JP2005126752A - 表面硬度と高耐食性が付与された自動車用足回り部材 - Google Patents

表面硬度と高耐食性が付与された自動車用足回り部材 Download PDF

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Abstract

【課題】 自動車用足回り部材に、耐摩耗性などの機械的特性と、特に塩分などの腐食因子による腐食環境下における高耐食性とを併せて付与するための技術の提供。
【解決手段】 最表面にリチウム・鉄複合酸化物層を有し、その直下に少なくとも表面改質拡散元素としての窒素元素が、被処理物基材中の他の元素と結合もしくは前記基材中に拡散された表面改質層を有し、前記リチウム・鉄複合酸化物層の付着量がリチウム原子として10〜1,500mg/m2であることを特徴とする自動車用足回り部材。
【選択図】 図1

Description

本発明は、鉄系部材(鋼板、丸棒などの部品の材料となるものを含む。)に関し、より詳しくは自動車用足回り部材に、耐摩耗性などの機械的特性と、特に塩分などの腐食因子による腐食環境下における高耐食性とを併せて付与するための技術に関する。
自動車の足回り部材は、主に自動車床面下部において車外に露出される形で配置されるために、極めて過酷な腐食環境にさらされる。特に、融雪塩が路上散布されるような積雪地区や海浜地区においては、飛散した塩分が直接付着すること、それ以外の地区でも走行中に飛び跳ねた小石や砂利が衝突して表面損傷を起こし、塗装などを施しても金属が露出する場合があるからである。通常の構造材では、柔軟な塗膜を高膜厚で塗装するなどの重防食塗装を施すことによりある程度の寿命を伸ばすことができるが、摺動部材などでは金属部材同士が摺動するので、多くの塗装手段は使えない。その上、摺動部材においては、その本来の特性である耐摩耗性および低摩擦係数を確保したうえでの耐食性が要求される。
すなわち、自動車用足回り部材、特に摺動を伴う足回り部材では、耐摩耗性および低摩擦係数のような摺動特性と耐食性を両立する必要がある。一般にこれらの部材には構造上の強度が必要なことから鉄鋼材料が用いられるが、以上の特性を付与するために、上記の鉄鋼材料にクロムめっきや熱処理硬化法のような表面処理あるいは表面改質法が適用されている。その技術の中で、硬質クロムめっきは有効な処理として分野を問わず、多岐に渡り適用されている。しかしながら、下記の如き幾つかの問題点がある。
一つは、六価クロムを使用していることである。近年、環境問題が重視され、自然環境面に限らず、生活環境の面においても人体に悪影響を及ぼしかねない薬剤の使用が制限されている。そこで六価のクロムから三価のクロムへの代替技術にて対応しているが、処理液の浴管理に細心の配慮が必要となるなど、生産性および経済性が劣る。
次に耐食性能である。一般的に硬質クロムめっきは高耐食性を付与させる処理と言われているが、硬質クロムめっきの厚膜化を図ると、めっき層中にクラックが生じてしまうため期待する耐食性能は得られない。そこで実際は被処理物に対して何層ものニッケルめっきや銅めっきが施されており、その上層に硬質クロムめっきを施すことにより、耐食性を付与させているのであり、硬質クロムめっき単層にて高耐食性を付与させているわけではない。その結果、コスト高となることは言うまでもない。
また、硬質クロムめっきは一般的に電解処理にて形成させるので、単純形状部品にはある程度均一な膜厚のめっきを施すことが可能であるが、複雑形状部品に対して困難である。さらに単純形状部品であっても部品の端部の膜厚化を抑制させるために、被処理物の各部位での電流密度を所定の範囲内に制御しなければならず、部品のセッティングに細心の配慮が必要となる。その結果、生産性が低くなることは言うまでもない。
以上のように、硬質クロムめっきは耐摩耗性と耐食性を必要とする部材に多く適用されているものの、生産性や経済性および環境面において必ずしも最適な処理ではない。一方、熱処理硬化法のひとつである浸炭窒化処理(または窒化、軟窒化処理)は、生産性および経済性の面で耐摩耗性を向上させる有効な処理である。しかしながら、そのままの表面状態では期待される耐食性は得られない。
窒化処理された鉄系部材の耐食性の改良について、特許文献1および特許文献2では、窒化処理後に酸化処理を施す処理法が提案されている。また、特許文献3および特許文献4では、窒化処理後に酸化処理を施し、さらにワックスを含浸あるいはポリマーコーティングを施す処理が提案されており、ワックス含浸もしくはポリマーコーティングによる摩擦係数を低下させる効果も付与させている。
さらには、特許文献5においては、窒化塩浴中での窒化処理に際して陽極電解を行うことにより、窒化物層の上に酸化物層を同時に形成させる処理方法が開示されており、上記特許文献2などで提案されている窒化処理と酸化処理の二段階処理を、一回で行うことができる技術であり、生産性および経済性の面にて効果が得られる可能性があった。
一方で、特許文献6および特許文献7においては電解処理などを行わず、一般的に行われている窒化処理工程のみで、軟窒化処理と酸化処理を同時に行い、単一工程で耐摩耗性と耐食性が付与され、さらに生産性および経済性の面にて効果が得られる可能性があった。
特開昭56−33473号公報 特開平7−224388号公報 特開平5−263214号公報 特開平5−195194号公報 特開平7−062522号公報 特開2002−226963公報 特願2002−258619明細書
しかしながら、特許文献1および特許文献2にて提案されている処理では、窒化処理のみより耐食性能は大幅に向上するものの、その性能が不安定であり、特許文献3および特許文献4にてワックス含浸などで安定化を図っても、窒化処理時に形成された空孔部を完全に封孔もしくは被覆することができず、品質管理上の見地から採用を見送られるケースがあった。
また、特許文献5に記載の技術においては、窒化用塩浴中にて電解処理を行うので、陰極反応時にシアン酸が還元されシアンが生成される結果、処理浴中のシアン濃度が高濃度となってしまう問題点があり、さらには処理される部材の各部位での電流密度を所定の範囲内に制御させるため、対向電極の設置や部材のセッティングに細心の配慮が必要となるだけでなく、複雑形状物に対して均一な処理を行うことが困難であり、処理対象となる部材がかなり限定されてしまう。
さらに自動車用足回り部材において摺動を伴う部材に関しては、表面粗さの精度も必要とされているため、上記改良手法では酸化処理後の研磨にて精度を出す試みがなされた。しかしながら、前記酸化処理にて形成される酸化膜は薄膜であり、研磨工程にてその多くが除去される結果、期待される耐食性は望めない。そのため、酸化処理時間の長期化もしくは研磨工程を行った後に、再度酸化処理を行う手法が取られたが、酸化膜の厚膜化は精度不足の原因になり、結果的にコスト高となってしまうため採用を見送られるケースがあった。
一方、特許文献6および特許文献7に記載の手法では、特開2003−27211公報に記載のように耐食性能は大幅に向上し、かつ従来の手法と比較してその性能は安定していた。しかしながら、実部品に処理を施し、後研磨などにて寸法精度を出した場合、極稀に安定した高耐食性が得られないことがあった。
上記課題を解決するため、特開2003−27211公報に記載の技術に関して、本発明者らは、さらに鋭意検討を行った結果、リチウム・鉄複合酸化物層中のリチウム原子量を制御することにより、さらに優れた耐食性能を示すことを見出し、本発明を成すに至った。
すなわち、本発明は、最表面にリチウム・鉄複合酸化物層(以下「複合酸化物層」と略す)を有し、その直下に、少なくとも表面改質拡散元素としての窒素元素が、被処理物基材中の他の元素と結合した、もしくは前記基材中に拡散された表面改質層(以下「軟窒化層」と略す)を有し、前記複合酸化物層の付着量がリチウム原子として10〜1,500mg/m2であることを特徴とする自動車用足回り部材を提供する。
上記本発明においては、前記複合酸化物層と、前記軟窒化層との間に、前記複合酸化物層と前記軟窒化層との混合層を有すること;前記被処理物基材が、少なくともステンレスおよび鉛快削鋼を除く鉄鋼材料であって、前記鉄鋼材料中の鉄含有量が90質量%以上であること;前記複合酸化物層中に、リチウム・鉄複合酸化物(Li5Fe58)が形成されていること;前記複合酸化物層の膜厚が、0.1〜7μmであること;前記軟窒化層の厚みが2〜20μmであること;および部材の表面粗さが、Rzで2.0μm以下であることが好ましい。また、上記部材の表面は、研磨仕上げ、バフ仕上げ、振動バレル仕上げ、ショットブラストなどの仕上げ加工により仕上げられていてもよい。
以上の如き本発明によれば、複合酸化物層と軟窒化層とが表面近傍に形成されている自動車用足回り部材において、複合酸化物層中のリチウム原子の付着量を制御することにより、飛散塩分などの腐食環境下にて使用される部材に対して、優れた高耐食性能を示す。よって、本発明は、耐摩耗性および耐食性を必要とする自動車用足回り部材の改善に大いに貢献し得るものである。
次に本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、本発明の自動車用足回り部材の一部の断面を図解的に示す図である。本発明の部材は図示のように、被処理基材である母材1の最表面に複合酸化物層2を有し、その直下、すなわち、複合酸化物層2と母材1との間に軟窒化層3が形成されている。本発明の好ましい実施形態では、上記軟窒化層3は表面多孔質状態で形成され、該多孔質層の孔内に食い込んだ状態で上記複合酸化物層2が形成されるので、複合酸化物層2と軟窒化層3との間には、複合酸化物層2と軟窒化層3との混合層4が形成されている。本発明は、上記構成の部材において、前記複合酸化物層2の付着量、または前記複合酸化物層2と前記混合層4との合計の付着量が、リチウム原子として10〜1,500mg/m2であることを特徴としている。
上記本発明の部材を構成する母材(被処理基材)は、鉄系部材であれば特に限定されないが、母材がステンレス鋼である場合には、母材の表面処理中にステンレス鋼中のクロムに起因するクロム窒化物の形成による部材の耐食性の低下を補うことが稀にできず、また、母材が鉛快削綱である場合には、該母材に含有される鉛の影響を受け、リチウム・鉄複合酸化物(以下「複合酸化物」と略す)の形成が抑制されるので、より高い処理温度もしくは長い処理時間が必要となり、その結果、生産性が低下し経済的な負荷が高くなる。さらに母材中の鉄含有量が少ない場合も、複合酸化物層の形成が抑制されることがある。そのため、前記母材は、少なくともステンレスおよび鉛快削綱を除く鉄鋼材料であって、該鉄鋼材料中の鉄含有量が90質量%以上であることが好ましい。
上記母材1の表面に複合酸化物層2および軟窒化層3(および混合層4)を形成する方法は、複合酸化物層2の付着量がリチウム原子として10〜1,500mg/m2である限り、特開2002−226963公報などに記載される如く従来公知の何れの方法でもよく特に限定されないが、好ましい1例は、特願2002−258619明細書に記載の方法である。すなわち、カチオン成分としてLi+、Na+およびK+を、アニオン成分としてCNO-とCO3 --を含む窒化塩浴中に上記母材を浸漬してその表面に軟窒化層3を形成させる。この際に上記窒化塩浴に水酸化アルカリ、結合水、自由水および湿潤空気からなる群から選択された酸化力強化物質の添加により窒化塩浴の酸化力を強化して、母材表面に軟窒化層3が形成されると同時にその最表面に複合酸化物層2を形成させる方法である。この方法においては、上記窒化塩浴への浸漬の次工程で上記処理母材をアルカリ金属硝酸塩を含有する置換洗浄塩浴に浸漬することが好ましい(詳細は特願2002−258619明細書参照)。
本発明の部材は、上記塩浴窒化方法において複合酸化物層2および軟窒化層3(および混合層4)を形成する際に、複合酸化物層2の膜厚(付着量)、または複合酸化物層2と混合層4との合計の膜厚(付着量)をリチウム原子換算とした場合、リチウム原子の量が単位面積当たり、10〜1,500mg/m2であることを要し、50〜1,500mg/m2がより好ましく、100〜1,000mg/m2がより一層好ましい。リチウム原子の量が10mg/m2未満であると本発明の目的が達成されず、一方、リチウム原子の付着量が1,500mg/m2を超えると、複合酸化物層2の厚みが厚過ぎることとなり、結果的に複合酸化物層2を構成する結晶粒子の粗大化を招き、得られる表面処理部材の耐食性を逆に低下させてしまう畏れがある。なお、単位面積当たりのリチウム原子の付着量、すなわち、複合酸化物層2の膜厚は後研磨やバフやショット仕上げなどによる仕上げ加工にて調整することも可能である。
上記複合酸化物層2の厚みは0.1〜7μmとすることが好ましく、より緻密な結晶からなる複合酸化物層2を形成させるため1〜5μmがより好ましく、2〜4μmがより一層好ましい。このような複合酸化物層2の厚みは、塩浴窒化処理の処理温度および処理時間を調整することによって決められる。複合酸化物層2の厚みが0.1μm未満では、本発明の目的が達成されず、一方、厚みが7μmを超えると複合酸化物層2の形成に際し、結果的に複合酸化物層2を構成する結晶粒子の粗大化を招き、逆に得られる部材の耐食性を低下させてしまう畏れがある。
また、上記複合酸化物層2にリチウム・鉄複合酸化物(Li5Fe58)が同定されることが好ましく、同定されない場合では、得られる部材の耐食性能が劣る場合がある。
母材の前記塩浴窒化処理によって前記複合酸化物層2の直下に軟窒化層3が同時に形成されるが、該軟窒化層3の膜厚は、薄いと得られる表面処理部材の耐食性能に充分な効果が現れない。また、生産性と経済性の双方を配慮し、軟窒化層3の厚みは2〜20μmが好ましく、4〜15μmがより好ましく、6〜12μmがより一層好ましい。
軟窒化層3の構造に関しては、本発明の部材の摺動時に、最表面の複合酸化物層2が除去された場合、軟窒化層3が多孔質な構造を有していると、この多孔質な箇所に複合酸化物が残存するため、複合酸化物層2が除去された場合にも表面処理部材の高耐食性能が保持される。そのため、前記軟窒化層3の上層部が多孔質な構造を有しており、前記多孔質層内に複合酸化物が混在している(すなわち、複合酸化物層2と軟窒化層3との混合層4)ことが一層好ましい。
さらに、得られる表面処理部材の表面粗さに関しては、表面の凹凸が大きいと摺動時に摩擦係数の増大を招き、耐摩耗性能が低下する。そのため、前記複合酸化物層の膜厚制御を表面研磨やバフやショットブラストなどによる仕上げ加工にて行わない場合であっても、表面粗さはRzで2.0μm以下が望ましく、さらに1.5μm以下がより好ましい。また、上記表面処理された部材は、研磨仕上げ、バフ仕上げ、振動バレル仕上げ、ショットブラストなどの仕上げ加工により仕上げられていてもよい。
以上のように本発明は、特許文献7に記載の技術を応用し、特開2003−27211公報に記載の技術をさらに改良するものである。従って、後述する実施例では、Na、KおよびLiの炭酸塩を混合させ、前記炭酸塩の一部をCNO-として置換えた組成を持つ溶融塩中にて母材の窒化処理を施し、続いてアルカリ硝酸塩を含有する洗浄塩浴に浸漬させて得られた処理部材により本発明の効果を確認したが、あくまで複合酸化物層中のリチウム原子の付着量が性能に関与しているため、本発明の部材は、前記特許文献7および特開2003−27211公報に記載の方法を利用して製造されたものに限定されるものではない。
なお、本発明に適用される部材を、自動車用足回り部材と称しているが、ここでいう「足回り部材」とは外気に曝される、もしくは外気と接触する自動車部材のことを指しており、ショックアブソーバー、ドライブシャフト、スタビライザー、ブレーキシャフト、サスペンションアーム、サスペンションスプリング、トーションバー、トレーリングアーム、ロアアーム、アッパアーム、アンカブラケット、サスペンションボールジョイント、ブレーキマスタシリンダピストン、プロポーショニングバルブ、ホイールキャップ、ディファレンシャルギア、アクスルハウジング、リアアクスルシャフト、ユニバーサルジョイント、プロペラシャフト、クラッチハブ、クラッチリレーズフォークなど多種に渡る。また、ワイパーアームのような雨風に直接曝される部材に関しても適用可能である。
以下に本発明のより具体的な実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例により、限定されるものではない。
[実施例]
[耐食性評価用試料の作製]
JIS G 3141規格のSPCC−SB材(70×150×t0.8mm)を、Na、KおよびLi炭酸塩を混合し、混合炭酸塩の一部をCNO-としてNaを11質量%、Kを30質量%、Liを4質量%、CO3を40質量%、CNOを15質量%とさせた組成を持つ溶融塩I中にて、580℃×60min.の条件で浸漬させ、続いてNaNO2を43質量%、KNO3を52質量%、NaOHを5質量%混合させた溶融塩II中に400℃×10min.浸漬させ、引き続き水冷し、試料A1を得た。
上記試料A1の作製において、溶融塩I中の浸漬条件を、580℃×90min.とした以外は、A1の場合と同様にして試料A2を得た。
前記のSPCC−SB材を、前記溶融塩I中にて、580℃×240min.浸漬させ、続いて前記溶融塩II中に400℃×10min.浸漬させ、引き続き水冷した。その後、バフ研磨にて表面を研磨し、試料A3を得た。
上記試料A3の作製において、バフ研磨の代わりにメッシュ200のガラスビーズを用い、エアー圧3Kg/mm2にて表面を研磨し、試料A4を得た。また、上記試料A3についてバフ研磨を繰り返し表面を磨き込み、試料A5を得た。
[摩擦摩耗試験用試料の作製]
後述のファレックス試験片テストピン(JIS G 4105規格のSCM440調質材。φ10×35mm)およびファレックス試験片Vブロック(JIS G 4105規格のSCM440調質材。φ15×15mmの円柱の一端に幅10mm、深さ5mm、角度90度のV字型の切り欠けを入れたもの:図2(B)参照)を前記溶融塩I中にて、580℃×60min.浸漬させ、続いて前記溶融塩II中に400℃×10min.浸漬させ、引き続き水冷し、試料A6を得た。
前記ファレックス試験片テストピンおよびVブロックを前記溶融塩I中にて、580℃×60min.浸漬させ、続いて前記溶融塩II中に400℃×10min.浸漬させ、引き続き水冷した。その後、バフ研磨にて表面を研磨し、試料A7を得た。
上記試料A7の作製において、溶融塩I中の浸漬条件を、580℃×240min.とした以外は、A7の場合と同様にして試料A8を得た。
[比較例]
[耐食性評価用試料の作製]
前記のSPCC−SB材を、前記溶融塩I中にフェロシアンカリで、1質量%となる鉄を溶かした溶融塩IIIを120min.放置させた後、該溶融塩III中に580℃×90min.浸漬させ、続いて前記溶融塩II中に400℃×10min.浸漬させ、引き続き水冷し、試料C1を得た。
前記SPCC−SB材に、クロムめっきを施し、試料C2を得た。
[摩擦摩耗試験用試料の作製]
前記ファレックス試験片テストピンおよびVブロックを、前記溶融塩III中に580℃×60min.浸漬させ、続いて前記溶融塩II中に400℃×10min.浸漬させ、引き続き水冷し、試料C3を得た。
前記ファレックス試験片テストピンおよびVブロックを、前記溶融塩I中にて、580℃×240min.浸漬させ、続いて前記溶融塩II中に400℃×10min.浸漬させ、引き続き水冷し、試料C4を得た。
前記ファレックス試験片テストピンおよびVブロックに、クロムめっきを施し、続いてバフ研磨にて表面を研磨し、試料C5を得た。
未処理の前記ファレックス試験片テストピンおよびVブロックを試料C6とした。
[複合酸化物層および軟窒化層の膜厚確認]
複合酸化物層および軟窒化層の膜厚に関しては、OLYMPUS製AHMT3光学顕微鏡にて写真倍率495倍の撮影を行い確認した。なお、軟窒化層が多孔質な構造を有している場合、図1に示す表面近傍断面組織模式図のように、最表面より均一に酸化物層が形成している深さまでを複合酸化物層とし、多孔質な軟窒化層内に混在する複合酸化物も含め軟窒化層とした。
試料A1の表面近傍断面組織は、最表面に2μm程度の複合酸化物層が形成されており、その直下に8μm程度の軟窒化層が形成されていた。また、軟窒化層の上層部は多孔質な構造であった。
試料A2の表面近傍断面組織は、最表面に4μm程度の複合酸化物層が形成されており、その直下に12μm程度の軟窒化層が形成されていた。また、軟窒化層の上層部は多孔質な構造であった。
試料A3の表面近傍断面組織は、最表面に4μm程度の複合酸化物層が形成されており、その直下に20μm程度の軟窒化層が形成されていた。また、軟窒化層の上層部は多孔質な構造であった。
試料A4の表面近傍断面組織は、最表面に2μm程度の複合酸化物層が形成されており、その直下に20μm程度の軟窒化層が形成されていた。また、軟窒化層の上層部は多孔質な構造であった。
試料A5の表面近傍断面組織は、最表面に0.1μm程度の複合酸化物層が形成されており、その直下に18μm程度の軟窒化層が形成されていた。また、軟窒化層の上層部は多孔質な構造であった。
試料A6の表面近傍断面組織は、最表面に1μm程度の複合酸化物層が形成されており、その直下に10μm程度の軟窒化層が形成されていた。また、軟窒化層の上層部は多孔質な構造であった。この時点での表面硬さは906Hv0.1であり、表面粗さはRa=0.31μmおよびRz=2.0μmであった。
試料A7の表面近傍断面組織は、最表面に0.5μm程度の複合酸化物層が形成されており、その直下に10μm程度の軟窒化層が形成されていた。また、軟窒化層の上層部は多孔質な構造であった。この時点での表面硬さは890Hv0.1であり、表面粗さはRa=0.15μmおよびRz=1.2μmであった。
試料A8の表面近傍断面組織は、最表面に3μm程度の複合酸化物層が形成されており、その直下に20μm程度の軟窒化層が形成されていた。また、軟窒化層の上層部は多孔質な構造であった。この時点での表面硬さは945Hv0.1であり、表面粗さはRa=0.20μmおよびRz=1.4μmであった。
試料C1の表面近傍断面組織は、最表面に複合酸化物層は認められず、10μm程度の軟窒化層が形成されていた。また、軟窒化層の上層部は多孔質な構造であった。
試料C2の表面近傍断面組織は、15μm程度のクロムめっきが形成しており、クラックが多数形成されていた。
試料C3の表面近傍断面組織は、最表面に複合酸化物層は認められず、8μm程度の軟窒化層が形成されていた。この時点での表面硬さは880Hv0.1であり、表面粗さはRa=0.23μmおよびRz=1.9μmであった。
試料C4の表面近傍断面組織は、最表面に9μm程度の複合酸化物層が形成されており、その直下に23μm程度の軟窒化層が形成されていた。この時点での表面硬さは930Hv0.1であり、表面粗さはRa=0.61μmおよびRz=4.0μmであった。
試料C5の表面近傍断面組織は、20μm程度のクロムめっきが形成しており、クラックが多数形成されていた。この時点での表面硬さは946Hv0.1であり、表面粗さはRa=0.18μmおよびRz=1.2μmであった。
試料C6の表面硬さは321Hv0.1であり、表面粗さはRa=0.08μmおよびRz=0.9μmであった。
[表面硬さの確認]
表面硬さの確認にはJIS Z 2244規格に基づくビッカース硬さを、各試料をサンドペーパー#2000にて研磨して、光沢が出した箇所を荷重100gにて測定した。
[表面粗さの確認]
表面粗さの確認にはJIS B 0601:‘82規格に基づき、RaおよびRzの測定を行った。
[Li5Fe58の確認]
Li5Fe58の確認には(株)マックサイエンス製X線回折装置MXP3AHFにて行い、結晶構造を調べた。試料A1〜A8および試料C4に関しては、Li5Fe58が同定されたが、試料C1およびC3においては同定されなかった。
[リチウム原子の付着量の確認]
リチウム原子の付着量に関しては、前記各実施例および比較例で得られた試料と同時に、処理されたSPCC−SB材およびSCM440材を10質量%塩酸溶液に浸漬させて、最表面の複合酸化物を溶解させ、この溶液中のリチウム原子の濃度をセイコー電子工業(株)製原子吸光分光光度計SAS7500にて測定した。その結果、試料A1では350mg/m2相当量、試料A2で900mg/m2相当量、試料A3で1,000mg/m2相当量、試料A4で400mg/m2相当量、試料A5で100mg/m2相当量、試料A6で250mg/m2相当量、試料A7で150mg/m2相当量、試料A8で450mg/m2相当量のリチウム原子の付着量であった。一方、試料C1では5mg/m2相当量、試料C3で5mg/m2相当量、試料C4で1,800mg/m2相当量のリチウム原子の付着量であった。
[耐食性能の確認]
以上の実施例および比較例として作製した試料の耐食性能の確認には、JIS Z 2371に準ずる塩水噴霧試験および塩水暴露試験にて、各試料3枚づつの評価を実施した。ここで塩水暴露試験とは、5質量%のNaCl水溶液を40℃に保ち、2時間浸漬させた後、そのまま引き上げ屋外にて46時間放置する工程を1回とし、繰り返し70回実施した。
[摩擦摩耗試験]
以上の実施例および比較例として作製した試料の摺動特性をファレックス型摩擦摩耗試験機にて評価した。ファレックス型摩擦摩耗試験機の概要を図2(A)に示すが、エンジンオイルの基油中にて前記ファレックス試験片テストピンを382rpmで回転させ、2個の前記ファレックス試験片Vブロックを毎分25kgの割合で0kgから最大1,000kgまで徐々に荷重を上昇させながら両側から押しつけた際のトルクを計測する。この時、ある荷重にてトルクが急激に上昇した時点を、焼き付いたと判断し、焼き付く前の負荷荷重を焼き付き限界荷重として記録し、試験を終了した。
表1に前記実施例および比較例にて得た各試料に関するリチウム原子の付着量、Li5Fe58の同定、複合酸化物層の膜厚および軟窒化層の膜厚を示す。表2に耐食性能試験結果を示す。なお、表2内の○は発錆していないことを示し、×は一箇所でも発錆したことを示している。また、表3に前記実施例および比較例にて得た、摩擦摩耗試験用試料に関する表面硬さ、表面粗さ、焼き付き限界荷重、試験終了直前の摩擦係数を示す。
Figure 2005126752
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[結果の考察]
表2に示す耐食性能の結果より、試料C1のように、複合酸化物が形成されず、リチウム原子の付着量が不十分であると耐食性能に効果は現れないが、試料A5ではバフ研磨にて最表面の複合酸化物を除去されているものの、軟窒化層内に十分なリチウム原子の付着量となる複合酸化物が形成されているため、特開2003−27211公報に記載の技術を遥かに凌駕する耐食性能を示している。
また、表3からは、焼き付き限界荷重を未処理材(試料C6)と比較すると、大幅に耐焼き付き性能が向上しており、試料A6が示すように表面を研磨仕上げしなくとも、リチウム原子の付着量を制御することで、表面粗さがRzで2.0μm以下であれば、表面粗さが同等である試料C3より性能は向上し、かつ表面粗さをバフ研磨にて低下させた試料A7および試料A8と同等の耐焼き付き性能を示し、1,000kgまで荷重を掛けても焼き付きを起こさなかった。この時の試験終了直前の摩擦係数は0.1以下の低摩擦係数を示した。
一方、試料C4では、最表面に形成された複合酸化物層が厚いため、結晶の粗大化を招き、摺動初期時に容易に欠落した、もしくは欠落した摩擦紛が摺動面を傷つけた結果、試料A6〜試料A8と比較して、低い負荷荷重で焼き付きを起こしたものと推測する。
本発明によれば、自動車用足回り部材に、耐摩耗性などの機械的特性と、特に塩分などの腐食因子による腐食環境下における高耐食性とを併せて付与することができる。
本発明の部材の表面近傍断面組織の模式図。 ファレックス型摩擦摩耗試験機にて用いた試験片の概念図。
符号の説明
1:母材
2:複合酸化物層
3:軟窒化層
4:混合層

Claims (8)

  1. 最表面にリチウム・鉄複合酸化物層を有し、その直下に、少なくとも表面改質拡散元素としての窒素元素が、被処理物基材中の他の元素と結合した、もしくは前記基材中に拡散された表面改質層を有し、前記リチウム・鉄複合酸化物層の付着量がリチウム原子として10〜1,500mg/m2であることを特徴とする自動車用足回り部材。
  2. 前記リチウム・鉄複合酸化物層と前記表面改質層との間に、前記リチウム・鉄複合酸化物層と前記表面改質層との混合層を有する請求項1に記載の自動車用足回り部材。
  3. 前記被処理物基材が、少なくともステンレスおよび鉛快削鋼を除く鉄鋼材料であって、該鉄鋼材料中の鉄含有量が90質量%以上である請求項1に記載の自動車用足回り部材。
  4. 前記リチウム・鉄複合酸化物層中に、リチウム・鉄複合酸化物(Li5Fe58)が形成されている請求項1または2に記載の自動車用足回り部材。
  5. 前記リチウム・鉄複合酸化物層の膜厚が、0.1〜7μmである請求項1に記載の自動車用足回り部材。
  6. 前記表面改質層の厚みが、2〜20μmである請求項1に記載の自動車用足回り部材。
  7. 部材の表面粗さが、Rzで2.0μm以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の自動車用足回り部材。
  8. 表面が、研磨仕上げ、バフ仕上げ、振動バレル仕上げ、ショットブラストなどの仕上げ加工により仕上げられている請求項1〜7のいずれか1項に記載の自動車用足回り部材。
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