JP4076734B2 - 高速鉄道車両 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高速走行する新幹線等の鉄道車両に関し、先頭車両に好適な先頭部形状を備えた高速鉄道車両に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
移動の高速化が望まれる現代では、鉄道車両に対しても時速270km/h或いはそれ以上の高速性能が要求されるようになっている。その一方で、民家などの間を抜けて通るような我が国の鉄道事情では、騒音や振動に対する環境への影響を考慮することが高速化と同様に重要な課題でもある。そうした環境対策の一課題としてトンネル微気圧波(以下、単に「微気圧波」という)によるトンネル出口での騒音などがある。高速鉄道車両がトンネルに突入する場合、先頭車両がピストンのように作用し、トンネル内の狭い空間に存在する空気が圧縮されて圧縮波が発生する。微気圧波は、この圧縮波がトンネル内をほぼ音速で伝わっていきトンネル出口に達した際外部に放出される、そのトンネル出口で圧縮波の圧力の時間についての偏導関数(以下、「圧力勾配」という。圧力の時間についての偏導関数は圧力の空間についての偏導関数と比例関係にある)に比例するパルス状の圧力波である。
【0003】
そして、こうしたトンネルから放射される微気圧波は、トンネル出口周辺の建物に対して騒音や振動を及ぼすため環境対策問題の一つとして挙げられている。特に、微気圧波を引き起こす圧縮波は、その圧力勾配が車両速度の3乗に比例して大きくなるため、鉄道車両の高速化を進める上において微気圧波の低下、即ち圧縮波を小さく抑えることは極めて重要な課題となっている。そこで、近年そうした課題対策として、微気圧波を低下させる高速鉄道車両の先頭部形状について幾つかの提案がなされてきている。その一例として、特開平11−321640号公報に記載されたものを挙げることができる。
【0004】
この高速鉄道車両の先頭部形状では、図11の(p)に示すように、先ず先端部(先端から約6mの位置まで)を後方上向きに傾斜させて1段目の横断面積変化領域101を形成し、その後方を横断面積が一定に保たれた領域102とした後、再び後方上向きに傾斜するように(先端から約21mの位置から約25mの位置まで)立ち上げて2段目の横断面積変化領域103を形成している。そして、こうした形状としたことで、車両のトンネル突入時に発生する圧縮波の圧力勾配を下げることができた。具体的には、図12の(P)に示すように、圧縮波が大きく分けて2段階に分散され、各ピークの極大値が下がり、その一方の最大値が比較例のもの(Q)に比べて低下していることが分かる。
【0005】
こうして、従来例で挙げた図11の(p)に示す先頭部形状は、横断面積が変化する変化領域101,103を前後方向に2つ設けたことが、図11の(P)に示すように圧力勾配のピークP1,P2を2つにしてその最大値を抑えることに寄与していると考えられる。微気圧波のパルスの強さ(パワー)が、こうした圧力勾配の2乗に比例するからである。従って、圧力勾配の最大値を低下させた当該従来例の先頭部形状には、その点で微気圧波を低下させたことの効果がみられる。一方、当該従来例によれば、更に横断面積一定の領域102を設けたことによって圧力勾配分布のピークP1,P2を前後に明確に分け、それぞれの圧縮波がトンネル出口で集合した微気圧波にならないようになっている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、こうした従来例の先頭部形状は、前後の寸法が異常に長いものになってしまう。当該公報に挙げられている例のものは25mで、これは一車両分の長さに相当するものである。現行の新幹線車両が図11の(q)に示すように、先端からの後方上向きの傾斜が約10mの位置(例えば700系車両では9.2m)で最大横断面積の一般部に達しているのと比べると、その長さは2倍以上にもなってしまう。こうした車両の先頭部が長くなることは客室となる一般部確保の点から好ましいものではなかった。従って、圧力勾配分布のピークP1,P2を前後に明確に分け、それぞれの圧縮波がトンネル出口で重ならないようにした従来の先頭部形状は、その効果以上に高速鉄道車両に採用した場合のデメリットが大きかった。
【0007】
また、圧力勾配分布のピークP1,P2を明確に分けることにより、横断面積一定の領域102に対応する圧力勾配の極小値が極めて小さくなり、結果として最大値を大きくしてしまうという逆効果を生む。つまり、車両先頭部の最大横断面積が同じであれば、同じ断面積のトンネルを同じ条件で通過させた場合、形状が異なっていても当該車両先頭部の通過時間に生じる圧力変化(圧力勾配分布によって囲まれる面積)が一定になる。そのため、その圧力勾配分布は、前後するピークP1,P2を明確に2分するように窪みP3が深くなれば、逆にピークP1,P2部分が持ち上がって最大値が大きくなってしまう。そして、微気圧波のパルスの強さ(パワー)がこうした圧力勾配の2乗に比例することから、圧力勾配の最小値を極めて小さくする先頭部形状は微気圧波の低下を制限することになる。
【0008】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、長さ方向寸法および一般部断面積が一定の条件の下で、微気圧波を低下させる先頭部形状を備えた高速鉄道車両を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る高速鉄道車両は、先端から最大横断面積となる一般部までの車両先頭部長さが9〜12mであって、その先頭部形状は、車両先頭部が高速走行速度270km/hでトンネルに突入する際に発生する圧縮波の圧力勾配分布によって特定した場合に、圧力勾配分布にピークをつくる断面積変化率の大きい部分を車両先頭部の前端部と一般部直前の後部とに設け、前端部の断面積変化率の最大値axと後部の断面積変化率の極大値bxの比が1.1<ax/bx<1.6となるように形成し、その前端部から後部にかけて断面積が徐々に僅かずつ大きくなるように断面積変化率を小さくした中間部の断面積変化率の極小値cxと、前端部の断面積変化率の最大値axとの比が0.1<cx/ax<0.25となるように形成したものであって、当該前端部および後部のそれぞれに対応して現れた圧力勾配の2つの極大値がほぼ等しく、その2つの極大値と中間部に現れた圧力勾配の極小値との比の値が所定範囲内であることを特徴とする。
また、本発明に係る高速鉄道車両は、前記所定範囲が、前記極大値に対する極小値の比の値が0.9以上1.0以下であることが望ましい。
【0010】
よって、本発明の高速鉄道車両によれば、車両先頭部のトンネル突入によって発生する圧縮波は、その圧力勾配分布が断面積変化率の大きい前端部と後部とに対応して2つのピークを形成し、しかも前端部の断面積変化率を後部の断面積変化率より大きくしてあるので、圧力勾配の各ピークの極大値を等しくすることができる。そして、その圧力勾配の極大値に対する、中間部に対応して形成されたピーク間の窪みの極小値との比の値を例えば0.9以上1.0以下になるようにすることで、窪みの底を引き上げることに伴って2つの極大値が重なってしまうようなことなく中間区間の値をより一定化させることができ、圧力勾配の最大値(ピークの最大値)を低下させることができる。従って、このように圧力勾配の最大値を小さくすることで、車両先頭部の長さ寸法を抑えながらも効果的に微気圧波を低下させることが可能となった。
【0011】
また、本発明によれば、前述したと同様に車両先頭部の長さ寸法を抑えながらも効果的に微気圧波を低下させることが可能であり、特に車両先端部長さを9〜12mの範囲とする場合には、当該条件によりそうした効果を奏する先頭部形状の車両を得ることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
次に、本発明に係る高速鉄道車両について、その一実施形態を図面を参照して以下に説明する。図1は、高速鉄道車両先頭部の正面形状を示した図であり、図2は、その側面形状を示した図である。そして、いずれの図も所定の断面部分の形状を重ねて示している。この先頭部形状1は、先ず先端部分で上下左右方向に大きな膨らみをもった前端部2と、その後方に横断面積が徐々に僅かずつ大きくなるように傾斜した中間部3と、更に一般部直前で上方にせり上がるようにした後部4と、大きく3つの部分から構成されている。そして、この車両先頭部は、長さをL=9.2m及び最大横断面積(一般部横断面積)を10.95m2 として設計したものである(700系車両と同じ)。
【0013】
次に図3は、こうした本形態における先頭部形状をした車両先頭部の各パターンにおける、車両横断面積の車体長手方向の導関数(以下、「断面積変化率」という)を示した分布図である。そして、こうした先頭部形状によって生じる圧縮波の圧力勾配分布(時速270km/h走行時について)を図4に示している。ところで、図4は、車両先頭部がトンネルに突入する際に生じる圧縮波の圧力勾配分布を示したものであり、具体的にはトンネル内の所定箇所で観測した圧縮波の圧力変化を時間で微分したものである。縦軸には圧力勾配をとり、横軸には時間をとっている。ここで、vは車両速度であり、Lは車両の先頭部長さである。そして、観測点における時刻の原点0は、トンネル入口に車両先頭部が突入した瞬間に発生した音波がその観測点に到達した時刻をとっている。なお、観測点はトンネル入口からの距離xに依存しているため、音速をsで表せばこの線図はx/sだけ時刻の原点がずれている。
【0014】
そこで図3及び図4から、本形態の先頭部形状1(図1及び図2参照)によれば、断面積変化率の大きい前端部2及び後部4で圧力勾配分布のピークA,Bをつくり、断面積変化率が低下する中間部3で圧力勾配分布が窪みCをつくることが分かる。つまり、本形態の先頭部形状1は、このように前端部2及び後部4により前後で断面積変化率を大きくすることによって、圧縮波による圧力勾配分布のピークA,Bを分散させ、圧力勾配の最大値(ピークの最大値)を低下させるようにしたものである。更に、そうした圧力勾配のピークA,Bを分散させるべく、先頭部形状1は、断面積変化率が小さくなる中間部3を設けて、そのピークA,B間に窪みCをつくるようにしたものである。
【0015】
ところで、微気圧波は圧縮波による圧力勾配に比例するため、微気圧波を低下させるには圧力勾配の最大値を下げればよい。即ち、図4に示す圧力勾配分布のピークA,Bを下げればよいことになる。その際、前記従来例のように単純に車両先頭部を長くすれば車両先頭部の通過時間(図4のL/v)が長くなるため、それに伴ってピークA,Bを低下させることができる。これは、最大横断面積(一般部横断面積)が同じであれば、同じ条件で走行させた場合に生じる圧力変化(0〜L/vの範囲で囲まれる圧力勾配分布の面積)が一定であるため、車両先頭部が長くなれば時間幅が広くなって圧力勾配全体が低下するからである。
【0016】
しかし、車両先頭部に例えば25mもの長さを要するのは、一車両が25m程度であることを考えると前述したように現実的ではなく、従来車両と同程度の先頭部長さで微気圧波の低下を図ることが必要となってくる。そこで、本願発明者は、そうした解決を圧力勾配の分布特性に着目して行った。具体的には、微気圧波を低下させるような圧縮波を発生させるには先頭部形状の横断面積をいかに変化させればよいかの検討を試みた。
【0017】
先ず、微気圧波を低下させるには、(1)圧力勾配分布のピークA,Bを抑えることが必要であり、それにはピークA,Bの極大値が等しく小さくなることが好ましい。これは、微気圧波の強さ(パワー)が圧力勾配の2乗に比例するからである。また、(2)ピークA,Bの極大値をより小さくするには窪みC部分の極小値をその極大値に近づけることが好ましい。前述したように0〜L/v間の圧力勾配分布によって囲まれる面積が一定であれば、窪みCの凹みを小さくすることがピークA,Bの極大値(圧力勾配の最大値)を下げることになるからである。
【0018】
そこで、微気圧波を低下させる最適な先頭部形状は、当該形状の車両先頭部によってトンネル突入時に発生する圧縮波の圧力勾配と対比してみた場合に、当該分布形状が台形に近いものであること、即ち圧力勾配分布のピークA,Bの極大値と窪みCの極小値との差が小さいものであると考えられる。そして、それには図1及び図2に示した本実施形態の先頭部形状を具体的にはどういった形状にすればよいか、横断面積変化の観点から数値解析による検討を行った。ここで図5は、図3及び図4に示した各パターンの先頭部形状に対応する横断面積変化を示した図である。
【0019】
図3及び図4の結果を示す各パターンの先頭部形状は、図5に示すようにいずれも横断面積が大きく変化する図1及び図2の前端部2及び後部4をもち、故に図3に示す断面積変化率分布にはピークa,bが顕著に現れる。そして、各パターンの先頭部形状は、こうして示された断面積変化率の違いに起因して図4に示すような圧力勾配分布を生じさせる。そこで今回の検討では、前記(1)(2)の条件に基づき、如何にしてピークA,Bの極大値Ax,Bx(x=1,2…であり、パターン番号を表す。以下同じ)を等しくかつ小さくすることができるか、断面積変化率ax,bx,cxの関係から横断面積変化の抽出を行った。ここで、ax,bxは、ピークa,bにおける断面積変化率の最大値又は極大値であり、cxは、窪みcにおける断面積変化率分布の極小値である。
【0020】
横断面積変化の抽出における具体的な方法としては、ax,bx,cxの比をとり、その結果と圧力勾配との関係から考察を行った。なお、今回の検討に際しては、最適横断面積分布を求める解析を簡単にするための軸対称モデルを用いて解析を行った。つまり、今回の解析結果は、トンネル形状を横断面積を一致させるようにして円筒形状にし、車両を横断面積分布を一致させるように円柱状のものが突入する場合を想定して行っている。
【0021】
図6は、図3に示す各形状の断面積変化率分布の特徴を表にしたものである。こうした各パターンの車両先頭部形状によって発生する圧縮波の圧力勾配を数値計算したところ、図7に示す表のような値が得られた。
【0022】
先ずパターン1について検討した場合、圧力勾配分布の極大値Ax,Bxの比はAx/Bx=1.07であり、AxがBxより大きくなっている。つまり、パターン1の形状では、ax/bxが大きすぎることが分かる。次にパターン2について検討した場合、Bx/Ax=1.18でありBxがAxより大きくなっている。つまり、パターン2の形状では、ax/bxが小さすぎることが分かる。従って、最適断面積分布のax/bxは、この2パターンの中間に存在することが分かる。なお、このような最適条件でaxがbxより大きくなるのは、先頭部がトンネルに突入する瞬間より一般部直前が突入する瞬間のほうが、既に突入している車両横断面積分だけ実質的にトンネル横断面積が小さくなっているからであり、より小さい断面積変化率で大きな圧力勾配となるためである。
【0023】
次にパターン3の形状では、圧力勾配分布の極大値Ax,Bxの比はAx/Bx=1.01となって、圧力勾配分布の2ピーク値がほぼ等しく条件(1)を満たしている。しかし、圧力勾配分布の窪みCが深く、Cx/Ax=0.83と小さな値となっている。つまり、パターン3の形状では、cx/axが小さすぎることが分かる。
【0024】
よって、圧力勾配の分布形状を台形に近づけること、すなわち2つの極大値Ax,Bxが重なってしまうようなことなく、かつ極大値Axから極大値Bxまでの値をより一定化させることを考えた場合、前記課題でも述べたように、圧力勾配分布の窪みCをつくる断面積変化率の極小値cxの極端な低下は避けるべきである。極小値cxを小さくすることは圧力勾配分布の窪みCを深くすることにつながり、極大値Ax,Bxを小さく抑えることのマイナス要因となるからである。従って、窪みCにおける極小値Cxを極大値Ax,Bxの値に近づける(相対的に極大値Ax,Bxは下がる)ためには、断面積変化率の極小値cxをある値以上に維持することが必要である。そこで、パターン1〜3のCx/max(Ax,Bx)の値を考慮して(図7参照)、その値が1になることが理想であるが0.9を超える場合を許容範囲とし、0.9≦Cx/max(Ax,Bx)≦1.0の条件に合うように極小値cxを決定する。
【0025】
以上の検討結果に基づき、Ax=Bxかつ0.9≦Cx/max(Ax,Bx)≦1.0となる条件で先頭部形状の最適横断面積を設計したところ、パターン4の解析結果を得ることができた。すなわち極大値Ax,Bxの値が共に9.56(kPa/s)となり同値で、パターン1〜3のどの最大値よりも小さい値が得られた。こうした解析結果に基づく最適横断面積分布が図5の線図パターン4に示すものであり、具体的に設計された先頭部形状が図1及び図2に示すものである。また、図4の圧縮波の圧力勾配分布をみても、他のパターンのものに比べて窪みCにおける極小値Cxが極大値Ax,Bxの値により近づき、その分布形状が理想とする台形に近づいていることが分かる。
【0026】
ところで、今回の検討では車両先頭部の長さを9.2mとし、一般部横断面積を10.95m2 として行った解析結果に基づくものである。この場合、一般部横断面積は、既存の軌道寸法などから大きく変更するものではないが、先頭部長さについては長短の変更が比較的容易に行える。そこで、車両先頭部長さが従来車両(700系)と同等かやや長い程度(9〜12m)における先頭部形状の最適横断面積についてもあわせて検討を行った。そのために前記の最適形状条件に基づき、先端部長さLを9.2mに加えてL=7mとL=12mとにした場合の先頭部形状についても、断面積変化率と圧力勾配の解析を行った。ここで、図8は、最適形状条件に基づいて求めたL=7m、9.2m、12mの先頭部形状及び従来の先頭部形状に対応する横断面積の変化を示した図である。そして、図9は、こうした各先頭部形状の車両先頭部における断面積変化率を示した分布図であり、図10は、各先頭部形状によって生じる圧縮波の圧力勾配分布を示した図である。
【0027】
先ず、パターン11のように先頭部長さLが短い場合、図10に示すようにピークA,Bが重ならないようにするためには、図8に示すように横断面積変化が激しくなり、図9に示すように中間部3(図2参照)の断面積変化率の極小値cxが小さくなる。そして、パターン11ではcx/axの値が0.06と0.10を下回った。一方、L=9.2m、12mの場合にはcx/axを0.06程度まで小さくするとCx/Axのの値が0.9を大きく下回ってしまうことになるため、cx/axの下限を0.10とする必要があった。そこで、先頭部長さLを9〜12mでAx=Bxとなるようなax>bxで0.9≦Cx/max(Ax,Bx)≦1.0の最適形状条件について確認を行ったところ、1.1<ax/bx<1.6かつ0.1<cx/ax<0.25である必要があった。
【0028】
これは、最適形状条件ではax>bxであるため、最大値axと極大値bxの比が1を超える値になることに問題はないが、L=9〜12mの範囲で圧力勾配分布の極大値Ax,Bxのバランス(極大値Ax,Bxの値がほぼ同じ値であると認められること)をとるようにするには、厳密には1.1より大きい場合が好ましく、また逆に1.6以上になると断面積変化率の最大値axの値に伴って圧力勾配分布の極大値Axが大きくなりすぎてバランスを崩してしまうからである。一方、極小値cxと最大値axの比は、前述したように0.1より大きい値とし、更に0.25を超えると圧力勾配の極小値Cxが大きくなりすぎて、2つのピークA,Bが現れないパターン10のようになってしまうため、その値を上限とした。なお、車両横断面積が変化した場合にはトンネル横断面積と車両横断面積の比が変化するため、最適横断面積も多少変化する可能性はある。
【0029】
よって、本実施形態の先頭部形状によれば、微気圧波の発生させる圧縮波について圧力勾配の最大値を、従来形状の車両(700系車両)と同等の先頭部長さのままで大幅に下げることができた。具体的には、先頭部長さLが9.2mの場合、図10に示す従来形状の車両と圧力勾配の最大値を比べると、従来形状のものは12.2kPa/sであったのに対し、本実施形態の形状では10.1kPa/sになった。即ち、本実施形態の形状によれば、微気圧波の大きさを決定する圧力勾配の最大値を17%低下させることができた。この17%という数値は、微気圧波のパワーが圧力勾配の2乗に比例することから、微気圧波を低下させることについて非常に大きな値であるといえる。そして、更に先頭部長さを12mまで伸ばすことができれば、その効果はより顕著である(図10のパターン13)。
【0030】
また、こうした効果を従来例のものとの比較した先頭部形状1の構成から述べれば、中間部3の横断面積を徐々に僅かずつ大きくなるように傾斜させ、特に僅かに傾斜させて断面積変化率を小さくした当該中間部3による極小値Cxを、0.9≦Cx/max(Ax,Bx)≦1.0の条件に合うようにすることで上記効果を得ることができた。
【0031】
なお、本発明は、前記実施形態に説明したものに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、圧力勾配分布におけるピークA,Bの2つの極大値Ax,Bxを等しくし、それによって圧力勾配の最大値を下げることについて説明したが、これら極大値Ax,Bxに少しでも差がある場合を排除するわけではない。
【0032】
【発明の効果】
本発明は、先端から最大横断面積となる一般部までの車両先頭部長さが9〜12mであって、その先頭部形状は、車両先頭部が高速走行速度270km/hでトンネルに突入する際に発生する圧縮波の圧力勾配分布によって特定した場合に、圧力勾配分布にピークをつくる断面積変化率の大きい部分を車両先頭部の前端部と一般部直前の後部とに設け、前端部の断面積変化率の最大値axと後部の断面積変化率の極大値bxの比が1.1<ax/bx<1.6となるように形成し、その前端部から後部にかけて断面積が徐々に僅かずつ大きくなるように断面積変化率を小さくした中間部の断面積変化率の極小値cxと、前端部の断面積変化率の最大値axとの比が0.1<cx/ax<0.25となるように形成したものであって、当該前端部および後部のそれぞれに対応して現れた圧力勾配の2つの極大値がほぼ等しく、その2つの極大値と中間部に現れた圧力勾配の極小値との比の値が所定範囲内とする構成としたので、長さ方向寸法を抑えながら微気圧波を低下させる先頭部形状を備えた高速鉄道車両を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】高速鉄道車両先頭部の正面形状を示した図である。
【図2】高速鉄道車両先頭部の側面形状を示した図である。
【図3】本形態における先頭部形状をした車両先頭部の各パターンの断面積変化率を示した分布図である。
【図4】本形態における先頭部形状をした車両先頭部の各パターンの圧縮波の圧力勾配分布図である。
【図5】図3及び図4に示した各パターンの先頭部形状に対応する横断面積の変化を示した図である。
【図6】図3に示す各形状パターンの断面積変化率の特徴を表にしたものである。
【図7】図3に示す各形状パターンの圧力勾配の特徴を表にしたものである。
【図8】最適横断面積条件に基づいて求めたL=7m、9.2m、12mの先頭部形状及び従来の先頭部形状に対応する横断面積の変化を示した図である。
【図9】図9の各先頭部形状の車両先頭部における断面積変化率を示した分布図である。
【図10】図9の各先頭部形状によって生じる圧縮波の圧力勾配を示した分布図である。
【図11】従来例における高速鉄道車両の先頭部形状を示した図である。
【図12】従来例における高速鉄道車両の先頭部形状による圧力勾配を示した分布図である。
【符号の説明】
1 先頭部形状
2 前端部
3 中間部
4 後部
Claims (2)
- 先端から最大横断面積となる一般部までの車両先頭部長さが9〜12mの高速鉄道車両において、
その先頭部形状は、車両先頭部が高速走行速度270km/hでトンネルに突入する際に発生する圧縮波の圧力勾配分布によって特定した場合に、
圧力勾配分布にピークをつくる断面積変化率の大きい部分を車両先頭部の前端部と一般部直前の後部とに設け、前端部の断面積変化率の最大値axと後部の断面積変化率の極大値bxの比が1.1<ax/bx<1.6となるように形成し、
その前端部から後部にかけて断面積が徐々に僅かずつ大きくなるように断面積変化率を小さくした中間部の断面積変化率の極小値cxと、前端部の断面積変化率の最大値axとの比が0.1<cx/ax<0.25となるように形成したものであって、
当該前端部および後部のそれぞれに対応して現れた圧力勾配の2つの極大値がほぼ等しく、その2つの極大値と中間部に現れた圧力勾配の極小値との比の値が所定範囲内であることを特徴とする高速鉄道車両。 - 請求項1に記載する高速鉄道車両において、
前記所定範囲は、前記極大値に対する極小値の比の値が0.9以上1.0以下であることを特徴とする高速鉄道車両。
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