JP4055553B2 - 高パス間温度多層盛り溶接鋼材、その製造方法及び高パス間温度多層盛り溶接方法。 - Google Patents
高パス間温度多層盛り溶接鋼材、その製造方法及び高パス間温度多層盛り溶接方法。 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築、橋梁などに使用される鋼材、特に多層盛り溶接で高いパス間温度の溶接でも高いHAZ靭性を有する高パス間温度多層盛り溶接用鋼材、その製造方法及びそれを使用して多層盛り溶接する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
建築、橋梁などの構造物を組み立てるに当たっては、炭酸ガス溶接、エレクトロガス溶接(EGW)、サブマージドアーク溶接(SAW)等の各種溶接方法による多層盛り溶接が行われる。この多層盛り溶接ではパス間温度が高くなり易く、それにより継ぎ手性能が低下し易い。そのため、鋼材の多層盛り溶接に当たっては、使用鋼材のグレード、板厚、溶接法に応じて溶接時の予熱温度、溶接材料などを最適に選ぶとともにパス間温度の上限を定め、これにしたがって厳しい作業管理基準のもとで溶着金属およびHAZの強度、靭性等を確保している。一般にパス間温度は350℃以下であることが要求される。
【0003】
特に、H形鋼からなる建築構造物の柱―梁の溶接施工では、炭酸ガスアーク溶接による柱通しダイアフラム形式の多層盛り梁端溶接が多用されるが、その構造上、パス間温度が高くなりやすく、上記作業管理基準の定めるパス間温度が350℃を越えることがしばしば起こる。このため、溶接作業を中断し、しかる後パス間温度の低下を待って溶接を再開しなければならず、溶接作業効率の低下を招いている。
【0004】
この様な状況下、パス間温度が高くても必要な継ぎ手性能が確保されるような鋼材、溶接方法等が求められている。例えば、特開平10−230387号公報、特開平11-239892号公報、特開2000-288734号公報では、溶接(溶着)金属に着目し溶接ワイヤの材質の改良により必要な継ぎ手性能を確保しようとする溶接方法が試みられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このような手段のみでは、パス間温度が350℃以上、極端には700℃にも達するような高パス間温度で多層盛り溶接を行い十分な継ぎ手性能を持った鋼構造物を効率よく構築することができない。特に上記手段は、発明の対象が性能のよい溶接(溶着)金属を得ることに向けられており、溶接継ぎ手を構成するもう一方のメンバーである母材側HAZの改良に着目されていないという問題がある。そのため、上記提案にかかわらず、現状ではなお、溶接作業を中断してパス間温度の低下を待って溶接をしなければならないという制約を甘受しなければならないという問題がある。本発明は、かかる不具合を解消することを目的とし、パス間温度が350℃以上に達しても、十分なHAZ靭性を有する高パス間温度溶接用鋼材、その製造方法及びそれを用いた溶接方法を提案するものである。なお、建築用鋼材としては、母材について高強度(TS:490MPa以上)、低降伏比(YR:80%以下)が要求される。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、H形鋼などの多層盛り溶接では溶接金属部のみならず母材金属のHAZ靭性の低下が問題であることに着目した。特に、高パス間温度での溶接では、▲1▼溶融線近傍のCGHAZ(Coase Grain HAZ)の幅拡大と、該CGHAZの上部ベーナイト化による脆化、▲2▼CGHAZが2層目以降の溶接により加熱されて生ずるICCGHAZ(Inter-critically reheated Coase Grain HAZ)部に生ずる脆化を防止することが重要であることに着目した。そして、かかる観点から発明者は鋭意研究を行い、パス間温度が350℃を超えるような高パス間温度で多層盛り溶接を行っても必要な継ぎ手性能が確保できる溶接用鋼材、その様な鋼材に適した製造方法及びそれを使用して多層盛り溶接する方法の発明を完成した。
【0007】
なお、上記において、CGHAZとは、母材金属が1150℃〜融点未満の温度域に加熱されてオーステナイト結晶粒が粗大化した粗粒域HAZをいう。特に融点近傍まで加熱されたCGHAZは結晶粒の粗大化が著しく、靭性の低下が大きい。ICCGHAZとは、CGHAZが次のパスで700〜900℃に再加熱され多量の島状マルテンサイト(Martensite-Austenite constituent)を生成した再加熱2相域HAZをいう。特にCGHAZの粗粒化の程度が大きいほど多量の島状マルテンサイトを生成して靭性が著しく低下する。
【0008】
具体的には、本発明の高パス間温度多層盛り溶接鋼材は、質量比で、C:0.03〜0.15%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.0005〜0.0080%、REM:0.0010〜0.03%、残部Fe及び不可避不純物からなる鋼組成を有し、Mnの硫化物、酸化物及び酸硫化物からなる微細粒子を106個/mm 2 以上6×10 6 個/mm 2 以下の分布密度で晶出させてなるものである。
【0009】
上記高パス間多層盛り溶接鋼材は、鋼組成としてさらに、Nb:0.05%以下、V:0.2%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.5%以下、Cr:0.7%以下、Mo:0.7%以下及びB:0.0003〜0.0025%のうちから選ばれた1種または2種以上含有することあるいはCa:0.0005〜0.0050%を含有することができる。
【0010】
これらの高パス間多層盛り溶接鋼材は、転炉から出鋼された溶鋼にフェロマンガン又はシリコマンガンを添加して溶存酸素量が0.0030〜0.0120%となるように予備脱酸する段階、REMを添加して溶存酸素量が0.0010〜0.0050%、かつREMの鋼中残存量が0.0010〜0.03%となるように調整する段階、及びC:0.03〜0.15%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.0005〜0.0080%、REM:0.0010〜0.03%、残部Fe及び不可避不純物、あるいはさらに、Nb:0.05%以下、V:0.2%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.5%以下、Cr:0.7%以下、Mo:0.7%以下及びB:0.0003〜0.0025%のうちから選ばれた1種または2種以上含有するように、又はさらに、Ca:0.0005〜0.0050%を含有するように最終鋼組成を調整する段階、を順次行なうことによって得た溶鋼を鋳造して鋼塊を得、該鋼塊を加熱後最終製品形状に熱間圧延した後、1℃/s以上の速度で500℃以下の温度まで冷却するとともに冷却停止後の復熱温度を100℃以下とすることにより製造することができる。
【0011】
上記の高パス間温度多層盛り溶接鋼材に対しては、パス間温度が350℃以上の高パス間温度溶接を行うことができ、これにより多層盛り溶接に当たってパス間温度が350℃以上に達しても、十分なHAZ靱性を有する溶接継手を得ることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
(脱酸)
本発明では、鋼の凝固過程において生ずる樹枝状晶(デンドライト)を細かくし、かつその二次アーム間にMnの硫化物(MnS)、酸化物(MnO)、あるいは酸硫化物(オキシサルファイド、Mn(O,S))を極めて多数晶出させ、これを利用してCGHAZやICCGHAZ靭性を向上させるものである。
【0013】
そのため、本発明では溶鋼の凝固過程において樹枝状晶を極力微細に晶出させる手段をとる。具体的には、転炉から出鋼された溶鋼にフェロマンガン又はシリコマンガンを添加して溶存酸素量が0.0030〜0.0120%(質量比、以下同じ)となるように予備脱酸する段階、REMを添加して溶存酸素量が0.0010〜0.0050%、かつREMの鋼中残存量が0.0010〜0.03%となるように調整する段階を行う。
【0014】
最初の予備脱酸をフェロマンガン又はシリコマンガンにより行うのは、適当量の酸素(O)鋼中に残存させた状態を作り、その酸素を後に添加されるREMと反応させて、微細なREM酸化物、硫化物あるいは酸硫化物を生成させるためである。このような目的に適う溶存酸素量は0.0030〜0.0120%である。
【0015】
なお、この予備脱酸に先立ち、例えば転炉出鋼時に僅かのAlを添加してフェロマンガン又はシリコマンガンの使用量の節減を図り、予備脱酸の操業安定化を図ることもできる。この目的で使用するAl添加量は、予備脱酸前の溶存酸素量を0.0080〜0.0170%に調整することをが望ましい。また、Alを添加量は、溶鋼中に残留するAl量が0.004%以下とすることが望ましい。Alが0.004質量%を超えて残留すると、所望量のREM酸硫化物の形成が困難となる。
【0016】
上記のように予備脱酸された溶鋼にREMを添加して微細なREM酸化物、硫化物あるいは酸硫化物を生成させる。REMを用いるのは生成される酸化物等が安定でかつ比較的密度が大きく溶鋼から浮上・逸脱せず、凝固の際に樹枝状晶形成の核となり、その微細化に寄与するからである。
【0017】
その添加量は溶存酸素量が0.0010〜0.0050%、かつREMの鋼中残存量が0.0010〜0.03%となるようにする。過剰の添加は鋼中に残存する酸素量、硫黄量を極端に減少させて後に樹枝状晶の二次アーム間で起こるMnによる二次脱酸により生成するMnの硫化物、酸化物、酸硫化物の微細晶出を妨げることになり、添加不足はREMの酸化物等の生成量不足により樹枝状晶の微細化が十分行われないことになる。
【0018】
このようにして予備脱酸及びREM添加が行われた溶鋼には、次いで通常の合金添加が行われ、高パス間温度多層盛り溶接鋼材に必要な最終鋼組成に調整される。この最終鋼組成は鋼材の使用目的、使用位置等によって変動するが、一般に以下に示す組成範囲とすればよい。
【0019】
(最終鋼組成)
C:0.03〜0.15%
Cは、鋼の強度を増加させる元素であり、鋼材として必要な強度(母材引張強さ:490MPa以上)を得るためには,少なくとも0.03%以上が必要である。しかし、過剰に添加すると溶接部の靭性、耐溶接割れ性を低下させる。そのため、本発明では、上記の範囲に限定する。なお、溶接長さが40mm未満の場合やアークストライクのような非定常溶接部の冷却速度が極めて速くなる場合には、HAZ部の硬化による靭性低下を防止するためにはCの上限を0.12%とするのが好ましい。
【0020】
Si:0.05〜0.50%
Siは、脱酸材として作用する。適度な脱酸を行うために0.05%以上の含有が必要である。しかし、0.5%を超える添加は、高パス間溶接時にICCGHAZ部で島状マルテンサイトが多量に形成される原因になり、その部分の靭性を低下させるので、上限を0.50%、好ましくは0.40%とする。
【0021】
Mn:0.5〜2.0%
Mnは脱酸材として作用するとともに、二次脱酸生成物として微細な酸化物、硫化物、酸硫化物の1種または2種以上が複合した粒子を形成してHAZのオーステナイト粒の粗大化を抑制し、HAZ靭性を向上させる作用を有する元素である。また固溶強化によって鋼の強度を増加させる作用も有する。このような効果を得るためには、本発明では0.5%以上の含有させる。しかしながら、2.0%を超えると溶接部の靭性を著しく低下させる。このため、Mnは0.5〜2.0%で、好ましくは、0.8〜0.6%の範囲で含有させる。
【0022】
P:0.030%以下
Pは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であり、鋼の靭性を劣化させるため、できるだけ低減することが好ましい。特に、0.03%を超えるとHAZ靭性劣化が著しくなる。しかしながら、過度のP低減は精錬コストを高騰させ経済的に不利となるため、0.005%程度は許容される。
【0023】
S:0.0005〜0.0080%
本発明では、SはREMと結合してREMの硫化物(サルファイド)又はREMの酸硫化物(オキシサルファイド)として、凝固段階で固液界面に晶出し、デンドライトの一方向成長を抑制してデンドライトを等軸晶化するとともにデンドライト二次アームを微細化する作用がある。また、二次脱酸生成物としてMnと結合してMnの硫化物、酸硫化物として微細に晶出し、HAZオーステナイト粒粗大化を防止する機能を有する。したがって、本発明では最終鋼組成として0.0005%のSの残留を許容する。しかしながら、Sが0.0080%を超えて残留するとMnSが粗大となり靭性の劣化が顕著なる。このため、本発明ではSの含有量を0.0005〜0.0080%に限定する。
【0024】
REM:0.001〜0.03%
REMは上記したように、脱酸過程で溶鋼中にSおよび/またはOと結合してREMの硫化物(サルファイド)、酸化物(オキサイド)あるいは酸硫化物(オキシサルファイド)を形成し、その核生成作用によりデンドライトの一方向成長を抑制するとともにデンドライト二次アームを微細化するために添加されるものである。その意味で、最終鋼組成としては必ずしも必要ではなく、溶鋼の凝固過程において存在すればよい元素である。しかしながら、上記効果を生ずるためには結果として最終鋼組成中にある程度のREMが残留しなければならないことも事実であり、上記範囲内のREMが残留するように最終鋼組成を調整するのが好ましい。なお、好ましくは、0.003〜0.015%とするのがよい。
【0025】
本発明に係る高パス間温度多層盛り溶接鋼材の基本組成は、上記各元素を含有し、残部は不可避不純物を除き、鉄(Fe)からなり、それにより本発明の基本的な目的を達成することができる。しかしながら、下記の元素を適宜、単独であるいは複合して添加することができ、それにより鋼の使用条件、使用箇所等により適応することができる。
【0026】
Nb:0.05%以下、V:0.2%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.5%以下、Cr:0.7%以下、Mo:0.7%以下及びB:0.0003〜0.0025%のうちから選ばれた1種または2種以上
Nbは、母材の強度および靭性を向上させるとともに,継手部強度を増加させる作用を有する。このような効果は、0.005%以上の添加で顕著となるが、0.05%を超える添加は、特にICCGHAZ靭性の低下を招く。そのためNbは0.005%以上0.05%以下の範囲で添加するのが好ましい。
【0027】
VもNbと同様に母材の強度および継手部強度を増加させる元素である。その効果は、0.010%以上で顕著となるが、0.2%を超えると靭性の低下を招く。そのため、Vは0.010%以上、0.2%以下の範囲とするのがよい。
【0028】
Cuは鋼の強度を増加させるために添加できる。その効果は0.05%以上で顕著となるが、1.0%を超えると高パス間溶接の多層盛り溶接部に部分的にCu析出脆化部を有するようになり、継手靭性の低下の原因となる。したがって、Cuは0.05%以上、1.0%以下の範囲で添加するのがよい。
【0029】
Niは母材の高靭性を保ちつつ強度を増加させる元素である。その効果は、0.05%以上で現れるが、1.5%を超えても効果が飽和するばかりか、経済的に不利になる。
【0030】
Cr及びやMoはいずれも母材の高強度化に有効に作用する元素である。その効果は、Crの場合、0.1%以上、Moの場合、0.05%以上で顕著となるが、過剰添加は靭性に悪影響を与える。そのためこれらの添加量は何れも0.7%以下とするのがよい。
【0031】
Bは焼入れ性の向上を介して鋼の強度を増加させる作用を有するとともに、粗粒域HAZでBNを形成してフェライトの生成核として作用し、CGHAZやICCGHAZ靭性を向上させる元素である。また、固溶Nを低減して鋼の靭性を向上させる機能も有する。その効果は、0.0003%以上で現われるが、0.0025%を超えると焼入れ性が著しく増加するため母材の靭性を低下させる。そのため、Bは0.0003〜0.0025%の範囲に限定することが好ましい。
【0032】
本発明に係る高パス間温度多層盛り溶接鋼材においては、さらにCaを0.0005%〜0.0050%含有させることができる。それにより、CGHAZ組織のフェライト化を促進させ、組織改質によりCGHAZおよびICCGHAZ靭性の向上を図ることができる。
【0033】
本発明においては、Al及びTiを0.004%以下に制限するのが好ましい。これらの元素は強脱酸元素であり、溶鋼中の酸素と結合して溶存酸素を低減する。それにより、REMの酸硫化物(オキシサルファイド)の生成、あるいは二次脱酸生成物としてのMnの酸化物(オキサイド)、Mnの酸硫化物(オキシサルフアイド)の生成が阻害され、デンドライトの形態制御や二次脱酸生成物の微細分散に悪影響を及ぼす。したがって、これら元素の残留量は極力低減し0.004%以下とするのがよい。
【0034】
(鍛造、圧延)
上記により最終鋼組成に調整された溶鋼は、例えば連続鋳造によって鋼塊(スラブ)とされ、次いで最終製品形状に熱延される。鋳造法は特に限定されないが、MnSなどの分散粒子の大きさおよび形態を所望の範囲、すなわち、Mnの硫化物、酸化物及び酸硫化物からなる微粒子を106個/mm 2 以上6×10 6 個/mm 2 以下の分布密度で晶出するように制御するためには、冷却速度、ひいては凝固速度を制御できる連続鋳造法とすることが好ましい。
【0035】
スラブは、ついで熱間圧延に供される。熱間圧延条件は厚板又はH形鋼に通常採用されている条件とすればよい。典型的には、スラブ加熱を1000℃以上、1350℃以下とし、圧延終了温度を750〜1000℃とすればよい。圧延終了温度が750℃未満では,母材のミクロ組織が微細化し,降伏比が80%を超えて大きくなり,建築用鋼材として地震時の地震エネルギー吸収能力が低下する。一方、熱間圧延終了温度が1000℃を超えると焼入れ性が上昇し、伸びが低下する。そのため,圧延終了温度は750℃〜1000℃、好ましくは780〜950℃の範囲とするのがよい。
【0036】
(熱処理)
上記の熱間圧延の終了後、最終製品形状にまで熱延された圧延材は、圧延終了後直ちに、又は圧延終了後Ar3-50℃の温度範囲まで放冷した後、1℃/s以上の冷却速度の加速冷却に供される。冷却速度を1℃/s以上とするのは、この速度未満では得られた鋼材の強度が低く、490MPa以上の引張強さを満足できないからである。なお、Ar3(℃)は
Ar3=910-273%C+25%Si-74%Mn-56%Ni-16%Cr-9%Mo-5%Cu-1620%Nb
により求められるものである。また、冷却速度は、圧延鋼材の表面温度によって制御されるものである。
【0037】
加速冷却は、熱延鋼材の温度が500℃以下に達するまで継続するとともに冷却停止後の復熱温度(復熱量)が100℃以下になるように行う。加速冷却の冷却停止温度を500℃以下とするのは、それ以上の温度では得られた鋼材の強度が低く、本発明の目的とする490MPa以上の引張強さを満足できないからである。また、加速冷却の停止後の復熱温度を100℃以下とするのは、復熱温度が100℃を超えると復熱による焼もどし効果が顕著となって引張強さが低下するとともに降伏比を上昇させるからである。復熱温度をこのように小さく抑えるには加速冷却の終了後さらにスプレー冷却などの強制冷却を行うなどの復熱防止措置をとるのがよい。
【0038】
(製品及びその用途)
上記一連の製造工程をとることにより、Mnの硫化物、酸化物及び酸硫化物からなる晶出微細粒子を106個/mm 2 以上6×10 6 個/mm 2 以下の分布密度で有し、かつ、所望の最終化学組成を持つ高パス間温度多層盛り溶接鋼材を製造することができる。本発明の鋼材は、350℃以上の高パス間温度多層盛り溶接を行う場合にも、後に実施例により示すように、再現熱サイクル試験によるCGHAZあるいはICCGHAZ相当部におけるvE0値が100J以上を示す。したがって、本発明にかかる高パス間温度多層盛り溶接用鋼材を用いれば、パス間温度が350℃以上の高パス間温度溶接を行うことができる。それにより、十分な靭性を有する継手を作業効率の低下なく得ることができる。
【0039】
なお、上記において、350℃以上の高パス間温度多層盛り溶接とは、パス間温度が、従来作業管理基準とされたパス間温度の上限である350℃を溶接中に一度でも超える高パス間温度多層盛り溶接をいう。この溶接には、溶接長が短く連続で多層盛り溶接を行った場合に、700℃前後までパス間温度が高くなる場合を含む。
【0040】
【実施例】
本発明を適用して表1に示す最終鋼組成有する鋼を溶製し、連続鋳造により厚鋼板又はH形鋼用のスラブとした。溶製に当たっては、転炉から出鋼された溶鋼にシリコマンガンを添加して溶存酸素量が0.0030〜0.0120%となるように予備脱酸し、次いでREMを添加して溶存酸素量が0.0010〜0.0050%、かつREMの鋼中残存量が0.0010〜0.03%となるように調整した。なお、記号Fの場合にはシリコマンガンによる予備脱酸に先立ってAlを添加して鋼中O量を0.0084%に調整した。REM添加前及び添加後の溶存O量は表1に併せて示されている。
【0041】
【表1】
【0042】
得られたスラブに表2に示す条件の熱延及びそれに続く加速冷却を施して最終製品とした。製品形状は、A-3及びF-1はH形鋼であり、他は厚板であり、H形鋼の場合にはフランジ部から製品特性調査のために試験片を切り出した。製品の特性値は表3(分散粒子の分布密度)、及び表4(機械的性質及びHAZ特性)について示す。なお、CGHAZ特性は、製品から再現熱サイクル試験片を切出し、CGHAZに相当する1400℃加熱後、800〜500℃間の冷却時間が400sの単サイクルの熱サイクル試験付与させた後、JIS Z 2202に規定する4号シヤルピー衝撃試験片を採取し、0℃におけるシヤルピー衝撃特性を調べたものによる。この熱サイクルは、40kJ/cmの入熱で往復連続多層盛りCO2溶接した場合のJASS6で規定される位置の表面温度で700℃のパス間温度に相当する最終ビードの接合部をシミュレーションしたものである。また、ICCGHAZ特性は、1400℃加熱後、800〜500℃間の冷却時間が400sの熱サイクル後に、850℃に再度加熱した後800〜500℃間の冷却時間が400sとするダブル熱サイクルを付与させた後、0℃におけるシヤルピー衝撃特性を調べたものによる。
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
上記の結果から分かるように、本発明鋼にしたがって製造した鋼は、高強度(TS:490MPa以上)、低降伏比(YR:60%以下)であり、溶接を高いパス間温度で行っても再現CGHAZおよび再現ICCGHAZの靭性は100J以上である。したがって、これらの鋼により、パス間温度が350℃以上、極端には700℃にも達するような高パス間温度で多層盛り溶接を行っても十分な継ぎ手性能を持った鋼構造物を効率よく構築することができる。なお、これらの鋼は低いパス間温度にて多層盛り溶接が行われた場合でも十分効果を発揮することはいうまでもない。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、高強度、低降伏比で、高パス間温度多層盛り溶接において十分な靭性を確保することができる鋼を製造できる。これにより、パス間温度が350℃以下に下がるまで待って溶接しなければいけないという不都合が解消でき、鉄骨溶接施工作業の効率化を図ることができ、溶接施工工数の低減により建設施工期間の短縮することができる。
Claims (8)
- 転炉から出鋼された溶鋼にフェロマンガン又はシリコマンガンを添加して溶存酸素量が0.0030〜0.0120%(質量比、以下同じ)となるように予備脱酸する段階、REMを添加して溶存酸素量が0.0010〜0.0050%、かつREMの鋼中残存量が0.0010〜0.03%となるよう調整する段階、及びC:0.03〜0.15%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.0005〜0.0080%、REM:0.0010〜0.03%、残部Fe及び不可避不純物からなる最終鋼組成に調整する段階を順次行なうことによって得た溶鋼を鋳造して鋼塊を得、該鋼塊を加熱後最終製品形状に熱間圧延した後、1℃/s以上の速度で500℃以下の温度まで冷却するとともに冷却停止後の復熱温度を100℃以下とすることを特徴とする高パス間温度多層盛り溶接鋼材の製造方法。
- 予備脱酸に先立ち、Alを添加して予備脱酸前の溶存酸素量を0.0080〜0.0170%に調整することを特徴とする請求項1記載の高パス間温度多層盛り溶接鋼材の製造方法。
- 最終鋼組成がさらに、Nb:0.05%以下、V:0.2%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.5%以下、Cr:0.7%以下、Mo:0.7%以下及びB:0.0003〜0.0025%のうちから選ばれた1種または2種以上含有することを特徴とする請求項1又は2記載の高パス間温度多層盛り溶接鋼材の製造方法。
- 最終鋼組成がさらに、Ca:0.0005〜0.0050%を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の高パス間温度多層盛り溶接鋼材の製造方法。
- 質量比で、C:0.03〜0.15%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.0005〜0.0080%、REM:0.0010〜0.03%、残部Fe及び不可避不純物からなる鋼組成を有し、Mnの硫化物、酸化物及び酸硫化物からなる微細粒子を106個/mm 2 以上6×10 6 個/mm 2 以下の分布密度で晶出させてなることを特徴とする高パス間温度多層盛り溶接鋼材。
- 鋼組成がさらに、Nb:0.05%以下、V:0.2%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.5%以下、Cr:0.7%以下、Mo:0.7%以下及びB:0.0003〜0.0025%のうちから選ばれた1種または2種以上含有することを特徴とする請求項5記載の高パス間温度多層盛り溶接鋼材。
- 鋼組成がさらに、Ca:0.0005〜0.0050%を含有することを特徴とする請求項5又は6記載の高パス間温度多層盛り溶接鋼材。
- 請求項5ないし7の何れかに記載の高パス間温度多層盛り溶接鋼材に対し、パス間温度が350℃以上の高パス間温度溶接を行うことを特徴とする高パス間温度多層盛り溶接方法。
Priority Applications (1)
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