JP4056669B2 - 断熱材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、無機繊維質成形体、断熱材及びこれらの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
無機繊維及び無機バインダ等を焼成して形成される無機繊維質断熱材は、キャスタブル耐火材料に比較して軽量で扱い易く、且つ、断熱性に優れるため、各種工業炉等の耐熱性や断熱性が要求される用途に用いられている。例えば、無機繊維質断熱材は極めて高いクリーン度が要求される電子部品を熱処理するための電気炉等に用いられている。
【0003】
しかし、従来の無機繊維質断熱材は表面に無機繊維等が露出しているため、使用の際に無機繊維等が脱落して発塵する。また、電気炉等で急激な加熱や冷却が行われると、無機繊維質断熱材の耐熱衝撃性が十分でないため急激な膨張や収縮に耐えられずにクラックや剥離が生じ易く、さらにクラック等により発塵することがある。また、無機繊維質断熱材は、1500℃程度の高温で長期間に渡り使用すると、断熱材中の無機繊維が加熱収縮することにより断熱材全体が収縮して寸法変化を生じ、さらにクラックや剥離が生じたり発塵することがあった。
【0004】
無機繊維質断熱材の発塵を抑制する発明としては、例えば、例えば、特開平1−219038号公報に、無機質繊維材料等からなる多孔質焼結体の表面の少なくとも一部に釉薬を塗布、熱処理してガラス質層を形成してなるメタルグレーズ焼付用治具が開示されており、該治具によれば熱スポーリング性等に優れ、発塵が抑制される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、無機質繊維材料の表面をガラス質層で被覆すると、複層構造となるために無機質繊維材料全体しての耐熱衝撃性が低くなる。すなわち、短時間で急激に加熱や冷却を行うと、ガラス質層と繊維質の基材との間の熱膨張係数の違いにより、ガラス質層にクラックが発生したりガラス質層が基材から剥離したりするという問題があった。また、該断熱材の作製時においても、焼成の際のガラス質層の収縮率が基材の収縮率よりも大きいため、応力の差によりガラス質層にクラックや剥離が生じるという問題があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、発塵性が低く、全体として耐熱衝撃性に優れ、酸化雰囲気、且つ、1500℃程度の高温下での長期間に渡る使用でも断熱材自体の寸法変化が小さく、クラックや剥離が生じ難い断熱材、断熱材の原料である無機繊維質成形体及びこれらの製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
かかる実情において、本発明者は鋭意検討を行った結果、少なくとも表面の一部に、無機繊維等による3次元骨格構造の無機繊維融着体とシリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子と特定ガラスを主成分とするガラスマトリクスとからなる層が形成され、且つ、前記無機繊維融着体及び該シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子が該ガラスマトリクスに実質的に取り込まれ固定された断熱材であれば、1500℃程度の高温での使用により軟化して相互に結合した珪酸成分によるガラスマトリクスに無機繊維等が実質的に固定され表面から脱落しないため発塵性が低く、断熱材の下地と材質が類似するため全体としての耐熱衝撃性に優れ、1500℃程度の高温での長期間に渡る使用でも徐々に酸化して膨張するガラス成分が無機繊維の加熱収縮と相殺することにより寸法変化が小さく、クラックや剥離が生じ難い断熱材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、無機繊維ガラスマトリクス層のみで構成された断熱材であって、該無機繊維ガラスマトリクス層は無機繊維が無機バインダにより相互に融着された3次元骨格構造の無機繊維融着体とシリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子と珪酸ガラスを主成分とするガラスマトリクスとからなり、且つ、該無機繊維融着体と該シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子とが前記ガラスマトリクスに実質的に取り込まれ固定されていることを特徴とする断熱材を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、無機繊維ガラス前駆体層のみで構成された無機繊維質成形体を、酸化性雰囲気中で加熱することにより、該無機繊維質成形体中に存在する前記ガラス前駆体の少なくとも一部を珪酸ガラスを主成分とするガラスマトリクスに変性して、該無機繊維融着体と該シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子とが前記ガラスマトリクスに実質的に取り込まれ固定されている断熱材を得る断熱材の製造方法であって、
該無機繊維ガラス前駆体層は無機繊維が有機バインダにより相互に結合された3次元骨格構造の無機繊維結着体とシリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子と酸化により珪酸ガラスを生成し膨張するガラス前駆体と無機バインダとからなり、
且つ、該シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子と該ガラス前駆体と該無機バインダとが前記有機バインダにより前記無機繊維結着体に結合されていること、
を特徴とする断熱材の製造方法を提供するものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
初めに、本発明に係る無機繊維質成形体及び断熱材の組成について簡単に説明する。本発明に係る無機繊維質成形体は少なくとも表面の一部に無機繊維ガラス前駆体層が形成された脱水成形等により得られる無機繊維質成形体であり、後述する1500℃程度の加熱処理が行われていないものである。無機繊維質成形体の構造としては、無機繊維ガラス前駆体層のみからなる単層構造のもの又は無機繊維ガラス前駆体層に隣接して他の層が形成された複層構造のものが挙げられる。
【0012】
無機繊維ガラス前駆体層は無機繊維結着体とシリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子とガラス前駆体とから構成される層である。無機材料結着層は無機材料結着体から構成される層である。無機繊維結着体は無機繊維が凝集剤により相互に結合されたものであり、ガラス前駆体は酸化により珪酸ガラスを生成し膨張するものであり、無機材料結着体は無機繊維を含む無機材料及び無機バインダが凝集剤により相互に結合されたものである。
【0013】
本発明に係る断熱材は少なくとも表面の一部に無機繊維ガラスマトリクス層が形成された断熱材であり、上記無機繊維質成形体に後述する1500℃程度の加熱処理を行ったものである。断熱材の構造としては、無機繊維ガラスマトリクス層のみからなる単層構造のもの又は無機繊維ガラスマトリクス層に隣接して他の層が形成された複層構造のものが挙げられる。
【0014】
無機繊維ガラスマトリクス層は無機繊維融着体とシリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子とガラスマトリクスとから構成される層である。ガラスマトリクスは珪酸ガラスを主成分とするものである。以下、本発明に係る無機繊維質形成体、断熱材及びこれらの製造方法について詳細に説明する。
【0015】
まず、本発明に係る無機繊維質成形体について説明する。無機繊維としては、例えば、アルミナ質繊維、シリカアルミナ質繊維等が挙げられる。アルミナ質繊維としては、例えば、Al2 O3 含有量が90重量%以上の多結晶アルミナ質繊維が挙げられる。シリカアルミナ質繊維としては、例えば、ムライト質繊維、その他シリカ成分とアルミナ成分とを特定の割合で含むものが挙げられる。無機繊維は、平均繊維長が10〜5000μm 、好ましくは50〜200μm 、平均繊維径が1〜10μm 、好ましくは2〜5μm である。平均繊維長が該範囲内にあり、また、平均繊維径が該範囲内にあると、適当な繊維の分散性や密度、ある程度以上の強度が得られるため好ましい。無機繊維は上記のものを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0016】
凝集剤は、無機繊維質成形体において無機繊維が相互に結合して3次元骨格構造の無機繊維結着体を形成できるものであり、加熱により無機繊維を融着する無機バインダとは異なるものである。凝集剤としては、例えば、ポリアクリルアミド等の有機バインダが挙げられる。
【0017】
シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子は、単体又は混合して用いられる。シリカアルミナ粒子は、シリカ成分とアルミナ成分とを特定の割合で含む化合物であり、例えば、ムライト粒子が挙げられる。これらの粒子は、酸化雰囲気、且つ、1500℃程度で加熱処理しても酸化されず実質的に膨張も収縮もしないため、無機繊維質成形体にガラス前駆体と共に配合することにより、無機繊維質成形体における上記加熱処理の際のガラス前駆体の膨張の度合いを調整することができる。シリカ粒子又はアルミナ粒子の平均粒径は、10μm 以下、好ましくは1〜5μm である。シリカ粒子又はアルミナ粒子は、上記のものを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0018】
シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子のうちアルミナ粒子及びシリカアルミナ粒子は、1500℃程度の加熱処理により無機繊維と融着すると共にガラスマトリクスに取り込まれ固定される。一方、シリカ粒子はSiO2 からなり、酸化によりガラス前駆体の表面から内部にかけて徐々に生成するガラス(SiO2 含有成分)が相互に結合して構成されるガラスマトリクスと同質であるため、加熱処理の際にはガラス前駆体から生成したガラスと同様に溶融軟化して結合しガラスマトリクスと一部同化すると共に取り込まれ固定される。しかし、シリカ粒子は加熱処理で実質的に膨張する余地がない点でアルミナ粒子やシリカアルミナ粒子と同様の作用を有し、内部にガラス前駆体を含むこと等でさらに膨張する余地のあるガラスマトリクスとは区別される。従って、本発明においてはシリカ粒子とガラスマトリクスとは別のものとして扱う。シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子は無機繊維ガラス前駆体層中においては凝集剤により無機繊維結着体等に結合されている。
【0019】
酸化により珪酸ガラスを生成し膨張するガラス前駆体としては、酸化雰囲気中で加熱されたときに、単独で又は無機繊維もしくは無機バインダと共に反応して、少なくとも徐々に珪酸ガラスを生成し膨張する物質が用いられる。珪酸ガラスを生成するに必要な温度は、500〜1600℃、好ましくは1000〜1500℃である。このようなガラス前駆体としては、例えば、炭化珪素(SiC)、窒化珪素(Si3 N4 )又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0020】
ガラス前駆体が酸化により珪酸ガラスを生成し膨張する例を以下に説明する。ガラス前駆体がSiCである場合は、以下のように反応する。
【0021】
SiC+2O2 →SiO2 +CO2 (1)
【0022】
上記式(1)による反応は、SiCがSiO2 を生成する際に、SiCの体積100に対しSiO2 の体積は208になり、体積が108%膨張する。また、ガラス前駆体がSi3 N4 である場合は、以下のように反応する。
【0023】
Si3 N4 +3O2 →3SiO2 +2N2 (2)
【0024】
ガラス前駆体は、無機繊維結着体による3次元骨格構造中に分散し、且つ、凝集剤により無機繊維結着体に結合される形態のものであればよい。このような形態のものとしては、例えば、粒状又は短繊維状の粉体が挙げられる。なお、粒状とは完全な球状の粒状物には限定されない。ガラス前駆体が粒状である場合、ガラス前駆体の粒径は0.1〜50μm 、好ましくは1〜10μm である。また、ガラス前駆体が短繊維状である場合、平均繊維径は0.05〜3μm 、好ましくは0.5〜3μm 、平均繊維長は5〜500μm 、好ましくは10〜100μm である。ガラス前駆体は、上記組成及び形態のもののうち1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0025】
無機バインダとしては、1000℃以上の加熱処理により無機繊維同士を融着可能なものが用いられ、例えば、コロイダルシリカ、アルミナゾル等が挙げられる。無機バインダは無機繊維ガラス前駆体層中においては凝集剤により無機繊維結着体等に結合されている。
【0026】
無機繊維ガラス前駆体層は、無機繊維質成形体の少なくとも表面の一部に形成される層であって、無機繊維が凝集剤により相互に結合された3次元骨格構造の無機繊維結着体とシリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子と酸化により珪酸ガラスを生成し膨張するガラス前駆体と無機バインダとからなり、且つ、シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子とガラス前駆体と無機バインダとが凝集剤により無機繊維結着体に結合され形成される。
【0027】
無機繊維ガラス前駆体層中、無機繊維は10〜50重量%、好ましくは20〜40重量%含まれる。無機繊維の配合量が10重量%未満であると、無機繊維による補強効果が不十分で無機繊維質成形体の強度が低くなるため好ましくない。また、50重量%を越えると、ガラス前駆体を酸化して珪酸ガラス等を主成分とするガラスマトリクスを生成する際に、ガラスマトリクスの占める割合が小さくて無機繊維がガラスマトリクスに実質的に取り込まれ固定され難くなるため、発塵の抑制が十分でなくなるため好ましくない。
【0028】
無機繊維ガラス前駆体層中、シリカ粒子又はアルミナ粒子は20〜50重量%、好ましくは25〜35重量%含まれる。シリカ粒子又はアルミナ粒子の配合量が20重量%未満であると、ガラス前駆体の割合が多くなり、膨張の影響が大きくなるため好ましくない。また、該配合量が50重量%を越えると、無機繊維の配合との関係でガラス前駆体の割合が少なくなるため、ガラスマトリクスが無機繊維を取り込む作用が小さくて発塵性が高くなり、またガラスマトリクスの生成による無機繊維の加熱収縮の相殺が十分に行われず、寸法安定性が悪くなるため好ましくない。
【0029】
無機繊維ガラス前駆体層中、ガラス前駆体は20〜50重量%含まれる。ガラス前駆体の配合量が20重量%未満であると、酸化雰囲気、且つ、1500℃程度の高温下での使用の際に、ガラス前駆体の酸化により生成し膨張する珪酸ガラスを主成分とするガラスマトリクスの量が少なくなるため、発塵性を低くできないと共に無機繊維の加熱収縮を十分に抑制できず寸法安定性に劣り好ましくない。また、ガラス前駆体の配合量が上記範囲より多いと、形成されるガラスマトリクスの量が多くなるため、無機繊維ガラス前駆体層が膨張しすぎて寸法安定性に劣り、無機繊維による補強効果が十分でなく、さらに、ガラス前駆体及びガラスマトリクスが共に熱伝導率が高いため断熱材全体として断熱効果が低下し好ましくない。
【0030】
無機繊維ガラス前駆体層中、シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子とガラス前駆体との配合量の重量比率は7:3〜3:7である。該配合量よりもシリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子が少ないと、1500℃程度の加熱処理の際にガラス前駆体の膨張が大きすぎて無機繊維質成形体等の寸法安定性が劣ると共にクラックや層の剥離が生じることがあるため好ましくない。また上記配合量よりもシリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子が多いと、上記加熱処理の際にガラス前駆体の膨張が不十分で無機繊維の加熱収縮を相殺できず無機繊維質成形体等の寸法安定性が劣ると共にクラックや層の剥離が生じ易く、また発塵が多くなるため好ましくない。
【0031】
また、無機繊維ガラス前駆体層中、シリカ粒子又はアルミナ粒子及びガラス前駆体の合計量と、無機繊維結着体との重量比率は、通常8:2〜5:5、好ましくは7:3〜6:4である。該重量比率よりもシリカ粒子又はアルミナ粒子及びガラス前駆体の合計量が少ないと、無機繊維の発塵を十分に抑制できないため好ましくない。また、上記重量比率よりもシリカ粒子等の該合計量が多いと、無機成形体等の強度が不足するため好ましくない。
【0032】
無機繊維ガラス前駆体層中、無機バインダは1〜30重量%、好ましくは3〜15重量%含まれる。無機バインダが1重量%未満であるとバインダとしての効果が十分でなく、また、30重量%を越えるとバインダとしての効果がこれ以上向上せず不経済なため好ましくない。
【0033】
無機繊維ガラス前駆体層は、密度が0.3〜1.0g/cm3 である。該密度が0.3g/cm3 未満であると、ガラス前駆体又はシリカ粒子が溶融軟化しても無機繊維やシリカ粒子又はアルミナ粒子を十分に強固には結合できず、発塵するため好ましくない。無機繊維ガラス前駆体層の厚さとしては、用途により適宜選択すればよいが、断熱材として用いられる場合には1mm以上、好ましくは1〜5mmである。該厚さが1mm未満であると、断熱材としての強度が小さいため好ましくない。
【0034】
無機繊維ガラス前駆体層は、無機繊維質成形体の表面層として形態を保持する程度の強度を有していればよく、例えば、無機繊維等の脱落が多少ある程度の強度のものでもよい。無機繊維ガラス前駆体層が酸化雰囲気下で1500℃以下に加熱されると、該層中の無機繊維は加熱収縮し、ガラス前駆体はその表面から内部に向かって徐々に酸化されガラス化して膨張すると共にガラス前駆体同士が結合してガラスマトリクスを生成する。この際、シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子は実質的に収縮も膨張もしない。
【0035】
無機繊維の加熱収縮の速度とガラス前駆体の膨張の速度との関係は、無機繊維質繊維質成形体の組成及び加熱温度等により変化する。例えば、本発明の無機繊維質成形体において、シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子を用いず、ガラス前駆体とアルミナ質繊維又はムライト質繊維とアルミナゾルやコロイダルシリカ等とからなる無機繊維質成形体を作製した場合、加熱温度が1500℃程度であるとガラス前駆体の膨張作用が無機繊維の加熱収縮作用に対して大きく無機繊維質成形体全体としては膨張する。しかし、ガラスマトリクス又は無機繊維と強固に結合すると共に実質的に収縮も膨張もしないシリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子を所定量配合することにより、1500℃程度の加熱温度でガラス前駆体の膨張作用と無機繊維の加熱収縮作用とが相殺される。このため、寸法安定性が高くなると共に、膨張したガラスマトリクスにより無機繊維やシリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子が取り込まれるため発塵性が低くなり、また、寸法安定性が高いため、クラックや剥離が発生し難い。
【0036】
本発明に係る無機繊維質成形体は、少なくとも表面の一部に無機繊維ガラス前駆体層が形成されたものである。すなわち、無機繊維ガラス前駆体層は、無機繊維質成形体の少なくとも表面全体又はその一部に形成されていればよく、必要により無機繊維質成形体の内部まで形成されていてもよい。無機繊維質成形体の形状としては、特に限定されないが、例えば、円筒形状、板状等が挙げられる。無機繊維質成形体は、空気中において1400℃で10時間加熱した前後の寸法変化率が±1〜±3%、好ましくは±0%である。
【0037】
無機繊維質成形体は、このままで、又は必要により後述の加熱処理を行ってガラス前駆体をガラスマトリクスに変性させることにより、例えば、電気炉等の断熱材として使用できる。なお、ガラス前駆体は無機繊維や無機バインダ等よりも熱伝導率が高いため、無機繊維ガラス前駆体層自体の断熱性能はそれほど高くないが、例えば、表面に形成した無機繊維ガラス前駆体層とガラス前駆体を含まない通常の無機繊維断熱材からなる層とを組み合わせて用いれば、断熱性能が十分であると共に寸法変化が小さくクラックや剥離が少ない断熱材が得られる。すなわち、少なくとも表面の一部に無機繊維ガラス前駆体層が形成された断熱材は、酸化雰囲気、且つ、1500℃程度の高温下で長期間に渡り使用されても、無機繊維ガラス前駆体層の寸法安定性が高いため、無機繊維ガラス前駆体層に隣接する層との間の剥離やクラックが生じ難いと共に、使用するにつれて発塵が徐々に少なくなる。また、断熱性能がそれほど要求されない断熱材に使用する場合は、無機繊維ガラス前駆体層のみで断熱材を構成してもよい。断熱材の形状としては、円筒形状、板状等の任意のものが挙げられる。
【0038】
次に無機繊維質成形体の製造方法について説明する。本発明に係る無機繊維質成形体は、例えば、脱水成形する成形型が内部に配置された成形槽内に、無機繊維と、シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子と、ガラス前駆体と、無機バインダと、凝集剤とを含むスラリーを供給して吸引脱水成形することで製造することができる。
【0039】
次に本発明に係る断熱材について説明する。本発明に係る断熱材は、上記本発明に係る無機繊維質成形体が酸化雰囲気下、所定温度で加熱処理されて得られるものである。無機繊維、シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子及び無機バインダとしては、無機繊維質成形体と同様のものが挙げられる。
【0040】
珪酸ガラスを主成分とするガラスマトリクスとしては、ガラス前駆体が酸化され膨張した珪酸ガラスを主成分として含んでいればよく、ガラスマトリクス全体が珪酸ガラスのみで構成されていても、ガラスマトリクスの一部が十分に酸化されずにガラス前駆体のまま含まれていてもよい。ガラスマトリクスは、例えば、上記式(1)や(2)に示すようにガラス前駆体が該ガラス前駆体の表面から徐々に酸化されガラス化して膨張し、隣接するガラス前駆体の表面のガラス化部分が結合して生成する。このため、通常はガラス前駆体の内部はガラス化が十分に進行せずにガラス前駆体のまま残存することがあるが、このようにガラス前駆体がガラスマトリクス中に残存すると、該残存したガラス前駆体が酸化雰囲気で加熱される際に徐々にガラス化し膨張するため、長期間に渡り膨張し続けて無機繊維の加熱収縮を相殺することができる。
【0041】
無機繊維ガラスマトリクス層は、断熱材の少なくとも表面の一部に形成される層であって、無機繊維が無機バインダにより相互に融着された3次元骨格構造の無機繊維融着体とシリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子と珪酸ガラスを主成分とするガラスマトリクスとからなり、且つ、前記無機繊維融着体及び該シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子が該ガラスマトリクスに実質的に取り込まれ固定されて形成される。無機繊維ガラスマトリクス層においては、無機繊維質成形体の無機繊維ガラス前駆体層中のガラス前駆体の全部又は大部分がガラス化して膨張すると共に膨張した隣接するガラス同士の接点が結合する。このため、無機繊維ガラス前駆体層中に存在した空隙は略消失して珪酸ガラスを主成分とするマトリクス状態になっており、該ガラスマトリクスにより無機繊維融着体が取り込まれ固定される。
【0042】
本発明に係る断熱材は、少なくとも表面の一部に無機繊維ガラスマトリクス層が形成されたものである。すなわち、無機繊維ガラスマトリクス層は、断熱材の少なくとも表面全体又はその一部に形成されていればよく、必要により断熱材の内部まで形成されていてもよい。断熱材の形状としては、特に限定されないが、例えば、円筒形状、板状等が挙げられる。断熱材は、空気中において1350℃で1000時間加熱した前後の寸法変化率が±2〜±4%、好ましくは0〜±2%である。
【0043】
断熱材は、このままで、又は必要により後述の加熱処理を行って残存するガラス前駆体をガラスマトリクスに変性させることにより、例えば、電気炉等の断熱材として使用できる。なお、ガラスマトリクスは無機繊維や無機バインダ等よりも熱伝導率が高いため、無機繊維ガラスマトリクス層自体の断熱性能はそれほど高くないが、例えば、表面に形成した無機繊維ガラスマトリクス層とガラスマトリクスを含まない通常の無機繊維断熱材からなる層とを組み合わせて用いれば、断熱性能が十分であると共に寸法変化が小さくクラックや剥離が少ない断熱材が得られる。すなわち、少なくとも表面の一部に無機繊維ガラスマトリクス層が形成された断熱材は、ガラスマトリクスを主成分とするため発塵が少なく、また、ガラスマトリクスと共にガラス前駆体が存在する場合は、酸化雰囲気、且つ、1500℃程度の高温下で長期間に渡り使用されても、無機繊維ガラスマトリクス層の寸法安定性が高いため、無機繊維ガラスマトリクス層に隣接する層との間の剥離やクラックが生じ難いと共に、発塵がほとんどない。また、断熱性能がそれほど要求されない断熱材に使用する場合は、無機繊維ガラスマトリクス層のみで断熱材を構成してもよい。
【0044】
断熱材はガスバーナーの火炎放射部等の高温暴露部材としても使用でき、該部材は使用に伴って断熱材中の残存するガラス前駆体が徐々にガラスマトリクスに変性されるため、割れやクラックがなく、発塵がほとんどなくなる。
【0045】
次に断熱材の製造方法について説明する。本発明に係る断熱材は、上記無機繊維質成形体を酸化性雰囲気中で加熱することにより、無機繊維質成形体中に存在するガラス前駆体の少なくとも一部を珪酸ガラスを主成分とするガラスマトリクスに変性して得られる。なお、無機繊維質成形体中に存在するシリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子は、加熱により酸化されず実質的に膨張も収縮もしない。酸化性雰囲気としては、空気雰囲気、酸素雰囲気等が挙げられる。加熱条件としては、無機繊維ガラスマトリクス層中のガラスマトリクスとガラス前駆体との存在比率が所望の値になるように適宜行えばよいが、例えば、1000〜1500℃で、1時間以上、好ましくは2〜4時間行えばよい。
【0046】
【実施例】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
実施例1
脱水成形型が配置された成形槽内に、平均繊維径3μm 、平均繊維長50μm のムライト繊維36重量部、平均粒子径5μm のシリカ粒子35重量部、平均粒子径5μm の炭化珪素粒子20重量部、平均粒子径10〜20μm のコロイダルシリカ8重量部及び凝集剤(でんぷん)2重量部に水4000重量部からなるスラリーを供給し吸引脱水成形を行い、厚さ50mmの成形体を形成した。
次に、成形体を脱水成形型から脱型し、105℃で24時間乾燥して無機繊維質成形体を得た後、該無機繊維質成形体を1400℃、4時間の条件で焼成し、断熱材を得た。
得られた断熱材を空気中において1350℃で1000時間加熱したところ、加熱前後の寸法変化率は1.0%であり、剥離やクラックは生じなかった。さらに、40分で1250℃まで急速に加熱した後、1250℃/40分で急冷する熱衝撃試験を50サイクル行ったが、断熱材に剥離やクラックは生じなかった。
【0048】
【発明の効果】
本発明に係る無機繊維質成形体によれば、酸化雰囲気、且つ、1500℃程度の高温下で長期間に渡り使用されても、無機繊維ガラス前駆体層の寸法安定性が高く、無機繊維ガラス前駆体層に隣接する層との間の剥離やクラックが生じ難いと共に、使用するにつれて発塵が徐々に少なくなる。従って、該無機繊維質成形体をこのまま断熱材として使用することができる。また、本発明に係る断熱材によれば、酸化雰囲気、且つ、1500℃程度の高温下で長期間に渡り使用されても寸法安定性が高く、隣接する層との間の剥離やクラックが生じ難いと共に、発塵がほとんどない。
Claims (2)
- 無機繊維ガラスマトリクス層のみで構成された断熱材であって、該無機繊維ガラスマトリクス層は無機繊維が無機バインダにより相互に融着された3次元骨格構造の無機繊維融着体とシリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子と珪酸ガラスを主成分とするガラスマトリクスとからなり、且つ、該無機繊維融着体と該シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子とが前記ガラスマトリクスに実質的に取り込まれ固定されていることを特徴とする断熱材。
- 無機繊維ガラス前駆体層のみで構成された無機繊維質成形体を、酸化性雰囲気中で加熱することにより、該無機繊維質成形体中に存在する前記ガラス前駆体の少なくとも一部を珪酸ガラスを主成分とするガラスマトリクスに変性して、該無機繊維融着体と該シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子とが前記ガラスマトリクスに実質的に取り込まれ固定されている断熱材を得る断熱材の製造方法であって、
該無機繊維ガラス前駆体層は無機繊維が有機バインダにより相互に結合された3次元骨格構造の無機繊維結着体とシリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子と酸化により珪酸ガラスを生成し膨張するガラス前駆体と無機バインダとからなり、
且つ、該シリカ粒子、アルミナ粒子又はシリカアルミナ粒子と該ガラス前駆体と該無機バインダとが前記有機バインダにより前記無機繊維結着体に結合されていること、
を特徴とする断熱材の製造方法。
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