JP4043960B2 - 溶融成形用のアクリル系熱可塑性樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は溶融成形用のアクリル系熱可塑性樹脂組成物およびそれよりなる成形体に関する。より詳細には、本発明は、熱可塑性アクリル樹脂が本来有する優れた光学特性、機械的強度、耐熱性、耐候性、成形加工性などの諸特性を損なうことなくそのまま維持しながら、良好な耐溶剤性を有し、溶剤に曝されてもクラック、破損、変形、変色などのトラブルを極めて生じにくい成形体を得ることのできる溶融成形用のアクリル系熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形体に関する。
【0002】
【従来の技術】
メタクリル酸メチルを主体とする熱可塑性アクリル樹脂は、プラスチックのなかでも最高の透明性を有するものの一つであって光学特性に優れている。しかも熱可塑性アクリル樹脂は、耐候性、機械的強度などにも優れることから、時計ガラス、レンズ、プリズム、光ファイバー、光ディスク、家電・事務機器銘板、照明カバー、看板、ディスプレイ、サンルーフやカーポートなどの屋根材などの多くの用途に利用されている。
【0003】
熱可塑性アクリル樹脂からなる成形体の代表的な成形法の一つとして射出成形が汎用されているが、射出成形によって熱可塑性アクリル樹脂成形体を製造した場合には、成形体に内部応力(残留歪みなど)が残り易い。そこで、内部応力を除去するために、射出成形などによって得られた成形体を加熱アニーリング処理することが一般に行われているが、十分ではなく、内部応力が残ることが多い。内部応力の残った成形体は、変形、割れ、クラックなどが発生し易く、特にアルコール類、燃料油類、ワックスリムーバなどの有機溶剤に曝されると変形、クラック、割れ、変色などが一層生じ易くなり、耐溶剤性に劣る。自動車のリアコンビネーションランプや標識灯のレンズ、リアガーニッシュなどの車両用部材として使用される熱可塑性アクリル樹脂成形体では、溶剤による前記した変形、クラック、割れ、変色などのトラブルの発生は大きな欠点であり、かかる点から高い耐溶剤性が必要とされている。
【0004】
熱可塑性アクリル樹脂の耐溶剤性を改善する方法としては、アクリル樹脂自体の分子量を大きくする方法が知られている。しかしながら、アクリル樹脂自体の分子量を大きくして実質的な耐溶剤性向上効果を得るには、分子量を大幅に大きくする必要があり、それに伴ってアクリル樹脂の溶融流動性が低下し、成形加工性が低下するため好ましくない。
【0005】
また、アクリル樹脂の耐溶剤性を向上する目的で、アクリル樹脂98〜99.9重量部に対して、2〜15モル%のカルボン酸基を有しかつ0.1〜6重量%の金属イオンを有するアイオノマー樹脂0.1〜2重量部を配合したアクリル樹脂組成物が提案されている(特許文献1参照)。この発明では、アクリル樹脂としてメタクリル酸メチルとアクリル酸エステルを共重合してなる汎用のアクリル樹脂が用いられており、またアイオノマー樹脂としてエチレンと(メタ)アクリル酸の共重合体にナトリウム、亜鉛などの金属イオンを作用させて製造したものを用いるとしている。
この特許文献1のアクリル樹脂組成物を射出成形して得られる成形体は、アイオノマー樹脂を含まないアクリル樹脂からなる成形体に比べて耐溶剤性はある程度向上しているものの、耐溶剤性の改善効果は未だ十分ではない。しかも、このアクリル樹脂組成物よりなる成形体は、アイオノマー樹脂を含まないアクリル樹脂単独の成形体に比べて、表面硬度および熱変形温度が大きく低下しており、さらには透明性の低下も大きく、十分に満足のゆくものではなく、特に成形体が透明性レンズなどである場合は実使用に耐えうるものではなかった。
【0006】
【特許文献1】
特開昭63−170442号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、熱可塑性アクリル樹脂が本来有する優れた光学特性、機械的強度、耐熱性、耐候性などの諸特性を損なうことなくそのまま維持しながら、高い流動性を有していて成形加工性に優れ、しかも耐溶剤性が良好で溶剤に曝されてもクラック、破損、変形、変色などが極めて生じにくく、特に成形体に内部応力が残っていても溶媒によってクラック、破損、変形などが極めて発生しにくい成形体を製造することのできるアクリル系熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形体を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく、本発明者らは鋭意検討を重ねてきた。その結果、アクリル樹脂として、メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルとの共重合体からなる汎用のアクリル樹脂を用いる代わりに、メタクリル酸メチルを主体としそれに(メタ)アクリル酸を共重合させたカルボキシル基を有するアクリル樹脂を用い、そのカルボキシル基を有するアクリル樹脂に、エチレンと(メタ)アクリル酸との共重合体および亜鉛塩を含有させてアクリル系熱可塑性樹脂組成物を調製すると、該アクリル系熱可塑性樹脂組成物は高い流動性を有していて成形加工性に優れること、そして該アクリル系熱可塑性樹脂組成物から得られた成形体は、熱可塑性アクリル樹脂が本来有する優れた光学特性、機械的強度、耐熱性、耐候性を有し、しかも耐溶剤性に極めて優れていて、内部応力が残った状態で有機溶剤などに曝されてもクラック、割れ、変形などが発生しないことを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、カルボキシル基を有するアクリル樹脂、エチレンと(メタ)アクリル酸との共重合体および亜鉛塩を含有する前記アクリル系熱可塑性樹脂組成物中に更にリン化合物であるホスファイトを含有させると、溶融混合時や二次加工時にアクリル樹脂の熱分解などが防止または抑制されて、上記した優れた諸特性と併せて、耐熱性、耐久性(長期安定性)、耐変色性などの点でも一層優れる熱可塑性重合体組成物および成形体が得られることを見出した。
【0010】
さらに、本発明者らは、カルボキシル基を有するアクリル樹脂、エチレンと(メタ)アクリル酸との共重合体および亜鉛塩を含有し、更にホスファイトを含有する前記アクリル系熱可塑性樹脂組成物は、メタクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸以外の他の共重合可能な単量体とからなる熱可塑性アクリル樹脂と任意の割合で混合できること、そのため前記アクリル系熱可塑性樹脂組成物と、前記メタクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸以外の他の単量体とからなる熱可塑性アクリル樹脂の混合割合を調整することによって、上記した良好な諸特性を維持しながら、それぞれの目的や用途に適した種々の熱可塑性重合体組成物が得られることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)(i) (A)メタクリル酸メチル50〜99.95モル%、(メタ)アクリル酸0.05〜30モル%および共重合可能な他の単量体0〜49.95モル%からなる熱可塑性アクリル樹脂;
(B)エチレン70〜99.9モル%および(メタ)アクリル酸30〜0.1モル%からなるエチレン/(メタ)アクリル酸共重合体;
(C)亜鉛塩;並びに、
(D)ホスファイト;
を溶融混合してなる溶融成形用のアクリル系熱可塑性重合体組成物であって;
( ii ) 熱可塑性アクリル樹脂(A)とエチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)との配合割合が、質量比で、(A):(B)=90:10〜99.9:0.1であり;
( iii ) 熱可塑性アクリル樹脂(A)中の(メタ)アクリル酸に由来する構造単位に対して、亜鉛塩(C)を0.2〜10モル当量の割合で含有し;且つ、
( iv ) 熱可塑性アクリル樹脂(A)中の(メタ)アクリル酸に由来する構造単位に対して、ホスファイト(D)を0.2〜10モル当量の割合で含有する;
ことを特徴とする、前記(A)〜(D)を溶融混合してなる溶融成形用のアクリル系熱可塑性樹脂組成物である。
【0012】
さらに、本発明は、
(2) メタクリル酸メチル50〜99.95モル%と(メタ)アクリル酸以外の他の共重合可能な単量体50〜0.05モル%からなる熱可塑性アクリル樹脂(E)を更に含有する前記(1)の溶融成形用のアクリル系熱可塑性樹脂組成物である。
【0013】
そして、本発明は、
(3) 前記(1)または(2)のアクリル系熱可塑性樹脂組成物を溶融成形してなる成形体;および、
(4) 車両用部材である前記(3)の成形体;
である。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の溶融成形用のアクリル系熱可塑性樹脂組成物で用いる熱可塑性アクリル樹脂(A)は、メタクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸を共重合し、場合により共重合可能な他の単量体を更に共重合してなる熱可塑性アクリル樹脂である(以下「溶融成形用のアクリル系熱可塑性樹脂組成物」を単に「アクリル系熱可塑性樹脂組成物」ということがある )。
本発明で用いる熱可塑性アクリル樹脂(A)は、熱可塑性アクリル樹脂(A)の製造に用いる全単量体に基づいて、メタクリル酸メチルを50〜99.95モル%、(メタ)アクリル酸を0.05〜30モル%(アクリル酸とメタクリル酸の両方を用いる場合は両者の合計モル%)、および共重合可能な他の単量体を0〜49.95モル%の割合で用いて共重合した共重合体であることが必要である。
熱可塑性アクリル樹脂(A)において、メタクリル酸メチルの割合が50モル%未満であると耐候性が不十分となり、一方99.95モル%を超えると(メタ)アクリル酸の共重合割合が必然的に少なくなり、アクリル系熱可塑性樹脂組成物の耐溶剤性が低下する。
また、熱可塑性アクリル樹脂(A)において、(メタ)アクリル酸の割合が0.05モル%未満であるとアクリル系熱可塑性樹脂組成物の耐溶剤性が低下し、一方(メタ)アクリル酸の割合が30モル%を超えるとアクリル系熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性および耐水性が低下する。
熱可塑性アクリル樹脂(A)は、熱可塑性アクリル樹脂(A)の製造に用いる全単量体に基づいて、(メタ)アクリル酸を0.07〜10モル%の割合で用いて製造されたものであることが好ましい。
【0015】
また、熱可塑性アクリル樹脂(A)の製造に用い得る前記共重合可能な他の単量体としては、例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、N−シクロヘキシルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド、N−tert−ブチルマレイミド等のN−置換マレイミド化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物を挙げることができ、これらの単量体は単独で用いても、または2種以上を併用してもよい。
【0016】
熱可塑性アクリル樹脂(A)では、共重合可能な他の単量体の割合が、前記したように、熱可塑性アクリル樹脂(A)の製造に用いる全単量体に対して0〜49.95モル%であることが必要であり、30モル%以下であることが好ましい。共重合可能な他の単量体の割合が49.95モル%を超えると、熱可塑性アクリル樹脂本来の透明性、耐候性などの物性が低下し、ひいては熱可塑性アクリル樹脂組成物の透明性や耐候性が損なわれる。
【0017】
熱可塑性アクリル樹脂(A)は、アクリル系熱可塑性樹脂組成物の成形加工性を良好なものとするために、重量平均分子量(Mw)が1万〜30万の範囲にあることが好ましく、3万〜15万の範囲にあることがより好ましい。そのような重量平均分子量を有する熱可塑性アクリル樹脂(A)は、熱可塑性アクリル樹脂(A)の調製時に、例えばメルカプタンなどの従来公知の連鎖移動剤を添加して分子量の調節下に重合を行うことにより得ることができる。
なお、本明細書における熱可塑性アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲル・パーミュエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン換算にて算出した重量平均分子量である。
【0018】
熱可塑性アクリル樹脂(A)を製造するための重合方法などは特に制限されず、例えば、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、塊状重合などの公知の方法により得ることができる。
【0019】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物で用いるエチレンおよび(メタ)アクリル酸からなるエチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)は、エチレンと(メタ)アクリル酸との共重合体であって、エチレン単位を70〜99.9モル%および(メタ)アクリル酸単位を30〜0.1モル%の範囲内で有する共重合体である。特にエチレン単位を93〜99モル%および(メタ)アクリル酸単位を7〜1モル%の範囲内で有するエチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)が、アクリル系熱可塑性樹脂組成物の透明性、耐熱性などの点から好ましく用いられる。
エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)としては、温度190℃、荷重2.16kgの条件下に測定したMFRが1〜1000g/10分、特に10〜700g/10分のものが、アクリル系熱可塑性樹脂組成物の成形加工性、透明性などの点から好ましく用いられる。
エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)の製造法は特に制限されず、例えば、溶液重合、乳化重合、塊状重合などの公知の方法により製造することができる。また、市販のエチレン/(メタ)アクリル酸共重合体を用いてもよい。
【0020】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、該組成物およびそれからなる成形体の耐溶剤性、特に内部応力の残った成形体や外部から応力が加えられた状態にある成形体における耐溶剤性(以下これを「耐溶剤ストレスクラッキング性」ということがある)を良好にし、且つ透明性を優れたものにする点から、熱可塑性アクリル樹脂(A)およびエチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)を、質量比で、(A):(B)=90:10〜99.9:0.1の割合で含有し、95:5〜99.7:0.3の割合で含有することが好ましい。
【0021】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物で用いる亜鉛塩(C)としては、Znの無機塩および有機塩を挙げることができる。亜鉛塩の具体例としては、酸化亜鉛、酢酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛などを挙げることができ、これらは単独で使用してもまたは2種以上を用いてもよい。これらの亜鉛塩のうち、相溶性、透明性などの観点から、酢酸亜鉛が特に好ましく用いられる。
【0022】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、耐溶剤性がより良好になる点から、熱可塑性アクリル樹脂(A)中の(メタ)アクリル酸に由来する構造単位に対して、亜鉛塩(C)を0.2〜10モル当量で含有し、特に0.5〜5モル当量の割合で含有することが好ましい。
亜鉛塩(C)は、本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物を製造するための加熱・混合処理によって、熱可塑性アクリル樹脂(A)および/またはエチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)中のカルボキシル基に作用して亜鉛イオンまたは亜鉛イオンクラスターを介して分子間イオン結合などを形成し、それによって本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形体の耐溶剤性、耐熱性、透明性などを優れたものにする。
【0023】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、溶融時や二次加工時の熱可塑性アクリル樹脂の分解を防止または抑制して、耐熱性、耐久性、耐変色性などを一層良好なものにするために、ホスファイト(D)をさらに含有する。有機リン化合物であるホスファイトは熱可塑性アクリル樹脂(A)との混和性から好ましい。
本発明で用いるホスファイトの具体例としては、トリエチルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)エリスリトールジホスファイトなどのホスファイトなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)エリスリトールジホスファイトなどのホスファイトが、溶融混練時の熱安定性の点から好ましく用いられる。
【0024】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性アクリル樹脂(A)中の(メタ)アクリル酸に由来する構造単位に対して、ホスファイト(D)を0.2〜10モル当量、特に0.5〜5モル当量の割合で含有することが、溶融混合時や二次加工時の熱可塑性アクリル樹脂(A)の熱分解を防止して、耐熱性、耐久性、耐変色性などにより優れるアクリル系熱可塑性樹脂組成物や成形体を得ることができる点から好ましい。
【0025】
また、本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、メタクリル酸メチル50〜99.95モル%と(メタ)アクリル酸以外の他の共重合可能な単量体50〜0.05モル%からなる熱可塑性アクリル樹脂(E)を更に含有することができる。熱可塑性アクリル樹脂(E)としては、メタクリル酸メチル70〜99.9モル%と(メタ)アクリル酸以外の他の共重合可能な単量体を30〜0.1モル%からなる熱可塑性アクリル樹脂が好ましく用いられる。
【0026】
熱可塑性アクリル樹脂(E)の製造に用いられる(メタ)アクリル酸以外の他の共重合可能な単量体の種類は特に制限されず、例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、N−シクロヘキシルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド、N−tert−ブチルマレイミド等のN−置換マレイミド化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物を挙げることができ、これらの単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
熱可塑性アクリル樹脂(E)は、アクリル系熱可塑性樹脂組成物の成形加工性を良好なものとするために、重量平均分子量(Mw)が3万〜15万の範囲にあることが好ましい。そのような重量平均分子量を有する熱可塑性アクリル樹脂(E)は、熱可塑性アクリル樹脂(E)の調製時に、例えばメルカプタンなどの従来公知の連鎖移動剤を添加して分子量の調節下に重合を行うことにより得ることができる。
【0028】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、その用途や使用目的などに応じて熱可塑性アクリル樹脂(E)を適当な量で含有することができ、例えば、アクリル系熱可塑性樹脂組成物の総質量に対して熱可塑性アクリル樹脂(E)を0.5〜99.5質量%の割合で含有することができる。
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性アクリル樹脂(E)の含有量が例えば50質量%以上と多い場合であっても、アクリル系熱可塑性樹脂組成物が、熱可塑性アクリル樹脂(E)と共に、上記した熱可塑性アクリル樹脂(A)、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)、亜鉛塩(C)およびホスファイト(D)を含有することにより、光学特性、機械的強度、耐候性に優れ、しかも高い溶融流動性を有していて成形加工性に優れ、更には耐溶剤性に優れるアクリル系熱可塑性樹脂組成物および成形体を得ることができる。
熱可塑性アクリル樹脂(E)の重合方法などは特に制限されず、例えば、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、塊状重合などの公知の方法により製造することができる。
【0029】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて他の成分を配合することができ、例えば、安定剤、滑剤、充填剤、染料、顔料などの添加剤の1種または2種以上を含有していてもよい。
【0030】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物を調製する方法としては、前記熱可塑性アクリル樹脂(A)、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)、亜鉛塩(C)およびホスファイト(D)を、必要に応じて熱可塑性アクリル樹脂(E)、添加剤などの他の成分と共に、加熱下に混合する方法が採用される。該方法は特に制限されず、従来から利用されている溶融混合方法によって調製することができる。具体的には、熱可塑性アクリル樹脂(A)、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)、亜鉛塩(C)およびホスファイ ト(D)を、必要に応じて熱可塑性アクリル樹脂(E)、添加剤などの他の成分と共に、180〜320℃で溶融混合することによって調製することができる。それによって、亜鉛塩(C)中の亜鉛イオンが熱可塑性アクリル樹脂(A)中のカルボキシル基および/またはエチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)中のカルボキシル基に作用して亜鉛イオンまたは亜鉛イオンクラスターを介して分子間イオン結合などを形成するため、アクリル系熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形体の耐溶剤性、耐熱性、透明性などが一層向上する。
アクリル系熱可塑性樹脂組成物を調製する際の上記成分の混合順序は特に限定されず、例えば、熱可塑性アクリル樹脂(A)、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)、亜鉛塩(C)、ホスファイト(D)、および必要に応じて熱可塑性アクリル樹脂(E)、添加剤などの他の成分を、一度に溶融混合してもよいし、或いは熱可塑性アクリル樹脂(A)とエチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)とを予め溶融混合した後にそれに亜鉛塩(C)、ホスファイト(D)、および必要に応じて熱可塑性アクリル樹脂(E)、添加剤などの他の成分を添加して溶融下に混合してもよい。
【0031】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物の調製に当たっては、熱可塑性重合体組成物を製造する際に従来から利用されている溶融混合方法のいずれもが採用できる。例えば、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、オープンロール、ニーダーなどの混練機を使用して、熱可塑性アクリル樹脂(A)、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)、亜鉛塩(C)、ホスファイト(D)、および必要に応じて熱可塑性アクリル樹脂(E)、添加剤などの他の成分を180〜320℃で溶融混合し作用させることによって調製することができる。そのうちでも、ベント付き二軸押出機などの公知の混錬機を使用して、減圧下で、180〜320℃の温度で溶融混合する方法が、生産性の点から、本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物の調製法として好ましく採用される。
【0032】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、温度230℃、荷重3.8kgの条件下で、ASTM−D1237に従って測定したMFRが、一般に1.0g/10分以上、特に1.5g/10分以上となっており、高い溶融流動性を有しており、成形加工性に優れている。
【0033】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、従来既知の熱可塑性アクリル樹脂組成物と同様にして成形加工することができ、例えば、押出成形、射出成形、中空成形、圧縮成形、カレンダー成形などの従来公知の成形方法を用いて、板状物、シート状物、フイルム状物、中空成形体、管、ランプレンズ、その他の成形体などを製造することができる。
【0034】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形体は、通常の熱可塑性アクリル樹脂と同様に極めて光学特性に優れていて高い透明性を有し、しかも機械的強度、耐候性、耐加水分解性などの特性にも優れており、それに加えて耐溶剤性に優れ、しかも高い溶融流動性を有する。そのため、それらの特性を活かして、例えば、自動車のリアコンビネーションランプ、標識灯のレンズ、リアガーニッシュなどのような車両用部材;時計ガラス;レンズ、プリズムなどの光学材料;光ファイバー;光ディスク;家電・事務機器銘板;照明カバー、看板、ディスプレイ;サンルーフやカーポートなどの屋根材などの種々の用途に有効に用いることができる。特に、本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、透明性を有すると共に、高い溶融流動性を有していて溶融成形性に極めて優れ、しかも耐溶剤性に極めて優れることから、車両用部材のような大型成形体で且つ耐溶剤性が必要とされる成形体の製造に好適に用いられる。
【0035】
【実施例】
以下、本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されない。
以下の例において、熱可塑性アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)、熱可塑性アクリル樹脂中のメタクリル酸由来の構造単位の含有量、熱可塑性アクリル樹脂またはアクリル系熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性、熱可塑性アクリル樹脂またはアクリル系熱可塑性樹脂組成物から得られた成形体の光学物性(全光線透過率およびヘイズ)、耐熱性(ビカット軟化点)、力学物性(曲げ弾性率)並びに耐溶剤ストレスクラッキング性は次のようにして測定または評価した。
【0036】
(1)熱可塑性アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn):
東ソー社製「HLC8020GPC」を使用し、40℃で溶媒をテトラヒドロフラン(THF)とし、カラムはTSKgel G2000HHRを1本と、TSKgel GMHHR−Mを2本、直列で使用して測定し、ポリスチレン換算にて算出した。
【003 7】
(2)熱可塑性アクリル樹脂中のメタクリル酸由来の構造単位の含有量:
水酸化カリウムによる中和滴定により熱可塑性アクリル樹脂の酸価を測定し、下記の数式により求めた。
【0038】
【数1】
メタクリル酸由来の構造単位の含有量(モル%)
={x(100.1fMMA+86.1fMAA+86.1fMA)/(56.1×103)}×100
[式中、x=酸価(KOHのmg/樹脂1g)、fMMA=メタクリル酸メチルの仕込モル分率、fMAA=メタクリル酸の仕込モル分率、fMA=アクリル酸メチルの仕込モル分率を示す。]
【0039】
(3)溶融流動性:
以下の実施例および比較例で得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物または熱可塑性アクリル樹脂を用いて、ASTM−D1238に従って、温度230℃および荷重3.8kgの条件下にMFR(g/10分)を測定し、溶融流動性の指標とした。
【0040】
(4)光学物性:
以下の実施例および比較例で得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物または熱可塑性アクリル樹脂を用いて、射出成形機(日本製鋼所製「N70A型」)を使用して、溶融温度250℃、金型温度50℃の条件下射出成形を行って試験片を作製し、この試験片を用いて、ASTM−D1003により全光線透過率(%)およびヘイズ(%)を測定した。
【0041】
(5)力学物性(曲げ弾性率):
以下の実施例および比較例で得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物または熱可塑性アクリル樹脂を用いて、射出成形機(日本製鋼所製「N70A型」)を使用して、溶融温度250℃、金型温度50℃の条件下射出成形を行って試験片を作製し、この試験片を用いて、ASTM−D790により曲げ弾性率(MPa)を測定した。
【0042】
(6)耐熱性(ビカット軟化点):
以下の実施例および比較例で得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物または熱可塑性アクリル樹脂を用いて、射出成形機(日本製鋼所製「N70A型」)を使用して、溶融温度250℃、金型温度50℃の条件下射出成形を行って試験片を作製し、この試験片を用いて、ASTM−D1525により曲げ弾性率(MPa)を測定した。
【0043】
(7)耐溶剤ストレスクラッキング性:
以下の実施例および比較例で得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物または熱可塑性アクリル樹脂を用いて、射出成形機(日本製鋼所製「N70A型」)を使用して、溶融温度250℃、金型温度50℃の条件下射出成形を行って試験片(サイズ:幅×長さ×厚さ=25.4mm×177mm×3mm)を作製し、ASTM−F791に基づき内部応力48MPaで、溶剤(界面活性剤入りケロシン油:ユシロ化学社製「ワックスリムーバCPC」)を用いて破断するまでの時間を測定して、耐溶剤ストレスクラッキング性を評価した。
【0044】
《実施例1》
(1) 容量50リットルの攪拌機付きオートクレーブに、イオン交換水20.6kgを仕込んだ後、ヒドロキシエチルセルロース60gを加えて120rpmで攪拌して溶解させ、そこにメタクリル酸メチル13.5kg、アクリル酸メチル0.3kg、メタクリル酸12.3g、n−オクチルメルカプタン35.9gおよびラウロイルパーオキサイド63.9gを加え、窒素置換した後、密閉し、65℃に昇温し重合を開始した。重合発熱による昇温がピークを越えた後、100℃に昇温し後重合を行った。得られたビーズ状の熱可塑性アクリル樹脂(A)を水洗、ろ過、乾燥させた。得られた熱可塑性アクリル樹脂(A)中のメタクリル酸由来の構造単位の含有量は、熱可塑性アクリル樹脂(A)の全構造単位に対して0.12モル%であり、熱可塑性アクリル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は105000、分子量分布(Mw/Mn)は1.91であった。
【0045】
(2) 上記(1)で得られた乾燥したビーズ状の熱可塑性アクリル樹脂(A)5kgおよびエチレン/メタクリル酸共重合体(B)[三井・デュポンポリケミカル社製「ニュクレルN1050H」;メタクリル酸単位含量=3.5モル%、MFR=500g/10分(190℃、2.16kg)]50gに、酢酸亜鉛(無水和物)10.7gおよびトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(城北化学株式会社製「JP−650」)37.5gを加え、ベント付き二軸押出機を用い、押出し温度260℃にて溶融混合した後、ペレット化して、アクリル系熱可塑性樹脂組成物のペレットを製造した。
(3) 上記(2)で得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性(MFR)を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
また、上記(2)で得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いて試験片を作製して、上記した方法でその光学物性(全光線透過率、ヘイズ値)、力学物性(曲げ弾性率)、耐熱性(ビカット軟化点)および耐溶剤ストレスクラッキング性を測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0046】
《実施例2》
(1) 容量50リットルの攪拌機付きオートクレーブに、イオン交換水20.6kgを仕込んだ後、ヒドロキシエチルセルロース60gを加えて120rpmで攪拌し溶解させ、次いでメタクリル酸メチル13.5kg、アクリル酸メチル0.3kg、メタクリル酸24.7g、n−オクチルメルカプタン35.9gおよびラウロイルパーオキシド63.9gを加え、窒素置換した後、密閉し、65℃に昇温し重合を開始した。重合発熱による昇温がピークを越えた後、100℃に昇温し後重合を行った。得られたビーズ状の熱可塑性アクリル樹脂(A)を水洗、ろ過、乾燥させた。得られた熱可塑性アクリル樹脂(A)中のメタクリル酸由来の構造単位の含有量は、熱可塑性アクリル樹脂(A)の全構造単位に対して0.19モル%であり、熱可塑性アクリル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は97000、分子量分布(Mw/Mn)は1.92であった。
【0047】
(2) 上記(1)で得られた乾燥したビーズ状の熱可塑性アクリル樹脂(A)5kgおよびエチレン/メタクリル酸共重合体(B)[三井・デュポンポリケミカル社製「ニュクレルN1560」;メタクリル酸単位含量5.4モル%、MFR=60g/10分(190℃、2.16kg)]100gに、酢酸亜鉛(無水和物)21.4gおよびトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(城北化学株式会社製「JP−650」)75.0gを加え、ベント付き二軸押出機を用い、押出し温度280℃にて溶融混合した後、ペレット化して、アクリル系熱可塑性樹脂組成物のペレットを製造した。
(3) 上記(2)で得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性(MFR)を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
また、上記(2)で得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いて試験片を作製して、上記した方法でその光学物性(全光線透過率、ヘイズ値)、力学物性(曲げ弾性率)、耐熱性(ビカット軟化点)および耐溶剤ストレスクラッキング性を測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0048】
《実施例3》
(1) 容量50リットルの攪拌機付きオートクレーブに、イオン交換水20.6kgを仕込んだ後、ヒドロキシエチルセルロース60gを加えて120rpmで攪拌し溶解させ、次いでメタクリル酸メチル13.4kg、アクリル酸メチル0.3kg、メタクリル酸123.6g、n−オクチルメルカプタン88.2gおよびラウロイルパーオキシド65.2gを加え、窒素置換した後、密閉し、65℃に昇温し重合を開始した。重合発熱による昇温がピークを越えた後、100℃に昇温し後重合を行った。得られたビーズ状の熱可塑性アクリル樹脂(A)を水洗、ろ過、乾燥させた。得られた熱可塑性アクリル樹脂(A)中のメタクリル酸由来の構造単位の含有量は、熱可塑性アクリル樹脂(A)の全構造単位に対して1.03モル%であり、熱可塑性アクリル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は49000、分子量分布(Mw/Mn)は1.89であった。
【0049】
(2) 上記(1)で得られた乾燥したビーズ状の熱可塑性アクリル樹脂(A)5kgおよび実施例2で使用したのと同じエチレン/メタクリル酸共重合体(B)100gに、酢酸亜鉛(無水和物)55.0gおよびトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(城北化学株式会社製「JP−650」)189.0gを加え、ベント付き二軸押出機を用い、押出し温度260℃にて溶融混合した後、ペレット化して、アクリル系熱可塑性樹脂組成物のペレットを製造した。
(3) 上記(2)で得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性(MFR)を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
また、上記(2)で得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いて試験片を作製して、上記した方法でその光学物性(全光線透過率、ヘイズ値)、力学物性(曲げ弾性率)、耐熱性(ビカット軟化点)および耐溶剤ストレスクラッキング性を測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0050】
《実施例4》
(1) 容量50リットルの攪拌機付きオートクレーブに、イオン交換水20.6kgを仕込んだ後、ヒドロキシエチルセルロース60gを加えて120rpmで攪拌して溶解させ、そこにメタクリル酸メチル13.5kg、アクリル酸メチル0.3kg、n−オクチルメルカプタン35.9gおよびラウロイルパーオキサイド63.9gを加え、窒素置換した後、密閉し、65℃に昇温し重合を開始した。重合発熱による昇温がピークを越えた後、100℃に昇温し後重合を行った。得られたビーズ状の熱可塑性アクリル樹脂(E)を水洗、ろ過、乾燥させた。得られた熱可塑性アクリル樹脂(E)の重量平均分子量(Mw)は95000、分子量分布(Mw/Mn)は1.91であった。
【0051】
(2) 実施例3の(1)で得られたのと同じビーズ状の熱可塑性アクリル樹脂(A)0.5kg、上記(1)で得られたビーズ状の熱可塑性アクリル樹脂(E)4.5kgおよび実施例2で使用したのと同じエチレン/メタクリル酸共重合体(B)50g、酢酸亜鉛(無水和物)21.4gおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)エリスリトールジホスファイト(旭電化工業株式会社製「アデカスタブPEP−24G」)35.1gを加えて、ベント付き二軸押出機を用い、押出し温度260℃にて溶融混合した後、ペレット化して、アクリル系熱可塑性樹脂組成物のペレットを製造した。
(3) 上記(2)で得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性(MFR)を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
また、上記(1)で得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いて試験片を作製して、上記した方法でその光学物性(全光線透過率、ヘイズ値)、力学物性(曲げ弾性率)、耐熱性(ビカット軟化点)および耐溶剤ストレスクラッキング性を測定または評価したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0052】
《比較例1》
(1) 容量50リットルの攪拌機付きオートクレーブに、イオン交換水20.6kgを仕込んだ後、ヒドロキシエチルセルロース60gを加えて120rpmで攪拌し溶解させ、次いでメタクリル酸メチル13.5kg、アクリル酸メチル0.3kg、n−オクチルメルカプタン35.9gおよびラウロイルパーオキシド63.9gを加え、窒素置換した後に密閉し、65℃に昇温し重合を開始した。重合発熱による昇温がピークを越えた後、100℃に昇温し後重合を行った。得られたビーズ状の熱可塑性アクリル樹脂を水洗、ろ過、乾燥させた。得られた熱可塑性アクリル樹脂は、メタクリル酸由来の構造単位を含んでおらず、その重量平均分子量(Mw)は105000、分子量分布(Mw/Mn)は1.95であった。
【0053】
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性アクリル樹脂をベント付き二軸押出機に供給して押出し温度280℃にて溶融混練した後にペレット化して、熱可塑性アクリル樹脂のペレットを製造した。
(3) 上記(2)で得られた熱可塑性アクリル樹脂ペレットの溶融流動性(MFR)を上記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、上記(2)で得られた熱可塑性アクリル樹脂ペレットを用いて試験片を作製して、上記した方法でその光学物性(全光線透過率、ヘイズ値)、力学物性(曲げ弾性率)、耐熱性(ビカット軟化点)および耐溶剤ストレスクラッキング性を測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0054】
《比較例2》
(1) 容量50リットルの攪拌機付きオートクレーブに、イオン交換水20.6kgを仕込んだ後、ヒドロキシエチルセルロース60gを加えて120rpmで攪拌し溶解させ、次いでメタクリル酸メチル13.5kg、アクリル酸メチル0.3kg、n−オクチルメルカプタン21.4gおよびラウロイルパーオキシド63.9gを加え、窒素置換した後、密閉し、65℃に昇温し重合を開始した。重合発熱による昇温がピークを越えた後、100℃に昇温し後重合を行った。得られたビーズ状の熱可塑性アクリル樹脂を水洗、ろ過、乾燥させた。得られた熱可塑性アクリル樹脂は、メタクリル酸由来の構造単位を含んでおらず、その重量平均分子量(Mw)は135000、分子量分布(Mw/Mn)は1.93であった。
【0055】
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性アクリル樹脂をベント付き二軸押出機に供給して押出し温度280℃にて溶融混練した後にペレット化して、熱可塑性アクリル樹脂のペレットを製造した。
(3) 上記(2)で得られた熱可塑性アクリル樹脂の溶融流動性(MFR)を上記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、上記(2)で得られた熱可塑性アクリル樹脂ペレットを用いて試験片を作製して、上記した方法でその光学物性(全光線透過率、ヘイズ値)、力学物性(曲げ弾性率)、耐熱性(ビカット軟化点)および耐溶剤ストレスクラッキング性を測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0056】
《比較例3》
(1) 比較例1の(1)で得られたビーズ状の熱可塑性アクリル樹脂5kgおよび実施例1で使用したのと同じエチレン/メタクリル酸共重合体(B)50g、酢酸亜鉛(無水和物)10.7gおよびトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(城北化学株式会社製「JP−650」)37.5gを加え、ベント付き二軸押出機を用い、押出し温度260℃にて溶融混合した後、ペレット化して、アクリル系熱可塑性樹脂組成物のペレットを製造した。
(2) 上記(1)で得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性(MFR)を上記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
また、上記(1)で得られたアクリル系熱可塑性樹脂組成物のペレットを用いて試験片を作製して、上記した方法でその光学物性(全光線透過率、ヘイズ値)、力学物性(曲げ弾性率)、耐熱性(ビカット軟化点)および耐溶剤ストレスクラッキング性を測定または評価したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
上記の表1にみるように、実施例1〜4のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、組成物を構成する熱可塑性アクリル樹脂(A)(メタクリル酸メチル系樹脂)がメタクリル酸に由来する構造単位を本発明で規定する0.05〜30モル%の範囲内で有していて、且つエチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)、亜鉛塩(C)(酢酸亜鉛)およびホスファイト(D)[トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト又はビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)エリスリトールジホスファイト]を含有していることによって、高いMFRを有し、溶融流動性に優れている。
しかも、実施例1〜4のアクリル系熱可塑性樹脂組成物から得られた成形体は、全光線透過率がいずれも90%以上であり且つヘイズ値がいずれも1.0%以下であり、透明性の点でも極めて優れている。さらに、実施例1〜4のアクリル系熱可塑性樹脂組成物よりなる成形体は、曲げ弾性率が高く力学物性にも優れており、しかもビカット軟化点が115℃以上と高く、耐熱性に優れている。その上、実施例1〜4のアクリル系熱可塑性樹脂組成物から得られた成形体は、内部応力を与えた状態で溶剤に曝した際に破断が生ずるまでの時間が2800秒以上と長く、耐溶剤性(耐溶剤ストレスクラッキング性)に極めて優れている。
【0060】
一方、上記の表2の結果から明らかなように、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルとの共重合体からなる比較例1の熱可塑性アクリル樹脂(汎用のアクリル樹脂)は、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を有しておらず、更にエチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)、亜鉛塩(C)およびホスファイト(D)を含有していないことにより、内部応力を与えた状態で溶剤に曝した際に破断が生ずるまでの時間が220秒であって実施例1〜4に比べて大幅に短くなっており、耐溶剤性、特に耐溶剤ストレスクラッキング性に著しく劣っている。
【0061】
また、比較例2のメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルとの共重合体からなる熱可塑性アクリル樹脂は、その重量平均分子量(Mw)が135000であって実施例1〜4のアクリル系熱可塑性樹脂組成物で用いている熱可塑性アクリル樹脂(A)よりも重量平均分子量(Mw)がかなり高いことにより、耐溶剤ストレスクラッキング性の点では実施例1〜4とほぼ同じであるが、重量平均分子量が高いためにMFRが0.3g/10分と極めて低く、溶融流動性(成形加工性)に劣っている。
【0062】
比較例3のアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、組成物を構成する熱可塑性アクリル樹脂が(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を持たない熱可塑性アクリル樹脂(メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルとの共重合体樹脂)であるために、該熱可塑性アクリル樹脂と共にエチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)、亜鉛塩(C)(酢酸亜鉛)およびホスファイト(D)[トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト]を含有してはいても、該組成物から得られた成形体に内部応力を与えた状態で溶剤に曝した際に破断が生ずるまでの時間が450秒であって実施例1〜4に比べて大幅に短くなっており、耐溶剤性、特に耐溶剤ストレスクラッキング性に著しく劣っている。
しかも、比較例3のアクリル系熱可塑性樹脂組成物から得られた成形体は、全光線透過率が80%と低く且つヘイズ値が18%と高く、光学特性に劣っており、その上ビカット軟化点が109℃であって、実施例1〜4のアクリル系熱可塑性樹脂組成物から得られた成形体のビカット軟化点に比べて低く、耐熱性の点でも劣っている。
【0063】
【発明の効果】
本発明のアクリル系熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる成形体は、熱可塑性アクリル樹脂(メタクリル酸メチル系樹脂)が本来有する優れた光学特性、高い機械的強度、優れた耐候性、高い溶融流動性、耐熱性などの特性をそのまま保持しており、それに加えて耐溶剤性に優れており、内部応力の残った状態や、外部から応力の加わった状態で溶剤に曝されても、クラック、破損、変形、変色などが極めて発生しにくいという優れた特性を有している。
本発明の熱可塑性アクリル樹脂組成物は、前記した特性を活かして、例えば、自動車のリアコンビネーションランプ、標識灯のレンズ、リアガーニッシュなどのような車両用部材;時計ガラス;レンズ、プリズムなどの光学材料;光ファイバー;光ディスク;家電・事務機器銘板;照明カバー、看板、ディスプレイ;サンルーフやカーポートなどの屋根材などの種々の用途に有効に用いることができ、特に車両用部材などのような大型成形体で且つ耐溶剤ストレスクラッキング性が必要とされる成形体の製造に好適に用いられる。
Claims (4)
- (i) (A)メタクリル酸メチル50〜99.95モル%、(メタ)アクリル酸0.05〜30モル%および共重合可能な他の単量体0〜49.95モル%からなる熱可塑性アクリル樹脂;
(B)エチレン70〜99.9モル%および(メタ)アクリル酸30〜0.1モル%からなるエチレン/(メタ)アクリル酸共重合体;
(C)亜鉛塩;並びに、
(D)ホスファイト;
を溶融混合してなる溶融成形用のアクリル系熱可塑性重合体組成物であって;
( ii ) 熱可塑性アクリル樹脂(A)とエチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(B)との配合割合が、質量比で、(A):(B)=90:10〜99.9:0.1であり;
( iii ) 熱可塑性アクリル樹脂(A)中の(メタ)アクリル酸に由来する構造単位に対して、亜鉛塩(C)を0.2〜10モル当量の割合で含有し;且つ、
( iv ) 熱可塑性アクリル樹脂(A)中の(メタ)アクリル酸に由来する構造単位に対して、ホスファイト(D)を0.2〜10モル当量の割合で含有する;
ことを特徴とする、前記(A)〜(D)を溶融混合してなる溶融成形用のアクリル系熱可塑性樹脂組成物。 - メタクリル酸メチル50〜99.95モル%と(メタ)アクリル酸以外の他の共重合可能な単量体50〜0.05モル%からなる熱可塑性アクリル樹脂(E)を更に含有する請求項1に記載の溶融成形用のアクリル系熱可塑性樹脂組成物。
- 請求項1または2に記載の溶融成形用のアクリル系熱可塑性樹脂組成物を溶融成形してなる成形体。
- 車両用部材である請求項3に記載の成形体。
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