JP4066063B2 - 多重布帛よりの布製品形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は多重布帛より布製品を実質的に無縫製にて衣類などの布製品を切り出しにより形成する方法に関し、特に、切り出し部における糸条間の交絡性を高めるための改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
多重布帛よりの布製品を実質的に無縫製にて形成する方法については本発明者が既に提案している。たとえば、特開2001-115357号公報では2重織などの多重織組織にてジャガードにより織布を形成し、その際、衣類の輪郭線に沿って2重組織における上下層を接結しておき、織布を輪郭線に沿って接結部を残し切断することにより織布上下層により構成される前身頃と後身頃とが接結部により接続された衣類を得ている。
【0003】
また、本発明者は特開2001-115365号公報では内周及び外周にジャガード選針機構を有した丸編機を使用して内、外2層の筒状編布をそれぞれダイヤル針、シリンダ針単独により形成し、そして、衣類の輪郭線に沿ってダイヤル針とシリンダ針とを使用した組織により編成を行うことにより内外2層の筒状編布を衣類の輪郭線に沿って接結し、編布を輪郭線に沿って切断することにより内外層により構成される前身頃と後身頃とが接結部により接続された衣類を得ている。
【0004】
また、特開2001-115358号公報には多重織、又は丸編組織による前記技術に加えて、経編組織によって上下2層間を衣類の輪郭線に沿って接結し、編成後に輪郭線に沿って編布を切断し、前身頃と後身頃とが接結部により接続されてなる衣類も開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術は多重織若しくは多重編組織において衣類の輪郭線に沿って接結し、織製若しくは編成後に輪郭線に沿って織布若しくは編布を切断することにより実質的に無縫製にて衣類の形成を可能とするものである。しかしながら、従来技術では織布若しくは編布から切り出したものをそのまま衣類としており、縫製を必ずしも行わないことを原則としているため、かがり等の処理をしないことも多いがこの場合糸のほつれが問題となる。特開2001-115358号公報の経編組織の場合は編組織上糸のほつれはそれほどの問題とはならないが、特開2001-115357号公報における多重織組織の場合や特開2001-115365号公報における丸編組織の場合においては織布や編布より衣類に切り出した後に切断部からの糸のほつれが生じやすい問題があった。
【0006】
この発明は以上の問題点に鑑みてなされたものであり、多重布帛より布製品を実質的に無縫製にて衣類などの布製品を切り出しにより形成する方法において、切り出し部における糸条間の交絡性を高め、糸条のほつれの問題を解消することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明によれば、少なくとも2層よりなる多重布帛を織製若しくは編製し、前記多重布帛の一方の層を布製品の一方側面、多重布帛の他方の層を布製品の他方側面とし、布製品の輪郭線に沿って前記一方の層及び前記他方の層を接結し、前記接結部を構成する少なくとも一部の糸条は羊毛繊維を素材としており、編製若しくは製織前もしくは後に布帛の一部もしくは全体に起毛処理を施すと共に縮絨処理を施し、これにより接結部において隣接する糸条との交絡性を高めさせ、その後に前記輪郭線に沿って少なくとも一部の接結部は残して布帛を切断し、対向側面同士が接結により接続された多重布帛よりの布製品形成方法が提供される。
【0008】
請求項1の発明の作用・効果を説明すると、布製品の輪郭線に沿って上下層が接結された多重布帛を織製若しくは編製し、少なくとも前記接結部において少なくとも一部の糸条は収縮により隣接する糸条との交絡性を高めるための処理を行い、輪郭線に沿って布帛は接結部を少なくとも一部は残して切断し、身頃が接結部によって接結された衣類が切り出され、更に、少なくとも接結部において少なくとも一部の糸条は隣接する糸条との交絡性を高めるための処理を行っている。そのため、接結部での糸条間の高い交絡を得ることができ、糸条のほつれにを防止若しくは緩和することができる。布帛の縮絨処理によって布帛を構成する糸条は収縮し、隣接する糸条間の交絡性が高まり、切り出し部分における糸条のほつれが生じ難くなる。縮絨には乾絨(乾燥状態で布帛をもむ)、湿絨(湿潤状態で布帛をもむ)、煮絨(布帛を温水中でもむ)、液絨(布帛を石鹸などのソーピング液中でもむ)などがあるが、この発明においてはこれらのいずれをも採用可能である。また、縮絨は布帛からの布製品の切り出し後においても行うことができ、このときは切り出し部での糸がフリーであるためその収縮効果がより大きく、隣接糸条と強く交絡するためより強力なほつれ防止が得られる。接結部を構成する少なくとも一部の糸条は羊毛繊維を素材に構成しており、羊毛繊維は周知のように縮絨処理による収縮性が大きくかつ縮絨処理によりフエルト化し糸条間の交絡性が高めるため布帛から布製品を切り出したときに切り出し部分における糸のほつれの理想的な防止を図ることができる。一部の糸条を羊毛繊維を素材とするものとした場合において残余の糸条としては綿繊維を素材とするものでも化合繊を素材とするものでもいずれでもよい。一部を羊毛とした場合の一例として縦糸は綿糸、緯糸を羊毛糸として織製することができる。縮絨に先立って若しくはその後に起毛処理を行うことによって後続の縮絨の際の糸条の収縮が大きくなり、接結部における糸条の交絡が強固となり、布帛より布製品に切り出し後の切り出し部分における糸条のほつれをより完全に防止することができる。部分的な起毛処理により接結部などのような布帛の必要な部位のみに起毛が行われ、後続の縮絨による糸条の収縮による切り出し部のほつれ防止機能を得ることができる。部分的な起毛はマスキングを施すことにより実施しうる。また、マスキングされた部分と非マスキング部分で毛羽立ちが異なってくるため、意匠効果を付与することができる。マスキング剤としては、ウレタン、アクリル、シリコーン、ろう、ふのり等の各種の系統のものを採用可能である。これらのマスキング剤を布帛面上によける起毛不要部分塗布しておき、起毛工程にかけることにより起毛不要部分における起毛が行われない。そして、起毛実施後に溶剤によってマスキング剤の除去が行われる。部分的な起毛処理には布帛の片面のみの起毛処理も含む。即ち、片面のみの起毛であっても後続の縮絨工程での糸条の必要な収縮が得られるため、切り出し部におけるほつれを充分防止できる。また、起毛面と非起毛面とで外観が相違するため意匠的な効果を得ることもできる。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明において、多重布帛の織製若しくは編製時において多重布帛の層同士は適当に間隔をおいた部位において少なくとも一部の糸条として後工程で除去可能な糸条を使用して付加的に接結され、仮想的に一重の布帛を構成していることを特徴とする多重布帛よりの布製品形成方法が提供される。
【0020】
請求項2の発明の作用効果を説明すると、製織時における多重布帛における層同士の間隔をおいた部位による接結(点接結)により多重布帛は一時的ではあるが一重組織様を呈する。布帛が多層に分離していると巻取時や延反時に皺が生じ易い上、起毛時に布帛にかかるテンションむらが生じ易く良好な起毛が行いえない問題点があるが、この請求項7の発明では織製若しくは編製時に散開的な接結による上下層は一時的にではなるが一体となっているため、巻取時や延反時の皺の発生を防止しまた起毛時のテンションの均一化を図ることができる。そして、縮絨後は点接結部を構成する前記少なくとも一部の糸条は除去され、本来の多重組織に復帰せしめることができる。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、請求項2に記載の発明において、後工程で除去可能な糸条は溶解性糸であることを特徴とする多重布帛よりの布製品形成方法が提供される。
【0022】
布帛中において溶解性糸は多重布帛における表裏層間を散開的な部位で点接結し、擬似的な若しくは仮の一重組織を構成し、起毛、縮絨時における層間の歪みを防止することができる。そして、縮絨後に溶解性糸は溶解除去されるため本来の多重組織に簡便に復帰させることができる。溶解性糸としてはPVAなどの水溶性糸とすること好ましいが、水溶性に限らず溶媒に溶融製の糸条を使用することも可能である。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、請求項2に記載の発明において、後工程で除去可能な糸条は破断容易糸であることを特徴とする多重布帛よりの布製品形成方法が提供される。
【0024】
布帛中において破断容易糸は多重布帛における表裏層間を散開的な部位で点接結し、擬似的な一重組織を構成し、起毛、縮絨時における層間の歪みを防止することができる。そして、縮絨後に破断容易糸は抜去若しくは破断され多重組織の表裏層間は本来の状態に分離させることができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
次に、この発明の実施形態を説明すると、図1はこの発明の実施である織布10を上面より見て示す該略図である。織布はこの実施形態では2重織組織(2重織より層数の多い多重組織でもよい)である。即ち、図1の紙面上に表示されたものを表の織布面とすればその下側にもう一つの織布面が具備されている。即ち、図2において12は上側の織布面、14は下側の織布面を模式的に示しており、上側の織布面は経糸12A及び緯糸12Bとから構成され、下側の織布面は経糸14A及び緯糸14Bとから構成される。二重組織は織耳で上下面12, 14が分離したとなった通常の2重織でも織耳が上下面12, 14で袋形状に連なった所謂袋織組織でもいずれこでもよい。
【0026】
ここに説明の実施形態では二重組織における、上側の織布面12にジャケットの前身頃16を構成し、下側の織布面14にジャケットの後身頃(下側織布面において前身頃16に対向するように形成される)を構成している。上側の組織面12と下側の組織面14とはジャケットの輪郭線に沿って接結部18にて接結されている。を前身頃16となる部位と後身頃となる部位とでその外形線にて接結している。このような接結部を図1で18A, 18B, 18Cによって表している。即ち、18Aは衣服における襟から上側の袖口までのライン、18Bは脇の下から下側の袖口までのライン、18Cは脇の下から裾までのラインに沿っている。
【0027】
接結部18A, 18B, 18Cの組織は図2の例では接結部はオックスフォード組織となっている。オックスフォード組織は織物組織分類上は一重織であり、複数本の経糸及び緯糸を引き揃え平織組織などに製織したものであり、柔軟性が高いという点で接結部として適したものである。即ち、接結部18A(18B, 18C)では上下の経糸12A, 14A及び上下の緯糸12B, 14Bは夫々引き揃えられ、製織されている。そのため、前身頃16及び後身頃の縁部となるこれらの接結部18A, 18B, 18Cでは二重織の上下の組織は一体となり、接合状態となっている。
【0028】
図1において、20はネックホールのライン、22は袖部のライン、24は裾部のラインとなっている。これらの部分は衣類として切り離したときは夫々開口を形成すべきものである。従って、これらのライン20, 22, 24においては上下組織の接結は基本的には行われていない。
【0029】
図1においてジャケットの輪郭線に沿った接結部18A, 18B, 18Cは織布10の実質的に全幅において横糸方向及び経糸方向のいずれとも平行しない方向に走行している。そのため、織布10の織製には織布の実質的に全幅において経糸一本一本の開口制御が可能な経糸開口装置が必要であり、そのためはジャカードが事実上必須である。
【0030】
以上説明したように2重織組織で織製した織布10の上下面12, 14はジャケットの輪郭線に沿って接結部18A, 18B, 18Cにて連結されている。即ち、ジャケットの輪郭線の部位のみ1重組織となっており、ジャケットの輪郭線に沿って接結部18A, 18B, 18Cを少なくとも一部残して織布10を切断することにより上下の身頃がその周縁部に沿って接続されたジャケットを切り出すことができる。即ち、織布10からの切り出しままにおいても、そのままジャケットを得ることができ、縫製は必ずしも必要がない。また、20のネックホール、22の袖口、24の裾については基本的には接結されていないため、ライン20, 22, 24に沿って織布10を切断することによってそのままネックホール、袖口、裾が形成されることになる。
【0031】
図1において、上下層12, 14間の接結(一重組織化)は上記の輪郭線18に沿った部位のみでなく、織布の全面にわたった散開的な点状の部位においても行われている。このような散開的な点状接結部を図1では符号25にて表し、簡明のため部分的のみ図示している。この散開的な点接結部の構成は図2と同様であり接結部はオックスフォードのような1重組織で構成される。織布全面にわたっての散開的な点状接結25によって織布10は織り上がりでは擬似的な1重組織を呈する。このような擬似的な1重組織化によって織布をロール巻き若しくは延反する際の多重層相互の歪みを抑え皺の発生を抑制することができ、また、後述の起毛や縮絨時における織布のテンション斑及びそれに伴う起毛斑や縮絨斑の発生を防止することができる。図1において点接結部を構成する経糸をa、緯糸をbにて表す。点接結部25を構成する経糸a及び緯糸bの少なくとも一方は織り上がり後に除去可能である。例えば、経糸a及び緯糸bは水溶性糸若しくは溶解性糸にて構成され、織り上がり後に縮絨工程などにおいて水溶性糸若しくは溶解性糸を水若しくは溶媒に浸漬することにより水溶性糸若しくは溶解性糸は除去され、上下層12, 14が衣類輪郭線18以外では分離した2重織布に復帰させることができる。経糸a及び緯糸bを水溶性糸若しくは溶解性糸とする代わりに、その片方を水溶性糸若しくは溶解性糸としても接結がバラけるため、織布は2重状態に復帰することができる。この場合、水溶性糸若しくは溶解性糸は透明であったり白濁しているものが多いことから散開的点接結部を構成するに糸を色糸とすることにより、作業確認(点接結糸の除去の確認など)が容易となる。また、水溶性糸若しくは溶解性糸の使用の代わりに、緯糸をしつけ糸などの破断容易糸とし、織り上がり後にしつけ糸を破断除去することにより同様な目的を達することが可能である。また、織布に織り込む代わりにミシンや手縫いにより散開的な点接結することもできる。
【0032】
以上のようにこの発明の実施形態は2重組織の織布10において、織布10の一方面12を衣類の前身頃、織布10の他方面14を衣類の後身頃とし、衣類の輪郭線(身頃の外周線)に沿って織布の上下面12, 14を接結し、この接結部に沿って織布10を切断することにより衣類としており、縫製作業が必ずしもなくても織布10から衣類を直接切り出すことができる。しかしながら、カットラインでは織布10を構成する経糸及び横糸が剥き出しとなり、カットラインから糸のほつれが生じやすい。即ち、図2でカットラインを1重織組織の部位にLのように設定すると、この部位で糸12A, 14A, 12B, 14Bは剥き出しとなるため、ばらばらにほつれてくる恐れがある。このようなカットラインからのほつれの対策としてこの発明の第1の実施形態においては織布10はその織上がりにおいて縮絨加工に付すようにしている。縮絨加工においては織布を乾燥状態でもむ乾絨や、織布を湿潤状態でもむ湿絨や、織布を温水中でもむ煮絨や、織布を石鹸などのソーピング液中でもむ液絨などがあり、これらの手法から適当なものを選択することができ、カットラインにおける糸のほつれを実質上問題を生じないように抑えることは可能である。即ち、織布10に縮絨をかけることにより織布を構成する経糸及び横糸は収縮せしめられ、フエルト状となり、隣接する糸同士の強い交絡が得られ、カットラインL(図2)の付近においても隣接する糸12A, 14A, 12B, 14B同士の強い交絡が得られ,このようなカットラインL付近での糸の交絡は糸のほつれを実質的に防止し、織布10からカットラインにそって切断したままで、即ち、かがりなどの追加的な縫製作業なしにすませることができる。最大限の縮絨効果はもとより織布10が100パーセントウールの場合に得られるが、前述のようにウールが一部であって、残りが綿糸や化合繊糸との混織であってもカットラインでのほつれを防止若しくは抑制しうるに十分な縮絨効果は発揮しうる。
【0033】
縮絨による交絡効果を最大限発揮させるため、縮絨工程に先立って若しくはその後に起毛を実施することが好ましい。即ち、起毛することにより糸表面に毛羽が積極的に生じせしめら、織布により強い縮絨がかかるため、縮絨によるほつれ防止効果を最大限に発揮させることができる。そして、起毛工程の際にマスキングなどの技術により意匠効果を持たせることも可能である。即ち、織布10を起毛機にかけるのに先立って織布の要マスキング部分にウレタン、アクリル、シリコーン、ろう、ふのり等の適当なマスキング剤をコーティングする。織布10のマスキングされた部分は起毛針から遮断されるためマスキング部分と非マスキング部分とで毛羽立ちに違いがでる。そのため、両者間で縮絨効果に相違がでるため、外見的にも異なって見え、意匠効果を持たせることができる。
【0034】
縮絨による意匠効果は糸使い及び織組織の工夫によっても発揮せしめることが可能である。例えば、経糸としては綿糸、横糸には毛糸を使用し、織組織としては1/4の斜紋と4/1の斜紋との混在組織で製織すると1/4等の斜紋の部分では緯糸としての羊毛糸が多く浮くため強い起毛・縮絨効果が得られ、4/1の斜紋の部分では緯糸としての羊毛糸の浮きが少ないため起毛・縮絨効果が弱くなり、一枚の織布(衣類の身頃)において縮絨の強弱が得られ、意匠効果を発揮させることができる。また、経糸方向において表面に浮く綿糸若しくは羊毛糸の割合を代えていることによりグラデーション効果を得ることもできる。また、綿糸と羊毛糸との併用だけでなく、綿素材を主体とした場合であってもマスキングとの併用により機能性を持たせることも可能であり、例えば、わきの下の部位の起毛を多くすることにより肌にやさしい衣類とするなどの工夫も可能である。
【0035】
以上の起毛・縮絨工程において図1に示すように経糸a若しくは緯糸bに水溶性糸などを使用し、織布の全面にわたって点状接結25を施しているため、織布10は擬似的な1重組織となるため、起毛機でのテンション斑が少なくなり、良好な起毛状態を得ることができる。そして、水中での縮絨工程において点状接結25を構成する水溶性の経糸a若しくは緯糸bは自動的に溶解除去される。そのため、縮絨工程を終了後には織布10の上下層12, 14は輪郭線18の部位以外では分離される。そして、輪郭線18に沿って接結部は少なくとも一部は残して織布10の切断を行うことにより上下層12, 14(前身頃及び後身頃)が輪郭線18に沿って連結された衣類を得ることができ、起毛・縮絨による収縮により接結部での糸の交絡が強固となり、切断線でのほつれを殆ど完全に抑えた衣類とすることができる。
【0036】
以上の実施形態では縮絨は織布の状態で行われるように説明したが織布からの衣類への切り出し後に縮絨するようにしてもよい。この場合、切断端での糸はフリーであるためより強く縮絨がかかるため、交絡性がより強固となり、よりほつれ難くなる点で好ましい。
【0037】
カットラインでのほつれを防止するためこの発明の第2の実施形態では経糸又は横糸又はその双方に全体的に又は部分的に巻縮糸を用い、その巻縮によって隣接する糸間を交絡させている。即ち、図1において、少なくとも接結部18A, 18B, 18Cを構成する緯糸若しくは経糸又はその双方はその少なくとも一部は潜在若しくは顕在巻縮性の巻縮糸(加工糸)を含んでいる。巻縮糸はその巻縮発現状態では糸表面に多数のループを備えており、隣接する緯糸及び経糸間でこれらのループが交絡する。そのため、接結部18A, 18B, 18Cに沿って布帛を切断した場合においてカットラインでも隣接する糸同士は相互に交絡するため抜け難くなる。また、顕在巻縮性の巻縮糸を使用した場合は織製時は巻縮糸の巻縮性は出現しないが、織り上げ後に織布を熱処理することにより巻縮性が発現し、隣接の緯糸若しくは経糸とのより強力な交絡が得られ、よりほつれ難くなる点で好ましい。
【0038】
図1及び図2に示される実施形態は織布(2重織)でのこの発明の応用を示しているが、この発明は特開2001-115365号公報におけるダブルジャカードの丸編機による無縫製衣類における切り出し部の糸のほつれ防止にも適している。即ち、丸編機を使用した場合は、同特許公報に記載のようにダイヤル針により平編組織などで内周の編成、シリンダ針により平編などで外周の編成が行われ、衣類の輪郭線に沿った接結部ではダイヤル針及びシリンダ針の双方を使用した組織(ゴム編など)による編成が行われる。そして、第1の実施形態と同様に衣類の外径線に沿って接結部を残して編布が切断され、編布より実質的に無縫製で衣類を切り出すことができる。このような丸編機による無縫製の衣類では丸編という編組織の特質上、糸は極めてほつれやすいが、第1の実施形態と同様に編布に縮絨をかけることにより糸は収縮し、かつフェルト化するため、隣接糸同士が相互に交絡し、丸編からの切り出しによる衣類であって、無縫製であるにも関わらず、ほとんどほつれが起こらないようにすることができる。
【0039】
この発明は織布や丸編に限らず縦編や緯編でも採用可能である。即ち、縦編や緯編においても図1と接結部25と同様編布の全面において散開的な点接結部を設けることにより擬似的な1重組織とし、皺発生やテンション斑の対策とすることが好ましい。縦編組織の場合は点接結のためバックヤーンのいずれかに潜在若しくは顕在巻縮加工糸を挿入する。また、よこ編の場合は点接結部における必要な本数の経糸を潜在若しくは顕在巻縮加工糸とし点接結を行わせるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1はこの発明の実施である2重織組織の織布の概略的平面図である。
【図2】図2は図1のI−I線に沿った矢視断面であり、接結部における経糸及び緯糸の配置を模式的に示している。
【符号の説明】
10…織布
12…上側の織布面
14…下側の織布面
16…前身頃
18…接結部
20, 22, 24…非接結部(ネックホール、袖部、裾部)
25…点接結部
Claims (4)
- 少なくとも2層よりなる多重布帛を織製若しくは編製し、前記多重布帛の一方の層を布製品の一方側面、多重布帛の他方の層を布製品の他方側面とし、布製品の輪郭線に沿って前記一方の層及び前記他方の層を接結し、前記接結部を構成する少なくとも一部の糸条は羊毛繊維を素材としており、編製若しくは製織前もしくは後に布帛の一部もしくは全体に起毛処理を施すと共に縮絨処理を施し、これにより接結部において隣接する糸条との交絡性を高めさせ、その後に前記輪郭線に沿って少なくとも一部の接結部は残して布帛を切断し、対向側面同士が接結により接続された多重布帛よりの布製品形成方法。
- 請求項1に記載の発明において、多重布帛の織製若しくは編製時において多重布帛の層同士は適当に間隔をおいた部位において少なくとも一部の糸条として後工程で除去可能な糸条を使用して付加的に接結され、仮想的に一重の布帛を構成していることを特徴とする多重布帛よりの布製品形成方法。
- 請求項2に記載の発明において、後工程で除去可能な糸条は溶解性糸であることを特徴とする多重布帛よりの布製品形成方法。
- 請求項2に記載の発明において、後工程で除去可能な糸条は破断容易糸であることを特徴とする多重布帛よりの布製品形成方法。
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