JP4080014B2 - 樹脂コート軸受 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、樹脂コート軸受に関し、より詳しくは外輪外周面に沿って形成した周溝に、クリープ防止用の樹脂コート部を形成している樹脂コート軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱膨張係数の大きい例えばアルミニウム合金製のハウジングに、鋼製の軸受を組み込んだ場合には、環境温度が上昇すると、両者の熱膨張係数の差に起因して、ハウジングと軸受の外輪との嵌合部のしめしろが少なくなって、ハウジングに対して軸受の外輪が回るいわゆるクリープが発生することになる。
【0003】
このクリープの発生を防止するために、外輪の外周面に沿って樹脂をコートした樹脂コート軸受が提供されている(例えば実開昭56−131024号公報、特公平6−54131号公報参照)。
図8は従来の樹脂コート軸受の一例を示す要部断面図である。この樹脂コート軸受90は、外輪91の外周面91aに沿って周溝92を形成し、この周溝92部分に、射出成形によって樹脂をコートすることにより、環状の樹脂コート部93を形成したものである。
この樹脂コート軸受90においては、上記樹脂コート部93の全周を、外輪91の外周面91aから数十μm程度突出させてあり、ハウジングBと外輪91との嵌合部のしめしろが減少した場合でも、上記樹脂コート部93の摩擦抵抗によって、ハウジングBに対して外輪91が回るのを防止するようにしている。
また、上記樹脂コート部93を構成する樹脂材料としては、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド11(PA11)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が用いられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記樹脂コート軸受90は、ハウジングBとの嵌合精度を確保するために、上記樹脂コート部93の外径精度を高める必要がある。ところが、上記樹脂コート部93については、射出成形のみではその外径精度を確保することが困難である。このため、射出成形が完了した後、上記樹脂コート部93の外周を研磨することによって、外径精度を高める必要があり、その分、製造コストが高くつくという問題があった。
【0005】
また、上記樹脂コート部93を構成する樹脂材料としてのPA66、PA11、PBTは、表1に示す物性を有しており、表2で評価するように、クリープ防止という本来の目的は十分達成することができるものの、PA66については、吸湿寸法変化が大きいという欠点があり、PA11については、例えば150°Cを超える使用環境では、長期間の連続使用に耐えられないほか、PBTやPA66等に比べると高価であって汎用性に劣るという欠点があり、PBTについても、例えば150°Cを超える使用環境では、長期間の連続使用に耐えられないという欠点がある。なお、表2中において、○は良好、△はやや劣ることをそれぞれ示している。
【0006】
【表1】
Figure 0004080014
【0007】
【表2】
Figure 0004080014
【0008】
この発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、樹脂コート部の研磨工程を省略することができる樹脂コート軸受を提供することを目的とする。
またこの発明は、安価で優れたクリープ防止性能を発揮することができる樹脂コート軸受を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するためのこの発明の樹脂コート軸受は、外輪外周面に沿って円周方向全周で略同一な深さとなるように形成した周溝に、クリープ防止用の樹脂コート部を樹脂コート部を射出成形によって上記周溝の溝底の外周面に円周方向全周にわたって当接するよう形成している樹脂コート軸受において、
上記樹脂コート部は、その外周の周方向に離隔した複数部分が、上記周溝から突出し且つ上記周溝の軸方向両側面に当接し、それ以外の部分が上記周溝内部に隠れており、且つ周溝から突出した部分と周溝内部に隠れた部分が前記樹脂コート部の全周にわたって交互に配列していることを特徴とするものである。
【0010】
上記の構成の樹脂コート軸受によれば、樹脂コート部の外周の周方向に離隔した複数部分が、外輪外周の円周方向全周で略同一な深さとなるように形成された周溝から突出し且つ上記周溝の軸方向両側面に当接し、樹脂コート部の半径の小さい部分が、周溝の内部に隠れており、且つ周溝から突出した部分と周溝内部に隠れた部分が樹脂コート部の全周にわたって交互に配列されているので、この隠れている分だけ、樹脂コート部の外径寸法のバラツキが吸収されることになる。このため、上記周溝部分に射出成形によって樹脂をコートするだけで、ハウジングとの嵌合精度を確保することができる。
【0011】
上記樹脂コート部は、ポリアミド66からなる母材中に、ミネラル粉体及びエラストマー粉体を分散混合したものであるのが好ましい。
上記ミネラル粉体を混合することにより、射出成形時にひけや反りが発生するのを防止することができる。また、エラストマー粉体を混合することにより、樹脂の硬化速度を遅くすることができ、これによって射出成形圧力を樹脂全体に伝わり易くして、金型からの転写を正確に行わせることができるほか、吸水率を下げるのに役立つ。しかもひけや反りを防止するために混合したミネラル粉体による熱膨張係数の低下を防止して、逆に全体の熱膨張係数を高くすることができる。すなわち、耐熱性に優れるとともに、安価で汎用性の高いポリアミド66において劣っている性能、特に寸法安定性を、上記ミネラル粉体及びエラストマー粉体によって改善することができる。
【0012】
上記ミネラル粉体としては、炭酸カルシウム又はマイカであるのが好ましく、上記エラストマー粉体としては、エチレン・プロピレン及びジエン成分の三元重合体を無水マレイン酸でグラフトした変成EPDM又は、エチレンとプロピレンとの共重合体(EMP)であるのが好ましい。
【0013】
上記ミネラル粉体の粒子径は、1〜3μmであるのが好ましく、エラストマー粉体の粒子径は、0.1〜1μmであるのが好ましい。
ミネラル粉体の粒子径が1μm未満であると、市販品として入手するのが困難であるので、コストアップになるおそれがあり、ミネラル粉体の粒子径が3μmを超えると、熱膨張係数が小さくなるので、クリープ防止効果が減少する。
一方、エラストマー粉体の粒子径が、0.1μm未満であると、市販品として入手するのが困難であるので、コストアップになるおそれがあり、エラストマー粉体の粒子径が1μmを超えると、分散性が悪くなるとともに、強度及び成形精度が低下するおそれがある。
【0014】
上記ミネラル粉体は5〜15重量%、エラストマー粉体は10〜20重量%それぞれ混入されているのが好ましい。
ミネラル粉体が5重量%未満であると、これを添加する効果に乏しく、15重量%を超えると、熱膨張係数が小さくなって、クリープ防止効果が減少する。表3にミネラル粉体の添加量と樹脂コート部の物性との比較結果を示す。
【0015】
【表3】
Figure 0004080014
【0016】
また、エラストマー粉体が10重量%未満であると、これを添加する効果に乏しく、20重量%を超えると、真円度と引張強度が低下する。表4にエラストマー粉体の添加量と樹脂コート部の物性との比較結果を示す。
【0017】
【表4】
Figure 0004080014
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら説明する。
図2はこの発明の樹脂コート軸受Aの一つの実施の形態を示す要部断面図である。この樹脂コート軸受Aは、内輪1と外輪2との間に転動体としての玉3が転走自在に介在された玉軸受で構成されている。上記内輪1の内周には軸Cが嵌合されており、外輪2は、その外周にクリープ防止用の樹脂コート部4が設けられているとともに、アルミニウム合金からなるハウジングBに嵌合されている。上記樹脂コート軸受Aは、ハウジングBが熱膨張して外輪2とのしめしろが減少したり、図3に示すようにハウジングBと外輪2との間に隙間ができたりした場合でも、樹脂コート部4の熱膨張によってハウジングBに密着し、しめしろを確保してクリープを防止することができる。
【0019】
上記樹脂コート部4は、外輪2の幅方向に所定間隔離して2条設けられており、各樹脂コート部4は、外輪2の外周2aに形成された周溝21に埋め込まれている。上記樹脂コート部4の外周は、周溝21からつまり外輪2の外周2aから、部分的に突出している。図1は、この樹脂コート部4の突出状態を模式的に示す概略図であり、当該樹脂コート部4は、その外周の周方向に離隔した複数部分が、外輪2の外周2aから突出し且つ周溝21の軸方向両側面に当接し、それ以外の部分が周溝21の内部に隠れており、且つ周溝21から突出した部分と周溝21内部に隠れた部分が前記樹脂コート部4の全周にわたって交互に配列している。上記樹脂コート部4の外輪外周2aからの平均突出量は、当該樹脂コート部4の平均外径に応じて適宜設定されるが、例えば平均外径が26mmの場合には、5〜6μm程度に設定される。また、樹脂コート部4の最大突出量についても、当該樹脂コート部4の平均外径に応じて適宜設定されるが、例えば平均外径が26mmの場合には、15μm程度に設定される。
【0020】
このような樹脂コート部4は、射出成形によって外輪2の周溝21の溝底の外周面に円周方向全周にわたって当接するよう形成されており、射出成形によって外輪2の周溝21に樹脂をコートする際に、樹脂コート部4の平均外径が従来品よりも小さくなるように設定することにより、容易に形成することができる。具体的には、従来の射出成形金型95には、外輪91の周溝92に対応させて、樹脂コート部を形成するための凹溝95aが設けられているが(図9参照)、この発明の樹脂コート部Aについては、上記凹溝95aを省略した金型5を使用し(図5参照)、この金型5内にインサートした外輪2の周溝21に対して、ゲート52を通して外輪2の外周面2aと略面一に樹脂を充填して、ゲート52の位置や成形圧等の差に起因する離型後の樹脂の膨張のバラツキを利用することにより、樹脂コート部4の外周に、その平均外径よりも大きい部分と小さい部分とを形成することができる。
【0021】
上記樹脂コート軸受Aは、樹脂コート部4の外周のうち、その半径rが外輪2の外周2aの半径Rよりも小さい部分が、外輪2の周溝21内に隠れており、この隠れている部分は、ハウジングBとの嵌め合いに何ら影響しないので、樹脂コート部4の外径寸法の実用上のバラツキは、樹脂コート部4の最大外径と外輪2の外径との差によって規定されることになる。このため、上記周溝21部分に例えば射出成形によって樹脂をコートするだけで、ハウジングBとの嵌合精度を確保することができる。したがって、従来必要としていた研磨による外径仕上げが不要となり、その分製造コストを安くすることができる。
【0022】
樹脂コート部4を構成する樹脂材料は、図4に示すように、ポリアミド66(PA66)を母材41として、ミネラル粉体42及びエラストマー粉体43を分散混合したものである。
上記ミネラル粉体42は、炭酸カルシウムやマイカであるのが好ましく、エラストマー粉体43は、エチレン・プロピレン及び若干のジエン成分(第3成分と呼ばれ、ジシクロペンタジエン、エキリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン等)の三元重合体であって、無水マレイン酸でグラフトすることにより変成されたEPDM、又はエチレンとプロピレンの共重合体(EPM)であるのが好ましい。
【0023】
上記樹脂コート部4の一例について物性を測定した結果を表5に示す。この樹脂コート部4の組成は、ミネラル粉体42として1〜3μmの粒子からなるパウダー状の炭酸カルシウム、エラストマー粉体43として0.1〜1μmの粒子からなるパウダー状の変成EPDMをそれぞれ選定するとともに、母材41を75重量%、ミネラル粉体42を10重量%、エラストマー粉体43を15重量%の割合に設定したものである。
【0024】
表5と表1との比較から、上記樹脂コート部4は、母材41としてのポリアミド66において劣っていた吸水率が改善されていることが分かる。また、熱膨張係数がPA11と同等のレベルに上がっていることが分かる。
【0025】
【表5】
Figure 0004080014
【0026】
次に、図1に示す実施の形態で、樹脂コート部を上記物性測定に用いたものと同じ構成として、使用状態での静的クリープトルク及び長期放置による吸湿寸法変化を測定した。その結果を図6及び図7に示す。
上記静的クリープトルクの測定は、樹脂コート軸受として、呼び番号6202、樹脂コート部の平均外径が35.015mmのものを使用し、ハウジングとして、平均内径が35.014mmのアルミニウム合金製のものを使用した。
図6より、実施例1の樹脂コート軸受は、樹脂コート部とハウジングとを実質的に同一寸法とした条件下であっても、180°Cまで実用上問題なくクリープ防止効果を発揮し得ることが分かる。
【0027】
上記吸湿寸法変化の測定は、実施例として、呼び番号6000(外径35mm、樹脂コート部の幅1.6mm/1条)のものを使用し、比較例として、樹脂コート部をPA11で形成した以外は実施例と同じものを使用した。
図7より、樹脂コート部の寸法変化は、梅雨時期において大きくなるものの、全期間を通じて、比較例よりも小さいことが分かる。
したがって、この発明の樹脂コート軸受によれば、クリープ力、耐熱性、寸法安定性等において、所望の性能を発揮することができるとともに、製造コストを安くすることができる。
【0028】
なお、上記樹脂コート部4は、外輪2の周溝21から複数箇所突出してい
また、樹脂コート部4の母材41に配合するミネラル粉体42については、50〜15重量%の範囲に、エラストマー粉体43については、10〜20重量%の範囲にそれぞれ設定することができるが、両粉体を合わせて25重量%程度配合するのが最も好ましい。また、ミネラル粉体42の大きさについては、1〜3μm、エラストマー粉体43の大きさについては、0.1〜1μmにそれぞれ設定するのが好ましい。これは、上記範囲を超えると、熱膨張係数が小さくなる傾向を示すからである。
この発明の樹脂コート軸受は、上記実施の形態に限定されるものでなく、例えば、樹脂コート部を3条以上構成すること等、種々の設計変更を施すことができる。
【0029】
【発明の効果】
以上のように、この発明の樹脂コート軸受によれば、樹脂コート部の外周の周方向に離隔した複数部分を、外輪外周の円周方向全周で略同一な深さとなるように形成された周溝から突出させ且つ上記周溝の軸方向両側面に当接させ、それ以外の部分を周溝内部に隠れさせ、且つ周溝から突出した部分と周溝内部に隠れた部分とを樹脂コート部の全周にわたって交互に配列させて、樹脂コート部の外径寸法のバラツキを吸収するようにしているので、上記周溝部分に射出成形によって樹脂をコートするだけで、ハウジングとの嵌め合い精度を確保することができる。このため、従来要していた樹脂コート部外周の研磨仕上げが不要となり、その分製造コストを安くすることができる。
【0030】
特に、上記樹脂コート部が、ポリアミド66からなる母材中に、ミネラル粉体及びエラストマー粉体を分散混合したものである場合には、高温環境での長期連続使用に耐え、安定したクリープ防止効果を発揮することができるとともに、吸湿寸法変化の少ないものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の樹脂コート軸受の樹脂コート部と外輪外周との関係を模式的に示す概略図である。
【図2】上記樹脂コート軸受の使用状態であって、ハウジングが熱膨張していない場合を示す要部断面図である。
【図3】上記樹脂コート軸受の使用状態であって、ハウジングが熱膨張した場合を示す要部断面図である。
【図4】樹脂コート部の構造を模式的に示す図である。
【図5】樹脂コート部の射出成形工程を示す要部断面図である。
【図6】軸受のクリープトルクと環境温度との関係を示すグラフ図である。
【図7】樹脂コート部の放置日数と外径寸法の変化との関係を示すグラフ図である。
【図8】従来の樹脂コート軸受の一例を示す要部断面図である。
【図9】従来の樹脂コート軸受の射出成形工程を示す要部断面図である。
【符号の説明】
2 外輪
21 周溝
2a 外輪の外周
4 樹脂コート部
A 樹脂コート軸受
B ハウジング

Claims (5)

  1. 外輪外周面に沿って円周方向全周で略同一な深さとなるように形成した周溝に、クリープ防止用の樹脂コート部を射出成形によって上記周溝の溝底の外周面に円周方向全周にわたって当接するよう形成している樹脂コート軸受において、
    上記樹脂コート部は、その外周の周方向に離隔した複数部分が、上記周溝から突出し且つ上記周溝の軸方向両側面に当接し、それ以外の部分が上記周溝内部に隠れており、且つ周溝から突出した部分と周溝内部に隠れた部分が前記樹脂コート部の全周にわたって交互に配列していることを特徴とする樹脂コート軸受。
  2. 上記樹脂コート部が、ポリアミド66からなる母材中に、ミネラル粉体及びエラストマー粉体を分散混合したものである請求項1記載の樹脂コート軸受。
  3. 上記ミネラル粉体は、炭酸カルシウム又はマイカであり、
    上記エラストマー粉体は、エチレン・プロピレン及びジエン成分の三元重合体を無水マレイン酸でグラフトした変成EPDM又は、エチレンとプロピレンとの共重合体である請求項2記載の樹脂コート軸受。
  4. 上記ミネラル粉体の粒子径が1〜3μmであり、エラストマー粉体の粒子径が0.1〜1μmである請求項2又は3記載の樹脂コート軸受。
  5. 上記ミネラル粉体が5〜15重量%、エラストマー粉体が10〜20重量%それぞれ混入されている請求項2から請求項4のいずれかに記載の樹脂コート軸受。
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