JP4068344B2 - 燃料電池およびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体高分子型等の燃料電池に係り、特に電極構造体に接触するセパレータの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
固体高分子型燃料電池は、平板状の電極構造体(MEA:Membrane Electrode Assembly)の両側にセパレータが積層された積層体が1ユニットとされ、複数のユニットが積層されて燃料電池スタックとして構成される。電極構造体は、正極(カソード)および負極(アノード)を構成する一対のガス拡散電極の間にイオン交換樹脂等からなる電解質膜が挟まれた三層構造である。ガス拡散電極は、電解質膜に接触する電極触媒層の外側にガス拡散層が形成されたものである。また、セパレータは、電極構造体のガス拡散電極に接触するように積層され、ガス拡散電極との間にガスを流通させるガス流路や冷媒流路が形成されている。このような燃料電池によると、例えば、負極側のガス拡散電極に面するガス流路に燃料である水素ガスを流し、正極側のガス拡散電極に面するガス流路に酸素や空気等の酸化性ガスを流すと電気化学反応が起こり、電気が発生する。
【0003】
上記セパレータは、負極側の水素ガスの触媒反応により発生した電子を外部回路へ供給する一方、外部回路からの電子を正極側に送給する機能を具備する必要がある。そこで、セパレータには黒鉛系材料や金属系材料からなる導電性材料が用いられている。黒鉛製のセパレータは、黒鉛のモールド成形や切削加工等により製造され、金属製のセパレータはステンレス鋼板等の薄板をプレス成形することにより製造される。いずれの場合も、例えば断面凹凸状に成形され、表裏面に形成された溝が上記ガス流路や冷媒流路を構成する。したがって、セパレータは、形成された凸部の表面が電極構造体(厳密にはガス拡散電極のガス拡散層)に接触させられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このような燃料電池の発電中にあっては、酸化性ガスが流される電極側(上記では正極側)のガス流路に、酸素が水素イオンと反応することによって水が生成する。この水は、セパレータの凸部と電極構造体の拡散電極との界面に生成するものであるが、この水がガス流路に滞留すると拡散過電圧の上昇を招き、特に高電流密度発電時における発電性能が低下してしまう。このため、ガス流路においては良好な排水性が確保されていることが望まれる。ガス流路の排水性は、例えばセパレータの表面を鏡面に仕上げて撥水性を持たせることにより高めることが可能である。
【0005】
ところで、金属製セパレータの中には、金属組織中に導電性介在物を有するステンレス鋼板を材料とし、導電性介在物を導電経路として活用するようになされたものが提案されている。このようなセパレータにおいては、表面に導電性介在物を突出させる表面改質処理を施して電極構造体との接触抵抗の低減を図ることが行われている。この場合には、表面が比較的粗面となっているので親水性が増し、その表面に対する水の接触角度は小さいものである。その結果、セパレータの凸部と電極構造体との界面に生成した水は、両者の間に形成される空間、すなわち隅部に滞留しやすかったり侵入しやすかったりし、これによって排水性が劣り、上述した発電性能の低下を招いてしまう。ちなみに、従来においては、上記隅部の角度、すなわちセパレータの凸部と電極構造体との接触角度は90゜程度であり、この角度よりもセパレータ表面に対する水の接触角度が小さいことにより、隅部に水が滞留もしくは侵入しやすかった。
【0006】
よって本発明は、セパレータの表面性状(親水性か疎水性か)にかかわらず、互いに接触するセパレータの凸部と電極構造体との間に形成される隅部において水の滞留もしくは侵入が生じにくい構成として、ガス流路の排水性を高め、その結果、発電性能の向上が図られる燃料電池を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、正極および負極を構成する一対のガス拡散電極の間に電解質膜が挟まれた電極構造体をセパレータで挟んだ積層体からなる燃料電池において、前記セパレータは前記電極構造体の表面に端面が埋没し接触する凸部を有し、この凸部の角部は半径Rを有する断面円弧状とされ、この断面円弧状の部分は、その中心から前記電極構造体に垂線をおろした点から開始して前記電極構造体の前記表面との交点まで延在し、前記電極構造体に対する前記凸部の下記式で表される接触角度θを、前記セパレータ表面に対する水の接触角度よりも小に設定され、前記セパレータは金属製であって、表面から導電性介在物が突出していることを特徴としている。
【数3】
Figure 0004068344
【0008】
本発明は、ある材質によってくさび状の隙間が形成され、その隙間に水滴が侵入する状況を想定した場合、隙間の角度が、材質に対する水の接触角度よりも小さいときには水は隙間の奥まで侵入不可能である原理を利用したものである。本発明では、互いに接触するセパレータの凸部と電極構造体との接触角度、すなわち両者の間に形成される隅部(上記の隙間に相当する)の角度が、セパレータ表面に対する水の接触角度よりも小さく、したがって、その隅部の奥まで水は侵入することができない。ここで、燃料電池にあっては、セパレータの凸部と電極構造体との界面、つまり隅部の最も奥において水が生成するので、その水は界面から速やかに、かつ強制的に離脱させられる。その水には、新たに生成した水が連続的に合流して体積が徐々に増すので、水は隅部から押し出される作用を受け、結局は隅部から排水される。
【0009】
図1(a)は本発明の原理を模式的に示しており、電極構造体10に接触するセパレータ20Aの凸部21の先端は、角部が切り欠かれていることにより、凸部21と電極構造体10との接触角度が、セパレータ20Aの表面に対する水Wの接触角度よりも小さく設定されている。電極構造体10とセパレータ20Aとの界面で生成した水Wは、両者の間に形成される隅部30内で成長するにつれ、やがて隅部30から排水されていく。一方、図1(b)は本発明が適用されていないセパレータ20Bの凸部21および電極構造体10を示しており、水Wは隅部に滞留している。
【0010】
図2は、本発明におけるセパレータの凸部と電極構造体との接触角度の概念を示している。同図に示すように、セパレータ20Aを電極構造体10に積層して燃料電池スタックを構成した場合、セパレータ20Aの凸部21は、組み付け圧によって電極構造体10の拡散電極10Aに若干埋まった状態になる。そこで、この状態での電極構造体10に対する凸部21の接触角度θは、拡散電極10Aの表面と、その表面に交差する凸部21の角Rの接線との交差角度となる。接触角度θは、次式で求めることができる。
cosθ=(R−0.01A×B×0.5)/R
A(%) :電極構造体の圧縮率
B(mm):電極構造体の組み付け前の初期厚さ
R(mm):セパレータの角R
【0011】
本発明におけるセパレータの凸部と電極構造体との接触角度は、セパレータ表面に対する水の接触角度に応じて適宜に設定されるが、上記効果が確実に奏される観点から30゜以内が特に有効である。
【0012】
また、本発明のセパレータは、ステンレス鋼板等の金属製であって、表面から導電性介在物が突出している。このセパレータは、上述の如く接触抵抗の低減のために表面から導電性介在物が突出しており、したがって、その表面は比較的粗面で水の接触角度が小さい。しかしながら、凸部と電極構造体との接触角度を、表面に対する水の接触角度よりも小さく設定することにより、接触抵抗の低減と良好な排水性の両立が図られ、結果として発電性能の大幅な向上が図られる。
【0013】
上記金属製セパレータの材質としては、例えば次の成分を有するステンレス鋼板が好適である。すなわち、C:0.15wt%以下、Si:0.01〜1.5wt%、Mn:0.01〜2.5wt%、P:0.035wt%以下、S:0.01wt%以下、Al:0.001〜0.2wt%、N:0.3wt%以下、Cu:0〜3wt%、Ni:7〜50wt%、Cr:17〜30wt%、Mo:0〜7wt%、残部がFe,Bおよび不可避的不純物であり、かつ、Cr,MoおよびBが次式を満足している。
Cr(wt%)+3×Mo(wt%)−2.5×B(wt%)≧17
このステンレス鋼板によれば、Bが、MBおよびMB型の硼化物、M23(C,B)型の硼化物として表面に析出し、これら硼化物が、セパレータの表面に導電経路を形成する導電性介在物である。
【0014】
【実施例】
次に、本発明の実施例を説明する。
(1)セパレータの製造
・グループA:第1の表面改質法(水の接触角度:63゜)
表1に示す成分を有する厚さ0.2mmのオーステナイト系ステンレス鋼板をプレス成形して、電極構造体に対する凸部の接触角度が異なる10種類(15゜、20゜、30゜、40゜、45゜、50゜、60゜、70゜、80゜、90゜)のセパレータ素材板を得た。このセパレータ素材板は92mm×92mmの正方形状で、中央に断面凹凸状の集電部を有し、この集電部の複数の凸部が電極構造体に接触する。なお、材料のステンレス鋼板においては、Bが、MBおよびMB型の硼化物、M23(C,B)型の硼化物として金属組織中に析出しており、これら硼化物が、導電経路を形成する導電性介在物である。次に、これらセパレータ素材板の表面に第1の表面改質法を施して表面に導電性介在物を突出させ、グループAのセパレータを得た。第1の表面改質法は、平均粒径50μmのアルミナ粒子を砥粒としたサンドブラストであり、この砥粒を、セパレータ素材板の両面に2kg/cmの圧力で吹き付けた。なお、吹き付け時間は、片面あたり20秒間とした。このセパレータの表面に対する水の接触角度を測定したところ、63゜であった。また、セパレータの表面の面粗度(Ra)を測定したところ、Ra=1μmであった。
【0015】
【表1】
Figure 0004068344
【0016】
・グループB:第2の表面改質法(水の接触角度:49゜)
セパレータ素材板の表面に施す表面改質法として第2の表面改質法を採用した以外は、上記グループAと同様にして10種類のセパレータを得た。第2の表面改質法は、平均粒径180μmのアルミナ粒子を砥粒としたサンドブラストであり、この砥粒を2kg/cmの圧力で片面あたり20秒間で両面に吹き付けた。このセパレータの表面に対する水の接触角度を測定したところ、49゜であった。また、セパレータの表面の面粗度(Ra)を測定したところ、Ra=3μmであった。
【0017】
・グループC:第3の表面改質法(水の接触角度:32゜)
セパレータ素材板の表面に施す表面改質法として第3の表面改質法を採用した以外は、上記グループAと同様にして10種類のセパレータを得た。第3の表面改質法は、平均粒径600μmのアルミナ粒子を砥粒としたサンドブラストであり、この砥粒を2kg/cmの圧力で片面あたり20秒間で両面に吹き付けた。このセパレータの表面に対する水の接触角度を測定したところ、32゜であった。また、セパレータの表面の面粗度(Ra)を測定したところ、Ra=10μmであった。
【0018】
・グループD:鏡面仕上げ(水の接触角度:80゜)
セパレータ素材板の表面を鏡面仕上げする以外は、上記グループAと同様にして10種類のセパレータを得た。鏡面仕上げは電解研磨によるもので、50℃のりん酸系電解研磨液(ジャスコ社製:6C 016)を用い、電流密度0.125A/cm、研磨時間10分間の条件で行った。このセパレータの表面に対する水の接触角度を測定したところ、80゜であった。また、セパレータの表面の面粗度(Ra)を測定したところ、Ra=0.2μmであった。
【0019】
上記グループA〜Dのセパレータにつき、面粗度(Ra)と、表面に対する水の接触角度を調べた。面粗度は、触針式面粗度測定装置(MITUTOYO社製:Surftest SJ201P)を用い、測定長さ2.5mmの条件で測定した。また、水の接触角度は、画像処理式接触角計(協和界面科学社製:CA−X)を用いて液滴法(液滴を固体サンプルに付着させ、それを横から観察する方法)により測定した。図3に、グループA〜Dのセパレータの面粗度(Ra)と、これらセパレータの表面に対する水の接触角度の関係を示す。
【0020】
(2)発電電圧の測定
a.次に、電極構造体の両側にセパレータを積層した1つの燃料電池ユニットを、上記グループA〜Dの各セパレータごとに作成し、これらユニットを発電させて、電流密度が比較的高い1.2A/cm時の発電電圧を測定した。図4〜図7は、凸部の接触角度と発電電圧との関係を各グループごとにまとめたグラフである。
【0021】
b.グループCのセパレータのうち、凸部の接触角度が30゜のものと90゜のものを選び、これらのセパレータを用いた燃料電池ユニットの電流密度と端子電圧との関係を調べた。その結果を図8に示す。
【0022】
図4〜図7で明らかなように、セパレータの表面に対する水の接触角度よりもセパレータの凸部と電極構造体との接触角度が小さい場合に、発電性能が著しく高くなっていることが判り、本発明の効果が実証された。また、図8で明らかなように、電流密度が1.0A/cmを超えて高くなった場合に、セパレータの凸部の接触角度が水の接触角度よりも大きいと端子電圧の低下が著しいが、本発明のようにセパレータの凸部の接触角度が水の接触角度よりも小さいと、端子電圧の低下の度合いが比較的抑えられることが認められた。
【0023】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、電極構造体に接触するセパレータの凸部と電極構造体との接触角度を、セパレータ表面に対する水の接触角度よりも小に設定したので、セパレータの表面性状にかかわらずガス流路の排水性が高まり、もって発電性能の向上が図られるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は本発明の原理を模式的に示す図、(b)は従来の課題を模式的に示す図である。
【図2】 本発明の構成を示す断面図である。
【図3】 実施例で製造したセパレータの面粗度と凸部の接触角度との関係を示すグラフである。
【図4】 実施例のグループAの各セパレータにおける凸部の接触角度と発電電圧との関係を示すグラフである。
【図5】 実施例のグループBの各セパレータにおける凸部の接触角度と発電電圧との関係を示すグラフである。
【図6】 実施例のグループCの各セパレータにおける凸部の接触角度と発電電圧との関係を示すグラフである。
【図7】 実施例のグループDの各セパレータにおける凸部の接触角度と発電電圧との関係を示すグラフである。
【図8】 実施例のグループCのセパレータのうちの凸部の接触角度が30゜のものと90゜のものを用いた燃料電池ユニットの電流密度と端子電圧との関係を示すグラフである。
【符合の説明】
10…電極構造体
20A…セパレータ
21…凸部
30…隅部
W…水

Claims (3)

  1. 正極および負極を構成する一対のガス拡散電極の間に電解質膜が挟まれた電極構造体をセパレータで挟んだ積層体からなる燃料電池において、前記セパレータは前記電極構造体の表面に端面が埋没し接触する凸部を有し、この凸部の角部は半径Rを有する断面円弧状とされ、この断面円弧状の部分は、その中心から前記電極構造体に垂線をおろした点から開始して前記電極構造体の前記表面との交点まで延在し、前記電極構造体に対する前記凸部の下記式で表される接触角度θを、前記セパレータ表面に対する水の接触角度よりも小に設定され、前記セパレータは金属製であって、表面から導電性介在物が突出していることを特徴とする燃料電池。
    Figure 0004068344
  2. 前記凸部と前記電極構造体との接触角度が30゜以内であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
  3. 正極および負極を構成する一対のガス拡散電極の間に電解質膜が挟まれた電極構造体をセパレータで挟んで積層体を構成する燃料電池の製造方法において、
    前記セパレータは前記電極構造体の表面に端面が埋没し接触する凸部を有し、この凸部の角部は半径Rを有する断面円弧状とされ、この断面円弧状の部分は、その中心から前記電極構造体に垂線をおろした点から開始して前記電極構造体の前記表面との交点まで延在し、前記セパレータの表面に導電性介在物を突出させる粗面化処理を施して水との接触角を小さくした後に、前記セパレータを前記電極構造体に組み付けて前記凸部の端面を前記電極構造体に埋没させ、前記電極構造体に対する前記凸部の下記式で表される接触角度θを、前記セパレータ表面に対する水の接触角度よりも小に設定することを特徴とする燃料電池の製造方法。
    Figure 0004068344
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