏心レンズに対応するキャビティ3を形成できる。そのため、前記キャビティ3に溶融樹脂を射出し、偏心レンズを得ることができる。
【0018】
レンズの厚み調整は、前記ライナー(厚み調整部材)に限らず、種々の厚み調整手段、例えば、一対のコアのうち少なくとも一方のコアをレンズ中心軸方向又はレンズの光学軸方向に相対的に進退動させる進退動機構で行ってもよい。
このような方法により、成形したレンズの外周形状は一部変形するが、一般にレンズの外周部は眼鏡フレームに装着するための加工に際して切除され廃棄されるため、実質的には何ら不都合が生じない。
【0019】
このような成形金型を用いると、偏心レンズに対応させて鏡面加工が必要で高価な複数のコアを作製する必要がなく、安価な偏心リングを用いることにより、偏心量に応じて自由に偏心レンズを成形できる。
【0020】
図4は本発明の他の偏心レンズ用金型を示す概略断面図、図5は図4のIV-IV線矢視図である。
この例では、4つのコア対が利用されている。すなわち、固定型盤11には、湾曲凹面を有する複数の固定側コア12a,12b,12c,12dが配設されているとともに、これらの固定側コアの外周には、それぞれ偏心用リング状部材13a,13b,13c,13dが装着されている。これらのリング状部材13a〜13dは、それぞれの流路(湯道)17に対して、偏心方向が同じ向きになるように配設されている。なお、リング状部材13a〜13dは、それぞれ、固定側コア12a〜12dに対して位置決め可能である。
【0021】
一方、可動側コアを保持するための保持盤14には、前記固定側コア12a,12b,12c,12dの湾曲凹面と対向して湾曲凸面を有する可動側コア15a,15b,15c,15dが保持されており、固定側コア12a〜12dと可動側コア15a〜15dとの間には、偏心レンズに対応するキャビティ16が形成されている。これらのキャビティ16は、溶融樹脂が射出される固定型盤11の注入口から放射状に伸びる流路(湯道)17と通じている。可動側コア15a〜15dと保持盤14との間には、レンズの厚みを調整するためのライナー18が介在している。
【0022】
さらに、前記固定側コア12a〜12dおよび可動側コア15a〜15dの側方域には、固定型盤11に対して可動側コア用保持盤14を位置決めするためのガイドピン19が固定型盤11から延出している。すなわち、固定型盤11には、固定側コア12a〜12dの外周を保持するための外周保持盤20が形成され、可動側コア用保持盤14には、前記ガイドピン19により案内されて前記外周保持盤20および外周リング13a〜13dの端面と突き合わせ可能であり、かつ可動側コア15a〜15dの外周を保持するためのリング状保持盤21が形成されている。そのため、ガイドピン19によりリング状保持盤21とともに可動側コア用保持盤14を案内しながら、位置決めすると、前記固定側コア12a〜12dと可動側コア15a〜15dにより偏心レンズに対応するキャビティ16が形成される。
【0023】
前記可動側コア保持盤14の背面には、金型で成形されたレンズを取り出すための突き出しピンと連動する突出しプレート22と、この突出しプレートのための作動空間を確保するためのスペーサブロック23を備えた可動型盤24が配設されている。
【0024】
このような金型装置を用いると、固定側コア12a〜12dの外周に装着されたリング状部材13〜13dにより偏心したキャビティ16を形成でき、樹脂の射出成形により複数の偏心レンズを得ることができる。
【0025】
なお、図4および図5に示す金型において、固定側コアと可動側コアとで構成されたコア対の数は特に制限されない。リング部材は、コア対のうち少なくともいずれか一方のコアの外周部に配設され、かつ凸面と凹面との中心軸を相対的に偏心可能であればよい。
なお、リング部材による偏心量又は偏心度は、直径方向においてリング部材の厚みを調整し、リング部材の外径中心に対して内径中心をシフトさせることにより調整できる。
【0026】
複数のリング部材において、後加工を容易にするため、レンズの偏心方向を一致させるのが好ましいが、レンズの偏心方向は、リング部材と金型の外周保持盤との位置関係で規定できるので、リング部材と外周保持盤とを位置決め手段(例えば、凹凸溝,蟻溝構造などの凹凸スライド機構やスライド嵌合機構など)により位置決めし、それぞれのレンズの偏心方向を一致させることができる。位置決め手段は、複数のレンズ(キャビティ)の偏心方向に対応して、リング部材と外周保持盤の適所に形成できる。
【0027】
本発明の金型は、ポリカーボネート樹脂,アクリル樹脂などのプラスチックの射出成形により偏心レンズ(プリズムレンズ)を得る上で有用である。
【0028】
【実施例】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1
図2に示す構造の金型、すなわち、固定側コア(r1=62.5mm,外径=78.0mm)と可動側コア(r2=61.8mm,外径=80.0mm)とを作製し、固定側コアに装着したリング部材(外周リング)の内径の中心をレンズ中心軸からt=0.5mmずらして金型を作製した。この金型を用いてポリカーボネート系樹脂を射出成形したところ、レンズの偏心角度θ=21.0°、レンズの光学軸点の厚み2.09mmであった。
【0029】
実施例2
リング部材(外周リング)の内径の中心をレンズ中心軸からt=0.25mmずらして金型を作製する以外、上記実施例1と同様にしてレンズを作製したところ、レンズの偏心角度θ=10.9°、レンズの光学軸点の厚み2.02mmであった。
【0030】
【発明の効果】
本発明では、リング部材により偏心量を調整できるので、単一のキャビティであっても偏心量の異なるレンズ成形品を安価に得ることができる。また、複数のキャビティであっても、レンズの偏心方向を一致させることができるとともに、キャビティ内での溶融樹脂の流動性を損なうことなく均一なレンズ成形品を安価に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1はレンズ用金型の一例を示す断面図である。
【図2】図2は本発明の偏心レンズ用金型の偏心状態を示す概略断面図である。
【図3】図3は図2のリング部材を示す概略平面図である。
【図4】図4は本発明の他の偏心レンズ用金型を示す概略断面図である。
【図5】図5は図4のV-V線矢視図である。
【符号の説明】
1,2…コア
1a…湾曲凹面
2a…湾曲凸面
3…キャビティ
4…リング部材
5…ライナー(厚み調整部材)
12a,12b,12c,12d…固定コア
13a,13b,13c,13d…リング状部材
15a,15b,15c,15d…可動コア
16…キャビティ
18…ライナー
19…ガイドピン
Claims (1)
- 偏心プラスチックレンズを得るための射出成形用金型であって、(1)凸面を有するコアと、凹面を有するコアとで構成された一対のコアを複数有する複数のコア対と、(2)各一対のコアにおいて、一対のコアのうち少なくともいずれか一方のコアの外周部に配設され、直径方向において一方の側が肉厚に形成され、他方の側が薄肉に形成され、かつ凸面と凹面との中心軸を相対的に偏心させるためのリング部材とで構成され、前記複数のコア対において、前記リング部材の偏心方向が所定方向に揃えられている偏心レンズ用金型。
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