JP3941596B2 - 建築構造用厚鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築構造物用厚鋼板に係り、特に超大入熱溶接を施される建築構造物用として好適な、超大入熱溶接熱影響部靭性に優れ、かつ低降伏比を有する建築構造物用厚鋼板の製造方法に関する。なお、本発明でいう「超大入熱溶接」とは、溶接入熱量が300kJ/cmを超える溶接を意味するものとする。また、「厚鋼板」とは、板厚30mm以上の鋼板をいうものとする。
【0002】
【従来の技術】
近年、建築構造物の大型化に伴い、使用鋼材の厚肉化が要望されている。これに伴い、構造物の施工効率の向上と施工コストの低減の観点から、溶接効率の向上が求められ、大入熱の高能率溶接が指向されてきた。たとえば、建築構造用ボックス柱では、サブマージアーク溶接、エレクトロガス溶接やエレクトロスラグ溶接などの溶接入熱が400kJ/cmを超えるような大入熱溶接が適用されている。
【0003】
一般に、溶接熱影響部(以下、HAZ ともいう)は、溶接時に高温に晒され、結晶粒が粗大化しやすく、しかも、溶接入熱が増大するにしたがい冷却速度が遅くなり、脆弱な上部ベイナイト組織が形成されやすくなり、さらに島状マルテンサイト等の脆化組織が生成しやすく、HAZ 靱性が低下しやすいことが知られている。
【0004】
このような大入熱溶接HAZ の靭性の低下という問題に対し、例えば、特開平2-250917 号公報、特開平2-254118 号公報、特公平3-53367号公報には、TiN を鋼中に微細分散させ、MnS またはREM オキシサルファイドと複合してオーステナイト粒の粗大化を抑制し、大入熱溶接HAZ の靭性を改善する技術が提案されている。
【0005】
また、特開昭57-51243号公報には、Ti酸化物を微細分散させ、大入熱溶接HAZ の高靭性化を図る技術が提案されている。また、特開昭62-170459 号公報には、Ti窒化物の微細分散と、固溶B量を低減したうえでフェライト核生成能を有するBNの析出を組み合わせて、大入熱溶接HAZ の高靭性化を図る技術が提案されている。また、特開昭61-253344 号公報には、溶接時の冷却過程でTiN などのうえに析出するBNをフェライトの変態核として利用し、大入熱溶接HAZ 靭性を改善する技術が提案されている。また、特開2001-107177 号公報には、固溶Nを徹底的に低減するため、Tiと十分なAl量(0.05〜0.10%)を含有させ、さらに微細酸化物としてCa酸化物を活用して、超大入熱溶接におけるHAZ 靭性を向上させる高張力鋼板が提案されている。
【0006】
また、特開昭60-204863 号公報には、Caを添加することで硫化物の形態を制御することにより、大入熱溶接HAZ の靭性を改善する技術が提案されている。また、特公平4-14180 号公報には、REM を添加し硫化物の形態を制御することにより、大入熱溶接HAZ の靱性を改善する技術が提案されている。
また、特公平4-54734号公報には、B:0.0003〜0.0030%を含有し、S:0.015 %以下とし、さらにTi、REM 、Caの1種または2種以上を合計で0.003 〜0.04%含み、全Al:0.003 %以下に低減した高靭性溶接用鋼が提案されている。この技術によれば、Al2O3 ,MnSの生成が排除され、Ti、REM 、Caの酸化物、 硫化物、 酸硫化物が形成され、粒内フェライトの析出核となるBNが顕著に析出するようになり、 溶接HAZ 靭性が向上するとしている。
【0007】
さらに、特開平5-78740号公報には、Ce:0.0001〜0.030 %を含み、S:0.005 %以下に低減し、Alを実質的に含有しない組成の鋼を1000〜1250℃の温度領域で再加熱後、熱間加工を施す溶接熱影響部低温靭性に優れた鋼の製造方法が提案されている。この技術によれば、微細に分散したCe酸化物を核として、放射状に微細なアシキュラーフェライトが生成しHAZ 靭性が向上するとしている。
【0008】
【発明の解決しようとする課題】
しかしながら、上記したTiN を主体に利用する従来技術で製造された鋼材に、300kJ/cmを超える大入熱溶接法を適用した場合、HAZ が、TiN が溶解する高温域に長時間晒されるため、TiN が溶解し結晶粒微細化の作用がなくなり、さらに、固溶Tiおよび固溶Nの増加に起因して、脆化組織が生成し、著しくHAZ 靱性が低下する場合がある。この傾向は、とくに入熱量が増大するほど顕著となり、300kJ/cmを超える大入熱領域から1200kJ/cm までの超大入熱領域まで安定してこの技術を利用できないという問題があった。
【0009】
また、特開2001-107177 号公報に記載された技術は、靭性に影響する固溶N量の低減と溶融点近傍の高温域でも粒微細化効果を有する酸化物を活用することにより、超大入熱溶接におけるHAZ 靭性を向上させようとするものであり、過剰にAlを含有させることが特徴である。しかし、多量のAl含有は、溶接時に溶接金属中に混入して脱酸反応に影響し、溶接部靭性を低下させるという問題がある。
【0010】
また、上記したTi酸化物を用いる従来技術では、酸化物を均一かつ微細に分散させることがかなりの困難を伴い、酸化物の複合化等によりその分散能を改良すべく種々の検討がなされているが、入熱が300kJ/cmを超える超大入熱溶接においてはオーステナイト粒の成長を十分抑制することが現在までのところ難しく、超大入熱溶接HAZ を安定して高靭性とすることが困難となっていた。
【0011】
また、特公平4-54734号公報に記載された技術によっても、入熱が300kJ/cmを超える超大入熱溶接HAZ におけるオーステナイト粒の成長を十分には抑制することができず、依然として超大入熱溶接HAZ を安定して高靭性とすることが困難であるという問題があった。また、特開平5-78740号公報に記載された技術では、Ce酸化物を安定して微細分散することが難しく、入熱が300kJ/cmを超える超大入熱溶接HAZ を安定して高靭性とすることが困難であるという問題があった。
【0012】
近年、建築構造物の耐震性向上が要望され、建築構造物の溶接継手部にも、高靭性を有することが要求されている。例えば、柱−梁接合部においては、0℃におけるシャルピー吸収エネルギーが70Jを超えるような高い靭性を有することが求められている。また、ボックス柱にも同様な要求がある。また、建築構造物では、鋼材の塑性変形を一部許容することで地震エネルギーを吸収する設計法が採用されることから、建築構造物用鋼材には降伏比が80%以下の低降伏比を有する鋼材とすることが要求されている。
【0013】
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、母材引張強さが490MPa以上で、母材降伏比が80%以下の低降伏比を有し、入熱300kJ/cmを超える超大入熱溶接の溶接熱影響部での0℃におけるシャルピー吸収エネルギーvE0 が70Jを超えるような高い靭性を有する、超大入熱溶接の溶接熱影響部靭性に優れ、かつ低降伏比を有する建築構造用厚鋼板の製造方法を提案することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、超大入熱溶接のHAZ 靭性に及ぼす各種要因について鋭意検討を重ねた。その結果、従来のような、溶鋼中での酸化物、 硫化物の組成を調整することのみでは、分散粒子を超大入熱溶接のHAZ 靭性向上に有効な粒子とすることに限界があることに思い至った。そして、本発明者らは、溶鋼中での酸化物、 硫化物等の粒子組成の調整に加えて、さらに凝固過程で形成されるデンドライトの形態制御を行うことにより、分散粒子を、従来に比べて安定して、格段に均一かつ微細に分散させることができることを見出した。このようにして形成された微細分散粒子は、入熱300kJ/cm以上の超大入熱溶接のHAZ においても、オーステナイト粒の微細化に有効に寄与し、HAZ 靭性を顕著に向上させることができる。
【0015】
本発明者らは、Si,Mn で脱酸し、凝固前の溶鋼の溶存酸素量を0.0030〜0.0120質量%に調整したのち、REM を添加することによりデンドライトの形態制御が、可能であることを見出した。溶鋼中の溶存酸素量を所定の範囲に調整したのち、REM を添加することにより、固液界面にREM オキシサルファイドが晶出し、そのため、デンドライトの一方向成長が抑制され、デンドライトが等軸晶化し、それによりデンドライト二次アームが微細化することを見い出した。さらに、本発明者らは、二次脱酸生成物として、このような微細化したデンドライト二次アーム間に、Mnの酸化物、硫化物、酸硫化物、Siの酸化物の1種または2種以上が複合した高融点のMnおよびSi系オキシサルファイドの、微細な分散粒子が多量にかつ均一に形成され、このような微細な分散粒子が、入熱400kJ/cm以上の超大入熱溶接の溶接熱影響部においても、オーステナイト粒の粗大化防止に有効に寄与し、溶接熱影響部の靭性を高靭性とすることができることを確認した。
【0016】
さらに、本発明者らは、引張強さ490MPa以上の高強度で、かつ80%以下の低降伏比を有する母材特性を得るために、Ar3変態点以上で圧延を終了したのち、緩冷却を施し所定量のフェライトを析出させ、その後加速冷却を行なう2段冷却とすることが好ましいことを知見した。
本発明は、上記した知見に基づいて、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)溶鋼に、Siおよび/またはMnを添加して脱酸し、溶存酸素量を0.0030〜0.0120質量%に調整したのち、REM を添加し溶存酸素量を0.0010〜0.0050質量%に調整するとともに、組成を調整して、質量%で、C:0.03〜0.15%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.5 〜 2.0%、P:0.03%以下、S:0.0005〜0.0060%、REM :0.0010〜0.03%を含有し、AlおよびTiをそれぞれ0.004 %以下に制限し、残部が Fe および不可避的不純物である組成の溶鋼とし、ついで該溶鋼を鋳造して鋼素材としたのち、該鋼素材に加熱温度:1000〜1250℃で、圧延終了温度:Ar3変態点以上とする熱間圧延を施し、該熱間圧延終了後、平均冷却速度が 0.1〜 0.7℃/sの冷却を(Ar3変態点−10℃)〜(Ar3変態点−70℃)の温度域まで行い、ついで平均冷却速度が 1.0℃/s以上の冷却を 600℃以下の温度域まで施すことを特徴とする超大入熱溶接熱影響部靭性に優れ、かつ低降伏比を有する建築構造用厚鋼板の製造方法。
(2)(1)において、前記脱酸の前に、Alを添加する予備脱酸を行い、前記脱酸前の溶存酸素量を0.0080〜0.0170質量%に調整することを特徴とする建築構造用厚鋼板の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.05%以下、V:0.2 %以下、Cu:1.0 %以下、Ni:1.5 %以下、Cr:0.7 %以下、Mo:0.7 %以下、B:0.0003〜0.0025%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする建築構造用厚鋼板の製造方法。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.0050%含有する組成とすることを特徴とする建築構造用厚鋼板の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明では、まず、溶鋼を、転炉、電気炉、真空溶解炉等通常公知の方法で溶製し、脱酸処理や脱ガスプロセスにより、まず、溶存酸素量を0.0030〜0.0120質量%に調整したのち、REM を添加し溶存酸素量を0.0010〜0.0050質量%に調整する。本発明では、脱酸処理はAlやTiによる脱酸ではなく、Siおよび/またはMn添加の脱酸とする。なお、予備脱酸として、Siおよび/またはMn添加による脱酸に先立ち、Alを添加する予備脱酸を行ってもよい。Alを添加する予備脱酸を行う場合には、Siおよび/またはMn添加による脱酸前の溶存酸素量を0.0080〜0.0170質量%に調整することが好ましい。また、Alを添加する予備脱酸を行う場合には、溶鋼中に残留するAlは0.004 質量%以下とすることが必要となる。Alが0.004 質量%超えて残留すると、所望のREM 系酸硫化物の形成が困難となる。
【0018】
本発明では、REM 添加前の溶存酸素量を0.0030〜0.0120質量%に調整する。これにより、REM 硫化物粒子、REM 酸化物、REM 酸硫化物粒子の1種または2種以上が、凝固過程で固液界面に晶出し、デンドライトの一方向成長を抑制し、デンドライトの等軸晶化が達成でき、二次デンドライトアーム間隔が小さくなり、その後の二次脱酸により生成するMn系介在物(分散粒子)が微細化される。溶存酸素量が0.0030質量%未満では、所望のREM 酸硫化物の形成が困難となり、上記した効果が期待できなくなる。一方、REM 添加前の溶存酸素量が0.0120質量%を超えると、REM が酸化物となり、所望のREM 硫化物あるいはREM 酸硫化物の形成が困難となる。このため、デンドライトの一方向成長を抑制する能力が低下し、二次デンドライトアーム間隔を微細化することができない。
【0019】
このような溶存酸素量とした溶鋼にREM を添加する。REM は、溶鋼の凝固過程で、Sおよび/またはOと結合し、REM の硫化物(サルファイド)、REM の酸化物(オキサイド)、REM の酸硫化物(オキシサルファイド)の1種または2種以上として固液界面に晶出し、デンドライトの一方向成長を抑制し、デンドライトを等軸晶化する作用を有する。そして、デンドライトの等軸晶化により、二次デンドライトアーム間隔を微細化する。このような効果を得るために、REM は鋼中に0.001 〜0.03%含有するように添加する。
【0020】
なお、REM 添加に際しては、硫化物、酸化物、酸硫化物が形成され、添加後の溶存酸素量が所望の0.0010〜0.0050質量%となるように、同時にSを調整することが好ましい。これにより、凝固過程で、REM 硫化物粒子、REM 酸化物粒子、REM 酸硫化物粒子のいずれかが容易に固液界面に晶出することができ、デンドライトの一方向成長を抑制する。
【0021】
REM 添加後の溶存酸素量が0.0010質量%未満では、二次デンドライトアーム間隔が大きくなり、二次脱酸生成物としてオーステナイト粒の粗大化を防止できるMn系複合粒子の微細分散ができなくなり、オーステナイト粒粗大化抑制能が低下する。一方、REM 添加後の溶存酸素量が0.0050質量%を超えて多くなると、Mn酸化物が粗大化するとともに、オーステナイト粒の粗大化防止に有効なMn系複合粒子の微細形成が難しく、オーステナイト粒粗大化抑制能が低下する。
【0022】
本発明では、REM を添加し溶存酸素量を0.0010〜0.0050質量%に調整するとともに、溶鋼組成を下記に示す組成に調整する。
次に、溶鋼の組成限定理由について説明する。なお、以下、質量%は単に%で表示する。
C:0.03〜0.15%
Cは、鋼の強度を増加させる元素であり、厚鋼板として必要な強度(母材引張強さ:490MPa以上)を得るためには、少なくとも0.03%は必要である。しかし、過剰に含有すると、溶接部の靱性、耐溶接割れ性を低下させる。このため、本発明では、Cは0.03〜0.15%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.05〜0.13%である。
【0023】
Si:0.05〜0.50%
Siは、脱酸剤として作用し、本発明では適度な脱酸を行うために0.05%以上の含有が必要であるが、0.50%を超えて含有すると、母材靱性が劣化するとともに、超大入熱溶接HAZ において島状マルテンサイトが生成し、HAZ 靱性が顕著に低下する。このため、Siは0.05〜0.50%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.05〜0.30%である。
【0024】
Mn:0.5 〜2.0 %
Mnは、脱酸剤として作用するとともに、二次脱酸生成物として微細な酸化物、硫化物、酸硫化物の1種または2種以上が複合した粒子を形成し、HAZ のオーステナイト粒の粗大化を抑制し、HAZ 靭性を向上させる作用を有する元素である。また、Mnは、固溶強化で鋼の強度を増加させる作用も有する。このような効果を得るために、本発明では、0.5 %以上の含有を必要とする。一方、2.0 %を超える過剰の含有は、溶接部の靱性を著しく劣化させる。このため、本発明では、Mnは0.5 〜2.0 %の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.8 〜1.6 %である。
【0025】
P:0.03%以下
Pは、不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であり、鋼の靭性を劣化させるため、できるだけ低減することが好ましい。とくに、0.03%を超える含有は、HAZ の靱性劣化が著しくなる。このため、Pは0.03%以下に限定した。なお、過度のP低減は精錬コストを高騰させ経済的に不利となるため、0.005 %以上とすることが好ましい。
【0026】
S:0.0005〜0.0060%
Sは、REM を添加する本発明では、REM と結合し、REM の硫化物(サルファイド)、またはREM の酸硫化物(オキシサルファイド)として、凝固段階で固液界面に晶出し、デンドライトの一方向成長を抑制してデンドライトを等軸晶化し、それによりデンドライト二次アームを微細化する作用を有する。また、Sは、二次脱酸生成物としてMnと結合し、Mnの硫化物、酸硫化物として微細に晶出し、HAZ のオーステナイト粒粗大化を防止するという効果もある。
【0027】
Sが0.0005%未満では、REM が酸化物として溶鋼段階で晶出し、上記した効果を達成できない。一方、0.0060%を超えると、粗大なMnS を形成し靭性が顕著に低下する。このため、本発明では、Sは0.0005〜0.0060%の範囲に限定した。
REM :0.001 〜0.03%
REM は、上記したように、溶鋼の凝固過程で、Sおよび/またはOと結合し、REM の硫化物(サルファイド)、REM の酸化物(オキサイド)、REM の酸硫化物(オキシサルファイド)の1種または2種以上として固液界面に晶出し、デンドライトの一方向成長を抑制し、デンドライトを等軸晶化する作用を有する。そして、デンドライトの等軸晶化により、二次デンドライトアーム間隔を微細化する。このような効果は、REM の0.001 %以上の含有で認められるが、0.03%を超えて含有すると、粗大なREM 系化合物が増加し、母材靭性が劣化する。このため、REM は0.001 〜0.03%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.003 〜0.015 %である。
【0028】
Al:0.004 %以下
Alは、強脱酸元素であり、溶鋼中の酸素と結合しアルミナ(Al2O3)を形成し、溶存酸素を低減するため、REM の酸硫化物(オキシサルファイド)の生成、あるいは二次脱酸生成物としてのMnの酸化物、酸硫化物(オキシサルファイド)の生成を阻害し、デンドライトの形態制御や、二次脱酸生成物の微細分散に悪影響を及ぼす。このため、本発明では、Al脱酸を行わず、Si,Mn 脱酸とし、Al含有量を0.004 %以下に制限した。
【0029】
Ti:0.004 %以下
Tiは、Alと同様に、Si,Mn にくらべて強い脱酸力を有する元素であり、二次脱酸生成物の微細分散のために、できるだけ低減する必要がある。このため、本発明では、Alと同様に、0.004 %以下に限定した。
上記した基本組成に加えてさらに、Nb:0.05%以下、V:0.2 %以下、Cu:1.0 %以下、Ni:1.5 %以下、Cr:0.7 %以下、Mo:0.7 %以下、B:0.0003〜0.0025%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/またはCa:0.0005〜0.0050%を含有することが好ましい。
【0030】
Nb、V、Cu、Ni、Cr、Mo、Bは、いずれも、鋼の強度を増加させる元素であり、母材強度、溶接継手部強度の確保のために、選択して含有することができる。
Nbは、母材の強度および靱性を向上させるとともに、継手部強度を増加させる作用を有する。このような効果は、0.005 %以上の含有で顕著となるが、0.05%を超える含有は、HAZ 靱性の低下を招く。このため、Nbは0.05%以下に限定することが好ましい。
【0031】
Vは、母材の強度および継手部強度を増加させる元素である。このような効果は、0.010 %以上の含有で顕著となるが、0.2 %を超える含有は、かえって靱性の低下を招く。このため、Vは0.2 %以下に限定することが好ましい。
Cuは、Niと同様、強度を増加する元素である。このような効果は0.05%以上の含有で顕著となるが、1.0 %を超える含有は熱間脆性を生じ、鋼板の表面性状が劣化する。このため、Cuは1.0 %以下に限定することが好ましい。
【0032】
Niは、母材の高靱性を保ちつつ強度を増加させる元素である。このような効果は、0.05%以上の含有で有効となるが、高価であるため、1.5 %を上限とすることが好ましい。
また、Cr,Moは、いずれも母材の高強度化に有効に作用する元素である。このような効果は、Cr:0.1 %以上、Mo:0.05 %以上の含有で顕著となる。一方、過剰に含有すると、いずれも靱性に悪影響を与えるため、Cr:0.7 %以下、Mo:0.7 %以下にそれぞれ限定することが好ましい。
【0033】
Bは、焼入れ性の向上を介して、鋼の強度を増加させる作用を有するとともに、溶接熱影響部ではBNを形成し、 フェライトの生成核として作用する。また固溶Nを低減する効果も有する。0.0003%以下ではその効果が十分ではなく、一方、0.0030%を超えて含有すると焼入れ性が著しく増加し母材靱性の劣化を招く恐れがある。このため、Bは0.0003〜0.0030%の範囲に限定することが好ましい。
【0034】
Caは、HAZ組織をアシキュラーフェライト化させることにより、HAZ靭性を向上させる元素であり、必要に応じ含有できる。このような効果は0.0005%以上の含有で認められるが、0.0050%を超えて含有すると、鋼の清浄度を低下させる。このため、Caは0.0005〜0.0050%の範囲とすることが好ましい。
上記した成分以外の残部溶鋼は、Feおよび不可避的不純物である。
【0035】
上記した組成に調整した溶鋼を、ついで鋳造して鋼素材(スラブ)とする。鋳造方法は、特に限定されないが、分散粒子の大きさおよび形態を所望の範囲に制御するために、凝固段階において、鋳込速度や冷却速度を制御できる連続鋳造法とすることが好ましい。なお、分散粒子の大きさを決めている要因は、溶存酸素量とMn、S量が主であるが、鋳込時の冷却速度も影響するため、鋳造方法は造塊法よりも連鋳法とすることが好ましい。
【0036】
ついで、これら鋼素材を、1000℃以上、1250℃以下に再加熱する。
再加熱温度が1000℃未満では、熱間圧延での変形抵抗が高くなり、圧延負荷が過大となり、1パス当たりの圧下量が大きくとれなくなることから、圧延パス数が増加し、圧延能率を招くとともに、鋼素材(スラブ)中の鋳造欠陥を圧着することができない場合がある。このため、再加熱温度は、1000℃以上とする。一方、再加熱温度が1250℃を超えると、結晶粒の粗大化が著しく、また、加熱による酸化スケールが鋼素材表面に多量に生成し、スケールロスが多くなるとともに、表面品質が低下するため、鋼素材の再加熱温度は1000〜1250℃の範囲とする。なお、好ましくは、1000〜1180℃である。
【0037】
再加熱された鋼素材は、ついで、圧延終了温度をAr3変態点以上とする熱間圧延を施され、所定の寸法形状の厚鋼板とされる。
再加熱後、鋼素材は、繰り返し多パスの熱間圧延により、所定の板厚の厚鋼板とされるが、圧延終了温度がAr3変態点未満では、降伏比が80%を超えて大きくなり、建築用材として地震時の地震エネルギー吸収能力が低下する。このため、本発明では、熱間圧延の圧延終了温度はAr3変態点以上とした。なお、降伏比を安定して80%以下、さらには音響異方性を小さくする観点から、好ましくは(Ar3変態点+70℃)以上、さらに好ましくは850 ℃超えである。なお、組織の粗大化防止、母材靭性低下防止の観点から、圧延終了温度は、1000℃以下とすることが好ましい。
【0038】
なお、Ar3変態点(℃)は、含有する化学成分との関係で、概ね次式
Ar3=910-273C+25Si-74Mn-56Ni-16Cr-9Mo-5Cu-1620Nb
(ここで、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、Cu、Nb:各合金元素の含有量(質量%))で推測できる。なお、含有しない合金元素がある場合には、 該当する合金元素量を0として計算するものとする。
【0039】
本発明では、熱間圧延終了後の冷却は、緩冷却−加速冷却の2段冷却とする。圧延直後の冷却は、一部フェライト変態を生じさせ、降伏比を80%以下とするために、平均冷却速度が0.1 〜0.7 ℃/sの冷却を、(Ar3 変態点−10℃)〜(Ar3 変態点−70℃)の温度域まで行なう緩冷却とする。
(Ar3 変態点−10℃)よりも高い温度では、フェライトの生成量が少なく、降伏比80%以下の低降伏比が達成しにくい。一方、(Ar3 変態点−70℃)未満の温度では、フェライトの生成量が多量となり、所望の強度が得られにくくなる。
【0040】
また、緩冷却における平均冷却速度が0.1 ℃/s未満では、生産性が低下するとともに、フェライトの生成量が多量となり、所望の強度が得られにくくなる。一方、0.7 ℃/sを超えて大きくなると、フェライトの生成が遅れて所望の降伏比が得られにくくなる。
上記した緩冷却に続いて、本発明では平均冷却速度が1.0 ℃/s以上の加速冷却を600 ℃以下の温度域まで行う。
【0041】
平均冷却速度が1.0 ℃/s未満では変態後のフェライト粒が粗大化し、第2相が少なくなることから母材の強度が低下する。なお、平均冷却速度の上限については特に限定する必要はないが、条切り歪低減の観点からは、25℃/s以下とすることが望ましい。
また、加速冷却後の冷却停止温度は、母材強度の観点から、600 ℃以下とする。一方、冷却停止温度の下限温度は特に規定しないが、室温まで冷却しても構わない。加速冷却後の冷却停止温度の好適範囲は、550 ℃〜50℃である。
【0042】
加速冷却停止後は、室温まで空冷することが好ましい。
また、本発明では、鋼材の残留応力低減の目的で、上記した冷却後、200 〜600 ℃の温度範囲で焼戻し処理を施してもよい。焼戻し温度が200 ℃未満では、残留応力の除去効果が少なく、一方、600 ℃を超えて高くなると、各種炭窒化物が析出し、析出強化により、靭性が劣化するとともに降伏比が高くなる。
【0043】
上記した製造方法で製造された厚鋼板は、上記した溶鋼組成と同じ組成を有し、それ以外の不可避的不純物として、N:0.0050%以下、O:0.0050%以下が許容される。0.0050%を超えるNの含有は、粗粒域HAZ 靱性を劣化させる。また、0.0050%を超えるOの含有は、鋼中の酸化物量が増加し、鋼の清浄度を劣化させる。なお、Oは、REM の酸化物、酸硫化物、Mnの酸化物、酸硫化物の所要量以上の分散のために0.0010%以上とすることがより好ましい。
【0044】
また、上記した製造方法で製造された厚鋼板は、上記した組成に加えて、平均粒径10μm以下のREM 硫化物粒子、REM 酸化物粒子、REM 酸硫化物粒子の1種または2種以上と、平均粒径1μm以下の、Mn酸化物、Mn硫化物、Mn酸硫化物のうちの1種または2種以上が複合した粒子と、不可避的に存在する窒化物とが分散した組織を有する。
【0045】
平均粒径10μm以下のREM 硫化物粒子、REM 酸化物粒子、REM 酸硫化物粒子は、凝固過程で固液界面に晶出し、デンドライトの一方向成長を抑制する作用を有する。なお、デンドライトの一方向成長を抑制するためには、REM 硫化物粒子、REM 酸化物粒子、REM 酸硫化物粒子の平均粒径は1μm以上とすることが好ましい。REM の添加前の溶存酸素量を0.0030〜0.0120質量%に調整することにより、10μm以下好ましくは1μm以上のREM 硫化物粒子、REM 酸化物粒子、REM 酸硫化物粒子の1種または2種以上が固液界面に晶出するようになる。
【0046】
なお、デンドライトの一方向成長を抑制するために、このようなREM 硫化物粒子、REM 酸化物粒子、REM 酸硫化物粒子のうちの1種または2種以上は、粒数密度で 70個/mm2 以上分散させることが好ましい。70個/mm2 未満では、上記した効果が期待できなくなり、凝固組織を等軸晶化できない。
平均粒径で1μm以下と微細分散した、Mn酸化物、Mn硫化物、Mn酸硫化物のうちの1種または2種以上が複合した粒子は、超大入熱溶接HAZ のオーステナイト粒の成長を抑制する作用を有する。これら微細分散するMn系複合粒子は、二次脱酸生成物であり、凝固段階での二次デンドライトアーム間隔を微細とし、REM 添加後の溶存酸素量を0.0010〜0.0050質量%に調整することにより生成することができる。このようなMn系複合粒子は、粒数密度で1×106 個/mm2 以上分散させることが好ましい。1×106 個/mm2 未満では、HAZ の高温滞留域でのオーステナイト粒のピン止め効果が小さくなり、HAZ が粗粒化しHAZ 靱性が低下する。
【0047】
なお、分散粒子の平均粒径および単位面積当たりの粒数密度は、鋼板から採取した試験片の圧延方向と直角なC断面を研磨し、さらに研磨面を電解腐食して分散粒子を現出したのち、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、倍率:5000倍で各10視野撮像して、得られた画像を、画像解析装置を用いて処理し算出するものとする。
【0048】
【実施例】
表1に示す組成の溶鋼を、転炉で溶製し、RH脱ガス処理を施したのち、連続鋳造法で鋼素材(230 〜310mm 厚スラブ)とした。なお、溶製中に、脱酸処理により、REM 添加直前の溶存酸素量を調整した。また、一部では、Al添加による予備脱酸を行った。また、REM 、Sの添加量を変更して、REM 添加後の溶存酸素量を調整した。その後、その他の成分含有量を調整して、表1に示す組成の溶鋼にした。
【0049】
ついで、得られて鋼素材を表2に示す条件で再加熱し、表2に示す条件の熱間圧延を施し、表2に示す条件で冷却し、表2に示す板厚の厚鋼板とした。
得られた厚鋼板について、母材組織、母材引張特性、母材靭性を調査した。
(1)母材組織
得られた厚肉鋼板から、試験片を採取し、分散粒子の種類、平均粒径、および粒数密度を調べた。分散粒子の種類、平均粒径および単位面積当たりの粒数密度は、試験片のC断面( 圧延方向に直角方向)を研磨し、さらに研磨面を電解腐食して分散粒子を現出したのち、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、倍率:5000倍で各10視野撮像して、得られた画像を、画像解析装置を用いて算出し、各視野ごとの平均値を求め、さらに各視野の平均値を求め、各鋼板の値とした。分散粒子の種類は、走査型電子顕微鏡に装備されたEDX装置を用いて、決定した。
(2)母材引張特性
得られた厚肉鋼板の板厚の1/4 部C方向から、JIS 4号引張試験片を採取し、JIS Z 2204の規定に準拠して引張試験を実施し、降伏強さYS、引張強さTSを求めた。
(3)母材靭性
得られた厚鋼板の板厚の1/4 部C方向から、2mmVノッチ衝撃試験片を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、0 ℃における吸収エネルギーvE0(J)を求めた。
【0050】
また、得られた厚鋼板について、超大入熱溶接HAZ 靭性を調査した。
(4)超大入熱溶接HAZ 靭性
得られた厚鋼板から熱サイクル試験片を採取し、該熱サイクル試験片に入熱400kJ/cmのサブマージアーク溶接、入熱800kJ/cmのエレクトロスラグ溶接ボンド部相当の溶接熱サイクル(最高加熱温度:1400℃、800 〜500 ℃の冷却速度:0.55℃/s)、および入熱1200kJ/cm のエレクトロスラグ溶接ボンド部相当の溶接熱サイクル(最高加熱温度:1400℃、800 〜500 ℃の冷却速度:0.3 ℃/s)を付与した。これら溶接熱サイクル試験片から2mmVノッチ衝撃試験片を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、0 ℃における吸収エネルギーvE0(J)を求め、超大入熱溶接HAZ 靭性(再現HAZ靭性)を評価した。
【0051】
得られた結果を表3に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
本発明例はいずれも、YSが325MPa以上、TSが490MPa以上の高強度で、降伏比が80%以下の低降伏比と、vE0 が 70J以上の高靭性を有する良好な母材特性と、300kJ/cmを超える超大入熱溶接のボンド部におけるvE0 が70J 以上と、極めて良好な超大入熱溶接HAZ 靭性を有する厚鋼板である。これに対し、圧延条件が本発明の範囲を外れる比較例(鋼板No.9〜No.13)は、降伏比が80%を超えて高くなり、あるいは強度が所定強度未満と母材特性が低下していた。また、溶製条件が本発明の範囲を外れた比較例(鋼板No.16 〜No.22)では、HAZ 組織制御が達成できず、超大入熱溶接HAZ のvE0 が70J 未満と超大入熱溶接HAZ 靭性が低下している。
【0056】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、超大入熱溶接熱影響部靭性に優れ、かつ低降伏比を有する建築構造用厚鋼板が安価にしかも安定して製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明は、構造物の大型化や、施工能率の向上に寄与するという効果もある。
Claims (4)
- 溶鋼に、Siおよび/またはMnを添加して脱酸し、溶存酸素量を0.0030〜0.0120質量%に調整したのち、REM を添加し溶存酸素量を0.0010〜0.0050質量%に調整するとともに、組成を調整して、質量%で、
C:0.03〜0.15%、 Si:0.05〜0.50%、
Mn:0.5 〜 2.0%、 P:0.03%以下、
S:0.0005〜0.0060%、 REM :0.0010〜0.03%
を含有し、AlおよびTiをそれぞれ0.004 %以下に制限し、残部が Fe および不可避的不純物である組成の溶鋼とし、ついで該溶鋼を鋳造して鋼素材としたのち、該鋼素材に加熱温度:1000〜1250℃で、圧延終了温度:Ar3変態点以上とする熱間圧延を施し、該熱間圧延終了後、平均冷却速度が 0.1〜 0.7℃/sの冷却を(Ar3 変態点−10℃)〜(Ar3 変態点−70℃)の温度域まで行い、ついで平均冷却速度が 1.0℃/s以上の冷却を 600℃以下の温度域まで施すことを特徴とする超大入熱溶接熱影響部靭性に優れ、かつ低降伏比を有する建築構造用厚鋼板の製造方法。 - 前記脱酸の前に、Alを添加する予備脱酸を行い、前記脱酸前の溶存酸素量を0.0080〜0.0170質量%に調整することを特徴とする請求項1に記載の建築構造用厚鋼板の製造方法。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.05%以下、V:0.2 %以下、Cu:1.0 %以下、Ni:1.5 %以下、Cr:0.7 %以下、Mo:0.7 %以下、B:0.0003〜0.0025%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の建築構造用厚鋼板の製造方法。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.0050%含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の建築構造用厚鋼板の製造方法。
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