JP4074923B2 - 精製絹フィブロイン溶液及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、飲食品用精製絹フィブロイン溶液に関し、更に詳しくは、粗絹フィブロインを限外濾過膜を用いることによって低分子ペプチドを除去した、食品として使用した場合には呈味性の優れた飲食品用精製絹フィブロイン溶液、及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
絹フィブロイン溶液は絹繊維衣料の原料としての利用以外に、その保湿性等を利用して化粧料にも用いられている(特開平8−268905号公報)が、食品用としての用途も開発検討されるなど食品、香粧品、医薬、保健衛生など広い分野で有用である。この絹フィブロイン溶液を製造するには、屑繭、生糸、生糸屑、絹紡績工程で発生する屑絹などの粗絹フィブロイン原料を、高濃度の塩水溶液に溶解した後透析脱塩する方法が一般的に行われている。
【0003】
しかし、上記のように絹フィブロインを溶解する為に高濃度の塩水溶液を用いるので、絹フィブロイン溶液は多量の塩を含有し、工業的にこれを透析脱塩して高品質の絹フィブロイン溶液を効率良く得ることは容易ではない。そこで、絹フィブロイン溶液を効率良く製造する方法として、例えば、多層膜構造物又は中空糸集束構造物の透析装置を用いる方法(特公昭57−4723号公報)や、絹フィブロイン塩水溶液とした原液を透析する際に、透析膜内外に圧力差を生じせしめて透析を行う高濃度絹フィブロイン水溶液の製造方法(特開平8−295697号公報)などが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のような透析による絹フィブロイン溶液の脱塩精製方法は、脱塩処理に長時間必要とされること、及び、得られた絹フィブロイン溶液はアミノ酸や低分子量のペプチドから高分子量のフィブロインまで広範囲の分子量を有する絹フィブロイン溶液であるので、例えば、食品原料として用いられた場合にアミノ酸や低分子量のペプチドが不快な呈味を惹起することもあり、食品工業への利用が制約されることの大きな原因にもなつている。このような事情から、これらの課題を解決できる絹フィブロイン溶液の優れた精製方法が望まれていた。
【0005】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意研究を行なってきた。その結果、絹フィブロインを塩水溶液に溶解させた後、限外濾過膜からなる限外濾過装置で脱塩することにより迅速に脱塩処理を行うことができると同時に、限外濾過膜を適宜選択することによつて、所望の分画分子量からなる絹フィブロイン溶液を得ることが出来ることなど、従来行われていた透析による脱塩処理より高い効率で高品質の精製絹フィブロイン溶液を得る事が出来ることを見出し本発明を完成した。以下に、本発明の具体的態様について説明する。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明は、絹フィブロインを塩水溶液に溶解させた後、限外濾過膜からなる限外濾過装置で脱塩することを特徴とする、飲食品用精製絹フィブロイン溶液及びその製造方法である。
【0007】
本発明で利用される絹フィブロインとしては、屑繭、生糸、生糸屑、絹紡糸、絹紡績工程で発生する屑絹などを精練してセリシン及び油分を除いた後乾燥処理してあるものを用いる。
【0008】
次に、この乾燥精練絹原料を塩水溶液に溶解するが、ここで用いられる塩水溶液としては、例えば、カルシウム又はマグネシウム又は亜鉛の塩酸塩或いは硝酸塩或いはチオシアン酸塩の水溶液、銅−エチレンジアミン水溶液、臭化リチウム水溶液などが挙げられるが、工業的にはカルシウムの塩酸塩(塩化カルシウム)を用いることがより好ましい。
【0009】
また、塩水溶液に絹フィブロインの溶解を容易にするため、メタノール、エタノール、アセトン等の水溶性溶剤を添加することもできる。
【0010】
この塩水溶液の濃度としては、10%〜80%、好ましくは、30%〜60%の範囲を例示することができる。
【0011】
また、溶解温度としては、室温〜125℃の範囲で、1分間〜120分間攪拌溶解することが望ましい。
【0012】
上記のように絹原料を塩水溶液に溶解して粗絹フィブロイン溶液とし、この粗絹フィブロイン溶液は濾紙濾過或いは珪藻土濾過などにより不溶解物を除去した後限外濾過の原液とする。
【0013】
本発明で用いられる限外濾過装置は市販されているものを利用できるが、限外濾過膜については膜特性及び分画分子量を選択する必要がある。本発明で用いられる限外濾過膜としては、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリビニリデンフロライド、セルロースアセテート等から選んで用いることができる。
【0014】
また本発明では、分画分子量が5,000〜50,000、好ましくは8,000〜20,000の限外濾過膜を用いるが、5,000以下の分画分子量の膜では低分子のペプチドを除去することが難しく、また、50,000以上の膜では絹フィブロインの収率が悪くなるなど、本発明の目的を達成することができない場合があるので好ましくない。
【0015】
また、本発明品である飲食品用精製絹フィブロイン溶液は、呈味を損なうアミノ酸や低分子量のペプチドが除去されているので飲食品に配合した場合、栄養価も高く嗜好性の優れた飲食品を得ることができる。
【0016】
飲食品に配合する方法としては、溶液のまま添加することもできるが、その他の形態にして配合しても良い。例えば、公知の濃縮、乾燥方法によってさらに濃縮した溶液とするか、又は、乾燥品として使用しても良い。或いは、澱粉、デキストリン、多糖類、糖類等の高分子物質やプロピレングリコール、グリセリンなどを添加して粉末状、顆粒状、液状、乳液状、ペースト状等の剤形に調製して配合しても良い。
【0017】
本発明の飲食品用精製絹フィブロイン溶液は、各種の飲料、冷菓類、乳製品、焼き菓子類、洋菓子類、各種麺類、発酵食品、魚肉製品、畜肉製品、加工食品などの広範囲な飲食品に適用することができる。例えば、缶コーヒー、ミルクティー、乳酸菌飲料、粉末飲料などの飲料類;アイスクリーム、シャーベット、氷菓などの冷菓類;バター、マーガリン、ヨーグルト、練乳などの乳製品;クッキー、ビスケット、スナックなどの焼き菓子類;ゼリー、シュークリーム、プリン、ババロア、ムース等の洋菓子類;うどん、そば、スパゲッティなどの麺類;ハム、ソーセージ、竹輪、蒲鉾などの魚肉、畜肉加工食品;その他パン、ケーキ、粉末スープなどのような飲食品に添加しその商品価値を高めることができる。
【0018】
【実施例】
以下、実施例により、本発明の数態様について更に詳しく説明する。
【0019】
実施例1
50重量%の塩化カルシウム水溶液1,000gを120℃に加熱し、そこに乾燥精練屑繭100gを投入して約30分間攪拌しながら溶解した。溶解確認後40℃に冷却し、軟水4,000gを添加攪拌した後、濾紙No.2(東洋濾紙社製)を用いて濾過し、粗絹フィブロイン溶液5,080gを得た。得られた絹フィブロイン溶液を分画分子量10,000の限外濾過膜ポリエーテルスルフォン10k(膜面積700cm2 フィルトロン社製)を装着した限外濾過装置(フィルトロン社製)を用いて限外濾過を行った。残塩濃度を確認しながら更に軟水4,000gを4回送水して完全に脱塩した(脱塩処理所要時間は合計8時間)。かくして精製絹フィブロイン溶液510gを得た(本発明品1)。本発明品1は固形分15.7%、原料の精練屑繭に対して固形分収率は80%であつた。
【0020】
比較例1
実施例1で行った限外濾過に代えて脱塩を透析処理で行った。
【0021】
50重量%の塩化カルシウム水溶液1,000gを120℃に加熱し、そこに乾燥精練屑繭100gを投入して約30分間攪拌しながら溶解した。溶解確認後30℃に冷却し、透析膜として内径88mm、長さ130cmのセロフアン膜(シームレスセルロースチューブ:三光純薬社製)を使用し、使用した塩類が透析液中に検出されなくなるまで流水を用いて透析を行った。透析終了まで24時間も要し、得られた精製絹フィブロイン溶液は2,351gであった(比較品1)。本比較品1は固形分3.7%、原料の精練屑繭に対して固形分収率は87%であつた。
【0022】
上記のように比較品1は、本発明品1と比較して固形分が3.7%と低濃度であり、また、脱塩の為の透析時間に24時間も要するなど工業的には望ましいものではない。
【0023】
比較例2
実施例1で用いた限外濾過膜ポリエーテルスルフォン10kに代えて限外濾過膜ポリエーテルスルフォン1k(分画分子量1,000)を用いた他は実施例1と同様に限外濾過を行った。得られた精製絹フィブロイン溶液は収量633g、固形分15%、原料の精練屑繭に対して固形分収率95%であつたが、アミノ酸や低分子量のペプチドの含有量が18%もあり、また、限外濾過の所要時間も実施例1の約2倍を要した。また、本発明品1と比較してもやや渋味を感じ、好ましい絹フィブロイン溶液は得られなかった。
【0024】
実施例2
50重量%の塩化カルシウム水溶液1,000gにエタノール100gを加え85℃に加熱し、そこに乾燥精練屑繭100gを投入して約1時間攪拌しながら溶解した。以降、実施例1と同様の操作により脱塩を行い、精製絹フィブロイン溶液627gを得た(本発明品2)。本発明品2は固形分15.0%、原料の精練屑繭に対して固形分収率は94%であつた。得られた本発明品2は本発明品1と同様、高品質の精製絹フィブロイン溶液であつた。
【0025】
実施例3
本発明品1を用いて下記のような配合量により、絹フィブロイン含有ゼリーを調製した。
【0026】
上記のような配合で調製したゼリーは、従来のゼリーにないなめらかな口当たりと濃厚感があり、苦味やえぐ味などの感じられない高級感のあるゼリーであった。
【0027】
従来技術との比較
本発明と従来技術(特公昭57−4723号公報及び特開平8−295697号公報に記載の実施例)に開示されている脱塩処理所要時間について比較検討を行った。
【0028】
特公昭57−4723号公報では、その比較例において、内径8cm、長さ1mのセロファン製透析チューブを用い、10%の絹フィブロイン溶液5,000gを24時間かけて脱塩処理を行っている。一方、特開平8−295697号公報では、その実施例において、膜面積16,000cmのポリスルホン製のダイアライザーを用いて、10%の絹フィブロイン溶液340gを2時間を要して透析を実施している。
【0029】
これらに対し、本発明では、分画分子量10,000、膜面積700cm2のポリエーテルスルフォン製の限外濾過膜を用いることにより、同様に10%の絹フィブロイン溶液1,000gを約8時間で、所望の脱塩を行うことができる。
【0030】
これを同一膜面積に換算して比較した場合、本発明の脱塩処理時間は、特公昭57−4723号公報記載の透析セロファンを使用する場合の1/2の時間であり、特開平8−295697号公報のホローファイバー型透析器と比較した場合でも1/2強の時間で脱塩が可能であることがわかる。このことより、本発明は、飲食品用精製絹フィブロイン溶液を製造する方法として工業的に極めて有効な方法であると言える。
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、絹フィブロインを塩水溶液に溶解させた後、限外濾過膜からなる限外濾過装置で脱塩することにより迅速に脱塩処理を行えると同時に、限外濾過膜を適宜選択することによつて、不快な呈味の原因物質であるアミノ酸や低分子量のペプチドを除去した絹フィブロイン溶液を得ることが出来ることなど、従来行われていた透析による脱塩処理よりも高い効率で高品質の飲食品用精製絹フィブロイン溶液を得ることが出来る。また、本発明品を飲食品に配合することにより、栄養価も高く、呈味にも優れた飲食品を提供することができるようになった。
Claims (2)
- 分子量が8000以下の低分子ペプチドが実質的に除去されたことを特徴とする飲食品用精製絹フィブロイン溶液。
- (a)屑繭、生糸、生糸屑または絹紡糸から得られる絹フィブロインを精製してセリシン及び油分を除去する工程と、
(b)前記精製された絹フィブロインを塩水濃度30〜60%の塩水溶液に溶解させる工程と、
(c)前記塩水溶液を、限外濾過装置を用いて濾過することにより脱塩すると共に分子量が8000以下の低分子ペプチドを除去する工程と、
の各工程を有する飲食品用精製絹フィブロイン溶液の製造方法。
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JP35654597A JP4074923B2 (ja) | 1997-12-25 | 1997-12-25 | 精製絹フィブロイン溶液及びその製造方法 |
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