JP3935022B2 - 防錆処理液及び防錆処理金属製品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、防錆性及び加熱後の防錆性に優れる低環境負荷性の防錆皮膜を金属面上に形成できる防錆処理液と、その処理液を塗布、乾燥して得られる高耐食性金属製品に関する。
【0002】
【従来技術】
各種金属材料の耐食性や上塗り塗装皮膜との密着性等を改良するため、多くの場合、金属表面に無機系、有機系、又は両者を組み合せた防錆皮膜の形成処理がなされているが、200℃を超える高温環境下でも長時間使用できるものは、耐熱性の観点から無機系皮膜、耐熱有機成分からなる皮膜、又は両者を組み合せた無機−耐熱有機複合皮膜である。耐熱有機成分(芳香族系の耐熱樹脂や有機化合物等)は、高価であったり、高温でないと皮膜形成反応が速やかに進まない(成膜しない)ものが殆どであり、実用上は、金属材料の耐熱性防錆処理は無機系皮膜に限定される。
【0003】
工業的に広く活用されている無機系皮膜の代表例は、クロメート又はりん酸塩による化成処理皮膜であり、中でもクロメート処理は、金属材料表面に形成された6価クロムを含む不働態皮膜が、腐食因子に対する優れた遮蔽性と皮膜損傷に対する自己修復機能を発揮するため、非常に有効な防錆皮膜である。さらに、上塗り塗装皮膜との密着性に優れた塗装下地処理としても機能し、家電、建材、自動車部品等の分野で広く用いられている。鋼板メ−カ−のめっきラインでクロメート処理する場合、十分な防錆性を発揮する皮膜付着量(膜厚)を得るまでの処理時間が数秒から数十秒と短いため、通常のラインスピ−ドでの連続短時間処理が可能なことも大きな利点である。
【0004】
ところが、近年の地球環境問題に対する関心の高まりを背景に、6価及び3価クロム(特に環境負荷性の高い6価クロム)を全く含まない防錆処理金属材料が求められており、クロメート処理を用いない、金属材料の6価及び3価クロムフリ−防錆処理技術の開発が盛んに進められている。6価及び3価クロムを含まない金属系化合物の中には、ある程度の腐食抑制機能を持つ皮膜を金属材料表面に形成するものが既に見出されており、クロメート処理液の主成分であるクロム酸塩と同様に、古くから金属材料の防錆処理に利用されてきた。
【0005】
例えば、酸化力の強い過マンガン酸塩をベースとした処理液は金属材料の腐食をかなり軽減するが、安定性や効力においてクロム酸塩には及ばない〔前田重義、表面、21、37(6)、1999;腐食防食協会編、"金属防蝕技術便覧(新版4版)"、p.551、日刊工業新聞社(1977)〕。また、バナジン酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩等は、クロム酸塩と同様のオキソ酸化合物であり、多くの金属面を不働態化するが、単独使用ではクロム酸塩による皮膜の防錆力には及ばない。タングステン酸塩を除くこれらの金属系化合物の多くは、6価クロムほどではないものの環境負荷性、安全性の面からも問題があり、例えば、バナジン酸塩には毒性がある。過マンガン酸塩、モリブデン酸塩は、6価及び3価クロム化合物と同様、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(以下、PRTR法と略)の対象となる第一種指定化学物質に該当し、取り扱いにあたり、環境への排出量の届け出や製品安全データシート(MSDS)の交付等が義務付けられているため、環境負荷物質として、工業的な製造、管理面から大きな制約を受ける。
【0006】
一方、有害性が殆どない非金属系の無機系処理の例として、金属表面に安定な保護皮膜を形成するポリりん酸塩、ポリけい酸塩等の無機系高分子皮膜が用いられているが〔腐食防食協会編、"金属防蝕技術便覧(新版4版)"、p.551、日刊工業新聞社(1977);腐食防食協会編、"防食技術便覧(初版)"、p.652、日刊工業新聞社(1986)〕、クロメート処理皮膜の防錆力に及ばないのが現状である。
【0007】
クロメート処理と並ぶ代表的な無機系処理として、りん酸亜鉛、りん酸マンガン等のりん酸塩による化成処理があり、6価及び3価クロムを含まない皮膜を形成する。これらは、金属材料の上塗り塗装後の耐食性、上塗り塗膜の密着性、加工時の潤滑性等を高めるため、自動車外板、家電ハウジング等の下地処理や摺動部品等に広く用いられている。しかしながら、りん酸亜鉛等の化成処理皮膜は、結晶性でポ−ラスなため腐食因子に対するバリア性に劣り、防錆力はクロメート処理のそれに全く及ばない。
【0008】
また、りん酸塩結晶を金属表面上に均一にかつ速やかに析出させるため、結晶核形成剤(例えばチタンコロイド)で予め金属表面調整を行ったり、りん酸塩処理液の成分濃度や温度を結晶析出の最適状態に制御しなければならず、1工程処理で非晶質皮膜を形成できるクロメート処理に比べ、りん酸塩化成処理は、基本的に金属表面調整とりん酸塩皮膜形成の2工程処理が必要で、かつ操業管理が煩雑という欠点を有する。
【0009】
皮膜の防錆能力を高めるため、クロム酸系水溶液を用いてりん酸塩皮膜の細孔をシーリング処理したり(シーリングクロメート処理)、結晶性のりん酸塩皮膜の上層に非晶質で緻密なりん酸塩皮膜を形成させて金属材料の耐食性を改善する試みがなされているが(特開2000−309880号公報)、これでは皮膜形成処理が実質的に3工程になり、さらに煩雑になるだけでなく、新たな設備コストもかかり不利である。皮膜の防錆性を高める他の例として、りん酸塩皮膜中に高濃度のマグネシウムを含有させる技術が提案されているが(特開2001−152356号公報)、基本的には表面調整とりん酸塩皮膜形成の2工程処理であり、また、皮膜付着量(膜厚)の割に防錆性はなお不十分であった。鋼板メーカーの亜鉛めっきラインで亜鉛めっき後に連続してりん酸塩処理を行う場合は、数秒から数十秒程度の短時間の皮膜形成処理が必要であり、このようなニ−ズに応えるため、りん酸塩皮膜を1〜4秒程度で形成する技術が提案されているが(特開2001−207270号公報)、この技術も表面調整とりん酸塩皮膜形成の煩雑な2工程処理であることに変わりはない。
【0010】
さらに、皮膜の形成性、摺動性、上塗り塗膜の耐水二次密着性等を高めるため、りん酸塩化成処理液には、前記PRTR法の対象となる第一種指定化学物質を含む場合が多く(例えば、耐摩耗性の皮膜形成剤としてりん酸マンガン、皮膜の結晶核形成剤としてニッケルイオンやマンガンイオン、金属表面エッチング剤としてフッ化水素酸等)、低環境負荷性の処理とは言えない。PRTR法の指定化学物質を使わないようにする動きの例として、ニッケルイオンを含まないりん酸塩処理液による化成処理方法が開示されているが(特開2001−49451号公報)、従来技術と同様、金属表面調整後にりん酸塩化成処理が続く煩雑な2工程処理であり、改良技術としては不十分であった。
以上、これまでに実施あるいは提案されている種々の無機系処理技術について特徴を説明したが、PRTR法の指定化学物質を含まない無機系の金属表面処理技術で、かつクロメート処理の優れた防錆力や操業性(1工程処理で防錆皮膜を形成できる簡便性)に匹敵するものは見当たらなかった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記のような従来技術の問題点(煩雑な皮膜形成工程、PRTR法に抵触する化学物質の含有、防錆力の不足)を解決するためになされたものであり、PRTR法の指定化学物質を含まない防錆処理液と、該処理液で金属材料表面を1工程処理することにより、200℃を超える高温環境下でも使用でき、クロメート処理された金属材料並みの優れた耐食性を発現する防錆処理金属製品を提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために種々の検討を行った結果、PRTR法の指定化学物質を含まない特定の防錆処理液を用いれば、金属材料表面に塗布し直ちに加熱乾燥するだけで、十分な耐食性や、加熱後耐食性を発現する表面処理金属製品が得られることを見出した。
本発明は、このような知見を基にして完成されたものであり、その要旨とするところは、(1)Be、B、Cr、Mn、Co、Ni、As、Se、Mo、Cd、Sb、Hg、Pb、In及びTeを除く元素のりん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)、亜りん酸(H3PO3)、次亜りん酸(H3PO2)、ポリりん酸〔Hn+2PnO3n+1(n=2〜6の整数)の単品又はこれらの2種以上の混合物〕又はポリりん酸と硝酸(HNO 3 )との混合物からなる酸解離定数pKa ≦3の強酸性の無機酸(B)、及び、水を主成分とする防錆処理剤であって、前記りん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)が、水に対し難溶性又は不溶性で、酸解離定数pKa ≦3の強酸に溶解性を有し、かつ、前記りん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)と前記無機酸(B)の不揮発分質量比がA:B=90:10〜20:80の範囲であることを特徴とする防錆処理液。
【0013】
(2)前記りん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)が、2価又は3価の金属の正りん酸塩、りん酸一水素塩又は正亜りん酸塩の1種又は2種以上である前記(1)に記載の防錆処理液。
(3)前記りん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)が、りん酸三カルシウム〔Ca3 (PO4 )2 〕、りん酸第二鉄(FePO4 )、りん酸亜鉛〔Zn3 (PO4 )2 〕、りん酸一水素カルシウム(CaHPO4 )、りん酸一水素マグネシウム(MgHPO4 )又は亜りん酸カルシウム(CaPHO3 )の1種又は2種以上である前記(2)に記載の防錆処理液。
【0014】
(4)前記防錆処理液に無機系防錆添加剤(C)を更に含有し、前記りん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)と前記無機酸(B)の合計と前記無機系防錆添加剤(C)の不揮発分質量比が(A+B):C=99.5:0.5〜60:40の範囲である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の防錆処理液。
【0015】
(5)前記無機系防錆添加剤(C)が、コロイダルシリカ、二次凝集シリカ、又は金属の次亜りん酸塩の少なくとも1種である請求項4に記載の防錆処理液。
(6)金属製品の表面に請求項1〜5のいずれかに記載の防錆処理液を塗布、乾燥して防錆皮膜を形成してなる防錆処理金属製品であって、該防錆皮膜中のりん酸塩及び/又は亜りん酸塩が、非晶体、0.2μm未満の結晶サイズの微結晶体又は両者の混合構造体であることを特徴とする防錆処理金属製品。
(7)金属製品の表面に、請求項1〜5のいずれかに記載の防錆処理液を塗布後、金属製品の表面温度を30秒以内に100℃以上に加熱し、乾燥することを特徴とする防錆処理金属製品の製造方法である。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
本発明の防錆処理液においては、水に対し難溶性又は不溶性のりん酸塩及び/又は亜りん酸塩を強い酸性を示す少なくとも亜りん酸(H 3 PO 3 )、次亜りん酸(H 3 PO 2 )又はポリりん酸〔H n+2 P n O 3n+1 (n=2〜6の整数)の単品又はこれらの2種以上の混合物〕を含む無機酸で溶かして、環境負荷物質を含まない水性防錆処理液を調製する。また、本発明の防錆処理金属製品においては、前記防錆処理液を金属表面に塗布、加熱乾燥させることにより、耐熱性の防錆皮膜を形成する。本発明に用いるりん酸塩及び/又は亜りん酸塩は水に難溶性又は不溶性であり、金属面上に緻密なバリア層を形成し、水性腐食因子の金属面への進入を抑制する。また、無機酸は、りん酸塩及び/又は亜りん酸塩を溶解させるためだけではなく、金属面をエッチングして防錆皮膜と金属面との密着性を高めたり、金属面と反応して皮膜の一部となりその耐食性を高めることも目的として添加される。りん酸塩及び/又は亜りん酸塩を溶解し、かつ金属面との反応性の高い少なくとも亜りん酸(H 3 PO 3 )、次亜りん酸(H 3 PO 2 )又はポリりん酸〔H n+2 P n O 3n+1 (n=2〜6の整数)の単品又はこれらの2種以上の混合物〕を含む酸解離定数pKa ≦3の無機酸を選択することが、十分な耐食性を発現する防錆皮膜を得るための大きな技術上のポイントである。
【0017】
本発明の防錆処理液で用いるりん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)は、PRTR法の指定化学物質を含んでいてはならない。従って、PRTR法の第一種指定化学物質の中で、Be、B、Cr、Mn、Co、Ni、As、Se、Mo、Cd、Sb、Hg、またはPbを含み、水に対し難溶性又は不溶性のりん酸塩及び/又は亜りん酸塩、及び、第二種指定化学物質の中で、In又はTeを含み、水に対し難溶性又は不溶性のりん酸塩及び/又は亜りん酸塩は、本発明の(A)から除外される。例えば、りん酸コバルト、りん酸マンガン、りん酸ニッケル、亜りん酸コバルト等は除外される。
【0018】
また、本発明の防錆処理液で用いるりん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)は、水に対し難溶性又は不溶性、具体的には、25℃における水への溶解度が0.5g/水100g以下でなければならない。25℃における水への溶解度が0.5g/水100gを超える場合、皮膜の保湿性が高まるため、湿気、及び湿気と共に皮膜に侵入する親水性の腐食因子により皮膜のバリア性が低下し、防錆性が不十分になる。
【0019】
本発明の防錆処理液で用いるりん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)は、前記の2条件、即ち、▲1▼PRTR法の指定化学物質でない、▲2▼25℃における水への溶解度が0.5g/水100g以下、という条件を満たした上で、2価又は3価の金属の正りん酸塩(Mが2価金属の場合M3 (PO4 )2 、Mが3価金属の場合MPO4 )、りん酸一水素塩(Mが2価金属の場合MHPO4 、Mが3価金属の場合M2 (HPO4 )3 又は正亜りん酸塩(Mが2価金属の場合MPHO3 、Mが3価金属の場合M2 (PHO3 )3 の1種又は2種以上の混合物であることが好ましい。
【0020】
本発明の防錆処理液を金属製品表面に塗布、乾燥して防錆皮膜を形成する際、後述する非晶体を皮膜中に形成しやすいものとしては、前記の好ましいりん酸塩の内、りん酸第二鉄(FePO4 )、りん酸三カルシウム〔Ca3 (PO4 )2 〕やりん酸第一錫〔Sn3 (PO4 )2 〕等の正りん酸塩が挙げられる。また、皮膜乾燥条件により、後述する非晶体や0.2μm未満の結晶サイズの微結晶体を皮膜中に形成可能なものとしては、前記の好ましいりん酸塩及び/又は亜りん酸塩の内、りん酸亜鉛〔Zn3 (PO4 )2 〕、りん酸マグネシウム〔Mg3 (PO4 )2 〕、りん酸第一鉄〔Fe3 (PO4 )2 〕、りん酸マグネシウムアンモニウム〔Mg(NH4 )PO4 〕、りん酸第一セリウム(CePO4 )、りん酸第二鉄(FePO4 )、りん酸ビスマス(BiPO4 )等の正りん酸塩、りん酸一水素カルシウム(CaHPO4 )、りん酸一水素第一錫(SnHPO4 )、りん酸一水素マグネシウム(MgHPO4 )等のりん酸一水素塩、亜りん酸カルシウム(CaPHO3 )、亜りん酸マグネシウム(MgPHO3 )、亜りん酸第一鉄(FePHO3 )等の正亜りん酸塩が挙げられる。
【0021】
これらは、非晶性、結晶性に関わらず、1種又は2種以上の混合物として用いてもよいが、後述するように、0.2μm以上のサイズの粗い結晶が生じないように、皮膜乾燥条件に留意する必要がある。また、これらの好ましい例の内、りん酸三カルシウム〔Ca3 (PO4 )2 〕、りん酸第二鉄(FePO4 )、りん酸亜鉛〔Zn3 (PO4 )2 〕、りん酸一水素カルシウム(CaHPO4 )、りん酸一水素マグネシウム(MgHPO4 )、亜りん酸カルシウム(CaPHO3 )の1種又は2種以上の混合物が、コストや性能の点から特に好ましい。
【0022】
本発明の防錆処理液では、2価又は3価金属以外のりん酸塩で、水に対し難溶性のものとして、例えば、1価金属の難溶性りん酸塩であるりん酸リチウム(Li3PO4)も用いることができる。りん酸リチウム(Li3PO4)は結晶性のため、後述するように、0.2μm以上のサイズの粗い結晶が生じないように、皮膜乾燥条件に留意する必要がある。
本発明の防錆処理液において、水に難溶性又は不溶性のりん酸塩及び/又は亜りん酸塩を溶解し、かつ防錆皮膜成分の一部となる酸(B)は、少なくとも亜りん酸(H 3 PO 3 )、次亜りん酸(H 3 PO 2 )又はポリりん酸〔H n+2 P n O 3n+1 (n=2〜6の整数)の単品又はこれらの2種以上の混合物〕を含み、水溶液中で酸解離定数pKa≦3の強酸性を示す無機酸で、かつPRTR指定化学物質以外のものでなければならない。炭素原子を含む有機酸には、200℃を超える高温環境下での長期使用に耐えることができないものが多く、有機酸を用いると皮膜の加熱後の防錆性が著しく低下するため、炭素原子を含まない無機酸を用いる必要がある。
【0023】
また、酸解離定数pKa >3の弱酸は、水に対し難溶性又は不溶性のりん酸塩及び/又は亜りん酸塩を殆ど溶解できないか、又は溶解できても多量の酸が必要な場合が多く、本発明の処理液の作液には不適である。ここで、酸解離定数pKa とは、水溶液中での酸の解離平衡
HA+H2 O ←→ H3 O+ +A- (HA:ブレンステッド酸、A- :HAの共役塩基)において、Ka=[H3 O+ ][A- ]/[HA]([ ]は各成分の濃度を表わす)であり、pKa =−logKa のことである。
【0024】
本発明の防錆処理液では、少なくとも亜りん酸(H3PO3)、次亜りん酸(H3PO2)又はポリりん酸〔Hn+2PnO3n+1(n=2〜6の整数)の単品又はこれらの2種以上の混合物〕を含み、水溶液中で酸解離定数pKa ≦3を示す強酸性の無機酸で、かつPRTR指定化学物質以外のものとして、例えば、りん酸(H3 PO4 )、亜りん酸(H3 PO3 )、次亜りん酸(H3 PO2 )、ポリりん酸〔Hn+2 Pn O3n+1(n=2〜6の整数)の単品又はこれらの2種以上の混合物〕、硝酸(HNO3 )、硫酸(H2 SO4 )、亜硫酸(H2 SO3 )、過塩素酸(HClO4 )、塩素酸(HClO3 )、亜塩素酸(HClO2 )、臭素酸(HBrO3 )、ヨウ素酸(HIO3 )、過酸化水素(H2 O2 )等のオキソ酸、塩酸(HCl)、臭化水素酸(HBr)、ヨウ化水素酸(HI)等の水素酸、チオ硫酸(H2 S2 O3 )、等のチオ酸等を用いることができる。これらの中で、亜りん酸(H3PO3)、次亜りん酸(H3PO2)又はポリりん酸〔Hn+2PnO3n+1(n=2〜6の整数)の単品又はこれらの2種以上の混合物〕や、ポリりん酸〔Hn+2 Pn O3n+1(n=2〜6の整数)の単品又はこれらの2種以上の混合物〕と硝酸(HNO3 )との混合物が、コストや性能の点から好ましい。
【0025】
無機酸(B)は、処理液を金属面に塗布、加熱乾燥する過程で、被塗金属面と反応してその金属の難溶性塩や錯塩を形成したり、自身が脱水縮合したり、そのまま固化したりして、防錆皮膜成分の一部となる。このように(B)から生じた皮膜成分は、後述するように、(A)の場合と同様、0.2μm以上のサイズの粗い結晶が生じないように、皮膜乾燥条件に留意する必要がある。
【0026】
本発明の防錆処理液において、水に対し難溶性又は不溶性のりん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)と水溶液中で酸解離定数pKa ≦3を示す強酸性の無機酸(B)の不揮発分質量比は、90:10〜20:80、好ましくは80:20〜30:70の範囲になければならない。(A)の不揮発分質量比が20%未満の場合、金属面上の形成皮膜中のバリア層構成成分が少なく、防錆効果が不十分になる。(A)の不揮発分質量比が90%を超える場合、(A)が相対的に多すぎて、(B)により完全溶解できないため、皮膜を形成できないか、又は、皮膜を形成できても未溶分が混在する欠陥の多いものとなり、防錆効果が不十分になる。
【0027】
本発明の防錆処理液には、りん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)、無機酸(B)以外に無機系防錆添加剤(C)をさらに添加してもよい。(C)は、防錆皮膜中で腐食抑制機能を発揮し、本発明の水性処理液に溶解、均一分散あるいは懸濁させることができ、かつPRTR指定化学物質以外のものであれば、どのような添加剤を用いてもよい。また、(C)は、処理液に直接添加しても、予め水に溶解、分散あるいは懸濁させてから処理液に添加してもよい。しかしながら、(C)と水との濡れ性を高めるため湿潤剤を用いたり、処理液中での(C)の分散性を高めるため分散剤(界面活性剤)を用いたり、湿潤剤と分散剤を併用したり、粒子の沈降を防ぐため増粘剤を添加したりする場合は、これらの薬剤が、加熱により劣化する有機化合物である場合が多いため、必要最小限の使用量に抑え、防錆皮膜が長時間加熱後も劣化せずに、緻密性、防錆性を保持するように、留意する必要がある。
【0028】
本発明に用いる無機系防錆添加剤(C)の例としては、タングステン酸塩、アルミナ、チタニア、ジルコニア、イットリア、セリア、シリカ等の無機系ゾル、防錆顔料、シロキサン結合を有する化合物、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、次亜りん酸塩等が挙げられるが、コロイダルシリカ、二次凝集シリカ、及び次亜りん酸塩が好ましい。コロイダルシリカや二次凝集シリカは、金属の腐食抑制機能に加え、皮膜強度を高めたり、金属表面と皮膜との密着性を高める機能もある。これらの機能を効果的に発揮するためには、一次粒子径は2〜30nm、二次凝集シリカの場合は、さらに二次凝集粒子径が200nm以下が好ましい。次亜りん酸塩としては、次亜りん酸ナトリウム、次亜りん酸カルシウムが特に好ましい。
【0029】
本発明で前記の防錆添加剤(C)を処理液に添加する場合、りん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)と無機酸(B)の合計(A+B)と該防錆添加剤(C)の不揮発分質量比は、99.5:0.5〜60:40、好ましくは99:1〜70:30の範囲内が好ましい。(C)の不揮発分質量比が0.5%未満の場合、皮膜中での存在量が少ないため添加効果が得にくい。(C)の不揮発分質量比が40%を超える場合、(C)が(A+B)に比べ相対的に多くなるため皮膜の緻密性が低下しやすく、皮膜の本来のバリア効果が十分に発揮できないおそれがある。
【0030】
本発明の防錆処理液には、前記の防錆添加剤(C)以外にも、その目的を損なわない範囲で、各種の無機系あるいは有機系の化合物を含んでいても差し支えない。このような添加剤の例としては、無機系潤滑剤、前記以外の無機系ゾル、各種の無機系顔料、耐熱樹脂、耐熱性の有機腐食抑制剤等が挙げられる。
本発明の防錆処理液は、各種金属に適用でき、例えば、アルミニウム、チタン、亜鉛、銅、ニッケル、そして鋼等が適用可能である。このうち、鋼を使用する場合には、成分を特に限定せず、普通鋼であってもCr含有鋼であっても良い。
【0031】
また、鋼の表面に被覆めっき層があってもよいが、その種類を特に限定せず、適用可能なめっき層としては、例えば、亜鉛、アルミニウム、コバルト、錫、ニッケルのいずれか1種からなるめっき、及び、これらの金属元素やさらに他の金属元素、非金属元素を含む合金めっきが挙げられる。めっき層の形成方法も特に限定せず、例えば電気めっき、無電解めっき、溶融めっき、気相めっき等を用いることができる。めっき処理方法は、連続式、バッチ式のいずれでもよく、例えば溶融めっきでは、連続式は主に薄板材、線材類に用いられ、バッチ式のめっきは、管類、圧延材、加工品、ボルト・ナット類、鋳鍛造品類等の最終製品に成形した後に溶融めっき浴に浸漬することによる(いわゆる後めっき)。
また、鋼板へのめっき後の処理として、溶融めっき後の外観均一処理であるゼロスパングル処理、めっき層の改質処理である焼鈍処理、表面状態や材質調整のための調質圧延等があり得るが、本発明においては特にこれらを限定せず、いずれを適用することも可能である。
【0032】
本発明において、防錆処理皮膜と金属との界面にPRTR法の指定化学物質を含有しない下地処理皮膜を設けてもよい。該皮膜組成を特に限定しないが、金属面と上層防錆皮膜のそれぞれに対し密着性に優れ、かつ腐食抑制能を有する化合物により形成されることが好ましい。例えば、ジルコニウム、タングステン又は希土類元素の1種又は2種以上を含む金属系化合物、該金属系化合物以外のりん酸塩、亜りん酸塩、シロキサン結合を有する化合物、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等から選ばれた1種又は2種以上の化合物が挙げられる。
【0033】
本発明の金属製品では、金属面上に形成された防錆皮膜に、りん酸塩及び/又は亜りん酸塩が、非晶体、0.2μm未満の結晶サイズの微結晶体、又は両者の混合構造体の状態で存在しなければならない。0.2μm以上の結晶サイズのりん酸塩及び/又は亜りん酸塩の結晶粒を含む場合、皮膜はポ−ラスとなり、非晶構造、0.2μm未満の結晶サイズの微結晶構造又は両者の混合構造のりん酸塩及び/又は亜りん酸塩を含む皮膜に比べ、腐食因子のバリア性に劣るため、優れた防錆性が得られない。なお、ここでいう非晶体とは、如何なる分析法によっても結晶を確認できないアモルファス、無定形構造体のことである。また、ここでいう微結晶体とは、単一結晶あるいは2種以上の混合晶の存在を確認できるが結晶の最大長さがいずれも0.2μm未満である構造体のことである。非晶体と微結晶体の混合構造体とは、前記の非晶構造と微結晶構造が混在した構造体のことである。
【0034】
また、本発明で用いる無機酸(B)は、処理液を金属面に塗布、加熱乾燥する過程で、被塗金属面と反応してその金属の難溶性塩や錯塩を形成したり、自身が脱水縮合したり、そのまま固化したりして防錆皮膜成分の一部となるが、このように(B)から生じた皮膜成分も、同様に、皮膜中で、非晶体、0.2μm未満の結晶サイズの微結晶体、又は両者の混合構造体でなければならない。0.2μm以上の結晶サイズの結晶粒を含む場合、皮膜はポ−ラスとなり、非晶構造、0.2μm未満の結晶サイズの微結晶構造又は両者の混合構造からなる皮膜に比べ、腐食因子のバリア性に劣るため、優れた防錆性が得られない。
【0035】
前記のりん酸塩の中で、りん酸第二鉄は、水和水の数により結晶体(2水和物)と非晶体の2種が得られるが、非晶体が得られるように皮膜乾燥条件を工夫すればよく、例えば、りん酸第二鉄を含む防錆処理液を金属表面に塗布直後に、30秒以内で金属表面到達温度が100℃以上になるように加熱乾燥する。また、りん酸三カルシウム〔Ca3 (PO4 )2 〕やりん酸第一錫〔Sn3 (PO4 )2 〕は、基本的に非晶性であるが、余分な水和水を皮膜形成と同時に除くため、防錆処理液を金属表面に塗布し、りん酸第二鉄の場合と同様に、30秒以内で金属表面到達温度が100℃以上になるように加熱乾燥すればよい。
【0036】
また、結晶体を形成しやすいりん酸塩及び/又は亜りん酸塩の場合、0.2μm以上の結晶サイズのりん酸塩結晶及び/又は亜りん酸塩結晶が生じない皮膜乾燥条件を選ぶ必要がある。例えば、結晶性りん酸塩及び/又は結晶性亜りん酸塩を含む処理液を金属表面に塗布した直後に、0.2μm以上のサイズの粗い結晶が生じないように、急速に加熱乾燥すればよい。最適な乾燥条件は、結晶性りん酸塩及び/又は亜りん酸塩の種類により異なるが、処理液を金属表面に塗布した直後に30秒以内で金属表面到達温度が100℃以上になるように急速加熱乾燥すれば、大抵のりん酸塩、亜りん酸塩の場合、0.2μm以上のサイズの粗い結晶は生じない。このような乾燥条件で0.2μm以上のサイズの粗い結晶が生じる場合は、金属表面の昇温速度をさらに速めたり、金属表面到達温度を高めたりすればよい。
【0037】
本発明において、金属又は金属面の下地処理皮膜上への防錆処理皮膜形成の方法としては、(A)及び(B)が、金属面上の防錆皮膜中で、非晶体、皮膜中で0.2μm未満の結晶サイズの微結晶体、又は両者の混合構造体になるような方法であれば、特に限定しない。このような方法としては、例えば、防錆処理浴への金属のディップ、防錆処理液のロ−ルコ−ト、バ−コ−ト、刷毛塗り、あるいはスプレ−等の後、熱風等で加熱乾燥すればよいが、他の方法で塗布、皮膜形成させてもよく、ここで掲げた方法に限定しない。しかしながら、安定製造の観点から、塗布後30秒以内で金属表面到達温度が100℃以上になるようにすることが好ましい。本発明において、金属表面上への防錆皮膜の付着量は、0.05〜3g/m2 が好ましく、0.1〜2g/m2 が特に好ましい。0.05g/m2 未満では、腐食因子の透過抑止効果が小さく十分な耐食性が得られない可能性がある。3g/m2 を超えると、腐食因子の透過抑止効果は優れるが、皮膜コストが大幅に上昇する懸念がある。
【0038】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
[金属の種類]
(1)EG:電気亜鉛めっき鋼板(板厚0.8mm)
(2)GI:溶融亜鉛めっき鋼板(板厚0.8mm)
(3)GA:合金化溶融亜鉛めっき鋼板(板厚0.8mm)
(4)ZL:Zn−Ni系合金めっき鋼板(板厚0.8mm)
(5)SZ:Zn−5%Al系合金めっき鋼板(板厚0.8mm)
(6)SD:Zn−11%Al−3%Mg−Si合金めっき鋼板(板厚0.8mm)
【0039】
[防錆処理皮膜の形成]
水に対し難溶又は不溶で、酸解離定数pKa ≦3の強酸に溶解するりん酸塩又は亜りん酸塩(A)、少なくとも亜りん酸(H 3 PO 3 )、次亜りん酸(H 3 PO 2 )又はポリりん酸〔H n+2 P n O 3n+1 (n=2〜6の整数)の単品又はこれらの2種以上の混合物〕を含む酸解離定数pKa ≦3の強酸性の無機酸(B)を必須成分とし、さらにA、B以外の無機系防錆添加剤(C)を必要に応じて含有する水性防錆処理液を作成し、前記金属にバ−コ−タにより塗布し、直ちに、金属表面到達温度が150℃になるように250℃の熱風炉内に約20秒間静置し、乾燥、成膜し、その後直ちに水冷して被験材とした。
【0040】
比較材として、水溶性りん酸塩や酸解離定数pKa >3の無機酸を用いた処理液を作成し、前記と同様に加熱乾燥し、金属面に成膜した。また、他の比較材として、金属面を結晶核形成剤で表面調整後、処理液をバ−コ−タにより塗布、60℃の熱風炉内で徐々に風乾してりん酸塩の粗結晶が析出した皮膜を有する金属を用いた。りん酸塩の結晶は、走査型電子顕微鏡で皮膜表面を観察することにより確認した。各処理液の作成に用いた薬品類を表1に示す。これらの薬品の内、水和数不明の含水塩の形で入手したりん酸第二鉄(FePO4 ・mH2 O)、2〜6量体の混合物の形で入手したポリりん酸〔Hn+2 Pn O3n+1(n=2〜6の整数)]については、それぞれm=2.5、n=4として、処理液中の不揮発分質量計算に用いた。各皮膜の構成成分とそれらの質量比、皮膜付着量等を表2〜4に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
[比較クロメート皮膜の形成]
前記の処理皮膜に対する比較材として、前記の各金属にCr付着量30mg/m2 の塗布型クロメート処理を行ったものを用い、前記の防錆処理皮膜を形成した金属と耐食性を相対比較した。
【0043】
[耐食性の評価(加熱処理なし)]
(1)平板耐食性
前記の防錆処理金属及び比較クロメート材についてJIS−Z2371に準拠した塩水噴霧試験を行い、120時間後の白錆発生面積を測定し、防錆処理金属と対応する比較クロメート材の白錆発生面積を相対比較することにより、耐食性の合否を判定した。防錆処理金属、比較クロメート材の白錆発生面積率をそれぞれX%、Y%とすると、判定基準は、
とし、評点3以上を合格とした。
【0044】
(2)加工部耐食性
前記の防錆処理金属及び比較クロメート材に7mmのエリクセン加工を施し、JIS−Z2371に準拠した塩水噴霧試験を行い、120時間後の加工部における白錆発生面積を測定し、防錆処理金属と対応する比較クロメート材の白錆発生面積を相対比較することにより加工部耐食性の合否を判定した。判定基準は前記の平板耐食性の場合と同じで、
とし、評点3以上を合格とした。
【0045】
[耐食性の評価(加熱処理後)]
(1)加熱処理後の平板耐食性
前記の防錆処理金属及び比較クロメート材のうち、EGをベースとしたもの以外について、大気雰囲気下、熱風炉で300℃、5時間加熱処理し、放冷した。また、EGベースの防錆処理金属及びクロメート材は、大気雰囲気下、熱風炉で200℃、5時間加熱処理し、放冷した。これらを被験材としてJIS−Z2371に準拠した塩水噴霧試験を行い、120時間後の白錆発生面積を測定し、防錆処理金属と対応する比較クロメート材の白錆発生面積を相対比較することにより耐食性の合否を判定した。判定基準は、加熱処理なしの耐食性評価の場合と同じである。
【0046】
(2)加熱処理後の加工部耐食性
前記と同様に加熱処理した防錆処理金属及び比較クロメート材に7mmのエリクセン加工を施し、JIS−Z2371に準拠した塩水噴霧試験を行い、120時間後の白錆発生面積を測定し、防錆処理金属と対応する比較クロメート材の白錆発生面積を相対比較することにより耐食性の合否を判定した。判定基準は、加熱処理なしの耐食性評価の場合と同じである。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
以上の評価結果をまとめて表2〜4に示す。
水に対し難溶又は不溶で酸解離定数pKa ≦3の強酸に溶解するりん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)、少なくとも亜りん酸(H 3 PO 3 )、次亜りん酸(H 3 PO 2 )又はポリりん酸〔H n+2 P n O 3n+1 (n=2〜6の整数)の単品又はこれらの2種以上の混合物〕を含む酸解離定数pKa ≦3の強酸性の無機酸(B)、あるいはさらに(A)、(B)以外の無機系防錆添加剤(C)を必須成分とする水性防錆処理液の内、本発明の要件を満たすものを金属面に塗布後、急速加熱乾燥処理すると、クロメート処理材のレベルに匹敵する十分な耐食性、及び加熱処理後の耐食性を発現する金属製品が得られることがわかる。これらの防錆処理液は、PRTR法の指定化学物質を含まず低環境負荷性であり、かつ金属表面の1工程処理で皮膜形成できる。
【0051】
一方、水溶性りん酸塩を用いた処理液を用いた場合(No.52、53)、皮膜を形成した金属製品の耐食性は、クロメート処理材のレベルに全く及ばない。酸解離定数pKa >3の無機酸を用いた処理液を用いた場合(No.20、21、42、43)、水に対し難溶又は不溶のりん酸塩を殆ど溶解できないため、金属面に皮膜形成できなかった。さらに、本発明で規定したりん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)と無機酸(B)を用いていても、(B)に対する(A)の不揮発分質量比が本発明で許容する範囲より小さな場合(No.1、8、30)、皮膜を形成した金属製品の耐食性はクロメート処理材のレベルに及ばず、また、(B)に対する(A)の不揮発分質量比が本発明で許容する範囲より大きな場合(No.2、9、31)には、りん酸塩を完全溶解できず、金属面に皮膜形成できなかった。処理液を金属面に塗布後、60℃で徐々に風乾して、りん酸塩の粗結晶が析出した皮膜では(No.22、23)、金属製品の耐食性はクロメート処理材のレベルに及ばなかった。
【0052】
【発明の効果】
本発明の防錆処理液は、PRTR法に抵触する環境負荷物質を含まず、かつ防錆皮膜を1工程処理で金属面上に形成できるため、家電/OA機器、建築/土木、自動車/車輌分野等で広く用いられている金属製品の防錆処理液として好適である。また、本発明に係る防錆処理液で金属を表面処理することにより、クロメート処理材レベルの優れた耐食性を有する金属製品を安価な防錆処理コストで提供することができる。
Claims (7)
- Be、B、Cr、Mn、Co、Ni、As、Se、Mo、Cd、Sb、Hg、Pb、In及びTeを除く元素のりん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)、亜りん酸(H3PO3)、次亜りん酸(H3PO2)、ポリりん酸〔Hn+2PnO3n+1(n=2〜6の整数)の単品又はこれらの2種以上の混合物〕又はポリりん酸と硝酸(HNO 3 )との混合物からなる酸解離定数pKa ≦3の強酸性の無機酸(B)、及び、水を主成分とする防錆処理剤であって、前記りん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)が、水に対し難溶性又は不溶性で、酸解離定数pKa ≦3の強酸に溶解性を有し、かつ、前記りん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)と前記無機酸(B)の不揮発分質量比がA:B=90:10〜20:80の範囲であることを特徴とする防錆処理液。
- 前記りん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)が、2価又は3価の金属の正りん酸塩、りん酸一水素塩又は正亜りん酸塩の1種又は2種以上である請求項1に記載の防錆処理液。
- 前記りん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)が、りん酸三カルシウム〔Ca3 (PO4 )2 〕、りん酸第二鉄(FePO4 )、りん酸亜鉛〔Zn3 (PO4 )2 〕、りん酸一水素カルシウム(CaHPO4 )、りん酸一水素マグネシウム(MgHPO4 )又は亜りん酸カルシウム(CaPHO3 )の1種又は2種以上である請求項2に記載の防錆処理液。
- 前記防錆処理液に無機系防錆添加剤(C)を更に含有し、前記りん酸塩及び/又は亜りん酸塩(A)と前記無機酸(B)の合計と前記無機系防錆添加剤(C)の不揮発分質量比が(A+B):C=99.5:0.5〜60:40の範囲である請求項1〜3のいずれかに記載の防錆処理液。
- 前記無機系防錆添加剤(C)が、コロイダルシリカ、二次凝集シリカ、又は金属の次亜りん酸塩の少なくとも1種である請求項4に記載の防錆処理液。
- 金属製品の表面に請求項1〜5のいずれかに記載の防錆処理液を塗布、乾燥して防錆皮膜を形成してなる防錆処理金属製品であって、該防錆皮膜中のりん酸塩及び/又は亜りん酸塩が、非晶体、0.2μm未満の結晶サイズの微結晶体又は両者の混合構造体であることを特徴とする防錆処理金属製品。
- 金属製品の表面に、請求項1〜5のいずれかに記載の防錆処理液を塗布後、金属製品の表面温度を30秒以内に100℃以上に加熱し、乾燥することを特徴とする防錆処理金属製品の製造方法。
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