JP4060463B2 - 可撓性膜堰 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、水底に設置されて、堰、消波堤等として用いられる可撓性膜堰に関し、特に、起立時の集中応力を抑えることのできる可撓性膜堰に関する。
【0002】
【従来の技術】
可撓性膜堰の本体を構成する可撓性膜は通常帆布等の補強芯体層をゴム等の弾性体と一体に加硫成形し平面状にかつ長尺シート状に製造されている。
【0003】
一方、河川に敷設される可撓性膜は、川底のほぼ水平な河床面に加えて、川岸や堤防等に設けられる法面という傾斜を伴う基礎上に立体的に取付けられ、その形状は三次元を曲面を有する立体形状に膨張した状態で機能するものである。
【0004】
図11及び図12(A)に示すように、従来、平面状の河床面102及び法面104に、下押え金具106を平行に配置し、可撓性膜108の外周端縁付近を下押え金具106と上押え金具110との間で挟持固定している可撓性膜堰100がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
図12(A)に示すように、法面104においては可撓性膜108の外周縁付近が法面104と平行な状態で挟持固定されている。このため、倒伏している状態では、可撓性膜108は法面104に対して略平行な状態であり、可撓性膜108に張力等は殆ど作用しない。
【0006】
次に、内部に流体を供給して図11の想像線で示すように起立させると、図12(B)に示すように下押え金具106及び上押え金具110で挟持されていない可撓性膜108に内圧(矢印P)が作用し、内面側には矢印A方向に沿った張力が作用して内面が非常につっぱった状態(緊張した状態)となる反面、外面には矢印A方向に沿った圧縮力が作用して外面は弛んだ状態(皺が寄った状態)となる。
【0007】
ここで、図13に示すように、法面104に配置された下押え金具106及び上押え金具110の挟持面が可撓性膜108の外周縁の長手方向に沿って凹凸形状となっていると、起立したときに凹部付近の可撓性膜108が引きつり、引きつった箇所に集中応力が発生するという問題がある。
【0008】
なお、他の従来例として、図14(A)に示すように厚い下押え金具106と薄い上押え金具110とによって可撓性膜108を挟持固定するものもあるが、図14(B)に示すように、下押え金具106及び上押え金具110で挟持されていない可撓性膜108に内圧(矢印P)が作用し、内面側には矢印A方向に沿った張力が作用して内面が非常につっぱった状態(緊張した状態)となる反面、外面には矢印A方向に沿った圧縮力が作用して外面は弛んだ状態(皺が寄った状態)となり、前述した従来例と同様に法面104に配置された下押え金具106及び上押え金具110の挟持面が可撓性膜108の外周縁の長手方向に沿って凹凸形状となっていると、起立したときに凹部付近の可撓性膜108が引きつり、引きつった箇所に集中応力が発生するという問題がある。
【0009】
本発明は上記事実を考慮し、可撓性膜に作用する集中応力を抑えることのできる可撓性膜堰を提供することが目的である。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、設置面に設けられた取付部位に可撓性膜の外周部分を取り付け、流体の供給、排出により起立、倒伏する可撓性膜堰であって、前記可撓性膜の外周縁に対して直角な断面で見た時に、前記取付部位には、前記可撓性膜の倒伏、及び起立を行う内側部分から前記外周縁に向かって下るように、前記設置面に対して角度を持つ下り斜面を備えた突部が形成されている、ことを特徴としている。
【0011】
請求項1に記載の可撓性膜堰の作用を説明する。
【0012】
内部より流体の排出された可撓性膜堰においては、可撓性膜は自重によって設置面に沿って略密着状態となる。ここで、可撓性膜の外周縁が可撓性膜の外周縁に向かって下る下り斜面に取り付けられているため、可撓性膜は、取付部位の内周側端部から内側部分(実際に倒伏・起立する部分)の取付部位近傍において、内面(設置面側の下面)がやや弛み、外面(上面)にやや張力が作用してつっぱった状態となる。
【0013】
内部に流体を供給して内圧を高め可撓性膜堰を起立させると、可撓性膜は外周付近を設置面の取付部位に取り付けられた状態で設置面から離れるため、取付部位の内周側端部から内側部分は設置面に対してある角度をもつことになる。
【0014】
可撓性膜堰が起立し、前述したように可撓性膜が設置面に対してある角度をもつと可撓性膜の内面側に張力が作用するが、本発明では、倒伏した状態において内面がやや弛んでいるので、可撓性膜堰が起立したときの内面側の張力の上昇が抑えられる。また、このように内面側の張力の上昇が抑えられると、可撓性膜の取付部位が外周縁に沿って凹凸形状の場合に発生しやすい集中応力を抑えることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の可撓性膜堰において、前記可撓性膜の外周縁に対して直角な断面で見たときの前記下り斜面の傾斜角度は、前記設置面に対して30°〜90°であることを特徴としている。
【0016】
請求項2に記載の可撓性膜堰の作用を説明する。
【0017】
下り斜面の傾斜角度が30°未満になると、起立させたときの可撓性膜に生じる集中応力を十分に抑えることが出来なくなる。このため、可撓性膜の取付部位が外周縁に沿って凹凸形状の場合に発生しやすい集中応力を抑えることも出来なくなる。
【0018】
一方、下り斜面の傾斜角度が90°を越えると、倒伏したときに可撓性膜の外面側に張力が発生して集中応力を生じる虞れがある。
【0019】
したがって、下り斜面の傾斜角度を設置面に対して30°〜90°とすることが好ましい。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明に係る可撓性膜堰の一実施形態を図1乃至図6にしたがって説明する。
【0021】
図1には、本実施形態の可撓性膜堰14が斜視図にて示されている。
【0022】
図1において、1はコンクリート等により形成された取付けベースを、2は取付けベース1に設けられた可撓性膜3の据付面を示す。
【0023】
図2(A)には、据付面2及び可撓性膜3の展開図が示されている。
【0024】
図2(A)に示すように、この可撓性膜3は、展開時の形状が2次元の平面シート形状であり、長手方向中間部分3Bが一定幅Lとされ、長手方向両端部分3Fが各々先細りの台形形状に形成されている。
【0025】
図1及び図2(B)に示すように、この可撓性膜3を据え付ける据付面2は、可撓性膜3の長手方向中間部分3Bを固定する略水平(又は下流側へ若干傾斜している場合もある)な河床面部4と、その河床面部4に連続して可撓性膜3の長手方向両端部分3Fを固定する傾斜した法面部5とからなる。
【0026】
図2(B)に示すように、法面部5は、全体として水平線HLに対して角度θ1で傾斜している。
【0027】
図3に示すように、据付面2には、可撓性膜3が取り付けられる部分に下押え金具8Aが敷設されている。
【0028】
下押え金具8Aは、取付けベース1に埋設されたアンカーボルト7に固定されている。
【0029】
可撓性膜3の長手方向中間部分3Bは、外周縁の一定幅部分が、この下押え金具8Aと、上押え金具9Aとに挟持されている。
【0030】
取付けベース1には、下押え金具8Aに沿ってアンカーボルト7が埋設されている。このアンカーボルト7の一部は下押え金具8A、可撓性膜3及び上押え金具9Aを貫通しており、アンカーボルト7にナット10を螺合させて締めつけることにより上押え金具9Aと下押え金具8Aとの間に可撓性膜3の外周縁の一定幅部分を固定している。
【0031】
図1,5(A)に示すように、法面部5には、可撓性膜3の長手方向両端部分3Fが取り付けられる部分に傾斜面12を備えた突部13が形成されており、この傾斜面12に一定幅の下押金具8Bが敷設されている。
【0032】
図4,6に示すように、下押え金具8Bの上面には可撓性膜3の外周縁に沿って凸部16と一対の凹部18とが形成されており、凹部18は隣接する下押え金具8Bの凹部18と連結するようになっている。
【0033】
下押え金具8Bの上面が本発明の下り斜面に相当しており、図5(A)に示すように本発明の設置面に相当する法面部5に対する下押え金具8Bの上面がなす傾斜角度θ1 は、30°〜90°の範囲内に設定されている。
【0034】
凸部16の中央からは、M39のアンカーボルト7の螺子部分が突出している。
【0035】
また、可撓性膜3には、アンカーボルト7を挿通するボルト孔20が外周縁に沿って複数形成されている。
【0036】
図4,5(A),6に示すように、可撓性膜3は、長手方向両端部分3Fの両側部(図2(A)のB1 〜A1 及びB4 〜A3 )の外周縁の一定幅部分が、この下押え金具8Bと、下押え金具8Bに形成された凸部16及び凹部18に対応する凹部22及び凸部24を有する上押え金具9Bとに挟持されている。
【0037】
上押え金具9Bには、アンカーボルト7の挿通するボルト孔26が形成されている。
【0038】
この長手方向両端部分3Fの両側部の外周縁の一定幅部分は、可撓性膜3のボルト孔20及び上押え金具9Bのボルト孔26を挿通したアンカーボルト7にナット10を螺合させて締め付けることにより上押え金具9Bと下押え金具8Bとの間に挟持固定されている。
【0039】
ここで、下押え金具8Bには可撓性膜3の外周縁付近に沿って延びる断面が矩形の2本のリブ28が形成され、上押え金具9Bにはリブ28と対向する位置に断面が矩形の溝30が形成されており、これによって可撓性膜3は複数回屈曲され、摩擦力が増大された状態で挟持固定されている。
【0040】
図4及び図6に示すように、本実施形態の上押え金具9Bはアンカーボルト7毎に分割されているが、複数個を一体化した形状のものであっても良い。
【0041】
なお、長手方向両端部分3Fの端部3Dは、図4で示した取付方法と同様にして上押え金具9Bと下押え金具8Bとの間に挟まれて法面部5に固定されている。
【0042】
次に、本実施形態の可撓性膜堰14の施工方法及び作用を説明する。
【0043】
可撓性膜3の側部3Cを上押え金具9A,9Bによって据付面2に取り付ける場合、可撓性膜3の膨張起立時の立体的な袋体を形成するためには、それぞれの側部3Cを中心線CLに近接させて可撓性膜3の周長を構成する展張時の幅Lが、可撓性膜3の周長Lを形成するようにすることができる。
【0044】
即ち、側部D1 を据付固定点D2 へ、以下C1 をC2 へ、B1 をB2 へ、A1 をA2 へそれぞれ中心線CL側に幅寄せし、また、同様に、反対側の可撓性膜3の側部D4 をD3 へ、C4 をC3 へ、B4 をB3 へ、A3 をA4 へと幅寄せして取付け据え付ける。
【0045】
ここで、図2(A)に示すように、可撓性膜3の辺B1 A1 をその長さより短い長さの据付面2の辺B2 A2 に取り付けるため、辺B1 A1 に余剰が生じるが、この余剰部分は、可撓性膜3のボルト孔20とボルト孔20との間の部分を、下押え金具8Bの凹部18の壁面に沿わせることにより吸収される。
【0046】
図1及び図5(A)には、倒伏状態の可撓性膜堰14が示されており、可撓性膜3は自重によって据付面2に略密着状態となる。
【0047】
図5(A)に示すように、法面部5においては、可撓性膜3の外周縁付近が可撓性膜3の外周縁に向かって下る下押え金具8Bの上面に沿って傾斜した状態で取り付けられているため、可撓性膜3は、上押え金具9B及び下押え金具8Bの内側部分(実際に倒伏・起立する部分)の上押え金具9B及び下押え金具8Bの近傍において、内面(法面5側の下面)がやや弛み、外面(上面)がやや張力が作用してつっぱった状態となる。即ち、厚肉のシートや板状の部材が曲げられると、曲率半径外側では張力が、曲率半径内側では圧縮力が作用する現象と同じ現象が可撓性膜3に生じる。
【0048】
次に、可撓性膜3の内部に空気等の流体を供給して内圧を高めると、金具の内側部分が据付面2から離れ、金具付近の可撓性膜3は図5(B)に示すように、法面5に対してある角度をもつことになる。
【0049】
可撓性膜3が法面5に対してある角度を持つように可撓性膜堰14が起立すると、可撓性膜3の内面側に張力が作用するが、本実施形態では、図5(A)に示すように倒伏した状態において内面側を予め弛ませているので、可撓性膜堰14が起立したときの内面側の張力の上昇を抑えることができ、可撓性膜2の下押え金具8Bの凹部18付近に生じる集中応力を抑えることができる。
【0050】
ここで、傾斜角度θ1 が30°未満になると、起立させたときの可撓性膜3の内面側に生じる張力の上昇を十分に抑えることが出来なくなり、したがって、集中応力を十分に抑えることが出来なくなる。
【0051】
一方、傾斜角度θ1 が90°を越えると、倒伏したときに可撓性膜3の外面側に張力が発生して集中応力を生じる虞れがある。
【0052】
なお、起立した時の可撓性膜3の方向を、下押金具8B(傾斜面12)の方向と一致させることにより、集中応力の発生を零にすることも可能である。
[他の実施形態]
前記実施形態では、下押え金具8Bにリブ28が2本、上押え金具9Bに溝30が2本形成されていたが、本発明はこれに限らず、図7に示すように、下押え金具8Bにリブ28を3本、上押え金具9Bに溝30を3本形成しても良く、リブ28及び溝30の数を更に増加しても良い。
【0053】
また、前記実施形態では、リブ28及び溝30が可撓性膜3の外周縁に沿って途切れることなく連続した状態で形成されていたが、本発明はこれに限らず、図8に示すように、凹部18のみに形成されていても良い。凹部18にのみリブ28を形成した場合、上押え金具9Bの溝30は凸部24にのみ形成する。
【0054】
また、前記実施形態では、リブ28及び溝30の断面形状が矩形であったが、本発明はこれに限らず、図9に示すように、角部が滑らかな曲線で形成された略台形形状等の他の形状であっても良い。
【0055】
図7乃至図9の何れの場合も、複数のリブ28及び溝30によって可撓性膜3との摩擦力を増大して可撓性膜3を確実に固定することができる。
【0056】
なお、図10(A)に示すように、厚い下押え金具8Bと薄い上押え金具9Bとによって可撓性膜3を若干浮かすように固定しても良い。
【0057】
この場合においても、可撓性膜3の内部に空気等の流体を供給して内圧を高めると、可撓性膜堰14は金具付近の可撓性膜3が図10(B)に示すように法面5に対してある角度をもつように起立して可撓性膜3の内面側に張力が作用するが、図10(A)に示すように可撓性膜堰14が倒伏した状態において可撓性膜3の内面側を予め弛ませているので、前述した実施形態と同様に可撓性膜堰14が起立したときの内面側の張力の上昇を抑えることができ、可撓性膜2の下押え金具8Bの凹部18付近に生じる集中応力を抑えることができる。
【0058】
また、前記実施形態では、下押え金具8Bの上面が、傾斜面12に平行であったが、本発明はこれに限らず、可撓性膜3を挟持している部分のうち少なくとも外周縁とは反対側の領域が法面5に対して傾斜していれば良い。
【0059】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の可撓性膜堰は上記の構成としたので、起立時の集中応力を抑えることができ、耐久性を向上させることができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る可撓性膜堰の斜視図である。
【図2】(A)は可撓性膜及び据付面の展開図であり、(B)は取付けベースの河の流れに直角な断面図である。
【図3】河床面部での可撓性膜の固定部分を示す断面図である。
【図4】法面部での可撓性膜の固定部分を示す外周縁に沿った断面図(図5(A)の4−4線断面図)である。
【図5】(A)は法面部での可撓性膜(倒伏時)の固定部分を示す外周縁に直角な断面図であり、(B)は法面部での可撓性膜(起立時)の固定部分を示す外周縁に直角な断面図である。
【図6】法面部での可撓性膜の固定部分を示す分解斜視図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る可撓性膜堰の法面部での可撓性膜の固定部分を示す分解斜視図である。
【図8】本発明の更に他の実施形態に係る可撓性膜堰の法面部での可撓性膜の固定部分を示す分解斜視図である。
【図9】本発明の更に他の実施形態に係る可撓性膜堰の法面部での可撓性膜の固定部分を示す分解斜視図である。
【図10】(A)は本発明の他の実施形態に係る可撓性膜堰の法面部での可撓性膜(倒伏時)の固定部分を示す外周縁に直角な断面図であり、(B)は法面部での可撓性膜(起立時)の固定部分を示す外周縁に直角な断面図である。
【図11】従来の可撓性膜堰の斜視図である。
【図12】(A)は従来の可撓性膜堰の法面部での可撓性膜(倒伏時)の固定部分を示す外周縁に直角な断面図であり、(B)は従来の可撓性膜堰の法面部での可撓性膜(起立時)の固定部分を示す外周縁に直角な断面図である。
【図13】従来の可撓性膜堰の法面部での可撓性膜の固定部分を示す外周縁に沿った断面図である。
【図14】(A)は他の従来例に係る可撓性膜堰の法面部での可撓性膜(倒伏時)の固定部分を示す外周縁に直角な断面図であり、(B)は法面部での可撓性膜(起立時)の固定部分を示す外周縁に直角な断面図である。
【符号の説明】
3 可撓性膜
5 法面部(設置面)
8B 下押え金具(下り斜面)
14 可撓性膜堰
Claims (2)
- 設置面に設けられた取付部位に可撓性膜の外周部分を取り付け、流体の供給、排出により起立、倒伏する可撓性膜堰であって、
前記可撓性膜の外周縁に対して直角な断面で見た時に、前記取付部位には、前記可撓性膜の倒伏、及び起立を行う内側部分から前記外周縁に向かって下るように、前記設置面に対して角度を持つ下り斜面を備えた突部が形成されている、ことを特徴とする可撓性膜堰。 - 前記可撓性膜の外周縁に対して直角な断面で見たときの前記下り斜面の傾斜角度は、前記設置面に対して30°〜90°であることを特徴とする請求項1に記載の可撓性膜堰。
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