JP4075404B2 - 表面処理鋼材とその製造方法と化成処理液 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、Cr含有鋼材等の鋼材の表面に化成皮膜を生成させるための化成処理液およびそれを用いて表面処理を行う表面処理鋼材の製造方法に関する。
【0002】
本発明はさらにそのような表面処理方法により得られる表面処理鋼材、特に耐焼付き性に優れた表面処理鋼材に関する。
【0003】
【従来の技術】
化成処理は、例えば、鋼材表面と腐食性溶液とを化学反応させて鋼材表面に、固着性のある腐食生成物を形成する処理であって、通常、その腐食性溶液の種類によってリン酸塩処理、クロメート処理およびシュウ酸塩処理等と呼ばれる。
【0004】
しかしながら、高Cr含有鋼材のような鋼材には、そのような従来の化成処理によっても化成皮膜を設けることができなかった。
従来にあっても、例えば、特開昭57−82478 号公報に開示されているように、アルカリ金属リン酸塩を主成分とし、チタン化合物と塩素酸塩を含有する化成処理液で鋼材表面に化成処理を行った後、リン酸亜鉛を含有する化成処理液による更なる化成処理を施す方法は公知である。しかし、この方法では、2回の処理を必要とする。しかも、高Cr含有鋼材、例えば13%Cr含有鋼材には、健全なリン酸塩の化成皮膜を表面に形成することができなかった。
【0005】
特開平5−40034 号公報には、フッ素イオンを添加した、マンガンとリン酸を含有する化成処理液で表面処理を行う方法が開示されている。しかし、この方法でもCr含有鋼材には依然として、化成皮膜は設けることができなかった。
【0006】
ところで、油井鋼管は、カップリングを介して相互に接続される。このとき、鋼管の端部に形成した雄ネジにカップリングの内面に形成した雌ネジを嵌め合わせ、これらのネジを締め付けることにより、気密性および液密性を維持しながら複数の鋼管が接続される。ところが、この締め付け時に各ネジに大きなトルクが働くため、ネジ表面にゴーリングなどの欠陥が生じやすく油井鋼管の繰り返し使用回数が低減する。また、ネジ表面に腐食が発生すると、充分な気密性および液密性を確保することが困難となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、従来は、Cr含有鋼から製造される油井鋼管のネジ継手のネジ表面にはCuなどの軟質金属のめっきを施すことでゴーリングの防止を図っていたが、かかる方法はめっき操作の工数を要すること等から更なる改善が求められている。
【0008】
このように、従来にあっても、Cr含有鋼材でもその表面に健全なリン酸亜鉛皮膜あるいはリン酸マンガン皮膜等の化成皮膜を安定して形成できる技術が求められていた。
【0009】
本発明の目的は、0.5〜13%のCrを含有するCr含有鋼材の表面にもリン酸塩の化成皮膜を安定して形成できる化成処理液を提供することである。本発明の別の目的は、上述のCr含有鋼材の表面にでもリン酸塩の化成皮膜を安定して形成できる表面処理を行う表面処理鋼材の製造方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、そのようなリン酸塩の化成皮膜を備えた表面処理鋼材を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、カリウム化合物をリン酸塩系化成処理液に添加することにより皮膜形成能が飛躍的に向上すること、さらに化成皮膜形成が困難であったCr含有鋼材でもリン酸塩系の化成皮膜を安定して形成できることを知った。
【0012】
本発明者らは、そのような知見をもとに、更に研究・開発を続け、かかるカリウム化合物、特に四硼酸カリウムの作用効果がクロメート処理、シュウ酸塩処理等による化成皮膜一般に見られることを知り、本発明を完成した。
【0013】
本発明は、広義には、処理すべき鋼管の表面を脱脂、水洗した後で、化成処理を行うことにより得られるものであって、Crを0.5 〜13質量%含有する鋼組成を有する鋼管と該鋼管の表面の少なくとも1つの部位に設けた化成皮膜から成り、該化成皮膜はカリウム量が0.1 〜1000 mg/m2であり、厚みが5〜50μm、好ましくは5〜35μmであることを特徴とする表面処理継目なし鋼管である。
【0014】
本発明の好適態様にあっては、前記化成皮膜が、リン酸塩系化成皮膜、例えばリン酸亜鉛系化成皮膜、またはリン酸マンガン系化成皮膜である。油井鋼管のカップリングの継手部にはリン酸マンガン系化成皮膜を、油井鋼管の継手部にはリン酸亜鉛系化成被膜をそれぞれ設けることが好ましい。
【0015】
別の面からは、本発明は、処理すべき鋼管の表面を脱脂、水洗した後で、化成処理を行う製造方法であって、亜鉛とリン酸、またはマンガンとリン酸を含有し、さらにカリウムを含有する化成処理液を用いて、Crを0.5〜13質量%含有する鋼組成を有する鋼管の表面に化成処理を行うことを特徴とする表面処理継目なし鋼管の製造方法である。
【0016】
このときの化成処理液は四硼酸カリウムを含み、この四硼酸カリウム濃度が0.01質量%以上、10質量%以下であることが好ましい。
化成処理は、60〜100 ℃、好ましくは70〜100 ℃の温度で少なくとも5分間鋼管を前記化成処理液に浸漬して行う。
【0017】
あるいは、化成処理は、60〜100 ℃、好ましくは70〜100 ℃の温度で少なくとも5分間鋼材に化成処理液を供給して行う。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明をさらに具体的に説明するが、本明細書において、「%」は特に断りがないかぎり「質量%」を意味する。
【0020】
本発明によれば、処理すべき鋼材の表面を脱脂、水洗した後で、リン酸塩系、クロム酸塩系、シュウ酸塩系等の化成処理を行う。特に好ましくは亜鉛とリン酸あるいはマンガンとリン酸とを含有する化成処理液で化成処理を行う。かかる化成処理液は、亜鉛−リン酸系あるいはマンガン−リン酸系化成処理液とも称される。化成処理方法それ自体は、公知であり、したがって、化成処理方法それ自体についての説明は割愛する。
【0021】
本発明における鋼材の化学組成は、従来技術では化成処理が困難な、Crを質量%(以下、単に%で表す)で0.5〜13%含有するCr含有鋼材である。
【0022】
その鋼材の形態についても特に制限されず、例えば油井鋼管またはカップリングとして用いられる継目なし鋼管の継手部、特にネジ継手部であってもよい。あるいはそれ以外の管材、棒材、板材等であってもよい。しかし、その経済効果を考えた場合、Cr含有鋼からなる油井鋼管などの継目なし鋼管のネジ継手部に本発明を適用することが好ましい。
【0023】
鋼材の処理すべき表面部位の表面粗さをRmax 0.1〜60μmに調整することが好ましい。
ここに、「化成皮膜」は、溶液と鋼材表面との化学反応で生じた生成物が鋼材表面に密着して皮膜状に生成したものを言い、溶液の種類によってリン酸塩系、クロム酸塩系、シュウ酸塩系などの化成皮膜がある。本発明の場合、カリウムが化成皮膜中に含まれる限り特に制限ない。しかし、本発明を油井鋼管のような継目なし鋼管の継手部に適用する場合、リン酸塩系化成皮膜が好ましい。その理由は、リン酸塩系、特にリン酸−マンガン系あるいはリン酸−亜鉛系の化成皮膜は鋼材表面への密着性に優れるとともに防錆性と耐ゴーリング性に優れるからである。より好ましくはリン酸−マンガン系化成皮膜である。
【0024】
「化成処理液」は、そのような化成皮膜を形成させるための処理液である。これについても、リン酸塩系、クロム酸塩系、シュウ酸塩系等がある。
本発明の場合、このような化成処理液にカリウム化合物が含有されるが、その目的は化成皮膜の生成を促進させると共に生成した化成皮膜の均質性を向上させ、スケムラ(金属露出) を防止することである。ただし、化成処理液にFイオンおよびAlイオンが共に存在すると、同時に存在するFeイオンおよびZnイオンとの作用により、場合により K2Al(Fe、Zn)F6 のスラッジが生成・沈殿してしまい、カリウム化合物の添加による効果が得られないことがある。したがって、好ましくは、フッ素イオンの不存在下で化成処理を行う。
【0025】
本発明において使用できるカリウム化合物としては、硼酸塩(例えば、四硼酸カリウム)、水酸化物(例えば、水酸化カリウム)、弗化物(例えば、弗化カリウム)、硝酸塩(例えば、硝酸カリウム)、塩化物(例えば、塩化カリウム)、硫酸塩(例えば、硫酸カリウム)等がある。これらのカリウム化合物を1種、もしくは2種以上を混合して使用してもよい。好ましくは硼酸塩、より好ましくは四硼酸カリウムである。このカリウム化合物を亜鉛あるいはマンガンを含有する化成処理液中に添加して使用する。
【0026】
化成皮膜の形成に及ぼすカリウムの作用機構は、リン酸塩系化成処理液の場合、次のように考えることができる。
化成処理液中にカリウム化合物を添加することにより、液中の亜鉛あるいはマンガンとリン酸の平衡状態が崩れ、可溶性のリン酸カリウムとなり液中に溶解する。このとき、余剰の亜鉛あるいはマンガンは、羽毛状突起を有する不溶性のゲル状の浮遊物質を生成する。この浮遊物が鋼材表面に速やかに吸着して鋼材表面にリン酸塩の皮膜形成を促進させる核となり、スケムラ(金属露出)の少ない健全なリン酸塩皮膜を形成するものと推定される。
【0027】
ところで、その原因は必ずしも明確ではないが、カリウム化合物に代えてナトリウム化合物(Na2B4O7・10H2O)を添加した化成処理液を使用すると、厚さ10μm の化成皮膜値が得られたがスケムラが大きく、実用的とは云えない。したがって、上述のようなすぐれた効果はカリウム化合物特有のものと考えられる。
【0028】
このようなカリウム化合物の化成処理液への添加は、粉末の状態であるいは水溶液にしてから行うことができる。その添加時期は、最初に化成処理液を調製するときに添加してもよいが、化成処理を行う直前にあるいは化成処理中に添加してもよい。
【0029】
本発明の好適態様にあっては、上記化成処理液は、カリウム化合物を含有するリン酸マンガン系化成処理液であって、全酸度を30以上、55未満、全酸度の遊離酸度に対する比を3 〜15に調整したリン酸マンガン系化成処理液である。
【0030】
ここに、「全酸度」は、被検体液10mlをフェノールフタレインを指示薬として0.1ml/l の濃度の水酸化ナトリウム液で中和滴定したときの滴定値(ml 数) である。「遊離酸度」とは、被検体液10mlをブロムフェノールを指示薬として中和滴定したときの滴定値(ml 数) である。「全酸度の遊離酸度に対する比」とは、全酸度/ 遊離酸度であり、酸比とも称する。
【0031】
全酸度が30未満では、被処理鋼材に形成されるリン酸マンガン系皮膜が十分に均質でなく、スケムラが発生する場合があり、たとえ均質な化成皮膜が形成されたとしても、皮膜形成に要する処理時間が極端に長くなり経済的に好ましくない。また、全酸度が55以上となると、被処理鋼材表面に形成されるリン酸マンガン系結晶が極端に粗大化し、そのためスケムラが生じたり、被処理鋼材との密着性が劣化し、耐ゴーリング性を損なうことから好ましくない。より好ましくは35〜53である。
【0032】
同様に、全酸度の遊離酸度に対する比は、3 〜15、より好ましくは、6 〜11であり、その理由は、全酸度の限定理由と同じである。
化成処理液中のカリウム化合物の濃度は、質量%で、0.01〜10%を含有することが好ましい。カリウム化合物の濃度が0.01%未満では、皮膜厚みが不足する。一方、カリウム化合物の濃度が10%を超えると、皮膜形成のための効果が飽和する。皮膜厚みを均一にするという観点からは、より好ましくは0.1 〜10%とする。さらに好ましくは0.1 〜1%とする。これはカリウムを含むイオンのモル濃度で、ほぼ6×10-4%以上、7×10-1%以下に相当する。より好ましい範囲は、同じくカリウムを含むイオンのモル濃度で、ほぼ6×10-3%以上、7×10-1%以下、さらに好ましい範囲は、ほぼ6×10-3%以上、7×10-2%以下である。
【0033】
化成処理液と鋼材表面とを反応させるとき、具体的には、浸漬時、スプレー塗布時等のいずれにあっても、化成処理液の温度を60〜100 ℃、好ましくは70〜100 ℃に調整する。
【0034】
例えば、リン酸マンガン系化成処理液の温度は、60〜100 ℃が好ましい。リン酸−亜鉛系の化成処理液の温度は、70〜100 ℃である。70〜90℃が好ましい。それぞれ60℃未満、70℃未満では、皮膜形成反応速度が極端に低下するおそれがあるからである。リン酸マンガン系化成処理液では、85℃以上、好ましくは95〜98℃である。沸騰した化成処理液では水分の蒸発が激しくなり、化成処理液の濃度が高くなってしまうためである。特にリン酸亜鉛系化成処理液の場合、90℃を超えると初期反応段階において下地鉄面に対するエッチング作用が激しくなり、多量の水素ガスが発生し、油井管継手のような鋼管の底部にはガス溜まりができるため皮膜形成を阻害し、均質で健全な皮膜が形成できないおそれがあるためである。このような温度での浸漬時間あるいはスプレー塗布の場合の化成処理液との接触時間は5分以上である。
【0035】
カリウムを含有する処理液を鋼材表面に適用することで皮膜形成処理を行う方法は特に限定されるものではなく、予め脱脂・水洗等の予備処理を行ってから、カリウムを含有する処理液に浸漬する方法や、カリウムを含有する処理液をスプレー等により鋼材表面に供給する方法が適用できる。
【0036】
一般に、リン酸マンガン系の化成処理では、被処理鋼材を予め脱脂、水洗、酸洗、水洗等の予備処理を行った後、リン酸マンガンとピロリン酸ナトリウムとの混合水溶液等による表面調整処理が必要とされているが、本発明におけるリン酸マンガン系化成処理の場合には、そのような表面調整処理を必要としない。
【0037】
本発明にかかる化成処理液を用いて形成された化成皮膜は鋼材表面を均質に被覆することができる。このような化成皮膜のカリウム含有量は、0.1 〜1000 mg/m2となり、その際、厚さを5〜50μm 、好ましくは5〜35μm とすることで、その効果を十分に発揮できる。さらに、結晶粒が微細で緻密なために結晶間にグリスや固体潤滑剤などの潤滑剤を保持する性質に優れ、良好な潤滑性を呈するのであって、特に油井管の継手部、特にネジ部に設けることで、優れた特性を発揮できる。
【0038】
カリウム含有量が0.1mg/m2以上で化成皮膜の均一性が向上し、スケムラが減少する。また1000 mg/m2を超えても皮膜性状は変わらないので、経済性を考慮すれば1000 mg/m2以下とすることが好ましい。
【0039】
化成皮膜は、厚さが5μm 未満では耐食性などの化成皮膜としての十分な特性を発揮できない。一方、50μm を超える厚みの皮膜を形成した場合には、当然のことながら化成液中のリン酸や亜鉛やマンガンの消費量が多く液寿命も短くなる。経済性を考慮すれば35μm 以下が好ましい。
【0040】
化成処理液中のカリウム化合物の含有量と化成皮膜のカリウム化合物の含有量とは必ずしも同一ではなく、鋼材の種類によっても、その他の化成処理条件によっても変わる。特に、Cr含有鋼材の場合、20〜30℃という低い温度あるいは化成時間が5分以内では十分な量のカリウムが化成皮膜中に含有されず、スケムラの多い皮膜となり、耐ゴーリング性に劣る。
【0041】
次に、実施例に関連させて本発明の作用効果を具体的に説明する。
【0042】
【実施例】
[実施例1]
本例では、Cr:1%、3%、13%の各Cr含有鋼材 (C:0.25%) を使用してリン酸塩化成処理を行った。
【0043】
それぞれの試験材は、上記Cr含有鋼を真空溶解炉で溶製後、25kg角インゴットにしてから、厚み8mmにまで熱間圧延後、機械加工により、厚み5mm、幅25mm、長さ:30mm、表面粗さ Rmax5μmに調整したものを使用した。
【0044】
本発明において用いるカリウム化合物には、四硼酸カリウムを使用し、リン酸亜鉛化成処理液は市販の化成処理液を使用した。
四硼酸カリウムは、上記リン酸亜鉛液に0〜10%の濃度で添加して化成処理液を調製し、化成処理液の温度75℃で 500ml容量の容器に収容し、これに脱脂・水洗等の予備処理を行った試験材を5分間浸漬した後、引き上げて水洗、乾燥した。
【0045】
試験材の鋼材表面に形成された皮膜の厚みは、電磁膜厚計により測定した。皮膜の均質性は、走査型電子顕微鏡(SEM) および画像解析装置により評価した。カリウム含有量は、化成処理後の試験材を5%クロム酸の75℃水溶液に浸漬して化成皮膜のみを溶解した後、原子吸光分析法により溶液分析を行いカリウム含有量を決定した。
【0046】
表1に試験結果を示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表中の皮膜厚みは5μm未満に× (不可) を、厚さ5μm以上に○ (良好) をそれぞれ付けた。また、皮膜の均質性は鋼材表面に形成した皮膜中のスケムラ(金属露出)が、面積率で5%以下を○ (良好) 、5%超20%以下を△ (普通) 、20%超の試験結果に× (不可) をそれぞれつけた。全体評価では、皮膜厚み、皮膜の均質性評価がいずれも○の試験結果に○ (合格) を、いずれかが△あるいは×の試験結果に× (不合格) をそれぞれつけた。
【0049】
[実施例2]
本例において使用した試験材は下記鋼組成の鋼材であった。
(1)炭素鋼:C:0.25%、
(2)Cr−Mo鋼:C:0.25%、Cr:1.0 %、Mo:0.5 %、
(3)Cr鋼:C:0.25%、Cr:3%、5%、13%、22%
化成処理液として市販のリン酸マンガン化成処理液を使用した点を除いて、実施例1を繰り返した。
【0050】
四硼酸カリウムは、0〜10%の濃度で上記リン酸マンガン化成処理液に添加し、得られた化成処理液を、化成処理液の温度85℃で500ml 容量の容器に収容し、これに脱脂・水洗等の予備処理を行った上記試験材を10分間浸漬した後、引き上げて水洗、乾燥した。
【0051】
得られた化成皮膜は、実施例1と同様にして評価した。
本発明例の試験材には、炭素鋼、1Cr−0.5Mo 鋼、3Cr鋼、5Cr鋼、13Cr鋼を使用し、比較例の試験材には、22Cr鋼を使用した。
【0052】
表2、表3に試験結果を示す。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
表中の皮膜厚みは5μm未満に× (不可) を、厚さ5μm以上に○ (良好) をそれぞれ付けた。また、皮膜の均質性は鋼材表面に形成した皮膜中のスケムラ(金属肌の露出)占有率が、面積率で5%以下を○ (良好) 、5%超20%以下を△ (普通) 、20%超の試験結果に× (不可) をそれぞれつけた。全体評価では、皮膜厚み、皮膜の均質性評価がいずれも○の試験結果に○ (合格) を、いずれかが△あるいは×の試験結果に× (不合格) をそれぞれつけた。
【0056】
[実施例3]
本例では、Cr:1%、3%、13%の各Cr含有鋼から製造された継目なし鋼管である油井鋼管 (C:0.25%) を使用した。
【0057】
それぞれの試験材は、外表面が表面粗さ Rmax5μmに調整された、上記の各Cr含有鋼管より、厚み5mm、幅25mm、長さ30mm、のものを切り出し使用した。
本例においては、市販のリン酸亜鉛化成処理液に四硼酸カリウムを0〜10%の濃度で添加して化成処理液を調製した。
【0058】
図1は本例の滴下方式の試験方法を示す概略図である。
図示のように、化成処理液1の温度80℃で 500ml容量の容器に収容し、これに脱脂・水洗等の予備処理を行った試験材2の外表面側に滴下装置3から化成処理液1を5分間滴下した後、水洗、乾燥した。なお、化成処理液1は、加熱用温水5により加熱されており、循環ポンプ4により再循環利用される。
【0059】
得られた化成皮膜は、実施例1と同様にして評価した。
表4に試験結果を示す。
【0060】
【表4】
【0061】
表中の皮膜厚みは5μm未満に× (不可) を、厚さ5μm以上に○ (良好) をそれぞれ付けた。また、皮膜の均質性は鋼管材料表面に形成した皮膜中のスケムラ(金属肌の露出)占有率が、面積率で5%以下を○ (良好) 、5%超20%以下を△ (普通) 、20%超の試験結果に× (不可) をそれぞれつけた。全体評価では、皮膜厚み、皮膜の均質性評価がいずれも○の試験結果に○ (合格) を、いずれかが△あるいは×の試験結果に× (不合格) をそれぞれつけた。
【0062】
[実施例4]
本例では、Cr:1%、3%、13%の各Cr含有鋼 (C:0.25%) から製造した油井鋼管を用意した。
【0063】
それぞれの試験材は、外表面を表面粗さRmax 5μmに調整した上記鋼管より切り出し、その寸法は厚み5mm、幅25mm、長さ30mmであった。
本例においては、市販のリン酸マンガン化成処理液に四硼酸カリウムを0.1 〜1.0 %の濃度で添加した後、全酸度を30以上55未満、全酸度の遊離酸度に対する比を8.2 〜9.0 に調整した。この化成処理液を温度95℃で1000ml容量の容器に収容し、これに脱脂・水洗等の予備処理を行った試験材を前記化成処理液に20分間浸漬した後、水洗、乾燥した。
【0064】
試験材の鋼材表面に形成された化成皮膜の評価は、実施例1と同様にして行った。
【0065】
表中の皮膜の均質性はスケムラ(金属肌の露出)占有率が、面積率で1%以下を◎ (優秀) 、1%超5%以下を○ (良好) とした。全体評価では、皮膜の均質性評価が◎または○の試験結果に○ (合格) をつけた。
表5に試験結果を示す。
【0066】
【表5】
【0067】
【発明の効果】
本発明により、カリウム化合物を0.01〜10%添加した亜鉛とリン酸またはマンガンとリン酸を含有する化成処理液により、Crを0.5 〜13%含有する鋼材の表面に、均質で密着性に優れた健全なリン酸塩の化成皮膜を容易に安定して形成することができる。また、炭素鋼についても、本発明を用いれば従来以上に密着性に優れた厚い化成皮膜を容易に安定して形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例で用いる滴下方式の試験方法を示す概略図である。
Claims (10)
- 処理すべき鋼管の表面を脱脂、水洗した後で、化成処理を行うことにより得られるものであって、Crを0.5 〜13質量%含有する鋼組成を有する鋼管と該鋼管の表面の少なくとも1つの部位に設けた化成皮膜とから成り、該化成皮膜はカリウム量が0.1〜1000mg/m2であり、厚みが5〜50μmであることを特徴とする表面処理継目なし鋼管。
- 前記化成皮膜がリン酸塩系化成皮膜である請求項1記載の表面処理継目なし鋼管。
- 前記化成皮膜が、リン酸亜鉛系またはリン酸マンガン系化成皮膜である請求項2記載の表面処理継目なし鋼管。
- 請求項1から3のいずれかに記載される表面処理継目なし鋼管を用いてなることを特徴とするねじを設けた油井管。
- 請求項1から3のいずれかに記載される表面処理継目なし鋼管を用いてなることを特徴とする油井管用のねじを設けたカップリング。
- 処理すべき鋼管の表面を脱脂、水洗した後で、化成処理を行う製造方法であって、亜鉛とリン酸またはマンガンとリン酸を含有し、さらにカリウムを含有する化成処理液を用いてCrを0.5〜13質量%含有する鋼組成を有する鋼管の表面に化成処理を行うことを特徴とする表面処理継目なし鋼管の製造方法。
- 前記化成処理液は四硼酸カリウムを含み、この四硼酸カリウム濃度が0.01質量%以上、10質量%以下であることを特徴とする請求項6記載の表面処理継目なし鋼管の製造方法。
- 前記化成処理を60〜100 ℃の温度で少なくとも5分間前記鋼管の表面を前記化成処理液に浸漬して行うことを特徴とする請求項6記載の表面処理継目なし鋼管の製造方法。
- 前記化成処理を60〜100 ℃の温度で少なくとも5分間前記鋼管の表面に前記化成処理液を供給して行うことを特徴とする請求項6記載の表面処理継目なし鋼管の製造方法。
- フッ素イオンの不存在下で前記化成処理を行うことを特徴とする請求項6から9のいずれかに記載の表面処理継目なし鋼管の製造方法。
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