JP4043754B2 - 遅れ破壊特性に優れた高強度pc鋼棒 - Google Patents

遅れ破壊特性に優れた高強度pc鋼棒 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はPCポール、PCパイル等のプレストレストコンクリート構造物の補強用鋼材として用いられるPC鋼棒に関わるものであり、特に引張強さが1420MPa以上を有する遅れ破壊特性に優れる高強度PC鋼棒に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
PC鋼棒はコンクリートパイル、ポールおよび橋梁、建築等のプレストレストコンクリート構造物の補強用鋼材として広く使用されている。このようなPC鋼棒はJIS G 3109「PC鋼棒」およびJIS G 3137「細径異形PC鋼棒」にて引張強さ、耐力、伸び、リラクセーション値が規格化されており、高強度PC鋼棒としては、引張強さが1420MPa以上のD種規格製品まで市販されている。
【0003】
一般にPC鋼棒は焼入れ、焼戻しを行うことにより製造され、C含有量が0.2%〜0.4%の中炭素鋼を素材としているために溶接が可能であるという特徴がある。
【0004】
PC鋼棒はコンクリート製品にプレストレスト力を作用するために常に引張応力が作用しており、プレストレストコンクリート構造物中の高強度PC鋼棒は長期間の使用中に、コンクリートのひび割れ部等から水分が侵入し、局部的に腐食が発生し、鋼中に水素が侵入することにより遅れ破壊を引き起こすことがある。このために高強度化に伴い、耐遅れ破壊特性が要求される。
【0005】
一方、PC鋼棒は、コンクリートの打設前に籠状に形成するために緊張力を負荷する主筋の周りに鉄線をスポット溶按等により固定することが行われる.このスポット溶接部は急速に冷却されるために急冷組繊であるマルテンサイトとなり、遅れ破壊し易い組織となる。このためにPC鋼棒は母材での遅れ破壊特性改善と共にスポット溶接を行った後の遅れ破壊特性にも優れていることが求められている。
【0006】
PC鋼棒の遅れ破壊特性の改善に関しては従来から種々の提案がなされてはいるものの製造コストと特性を十分に満足すべき技術は確立されていない。
【0007】
特公平5−59967号公報に記載されているように遅れ破壊特性を改善するためにP,Sの低減が有効であるとの提案がある。しかし、P,Sの不純物元素の低減のためには精錬工程でのプロセスを追加処理する必要があり、コストの増加を招く問題がある。
【0008】
また、特開平6−212346号公報にはNiを0.25〜0.8%添加し、PC鋼棒のスポット溶接部の遅れ破壊特性を改善したPC鋼棒が提案されている。しかし、合金元素として高価なNiを添加することによるコストが増加する課題がありコスト面で必ずしも満足できるものではない。
【0009】
特開平5−7963号公報にはPC鋼棒と鉄線のスポット溶接部周辺を樹脂で被覆層を設けることにより腐食環境と鋼材の接触を防止し、遅れ破壊の発生を防止する方法が提案されている。しかし、この樹脂による被覆を行っても樹脂部分がコンクリートに打設されるまでの間に損傷を受けた場合には溶接部と腐食環境の接触を完全に防止することは出来ず、樹脂被覆工程の追加によるコスト増加を招く問題がある。
【0010】
このように従来の技術では高強度のPC鋼棒の遅れ破壊をコストの増加を伴わないで抜本的に改善するには限界があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記実状に鑑み、最適な組織形態を明らかにすることで、大幅な遅れ破壊特性の改善を可能とした引張強さ1420MPa以上で実際の製造ラインで容易かつ安定して製造可能な耐遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒を提供することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはγ粒の形態について着目し、特開平9−78195号公報で旧オーステナイト(以下γと記す)の形態の伸張化と、γ粒界にフェライト(以下αと記す)を析出させた組織により遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒を既に提案している。
【0013】
本発明者らは、更にγ粒形態とα組織形態が遅れ破壊特性に及ぼす影響について検討を行い、亀裂の進展状況を詳細に解析し、大幅に遅れ破壊特性を改善する引張強さ1420MPa以上の高強度PC鋼棒の最適組織形態を明らかにした。
【0014】
マルテンサイト組織を有する高強度鋼の遅れ破壊は鋼材中に侵入した水素が原因となりγ粒界を亀裂が進展することにより破壊する。従って、遅れ破壊破面の特徴として粒界破面が観察される。このことからγ粒界の脆化抑制が遅れ破壊特性の改善には有効であり、P,Sの不純物の低減もγ粒界の脆化抑制を目的としたものである。
【0015】
本発明者らはまた、γ粒界割れを抑制することを目的にγ粒界にαを析出させた組織とすることにより、遅れ破壊特性が改善され高強度PC鋼棒が得られることを既に提案しているが、粒界へ析出するαの形態によりγ粒界の性格が変化し、遅れ破壊特性が大きく変化することを知見した。この結果、遅れ破壊特性を改善する最適なα形態が存在することを発見し、γ粒とα形態を最適化することにより大幅に遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒が得られ、さらに実際の製造ラインで容易に大幅なコスト増加を伴うことなく製造可能であるとの結論に達し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
本発明は以上の知見に基づいてなされたものであって、その要旨とするところは、次の通りである。
【0017】
旧オーステナイト粒界に、オーステナイト粒径の0.1以上0.5未満の粒径のフェライト粒が存在し、該フェライト粒の長さと長さに直角方向の厚さの比(フェライト粒のアスペクト比)が1.5以上であるフェライトと焼戻しマルテンサイト組織からなることを特徴とする遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒で、さらに旧オーステナイト粒界に析出したフェライト粒の数が1000μm2当たり50個以上500個未満であることを特徴とした遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒および旧オーステナイト粒の長さと長さに直角方向の幅の比率(オーステナイト粒のアスペクト比)が1.5以上であることを特徴とする遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒である。
【0018】
該遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒は旧オーステナイトとフェライト粒の形態を限定すると共に質量%で、
C:0.2〜0.4%
Si:0.1〜2.0%
Mn:0.2〜2.0%
およびTi:0.005〜0.05%
Mo:0.05〜1.0%
B:0.0005〜0.0050%、Nb:0.01〜0.1%の1種以上を含有し、引張強さが1420MPa以上であることを特徴とする上記組繊を有する遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒である。
【0019】
本発明のPC鋼棒の製造手殴は特に限定はされないが、本発明の組織形態が得られる方法であればどの様な手投を用いてもかまわず、耐遅れ破壊特性と高強度が満足できれば、熱間での加工、冷間での加工および圧延、伸線、鍛造等の手段が適用可能であり、この加工時の温度を適宜選択することによりγ粒、α粒の形態制御を可能とするものである。さらに加工と同時に焼入れ、焼戻し処理を行うことによりPC鋼棒の強度の調整も可能であり、加工熱処理により連続して処理を行うことにより単純な工程で製造コストの増加も抑制することが可能となる。
【0020】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態について説明する。まず、本発明で最も重要なポイントであるα形態の限定理由について述べる。
【0021】
α組織はγ相から冷却過程の変態によりγ粒界に優先的に析出する。加工熱処理によりαをγ粒界に析出させた場合はγの細粒化と共に加工歪による変態核が多くなるために微細かつ粒状のαが析出し、加工を行わずγ域から温度の低下に伴って変態析出したαは加工した場合に比べ変態核が少なく粗大なα粒となる。
【0022】
また、αとγの共存温度領域、いわゆる二相域に加熱することによってもα粒を含む組織を得ることが可能である。
【0023】
遅れ破壊特性に及ぼす組織形態、成分の影響は濃度20%のNH4SCN水溶液を温度50℃に保持した溶液中に浸漬し、一定荷重を負荷して破断するまでの時間で評価した(以下FIP試験と記す)。
【0024】
まず、α粒の粒径の限定理由について述べる。加熱温度、加熱時間、加工度の異なる条件のPC鋼棒を製造し、γ粒径とγ粒界析出するα粒径が異なるサンプルを作成し、α粒サイズをγ粒径に対する比率とFIP破断時間の関係について解析した結果を図1に示す。その結果、γ粒の0.1以上の粒径のα粒が析出することにより、α粒の析出がない焼入焼戻し処理材(α粒径0で示す)よりFIP破断時間は長くなる。しかし、γ粒径の0.5以上の粗大な粒径のα粒が析出するとFIP破断時間が短くなり、ついにはα粒の析出がないサンプルと同等以下の破断時間となることがわかった。
【0025】
破断サンプルの破面観察の結果、αが微細析出した組織では粒界割れは認めらず、粒内破壊となっていたが、α粒径が大きい場合はα粒内を亀裂が進展し、劈開破壊していることがわかった。特にα粒径がγ粒径の0.5以上の大きさに粗大析出したサンプルではほば全面に劈開破面が観察され、亀裂がα粒を優先的に進展し、連続してα粒内を亀裂が進展する結果、破断時間が著しく短くなったことがわかった。
【0026】
さらに、α粒径がγ粒径の0.1未満の微細析出したサンプルでγ粒が伸張していないものは粒界破面が、γが伸張した場合でも、擬劈開破面と共に長手方向の粒界に沿って発生した亀裂が存在し、フェライトをγ粒界に析出させたことによるγ粒界割れの抑制による遅れ破壊特性の改善効果は得られなかった。このよぅなことから本発明では粒界析出α粒径はγ粒径に対して0.1以上0.5未満とした。より好ましくは0.2以上0.4未満である。
【0027】
次にα形態の限定理由について述べる。γ粒界へ変態析出するα形態はほとんどが粒状であり、変態温度の低温化により微細化するもののその形態に大きな差は認められない。しかし、α粒析出後に加工を行うことによりα粒の形態を長手方向に展伸させることが可能となる。また、事前にフェライト、パーライト組織を冷間加工を行いα粒を長手方向に展伸させた後に二相域に加熱し、展伸したαを残存させることでも展伸αを得ることは可能である。さらに、加工度を変えることによりα粒の展伸度合の異なる組織を得ることができる。このようにしてαの展伸度合いの異なるPC鋼棒のFIP試験を行い、α形態の影響について解析した。その結果を図2に示す。FIP破断時間はα粒のアスペクト比の増加に伴い長くなり、特にα粒の長さと厚さの比(アスペクト比)が1.5以上で大幅に遅れ破壊特性が改善されることから本発明ではα粒のアスペクト比の下限を1.5とした。一方、3以上のアスペクト比となるまで展伸度を大きくしても遅れ破壊破断時間の改善効果が飽和し、さらに遅れ破壊特性を改善する効果が得られないことから本発明ではα粒のアスペクト比に特に上限は規制しないものの、加工の負荷が増加することから3程度までが実用的な範囲である。
【0028】
γ粒界のα粒数の限定理由について述べる。γ粒界へのα析出は粒状の他にフィルム状あるいは板状であっても遅れ破壊特性が改善されるが、粒状析出した場合に最もFIP破断時間の改善効果が大きい。これはα粒界で亀裂の進展を抑制するためと考えられ、γ粒界に析出するα粒の数に適正な範囲が存在すると考えられた。フィルムあるいは板状にαが析出した場合は連続したフェライト粒であり、見かけ上の粒径が大きく、粒数は少なくなる。このため、遅れ破壊特性の改善効果は多数γ粒界にα粒が析出した場合に比べ小さい。そこで、本発明ではγ粒界へのα粒の析出粒数とFIP時間の関係について解析した結果から、1000μm2当たりのα粒数が50個以下ではFIP遅れ破壊特性の改善効果が小さく、500個以上としてもFIP破断時間の大幅な改善効果が得られないことから1000μm2当たりのα粒の析出個数を50個以上、500個未満とした。
【0029】
γ粒のアスペクト比が1.2以上で遅れ破壊特性が改善されることについては既に本発明者らは確認しているが、粒界αの析出による遅れ破壊特性の改善の複合効果として最適な範囲について以下に述べる。γ粒界へのα粒析出有無のPC鋼棒でγ粒のアスペクト比とFIP破断時間の関係を解析した。その結果を図3に示す。その結果、本発明ではγ粒のアスペクト比が1.5以上でFIP破断時間が大幅に改善されることから1.5を下限とした。一方、アスペクト比を4以上まで大きくしても大幅な改蓄効果が得られないこと、加工度負荷が増すことから特に上限は限定しないものの4程度が実用的な範囲である。
【0030】
γ粒の大きさについては特に限定しないが、フェライトの変態析出を促進させ、微細αを得るためにはγ粒度Noで8〜12が好ましい範囲である。
【0031】
次に成分の限定理由について述べる。
C:PC鋼棒は焼入れ焼戻し処理により強度の調整が行われるため、本発明の高強度である1420MPaを得るためには一定量以上のCが必要である。また、Cは著しく焼入性を高める元素でもあり、C量が0.2%未満では目標の強度を得られないために0.2%を下限とした。一方、0.4%を越えて添加するとスポット溶接性が低下し、PC鋼棒の性能劣化を来すために0.4%を上限とした。
【0032】
Si:Siは脱酸元素として添加されるがPC鋼棒の品質としてはリラクセーション特性を改善するとともに固溶強化による強度改善効果ある。従って、0.1%未満ではリラクセーション特性が悪化すると共に高強度を確保することが困難となることから0.1%を下限とした。一方、2%を越えて添加するとスポット溶接性を著しく悪化させるために2%を上限とした。
【0033】
Mn:Mnも脱酸、脱硫元素として添加され、必須の元素であり、PC鋼棒の焼入れ性を高める作用がある。しかし、0.2%未満の添加では焼入性改善効果が得られず、目標の強度を確保できないために0.2%を下限とした。一方、2%を越えて添加すると、スポット溶接性が悪化し、延性が低下するため2%を上限とした。
【0034】
Ti:Tiは脱酸成分であると共にTiの炭窒化物を形成しγ粒の粗大化を抑制すると共にNを固定する効果を有している。また、スポット溶接性を改善する効果もあるが、0.005%未満ではこれらの効果が得られず一方、0.05%を越えて添加しても効果が飽和することから0.005〜0.05%とした。
【0035】
Mo:Moは焼戻し軟化抵抗を高め、熱処理材の引張強さを高めるために有効な元素であるとともにリラクセーション特性の改善効果も有している。しかし、0.05%未満ではその改善効果は少なく一方、1.0%を越える添加量では効果が飽和し、添加量に見合う効果が得られないことから0.05〜1.0%とした。
【0036】
B:Bはγ粒界に偏析することにより焼入性を著しく高める効果があると共に未再結晶温度域を高温側に移行させる効果も有しており、伸張γ粒を得やすくする効果がある。しかし、添加量が0.0005%未満では前記効果が得られず一方、0.005%を越えて添加しても効果が飽和することから0.0005〜0.005%に制限した。
【0037】
Nb:Nbは炭窒化物を生成し、γ粒を微細化させる効果がある。また、未再結晶温度を大幅に高める作用があり、高温で加工を行っても高いアスペクト比を有する伸張γを得ることができ、加工負荷の低減が可能となる。しかし、0.01%未満では十分なγ伸張効果が得られないことから0.01%を下限とした。一方、0.1%を越えて添加してもこれらの効果が飽和してしまうことから0.1%を上限とした。
【0038】
P,Sについては特に限定はしないがPC鋼棒の遅れ破壊特性を改善する観点からそれぞれ0.015%以下、好ましくは0.01%以下が好適な成分範囲である。なお、本発明のPC鋼棒の成分は強度、溶接性を阻害しない限り、他の合金元素の添加を排除するものではない。
【0039】
【実施例】
以下、実施例により本発明の効果を更に具体的に説明する。
【0040】
【表1】
Figure 0004043754
【0041】
表1に示した本発明成分範囲鋼A〜H、比較鋼I〜Nを供試鋼として本発明の組織を得るためにAc1点以上の温度に加熱した後減面率20%〜70%の加工度で熱間で圧延を行し、αとγの共存する二相温度域から急冷してマルテンサイトとαの二相組織とし、必要に応じて焼戻し加熱後の温間でも加工を行い、α粒を長手方向に延伸させた。その結果、γ粒の伸張度、α粒径、α伸張度、α析出状態の異なるPC鋼棒を製造した。ここでは加熱手段として高周波誘導加熱を、圧延手段として3ロール圧延を行ったが本発明の組織形態が得られる方法であれば製造手段、条件は特に限定されるものではないことは明らかである。
【0042】
比較例のPC鋼棒は熱間あるいは熱処理後の加工を行わないか、行っても本発明の組織形態が得られるほどのの加工度ではなく、主に温度条件を変えてαの析出、形態を制御した程度のものである。
【0043】
また、製造したPC鋼棒の引張強さは焼戻温度を調整して1450MPa程度とした。一部の比較鋼では1420MPa以上の強度が得られないものもあった。
PC鋼棒の各種特性の評価は全て7.1mmの線径で行った。
【0044】
遅れ破壊試験は濃度20%のNH4SCN溶液を50℃に加熱し、この溶液中にサンプルを浸漬した状態で母材では引張強さの80%の定荷重を負荷して破断までの時間を求めた。また、スポット溶接材での評価は3.2mmのSWRM8の鉄線をPC鋼棒に直交する方向に以下の条件でスポット溶接し、スポット溶接部がFIP溶液に浸漬するようにセットし、引張強さの70%の荷重を負荷して破断時間で評価した。
溶接条件:
電流3000A、通電時間0.04s、加圧力410Nとした。
【0045】
リラクセーション試験はコンクリート打設後の蒸気養生条件を想定し、1420MPaの規格引張強さの70%の荷重を負荷し、常温から2hで75℃に昇温し、75℃で5h保持した後、炉冷を行い、23h後の荷重変化量を初期負荷荷重に対する減少%で示した。
【0046】
フェライト粒の形態は、L断面でSEM撮影した組織写真を画像解析により測定した。α粒平均サイズは円相当直径、アスペクト比はα粒それぞれの最大径とそれに直交する最小径の比から求めた。また、α粒数はカウントしたα粒数を測定面積で割ることにより求めた。
【0047】
γ粒の伸張度はL断面のγ粒組織写真から長手方向とそれに直角な線分を引き、JIS G 0552に示す切断法で粒度Noを求めるとともに、長手方向に引いた線分で切断した粒数から平均長さを、厚さ方向の線分で切断した平均厚さとの比からアスペクト比を求めた。γ粒の平均粒径は粒度No(Nγ)から以下の式で平均粒径を求めた。
γ粒径(μm)=1/√(2π(N γ +1)
【0048】
【表2】
Figure 0004043754
【0049】
製造結果を表2に示す。
No.1〜18の条件のPC鋼棒は本発明の成分範囲の供試鋼A〜Hを用いてγ粒のアスペクト比が1.5以上で、粒界α粒径とγ粒径の比率が011〜0.47の範囲で、α粒のアスペクト比が1.6以上である本発明の範囲内の組織を有するPC鋼棒である。この組織形態を有するPC鋼棒は比較例の熱処理のみのNo.19に示した従来のPC鋼棒に比べ母材、スポット溶接後の遅れ破壊破断時間が大幅に改善された例である。
【0050】
フェライト粒の析出形態は本発明の範囲であり、Si、Mnが本発明の成分範囲でも上限近傍であるC,D、F鋼を用いたNo.13,14,16およびC値が高めのG,H鋼を用いたNo.17,18は母材の遅れ破壊特性に対するスポット溶接後のFIP破断時間の悪化代がわずかに大きいものの、比較例に比べると大幅にFIP破断時間が改善されている。
【0051】
加工度を小さくし、フェライトの析出粒径を小さくし、γ粒径に対するα粒径の比率が0.1未満の比較鋼のNo.20は加工を行わない単純なQT処理で製造したNo.19のPC鋼棒と同等のFIP破断時間であり、α粒析出の効果は認められなかった例である。
【0052】
また、比較鋼のNo.21、22は加工を行わず熱処理でフェライトを析出させた例でありフェライトが粗大化したα形態であるためにα粒内の劈開破壊となり、遅れ破壊特性の改善効果は認められない例である。
【0053】
本発明のNo.8〜12のPC鋼棒はNbを添加したB鋼であり、Nbの添加していない鋼と同じ条件で製造してもγ粒の伸張度が大きくなり、本発明の中でも遅れ破壊破断時間が著しく改善された例であり、比較例のNo.23〜24のPC鋼棒はNb添加鋼で、加工によりγ粒の伸張度を高めているため、γ伸張効果による遅れ破壊特性の改善効果は認められるがα粒を析出させていないために本発明のα粒の析出材に比べると破断時間は短い。No.25はB鋼を加工後焼き入れまでの時間を長くし、析出α粒を成長させたPC鋼棒であるため、α粒が粗大化し、粒数が本発明の下限未満であるため遅れ破壊破断時間を改善するまでには至らなかった例である。
【0054】
No.26〜31は本発明の範囲外の比較鋼成分で製造したPC鋼棒であり、No.26はCが0.2%未満の成分で、引張強さが1420MPaまで達せず、本発明の強度が確保できなかった。一方、No.27はCが0.4%を越えた成分であり、母材の遅れ破壊破断時間は改善されたもののスポット溶接後は著しく遅れ破壊破断時間が低下した例である。
【0055】
Siについても同様で、上限を越えたNo.28の場合にはスポット溶接後に著しい破断時間の低下となった例である。No.30はSiが本発明の下限を切る成分であり、引張り強度が確保されず、遅れ破壊特性の改善も認められない。特にC,Siが低いNo.26,30ではリラクセーション特性の著しい悪化となった例である。一方、本発明の下限範囲内であるE鋼を用いたNo.15の本発明では強度、リラクセーションとも従来の熱処理材と同等の特性を有していた。
【0056】
Mnが本発明の上限を越えたL鋼で製造したNo.29のPC鋼棒は溶接部のマルテンサイト領域が大きく、かつスポット溶接部と母材間の軟化層の強度が増加するために溶接後の遅れ破壊特性の著しい悪化となった。一方、Mnが下限未満の成分鋼であるN鋼を用いたNo.31のPC鋼棒は焼入処理で全断面完全なマルテンサイト組織を得ることが出来ず、1420MPaの強度が確保できなかった例である。
【0057】
【発明の効果】
以上述べたように、γ粒界に、γ粒径の0.1以上0.5未満の粒径で、長さと厚さの比が1.5以上であるαを粒状に1000μm2当たり50〜500個と多数析出させること、さらにγ粒を伸長化しすることにより遅れ破壊特性を著しく改善すると共に、C、Si、MnおよびNbの添加成分の適正化により1420MPa以上の引張強さを有する高強度で溶接が可能なものであり、本発明の遅れ破壊特性に優れたPC鋼棒をコンクリート構造物の補強筋として使用することにより補強筋の遅れ破壊に伴うコンクリート構造物の破壊を防止することが可能となるため、産業上の効果は極めて顕著である。
【図面の簡単な説明】
【図1】γ粒界析出α粒径の影響
【図2】γ粒界析出α粒アスペクト比の影響
【図3】γ粒アスペクト比の遅れ破壊破断時間への影響

Claims (5)

  1. 旧オーステナイト粒界に、オーステナイト粒経の0.1以上0.5未満の粒径のフェライト粒が存在し、該フェライト粒の長さと長さに直角方向の厚さの比(フェライト粒のアスペクト比)が1.5以上であるフェライトと焼戻しマルテンサイト組織からなることを特徴とする遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒。
  2. 旧オーステナイト粒界に析出したフェライト粒の数が1000μm2当たり50個以上500個未満であることを特徴とした請求項1記載の遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒。
  3. 旧オーステナイト粒の長さと長さに直角方向の幅の比率(オーステナイト粒のアスペクト比)が1.5以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒。
  4. 質量%で
    C:0.2〜0.4%
    Si:0.1〜2.0%
    Mn:0.2〜2.0%
    を含有し、引張強さが1420MPa以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒。
  5. さらに質量%で
    Ti:0.005〜0.05%
    Mo:0.05〜1.0%
    B:0.0005〜0.0050%
    Nb:0.01〜0.1%の1種以上を
    含有することを特徴とする請求項4記載の遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒。
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