JP4066535B2 - 吸水抵抗性を改良した印刷用紙及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、吸水抵抗性などが改良された機械パルプの含有率が高い印刷用紙、特に、新聞印刷用紙、及びそれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、印刷技術は、オフセット印刷化、カラー印刷化、高速大量印刷化、自動化など大きな進歩を遂げてきている。これに伴い、印刷用紙に対しても、作業性、印刷適性の面から各種の物性の改良が求められている。
【0003】
特に、新聞印刷用紙(新聞用紙、新聞巻取紙)は、一般的に、機械パルプや脱墨パルプ(以下、「脱墨パルプ」を「DIP」と略す。)を主体とする紙であり、中・下級紙に分類される紙でありながら、一方では、新聞印刷は、指定された時間帯の指定された時間内に、指定された部数を確実に印刷しなければならず、一般印刷用紙以上に厳しい品質を要求される紙である。この点では、新聞印刷用紙は、特殊な紙であり、紙の分類上も独自な分類がされている。最近の新聞印刷用紙は、軽量化、DIPの高配合化などが求められており、これらの点によるマイナス面を克服しながら、各種の改良を行う必要がある。そのような意味からすると、新聞印刷用紙の改良は、一般印刷用紙の改良とは、かなり次元の異なる厳しいものとなっている。
【0004】
新聞印刷についても、近年、各種の要求(例えば、印刷の高速化の要求、カラー紙面の要求、多品種印刷の要求、自動化の要求など)の点から、新聞印刷へのコンピューターシステム導入と相まって、凸版印刷からオフセット印刷への転換が急速にすすんできている。
【0005】
このオフセット印刷の普及は、新聞印刷用紙に対して、凸版印刷用の新聞印刷用紙とは異なった品質を要求している。例えば、(1)吸水抵抗性が適度に保たれ、湿潤強度があり、水切れなどがないこと、(2)剥離強度(ネッパリ)が小さいこと、(3)紙粉の発生がないことなどの品質である。要求されている品質の中でも、特に、吸水抵抗性の保持、すなわち吸水抵抗性のコントロール(言い換えれば、サイズ性の付与)は、重要な課題となっている。
【0006】
しかし、機械パルプの含有率が高い新聞印刷用紙と、機械パルプの含有率が低く、広葉樹晒クラフトパルプ(以下、「広葉樹晒クラフトパルプ」を「LBKP」と略す。)の含有率が高い一般印刷用紙とは、吸水抵抗性のコントロール(言い換えれば、サイズ性の付与)の難易度は、異なる。機械パルプの含有率が高い場合、原紙の紙面状態は粗であるのに対して、LBKPの含有率が高い場合、紙面状態は密である。また、密である紙面は外添サイズの塗布量が少なくても済むが、粗である紙面は外添サイズの塗布量が多くなると考えられる。
【0007】
一般印刷用紙では、吸水抵抗性のコントロールは、例えば、サイズ剤などの薬品を内添する方法(内添サイズ)、あるいは外添する方法(外添サイズ)により、行われている。内添サイズとは、いわゆるウェットエンドで、パルプスラリー中に内添サイズ剤を添加し、抄紙と同時に紙内部に内添サイズ剤を含有させる方法のことであり、外添サイズとは、抄紙後、2本ロールサイズプレス、あるいはゲートロールコーターなどに代表される塗工機を用いて、外添サイズ剤を紙表面に塗布する方法である。当然のことながら、新聞印刷用紙については、ゲートロールコーターなどに代表される塗工機が用いられている。
【0008】
内添用のサイズ剤としては、酸性抄紙の場合、強化ロジンサイズ剤、エマルジョンサイズ剤、合成系サイズ剤などが、中性抄紙の場合、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)などが知られている。また、特開昭60-88196号公報、及び特開平4-363301号公報などには、カチオン化デンプンとアルキルケテンダイマーから成るサイズ剤が開示されている。
【0009】
また、外添用のサイズ剤(表面サイズ剤とも呼ばれる。)としては、スチレン/マレイン酸系共重合体、スチレン/アクリル酸系共重合体などのアニオン性ポリマー;ロジン、トール油及びフタル酸などのアルキド樹脂ケン化物、石油樹脂とロジンのケン化物などのアニオン性低分子化合物;スチレン系ポリマー、イソシアネート系ポリマーなどのカチオン性ポリマーなどが知られているが、上級印刷用紙、インクジェット用紙などLBKPの含有率が高い用紙を対象にしており、要求される吸水抵抗性の程度や抄紙条件が異なる。
【0010】
これに対し、新聞印刷用紙における吸水抵抗性コントロールは、機械パルプの含有率が高いので、サイズ剤、耐水化剤などの薬品の内添により対処しているのが現状である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
新聞印刷用紙における吸水抵抗性コントロール対策のうち、一般印刷用紙でも用いられているサイズ剤などの薬品を内添する方法(内添サイズ)は、(1)薬品を低濃度パルプスラリーに添加する必要がある、(2)パルプシートへの薬品の定着量が低くかつ一定しない、(3)通常複数の抄紙機が共通の循環白水を使用しているため、サイズ性を必要としない抄紙を平行して行うことができない、(4)歩留まり向上剤の効果が安定せず、歩留まりを強化するとDIP系の着色異物をなどもシートに抄き込んでしまう、(5)吸水抵抗性が経時変化する、(6)中性化及び軽量化した新聞高速抄紙では、内添サイズ剤の歩留まりが低下する傾向があり、吸水抵抗性を持たせることが難しい、(7)DIPを80%以上含有する新聞印刷用紙を1000m/分以上の高速で抄紙する場合、内添サイズ剤の歩留まりが低下する傾向があり、吸水抵抗性を持たせることが難しい、など多くの問題点があり、薬品の添加量のコントロールが難しく、状況に応じて内添サイズ剤及び歩留まり向上剤を増減して添加する必要があった。
【0012】
内添サイズ剤の効きが悪い場合、内添サイズ剤は過剰添加となり、紙力の低下、マシントラブル、疎水性サイズ剤の付着並びに蓄積が原因して著しい白水系の汚れなどを引き起こし、コスト、品質、操業性などの面から問題があった。また、特に、中性かつ軽量新聞印刷用紙の高速抄紙において、品質を従来の新聞印刷用紙と同じに維持、または向上させることは、新聞用紙の製造メーカーにとって重要な技術課題である。
【0013】
また、新聞印刷用紙の吸水抵抗性コントロール対策として、薬品を外添する方法、言い換えれば、一般印刷用紙で用いられている表面サイズ剤を外添する方法(外添サイズ)の適用も考えられるが、実際にはコストの面からみて十分な吸水抵抗性が得られない問題があり、本格的に実用化されていない。
【0014】
新聞印刷用紙への表面処理剤の塗工は、経済的な側面から、オンマシーン塗工が一般的であり、高速塗工が可能な被膜形成転写方式であるゲートロールコーターを用いるのが普通である。このゲートロールコーター方式の特徴は、例えば、紙パ技協誌Vol.43,No.4(1989)p36、紙パルプ技術タイムスVol.36,No.12(1993)p20などに簡単にまとめられているが、一般印刷用紙で用いられている従来型2ロールサイズプレス方式と比較して、塗工液を紙表面に留めることが可能であり、紙表面の改良に効果的である点にある。すなわち、2ロールサイズプレス方式では、原紙は、塗工液のポンド(液溜り)中を通過するため、塗工液の原紙内部への浸透が非常に大きいのに対し、ゲートロールコーター方式では、塗工液があらかじめ被膜を形成し、その膜の転写が行われるため、塗工液の原紙内部への浸透があまり起こらない。そのため、ゲートロールコーター方式では、塗工材料が原紙表面にとどまる傾向があることを記載している。
【0015】
そこで、本発明では、薬品を外添する方法のみで、吸水抵抗性(サイズ性)を改良した印刷用紙、片面で0.3g/m2以下の塗布量で60秒以上の点滴吸水度を有する印刷用紙の提供を課題とした。
【0016】
【課題を解決するための手段】
しかしながら、10秒以下の未サイズで機械パルプの含有率の高い新聞印刷用紙原紙の場合、300〜1000m/分の範囲の速度でのゲートロールコーターによる塗工においても、片面で0.3g/m2以下の塗布量では、塗工液が原紙内部に浸透してしまい、理想的な吸水抵抗性のバリア層を原紙表面に作ることができないことが、実験的に明らかになった。すなわち、比較的原紙表面のみに塗工され易い表面サイズ剤を用い、且つゲートロールコーターによる塗工を行っても、片面で0.3g/m2以下の塗布量では十分なサイズ効果(吸水抵抗性の付与効果)が得られない欠点があった。
【0017】
本発明者らは、パルプ分として機械パルプを30重量%以上含有する印刷用紙原紙上に、重量平均分子量50万以上200万以下でアニオン性を有する水溶性ポリアクリルアミド及び水溶性アニオン性共重合体の2者を主体とする吸水抵抗性コントロール組成物から成る表面処理剤を、1100〜1800m/分の速度でゲートロールコーターで塗工して塗工層を設けることによって、片面で0.3g/m2以下の塗布量で20秒以上の点滴吸水度を有する印刷用紙が得られるを見出し、本発明の課題を解決した。この方法によって、表面処理剤が紙層内部に浸透することを抑制でき、高い吸水抵抗性が得られる。また、この方法は、一般印刷用紙にも適用可能であるが、特に機械パルプの含有率の高い新聞印刷用紙の場合に有効であるので、以下、新聞印刷用紙について説明する。
【0018】
新聞印刷用紙原紙に、アニオン性ポリアクリルアミドを単独で塗工しても、表面強度の向上を図ることができるものの、吸水抵抗性を改良することはできなかった。また、酸化澱粉を新聞印刷用紙原紙に、塗布量0.5〜1.0g/m2の範囲で塗布しても、その塗工品の吸水抵抗性は、後述の点滴吸水度法で数秒程度であり、不十分であった。
【0019】
また、アニオン性の疎水基を有する共重合体を単独に塗工しても、表面強度を補強する効果が不十分で、泡の発生が多く、点滴吸水度で60秒以上の吸水抵抗性は得られない。
【0020】
また、これらの表面処理剤では、塗工品の剥離性に問題のないレベルで、吸水抵抗性を改良することはできなかった。
【0021】
特開平8-232193号公報、特願平9-160173号などに、アニオン性疎水性ポリマー及びカチオン性ポリアクリルアミドを含有する塗布液を用いた表面サイジング方法が開示されている。しかしながら、液安定性の面で問題があり、層分離やイオンコンプレックス的な凝集が生じやすい欠点がある。しかし、本発明の組み合わせでは、アニオン性を有する高分子同士の組み合わせなので、これらの問題は生じにくい。
【0022】
さらに、本発明者らは、機械パルプの含有率の高い新聞印刷用紙原紙に、特定のアニオン性ポリアクリルアミド及びアニオン性の疎水基を有する水溶性ポリマーを主成分とする吸水抵抗性コントロール組成物から成る塗工層を、塗工速度1100〜1800m/分でゲートロールコーターで塗工して設けることによって、吸水抵抗性が改良され、かつ表面強度と剥離性がバランスよく改良された新聞印刷用紙が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
すなわち、本発明は、紙表面に、下記の成分A及び成分Bの2成分を主体とする吸水抵抗性コントロール組成物を含有した塗工層を、パルプ分として機械パルプの含有率が30重量%以上の印刷用紙、特に新聞印刷用紙に関する。
成分A:重量平均分子量50万以上200万以下で、アニオン性を有する水溶性ポリアクリルアミド成分
B:疎水性置換基を有するモノマーと、カルボキシル基を有するモノマーとの水溶性アニオン性共重合体
【0024】
本発明の吸水抵抗性コントロール組成物で用いられる成分Aは、アニオン性を有する水溶性ポリアクリルアミド(以下、「アニオン性を有する水溶性ポリアクリルアミド」を「アニオン性PAM」と略す。)である。
【0025】
成分Aとして用いられるアニオン性PAMは、アクリルアミド系ポリマーのアミド基を一部加水分解する部分加水分解法、あるいはアクリルアミド系モノマーとアニオン性モノマーを、従来公知の方法、例えば、水溶液重合法、溶媒重合法、逆相乳化重合法、沈殿重合法、懸濁重合法などの方法で、重合、あるいは共重合させて得ることができる。
【0026】
部分加水分解法は、アクリルアミド系ポリマーを、水酸化カリウム等のアルカリ水溶液下で部分加水分解して、一部のアミド基をカルボキシル基とすることによりアニオン性とする方法である。
【0027】
部分加水分解を行う方法で、用いられるアクリルアミド系ポリマーとしては、アクリルアミド系モノマー(例えば、アクリルアミド;メタアクリルアミドなどのアルキルアクリルアミド;N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-iso-プロピルアクリルアミドなどのN-アルキル置換(あるいはN,N-ジアルキル置換)アクリルアミドなど)を単独で重合させて得られるホモポリマー、あるいはアクリルアミド系モノマーを2種類以上使用して得られるコポリマーである。
【0028】
また、用いられるアクリルアミド系ポリマーは、その特性を損なわない範囲で、アクリルアミド系モノマー以外に、アクリルアミド系モノマーと共重合可能な不飽和なモノマーを共重合させたものでもよい。例えば、エチレン、イソブチレン、ブタジエン、イソプレン、スチレンなどの炭化水素系モノマー;(メタ)アクリル酸メチル(以下、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/またはメタアクリル酸を意味する。)、(メタ)アクリル酸オクチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;ビニルエーテル、塩化ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリルなどの極性モノマーを挙げることができる。
【0029】
本発明で用いられるアニオン性PAMは、部分加水分解の変法、すなわち、アクリルアミド系モノマーの重合反応をアルカリ存在下で行う方法で調製することも可能である。この方法では、重合反応と同時に部分加水分解反応が起こる。
【0030】
重合法の場合、用いられるアクリルアミド系モノマーは、前述したモノマーが挙げられ、他方、使用されるアニオン性モノマーとして、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、またはそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などが挙げられる。
【0031】
1種類以上のアクリルアミド系モノマーと1種類以上のアニオン性モノマーを、従来公知の方法で、共重合させ、本発明用のアニオン性PAMを得ることができる。共重合は、ブロック共重合でもよいし、ランダム共重合でもよい。得られるアニオン性PAMについても、その特性を損なわない範囲で、アクリルアミド系モノマー、及びアクリル酸系モノマー以外に、アクリルアミド系モノマーと共重合可能な前述の不飽和なモノマーを共重合させたものでもよい。
【0032】
本発明では、成分Aとして、1種類のPAMを単独で用いてもよいし、2種類以上のPAMを混合して用いてもよい。
【0033】
本発明の成分Aとして使用されるアニオン性PAMは、その重量平均分子量は、50万以上200万以下の範囲にあることが必要である。PAMの平均分子量が50万より小さい場合、そのようなPAMは、十分な被膜形成を行えず、吸水抵抗性付与及び表面強度向上効果が不十分である。また、PAMの平均分子量が200万より大きい場合、そのようなPAMは、粘性が高くなり、操業上の問題を生じる恐れがあり、塗工品の剥離性も満足の行かない結果となる。用いられるアニオン性PAMの平均分子量については、一般的に、吸水抵抗性付与及び表面強度の点から考えれば、“平均分子量が高い”ことが好ましいが、塗工品の剥離性の点では、逆に、“平均分子量が低い”ことが好ましいと考えられる。そのため、PAMの平均分子量は、前述の範囲内で、要求される仕様に応じて、適宜、決定すればよい。吸水抵抗性、表面強度及び剥離性の3者について総合的に考えた場合、用いられるPAMの平均分子量は50万以上200万以下の範囲が好ましく、さらに望ましくは、70万以上120万以下の範囲である。
【0034】
本発明の吸水抵抗性コントロール組成物で用いられる成分Bは、疎水性置換基を有するモノマーとカルボキシル基を有するアニオン性モノマーとの共重合体のことである。
【0035】
疎水性置換基としては、炭素数6個以上の置換基であればよく、特に限定されるものではない。塗工材料の泡立ちの問題、求められる吸水抵抗性の程度などに応じて、適宜決定すればよい。疎水性置換基として、例えば、炭素数6個以上のアルキル基、炭素数6個以上のアルケニル基、炭素数6個以上のシクロアルキル基、炭素数6個以上のアリール基、あるいは炭素数7個以上のアラルキル基などが挙げられる。
【0036】
疎水性置換基を有するモノマーとしては、例えば、スチレン系モノマー(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、シアノスチレンなど)、オレフィン系モノマー(例えば、ヘキセン、オクテン、デセンなど)、(メタ)アクリル酸エステル、マレイン酸エステル、などが挙げられる。このようなモノマーについては、“高分子学会編「高分子データハンドブック−基礎編−」培風館(1986)”などに詳しく述べられている(スチレン系モノマーについては、P47の表5-1 、オレフィン系モノマーについては、P2の表1-1、アクリル酸エステルについては、P 105の表10-1、マレイン酸エステルについては、P 162の表14-1などに例が挙げられている。)ので、これらの中から、疎水性置換基を有するモノマーを選んでもよい。
【0037】
カルボキシル基を有するアニオン性モノマーとしては、例えば、アクリル酸系モノマー(例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、2-エチルアクリル酸、3-tert-ブチルアクリル酸など)、マレイン酸系モノマー(例えば、マレイン酸、メチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、フマール酸、イタコン酸、ムコン酸など)などが挙げられる。
【0038】
この共重合体において、疎水性置換基を有するモノマーとカルボキシル基を有するアニオン性モノマーの比率は、90:10〜40:60の範囲が望ましい。疎水性置換基を有するモノマー、およびカルボキシル基を有するアニオン性モノマーは、各々少なくとも1種類以上用いればよい。
【0039】
また、この共重合体では、本発明に支障のない範囲で、上述の疎水性置換基を有するモノマー及び/またはアニオン性モノマーと重合可能なアニオン性、もしくはノニオン性モノマーと少量共重合させてもよい。
【0040】
この共重合体の製造方法としては、例えば、水溶液重合法、溶媒重合法、逆相乳化重合法、沈殿重合法、懸濁重合法などの方法を挙げることができる。
【0041】
この共重合体は、言葉を変えれば、アニオン性親水性ポリマーであり、その酸価が50〜500の範囲にあることが好ましく、さらに限定するならば、100〜300の範囲にあることが望ましい。酸価が50より小さい場合、その共重合体は、水溶性が十分でなく、かつ成分Aとの相互作用が弱く、そのため好ましくない。また、酸価が500より大きい場合、その共重合体は、アニオン性が強すぎて、好ましくない。
【0042】
さらに、この共重合体は、0.1万〜100万程度の重量平均分子量であればよく、さらに望ましくは1万〜10万の範囲が望ましい。平均分子量が1万より小さい場合、共重合体が十分な被膜形成を行えず、表面強度及び吸水抵抗性コントロールの点で好ましくない。他方、平均分子量が100万より大きい場合、塗工液の高粘度などに由来する操業上の問題を生じる恐れがある。
【0043】
成分Bとして用いられる共重合体の中では、スチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体、スチレン/マレイン酸半エステル共重合体、スチレン/マレイン酸エステル共重合体、スチレン/2-アクリルアミドプロパンスルホン酸共重合体、(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、α−オレフィン/マレイン酸共重合体、オレフィン/アクリル酸共重合体などを挙げることができる。これらの中でも、スチレン/アクリル酸共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体及びα−オレフィン/マレイン酸共重合体が、吸水抵抗性付与の点で、より好ましい。また、特に、親水性置換基と疎水性置換基のバランスが優れている点で、スチレン/アクリル酸共重合体及びα−オレフィン/マレイン酸共重合体が望ましく、両者を比較した場合は、スチレン/アクリル酸共重合体が最も望ましい。
【0044】
本発明の吸水抵抗性コントロール組成物は、前述したように、成分AおよびBの2成分を主体として構成される。この組成物の各成分の比率(重量比)は、製造される印刷用紙に対して、求められる吸水抵抗性の程度、剥離性の程度、あるいはこの組成物の塗布量にも依存するため、必ずしも限定できるものではない。しかしながら、あえて限定すれば、成分Aと成分Bの比率(A:B)が、20:80〜80:20の範囲にあればよく、経済性も考慮すると、さらに望ましくは、A:B=40:60〜60:40の範囲がよい。
【0045】
本発明で用いられる吸水抵抗性コントロール組成物は、基本的に、成分A及びBの2者のみから構成されればよく、成分Bが剥離性に有利に働くためか、後述の塗布量領域では、それらだけでも良好な剥離性を得ることが可能である。しかし、さらに剥離性を向上させるため、言い換えれば、ネッパリ対策のために、本発明に支障のない範囲(例えば、吸水抵抗性に悪影響を与えない、塗工時の泡立ちが塗工に問題ないレベルであるなど)で、少量の粘着防止剤を添加してもよい。粘着防止剤としては、例えば、特公昭63-58960号公報記載のモノアルケニルコハク酸塩、特開平6-57688 号公報記載の有機フルオロ化合物から成る粘着防止剤、特開平6-192995号公報記載の置換コハク酸及び/または置換コハク酸誘導体を有効成分とする粘着防止剤などが挙げられる。粘着防止剤の添加率(成分Aと成分Bの固形分の合計に対する粘着防止剤の固形分の比率)は、10%以下(重量%)が適当である。添加率が10%より高い場合、塗工時の泡立ちの問題などを引き起こす恐れがある。
【0046】
本発明の吸水抵抗性コントロール組成物は、基本的に、他のバインダー的な成分を併用する必要はないが、本発明に支障のない範囲(例えば、剥離性に対して差支えない範囲)で、そのような成分を少量含有させる場合もある。他のバインダー的な成分として、例えば、酸化澱粉、カチオン澱粉、エチル化澱粉、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース類;スチレン/ブタジエン共重合体、スチレン/アクリロニトリル共重合体、スチレン/ブタジエン/アクリル酸エステル共重合体などのラテックス類;完全ケン化PVA、部分ケン化PVA、アミド変性PVA、カルボキシ変性PVA、スルホン酸変性PVAなどのPVA類;アニオン性PAMなどのPAM類;シリコン樹脂、石油樹脂、テルペン樹脂、ケトン樹脂、クマロン樹脂などの各種樹脂類などが挙げられる。特に、PVA類は、紙に塗布した時に、湿潤時の紙の粘着性を上げる傾向にあるので、併用する際には、その併用量について十分な注意が必要である。
【0047】
また、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物は、本発明に影響のない範囲で、防腐剤、消泡剤、紫外線防止剤、退色防止剤、蛍光増白剤、粘度安定化剤、防滑剤などの助剤や填料を含有してもよい。
【0048】
本発明では、対象となる原紙は、必ずしも、新聞印刷用紙原紙に限定されるものではないが、新聞印刷用紙原紙の場合に、本発明の効果が顕著に認められるので、以下に言及する。
【0049】
本発明で用いる、パルプ分として機械パルプを30重量%以上含有する印刷用紙原紙及び新聞印刷用紙原紙は、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、セミケミカルパルプなどの機械パルプ(MP)30重量%以上に対し、残りの部分をクラフトパルプ(KP)に代表されるケミカルパルプ(CP)及びこれらのパルプを含む故紙を脱墨して得られる脱墨パルプ(DIP)及び抄紙工程からの損紙を離解して得られる回収パルプなどを、単独、あるいは任意の比率で混合したものである。なお、DIPが機械パルプの含有率がほぼ100%である故紙から製造された場合は、このようなDIPは機械パルプとみなす。パルプ分として機械パルプを30重量%以上含有する本発明の印刷用紙において効果が顕著なのは、坪量37〜43g/m2に抄造した原紙である。坪量46g/m2以上の原紙の場合、その原紙は、表面強度を十分に持っており、また、オフセット印刷時の湿し水に起因する用紙の寸法変化、あるいは強度低下も無視できる程度であると考えられるので、必ずしも、薬品の外添により吸水抵抗性、および表面強度の両者を同時に改良する必要はない。
【0050】
一方、本発明で用いる原紙のDIPの配合率については、任意の範囲(0〜70重量%)で配合すればよい。最近のDIP高配合化の流れからすると、30〜70重量%の範囲がより好ましい。
【0051】
この新聞印刷用紙原紙には、必要に応じて、填料としてホワイトカーボン、クレー、シリカ、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、合成樹脂(塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、尿素ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、スチレン/ブタジエン系共重合体系樹脂など)などの製紙用填料を添加できる。特に中性抄紙においては、炭酸カルシウムが有効である。また、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン化澱粉、尿素/ホルマリン樹脂、メラミン/ホルマリン樹脂などの紙力増強剤;アクリルアミド/アミノメチルアクリルアミドの共重合物の塩、カチオン化澱粉、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、アクリルアミド/アクリル酸ナトリウム共重合物などのろ水性/歩留まり向上剤;硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、紫外線防止剤、退色防止剤などの助剤などを含有してもよい。しかしながら、これらの薬剤の添加量は、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物の吸水抵抗性コントロールを損なわない範囲で行う必要がある。この原紙の物性は、オフセット印刷機で印刷できるものである必要があり、通常の新聞印刷用紙程度の引張り強度、引裂き強度、伸びなどの物性を有するものであればよい。
【0052】
また、この新聞印刷用紙原紙は、内添サイズを施した原紙を用いてもよい。しかしながら、本発明では、前述したような内添に伴う問題を解決する意味もあるので、どちらかと言えば、内添サイズを施していない原紙を用いた方が、本発明の効果をより発揮させることができる。すなわち、内添サイズを行わなくても、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物の外添により、内添サイズと同程度、もしくはそれ以上の吸水抵抗性を付与させることが可能である。例えば、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物は、後述の点滴吸水度法で、10秒未満の新聞印刷用紙原紙において、十分に適用可能である。
【0053】
また、本発明の新聞印刷用紙原紙は、酸性の新聞印刷用紙原紙であってもよいし、中性あるいはアルカリ性の新聞印刷用紙原紙であってもよい。
【0054】
新聞印刷用紙のようなサイズ性の低い用紙の紙面吸水抵抗性の評価方法として、2つの方法が知られている。1つの方法は、Japan TAPPI No.33に準拠した点滴吸水度法である。この方法は、紙面に水1μlを滴下し、水滴が紙面に吸収されるまでの時間を測定する方法である。もう1つの方法は、接触角を測定する方法(接触角法)であり、水5μlを滴下し、一定時間(5秒)経過後の水滴の接触角を測定する方法である。吸水抵抗性が高い(耐吸水抵抗性である)ほど、点滴吸水度法では、吸収時間が長くなり、接触角法では、接触角が大きく、また長時間保持される。本発明では、吸水抵抗性の評価方法として点滴吸水度法を用いた。
【0055】
本発明の吸水抵抗性コントロール組成物を含有する塗工層を、新聞印刷用紙原紙に設けることにより、点滴吸水度法で、10秒から1000秒にわたる広い範囲で吸水抵抗性を制御することが可能である。また接触角法で言うと、前述の方法で、例えば、接触角が75〜95度の範囲で吸水抵抗性をコントロールすることができる。すなわち、製造される新聞印刷用紙の吸水抵抗性は、本発明の組成物において各成分の種類、各成分の配合比、組成物の塗布量などを変化させることにより、所定の吸水抵抗性に、自由にコントロールすることが可能である。
【0056】
【発明の実施の形態】
本発明の吸水抵抗性の改良された印刷用紙(特に、新聞印刷用紙)は、印刷用紙原紙の片面、あるいは両面に、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物をゲーロールコーターにより塗工速度1100〜1800m/分で塗工することにより製造される。
【0057】
本発明の吸水抵抗性コントロール組成物の塗布量は、製造される印刷用紙に対して求められる吸水抵抗性の程度に応じて決定されるべきであり、特に限定されるものではないが、吸水抵抗性付与の観点からすれば、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物は、その塗布量(言い換えれば、成分A及び成分Bの固形分量の合計)が0.1〜0.3g/m2(片面あたり)の範囲で、有効にその効果を発揮する。塗布量が0.1g/m2未満では、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物が十分なバリヤー層を形成できないためか、吸水抵抗性を改良することができない。他方、塗布量を0.3g/m2より高くしても、例えば、著しく剥離性が悪化する(ネッパリ現象が生ずる)などの問題が生じる。また、コスト的にも不経済である。新聞印刷用紙への適用を考えた場合、前述したように、吸水抵抗性付与、表面強度向上、および剥離性の3者をバランスよく改良することが必要であり、その3者を総合的に考慮すれば、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物の塗布量(言い換えれば、成分Aおよび成分Bの固形分量の合計)は、0.1〜0.3g/m2(片面あたり)の範囲が最も望ましい。
【0058】
本発明の吸水抵抗性コントロール組成物は、塗工機として、ゲートロールコーター、ブレードロッドメタリングコーターなどの被膜転写型のコーターを用いるのが好ましく、特に、ゲートロールコーターを用いる時、その効果を大きく発揮する。すなわち、前述したように、従来用いられている表面サイズ剤は、ゲートロールコーターでは、十分な吸水抵抗性付与効果が得られない欠点があったが、本発明の組成物は、この方式でも、前述の塗布量領域で、塗工速度1100〜1800m/分の範囲で塗工することにより効率よく、吸水抵抗性を改良することが可能である。
【0059】
また、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物を主成分とする塗工液は、ゲートロールコーター適性にも優れている。例えば、酸化澱粉を単独でゲートロールコーターで塗工した場合、塗工品に、すじ状のパターンがかなり認められるのに対して、本発明で用いられる塗布液を塗工した場合、そのようなすじ状のパターンがほとんど認められず、より均一に塗布することが可能である。
【0060】
新聞印刷用紙に適用する場合も、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物を、新聞印刷用紙原紙に、ゲートロールコーターにより塗工を行うのが最も望ましい。当然のことながら、生産性の点から、コーターは、オンマシーンコーターが望ましいのは言うまでもない。
【0061】
すなわち、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物は、新聞印刷用紙原紙に、塗布量0.1〜0.3g/m2の範囲(片面あたり)で、ゲートロールコーターにより両面塗工すればよい。
【0062】
新聞印刷用紙の場合、用紙の表面が均一でなく、外添(特に、ゲートロールコーター)により、比較的低塗布量領域で、用紙表面に吸水抵抗性のバリヤー層を設けることが困難であるとされている。しかしながら、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物は、塗工速度1100〜1800m/分と生産性が高く、比較的低塗布量で、吸水抵抗性付与効果が認められるという優れた特徴がある。
【0063】
本発明の吸水抵抗性コントロール組成物を含有する塗工層を、印刷用紙表面に設けても、摩擦係数の低下は認められない。従来から、一般に、アニオン性スチレン/酸モノマー共重合体は、サイズプレスにより紙に塗工した場合、その塗工紙の動/静摩擦係数を低下させることが知られている。しかし、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物は、そのような傾向は認められず、特に、防滑剤を配合させる必要はない。新聞印刷用紙に適用した場合、製造される新聞印刷用紙の動摩擦係数は、0.40〜0.70の範囲にあることが望ましく、本発明によれば防滑剤がなくともこの範囲の摩擦係数を得ることができる。
【0064】
本発明の吸水抵抗性コントロール組成物は、フェルト面の方がワイヤー面と比較して、少ない塗布量で、吸水抵抗性を向上させることが可能である。
【0065】
本発明の吸水抵抗性コントロール組成物を使用した新聞印刷用紙は、吸水抵抗性を広い範囲でコントロールすることが可能なので、印刷時に使用される各種インクに幅広く対応することができる。例えば、油性インク中に湿し水を混入させたエマルジョンインクなどの特殊インク、水なし平版用のタック性の高いインクなどへも対応することができる。
【0066】
前述したように、新聞印刷用紙の改良は、一般の上質系印刷用紙と比較して、困難である。そのため、一般の印刷用紙用の技術を、新聞印刷用紙用の技術に直接転用するには無理がある。しかしながら、逆に、新聞印刷用紙用の技術を一般印刷用紙用の技術に転用するのは、比較的容易である。それ故、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物は、新聞印刷用紙に限らず、一般印刷用紙に適応することも可能であり、新聞印刷用紙の場合と、同様な効果(例えば、吸水抵抗性の改良、表面強度の改良など)を得ることができる。
【0067】
本発明の吸水抵抗性コントロール組成物を用いることにより、操業上の問題を生じやすい内添サイズを行うことなく、サイズ性の異なる多品種の銘柄の印刷用紙を容易に製造することが可能である。また、この印刷用紙は、表面強度も同時に改良されている。
【0068】
本発明の吸水抵抗性コントロール組成物を、印刷用紙原紙に、0.05〜2.0g/m2の範囲(片面あたり)の塗布量領域で、ゲートロールコーターで塗工することにより、吸水抵抗性を改良した用紙を得ることが可能であり、特に、本発明の組成物を、新聞印刷用紙原紙に、0.1〜0.3g/m2の範囲(片面あたり)の塗布量領域で、塗工速度1100〜1800m/分の範囲でゲートロールコーターで塗工することにより、吸水抵抗性、表面強度及び剥離性の3者をバランスよく改良した高速オフセット印刷に適した新聞印刷用紙を得ることができる。その理由については、明確な理由は、未だ解明されていないが、以下のように推定される。
【0069】
本発明の吸水抵抗性コントロール組成物は、原紙に塗工、次いで乾燥される際、吸水抵抗性をコントロールすることが可能な疎水性コンプレックス被膜を形成するためだと考えられる。すなわち、成分A(アニオン性を有するPAM)及び成分B(疎水性基を有するアニオン性水溶性ポリマー)が、適度の分子量により、物理的にアニオン性を有するPAMに保持され、紙表面に疎水性バリヤー層が得られるものと考えられる。
【0070】
吸水抵抗性の向上の点だけから言えば、成分Bだけでも、吸水抵抗性を向上させることができると考えられるが、成分Aが、紙表面上で、成分Bを、物理的面などから効果的に保持しており、被膜形成(言い換えれば、吸水抵抗性向上)に非常に有利に働いていると思われる。
【0071】
また、成分Aは、適度の分子量により、成分Bの保持作用の他に、表面強度の向上にも大きく寄与していると考えられる。
【0072】
しかしながら、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物を塗工速度1100m/分以下でゲートロールコーターで塗工した場合、吸水抵抗性は十分ではなかった。これに対して、塗工速度1100m/分以上で塗工した場合、0.1〜0.3g/m2(片面あたり)の低塗布量領域でも、点滴吸水度で20秒以上の十分な吸水抵抗性が得られた。この理由については、高速で塗工することによって吸水抵抗性コントロール組成物が原紙内部に浸透する前に乾燥され、原紙表面に存在する吸水抵抗性コントロール組成物の割合が多くなるためと推定される。
【0073】
【実施例】
以下、本発明を、合成例、実施例及び比較例に従って、詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、説明中、部及びパーセントは、それぞれ重量部及び重量パーセントを示す。
【0074】
<PAMの合成>
[合成例1] アニオン性PAM−1の合成
還流冷却管を備えた四ツ口フラスコに、80%アクリル酸水溶液(5.2g)、40%アクリルアミド水溶液(174.0g)及び水(300g)を仕込み、窒素雰囲気下60℃まで加熱後、その反応液に、過硫酸アンモニウム1%水溶液(10g)及び亜硫酸水素ナトリウム1%水溶液(2g)を加え、85℃で1時間反応させた後、冷却して、アニオン性PAM(PAM−1)を得た。このアニオン性PAMの重量平均分子量は90万であった。
【0075】
[合成例2] アニオン性PAM−2の合成
還流冷却管を備えた四ツ口フラスコに、40%アクリルアミド水溶液(174.0g)、および水(300g)を仕込み、窒素雰囲気下60℃まで加熱後、その反応液に、過硫酸アンモニウム1%水溶液(10g)及び亜硫酸水素ナトリウム1%水溶液(2g)を加えた。85℃で1時間反応させた後、3%水酸化カリウム水溶液で加水分解を行い、アニオン性PAM(PAM−2)を得た。このアニオン性PAMの重量平均分子量は72万であった。
【0076】
[合成例3] アニオン性PAM−2の合成
還流冷却管を備えた四ツ口フラスコに、40%アクリルアミド水溶液(100g)、および水(300g)を仕込み、窒素雰囲気下60℃まで加熱後、その反応液に、過硫酸アンモニウム1%水溶液(10g)及び亜硫酸水素ナトリウム1%水溶液(2g)を加えた。85℃で1時間反応させた後、3%水酸化カリウム水溶液で加水分解を行い、アニオン性PAM(PAM−3)を得た。このアニオン性PAMの重量平均分子量は51万であった。
【0077】
<塗布液の調製>
本発明に該当するアニオン性PAMの水溶液(成分A)と疎水性置換基を有するアニオン性共重合体の水溶液(成分B)を、所定の比率で加えることにより、簡単に本発明の吸水度コントロール組成物の塗布液を調製することができる。混合した時に、不溶性の沈殿物を生じる塗布液は、本発明では好ましくない。
【0078】
<新聞印刷用紙原紙の製造>
DIP(脱墨パルプ)35部、TMP(サーモメカニカルパルプ)30部、GP(グランドパルプ)20部、KP(クラフトパルプ)15部の割合で混合離解し、フリーネスを200に調製した混合パルプをベルベフォーマー型抄紙機にて、未サイズ、ノーカレンダーの新聞印刷用紙原紙を得た。この原紙は、坪量43g/m2、密度0.65、白色度51%、平滑度60秒、静摩擦係数0.45、動摩擦係数0.56であり、一般の新聞印刷用紙と吸水抵抗性以外の紙質(例えば、強度など)は、同等の原紙であった。また、この原紙は、内添サイズ剤を含まず、吸水抵抗性の程度は、点滴吸水度法で、5秒であった。
【0079】
<新聞印刷用紙の製造>
[実施例1〜5]
アニオン性PAM−1の水溶液に、スチレン・アクリル酸共重合体(重量平均分子量39,000、酸化値230)の水溶液を、配合比50:50(固形分重量比)で加え、濃度4.0%の塗布液を調製した。この塗布液を、前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、ゲートロールコーターを用いて、塗工速度を1100m/分、1200m/分、1300m/分、1500m/分あるいは1800m/分に変化させて塗工した。塗工後、スーパーカレンダー処理を行い、新聞印刷用紙を得た。
【0080】
[比較例1〜3]
実施例1〜5と同様にアニオン性PAM−1の水溶液に、スチレン・アクリル酸重合体の水溶液を、配合比50:50(固形分重量比)で加え、塗布液を調製した。得られた塗布液を、実施例1〜5で使用した新聞印刷用紙原紙のF面に、ゲートロールコーターを用いて、塗工速度を300m/分、600m/分あるいは1000m/分に変化させて塗工した。また、塗布量を変化させて塗工した。塗布後、スーパーカレンダー処理を行い、新聞印刷用紙を得た。
【0081】
[比較例4〜6]
実施例1〜5と同様にアニオン性PAM−1の水溶液に、スチレン・アクリル酸重合体の水溶液を、配合比50:50(固形分重量比)で加え、塗布液を調製した。得られた塗布液を、実施例1〜5で使用した新聞印刷用紙原紙のF面に、ゲートロールコーターを用いて、塗工速度を300m/分、600m/分あるいは1000m/分に変化させて塗工した。また、塗布量を変化させて塗工した。塗布後、スーパーカレンダー処理を行い、新聞印刷用紙を得た。
【0082】
[実施例6〜8]
アニオン性PAM−1の水溶液に、スチレン・アクリル酸共重合体(重量平均分子量39,000、酸化値230)の水溶液を、配合比67:33(固形分重量比)で加え、塗布液を調製した。この塗布液を、前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、ゲートロールコーターを用いて、濃度3.5%で、塗工速度1200m/分、1300m/分あるいは1500m/分に変化させて塗工した。塗布後、スーパーカレンダー処理を行い、新聞印刷用紙を得た。
【0083】
[実施例9〜10]
アニオン性PAM−1の水溶液に、スチレン・アクリル酸共重合体(重量平均分子量65,000、酸化値280)の水溶液を、配合比75:25(固形分重量比)で加え、濃度3.5%の塗布液を調製した。この塗布液を、前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、ゲートロールコーターを用いて、塗工速度1200m/分あるいは1500m/分に変化させて塗工した。塗布後、スーパーカレンダー処理を行い、新聞印刷用紙を得た。
【0084】
[比較例7〜9]
実施例6〜8で使用した塗布液を、前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、ゲートロールコーターを用いて、濃度7.1%で、塗工速度を300m/分、600m/分あるいは1000m/分とした以外は、実施例6〜8に準じた。
【0085】
実施例1〜10及び比較例1〜9の新聞印刷用紙について、塗布量、点滴吸水度、接触角、剥離強度を以下に示す方法にて測定した。その結果を表1に示す。
塗布量の測定:ケルダール法により含有窒素量を求め、換算した。
点滴吸水度の測定:前述したようにJapan TAPPI No.33に従った。
剥離強度の測定:試料を4×6cmに2枚切り取り、塗工面を温度20℃の水に5秒間浸せき後、塗工面同士を密着させた。外側両面に新聞印刷用紙原紙を重ね、50kg/m2の圧力でロールに通し、25℃、60%RHで24時間調湿した。3×6cmの試料片とした後、引っ張り試験機で、引っ張り速度30mm/分の条件で測定を行った。
測定値が大きいほど、剥がれにくい(逆の言い方をすると、粘着性が強い)ことを意味する。本発明の新聞印刷用紙では、剥離強度が30.0g/3cm以下のものを“剥離性が良好である”とした。
なお、「破れた。」は、引っ張り試験機で試料を剥離させる際、接着面で剥離が起こらずに、試料自体の層間剥離現象が起こったことを意味する。言い換えれば、この測定法では測定できないほど、粘着性が高いことを意味している。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示すように、1100〜1800m/分の範囲の塗工速度で、高速塗工することにより、はじめて低塗布量(片面あたり0.3g/m2以下)で効率よく吸水抵抗性(点滴吸水度80秒以上)を付与することが可能であった。これに対し、300m/分〜1000m/分の範囲の塗工速度では、塗布量を多くしても吸水抵抗性を改良できなかった。また、塗布量を高くして、所定の吸水抵抗性を達成した場合でも、剥離強度が高く(30gf/3cm以下であることが必要)なってしまい問題であった。
【0088】
[実施例11〜15]
アニオン性PAM−2の水溶液に、スチレン・アクリル酸共重合体(重量平均分子量39000、酸化値230)の水溶液を、配合比50:50(固形分重量比)で加え、塗布液を調製した。この塗布液を、実施例1〜5で使用した新聞印刷用紙原紙のF面に、濃度4.2%で、ゲートロールコーターを用いて、塗工速度を1100m/分、1200m/分、1300m/分、1500m/分、1800m/分に変化させて塗工した。塗工後、スーパーカレンダー処理を行い、新聞印刷用紙を得た。
【0089】
[比較例10〜12]
塗工速度を300m/分、600m/分あるいは1000m/分とした以外は、実施例11〜15に準じた
【0090】
[比較例12〜14]
実施例11〜15で使用した塗布液を、前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、ゲートロールコーターを用いて、濃度6.6%で、塗工速度を300m/分、600m/分あるいは1000m/分とした以外は、実施例1〜5に準じた。
【0091】
[実施例16〜18]
アニオン性PAM−2の水溶液に、スチレン・アクリル酸共重合体(重量平均分子量97,000、酸化値160)の水溶液を配合比35:65(固形分重量比)で加え、塗布液を調製した。この塗布液を、前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、濃度4.6%で、ゲートロールコーターを用いて、塗工速度を1200m/分、1300m/分、1500m/分に変化させて塗工した。塗工後、スーパーカレンダー処理を行い、新聞印刷用紙を得た。
【0092】
[実施例19〜20]
アニオン性PAM−2の水溶液に、スチレン・アクリル酸共重合体(重量平均分子量48,000、酸化値210)の水溶液を配合比70:30(固形分重量比)で加え、塗布液を調製した。この塗布液を、前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、濃度3.5%で、ゲートロールコーターを用いて、塗工速度を1200m/分、1500m/分に変化させて塗工した。塗工後、スーパーカレンダー処理を行い、新聞印刷用紙を得た。
【0093】
[比較例15〜17]
実施例19〜20で使用した塗布液を、前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、ゲートロールコーターを用いて、濃度6.7%で、塗工速度を300m/分、600m/分あるいは1000m/分とした以外は、実施例19〜20に準じた。
【0094】
実施例11〜20及び比較例9〜17の新聞印刷用紙について、塗布量、点滴吸水度、接触角、剥離強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
表2に示すように、1100〜1800m/分の範囲の塗工速度で、高速塗工することにより、はじめて低塗布量(片面あたり0.3g/m2以下)で効率よく吸水抵抗性(点滴吸水度80秒以上)を付与することが可能であった。これに対し、300m/分〜1000m/分の範囲の塗工速度では、塗布量を多くしても吸水抵抗性を改良できなかった。また、塗布量を高くして、所定の吸水抵抗性を達成した場合でも、剥離強度が高く(30gf/3cm以下であることが必要)なってしまい問題であった。
【0097】
[実施例21〜25]
アニオン性PAM−3の水溶液に、スチレン・アクリル酸共重合体(重量平均分子量39,000、酸化値230)の水溶液を、配合比50:50(固形分重量比)で加え、塗布液を調製した。この塗布液を、前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、濃度4.8%で、ゲートロールコーターを用いて、塗工速度を1100m/分、1200m/分、1300m/分、1500m/分、1800m/分に変化させて塗工した。塗工後、スーパーカレンダー処理を行い、新聞印刷用紙を得た。
【0098】
[比較例18〜20]
塗工速度を300m/分、600m/分あるいは1000m/分とした以外は、実施例21〜25に準じた
【0099】
[比較例21〜23]
実施例21〜25で使用した塗布液を、前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、ゲートロールコーターを用いて、濃度7.6%で、塗工速度を300m/分、600m/分あるいは1000m/分とした以外は、実施例1〜5に準じた。
【0100】
[実施例26〜28]
アニオン性PAM−3の水溶液に、αオレフィン・マレイン酸共重合体(重量平均分子量25,000、酸化値)の水溶液を、配合比50:50(固形分重量比)で加え、塗布液を調製した。この塗布液を、前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、濃度4.6%で、ゲートロールコーターを用いて、塗工速度を1200m/分、1300m/分、1500m/分に変化させて塗工した。塗工後、スーパーカレンダー処理を行い、新聞印刷用紙を得た。
【0101】
[実施例29〜30]
アニオン性PAM−3の水溶液に、スチレン・アクリル酸共重合体(重量平均分子量15,000、酸化値200)の水溶液を、配合比75:25(固形分重量比)で加え、塗布液を調製した。この塗布液を、前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、濃度3.8%で、ゲートロールコーターを用いて、塗工速度を1100m/分、1200m/分、1300m/分、1500m/分、1800m/分に変化させて塗工した。塗工後、スーパーカレンダー処理を行い、新聞印刷用紙を得た。
【0102】
[比較例24〜26]
実施例29〜30で使用した塗布液を、前述の新聞印刷用紙原紙のF面に、ゲートロールコーターを用いて、濃度6.7%で、塗工速度を300m/分、600m/分あるいは1000m/分とした以外は、実施例29〜30に準じた。
【0103】
実施例21〜30及び比較例18〜26の新聞印刷用紙について、塗布量、点滴吸水度、接触角、剥離強度を測定した。その結果を表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
表3に示すように、1100〜1800m/分の範囲の塗工速度で、高速塗工することにより、はじめて低塗布量(片面あたり0.3g/m2以下)で効率よく吸水抵抗性(点滴吸水度80秒以上)を付与することが可能であった。これに対し、300m/分〜1000m/分の範囲の塗工速度では、塗布量を多くしても吸水抵抗性を改良できなかった。また、塗布量を高くして、所定の吸水抵抗性を達成した場合でも、剥離強度が高く(30gf/3cm以下であることが必要)なってしまい問題であった。
【発明の効果】
本発明の吸水抵抗性コントロール組成物をゲートロールコーターで抄紙速度1100〜1800m/分の範囲で塗工することにより、吸水抵抗性が改良され、かつ表面強度、及び剥離性をバランスよく有した印刷用紙を得ることができた。特に、新聞印刷用紙においては、高速オフセット印刷に適したものが得られる。また、本発明の新聞印刷用紙では、内添サイズを施さなくても、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物を外添のみにより、サイズ性を付与させることができ、薬品の内添に伴う諸問題の解決を図ることも可能である。さらに、本発明の吸水抵抗性コントロール組成物の塗布量、配合比、材料の種類などを任意に変えることにより、幅広い品種に対応することも容易である。
Claims (7)
- パルプ分として機械パルプを30重量%以上含有する、点滴吸水度(Japan TAPPI No.33 に準拠、滴下水量1μlで測定)10秒以下の印刷用紙原紙に、下記の成分A及び成分Bの2成分を主体とする吸水抵抗性コントロール組成物から成る表面処理剤をゲートロールコーターで塗工して塗工層を設けた印刷用紙であって、該塗工層が塗工速度1100m/分〜1800m/分で塗工され、かつ該印刷用紙の点滴吸水度が20秒以上であることを特徴とする印刷用紙。
成分A:重量平均分子量が50万以上200万以下で、アニオン性を有する水溶性ポリアクリルアミド
成分B:疎水性置換基を有するモノマーと、カルボキシル基を有するモノマーとの水溶性アニオン性共重合体 - 印刷用紙原紙が新聞印刷用紙原紙である請求項1記載の印刷用紙。
- 新聞印刷用紙原紙が坪量37g/m2〜43g/m2であることを特徴とする請求項2記載の印刷用紙。
- 吸水抵抗性コントロール組成物を構成する成分の一つである成分Bが、スチレン系モノマーとアクリル酸系モノマーとの水溶性アニオン性共重合体であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の印刷用紙。
- 吸水抵抗性コントロール組成物を構成する成分A及び成分Bの比率(固形分重量比)が、A:B=20:80〜80:20の範囲にあることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の印刷用紙。
- 点滴吸水度が100秒〜500秒の範囲にあることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の印刷用紙。
- 吸水抵抗性コントロール組成物の塗布量が0.1〜0.3g/m2(片面当たり)の範囲にあることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の新聞印刷用紙。
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JP (1) | JP4066535B2 (ja) |
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JP4799774B2 (ja) * | 2001-08-03 | 2011-10-26 | 日本製紙株式会社 | 印刷用紙 |
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1998
- 1998-10-21 JP JP29970198A patent/JP4066535B2/ja not_active Expired - Fee Related
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