JP4060904B2 - リチウムコバルト複合酸化物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はリチウムコバルト複合酸化物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
六方晶系の層状結晶構造を持つ遷移金属酸化物は、適当なサイズの金属イオンを結晶の格子サイト及び/又は格子間に導入できることが知られている。特にリチウム層間化合物は、特定の電位差の下でリチウムイオンを結晶格子サイト及び/又は格子間に導入し、再びこれを取り出すことができることから、リチウム複合化合物を電極活物質としたリチウム電池、二次電池が工業的に利用、生産されている。
電極活物質としては、コバルト酸リチウムが最も基本であり、最も有効な材料である。高価なコバルトを安価な他の遷移金属、例えばニッケルやマンガン等に代替しようとする検討も行われているが、コバルトを完全に代替できる技術はまだない。
【0003】
電極の調製は、従来、活物質の粉体、粉末状の導電材、バインダーを溶媒及び/又は分散媒に混合してスラリーやペーストとし、集電体に塗布、乾燥して行われる。したがって電池性能は、活物質粒子の特性、例えば結晶形態、粒径、かさ密度及び充填率、比表面積等に大きく影響を受けることになる。
リチウム層間化合物は、一般には固相反応で、すなわち化合物を構成する原料成分粒子の混合体を加熱処理して調製される。したがって活物質粒子の特性は、原料成分の選択と原料成分粒子の特性及び混合体の混じり具合にも大きな影響を受けることになる。
【0004】
乾式法と呼ばれる従来のリチウム層間化合物からなる電極活物質粒子の製造方法は、活物質を構成する原料成分粒子の所定量を混合、粉砕しながら混ぜ合わせた後、かかる活物質前駆体の混合体を加熱処理して製造する方法である。
しかし、従来のこの乾式法では、各原材料を分子レベルで混合することは不可能であり、かつ、粒子間でも均質に分散することは困難であった。したがって、かかる従来方法で製造された活物質は、組織に大きなバラツキを持ったものであった。
さらに分散性の悪い粒子混合体の固相反応には高温焼成が必要なため、得られる活物質粒子は強く凝集して粗大化し、充填密度の低いものになってしまうという欠点があった。
【0005】
しかも、コバルト源としてコバルトメタルや2価のコバルト化合物である水酸化コバルト、炭酸コバルト等を用いる従来技術では、800℃以上の高温焼成を必要とするため、得られるリチウムコバルト複合酸化物は、緻密な粗大粒子となり、粉砕処理を施さなければ電極材料として使用できないという欠点も有していた。
一方、2価と3価の混合体と見れる四三酸化コバルトをコバルト源とする方法も検討されている。しかしながら一度焼成工程を経た四三酸化コバルトはそれ自体緻密なため、リチウムを結晶中の所定サイトに導入するのはなかなか困難で、高温で焼成しても、得られるリチウムコバルト複合酸化物は組成変動の大きなものになってしまう問題があった。
【0006】
さらに、六方晶系の形態を既に有する3価コバルト化合物を用い、イオン交換の手法を用いて低温でリチウムコバルト複合酸化物を製造する試みも検討された[Solid State Ionios 84,169(’96)]。しかしながらこの方法は、かかるコバルト化合物と2倍当量のリチウム化合物とを加圧してペレットとし、これとほぼ同量の水を加えて6気圧以上の加圧下に5日間程置いて製造されるという複雑な工程を必要とする欠点を有していた。しかもその後、過剰量のリチウム化合物を洗浄して除去し、さらに250℃以上の温度で1日間熱処理しなければ電極活物質としては使用できないという問題も有していた。
【0007】
前駆体粒子混合体のこのような分散性の悪さや焼成のしにくさを改善する試みはこれまでにも種々なされていきた。
例えば、電極活物質を構成するリチウムや所定の遷移金属のアルコキシド等からなるゾルを、ゾル・ゲル法の手法を用いてゲル化し、焼成して活物質とする方法がある。かかる方法では低温焼成が可能であり、また製造された活物質粒子は、微細な粒径と大きな表面積、高い充填率を持つことから、電極材料として有効と期待された。
【0008】
しかしながら、かかるアルコキシド等は著しく高価なため、工業的には使用しにくいという難点があった。
一方、活物質構成元素を含有する溶液からこれを塩として析出させ、均質に混合された前駆体混合体粒子を得る湿式法も検討された。かかる方法では、通常、しゅう酸塩として析出、沈殿された前駆体混合体粒子を、水洗して乾燥し、焼成して活物質粒子としている。しかしながらしゅう酸塩の水に対する溶解性は元素により大きく異なり、このため洗浄中に組成のズレを生じてしまうという欠点があった。
【0009】
さらに水酸化物や炭酸塩として沈殿させた場合も検討されているが、洗浄に伴う組成のズレは避け難いうえ、焼成による粒子の粗大化も引き起こしてしまうという問題もあった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、乾式法に属する電極活物質の製造方法に係るものであり、粒径、比表面積等を広範囲に制御でき、しかも均質な組成を有するリチウムコバルト複合酸化物の製造方法の提供を目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、不定形の3価のオキシ水酸化コバルトCoOOH粒子と、炭酸リチウム粒子とを混合して調製された前駆体混合体を250〜1000℃の温度範囲で加熱処理して製造されることを特徴とするリチウムコバルト複合酸化物の製造方法である。
【0012】
本発明は、リチウムコバルト複合酸化物のコバルト源として、不定形の3価のオキシ水酸化コバルト粒子CoOOHを用いる点に特徴がある。
3価のオキシ水酸化コバルトの粒子であれば、いずれも本発明に使用可能であるが、特に成長した特定の結晶構造を持たないCoOOHを用いるので、広い焼成温度範囲にわたって均質な組成のリチウムコバルト複合酸化物を製造できる。
【0013】
一方、本発明では、リチウムコバルト複合酸化物のリチウム源であるリチウム化合物としては、特に、炭酸リチウムが用いられる。
【0014】
上記オキシ水酸化コバルトと炭酸リチウムとからコバルト酸リチウムを合成する反応は、下記式で示される。この式から明らかなように、本発明の反応は脱水縮合のような簡単な脱離反応で進行する。
【式1】
2CoOOH+Li2CO3 →2LiCoO2+H2O+CO2
本発明では前記オキシ水酸化コバルト粒子と前記炭酸リチウム粒子の混合体を加熱処理して、リチウムコバルト複合酸化物を製造する。製造されたリチウムコバルト複合酸化物は、粒子の形態で電池材料として利用される。従って、前駆体混合体も粒子の形態である。同様な理由から、オキシ水酸化コバルトや炭酸リチウムも粒子の形態である。
【0015】
本発明のリチウムコバルト複合酸化物となる前駆体混合体の調製は、従来の乾式法の手法をそのまま用いる。すなわち、所定量の前記炭酸リチウムの粒子と前記オキシ水酸化コバルトの粒子を混合し、均質に分散された前駆体混合体を得る。本手法により均質な前駆体混合体が得られるのは、本発明に使用する前記オキシ水酸化コバルトの効果による。
【0016】
本発明のコバルト源であるCoOOHは、しっかりとした結晶構造をもたない極めて微細な粒子の軽い凝集体と見られる。かかるオキシ水酸化コバルトの粒子と炭酸リチウムの粒子とを混合する操作を加えると、均質に分散混合された前駆体混合体が調製できる。
本発明のリチウムコバルト複合酸化物には、他にも多くの遷移金属を配合できる。特に、クロム、銅、鉄、インジウム、マンガン、ニッケル、バナジウム等が有効と判断され、本発明に有効に用いられる。
【0017】
これら遷移金属等の配合は、かかる金属の酸化物、水酸化物、過酸化物、塩類等の粒子の形状でなされ、本発明のリチウムコバルト複合酸化物の前駆体混合体に形成される。
上述のごとくして調製された前駆体混合体の粒子は、焼成されて本発明のリチウムコバルト複合酸化物となる。焼成温度は250〜1000℃の範囲であるのが好ましい。250℃未満の温度では反応が完結せず、残留未反応物が電池性能を低下させてしまう。一方1000℃を超える温度では結晶構造に乱れが生じ易くなり、これが電池性能を低下させたり安全性を損ねたりしまうからである。
【0018】
焼成時間は焼成温度にも依存するが、例えば500℃の場合、少なくとも30分以上処理されるのが反応を終結できる点で好ましい。一方、反応終結後、長時間にわたって加熱処理を続けても得られるメリットは少ないことから、長くとも100時間であるのが好ましい。
本発明のリチウムコバルト複合酸化物の製造方法は、低温焼成においてもしっかりした単一相の層状結晶構造を持つリチウム層間化合物を製造でき、製造コストの削減も可能となる。
【0019】
本発明の方法で製造されたリチウムコバルト複合酸化物粒子は、強靭な層状結晶構造、微細な粒径、高い比表面積と充填率を持ち、電極活物質として特に有効に機能する。かかる活物質から形成された電極は、電池、二次電池用電極に有効に使用される。特にリチウムイオン電池を含めたリチウム二次電池用電極として、極めて有効である。
本発明の活物質を使用したリチウム二次電池は、大きな充放電容量と高いエネルギ密度を持ち、優れた充放電サイクル特性を発現する。
【0020】
【作用】
本発明のリチウムコバルト複合酸化物の製造方法は、不定形の3価のオキシ水酸化コバルト粒子をコバルト源としている。本発明の方法において、低い焼成温度においてもリチウム層間化合物を形成する固相反応を終結できるのは、前述の式1にも示される通り、反応生成物と同様の3価のオキシ水酸化コバルト粒子をコバルト源としていることによるものと判断される。しかも、本発明に用いられるCoOOHはX線回折パターンから判断されるように特定の成長した結晶形態を持たず、また高い比表面積から判断されるように、極めて微細な粒子の軽い集合体である。このため、炭酸リチウムと良好の混和する。本発明の方法ではこれらの効果が作用し合い、広い焼成温度範囲にわたって、乱れのない単一相の層状結晶構造を有するリチウムコバルト複合酸化物が製造できる。
【0021】
本発明の方法によれば、製造されるリチウムコバルト複合酸化物の諸特性は、焼成条件、特に温度と時間とを管理することにより制御できる。
上述のように本発明の前駆体混合体は、250℃といった低温焼成でも反応が完結する。かかる温度条件に長時間、反応生成物であるリチウム層間化合物を放置しておいても、粒子が粗大化するといった厄介な問題は生じない。一方800℃といった高温では、短時間に反応が終結してしまうため、粒子の緻密化や粗大化を起こす前に焼成工程を終了できる。
【0022】
よって、本発明の方法では、微細な粒径、高い比表面積、高い充填率、及び強靱な層状結晶構造を有するリチウムコバルト複合酸化物が製造できる。
高い比表面積を有する本発明の活物質は電解質溶液との大きな接触面積を持ち、リチウムイオンのスムースな移動を可能にする。また本発明の活物質の持つ強靱な結晶は、リチウムイオンの挿入及び脱離時の歪の発生を抑制し、電極の破壊を防止する。かかる作用の結果、本発明の活物質を用いた二次電池は、大電流を流せ、急速充電が可能で、しかも高容量と長寿命を達成した。
【0023】
【実施例】
(実施例1)
Co含有量測定値64.2重量%であるCoOOH(Queensland Nickel Pty.Ltd.製)を91.8g、及びLi 2 CO 3 の37.0gを乳鉢に取り、撹拌、粉砕しながら混合した後、550℃で3時間加熱処理して、95.8gのLiCoO 2 を得た。
なお、図1は原料としたCoOOHのX線回折パターンであり、その平均粒径は10.4μmであった。
このLiCoO2の90部、カーボン5部、及びポリフッ化ビニリデン5部に20部のN−メチルピロリドンを加えて混練りして、ペーストとした。このペーストをアルミ箔に塗布して乾燥後、圧延して所定の大きさに打ち抜き、正極板とした。
次に、95部のカーボンと5部のポリフッ化ビニリデンに20部のN−メチルピロリドンを加えて混練りしてペーストとした。このペーストを銅箔に塗布して乾燥後、圧延して所定の大きさに打ち抜き、負極板とした。
【0024】
こうして得られた正極板、負極板にそれぞれリード線を取り付け、ポリオレフィン系セパレータを介してステンレス製セルケースに収納した。続いて、エチレンカーボネートとジエチレンカーボネートの混合液に六フッ化リン酸リチウムを1モル/リットル溶かした電解質溶液を注入し、モデルセルとした。
電池特性は、充放電測定装置を用い、25℃において、最大充電電流0.20mAで電池電圧4.2Vになるまで充電した後、同一電流で2.7Vになるまで放電する充放電の繰返しを行い、初期放電容量と100サイクル後の放電容量とを求めて評価した。
【0025】
その結果を表1にした。
なお、容量保持率は式2で求めた。
【式2】
【表1】
表1より本モデルセルは、電気容量が大きく、サイクル寿命の長いことがわかる。
【0026】
(比較例1)
2.3重量%の水を含有したCo(OH)2 の95gを800℃にて2時間加熱処理し、平均粒径11.2μmのCo3 O4 を78.5g得た。これに36.1gのLi2 CO3 と100gの水を加えて混合し、95℃にて撹拌し、1時間後に乾固した粉体を取り出し、さらに100℃にて2時間乾燥して、125.5gリチウムコバルト複合化合物前駆体粒子を調製した。
この前駆体粒子を700℃にて2時間焼成した後、X線回折を測定したが、LiCoO2 の六方晶系に基づく(003)や(104)といった特徴的な強い反射はほとんど観察されなかった。
なお図2は、ここで使用したCo(OH)2 のX線回折パターンである。
【0027】
(比較例2)
比較例1と同様にして調整したリチウムコバルト複合酸化物前駆体粒子を900℃にて24時間焼成し、LiCoO2 の合成を試みた。しかしながら、焼成物のX線回折を測定した結果、Co3 O4 に基づく特徴的な反射が観察され、まだ反応の完結していないことがわかった。
【0028】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、比較的簡単な工程により、微細で、強固に発達した層状の結晶構造、及び高い比表面積とを有するリチウムコバルト複合酸化物が、250〜1000℃という広い温度範囲で安定して製造できる。また、かかるリチウムコバルト複合酸化物は高い充填率を持つことから、リチウム二次電池用電極活物質として特に優れている。
そして、本発明の方法で製造されたLiCoO2 を電極活物質としたリチウム二次電池は、電気容量が大きく、エネルギ密度と充放電効率が高いうえ、寿命が長いというすぐれた効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1で使用したCoOOHのX線回折パターン図。
【図2】 比較例1で使用したCo(OH)2 のX線回折パターン図。
Claims (1)
- 不定形の3価のオキシ水酸化コバルトCoOOH粒子と、炭酸リチウム粒子とを混合して調製された前駆体混合体を250〜1000℃の温度範囲で加熱処理して製造されることを特徴とするリチウムコバルト複合酸化物の製造方法。
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