JP5280099B2 - 金属表面の処理方法、及び該処理方法による金属表面を有する摺動部品 - Google Patents
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Description
本発明の第1は、相互に面圧を受けた状態で接触する金属表面を処理する金属表面の処理方法であって、金属表面に仕上げ面を形成する工程と、前記仕上げ面の少なくとも一部に凹部を形成する工程と、リン酸マンガンを含む処理液を用いて、前記凹部を含む仕上げ面に、0μmを超えて4μm以下の平均粒径を有するリン酸マンガン粒子を含む皮膜層を形成する工程と、前記皮膜層が形成された前記金属表面同士の摩擦により、前記仕上げ面から前記皮膜層を除去する工程と、前記金属表面同士の間に潤滑油を注入し、前記凹部内に残留したリン酸マンガン粒子に前記潤滑油を保持させることにより前記金属表面を潤滑する工程とを含む、金属表面の処理方法である。なお、本明細書では、特に言及のない限り、平均粒径は以下の値を意味する。すなわち、走査型電子顕微鏡(SEM)または光学顕微鏡を用いて写真を撮影し、かかる写真上に対角線を2セット引き、各対角線の全長に対する、各対角線上の凹部の合計の長さを計算し、平均を求めることにより得られる値である。図1は、本発明の第1の金属表面の処理方法の工程図である。また、図2は、本発明の第1の金属表面の処理方法における表面の変化を示す断面図である。
図1の(イ)(図2では図示せず)は、本発明の処理方法が、歯車の表面を処理するために用いられる場合に行われる工程(以下、「歯切り加工工程」という)を示す。すなわち、歯車などの摺動部品の金属表面に、本発明によるリン酸マンガン皮膜を施したい場合には、後述する「第1工程」のいわば「前工程」として、あらかじめ金属材料を歯切りしておく必要がある。歯車はホブ盤を用いたホブ切り、あるいはピニオンカッターやラックカッターを用いた歯切りにより切削加工される。ホブ切りはホブと歯車素材との相対運動によって歯車を削り出すようにした創成歯切り法である。ホブは円筒面上にラックの歯形をした切れ刃がねじ状に形成された工具で、このホブの回転とともに一定の比率で歯車素材を回転させ、同時にホブを歯車軸方向に送ることにより歯車の創成歯切りが行われる。歯車のうち歯筋がねじれた曲線となっているハイポイド歯車は、環状カッターを用いた創成歯切りや、円錐ホブを用いた創成歯切りにより歯切り加工される。
図1の(ロ)及び図2の(P)は、金属材料30に仕上げ面31を形成する工程(以下、「表面仕上げ工程」という)を示す。まず、摺動部品として用いる金属材料30(基材)は、特に限定されず、摺動材料において公知の種々の金属を用いることができる。例えば、鉄、アルミニウム若しくは銅、または鋼若しくはステンレスなどの鉄系合金、あるいは銅系合金若しくはアルミニウム系合金などが挙げられる。ただし、車両用部品など、非常に面圧のかかる摺動部品に用いる金属材料としては、鋼若しくはステンレスなどの鉄系合金、SNC415等のニッケル・クロム系,SNCM420等のニッケル・クロム・モリブデン系,SCr420等のクロム系,SCM418等のクロム・モリブデン系などの機械構造用合金はだ焼鋼を用いることが好ましい。
図1の(ハ)及び図2の(Q)は、仕上げ面31の少なくとも一部に凹部32を形成する工程(以下、「表面調整工程」という)を示す。本工程は、上記特許文献1に開示された方法とほぼ同様の方法で行うことができる。すなわち、ショットピーニング機を用いて、平均粒径50〜800μmの投射材29を仕上げ面31に投射することにより、金属材料30の仕上げ面31に凹部32を形成する。これにより、金属材料30の表面は、投射材29が投射されない仕上げ面31と、投射材29により形成される凹部32とが混在した面となる。凹部32のサイズ(深さ及び幅)は、投射材29の平均粒径及び投射圧を調整することにより、適宜調節することができる。特に、凹部32内には後の工程でリン酸マンガン粒子が入り込み、保持されることとなるため、リン酸マンガン粒子の平均粒径如何によって凹部32のサイズを調節することが好ましい。
図1の(ニ)、並びに図2の(R)及び(S)は、リン酸マンガンを含む処理液を用いて、凹部32を含む仕上げ面31に0μmを超えて4μm以下の平均粒径を有するリン酸マンガン粒子34を含む皮膜層33を形成する工程を示す。以下、該工程を「皮膜層形成工程」という。具体的にいうならば、皮膜層形成工程は、リン酸マンガンを含む処理液の調製段階、並びにリン酸マンガンの投入段階及び化成段階からなる。以下、各段階について順に説明する。
図1の(ホ)及び図2の(T)は、皮膜層33が形成された金属表面同士の摩擦により、仕上げ面31から皮膜層33を除去する工程(以下、「皮膜層除去工程」という)を示す。具体的にいえば、皮膜層除去工程は、皮膜層除去段階、水洗段階、湯洗段階及び防錆段階からなる。以下、各段階を順に説明する。
図1の(ヘ)は、前記金属表面同士の間に潤滑油を注入し、前記凹部内に残留したリン酸マンガン粒子34に前記潤滑油を保持させることにより前記金属表面を潤滑する工程(以下、「潤滑処理工程」という)を示す。仕上げ面31から初期なじみにより皮膜層33が消失された状態の一対の金属表面に潤滑油を供給すると、供給された潤滑油は凹部32内に入り込んだリン酸マンガン粒子34中の間隙に含浸される。また、同時に、露出した仕上げ面31の微細な表面荒れの中にも入り込むことになり、結果的に金属表面を潤滑することになる。なお、潤滑油としては、摺動部品の用途に応じて、適宜従来公知のものが使用できる。
本発明の第2は、仕上げ面の少なくとも一部に凹部を有し、前記凹部中に、0μmを超えて4μm以下の平均粒径を有するリン酸マンガン粒子34を含む金属表面を有する摺動部品である。また、上記第1態様で説明した通り、リン酸マンガン粒子34を生成する際の処理液に、金属加工の分野で通常使用されるような水(工業用水など)を用いる場合には、前記処理液にさらにピロリン酸ナトリウムを含ませることが好ましい。すなわち、かかる場合には、得られる摺動部品における金属表面にはピロリン酸ナトリウムがさらに含まれる。なお、「仕上げ面」、「凹部」、「平均粒径」、「リン酸マンガン粒子」及び「ピロリン酸ナトリウム」などについては、上記第1態様で説明した内容と同様であるため、ここでは説明を省略する。
本発明の第3は、上記第2態様の摺動部品であって、リン酸マンガン粒子34に保持された潤滑油を有し、ハイポイド歯車、軸受の転動体若しくは軌道輪、滑り軸受、またはデファレンシャル機構の傘歯車から選択される摺動部品である。本発明の摺動部品によれば、上述の通り、金属表面の摩擦係数を低減することができる。動力を伝達する歯車や軸受などの金属同士の接触面の摩擦係数を低減することによって、摩擦による発熱や音によって失われるエネルギーを低減し、部品同士の接触面の温度上昇を抑制することができ、回転部材間の動力伝達効率を向上させることができる。ひいては、摺動部品の高寿命化を達成できる。
本発明の第4は、上記第3態様の摺動部品のうち一以上を用いてなる車両である。本発明の車両によれば、上述の通り、車両を駆動する動力伝達装置における動力伝達効率を向上させて、車両の燃費を向上させることができる。また、部品同士の接触面の温度上昇を抑制することができることに起因して、エンジン性能の向上、より具体的にはエンジントルクの上昇が図れ、さらに、オイルクーラーの設置が不要となるため、部品のサイズアップの抑制が可能となる。
<実施例1>
(前工程:歯切り加工工程)
摺動部品として歯車を製造した。摺動部品として用いる金属材料(基材)に鋼を用いた。まず、歯切り盤により歯切り加工を行った。歯切り加工された歯車の金属表面(歯面)は、炭素ガス雰囲気でのガス浸炭処理を施し、歯面に硬化層を形成させた。熱処理温度は940℃であり、熱処理時間は360分であった。
ラッピング法によって表面仕上げを行い、仕上げ後の金属材料の表面粗さは、1μmRaであった。脱脂処理として、3質量%アルカリ処理液(pH:12)中に浸漬させた。前記浸漬の際の温度は70℃であり、時間は10分であった。脱脂後に水洗処理を行い、金属表面に付着したアルカリを除去した。水洗処理温度は30℃であり、水洗処理時間は1.0分であった。その後乾燥処理を行った。乾燥処理温度は120℃であり、乾燥処理時間は10分であった。
ショットピーニング機(新東工業社製)を用いて、材料を鋼球とする、平均粒径0.6mmの投射材を仕上げ面に投射することにより、金属材料の仕上げ面に凹部を形成した。
リン酸マンガン系化成処理薬剤(パルホスM5、日本パーカライジング(株)製)を用いて、処理液の調製を行った。直径1〜500nm程度のリン酸マンガンを含むA剤(リン酸マンガンの含有率は80〜90%)、及び直径1〜500nm程度のピロリン酸ナトリウムを含むB剤(ピロリン酸ナトリウムの含有率は100%)を用意した。そして、A剤及びB剤を用いて、2.7g/lの前記リン酸マンガン(A)、0.5g/lの前記ピロリン酸ナトリウム(B)、及び工業用水からなる処理液を調製した。前記工業用水の成分としては、カルシウムイオンの濃度が14.55mg/l、マグネシウムイオンの濃度が1.92mg/l、塩素イオンの濃度が3.958mg/l、硫酸イオンの濃度が12.634mg/l、電気伝導度が110.4μS/m、及びpHが9.6であった。
続いて、皮膜層除去工程(第4工程)の第1段階として、皮膜層除去段階を実行した。皮膜層除去段階では、皮膜層が形成された金属表面同士を摩擦させることにより、仕上げ面から皮膜層を除去した。
続いて、前記金属表面同士の間に潤滑油を注入し、前記凹部内に残留したリン酸マンガン粒子に前記潤滑油を保持させることにより前記金属表面を潤滑する工程を行った。なお、潤滑油として、オートマチックトランスミッション用の日産自動車純正ATF・マチックフルードDを使用した。
以下の表1に示す条件、及び図6に示す試験機を用いて試験を行った。
第3工程以外の各工程及び摩擦磨耗試験は、実施例1と同様に実施した。
処理液の調製を行った。A剤及びB剤を用いて、2.7g/lのリン酸マンガン(A)、2.0g/lのピロリン酸ナトリウム(B)、及び工業用水からなる処理液を調製した。処理液のpHは9.90であった。前記工業用水は実施例1と同一のものを使用した。
第3工程以外の各工程、及び摩擦磨耗試験は、実施例1と同様に実施した。
処理液の調製を行った。A剤及びB剤を用いて、2.7g/lのリン酸マンガン(A)、3.0g/lのピロリン酸ナトリウム(B)、及び工業用水からなる処理液を調製した。処理液のpHは10.0であった。前記工業用水は実施例1と同一のものを使用した。
第3工程以外の各工程、及び摩擦磨耗試験は、実施例1と同様に実施した。
処理液の調製を行った。A剤及びB剤を用いて、2.7g/lのリン酸マンガン(A)、4.0g/lのピロリン酸ナトリウム(B)、及び工業用水からなる処理液を調製した。処理液のpHは10.0であった。前記工業用水は実施例1と同一のものを使用した。
第3工程以外の各工程及び摩擦磨耗試験は、実施例1と同様に実施した。
処理液の調製を行った。A剤及びB剤を用いて、2.7g/lのリン酸マンガン(A)、5.0g/lのピロリン酸ナトリウム(B)、及び工業用水からなる処理液を調製した。処理液のpHは10.1であった。前記工業用水は実施例1と同一のものを使用した。
上記実施例1及び2、並びに比較例1〜3について、SEMかかる実証の結果(電子顕微鏡写真)を図8に示す。図8において、Aはリン酸マンガンの濃度、Bはピロリン酸ナトリウムの濃度、Cはリン酸マンガン皮膜を構成するリン酸マンガン粒子の平均粒径を表す。図8の結果より、リン酸マンガンの濃度が2.7g/lの場合、ピロリン酸ナトリウムの濃度が2.0g/l以下である場合(特に、1.0〜2.0g/lの場合)、リン酸マンガン皮膜の平均粒径を効果的に微細化することができ、摺動部品の強度が顕著に向上することを見出した。併せて、上記範囲内のピロリン酸ナトリウムの濃度において、リン酸マンガン粒子34の平均粒径4μm以下を安定的に得られることも見出した。
<実施例3>
第3工程以外の各工程は、実施例1と同様に実施した。
処理液の調製を行った。A剤及びB剤を用いて、2.7g/lのリン酸マンガン(A)、1.0g/lのピロリン酸ナトリウム(B)、及び工業用水からなる処理液を調製した(pH9.6)。前記工業用水は実施例1と同一のものを使用した。
第3工程以外の各工程は、実施例1と同様に実施した。
処理液の調製を行った。A剤及びB剤を用いて、2.7g/lのリン酸マンガン(A)、1.5g/lのピロリン酸ナトリウム(B)、及び工業用水からなる処理液を調製した(pH9.8)。前記工業用水は実施例1と同一のものを使用した。
第3工程以外の各工程は、実施例1と同様に実施した。
処理液の調製を行った。A剤及びB剤を用いて、2.7g/lのリン酸マンガン(A)、3.0g/lのピロリン酸ナトリウム(B)、及び工業用水からなる処理液を調製した。前記工業用水は実施例1と同一のものを使用した(pH10.0)。
リン酸マンガン(A剤)を一切添加しない対照区を設けた。
一定のトルクで歯車同士を噛み合わせて試験を行い,歯車が破損する際に発生する振動を検知させて試験機を停止させて停止するまでの累積回転数から強度の評価を行った。結果を図9に示す。図9の縦軸は、リン酸マンガン皮膜を有さない比較例5の寿命期間に対する、実施例3及び4、並びに比較例4における部品の寿命期間を、寿命向上率として示すものである。
30 金属材料、
31 仕上げ面、
32 凹部、
33 皮膜層、
34 リン酸マンガン粒子。
Claims (11)
- 相互に面圧を受けた状態で接触する金属表面を処理する金属表面の処理方法であって、
金属表面に仕上げ面を形成する工程と、
前記仕上げ面の少なくとも一部に凹部を形成する工程と、
リン酸マンガンを含む処理液を用いて、前記凹部を含む仕上げ面に、0μmを超えて3.2μm以下の平均粒径を有するリン酸マンガン粒子を含む皮膜層を形成する工程と、
前記皮膜層が形成された前記金属表面同士の摩擦により、前記仕上げ面から前記皮膜層を除去する工程と、
前記金属表面同士の間に潤滑油を注入し、前記凹部内に残留したリン酸マンガン粒子に前記潤滑油を保持させることにより前記金属表面を潤滑する工程とを含む、金属表面の処理方法。 - 前記処理液はピロリン酸ナトリウムをさらに含む、請求項1に記載の処理方法。
- 前記処理液に超純水を用いる、請求項1または2に記載の処理方法。
- 前記凹部において、前記リン酸マンガンが核形成用の核となり前記リン酸マンガン粒子を形成し、前記リン酸マンガン粒子の周囲をピロリン酸ナトリウムが覆いリン酸マンガン粒子を安定化する、請求項2または3に記載の処理方法。
- 前記皮膜層を形成する工程において、前記処理液中の水が、10〜14.55mg/lのカルシウムイオンと、0.5〜1.92mg/lのマグネシウムイオンとを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の処理方法。
- 前記処理液中に含まれるリン酸マンガンの濃度が2.4〜2.7g/lである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の処理方法。
- 前記処理液中に含まれるピロリン酸ナトリウムの濃度が0.5〜1.0g/lである、請求項2〜6のいずれか1項に記載の処理方法。
- 前記仕上げ面の少なくとも一部に凹部を形成する工程において、平均粒径が50〜800μmの投射材を前記仕上げ面に投射して前記凹部を形成する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の処理方法。
- 歯車の表面を処理するために用いられる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の処理方法。
- 仕上げ面の少なくとも一部に凹部を有し、
前記凹部中に、0μmを超えて3.2μm以下の平均粒径を有するリン酸マンガン粒子を含む金属表面を有する、摺動部品であって、
前記金属表面にピロリン酸ナトリウムがさらに含まれ、
前記リン酸マンガン粒子に保持された潤滑油を有し、ハイポイド歯車、軸受の転動体若しくは軌道輪、滑り軸受、またはデファレンシャル機構の傘歯車から選択される、摺動部品。 - 請求項10に記載の部品のうち一以上を用いてなる、車両。
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