JP4042274B2 - 内燃機関の燃料噴射弁加熱装置 - Google Patents

内燃機関の燃料噴射弁加熱装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両用内燃機関の燃料噴射弁加熱装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
車両用の内燃機関において、機関始動時における早期暖機は燃費性能や排気エミッションの向上を図る上で非常に重要である。
【0003】
水冷式エンジンの早期暖機に関し、特開平8−183324号公報等において、保温容器による蓄熱技術を利用した早期暖機方法が提案されている。この公報には、エンジン停止前に冷却水回路を流れる高温の冷却水を保温容器に貯留することにより蓄熱しておき、この保温容器に貯留されている温水(熱水)を次回のエンジン始動時に冷却水回路に供給することにより、エンジンの早期暖機と車室内の即効暖房を図った内燃機関が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記保温容器を備えた内燃機関においては、保温容器の温水(熱水)をシリンダブロック及びシリンダヘッドに循環させてエンジン全体を暖めるようにしているため、冷間始動時などにおいて瞬時に燃料の気化を促進せしめるわけにはいかなかった。また、温水の熱容量が大きくなり、大きな保温容器が必要になるなどの問題も生じる。
【0005】
冷間始動時などにおいて燃料の気化を促進させて筒内壁面への燃料の付着を低減する方法として、燃料噴射弁を電気ヒータなどで加熱する方法も考えられるが、温度制御が難しく、燃料が異常沸騰して燃料噴射量制御に支障を来す虞れもある。
【0006】
本発明はこのような従来の技術の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、内燃機関の始動時には保温容器に貯留された温水で燃料噴射弁を加熱することにより、燃料の気化を促進し、内燃機関の始動性、燃費性能及び排気エミッションの向上を図ることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は前記課題を解決するために、以下の手段を採用した。本発明に係る内燃機関の燃料噴射弁加熱装置は、車両に搭載された水冷式の内燃機関と、前記内燃機関により加熱された冷却水を貯留する保温容器と、前記内燃機関の始動時に前記保温容器に貯留された温水を燃料噴射弁の噴射部近傍の温水通路に供給する噴射部温水供給手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この内燃機関の燃料噴射弁加熱装置では、保温容器に貯留されている温水が内燃機関の始動時に燃料噴射弁の噴射部近傍の温水通路に供給されるので、燃料噴射弁の噴射部を通過する燃料が加熱され、燃料の気化が促進され、その結果、内燃機関の始動性が向上し、また始動時の燃焼状態がよくなって燃費性能及び排気エミッションが向上する。また、燃料は温水の熱によって加熱されるので、燃料が異常沸騰することがない。さらに、保温容器の温水による加熱対象が燃料噴射弁に限定されているので、保温容器の保水容量を少なくすることができる。
【0009】
本発明に係る内燃機関の燃料噴射弁加熱装置において、前記噴射部温水供給手段の温水通路は前記内燃機関のシリンダヘッドと前記燃料噴射弁との間に設けることが可能である。この場合には、温水を前記温水通路に流すことによって燃料噴射弁の噴射部を加熱することができ、特別な燃料噴射弁を使用せずに装置を構成することができる。
【0010】
また、前述のように噴射部温水供給手段の温水通路をシリンダヘッドと燃料噴射弁との間に設ける場合には、前記温水通路を画するために前記シリンダヘッドと前記燃料噴射弁との間に設けるシール部の少なくとも一方を、前記燃料噴射弁の径方向でシールするようにするのが好ましい。
【0011】
また、前述のように噴射部温水供給手段の温水通路をシリンダヘッドと燃料噴射弁との間に設ける場合には、前記温水通路を画するシリンダヘッドの壁面に断熱材を設けるのが好ましい。このようにすると、温水の熱がシリンダヘッドに流出しにくくなり、温水を燃料噴射弁の加熱に有効に利用することができる。
【0012】
本発明に係る内燃機関の燃料噴射弁加熱装置において、前記噴射部温水供給手段の温水通路は前記燃料噴射弁の内部に設けることが可能である。この場合には、温水と燃料噴射弁との接触面積が増大し、また、シリンダヘッドへの熱の流出がないため、加熱効率が極めてよい。
【0013】
本発明に係る内燃機関の燃料噴射弁加熱装置において、前記内燃機関は複数の燃料噴射弁を備え、前記噴射部温水供給手段はこれら燃料噴射弁の噴射部近傍の温水通路に直列に温水を供給するように構成することができる。
【0014】
本発明に係る内燃機関の燃料噴射弁加熱装置において、前記内燃機関は複数の燃料噴射弁を備え、この複数の燃料噴射弁が複数の群に分けられ、前記噴射部温水供給手段は前記各群に対して並行に温水を供給して各燃料噴射弁の噴射部近傍の温水通路に温水を供給するように構成することができる。このようにすると、複数の燃料噴射弁をほぼ均一に加熱することができる。尚、これには、複数の燃料噴射弁の噴射部の温水通路の総てに対して並列に温水を供給する場合も含まれる。これは、それぞれの燃料噴射弁を一つ一つの群に分けた場合に相当する。
【0015】
本発明に係る内燃機関の燃料噴射弁加熱装置において、前記噴射部温水供給手段は内燃機関の始動と同時に温水を燃料噴射弁の噴射部近傍の温水通路に供給することができる。
【0016】
また、本発明に係る内燃機関の燃料噴射弁加熱装置において、前記噴射部温水供給手段は内燃機関の始動前に温水を燃料噴射弁の噴射部近傍の温水通路に供給することができる。このようにすると、エンジン始動前に燃料噴射弁を加熱することができるので、燃料の気化促進に極めて効果的である。
【0017】
また、前述の如く内燃機関の始動前に噴射部温水供給手段を作動させるようにした場合、前記噴射部温水供給手段が温水を燃料噴射弁の噴射部近傍の温水通路に供給開始してから所定時間経過したときに、内燃機関が自動始動されるようにすることができる。
【0018】
さらに、その場合には、前記所定時間を、燃料噴射弁の温度、温水温度、冷却水温度の少なくとも一つをパラメータとして可変制御することができる。このようにすると、燃料噴射弁の加熱時間を適正化することができ、無駄時間をなくすことができる。
【0019】
本発明に係る内燃機関の燃料噴射弁加熱装置においては、前記噴射部温水供給手段と並列に、内燃機関の始動時に前記保温容器に貯留された温水を該内燃機関の機関本体の温水通路に供給する機関温水供給手段を設けることができる。これにより、燃料の気化促進と併せて、機関本体の早期暖機が可能になる。
【0020】
この場合、前記保温容器の温水を、前記噴射部温水供給手段により燃料噴射弁の噴射部近傍の温水通路に供給した後に、前記機関温水供給手段により機関本体の温水通路に供給するようにすることができる。このようにすると、燃料噴射弁を優先的に加熱することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る内燃機関の燃料噴射弁加熱装置の実施の形態を図1から図17の図面に基いて説明する。
【0022】
〔第1の実施の形態〕
初めに、本発明に係る内燃機関の燃料噴射弁加熱装置の第1の実施の形態を図1及び図6に基づいて説明する。
【0023】
図1は車両に搭載された車両駆動用のエンジン(内燃機関)1における冷却水の流れ図である。エンジン1はシリンダブロック2とシリンダヘッド3からなる機関本体を備え、シリンダブロック2にはブロック冷却水通路2aが形成されており、シリンダヘッド3には燃料噴射弁通路3aとヘッド冷却水通路3fが形成されている。
【0024】
ブロック冷却水通路2aの下流端とヘッド冷却水通路3fの上流端は直結されており、一方、ヘッド冷却水通路3fの下流端とブロック冷却水通路2aの上流端は、ラジエータ往路12とラジエータ4とラジエータ復路13とウォータポンプ吸込路14とウォータポンプ5とウォータポンプ吐出路15によって接続されている。
【0025】
また、ラジエータ往路12とラジエータ復路13及びウォータポンプ吸込路14はラジエータバイパス通路16によって接続されており、ラジエータ復路13とウォータポンプ吸込路14とラジエータバイパス通路16との連結部位には、冷却水の温度に応じて流路を切り替えるサーモスタットバルブ17が設けられている。サーモスタットバルブ17は、このサーモスタットバルブ17を流れる冷却水の温度が所定温度T1よりも高いときには、ラジエータバイパス通路16を閉塞してウォータポンプ吸込路14にラジエータ復路13を接続し、冷却水温度が前記所定温度T1以下のときにはラジエータ復路13を閉塞してウォータポンプ吸込路14にラジエータバイパス通路16を接続する。
【0026】
この第1の実施の形態において、ウォータポンプ5、ウォータポンプ吐出路15、ブロック冷却水通路2a、ヘッド冷却水通路3f、ラジエータ往路12、ラジエータ4、ラジエータ復路13、ウォータポンプ吸込路14、ラジエータバイパス通路16、及びサーモスタットバルブ17は冷却水回路10を構成する。
【0027】
冷却水回路10は、車室内暖房用のヒータコアを備えた暖房用回路にも接続されているが、暖房用回路はこの発明には直接関係しないので、図示及び説明を省略する。
【0028】
ウォータポンプ5は、冷却水回路10に図1において反時計回り方向の冷却水の循環流を生じせしめるポンプであり、エンジン1のクランクシャフト(図示せず)により駆動される。したがって、ウォータポンプ5はエンジン1のクランキング後でなければ駆動することができない。
【0029】
また、燃料噴射弁通路3aの下流端と上流端は、温水通路21,22,23と温水ポンプ6と保温容器7によって接続されており、温水通路23には開閉弁24が設けられている。この第1の実施の形態において、温水ポンプ6と保温容器7と温水通路21,22,23と燃料噴射弁通路3aは温水回路(噴射部温水供給手段)20を構成する。
【0030】
また、冷却水回路10と温水回路20は温水通路25と水通路26によって接続されている。詳述すると、ラジエータ往路12と温水通路21は温水通路25によって接続されており、温水通路23とウォータポンプ吸込路14は水通路26によって接続されている。水通路26には開閉弁27が設けられている。
【0031】
温水ポンプ6は温水回路20に図1において時計回り方向の温水の循環流を生じせしめるポンプであり、温水ポンプ6は電動モータにより駆動され、ウォータポンプ5とは駆動源を異にする。したがって、温水ポンプ6はエンジン1のクランキング前であっても駆動可能である。尚、この第1の実施の形態においては温水ポンプ6を保温容器7の上流側に設けているが、温水ポンプ6を保温容器7の下流側に設けることも可能である。
【0032】
保温容器7は、冷却水回路10を循環する高温の冷却水を貯留して蓄熱する一種の蓄熱装置であり、所定の容量及び保温性能を有している。また、保温容器7はその内部の液入口部と液出口部に、保温性能向上のために冷却水回路10との接続を絶つ開閉弁7a,7bを内蔵している。
【0033】
温水ポンプ6の運転・停止と保温容器7の開閉弁7a,7bの開閉と温水通路23の開閉弁24の開閉と水通路26の開閉弁27の開閉は、エンジン制御用コントロールユニット(ECU)50によって制御され、温水ポンプ6の運転中は開閉弁7a,7bを開き、温水ポンプ6の停止中は開閉弁7a,7bを閉ざすように制御される。また、高温の冷却水を保温容器7に取り込む場合には開閉弁27を開いて開閉弁24を閉ざし、保温容器7の温水を燃料噴射弁通路3aに供給する場合には開閉弁27を閉ざして開閉弁24を開くように制御される。
【0034】
燃料噴射弁通路3aについて図2から図4の図面を参照して詳述すると、図2に示すように、シリンダヘッド3には、各気筒毎に燃料噴射弁取付孔31が設けられている。燃料噴射弁取付孔31は、対応する気筒の吸気ポート32に開口する小径部31aと、小径部31aよりも大径でシリンダヘッド3の外面に開口する大径部31bとから構成されている。小径部31aには燃料噴射弁8のノズルボディ(噴射部)8aが挿入され、大径部31bには燃料噴射弁8のノズルホルダ8bが挿入されており、ノズルホルダ8bの先端面は大径部31bの底面から所定寸法離して取り付けられている。
【0035】
そして、小径部31aの内周面とノズルボディ8aの外周面はシールリング9aによってシールされ、大径部31bの内周面とノズルホルダ8bの外周面はシールリング9bによってシールされており、これにより、シリンダヘッド3と燃料噴射弁8との間に、ノズルボディ8aの周囲を取り囲むように環状通路(温水通路)33が形成される。
【0036】
さらに、各気筒の燃料噴射弁8の周囲に形成された環状通路33は、図3及び図4に示すように、シリンダヘッド3内に設けられた接続通路34によって直列に接続されている。これら環状通路33と接続通路34によって燃料噴射弁通路3aが構成されている。
【0037】
尚、前記シールリング9a,9bを設ける代わりに、図5に示すように、ノズルボディ8aに設けた環状フランジ部8cと小径部31aの底面との間にガスケット9cを挟装し、ノズルホルダ8bに設けた環状フランジ部8dと大径部31bの底面との間にガスケット9dを挟装して、燃料噴射弁取付孔31と燃料噴射弁8との間をシールすることも可能であるが、この場合には、小径部31aの軸方向の寸法管理が難しく、高い加工精度が要求される。したがって、前述の如く両方のシール部をシールリング9a,9bにより径方向にシールするか、あるいは片方のシール部を径方向にシールする方が、加工性、組付性の点から有利である。
【0038】
上述構成の内燃機関においては、エンジン1の運転に伴ってウォータポンプ5が運転され、これにより冷却水が冷却水回路10を循環してエンジン1のシリンダブロック2及びシリンダヘッド3を冷却する。この時に、冷却水の温度に応じてサーモスタットバルブ17が冷却水の流路を切り替える。
【0039】
即ち、冷却水の温度が所定温度T1以下の場合には、ウォータポンプ5から送出された冷却水は、ウォータポンプ吐出路15、ブロック冷却水通路2a、ヘッド冷却水通路3f、ラジエータ往路12、ラジエータバイパス通路16、サーモスタットバルブ17、ウォータポンプ吸込路14を順に通ってウォータポンプ5に戻る。
【0040】
一方、冷却水の温度が所定温度T1よりも高い場合には、ウォータポンプ5から送出された冷却水は、ウォータポンプ吐出路15、ブロック冷却水通路2a、ヘッド冷却水通路3f、ラジエータ往路12、ラジエータ4、ラジエータ復路13、サーモスタットバルブ17、ウォータポンプ吸込路14を順に通ってウォータポンプ5に戻る。この場合には、冷却水はラジエータ4を通過する際に冷却される。
【0041】
温水ポンプ6は所定の条件が成立したときだけ運転されるようになっており、温水ポンプ6が停止しているときには保温容器7の開閉弁7a,7bも閉じているので、保温容器7に冷却水が流れ込むことはない。
【0042】
上述のように冷却水回路10で冷却水を循環させているときに、保温容器7に貯留されている冷却水が常に所定温度以上の高温の冷却水であるように、ECU50は、温水ポンプ6の運転及び開閉弁7a,7b,24,27の開閉を制御して、保温容器7に高温の冷却水を取り込む。
【0043】
保温容器7に高温の冷却水を取り込むための温水ポンプ6及び開閉弁7a,7b,24,27の制御方法としては、例えば、冷却水回路10に設けた図示しない冷却水温センサで検出した冷却水温が所定の設定温度(例えば、95゜C)以上であるとECU50が判定すると、ECU50が温水ポンプ6を所定時間運転するとともに開閉弁7a,7b,27を開弁し、開閉弁24を閉弁する方法を例示することができる。温水ポンプ6を運転すると、ラジエータ往路12を流れる高温の冷却水が、温水ポンプ6によって温水通路25,21を介して保温容器7に導入され、温水容器7内の冷却水は水通路26を介してウォータポンプ吸込路14に排出される。温水ポンプ6の運転時間は、保温容器7内の冷却水の全量が入れ替わるのに必要な時間以上とするのが好ましい。
【0044】
また、エンジン1の停止直後に温水ポンプ6を所定時間運転するとともに開閉弁7a,7b,27を開弁し、開閉弁24を閉弁して、エンジン停止直後の高温の冷却水を保温容器7に導入するようにしてもよい。温水ポンプ6は電動モータにより駆動されておりエンジン1のクランクシャフトの回転に関わりなく運転及び停止させることができるので、イグニッションスイッチがオフされた後に温水ポンプ6を運転するように制御すれば、上述のようにエンジン停止直後の高温の冷却水を保温容器7に導入することが可能である。
【0045】
さらに、保温容器7内に電気ヒータなどの熱源を設け、この熱源をECU50により制御して保温容器7内の冷却水温を所定温度に制御するようにしてもよい。
このようにして保温容器7内に貯留された高温の冷却水(以下の説明では、この冷却水のことを「温水」という)は、エンジン1を次回始動する時に燃料噴射弁8のノズルボディ8aを加熱する熱源となる。
【0046】
エンジン1の始動時には、ECU50は、エンジン1のクランキング前に温水ポンプ6を所定時間運転するとともに、開閉弁7a,7b,24を開弁し、開閉弁27を閉弁するように制御する。すると、保温容器7内の温水が、図1において矢印で示すように、温水通路23を通って燃料噴射弁通路3aに導入されるようになり、燃料噴射弁通路3aに溜まっていたエンジン停止時の冷水を押し出して、燃料噴射弁通路3aに温水が流れる。燃料噴射弁通路3aから出た温水は温水通路21を介して温水ポンプ6に吸い込まれ、保温容器7へと戻る。即ち、保温容器7の温水が温水回路20を循環するようになる。
【0047】
その結果、燃料噴射弁通路3aを流れる温水によって、燃料噴射弁8のノズルボディ8aが加熱されるとともに、シリンダヘッド3の吸気ポート32周りが加熱される。ノズルボディ8aの加熱はノズルボディ8a内部の燃料を加熱して気化し易い状態にし、一方、吸気ポート32周りの加熱は、筒内に流入する吸入空気を加熱して燃料の気化を促進するとともに、吸気ポート32の壁面に付着する燃料の気化を促進する。
【0048】
このように、エンジン1のクランキング前に保温容器7に貯留された温水で燃料噴射弁8のノズルボディ8aと吸気ポート32周りを加熱することにより、燃料の気化促進状態が維持されるので、この後で、エンジン1をクランキングし始動させたときに燃料が気化し易く、筒内における燃焼状態が極めて良くなり、その結果、冷間始動時においても始動性が極めてよくなる。また、エンジン始動時の燃費が向上し、エンジン始動時の排気エミッションを良好にすることができ、さらに、エンジンの暖機を早めることができる。
【0049】
また、保温容器7内の温水は燃料噴射弁8のノズルボディ8aとシリンダヘッド3の吸気ポート32近傍の加熱にだけ用いられるので、保温容器7の保水容量が少なくて済み、装置をコンパクトにすることができる。
【0050】
しかも、温水によって燃料噴射弁8内の燃料を加熱しているので燃料が100゜C以上になることがなく、燃料の異常沸騰を防止することができる。
尚、このようにエンジン1のクランキング前に保温容器7に貯留された温水を温水回路20に循環した場合、エンジン1のクランキング開始と同時に温水ポンプ6を停止して温水の循環を停止してもよいし、あるいは、エンジン1のクランキング後もしばらくの間は温水ポンプ6の運転を続行して、保温容器7から燃料噴射弁通路3aへの送水を続行してもよい。
【0051】
エンジン1のクランキング前に温水ポンプ6による温水循環を行う場合の制御方法として、以下の方法が考えられる。
(1)アクセサリスイッチのON信号などによりECU50がエンジン1の始動前状態を検出したならば、ECU50は温水ポンプ6を自動起動し、温水回路20に温水を循環して、エンジン始動時の最初の燃料噴射時点以前に燃料噴射弁8を加熱する。その後、運転者が手動でスタータスイッチをONすることによりエンジンを始動する。
【0052】
(2)ECU50がエンジン始動指令を検出すると、ECU50は、エンジンを始動する前にまず温水ポンプ6を自動起動して温水回路20に温水を循環し、燃料噴射弁8を加熱する。そして、温水ポンプ6による温水循環を所定時間行った後に、ECU50がエンジン1を自動始動(クランキング)する。
【0053】
さらに、前記(2)の制御方法の場合に、ECU50がエンジン始動指令を検出したときのエンジン水温に応じて温水循環時間を可変制御することもできる。具体的には、エンジン水温が高いほど温水循環時間を短くしたりあるいは循環量を少なくし、エンジン水温が低いほど温水循環時間を長くしたりあるいは循環量を多くするように制御する。
【0054】
また、前記(2)の制御方法の場合に、エンジン水温が所定温度以上になったときにECU50がエンジン1を自動始動するようにしたり、あるいは、燃料噴射弁8の温度を検出することができるようにしておき、燃料噴射弁8の温度が所定温度以上になったときにECU50がエンジン1を自動始動するように制御することも可能である。
【0055】
以上説明した例では、エンジン1のクランキング前に温水回路20に温水を循環させて燃料噴射弁8を始動前に加熱するようにしているが、エンジン始動前には温水循環を行わず、エンジン1のクランキングと同時に温水ポンプ6を起動し温水回路20に温水を循環させるようにすることも可能である。
【0056】
また、図6に示すように、シリンダヘッド3の燃料噴射弁取付孔31の内周面に断熱材35を取り付けることも可能である。このようにすると、環状通路33を通る温水の熱はシリンダヘッド3に伝熱されず、温水の熱を燃料噴射弁8の加熱にのみ利用することができ、燃料の気化促進に極めて効果的である。
【0057】
〔第2の実施の形態〕
次に、本発明に係る内燃機関の燃料噴射弁加熱装置の第2の実施の形態を図7に基づいて説明する。
【0058】
前述した第1の実施の形態では、燃料噴射弁8のノズルボディ8aを加熱するための温水が通る通路を燃料噴射弁8とシリンダヘッド3の間に環状通路33として形成したが、第2の実施の形態では、環状通路33を形成する代わりに、図7に示すように、ノズルボディ8aの内部に温水通路8cを設けている。
【0059】
このようにすると、温水通路8cを通過する温水がシリンダヘッド3に接触しないので、温水の熱がシリンダヘッド3に伝熱されず、温水の熱を燃料噴射弁8の加熱にのみ利用することができ、燃料の気化促進に極めて効果的である。
【0060】
〔第3の実施の形態〕
次に、本発明に係る内燃機関の燃料噴射弁加熱装置の第3の実施の形態を図8から図10の図面に基づいて説明する。
【0061】
前述した第1の実施の形態では、全気筒の環状通路33を直列に接続しているが、この場合には、燃料噴射弁通路3aにおいて上流側に位置する気筒の燃料噴射弁8は十分に加熱されるが、下流側に位置する気筒の燃料噴射弁8に対する加熱が不十分になり、燃料噴射弁8の温度の差が大きくなる虞れがある。
【0062】
そこで、この第3の実施の形態では、各気筒の燃料噴射弁8を二つの群に分け、それぞれの群に並行して温水を流すことにより、総ての燃料噴射弁8をほぼ均一に加熱することができるようにし、燃料噴射弁8の温度差を小さくできるようにした。
【0063】
図8及び図9は直列4気筒エンジンの場合の例を示したものであり、1番気筒と2番気筒の燃料噴射弁81,82に対応する環状通路33を接続通路34で直列に接続し、一方、3番気筒と4番気筒の燃料噴射弁83,84に対応する環状通路33を接続通路34で直列に接続し、2番気筒と3番気筒の環状通路33に燃料噴射弁通路3aの上流側通路を接続し、1番気筒と4番気筒の環状通路33を燃料噴射弁通路3aの図示しない下流側通路に接続する。これにより、温水の一部は2番気筒の環状通路33から1番気筒の環状通路33へ流れ、これと並行して残りの温水が3番気筒の環状通路33から4番気筒の環状通路33へと流れるので、総ての燃料噴射弁8をほぼ均一に加熱することができ、燃料噴射弁8の温度差を小さくすることができる。
【0064】
図10はV型8気筒エンジンの場合の例を示したものであり、1番気筒と3番気筒と5番気筒と7番気筒の燃料噴射弁81,83,85,87に対応する環状通路33を接続通路34で直列に接続し、一方、2番気筒と4番気筒と6番気筒と8番気筒の燃料噴射弁82,84,86,88に対応する環状通路33を接続通路34で直列に接続し、1番気筒と2番気筒の環状通路33に燃料噴射弁通路3aの上流側通路を接続し、7番気筒と8番気筒の環状通路33を燃料噴射弁通路3aの下流側通路に接続する。これにより、温水の一部は1番気筒、3番気筒、5番気筒、7番気筒の環状通路33を順に流れ、これと並行して残りの温水が2番気筒、4番気筒、6番気筒、8番気筒の環状通路33を順に流れるので、1番気筒から8番気筒の環状通路33の総てを直列に接続した場合よりも、燃料噴射弁81〜88の温度差を小さくすることができる。
【0065】
〔第4の実施の形態〕
次に、本発明に係る内燃機関の燃料噴射弁加熱装置の第4の実施の形態を図11から図14の図面に基づいて説明する。
【0066】
前述した第1の実施の形態では、エンジン1の始動時に保温容器7の温水で燃料噴射弁8だけを加熱するようにしたが、第4の実施の形態では、エンジン1の始動時にシリンダヘッド3も温水で加熱するようにした。
【0067】
図11から図14の図面は、シリンダヘッド3における温水の流れを模式的に示した図である。
図11に示す例においては、シリンダヘッド3に、第1の実施の形態におけるものと同様の燃料噴射弁通路3aと、シリンダヘッド3の吸気側を加熱するためのヘッド吸気側通路(機関温水供給手段)3bと、シリンダヘッド3の排気側を冷却するためのヘッド排気側通路3cが設けられている。ヘッド吸気側通路3bの上流部は燃料噴射弁通路3aの上流部に接続され、さらに温水通路23に接続されており、ヘッド排気側通路3cの上流部は制御弁28を介して温水通路23に接続されている。この温水通路23は、保温容器7に接続されるとともに、接続通路40を介してブロック冷却水通路2aにも接続されている。また、ヘッド吸気側通路3bの下流部は燃料噴射弁通路3aの下流部に接続され、さらにヘッド排気側通路3cに接続され、さらに温水通路21と、ラジエータ往路12への接続通路である温水通路25に接続されている。
【0068】
この図11に示す例では、エンジン始動時の温水循環時には制御弁28を閉じるように制御する。これにより、温水は、燃料噴射弁通路3aとヘッド吸気側通路3bに並行して流れ、燃料噴射弁8とシリンダヘッド3の吸気側を加熱する。シリンダヘッド3の吸気側を加熱すると筒内に流入する吸入空気を加熱することができ、燃料噴射弁8の加熱とともに、燃料の気化を促進させる効果がある。制御弁28を閉じているので、ヘッド排気側通路3cには温水は流れない。温水循環をしていないときは制御弁28を開くように制御することにより、温水循環をしていないときには、冷却水がブロック冷却水通路2aから接続通路40を介して燃料噴射弁通路3aとヘッド吸気側通路3bとヘッド排気側通路3cに流れ、シリンダヘッド3の全体を冷却して、温水通路21,25を通ってラジエータ往路12へと流れる。
【0069】
図12に示す例は、図11に示す例の変形例である。図12に示す例では、温水が燃料噴射弁通路3aを流れてからヘッド吸気側通路3bに流れるように、燃料噴射弁通路3aとヘッド吸気側通路3bとの間に適宜の絞り3dが設けられている。これにより、温度の高い温水で燃料噴射弁8を加熱することができる。そして、燃料噴射弁8に熱を奪われて若干温度低下した温水がシリンダヘッド3の吸気側を加熱する。
【0070】
図13及び図14に示す例は、さらに、ヘッド排気側通路3cにも温水を流してシリンダヘッド全体を加熱するようにしたものであり、これらの例では制御弁28がなく、ヘッド排気側通路3cはヘッド吸気側通路3bに接続されている。
【0071】
そして、図13に示す例では、温水がヘッド吸気側通路3bを流れてからヘッド排気側通路3cに流れるように、ヘッド吸気側通路3bとヘッド排気側通路3cとの間に適宜の絞り3eが設けられている。これにより、図13に示す例の場合には、温水は初めに燃料噴射弁通路3aとヘッド吸気側通路3bに並行して流れ、その後でヘッド排気側通路3cへと流れる。これにより、温度の高い温水で燃料噴射弁8とシリンダヘッド3の吸気側を加熱することができる。そして、燃料噴射弁8及びシリンダヘッド3の吸気側に熱を奪われて若干温度低下した温水がシリンダヘッド3の排気側を加熱する。
【0072】
また、図14に示す例は、温水が、燃料噴射弁通路3a、ヘッド吸気側通路3b、ヘッド排気側通路3cの順に流れるように、燃料噴射弁通路3aとヘッド吸気側通路3bとの間に絞り3dが設けられるとともに、ヘッド吸気側通路3bとヘッド排気側通路3cとの間に絞り3eが設けられている。
【0073】
尚、図13と図14に示す例においては、ヘッド排気側通路3cにも温水が流れるので、ヘッド排気側通路3cは機関温水供給手段を構成する。
【0074】
〔第5の実施の形態〕
次に、本発明に係る内燃機関の燃料噴射弁加熱装置の第5の実施の形態を図15から図17の図面に基づいて説明する。
【0075】
前述した第4の実施の形態では、エンジン1の始動時に保温容器7の温水で燃料噴射弁8とシリンダヘッド3を加熱するようにしたが、第5の実施の形態では、さらにシリンダブロック2も温水で加熱するようにした。
【0076】
この場合、図15のブロック図に示すように、温水を初めにシリンダブロック2に供給し、その後でシリンダヘッド3及び燃料噴射弁8に供給するようにしてもよいし、図16のブロック図に示すように、シリンダブロック2とシリンダヘッド3の順に温水を供給するのと並行して、燃料噴射弁8に温水を供給するようにしてもよい。さらに、図17に示すように、切替弁29によって温水の流路を切り替え可能にし、初めに燃料噴射弁8に温水を供給し、その後にシリンダブロック2及びシリンダヘッド3に温水を供給するようにしてもよい。
【0077】
また、前述した第3の実施の形態と第4の実施の形態と第5の実施の形態を適宜組み合わせることも可能である。
【0078】
【発明の効果】
本発明に係る内燃機関の燃料噴射弁加熱装置によれば、車両に搭載された水冷式の内燃機関と、前記内燃機関により加熱された冷却水を貯留する保温容器と、前記内燃機関の始動時に前記保温容器に貯留された温水を燃料噴射弁の噴射部近傍の温水通路に供給する噴射部温水供給手段と、を備えることにより、燃料噴射弁から噴射される燃料の気化が促進され、その結果、内燃機関の始動性が向上し、また始動時の燃焼状態がよくなって燃費性能及び排気エミッションが向上するという優れた効果が奏される。また、燃料の加熱に温水を用いているので燃料の異常沸騰を防止することができる。
【0079】
前記噴射部温水供給手段の温水通路が前記内燃機関のシリンダヘッドと前記燃料噴射弁との間に設けられている場合には、特別な燃料噴射弁を使用せずに装置を構成することができるので、装置構成を簡略化することができる。
【0080】
前記噴射部温水供給手段の温水通路が前記燃料噴射弁の内部に設けられている場合には、効率よく燃料噴射弁の噴射部を加熱することができる。
本発明において、複数の燃料噴射弁が複数の群に分けられ、前記噴射部温水供給手段が前記各群に対して並行に温水を供給して各燃料噴射弁の噴射部近傍の温水通路に温水を供給するように構成されている場合には、複数の燃料噴射弁をほぼ均一に加熱することができるという優れた効果が奏される。
【0081】
本発明において、前記噴射部温水供給手段が内燃機関の始動前に温水を燃料噴射弁の噴射部近傍の温水通路に供給する場合には、エンジン始動前に燃料噴射弁を加熱することができ、始動時の燃料の気化促進に極めて効果的である。
【0082】
また、内燃機関の始動前に噴射部温水供給手段を作動させるようにした場合、前記噴射部温水供給手段が温水を燃料噴射弁の噴射部近傍の温水通路に供給開始してから所定時間経過したときに、内燃機関が自動始動されるようにし、さらに、前記所定時間を、燃料噴射弁の温度、温水温度、冷却水温度の少なくとも一つをパラメータとして可変制御するようにすると、燃料噴射弁の加熱時間を適正化することができる。
【0083】
本発明において、前記噴射部温水供給手段と並列に、内燃機関の始動時に前記保温容器に貯留された温水を該内燃機関の機関本体の温水通路に供給する機関温水供給手段が設けられている場合には、燃料の気化促進と併せて、機関本体の早期暖機が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る内燃機関の燃料噴射弁加熱装置における第1の実施の形態の概略構成を示す図である。
【図2】 第1の実施の形態の燃料噴射弁取付部近傍の断面図である。
【図3】 第1の実施の形態における燃料噴射弁通路の横断面図である。
【図4】 第1の実施の形態における燃料噴射弁通路の縦断面図である。
【図5】 第1の実施の形態の変形例における燃料噴射弁取付部近傍の断面図である。
【図6】 第1の実施の形態の別の変形例における燃料噴射弁取付部近傍の断面図である。
【図7】 本発明の内燃機関の燃料噴射弁加熱装置における第2の実施の形態を示す燃料噴射弁取付部近傍の断面図である。
【図8】 本発明の内燃機関の燃料噴射弁加熱装置における第3の実施の形態の一例を示す燃料噴射弁通路の横断面図である。
【図9】 第3の実施の形態の前記一例の燃料噴射弁通路の縦断面図である。
【図10】 第3の実施の形態の他の例の燃料噴射弁通路の横断面図である。
【図11】 本発明の内燃機関の燃料噴射弁加熱装置における第4の実施の形態の一例を示すシリンダヘッドの温水流路を模式的に示した図である。
【図12】 第4の実施の形態の他の例におけるシリンダヘッドの温水流路を模式的に示した図である。
【図13】 第4の実施の形態の別の例を示すシリンダヘッドの温水流路を模式的に示した図である。
【図14】 第4の実施の形態のさらに別の例を示すシリンダヘッドの温水流路を模式的に示した図である。
【図15】 本発明の内燃機関の燃料噴射弁加熱装置における第5の実施の形態の温水の流れの一例を示すブロック図である。
【図16】 第5の実施の形態の温水の流れの他の例を示すブロック図である。
【図17】 第5の実施の形態の温水の流れのさらに別の例を示すブロック図である。
【符号の説明】
1 エンジン(内燃機関)
2 シリンダブロック
2a ブロック冷却水通路
3 シリンダヘッド
3a 燃料噴射弁通路
3b ヘッド吸気側通路(機関温水供給手段)
3c ヘッド排気側通路(機関温水供給手段)
5 ウォータポンプ
6 温水ポンプ
7 保温容器
8,81〜88 燃料噴射弁
8a ノズルボディ(噴射部)
8b ノズルホルダ
8c 温水通路(噴射部近傍の温水通路)
10 冷却水回路
20 温水回路(噴射部温水供給手段)
21 温水通路
33 環状通路(噴射部近傍の温水通路)
34 接続通路
50 ECU

Claims (2)

  1. 車両に搭載された水冷式の内燃機関と、
    前記内燃機関により加熱された冷却水を貯留する保温容器と、
    前記内燃機関の始動時に前記保温容器に貯留された温水を燃料噴射弁の噴射部近傍の温水通路に供給する噴射部温水供給手段と、
    を備え
    前記噴射部温水供給手段の温水通路は前記内燃機関のシリンダヘッドと前記燃料噴射弁との間に設けられ、
    前記温水通路を画するシリンダヘッドの壁面に断熱材が設けられていることを特徴とする内燃機関の燃料噴射弁加熱装置。
  2. 車両に搭載された水冷式の内燃機関と、
    前記内燃機関により加熱された冷却水を貯留する保温容器と
    前記内燃機関の始動時に前記保温容器に貯留された温水を燃料噴射弁の噴射部近傍の温水通路に供給する噴射部温水供給手段と、
    を備え、
    前記噴射部温水供給手段と並列に、内燃機関の始動時に前記保温容器に貯留された温水を該内燃機関の機関本体の温水通路に供給する機関温水供給手段が設けられ、
    前記保温容器の温水は、前記噴射部温水供給手段により燃料噴射弁の噴射部近傍の温水通路に供給された後に、前記機関温水供給手段により機関本体の温水通路に供給されることを特徴とする内燃機関の燃料噴射弁加熱装置。
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