JP4065725B2 - ピアス式電子銃およびこれを備える真空蒸着装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、長時間に渡って異常放電を引き起こすことなく電子ビームを安定かつ一定に発生させることができるピアス式電子銃およびこれを備えた真空蒸着装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ピアス式電子銃は、フィラメント、カソード、ウェネルト、および、アノードを電子ビーム発生部とする電子銃であり、真空蒸着装置の他、電子線描画や露光装置などにも応用されている。
【0003】
ところで、例えば、ピアス式電子銃を真空蒸着装置に使用してMgO(酸化マグネシウム)などの金属酸化物の蒸着被膜をガラス基板などの基板の表面に形成する際、電子ビームを構成する熱電子が蒸着室内部の水分、残留ガス、蒸発粒子などと衝突することでイオンが発生することがある。こうした場合、発生したイオンはカソードに向かって逆流してカソードに衝突する。このような現象がたびたび起こると、カソードにはイオンが衝突したことによる衝突孔が形成され、次第に電子ビームの発生効率を低下させる。従って、長時間に渡って所定の膜厚の被膜を形成するためには、ビーム電流値を時間とともに増加させる必要が生じる。そこで、カソードに向かって逆流してくるイオンを通過させるための貫通孔をカソードに予め設けておくことでイオンがカソードに衝突することを防ぐとともに、カソードの後方にカソードを通過したイオンを衝突させるためのイオンコレクタを配置することで電子ビームの発生効率を長時間に渡って一定に維持せしめる方法が採用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、以上のような手段を講じても時として異常放電を引き起こすことがあり、電子ビームを安定に発生させることができない場合があった。
そこで本発明は、長時間に渡って異常放電を引き起こすことなく電子ビームを安定かつ一定に発生させることができるピアス式電子銃およびこれを備えた真空蒸着装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の点に鑑みて種々の検討を行った結果、異常放電は、イオンコレクタにイオンが衝突することによって当該イオンコレクタがスパッタされてイオンコレクタ成分が飛散し、飛散物質がエミッタアッセンブリ内の高圧部に付着することが主たる原因であることを突き止めた。そして、カソードを通過したイオンおよびイオンコレクタへのイオンの衝突によりスパッタされたイオンコレクタ成分を捕集するための所定形状の捕集孔を当該イオンコレクタに設けることで、このような現象を効果的に防ぐことができることを知見した。
【0006】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものであり、本発明のピアス式電子銃は、請求項1記載の通り、カソードに向かって逆流してくるイオンを通過させるための貫通孔が設けられたカソード、および、カソードの後方にカソードを通過したイオンを衝突させるためのイオンコレクタを有するピアス式電子銃であって、カソードを通過したイオンおよびイオンコレクタへのイオンの衝突によりスパッタされたイオンコレクタ成分を捕集するための捕集孔を前記イオンコレクタに設け、前記捕集孔の直径に対する深さのアスペクト比が1.5以上とすることを特徴とする。
また、請求項2記載のピアス式電子銃は、請求項1記載のピアス式電子銃において、カソードに設けられた貫通孔の直径に対するイオンコレクタに設けられた捕集孔の直径の比が1以上であることを特徴とする。
また、本発明の真空蒸着装置は、請求項3記載の通り、請求項1または2記載のピアス式電子銃を備えることを特徴とする。
また、本発明のピアス式電子銃の異常放電防止方法は、請求項4記載の通り、ピアス式電子銃の電子ビーム発生部において、カソードにカソードに向かって逆流してくるイオンを通過させるための貫通孔を設けるとともに、カソードの後方にカソードを通過したイオンを衝突させるためのイオンコレクタを配置し、カソードを通過したイオンおよびイオンコレクタへのイオンの衝突によりスパッタされたイオンコレクタ成分を捕集するための捕集孔を前記イオンコレクタに設け、前記捕集孔の直径に対する深さのアスペクト比が1.5以上とすることを特徴とする。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のピアス式電子銃について、図面を参照しながら説明する。
【0008】
図1は本発明のピアス式電子銃の一実施形態における電子ビーム発生部の概略構成図である。本発明のピアス式電子銃の特徴は電子ビーム発生部にある。従って、電子ビーム発生部以外の部分は公知のピアス式電子銃に準じてよいので、その説明は省略する。
電子ビーム発生部はフィラメント1、カソード2、ウェネルト3、アノード4、イオンコレクタ5からなる。通常、フィラメント1は通電により2500K程度にまで加熱される。フィラメント1とカソード2との間には600〜1500Vの電圧が印加されており、フィラメント1から発生した熱電子はカソード2の表面を電子衝撃する。カソード2はフィラメント1からの電子衝撃により2500K程度にまで加熱され、表面から熱電子を発生させる。カソード2とアノード4との間には20kV程度の電圧が印加されており、カソード2の表面から発生した熱電子はアノード4の方向に加速されて電子ビームが構成され、蒸発材料の蒸発ポイントなどに照射される(矢示11)。また、ウェネルト3はカソード2の表面から発生した熱電子をウェネルト3とアノード4との間に形成された電位勾配によってアノード4の方向に集束させる働きを担っている。
【0009】
前述の通り、電子ビームを構成する熱電子が蒸着室内部の水分、残留ガス、蒸発粒子などと衝突するとイオンが発生し、このイオンはカソード2に向かって逆流してくる。そこで、カソード2にカソード2に向かって逆流してきたイオンを通過させるための貫通孔Aを設ける。そして、カソード2の後方にカソード2を通過したイオンを衝突させるためのイオンコレクタ5を配置し、イオンコレクタ5にカソード2を通過したイオンおよびイオンコレクタ5へのイオンの衝突によりスパッタされたイオンコレクタ成分を捕集するための捕集孔Bを設ける。これにより、カソード2に向かって逆流してきたイオンおよびイオンコレクタ5へのイオンの衝突によりスパッタされたイオンコレクタ成分はイオンコレクタ5に設けられた捕集孔Bの孔内に捕集される(矢示12)。この際、捕集孔Bの直径に対する深さのアスペクト比を1.5以上とすることで、カソード2を通過したイオンが捕集孔Bの孔内に衝突した際にイオンコレクタ成分が飛散しても、イオンコレクタ成分が捕集孔Bの孔内から外部に飛散することはなく、異常放電が引き起こされることを効果的に防ぐことが可能となる。捕集孔Bの直径に対する深さのアスペクト比が1.5未満であると、この効果が十分に発揮されず、イオンコレクタ成分が捕集孔Bの孔内から外部に飛散して高圧部に付着し、異常放電を引き起こす頻度が高くなる。
【0010】
カソード2に設けられた貫通孔Aの直径に対するイオンコレクタ5に設けられた捕集孔Bの直径の比は1以上とすることが望ましい。この比が1未満であると、カソード2を通過したイオンの一部は捕集孔Bの孔内に衝突せずにイオンコレクタ5の他の部分に衝突し、イオンコレクタ成分が飛散して高圧部に付着し、異常放電を引き起こす恐れがあるからである。
【0011】
図2は本発明のピアス式電子銃を備えた真空蒸着装置の一実施形態における蒸着室の概略図である。この蒸着室は、キャリアに搭載された基板を蒸発源の上方を通過させることにより、基板の表面に蒸着被膜を形成するインライン式真空蒸着装置の蒸着室に相当する。ピアス式電子銃12から蒸着室11内部に向けて略水平方向に発せられた電子ビーム13は、図略の偏向コイルによって偏向されて蒸発源である回転式リングハース14内の蒸着材料の蒸発ポイントに照射され、蒸発流15によりハース14の上方に搬送されてきた基板20の表面に蒸着被膜が形成される。本発明のピアス式電子銃は、蒸着室内部に水分、残留ガス、蒸発粒子などが存在し、電子ビームを構成する熱電子がこれらと衝突することでイオンが発生し、イオンがカソードに向かって逆流してきても、カソードにイオンを通過させるための貫通孔が設けられており、かつ、その後方に配置されたイオンコレクタにカソードを通過したイオンおよびイオンコレクタへのイオンの衝突によりスパッタされたイオンコレクタ成分を捕集するための所定形状の捕集孔が設けられているので、長時間に渡って異常放電を引き起こすことなく電子ビームを安定かつ一定に発生させることができる。従って、基板の表面への蒸着被膜の形成も長期間に渡って安定かつ一定に行うことができる。なお、図2の蒸着室においては、ピアス式電子銃は基板の搬送方向の上流側(仕込室側)壁面に固設されているが、ピアス式電子銃を基板の搬送方向の側壁面に固設すれば、基板の搬送方向に列をなして任意の台数を固設できるので、基板の搬送方向に設けることができる蒸発ポイント数を容易に増加することができることから、タクトタイムの飛躍的な向上を図ることが可能となる。また、ピアス式電子銃を基板の搬送方向の上流側壁面に固設した場合と比較して、基板の搬送方向における蒸発ポイントの位置設定を任意に行うことができるので、隣接する蒸発ポイント間のピッチも任意に設定することができることから、基板の温度制御が容易となる。従って、蒸発源からの輻射熱による基板の温度上昇による割れなどを防止することが可能となる。
【0012】
【実施例】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明は以下の記載に何ら制限を受けて解釈されるものではない。
【0013】
直径2mmの貫通孔を設けた直径6mm×高さ5mmのタングステン製のカソードの後方にイオンコレクタを配置した2種類のピアス式電子銃を使用し、図2に示す構成を有するインライン式真空蒸着装置により、所定膜厚のMgOの蒸着被膜をガラス基板の表面に形成した。2種類のピアス式電子銃の一方は表面に何も処理を施していないイオンコレクタを有するものとし(電子銃1)、他方は直径2mm×深さ3mm(アスペクト比1.5)の捕集孔を設けたイオンコレクタを有するものとした(電子銃2)。各々のピアス式電子銃を使用して蒸着処理を開始した後、連続蒸着処理におけるビーム電流値の挙動を調べた。ガラス基板処理枚数に対する電流値の挙動の傾向を図3に示す。図3から明らかなように、電子銃1を使用した場合は、ビーム電流値は一定であるものの、異常放電が頻繁に起こり、ハース内のMgOの蒸発ポイントに電子ビームを安定かつ一定に照射することができなかった。一方、電子銃2を使用した場合は、異常放電を引き起こすことなく電子ビームを安定かつ一定に発生させることができたので、ハース内のMgOの蒸発ポイントに電子ビームを安定かつ一定に照射することができた。
【0014】
【発明の効果】
本発明によれば、長時間に渡って異常放電を引き起こすことなく電子ビームを安定かつ一定に発生させることができるピアス式電子銃およびこれを備えた真空蒸着装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のピアス式電子銃の一実施形態における電子ビーム発生部の概略構成図である。
【図2】 本発明のピアス式電子銃を備えた真空蒸着装置の一実施形態における蒸着室の概略図である。
【図3】 実施例におけるガラス基板処理枚数に対するビーム電流値の挙動の傾向を示すグラフである。
【符号の説明】
1 フィラメント
2 カソード
3 ウェネルト
4 アノード
5 イオンコレクタ
A 貫通孔
B 捕集孔
11 蒸着室
12 ピアス式電子銃
13 電子ビーム
14 回転式リングハース
15 蒸発流
20 基板
Claims (4)
- カソードに向かって逆流してくるイオンを通過させるための貫通孔が設けられたカソード、および、カソードの後方にカソードを通過したイオンを衝突させるためのイオンコレクタを有するピアス式電子銃であって、カソードを通過したイオンおよびイオンコレクタへのイオンの衝突によりスパッタされたイオンコレクタ成分を捕集するための捕集孔を前記イオンコレクタに設け、前記捕集孔の直径に対する深さのアスペクト比が1.5以上とすることを特徴とするピアス式電子銃。
- カソードに設けられた貫通孔の直径に対するイオンコレクタに設けられた捕集孔の直径の比が1以上であることを特徴とする請求項1記載のピアス式電子銃。
- 請求項1または2記載のピアス式電子銃を備えることを特徴とする真空蒸着装置。
- ピアス式電子銃の電子ビーム発生部において、カソードにカソードに向かって逆流してくるイオンを通過させるための貫通孔を設けるとともに、カソードの後方にカソードを通過したイオンを衝突させるためのイオンコレクタを配置し、カソードを通過したイオンおよびイオンコレクタへのイオンの衝突によりスパッタされたイオンコレクタ成分を捕集するための捕集孔を前記イオンコレクタに設け、前記捕集孔の直径に対する深さのアスペクト比が1.5以上とすることを特徴とするピアス式電子銃の異常放電防止方法。
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