JP3348189B2 - 高強度pc鋼棒及びその製造方法 - Google Patents

高強度pc鋼棒及びその製造方法

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JP3348189B2 JP06167994A JP6167994A JP3348189B2 JP 3348189 B2 JP3348189 B2 JP 3348189B2 JP 06167994 A JP06167994 A JP 06167994A JP 6167994 A JP6167994 A JP 6167994A JP 3348189 B2 JP3348189 B2 JP 3348189B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ポール、パイル及び建
築、橋梁等のプレストレストコンクリート構造物の補強
材として広く使われているPC鋼棒に関わるものであ
り、特にスポット溶接性が良好で、且つ強度が1450
MPa 以上である遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒及
びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ポール、パイル及び建築、橋梁等のプレ
ストレストコンクリート構造物の補強材として広く使わ
れているPC鋼材は、通常、JIS G3536に規定
されているPC鋼線及びPC鋼より線、JIS G31
09に規定されているPC鋼棒が使われている。PC鋼
線に用いられる材料はJIS G3502に適合したピ
アノ線材であり、パテンティング処理をした後、伸線加
工することにより製造される。一方、PC鋼棒は、例え
ば特公平5−41684号公報に記載されているよう
に、C量が0.25〜0.35%の中炭素鋼を用いて焼
入れ・焼戻し処理をすることによって製造されている。
【0003】PC鋼線の強度はPC鋼棒に比べ高いもの
の、C含有量が高いためにスポット溶接ができないとい
う欠点がある。これに対して、PC鋼棒のスポット溶接
性はPC鋼線に比べ良好であるが、「プレストレストコ
ンクリート設計施工規準・同解説」(日本建築学会編
集、丸善)の43〜45頁に記載されているように、強
度が1275MPa(130kgf/mm2 )を超えるような高強
度PC鋼棒は、PC鋼線に比べて遅れ破壊特性が劣って
いる。また、特公平5−59967号公報に記載されて
いるように、スポット溶接部は急冷されるため、マルテ
ンサイトを主体とした組織となる。この結果、スポット
溶接部に遅れ破壊が発生しやすくなる。
【0004】PC鋼棒の遅れ破壊特性を向上させる従来
の知見として、例えば、特公平5−59967号公報で
は、P,S含有量を低減することが有効であると提案し
ている。確かに、低P,低S化は遅れ破壊に対して有効
であるが、現行のPC鋼棒のP,S含有量はいずれも既
に0.01%前後となっており、JIS G3109で
規定されている量より低いレベルにあるのが実態であ
る。P,S含有量を更に低減化することは可能である
が、製造コストが高くなる。また、特公平5−4168
4号公報では、Si,Mn含有量を規制するとともに焼
入れ処理後、焼戻し工程中で曲げ加工又は引き抜き加工
を施すことを提案している。しかし、スポット溶接性、
スポット溶接部の遅れ破壊特性については、述べられて
いない。
【0005】一方、スポット溶接性を向上させる技術と
して、例えば、特開平4−247825号公報では、鋼
材成分量を規制するとともに熱間圧延条件を限定するP
C鋼線用線材の製造方法を提案している。しかし、C含
有量を0.2%以下に制限しているため、高強度のPC
鋼線の製造は困難である。以上のように、従来の技術で
は、スポット溶接性が良好で且つ遅れ破壊特性の優れた
高強度のPC鋼棒を製造することには限界があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の如き実
状に鑑みなされたものであって、スポット溶接性が良好
で且つ遅れ破壊特性が良好な強度が1450MPa 以上の
高強度のPC鋼棒を実現するとともに、その製造方法を
提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、まず焼入
れ・焼戻し処理によって製造した種々の強度レベルのP
C鋼棒を用いて、遅れ破壊挙動を詳細に解析した。遅れ
破壊は鋼材中の水素に起因して発生していることは既に
明らかである。そこで、遅れ破壊特性について、遅れ破
壊が発生しない「限界拡散性水素量」を求めることによ
り評価した。この方法は、電解水素チャージにより種々
のレベルの拡散性水素量を含有させた後、遅れ破壊試験
中に試料から大気中に水素が抜けることを防止するため
にCdめっきを施し、その後、大気中で所定の荷重を負
荷し、遅れ破壊が発生しなくなる拡散性水素量を評価す
るものである。
【0008】図1に拡散性水素量と遅れ破壊に至るまで
の破断時間の関係について解析した一例を示す。試料中
に含まれる拡散性水素量が少なくなるほど遅れ破壊に至
るまでの時間が長くなり、拡散性水素量がある値以下で
は遅れ破壊が発生しなくなる。この水素量を「限界拡散
性水素量」と定義する。限界拡散性水素量が高いほど鋼
材の耐遅れ破壊特性は良好であり、鋼材の成分、熱処理
等の製造条件によって決まる鋼材固有の値である。な
お、試料中の拡散性水素量はガスクロマトグラフで容易
に測定することができる。
【0009】図2に従来方法である焼入れ焼戻しで製造
したPC鋼棒の強度と限界拡散性水素量の関係について
解析した一例を示す。強度の増加とともに遅れ破壊が発
生しない限界拡散性水素量が低下し始め、1500MPa
を超える強度域では著しく低下し、遅れ破壊が極微量の
拡散性水素量で発生することが明らかとなった。また、
遅れ破壊が発生した試料の破面を観察した結果、PC鋼
棒の強度にかかわらず、旧オーステナイト粒界の粒界割
れであった。粒界偏析元素として知られているP,S含
有量を0.005%にまで低減させると、限界拡散性水
素量は増加し遅れ破壊特性が向上するが、特に1500
MPa を超えるような高強度域では、その向上代はわずか
であった。
【0010】そこで、高強度PC鋼棒の限界拡散性水素
量を増加させる手段、即ち遅れ破壊特性を上げるべく、
オーステナイト結晶粒度、鋼材成分、熱処理条件の影響
等について更に検討を重ねた。この結果、上記の要因の
いずれを大きく変化させても、大幅な遅れ破壊特性の向
上を図ることができないことがわかった。このことは、
熱処理による高強度化手段では遅れ破壊特性の向上に対
して限界があることを示している。遅れ破壊が旧オース
テナイト粒界の粒界割れであることから、遅れ破壊特性
の大幅な向上を達成するためには、粒界割れの発生を防
止することが重要であるとの結論に達した。
【0011】そこで更に、旧オーステナイト粒界割れを
防止する手段について、種々検討を重ねた結果、PC鋼
棒の表層より軸中心方向に少なくても半径の5%にわた
る領域において〈110〉集合組織を形成させれば、1
500MPa を超えるような高強度域でも旧オーステナイ
ト粒界割れを防止できることを発見した。即ち、〈11
0〉集合組織を持つフェライトと焼戻しマルテンサイト
組織からなる鋼は、旧オーステナイト粒界割れが発生し
ないため、限界拡散性水素量が大幅に増加し、耐遅れ破
壊特性が格段に向上するという全く新たな知見を見出し
たのである。また、〈110〉集合組織を付与する方法
として、冷間での伸線加工が極めて有効な手段であるこ
とを明らかにした。
【0012】しかし、フェライトとマルテンサイトの複
合組織からなる鋼は強度が低くまた伸線加工硬化特性も
低いために、1450MPa 以上の強度を達成するために
は伸線加工の総減面率を増加させる必要がある。減面率
を増加させて強度を高めると、伸びが著しく低下し、ま
た断線も発生しやすくなる。そこでこれらの特性を改善
するために詳細に解析をした結果、フェライトとマルテ
ンサイトの複合組織からなる鋼の伸線加工性は、前組織
形態と熱処理条件が重要であることがわかり、上記因子
を最適に選択すれば伸線加工性が向上することを見出し
た。
【0013】更に、伸線加工した鋼の伸びを向上させる
ための手段を検討した結果、最適な熱処理を伸線加工後
に施せば、伸びを向上させることができることを見出し
た。、また、高強度で且つ良好なスポット溶接性を確保
するためには、鋼材の成分含有量をPCM=0.20〜
0.45%に規制すれば良いことを明らかにした。以上
の検討結果に基づき、鋼材組成、前組織形態、フェライ
トとマルテンサイト組織の複合組織を得るための熱処理
条件、伸線加工の総減面率を最適に選択すれば、スポッ
ト溶接性及び遅れ破壊特性に優れた高強度PC鋼棒を実
現できるという結論に達し、本発明をなしたものであ
る。
【0014】本発明は以上の知見に基づいてなされたも
のであって、その要旨とするところは、次の通りであ
る。 (1)重量%で、C:0.15〜0.40%、Si:0.
05〜2.0%、Mn:0.2〜2.0%、Al:0.0
05〜0.1%、P:0.015%以下、S:0.01
5%以下を含有するか、あるいは更にTi:0.005
〜0.05%、B:0.0003〜0.0050%、C
r:0.1〜2.0%、Mo:0.05〜0.5%、N
i:0.1〜5.0%、Cu:0.05〜0.5%、
V:0.05〜0.5%、Nb:0.005〜0.1%
の1種又は2種以上を含むとともにPCM(%)=C+Si/30
+(Mn+Cr+Cu)/20+Ni/60+Mo/15+V/10+5Bで
表されるPCMが0.20〜0.45%の範囲にあり、残
部はFe及び不可避的不純物よりなり、且つ体積分率で
焼戻しマルテンサイトが60〜90%であり残部がフェ
ライトからなる組織であって、更に表層より軸中心方向
に少なくても半径の5%にわたる領域において〈11
0〉集合組織を有し、強度が1450MPa以上であるこ
とを特徴とする高強度PC鋼棒。
【0015】(2)上記化学組成の鋼棒又は鋼線をマル
テンサイト又は焼戻しマルテンサイトあるいはベイナイ
ト組織にした後20℃/秒以上の加熱速度でAc1 〜A
3の温度範囲に加熱し、急冷することにより体積分率
でマルテンサイト組織が60〜90%であり残部がフェ
ライトよりなる組織にし、次いで50%以上の総減面率
で伸線加工を行い、その後14000≧T×(20+lo
g t)≧11000なる関係(T:絶対温度で表示され
る加熱温度、t:加熱時間(hr))を満足するように熱
処理を行うことを特徴とする高強度PC鋼棒の製造方
法。
【0016】以下に本発明を詳細に説明する。まず本発
明における高強度PC鋼棒とは、強度が1450MPa 以
上であるとともに、PC鋼棒に必要とされる延性、遅れ
破壊特性、スポット溶接性、リラクゼーション特性が優
れた鋼であることを意味している。次に本発明の対象と
する鋼の成分及びPCMの限定理由について述べる。
【0017】C:CはPC鋼棒の高強度化を達成する上
で必須の元素であるが、0.15%未満ではフェライト
とマルテンサイトからなる複合組織の強度が低すぎて、
最終的にPC鋼棒の強度を1450MPa 以上にすること
が困難であるため下限を0.15%に限定した。一方、
C量が0.40%を超えるとスポット溶接性が著しく劣
化するため、上限を0.40%に制限した。 Si:Siはリラクゼーション特性を向上させるととも
に固溶体硬化作用によって強度を高める作用がある。
0.05%未満では前記作用が発揮できず、一方、2.
0%を超えても添加量に見合う効果が期待できないた
め、0.05〜2.0%の範囲に制限した。
【0018】Mn:Mnは脱酸、脱硫のために必要であ
るばかりでなく、熱処理時の焼入れ性を高めるために有
効な元素であるが、0.2%未満では上記の効果が得ら
れず、一方2.0%を超えるとスポット溶接性が劣化す
るために0.2〜2.0%の範囲に制限した。 Al:Alは脱酸及び熱処理時においてAlNを形成す
ることにより、結晶粒の粗大化を防止する効果とともに
Nを固定し焼入れ性に有効な固溶Bを確保する効果も有
しているが、0.005%未満ではこれらの効果が発揮
されず、0.1%を超えても効果が飽和するため0.0
05〜0.1%の範囲に限定した。
【0019】P:Pはオーステナイト粒界に偏析し、遅
れ破壊特性を低下させるために0.015%以下とし
た。好ましくは0.010%以下とする。 S:SもPと同様にオーステナイト粒界に偏析し、遅れ
破壊特性を劣化させるために0.015%以下とした。
好ましくは0.010%以下とする。 以上が本発明の対象とする鋼の基本成分であるが、本発
明においては、更にこの鋼に、Ti:0.005〜0.
05%、B:0.0003〜0.0050%、Cr:
0.1〜2.0%、Mo:0.05〜0.5%、Ni:
0.1〜5.0%、Cu:0.05〜0.5%、V:
0.05〜0.5%、Nb:0.005〜0.1%の1
種又は2種以上を含有せしめることができる。
【0020】Ti:TiもAlと同様に脱酸及び熱処理
時においてTiNを形成することにより結晶粒の粗大化
を防止する効果とともにNを固定し焼入れ性に有効な固
溶Bを確保する効果も有しているが、0.005%未満
ではこれらの効果が発揮されず、0.05%を超えても
効果が飽和するため0.005〜0.05%の範囲に限
定した。 B:Bは熱処理時においてオーステナイト粒界に偏析す
ることにより焼入れ性を著しく高めるとともに、オース
テナイト粒界に偏析しやすいP,Sの粒界偏析量を低下
させるため遅れ破壊特性も向上させる。0.0003%
未満では前記の効果が発揮されず、0.0050%を超
えても効果が飽和するため0.0003〜0.0050
%に制限した。 Cr:Crは焼入れ性の向上及び伸線加工後の熱処理工
程での軟化抵抗を増加させるために有効な元素である
が、0.1%未満ではその効果が十分に発揮できず、一
方2.0%を超えるとスポット溶接性、伸線加工性が劣
化するために0.1〜2.0%に限定した。 Mo:MoはCrと同様に強い焼戻し軟化抵抗を有し熱
処理後の引張強さを高めるために有効な元素であり、更
にリラクゼーション特性も向上させる効果を有している
が、0.05%未満ではその効果が少なく、一方0.5
0%を超えるとスポット溶接性、伸線加工性が劣化する
ために0.05〜0.50%に制限した。
【0021】Ni:Niは高強度化に伴って劣化する延
性を向上させるとともに熱処理時の焼入れ性を向上させ
て引張強さを増加させるために添加されるが、0.1%
未満ではその効果が少なく、一方5.0%を超えても添
加量に見合う効果が発揮できないため、0.1〜5.0
%の範囲に制限した。 Cu:Cuは焼戻し軟化抵抗を高めるために有効な元素
であるが、0.05%未満では効果が発揮できず、0.
5%を超えると熱間加工性が劣化するため0.05〜
0.5%に制限した。
【0022】V:Vは焼入れ処理時において炭窒化物を
生成することにより結晶粒を微細化させるとともにリラ
クゼーション値を増加させる効果があるが、0.05%
未満では前記作用の効果が得られず、一方0.5%を超
えても効果が飽和するため0.05〜0.5%に限定し
た。 Nb:NbもVと同様に炭窒化物を生成することにより
結晶粒を微細化させるために有効な元素であるが、0.
005%未満ではその効果が不十分であり、一方0.1
%を超えるとこの効果が飽和するため0.005〜0.
1%に制限した。Nは特に制限しないものの、Ti,A
l,V,Nbの窒化物を生成することによりオーステナ
イト粒の細粒化効果があるため、0.003〜0.01
5%が好ましい範囲である。
【0023】PCM: PCM(%)=C+Si/30+(Mn+Cr+Cu)/20+Ni/60+Mo/
15+V/10+5B で表されるPCMはスポット溶接性を示す指標であり、こ
の値が低いほどスポット溶接性が良好であることを意味
する。PCMが0.45%を超えると、スポット溶接部は
延性が低く強度の高いマルテンサイト組織となってスポ
ット溶接性が劣化し、スポット溶接部から破断しやすく
なる。また、引張試験時の伸びが低下し、更に遅れ破壊
特性も劣化するため上限を0.45%にした。一方、合
金元素量を減少させてPCMを0.20%未満にするとス
ポット溶接性は向上するものの焼入れ性が低下するため
に、60〜90%の分率のマルテンサイトが得られにく
くなるため、下限を0.20%に制限した。
【0024】次に本発明で目的とする高強度PC鋼棒の
遅れ破壊特性の向上に対して最も重要な点であるPC鋼
棒の〈110〉集合組織の限定理由について述べる。図
3にフェライトと焼戻しマルテンサイト組織からなるP
C鋼棒の限界拡散性水素量に及ぼす集合組織の影響につ
いて解析した一例を示す。〈110〉集合組織を有する
PC鋼棒の限界拡散性水素量(図中本発明例で表示)
は、集合組織を有していないPC鋼棒(図中比較例で表
示)、即ち従来の焼入れ・焼戻しで製造されたPC鋼棒
に比べ、はるかに高いレベルにあることがわかる。
【0025】また、図4は、限界拡散性水素量と〈11
0〉集合組織が生成しているPC鋼棒表層から軸中心方
向の深さに対する半径の比率の関係について解析した一
例を示す。〈110〉集合組織の生成領域がPC鋼棒表
層より軸中心方向に対して5%未満では限界拡散性水素
量の向上効果が少ない、即ち遅れ破壊特性向上効果が少
ないことがわかる。このため、〈110〉集合組織の生
成領域を表層より軸中心方向に少なくても半径の5%に
わたる領域に限定した。より一層の高強度で且つ遅れ破
壊特性の優れたPC鋼棒を得るためには、〈110〉集
合組織の生成領域として半径の10%以上が好ましい条
件である。なお、集合組織は、X線による極点図を測定
することにより容易に求めることができる。また、PC
鋼棒表層から軸中心方向の集合組織の分布は、化学研磨
又は電解研磨後、X線による極点図を深さ方向の各点で
測定することにより求めることができる。
【0026】本発明の高強度PC鋼棒の製造方法では、
マルテンサイト又は焼戻しマルテンサイトあるいはベイ
ナイト組織の鋼を用いて、所定の分率のマルテンサイト
とフェライト組織にした後、冷間で伸線加工を施し、そ
の後、更に熱処理を行うものであるが、次にこれらの製
造条件の限定理由について述べる。
【0027】まず、マルテンサイト又は焼戻しマルテン
サイトあるいはベイナイト組織の鋼を用いる理由は、マ
ルテンサイトとフェライトからなる複合組織にする際に
伸線加工性の良好な組織形態にするためである。即ち、
塊状のマルテンサイトが多量に存在すると伸線加工性が
劣化し伸線加工工程で断線が発生しやすくなる。伸線加
工性を向上させるためには、マルテンサイトの形態をで
きる限り塊状から針状にする必要がある。
【0028】マルテンサイト又は焼戻しマルテンサイト
あるいはベイナイト組織の鋼を用いると、塊状のマルテ
ンサイトの生成が防止され針状になりやすいために、上
記の組織を有する鋼に限定した。また、伸線加工性の向
上の観点から粒径が15μm以下の上記組織の鋼にする
ことが好ましい。マルテンサイトとフェライトの複合組
織を得るための熱処理条件の限定理由は下記の通りであ
る。
【0029】加熱速度;加熱速度が20℃/秒未満で
は、塊状のマルテンサイトの生成割合が多くなり伸線加
工性が劣化するため、加熱速度の下限を20℃/秒とし
た。加熱温度;加熱温度がAc3 を超えるとマルテンサ
イトの単相組織となり、一方、Ac1 未満であるとマル
テンサイトが生成しないため、加熱温度をAc1 〜Ac
3 の範囲に制限した。なお、Ac3 −10℃〜Ac3
50℃の温度範囲が60〜90%のマルテンサイト組織
分率を得る上で、好ましい条件である。加熱後は、急
冷、例えば水冷することによりフェライトとマルテンサ
イトからなる鋼にすることができる。熱処理は、通常の
炉加熱、ソルト浴、高周波加熱等の何れの方法でも良い
が、大きな加熱速度が得られるソルト浴、高周波加熱が
好ましい熱処理である。
【0030】マルテンサイト組織分率;マルテンサイト
分率が60%未満では、最終的に1450MPa 以上の高
強度のPC鋼棒を達成することが困難であり、一方、9
0%を超えると伸線加工性が劣化し断線が発生しやすく
なるため、マルテンサイト組織分率を60〜90%に限
定した。残部はフェライトからなる。なお、マルテンサ
イト組織中に残留オーステナイトが含有しても伸線加工
性には何等差し支えない。
【0031】総減面率;伸線加工の総減面率が50%未
満では、PC鋼棒の強度を最終的に1450MPa 以上に
することが困難であるため、下限を50%にした。ま
た、総減面率が50%以上の伸線加工を行えば、確実に
〈110〉集合組織を表層より軸中心方向に少なくても
半径の5%にわたる領域において形成することができ
る。
【0032】伸線後の熱処理条件;フェライトとマルテ
ンサイト組織からなる鋼を冷間で伸線加工したままで
は、伸び、リラクゼーション特性が悪いため、これらの
特性を向上させる目的で熱処理を行うものである。ま
た、この熱処理により60〜90%の分率で含有してい
るマルテンサイトは、焼戻しマルテンサイト組織とな
る。熱処理温度と熱処理時間で定義される熱処理パラメ
ーター:T×(20+log t)が11000〜1400
0の範囲であれば、強度が1450MPa 以上のPC鋼棒
の伸びを5%以上、リラクゼーション値を1.5%以下
にすることができる。ここで、Tは絶対温度、tは時間
(hr)である。
【0033】熱処理パラメーターが11000未満では
伸びを5%以上、リラクゼーション値を1.5%以下に
することが困難であり、一方、14000を超えると、
リラクゼーション値を1.5%以下にすることが困難に
なるとともに強度が1450MPa 未満となりやすくなる
ために、T×(20+log t)の式で定義される熱処理
パラメーターにおいて上限を14000とし、下限を1
1000とした。温度は特に制限しないが、300℃未
満では熱処理パラメーターを上記の範囲にするために時
間がかかりすぎて生産性が低下するために下限温度は3
00℃以上が好ましい。また上限温度は550℃を超え
ると強度が低下しやすくなるため550℃以下が好まし
い。
【0034】
【実施例】表1に示す化学組成を有する供試材を熱間圧
延で所定の線径にした後、高周波加熱又はソルト浴によ
る熱処理で粒径が5〜12μmの所定の組織(マルテン
サイト、焼戻しマルテンサイト、ベイナイト)にし、更
に高周波加熱による熱処理で種々の強度に調整したフェ
ライトとマルテンサイトからなる複合組織の鋼にした。
その後、冷間で線径7.4mmまで伸線加工を行い、つい
で熱処理を行った。上記の試料を用いて、機械的性質、
スポット溶接性、集合組織、遅れ破壊特性、リラクゼー
ション値について評価した結果を表2に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
【0039】
【表5】
【0040】スポット溶接性試験はPC鋼棒とJIS
G3532のSWM−Bを用いて行った。クロス溶接
後、試験本数が10本の引張試験を行い、スポット溶接
部の破断率50%以下の場合はスポット溶接性が良好で
あるとした(○印で表示)。遅れ破壊特性は、スポット
溶接を施した試料を用いて、前に述べた限界拡散性水素
量で評価を行い、負荷応力は引張強さの80%の条件で
実施した。リラクゼーション値はJIS G3109に
基づいて測定した。
【0041】表2の試験No.2,4,6,7,9,1
1,14,15,17,18,21,22,25,2
7,28,29が本発明例で、その他は比較例である。
同表に見られるように本発明例はいずれもPC鋼棒の引
張強さが1450MPa 以上であるとともに、強度が同一
であれば限界拡散性水素量が従来のPC鋼棒に比べ高い
レベルにあり、遅れ破壊特性の優れたPC鋼棒が実現さ
れている。また、スポット溶接性、リラクゼーション値
も申し分ない。
【0042】これに対して比較例であるNo. 1は鋼種A
を用いて従来の焼入れ・焼戻しで製造したPC鋼棒であ
る。本発明例である試験No.2と強度はほぼ同じレベル
にあるが、〈110〉集合組織が形成されていないた
め、限界拡散性水素量が低く、遅れ破壊特性が劣ってい
る。また、比較例であるNo. 3も従来の焼入れ・焼戻し
で製造したものであり、限界拡散性水素量が、本発明例
であるNo. 4と比較して低い。比較例であるNo. 5はA
1 〜Ac3 温度域への加熱速度が不適切な例である。
即ち、加熱速度が20℃/秒未満であるため塊状のマル
テンサイトの生成量が多くなり、伸線加工過程で断線が
発生した例である。
【0043】比較例であるNo. 8,13,19,20は
鋼の化学成分が不適切な例である。即ち、No. 13はC
量が低すぎるために、90%の総減面率で伸線加工を行
っても強度が1450MPa に到達しなかった例である。
またNo. 8はP量が、No.20はS量がそれぞれ0.0
15%を超える鋼のため、限界拡散性水素量が低い例で
ある。No. 19はPCMが0.45%を超えるため、伸び
が5%未満であり、スポット溶接性、限界拡散性水素量
も低い例である。
【0044】比較例であるNo. 10,12は、マルテン
サイト分率が不適切な例である。即ち、No. 10はマル
テンサイト分率が60%未満であるために強度が145
0MPa に到達していない。逆にNo. 12は、マルテンサ
イト分率が90%を超えたために伸線加工性が劣化し、
伸線途中で断線が発生した例である。
【0045】比較例であるNo.24は、総減面率が50
%未満であるため、最終的に1450MPa 以上の強度が
得られなかった例である。比較例であるNo.16,2
3,26は、伸線加工後の熱処理条件が不適切な例であ
る。即ちNo.26は伸線加工後の熱処理を行わなかった
ために、伸びが5%未満であり、リラクゼーション値は
1.5%を超えている。No. 16はT×(20+log
t)が11000未満であるために、伸びが5%未満と
低いとともにリラクゼーション値も1.5%を超え劣化
している。No.23は熱処理パラメーターが14000
を超えるため強度が1450MPa 未満になるとともに、
リラクゼーション値も1.5%を超えている。更に比較
例であるNo. 30は、フェライト・パーライト組織の鋼
であるために、フェライトとマルテンサイトの複合組織
を得る熱処理で、伸線加工性の悪い塊状マルテンサイト
が多量に発生したために、伸線過程で断線が発生した例
である。
【0046】
【発明の効果】本発明は鋼の化学成分、熱処理条件、組
織分率、伸線加工の総減面率、伸線加工後の熱処理条件
を最適に選択するとともに、〈110〉集合組織を導入
することにより、スポット溶接性が良好であり、遅れ破
壊特性の優れた強度が1450MPa 以上の高強度PC鋼
棒及びその製造を可能にしたものであり、産業上の効果
は極めて顕著なものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】拡散性水素量と遅れ破壊時間の関係の一例を示
す図表である。
【図2】焼入れ・焼戻しにより製造したPC鋼棒の強度
と限界拡散性水素量の関係の一例を示す図表である。
【図3】本発明例のPC鋼棒と従来方法で製造したPC
鋼棒の強度と限界拡散性水素量の関係の一例を示す図表
である。
【図4】限界拡散性水素量に及ぼす〈110〉集合組織
の影響の一例を示す図表である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭62−164822(JP,A) 特開 昭62−50408(JP,A) 特開 平2−107743(JP,A) 特開 昭62−267420(JP,A) 特開 昭62−20824(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 - 38/60

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、 C :0.15〜0.40%、 Si:0.05
    〜2.0%、 Mn:0.2〜2.0%、 Al:0.00
    5〜0.1%、 P :0.015%以下、 S :0.01
    5%以下を含有するとともに下記式に示すPCMが0.2
    0〜0.45%の範囲にあり、残部はFe及び不可避的
    不純物よりなり、且つ体積分率で焼戻しマルテンサイト
    が60〜90%であり残部がフェライトからなる組織で
    あって、更に表層より軸中心方向に少なくても半径の5
    %にわたる領域において〈110〉集合組織を有し、強
    度が1450MPa 以上であることを特徴とする高強度P
    C鋼棒。PCM(%)=C+Si/30+(Mn+Cr+Cu)/20+Ni/
    60+Mo/15+V/10+5B
  2. 【請求項2】 重量%で、 Ti:0.005〜0.05%、 B :0.0003
    〜0.0050%、 Cr:0.1〜2.0%、 Mo:0.05〜
    0.50%、 Ni:0.1〜5.0%、 Cu:0.05〜
    0.5%、 V :0.05〜0.5%、 Nb:0.005〜
    0.1%の1種又は2種以上を含むことを特徴とする請
    求項1記載の高強度PC鋼棒。
  3. 【請求項3】 請求項1又は請求項2記載の化学成分を
    有する鋼棒又は鋼線をマルテンサイト又は焼戻しマルテ
    ンサイトあるいはベイナイト組織にした後、20℃/秒
    以上の加熱速度でAc1 〜Ac3 の温度範囲に加熱し、
    急冷することにより体積分率でマルテンサイト組織が6
    0〜90%であり残部がフェライトよりなる組織にし、
    次いで50%以上の総減面率で伸線加工を行い、その後
    14000≧T×(20+log t)≧11000なる関
    係(T:絶対温度で表示される加熱温度、t:加熱時間
    (hr))を満足するように熱処理を行うことを特徴とす
    る高強度PC鋼棒の製造方法。
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