JP4072360B2 - 発泡用熱可塑性樹脂組成物及びその発泡体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱可塑性樹脂及び多孔質フィラーを含む発泡用熱可塑性樹脂組成物及びその発泡体に関する。
【0002】
【従来の技術】
プラスチックは金属等と比較して軽量であるため、電子機器、雑貨及び自動車用の部品等に使用範囲が拡大しているが、より軽量で且つ強度や耐衝撃性等の物性が優れている材料がさらに求められている。その技術の1つとして樹脂発泡体技術がある。
樹脂発泡体を作製する方法には発泡剤を混合する方法(化学発泡)、加熱等により発泡する方法(物理発泡)がある。
また、近年、熱可塑性樹脂に超臨界流体ガスを浸透させた後に、この超臨界状流体を脱ガスする方法によって樹脂内にセルと呼ばれる空隙を形成し、軽量化する発泡体の開発が行われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記の物理発泡及び化学発泡方法では、特に、超臨界発泡法による方法では、容易に均一な発泡構造を得ることが困難であった。
とりわけ、射出成形において樹脂への超臨界状流体の溶解・含浸が困難な上に、射出圧力の分布により未発泡部位が生じ易いという欠点があった。
さらには、軽量化率(発泡倍率)を向上させようとすると、金型温度をガラス転移あるいは、結晶化温度付近まで上昇させねばならず、金型内での冷却に時間を要し、成形サイクルタイムが長くなるという生産性低下の問題があった。
また、バッチ法や押出成形においては、発泡倍率が高くても1.4倍程度までしか得られず、これ以上発泡倍率を向上させると外観が極めて悪く、発泡セルが破泡したものしか得られないという欠点があった。
【0004】
本発明は上記課題に鑑み、発泡倍率が高く発泡構造が均一な発泡用熱可塑性樹脂組成物及びその発泡体を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この課題を解決するために本発明者らは、発泡用組成物において、熱可塑性樹脂に多孔質フィラーを添加することにより、発泡剤の溶融樹脂への溶解性が向上するため、発泡倍率が高く均一な発泡の発泡体が得られることを見出した。
【0006】
本発明の第一の態様によれば、(a)熱可塑性樹脂45〜99.9重量%、及び(b)粉末状又は繊維状の多孔質フィラー0.1〜50重量%、(c)溶融張力調整剤0〜10重量%を含む発泡用熱可塑性樹脂組成物が提供される。
本発明の第二の態様によれば、(A)熱可塑性樹脂45〜99.9重量%、(B)粉末状又は繊維状の多孔質フィラー0.1〜50重量%、(C)溶融張力調整剤0〜10重量%、及び(D)発泡セルを含む発泡体が提供される。
【0007】
好ましくは、発泡セルの最大セル径が50μm以下である。
好ましくは、多孔質フィラーの細孔容積値が0.01cc/g以上又は比表面積値が10m2/g以上である。
好ましくは、多孔質フィラーが、平均粒子径50μm以下のシリカ、活性炭、ゼオライト、シリカゲル又は繊維径20μm以下の繊維状活性炭である。
好ましくは、溶融張力調整剤が下記のいずれかである。
(1)分岐鎖構造を有する熱可塑性樹脂
(2)高分子量アクリル樹脂
(3)フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン
(4)ポリテトラフルオロエチレンとアクリル樹脂の複合体
好ましくは、熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリロニトリル―ブタジエン―スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、アクリロニトリル―スチレン共重合体(AS樹脂)、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリアセタール、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド又はポリエチレンナフタレートである。
【0008】
好ましくは、熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート系樹脂と下記のいずれかより選ばれる樹脂との組み合わせからなるポリマーブレンドである。
ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリロニトリル―ブタジエン―スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、アクリロニトリル―スチレン共重合体(AS樹脂)、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド又はポリエチレンナフタレート
好ましくは、ポリカーボネート系樹脂が、分岐ポリカーボネート単独又は分岐ポリカーボネートと直鎖ポリカーボネートとのブレンドである。
好ましくは、上記熱可塑性樹脂が、下記のいずれかより選ばれるポリマーブレンドである。
(1)ポリフェニレンスルフィドと分岐ポリフェニレンスルフィド
(2)シンジオタクチックポリスチレンと耐衝撃性ポリスチレン
(3)シンジオタクチックポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン及びポリフェニレンオキシド
【0009】
本発明の第三の態様によれば、上記の発泡用熱可塑性樹脂組成物に発泡剤を含浸させ、多孔質フィラーに発泡剤を吸着させて、発泡剤を発泡させる発泡体の製造方法が提供される。
好ましくは、発泡剤が、水分、超臨界状流体又は亜臨界状流体である。
本発明の第四の態様によれば、上記の製造方法により製造される発泡体が提供される。
【0010】
【発明の実施の態様】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の発泡用熱可塑性樹脂組成物について説明する。
本発明の発泡用熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂及び多孔質フィラー、又は熱可塑性樹脂、多孔質フィラー及び溶融張力調整剤より構成される。
上記熱可塑性樹脂としては、特に限定はなく、発泡性の観点から、成形加工時の温度、剪断速度下において高溶融張力のものが好ましい。
例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリロニトリル―ブタジエン―スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、アクリロニトリル―スチレン共重合体(AS樹脂)、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド又はポリエチレンナフタレート等が挙げられる。この中で好ましくは、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィドであり、特に好ましくは難燃性の観点からポリカーボネート系樹脂である。
【0011】
また、上記熱可塑性樹脂として、ポリマーブレンドを用いてもよい。好ましくは、ポリカーボネート系樹脂と下記のいずれかより選ばれる樹脂との組み合わせからなるポリマーブレンドを用いることができる。
ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリロニトリル―ブタジエン―スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、アクリロニトリル―スチレン共重合体(AS樹脂)、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド又はポリエチレンナフタレート
この中で発泡性の観点から、ポリカーボネート系樹脂と結晶性の熱可塑性樹脂(ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、シンジオタクチックポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ステレオコンプレックスポリメタクリル酸メチル)との組み合わせであるポリマーブレンド好ましい。
【0012】
ポリカーボネート系樹脂以外のポリマーブレンドとしては、ポリフェニレンスルフィドと分岐ポリフェニレンスルフィド、シンジオタクチックポリスチレンと耐衝撃性ポリスチレン、又は、シンジオタクチックポリスチレンと耐衝撃性ポリスチレンとポリフェニレンオキシド等の各ポリマーブレンドブレンドが好ましい。
【0013】
上記ポリカーボネート系樹脂としては、直鎖タイプ、分岐タイプ、長鎖分岐タイプ、直鎖ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体(以下、PC−PDMS)、長鎖分岐PC−PDMS共重合体等が挙げられる。
また、これらポリカーボネートをブレンドして使用しても良く、例えば分岐ポリカーボネートと直鎖ポリカーボネートをブレンドして使用してもよい。
ここで、分岐ポリカーボネートとは、典型的には二価フェノール及びホスゲン又は炭酸エステル化合物を、分岐剤及び必要に応じ末端停止剤の存在下に重合して得られるものをいう。
直鎖ポリカーボネートとは、典型的には二価フェノール及びホスゲンまたは炭酸エステル化合物を、必要に応じ末端停止剤の存在下に重合して得られるものをいう。すなわち、分岐剤を用いない他は、分岐ポリカーボネート樹脂と同様である。
この中で、発泡性の観点から長鎖分岐タイプのポリカーボネート、難燃性の観点から直鎖PC−PDMS共重合体が好ましく、これら両方の観点から長鎖分岐PC−PDMS共重合体が特に好ましい。
【0014】
上記多孔質フィラーは、細孔容積が0.01cc/g以上、好ましくは0.2cc/g以上、特に好ましくは0.3cc/g以上であるか、又は比表面積値が10m2/g以上、好ましくは400m2/g以上、より好ましくは500m2/g以上、特に好ましくは1000m2/g以上である。
細孔容積が0.01cc/g未満又は比表面積値が10m2/g未満では、発泡剤を保持する能力が低下し、発泡セルが肥大化し、不均質となり、発泡体の物性が低下する恐れがある。
ここで、細孔容積及び比表面積値はBET法(窒素吸着法)により測定した値である。
【0015】
多孔質フィラーの形状は、板状、粉末状又は繊維状でよい。粉末状である場合、粒子径としては、好ましくは平均粒子径で10nm〜50μm、特に好ましくは100nm〜30μmである。平均粒子径が10nm未満である場合は2次凝集が激しく、分散が困難となり、平均粒子径が50μmを超える場合は機械強度が低下する恐れがある。
繊維状である場合は、その繊維径は、好ましくは2nm〜20μm、特に好ましくは10nm〜10μmである。繊維径が2nm未満では、絡み合いにより分散が困難であり、繊維径が20μmを超えると機械強度が低下する恐れがある。
好ましい多孔質フィラーとしては、多孔質シリカ、活性炭、ゼオライト、シリカゲル又は繊維状活性炭(アドール、デキン:ユニチカ(株)製等)等がある。
【0016】
多孔質フィラーは、必要に応じてシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、オルガノシロキサン等の反応性化合物により表面処理してもよい。
樹脂マトリックスと多孔質フィラーとの界面接着性をコントロールすることで発泡時における発泡剤の、多孔質フィラーからのリリースの制御が期待できる。これらは樹脂マトリックスの熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選定すればよい。
上記表面処理剤の添加処理量は、熱可塑性樹脂成分に対し0.1〜5重量%、より好ましくは0.2〜3重量%、特に好ましくは0.3〜1重量%である。5重量%を超えると、機械強度及び耐熱性が損なわれる恐れがある。
【0017】
発泡剤に超臨界状流体を用いる場合は、多孔質フィラーは吸水していない方が、発泡セルを均一にするうえで有効である。吸水量は多孔質フィラーに対し、5重量%以下、好ましくは2重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
【0018】
上述の熱可塑性樹脂及び多孔質フィラーの他に、熱可塑性樹脂の溶融張力を調整し、発泡体の発泡セルの大きさを制御するために、溶融張力調整剤を添加してもよい。溶融張力調整剤としては以下のものがある。
(1)分岐鎖構造を有する熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂に分岐鎖構造を有する熱可塑性樹脂を使用してもよいが、通常の直鎖タイプの熱可塑性樹脂に分岐鎖構造を有する熱可塑性樹脂を適宜配合してもよい。
分岐剤としては、熱可塑性樹脂分子の基本骨格と同一または類似の骨格からなり3官能以上の反応基を有していれば良い。例えば、ポリスチレンであれば、トリビニルベンゼン等の分岐剤が挙げられ、これらを0.1〜5重量%程度含むスチレンモノマーを重合して得られた重合体が使用でき、ポリカーボネートであれば、分岐剤としては1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好適に用いることができる。
(2)高分子量アクリル系樹脂
熱可塑性樹脂の分子構造中に分岐構造を有するもの以外に、高分子量アクリル系樹脂を添加して同様の高溶融張力を発現させることができる。高分子量アクリル系樹脂の重量平均分子量としては30万以上が好ましく、200万以上がより好ましい。三菱レーヨン(株)社製P530A,P551A等が適用できる。
(3)ポリテトラフルオロエチレン
溶融張力が向上するフィブリル形成能を有するものが好適である。
(4)ポリテトラフルオロエチレン含有複合粉体
三菱レーヨン(株)社製A3000等を用いることができる。
上記(1)〜(4)をそれぞれ単独で使用しても良く、又は混合して使用してもよい。
【0019】
熱可塑性樹脂組成物が上記熱可塑性樹脂及び多孔質フィラーにより構成される場合、熱可塑性樹脂の熱可塑性樹脂組成物に占める量としては、好ましくは50〜99.9重量%、より好ましくは70〜99.9重量%、特に好ましくは90〜99.9重量%である。熱可塑性樹脂の量が少なすぎると、流動性の不足や、機械強度が低下する恐れがある。
多孔質フィラーの添加量としては、用途、要求特性、多孔質フィラーの種類及び比表面積にもよるが、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは0.1〜30重量%、特に好ましくは0.1〜10重量%である。配合量が0.1重量%未満では発泡効果が認められず、50重量%を超えると発泡セルが肥大化し発泡体の機械強度が低下する。
【0020】
また、熱可塑性樹脂組成物が熱可塑性樹脂、多孔質フィラー及び溶融張力調整剤により構成される場合、熱可塑性樹脂の熱可塑性樹脂組成物に占める量としては、上記と同じ理由により、好ましくは45〜99.9重量%、より好ましくは65〜99.9重量%、特に好ましくは87〜99.9重量%である。
多孔質フィラーの添加量は、上記と同様に、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは0.1〜30重量%、特に好ましくは0.1〜10重量%である。
溶融張力調整剤の添加量は、樹脂マトリックスである熱可塑性樹脂、用途、要求特性に応じて適宜選定すればよいが、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.2〜5重量%、特に好ましくは0.5〜3重量%である。添加量が0.1重量%未満では、マトリックス樹脂の分子量、分岐構造の有無にもよるが、セルが合一して肥大化する恐れがあり、10重量%を超えるとコストアップになる他、マトリックス樹脂本来の特性を損なう恐れがある。
【0021】
さらに、上記熱可塑性樹脂組成物に、酸化防止剤を添加してもよい。
熱可塑性樹脂がポリカーボネート系樹脂の場合は、ホスファイト系、芳香族ホスフィン系の酸化防止剤が好ましく、配合量としては0.01〜0.5重量%が好ましい。用途、要求特性に応じて選定することができる。
【0022】
その他、アルミナ、窒化珪素、タルク、マイカ、酸化チタン、カーボンブラック、溶融シリカ、粘土化合物(モンモリロナイト、カオリナイト等)、ガラスビーズ、ガラスフレーク等の無機フィラーを添加してもよい。粒度・形状に特に制限はなく、配合量としては、0.1〜5重量%が好ましいが、用途、要求特性に応じて選定することができる。
また、ガラス繊維、炭素繊維等の強化繊維を添加してもよい。
難燃性が必要な場合には、リン系/ポリテトラフルオロエチレン、金属塩/ポリテトラフルオロエチレン、オルガノポリシロキサン/ポリテトラフルオロエチレン、ノンデカブロム系、水酸化マグネシウム等の難燃剤を添加してもよい。
このような熱可塑性樹脂組成物は単軸押出機、二軸押出機等により溶融混練し、成形、造粒(ペレット化)等できる。
【0023】
次に本発明の発泡体及びその製造方法について説明する。
上記の熱可塑性樹脂組成物、又はこの組成物を予め溶融混練し造粒したものを、発泡させて発泡体にすることができる。
本発明の発泡体の発泡セルの最大セル径は、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下である。最大セル径が50μmより大きい場合は発泡体の機械的強度が低下する恐れがある。
【0024】
熱可塑性樹脂組成物を発泡させる際には、水、空気、窒素、二酸化炭素、その他成形材料に対して不活性な気体等の流体、超臨界状流体、亜臨界状流体等の発泡剤を用いる。
【0025】
発泡剤として水を使用するときは、樹脂発泡体の製造装置として通常の樹脂成形機、例えば射出成形機、押出成形機等が使用できる。
具体的には、未乾燥状態の熱可塑性樹脂組成物、あるいは熱可塑性樹脂組成物を予め溶融混練したペレットを恒温恒湿槽に入れる等の方法により吸湿させて、押出成形機に投入し溶融混練し成形する。
水の吸湿量は、多孔質フィラーの総重量を100重量部として好ましくは1〜10重量部、より好ましくは2〜5重量部である。水分が1重量部未満では、発泡剤としての機能が発揮されず、10重量部を超えると、粗大な発泡セルを形成し、得られる熱可塑性樹脂組成物の機械物性が低下する恐れがある。
この製造方法においては、水が多孔質フィラーに吸着して、多孔質フィラーが水の溶融樹脂への溶解性(溶解・含浸性)を向上させると同時に核剤としても作用する。その結果、満足なセル密度及びセルの均一性を有する発泡体を得ることができる。
【0026】
発泡剤として超臨界状流体を使用するときは、超臨界状流体を供給して、その超臨界状流体を熱可塑性樹脂組成物に溶解・含浸する。そのための装置としては特に制限はないが、例えば、射出成形機、押出成形機、オートクレーブ等が使用できる。
超臨界状流体の含浸方法としては、例えば射出成形、押出成形の場合のように、超臨界状流体を熱可塑性樹脂組成物の溶融混練時に供給して含浸させることができる。
また、予め成形した熱可塑性樹脂組成物に超臨界状流体を含浸させてもよい。例えば、成形した熱可塑性樹脂組成物をオートクレーブ内に置いて超臨界状流体を含浸させる(バッチ式)。
【0027】
発泡剤として作用する超臨界状流体は、上記熱可塑性樹脂組成物に溶け込むことができかつ不活性であれば特に限定はされないが、安全性、コスト等の面から二酸化炭素や窒素又はこれらの混合ガスが好ましい。
超臨界状流体を熱可塑性樹脂組成物に浸透させる方法としては、超臨界状流体を加圧または減圧した状態で注入する方法や、液体状態の不活性ガスをプランジャーポンプ等で注入する方法がある。
超臨界状ガスを熱可塑性樹脂組成物に浸透させる場合の圧力は、浸透させる超臨界状流体の臨界圧以上を必須とし、より浸透速度を向上させるためには、15MPa以上、さらに好ましくは20MPa以上である。
超臨界状流体は、その種類にもよるが、熱可塑性樹脂組成物100重量部に対し、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部、特に好ましくは1〜5重量部浸透させる。超臨界状流体が0.1重量部よりも少ないと、微細な発泡セルを得ることができず、20重量部よりも多いと発泡体表面に外観不良が生じ、粗大な発泡セルが生成しやすくなる恐れがある。
【0028】
熱可塑性樹脂組成物に超臨界状流体を含浸させた後、超臨界状態を温度及び/又は圧力を下げることにより解除させて発泡させる。
例えば、熱可塑性樹脂組成物が可塑化している温度で、系内の圧力を下げることにより、超臨界状流体を膨張させて発泡体を得る。また、射出成形機を用いる場合は、超臨界状流体を含浸させた熱可塑性樹脂組成物を金型内に充填させると温度が下がって超臨界状態が解除される。
【0029】
上記製法による発泡体は、超臨界状流体の優れた溶解性と優れた拡散性に加え、多孔質フィラーが超臨界状流体を吸着することにより、熱可塑性樹脂組成物への超臨界状流体の含浸量が向上するため、微細で均一な発泡セルを形成することができ、その結果、機械的強度が高く、且つ軽量な樹脂発泡体を得ることができる。特に、バッチ式においては、本発明の組成物を用いることにより超臨界流体の中に置く時間をかなり短縮できる。
また、超臨界状流体に窒素を使用した場合は、地球環境に影響を与えることがなく、環境面に配慮した発泡体の製造法であるといえる。
【0030】
本発明の発泡体は満足なセル密度及びセルの均一性を有するので、OA電気電子、自動車、建築等分野の部材、高反射材、断熱材、遮音材、緩衝材、低比重材、分離膜、燃料電池セパレーター、低誘電体、各種軽量化構造体、光学機器ベース、光コネクター、光ピックアップ又はランプリフレクター等に使用できる。
【0031】
[実施形態]
以下、本発明の発泡体の製造方法について図面を用いて説明する。この実施形態では、超臨界状流体を用いて射出成形により発泡体を製造する。
【0032】
図1は本発明の発泡体を製造するための射出成形機の模式図である。
この射出成形機1は、上記の熱可塑性樹脂組成物と超臨界状流体から所定形状の発泡体である射出成形品を製造する機械であり、射出成形機本体11と、金型12とを備える。また、超臨界状流体を射出成形機内に導入するため、射出成形機本体11のシリンダ111に超臨界状流体導入装置21が設けられている。
この超臨界状流体導入装置21は、原料ガスが充填されているガスボンベ211と、ガスボンベ211からの原料ガスを臨界圧力まで昇圧する昇圧機212と、臨界圧力まで昇圧された超臨界状ガスのシリンダ111内への導入量を制御する制御ポンプ213とを備える。
【0033】
次に、この射出成形機1を用いた発泡体の製造方法について説明する。
まず、熱可塑性樹脂組成物、及び必要に応じて各種添加剤をホッパ113からシリンダ111内に投入する。
ガスボンベ211を開き、窒素ガスを昇圧機212で臨界圧力以上、臨界温度以上に昇圧、昇温する。制御ポンプ213を開き、超臨界状流体をシリンダ111内に導入し、熱可塑性樹脂組成物が可塑化している部位に浸透させる(浸透工程)。
【0034】
次に、スクリュー112によりシリンダ111内の原料を移動させ、金型12内の隙間121に導入する(導入工程)。
この際、超臨界状流体が、原料が金型12内への導入が終了するまでは、超臨界状態を維持するため、型締を加えたり、カウンタープレッシャーをかけておいてもよい(臨界状態維持工程)。
金型12に接する熱可塑性樹脂組成物の表面にスキン層が形成され、その内部が溶融状態である間に、金型12の可動金型12Bを後退させ、減圧させて発泡させる(圧力低下工程)。
さらに、冷却、固化し、所定の冷却時間が経過したら、金型12を開き、成形品を取り出す。
【0035】
[実施例]
(発泡用熱可塑性樹脂組成物の製造)
実施例1〜6,13〜17、参考例1〜9
表1に示す、熱可塑性樹脂、多孔質フィラー及び溶融張力調整剤等の各種添加剤から構成される配合組成物を、二軸混練押出機(35mmφ)を用いて、表1記載の温度条件にてスクリュー回転数300rpmで混練し、各実施例のペレットを得た。尚、多孔質フィラーの詳細については表2に示す。
また、実施例1〜6,参考例1は熱可塑性樹脂にポリカーボネート(以下、PC)を、参考例2〜5はポリフェニレンスルフィド系樹脂を、参考例6、実施例13〜17は耐衝撃性ポリスチレンのポリマーブレンドを、参考例7〜9は分岐ポリプロピレンを使用し、多孔質フィラーを添加した試料である。
【0036】
比較例1〜4
表1に示す、配合組成、混練温度にて、実施例1と同様に各比較例のペレットを得た。
比較例1〜3はPCを、比較例4は熱可塑性樹脂に分岐ポリプロピレン使用し、多孔質フィラーを添加しない試料である。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
(発泡体の製造:発泡剤として超臨界状流体を用いた射出成形法)
実施例21〜26,33〜38、参考例10〜15
実施例1〜6,13〜17、参考例1〜6記載のペレットを、マイクロセルラー発泡用射出成形機(JSW社製、180トン)及び140mm角×2mm厚の板状形状の金型によりマイクロセルラー発泡成形し試験片を得た。
このときの射出成形機シリンダーへの窒素ガスの注入条件は15MPaの圧力下で、窒素ガスの注入量は0.3重量部であった。
この試験片のゲート部及び流動末端部位の発泡倍率を測定した。
実施例21〜26,33〜37以下に示す実施例38、参考例10〜15、比較例5〜8の発泡成形条件、及び発泡倍率を表3に示す。尚、発泡倍率は、発泡前の密度を発泡後の密度で除して求めた。
試料の断面を、走査型電子顕微鏡により倍率500倍で観察して、発泡セル径を測定した。観察範囲は約0.25mm×0.20mmであり、その範囲における実施例24の試験片の流動末端部の最小〜最大セル径は2〜13μmであった。
得られた試料の発泡倍率の測定結果から、試料中で発泡セルが均一に形成していること、及び比較例と比べて高発泡倍率の成形品が成形可能であることが確認できた。
【0040】
【表3】
【0041】
比較例5〜8
比較例1〜4で作製したペレットを用いた他は、実施例21と同じ条件で試験片を作製した。
【0042】
(発泡体の製造:発泡剤として水を使用した射出成形法)
実施例38
実施例2で作製したペレットを、恒温恒湿槽で120℃、湿度90%RHの条件で24時間吸湿させ、上記マイクロセルラー発泡用射出成形機により窒素ガスは注入せずに成形した。このときのペレットの吸水量は0.25重量部であった。
得られた試料の発泡倍率の測定結果から、試料中で発泡セルが均一に形成していることが確認できた。
【0043】
(発泡体の製造:発泡剤として超臨界状流体を用いたバッチ法)
実施例39〜45,参考例16〜18
実施例1〜7及び参考例7〜9記載のペレットを用い、上記射出成形法における成形温度と同一設定温度にてプレスフィルム(厚さ300μm)を作製した。
得られたフィルムを幅10mm、長さ50mmに切り出して、オートクレーブ中に投入し、任意の含浸温度にて超臨界状流体状態の二酸化炭素を15MPaで30分間含浸した後、任意の発泡温度にて急減圧を行った後、室温まで冷却し発泡体を得た。この発泡体外観観察及びその発泡倍率を測定した。
実施例39〜45、参考例16〜18及び以下に示す比較例9〜12の発泡成形条件、外観観察及び発泡倍率を表4に示す。尚、外観観察において、良好とは、成形体全体が均一に白化している状態であり、不良とは白化の程度が部位により差異がある状態である。また、実施例42の最小〜最大セル径を実施例24と同様に測定した結果、試験片の流動末端部の最小〜最大セル径は1μm未満〜7μmであった。
【0044】
【表4】
【0045】
比較例9〜12
比較例1〜4で作製した混練ペレットを用いた他は、実施例39と同じ条件で試験片を作製した。但し、比較例12については含浸温度200℃、発泡温度165℃の条件で行った。
得られた試料の発泡倍率の測定結果から、比較例と比べて高発泡倍率であり、外観も良好な成形品が得られることが確認できた。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、発泡倍率が高く発泡構造が均一な発泡用熱可塑性樹脂組成物及びその発泡体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の発泡体を製造するための射出成形機の模式図である。
【符号の説明】
1 射出成形機
11 射出成形機本体
111 シリンダ
112 スクリュー
113 ホッパー
114 油圧装置
115 ノズル
12 金型
12B 金型12の可動金型
121 金型12内の隙間
21 超臨界状流体導入装置
211 ガスボンベ
212 ガスを臨界圧力まで昇圧する昇圧機
213 導入量を制御する制御ポンプ
Claims (12)
- (a)熱可塑性樹脂45〜99.9重量%、及び
(b)粉末状又は繊維状の多孔質フィラー0.1〜50重量%、
(c)溶融張力調整剤0.1〜10重量%、
を含み、
前記溶融張力調整剤が、下記のいずれかである発泡用熱可塑性樹脂組成物。
(1)重量平均分子量30万以上の高分子量アクリル樹脂
(2)フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン
(3)ポリテトラフルオロエチレンとアクリル樹脂の複合体 - (A)熱可塑性樹脂45〜99.9重量%、
(B)粉末状又は繊維状の多孔質フィラー0.1〜50重量%、
(C)溶融張力調整剤0.1〜10重量%、及び
(D)発泡セル、
を含み、
前記溶融張力調整剤が、下記のいずれかである発泡体。
(1)重量平均分子量30万以上の高分子量アクリル樹脂
(2)フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン
(3)ポリテトラフルオロエチレンとアクリル樹脂の複合体 - 前記発泡セルの最大セル径が50μm以下である請求項2に記載の発泡体。
- 前記多孔質フィラーの細孔容積値が0.01cc/g以上又は比表面積値が10m2/g以上である請求項2又は3に記載の発泡体。
- 前記多孔質フィラーが、平均粒子径50μm以下のシリカ、活性炭、ゼオライト、シリカゲル又は繊維径20μm以下の繊維状活性炭である請求項2〜4のいずれか一項に記載の発泡体。
- 前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリロニトリル―ブタジエン―スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、アクリロニトリル―スチレン共重合体(AS樹脂)、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリアセタール、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド又はポリエチレンナフタレートである請求項2〜5のいずれか一項に記載の発泡体。
- 前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート系樹脂と下記のいずれかより選ばれる樹脂との組み合わせからなるポリマーブレンドである請求項2〜5のいずれか一項に記載の発泡体。
ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリロニトリル―ブタジエン―スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、アクリロニトリル―スチレン共重合体(AS樹脂)、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド又はポリエチレンナフタレート - 前記ポリカーボネート系樹脂が、分岐ポリカーボネート単独又は分岐ポリカーボネートと直鎖ポリカーボネートとのポリマーブレンド又はポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体である請求項6又は7に記載の発泡体。
- 前記熱可塑性樹脂が下記のいずれかより選ばれるポリマーブレンドである、請求項2〜5のいずれか一項に記載の発泡体。
(1)ポリフェニレンスルフィド及び分岐ポリフェニレンスルフィド
(2)シンジオタクチックポリスチレン及び耐衝撃性ポリスチレン
(3)シンジオタクチックポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン及びポリフェニレンオキシド - 請求項1に記載の発泡用熱可塑性樹脂組成物に発泡剤を含浸させ、前記多孔質フィラーに前記発泡剤を吸着させて、前記発泡剤を発泡させる発泡体の製造方法。
- 前記発泡剤が、水分、超臨界状流体又は亜臨界状流体である請求項10に記載の発泡体の製造方法。
- 請求項10又は11に記載の製造方法により製造される発泡体。
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