JP4040722B2 - グラビア印刷方法およびグラビア印刷物 - Google Patents

グラビア印刷方法およびグラビア印刷物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はグラビア印刷方法およびグラビア印刷物に関し、特に、電気信号に基づいて彫刻針(ダイヤモンド針)もしくはレーザを駆動させ、版胴面に多数のセルを彫刻するいわゆる電子彫刻方式の手法を利用して凹版を形成し、この凹版を用いて印刷を行いグラビア印刷物を製造する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
グラビア印刷は、凹版を用いた印刷手法であり、主に写真画像を含んだ高品質の印刷物を作成する用途に利用されている。グラビア印刷に用いる版には、多数の凹状のセルが形成され、このセル内に充填されたインキが紙面へと転写されることになる。したがって、グラビア印刷物では、多数のセル状のインキ(網点)によって画像が形成されることになる。別言すれば、グラビア印刷によって紙面上に形成される画像は、所定のピッチで縦横に配列された多数の網点から構成され、個々の網点のインキ量によって濃淡表現がなされることになる。
【0003】
グラビア印刷を行う場合、多数の画素から構成される原画像を用意し、この原画像上の画素の画素値(濃度値)をセルの大きさに変換することにより、1つの画素を1つのセルで表現した凹版を作成することになる。大きな画素値を有する画素は大きなセルに変換され、小さな画素値を有する画素は小さなセルに変換される。このセルの大小は、紙面上でのインキの量に反映され、原画像の濃度分布に応じた濃淡パターンが紙面上に再現されることになる。
【0004】
グラビア印刷用の凹版を形成するための方法としては、物理的な彫刻方式と化学的な腐食方式とが一般に知られている。物理的な彫刻方式は、物理的な方法によってセルを形成する方式であり、通常は電気信号に基づいて彫刻針(ダイヤモンド針)もしくはレーザを駆動させることによりセルの彫刻が行われるため、電子彫刻方式とも呼ばれている。物理的な彫刻方式として最も一般的な方法は、機械彫刻方式と呼ばれている彫刻針を用いた方式である。機械彫刻方式は、個々のセルをダイヤモンド針で1つ1つ物理的に彫刻してゆく方法を採るもので、通常、版面を複数のダイヤモンド針で走査しながら、打刻を行ってゆくことになる。打刻時におけるダイヤモンド針と版面との距離を制御することにより、打刻により形成されるセルの大きさを調節することができる。原画像上の各画素の画素配列および画素値に基づいて、セル彫刻装置による走査処理および打刻処理を制御することにより、原画像に応じた版を作成することができる。
【0005】
一方、化学的な腐食方式は、一般に「網グラビア方式」とも呼ばれており、腐食液を用いた化学処理により、版面上に多数のセルを一括して形成するものである。通常は、原画像上の各画素の情報に基づいて、網点フィルム上にセル配列のイメージを出力し、この網点フィルムを用いたフォトリソグラフィ工程により版が作成される。すなわち、版面に形成されたレジスト層に対して、網点フィルム上のイメージを焼き付け、現像工程およびエッチング工程を経て、セル内部の領域を腐食除去して凹部を形成することになる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、グラビア印刷用の凹版を形成するための方法として、2とおりの方式が知られているが、最近では、機械彫刻方式を代表とする物理的な方式が主流になりつつある。腐食方式は、化学処理を伴うため、エッチング液の温度や疲労具合によって腐食の状態が変動し、再現性を確保することが困難であるという問題を抱えている。また、同一の版面上においても、エッチング液の流れの具合によって部分部分で腐食速度に差が生じ、形成されるセルの大きさが部分ごとに不均一になるおそれもある。したがって、腐食方式で版を作成するためには、熟練した技術者が、独自のノウハウを駆使しながら作業を進める必要がある。これに対し、機械彫刻方式は、電子式セル彫刻装置の性能が向上し、比較的容易に再現性を確保できるようになってきており、近年、普及度が急伸している。しかも、腐食方式は化学処理による環境汚染の問題も指摘されてきており、特に、欧州各国においては、ほとんどのグラビア印刷が、機械彫刻方式で行われている。
【0007】
しかしながら、デザイナーや写真家の中には、いまだに腐食方式のグラビア印刷物の画質を支持する者が少なくない。もちろん、機械彫刻方式によるグラビア印刷物の画質と、腐食方式によるグラビア印刷物の画質とを、客観的な尺度で比較評価することは適切ではない。両者の相違は、あくまでも主観的な嗜好の問題であり、その評価は観者の感性に負うところが多い。ただ、このような主観的な評価によると、腐食方式のグラビア印刷物は、機械彫刻方式のグラビア印刷物に比べて、「立体感に富む」、「人間の肌の表現力に優れる」、「不快な筋が観察されにくい」といった利点を有すると言われている。また、機械彫刻方式によるグラビア印刷物では、画素値が所定のしきい値を越えると、隣接するセル間のインキが結合し、急激に濃度値が高くなるトーンジャンプという現象が生じ、画質を劣化させることも知られている。
【0008】
そこで本発明は、機械彫刻方式に代表される物理的な彫刻方式を採りつつ、疑似的に化学的な腐食方式のグラビア印刷物に近い画質をもったグラビア印刷物を実現することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
(1) 本発明の第1の態様は、所定のピッチで配列された複数のセルを彫刻することにより凹版を作成し、この凹版を用いて印刷を行うグラビア印刷方法において、
それぞれ所定の画素値を有する画素の配列によって構成される原画像を用意する段階と、
原画像を構成する個々の画素の画素値にノイズ成分を付加することにより修正画像を作成する段階と、
修正画像を構成する個々の画素の画素値に応じた大きさのセルを彫刻することにより凹版を作成する段階と、
この凹版を用いて印刷を行う段階と、
を行い、修正画像を作成する段階では、
原画像の画素配列に対応した画素配列を有し、個々の画素にランダムなノイズ値が定義されたホワイトノイズ画像を用意し、
このホワイトノイズ画像に対して、所定の空間フィルタを用いたフィルタリング処理を行うことにより、個々の画素に所定の空間周波数をもったノイズ値が定義された修正用ノイズ画像を生成し、
原画像の個々の画素がもつ画素値を、修正用ノイズ画像の対応する画素がもつ画素値によって修正することにより、修正画像を作成するようにしたものである。
【0012】
(2) 本発明の第2の態様は、上述の第1の態様に係るグラビア印刷方法において、
画素ピッチの2〜5倍の周期をもったノイズ成分を含む修正用ノイズ画像を生成するようにしたものである。
【0016】
(3) 本発明の第3の態様は、上述の第1または第2の態様に係るグラビア印刷方法を用いてグラビア印刷物を製造するようにしたものである。
【0017】
(4) 本発明の第4の態様は、所定のピッチで配列された複数の網点によって画像が表現されたグラビア印刷物において、
個々の網点の大きさの空間的分布に、網点のピッチの2〜5倍の周期をもったノイズ成分を付加するようにしたものである。
【0018】
(5) 本発明の第5の態様は、上述の第4の態様に係るグラビア印刷物において、
所定の微小領域内において、平均的な大きさを有する標準網点を定義したときに、標準網点よりも大きな網点と標準網点よりも小さな網点とが、空間的にほぼ交互に配置されるようにしたものである。
【0025】
【発明の実施の形態】
§1. 機械彫刻方式と腐食方式とにおけるセルの相違
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。はじめに、一般的な機械彫刻方式のグラビア印刷物と腐食方式(網グラビア方式)のグラビア印刷物とのセル構成の相違を述べておく。図1は、機械彫刻方式の工程で作成されたグラビア印刷版の部分拡大図、図2は、腐食方式の工程で作成されたグラビア印刷版の部分拡大図である。いずれも元になる画像データは、網点密度60%の平網に相当する画像データであり、セル(図にハッチングを施した領域)の面積は、全体のほぼ60%となっている。図示の横幅は900μm程度であり、通常、肉眼で観察した場合には、個々のセルの存在は認識できない。しかしながら、これを拡大して観察すると、両方式で作成された版では、セルの形状や分布に大きな差があることがわかる。
【0026】
図1に示すように、機械彫刻方式で作成された版上には、同一の形状および大きさを有するセルが、同一ピッチで規則正しく配置されている。これは、既に述べたように、版面を複数のダイヤモンド針で走査しながら、規則正しく打刻を行ってゆくためである。したがって、ここに示す例のように、平網画像の場合、同一形状かつ同一面積のセルが規則正しく配置されることになる。前述したトーンジャンプという現象は、このようなセルの規則的配置に起因して生じる現象である。すなわち、網点密度の値があるしきい値を越えると、個々のセルの面積が臨界値を越え、印刷物上で隣接する網点間のインキが相互に結合し、網点の境界線が失われ、濃度値が急激に増加することになる。
【0027】
これに対し、図2に示すように、腐食方式で作成された版上には、原画像が平網であるにもかかわらず、形状および大きさがそれぞれ異なったセルが配置されている。個々のセルは、形状が様々であり、大きさも微小なものから、かなり大きなものまで千差万別のように見える。しかしながら、これは通常のセルパターンに、いわゆる「白線パターン」と呼ばれるパターンを合成した合成パターンに基づき、腐食を行っているためである。図2に示されているパターンを注意深く観察すると、所定ピッチで配置されたセルパターン(ハッチングを施して示すパターン)に白線パターン(セルを分割するような格子状のパターン)が重複している様子が認識できる。一般に、セルを配置するピッチに比べて、白線パターンを構成する格子のピッチは小さく設定され、個々のセルは、白線パターンにより種々の態様で分割されることになる。図2に示す例でも、ところどころに四分割、三分割あるいは二分割されたセルの痕跡が認識できる。この白線パターンによる分割態様が様々であるため、分割後の個々のセルは、形状も大きさも様々なものになる。
【0028】
結局、腐食方式で版を作成する場合、網点フィルム上に用意されるもともとの画像パターン自体が、所定ピッチで配置されたセルのパターンと白線パターンとの合成パターンになっており、形状も大きさも異なった多数のセルから構成されていることになる。それに加えて、実際の腐食工程では、腐食液の温度、疲労度、流速などが部分ごとに変動するため、版上に形成される個々のセルの形状および大きさには、部分ごとに揺らぎの要素が加わることになる。結局、腐食方式で作成された版上の個々のセルは、白線パターンによる分割態様に基づく揺らぎの要素と、腐食工程時の条件に基づく揺らぎの要素との相乗効果により、形状も大きさも様々なものになる。
【0029】
このように、腐食方式で作成された版には、形状も大きさも様々なセルが形成されるため、この版を用いたグラビア印刷物上には、トーンジャンプという現象は生じない。図1および図2には、原画像が平網画像の例を示したが、原画像が階調画像の場合にも、同様の理由により画質の差が生じていると考えてよい。すなわち、一般に、「立体感に富む」、「人間の肌の表現力に優れる」、「不快な筋が観察されにくい」といった言葉で表現される腐食方式の利点は、セルの形状や大きさに揺らぎの要素(白線パターンによる分割の揺らぎと腐食条件の揺らぎ)が付加されているためと考えることができる。
【0030】
§2. 本発明の基本概念
本発明の目的は、作業が容易で環境汚染の問題もない物理的な彫刻方式を採りつつ、疑似的に化学的な腐食方式のグラビア印刷物に近い画質をもった印刷物を実現することにある。そのためには、上述した揺らぎの要素を疑似的に付加してやればよい。本発明の基本概念は、所定の画素値を有する画素の配列によって構成される原画像を用意し、この原画像を構成する各画素のもつ画素値に、ノイズ成分を付加することにより揺らぎの要素を含んだ修正画像を作成し、この修正画像を構成する個々の画素の画素値に応じた大きさのセルを機械的に彫刻してグラビア印刷用の版を作成することにより、機械彫刻方式を採りつつ、腐食方式のグラビア印刷物に近い画質をもった印刷物を疑似的に作成することにある。
【0031】
いま、図1に示す機械彫刻方式で作成された版と、図2に示す腐食方式で作成された版とについて、セルの大きさ分布を比較するために、図3に示すようなグラフを考えてみる。このグラフは、横軸に空間的広がりをとり、縦軸にセルの大きさをとったものである。ここで、グラフの破線は、機械彫刻方式で作成された平網画像の版についてのセルの大きさ分布を示しており、グラフの実線は、腐食方式で作成された平網画像の版についてのセルの大きさ分布を示している。図示のとおり、機械彫刻方式の場合、セルの大きさが空間的に一定であるのに対し、腐食方式の場合、セルの大きさは空間的にランダムに変動している。
【0032】
ダイヤモンド針により打刻される個々のセルの大きさは、対応する画素の画素値に応じて決定される。そこで、原画像を構成する各画素のもつ画素値に、ノイズ成分を付加して修正画像を作成すれば、この修正画像に基づいて作成される版上では、セルの大きさは空間的に変動を生じたものになる。たとえば、図4に示すグラフは、平網画像からなる原画像と、これにノイズ成分を付加した修正画像と、についての画素値の空間分布を示している。ここで、画素値はセルの大きさに対応した量であり、この修正画像に基づいて作成された版上のセルも、空間的に大きさが変動したものになる。原画像が階調画像であった場合は、図5のグラフ(この例は単調なグラデーション画像についてのグラフ)に示すように、もともとの原画像における画素値も空間的に変動することになるが、ノイズ成分を付加した修正画像の画素値は、より細かな変動を示すことになる。
【0033】
図6は、本発明に係るグラビア印刷方法を実施するためのシステム構成例を示すブロック図である。まず、グラビア印刷用画像データ生成装置10において、所定の画素値を有する画素の配列によって構成される原画像を用意する。この例では、グラビア印刷用画像データ生成装置10を用いて、C版,M版,Y版,K版の4版についての原画像データC,M,Y,Kをそれぞれ用意している。これらの画像データに含まれる個々の画素は、グラビア印刷用の個々のセルに対応したものとなる。
【0034】
続いて、ノイズ成分付加装置20において、各原画像データC,M,Y,Kに、ノイズ成分を付加する処理が行われる。すなわち、各画像データを構成する画素のもつ画素値に、ノイズ成分となる所定の値を増減する処理が行われる。このノイズ成分の付加処理の具体的な方法については、後にいくつかの例を述べる。こうして、ノイズ成分付加装置20からは、ノイズ成分を含んだ修正画像データC,M,Y,Kが出力されることになる。
【0035】
最後に、セル彫刻装置30によって、グラビア印刷版であるC版31,M版32,Y版33,K版34が作成される。たとえば、C版31は、修正画像データCを構成する各画素位置に、それぞれの画素値に応じた大きさのセルを打刻して形成することにより作成されることになる。
【0036】
図7は、このようにして作成されたグラビア印刷版の一例を示す部分拡大図である。この例においても、元になる画像データは、網点密度60%の平網に相当する画像データである。従来の機械彫刻方式で作成された図1に示す版と比べると明らかなように、本発明の機械彫刻方式で作成された図7に示す版では、個々のセルの大きさが空間的に変動している。ここでは説明の便宜上、平網画像についての例を示したが、階調画像を用いた場合にも、個々のセルの大きさが空間的に変動するという同様の効果が得られることになる。本願発明者が行った階調画像についての実験によれば、本発明の方法を適用することにより、「立体感に富む」、「人間の肌の表現力に優れる」、「不快な筋が観察されにくい」といった腐食方式の特徴を再現することができ、機械彫刻方式で作成したグラビア印刷物であるにもかかわらず、腐食方式で作成したグラビア印刷物に近い画質を得ることができた。
【0037】
§3. ノイズ成分の付加処理
続いて、本発明の要点となるノイズ成分の付加処理の具体的な方法をいくつか述べておく。
【0038】
ノイズ成分を付加する最も単純な方法は、所定の分散範囲内の増分値および減分値をランダムに発生させ、個々の画素の画素値に対して、発生させた増分値を加えるかもしくは発生させた減分値を減じる修正を行う方法である。たとえば、図8に示すような所定の分散をもった正規分布を用いて、平均を示す中央位置に基準値0を定義し、この基準値より右側に増分値、左側に減分値をそれぞれ定義する。そして、コンピュータで乱数を発生させて、この正規分布に従った頻度で、増分値あるいは減分値をランダムに発生させ、個々の画素の画素値を増減させるのである。このような方法でノイズ成分を付加した修正画像に基づいて、セルの形成を行えば、セルの大きさの空間的な分布にランダムなノイズ成分が付加されることになる。
【0039】
しかしながら、上述のように、全くランダムに画素値を増減させる方法では、必ずしも十分な効果が期待できるとは限らない。たとえば、ある領域内の画素については、たまたま増分値による修正が集中して行われ、別な領域内の画素については、たまたま減分値による修正が集中して行われたような場合、領域ごとに濃度ムラが生じてしまうことになる。このような弊害を避けるためには、所定の空間周波数で増減するノイズ成分を用意して修正を行うようにするのが好ましい。たとえば、図9のグラフに示されているノイズ成分を考える。ここで、グラフの横軸は空間的広がりを示し、縦軸はノイズ成分の増分値あるいは減分値を示している。この例では、ノイズ成分は空間的に周期Lをもって増減している。別言すれば、ある領域では増分値を示していたら、その隣の領域では減分値を示すようになっている。このように、所定の空間周波数で増減を繰り返すノイズ成分を用いると、全くランダムに増減するノイズ成分を用いた場合に比べて、より十分な効果が期待できる。
【0040】
本願発明者は、特に、セルのピッチとほぼ同じ周期をもったノイズ成分を用いると、非常に効果的であることを見出だした。たとえば、図9に示すノイズ成分の周期Lが、セルのピッチとほぼ同じ程度であるとすると、1つのセルは基準値より大きくなり、これに隣接するセルは基準値より小さくなる。このように、交互に大小を繰り返すようなセル構成は、本発明の効果を得るために非常に有効である。本願発明者が行った実験によれば、付加するノイズ成分の空間周波数が低くなると、印刷物に再現される画像にいわゆるザラザラ感が見られるようになる。すなわち、用いるノイズ成分の空間周波数は、できるだけセル配置の空間周波数に近付けるようにするのが好ましく、これより空間周波数の低いノイズ成分を用いるほど、画質にザラザラ感が生じるようになる。これは、通常のグラビア印刷では、セルのピッチがたとえば(1/175)mmというように、肉眼で個々のセルを観察することが困難な値に設定されていることに関係していると考えられる。すなわち、ノイズ成分の空間周波数をセルの空間周波数と同程度にすると、ノイズ成分が肉眼では認識されることがなくなり、自然な画像を再現することができるが、ノイズ成分の空間周波数を低くすると、ノイズ成分が肉眼で認識されることになり、ザラザラ感が生じてくるものと思われる。
【0041】
§4. より効率的なノイズ成分の付加処理(その1)
本願発明者は、セルの空間周波数とほぼ同程度の空間周波数をもったノイズ成分を付加するための非常に効率的な手法を案出した。この手法を用いれば、乱数を用いることなく、しかも非常に単純な算術演算を用いてノイズ成分の付加処理が可能になる。以下、この手法の基本的なアルゴリズムを説明する。
【0042】
この手法の基本原理は、nビットで表現される画素値をもった画素の集合により原画像を用意し、個々の画素値を(n−k)ビットに間引く処理を行い、(n−k)ビットで表現される画素値をもった画素の集合により修正画像を作成する点にある。ここでは、8ビットで表現される画素値をもった画素の集合により原画像を用意し、個々の画素値を5ビットに間引く処理を行い、5ビットで表現される画素値をもった画素の集合により修正画像を作成する例を示そう。8ビットの原画像における画素値のレンジは、0〜255までの256段階である。これに対して、5ビットの修正画像における画素値のレンジは、0〜31までの32段階である。ここで、レンジを0〜255に共通化したとすると、8ビットの原画像の画素は、0〜255までの全レンジにわたった256とおりの値をとることができるのに対し、5ビットの修正画像の画素は、同じ0〜255までのレンジにわたった値であっても、0,8,16,24,32,40,48,56,64,72,80,88,…といった8つおきのとびとびの値しかとることはできない。
【0043】
これをより具体的に示すと図10のようになる。図10の上段には、8ビットで表現された画素値をもった原画像の画素の配列が示されており、下段には、5ビットで表現された画素値をもった修正画像の画素の配列が示されている。上段に示す原画像に対して間引き処理を施すと、下段に示す修正画像が得られることになる。原画像の画素の画素値は、5ビットで表現されるとびとびの画素値の中で、最も近い画素値に置換されることになる。たとえば、図10の一番左の画素のもつ画素値「41」は画素値「40」に置換されている。この置換処理は、もとの画素値「41」に減分値「1」なるノイズ成分を付加する処理とも考えることができる。このように、ビット数を減らす間引き処理は、個々の画素値をデジタルデータとして取り扱うコンピュータによっては、非常に効率的に実行可能な処理であり、膨大な数の画素についても比較的軽い演算負担で実行が可能である。しかも、乱数を用いていないにもかかわらず、比較的ランダムな増分値と減分値とが得られるというメリットがある。
【0044】
ここでは、修正画像を構成する画素値の平均が、原画像を構成する画素値の平均にほぼ等しくなるような工夫を、上述の基本手法に加えた実例を以下に示すことにする。図11は、この手法に基づくノイズ成分の付加処理の手順を示す流れ図である。まず、ステップS1において、j行i列の二次元画素配列からなる原画像を、nビットの画素値をもつ画素の集合として用意する。続いて、ステップS2において、パラメータjを初期値1にセットし、ステップS3において、パラメータiを初期値1にセットする。そして、ステップS4において、第j行目の第i番目の画素値P(i)を、(n−k)ビットの最も近い画素値Q(i)に変換する。これは上述した画素値の間引き処理に相当する。続くステップS5では、この間引き処理の前後における画素値の差を示す差分値d(i)が、d(i)=P(i)−Q(i)として演算される。
【0045】
次に、ステップS6において、第(i+1)番目の画素が存在するかが判断され、存在する場合には、ステップS7において、第(i+1)番目の画素の画素値P(i+1)が、P(i+1)+d(i)に更新される。これは、第i番目の画素に対する間引き処理で生じた差分値を、隣接する第(i+1)番目の画素に加えて補償し、間引き処理を行っても、全体的な画素値の平均値が変化しないようにするための措置である。
【0046】
以上の処理を、ステップS8を経て、パラメータiを更新しながら第j行目にある画素列について順次実行してゆく。こうして、ステップS6において、否定的な判断がなされると、その行についての処理は完了し、ステップS9からステップS10を経て、行を示すパラメータjが更新され、次の行についても同様の処理が繰り返し行われる。こうして、ステップS9において、第(j+1)行目が存在しないと判断されると、全行についての処理が完了したことになる。最終的に、画素値Q(i)をもつ画像が修正画像ということになる。
【0047】
図12は、上述の手順を具体的な画素値を用い、n=8,k=3として実行した例を示す図である。図12(a) は、原画像を構成する画素配列の第j行目の各画素値(8ビットで表現されている)を示している。この例では、平網画像を想定しており、図示の第j行目の画素列はいずれも画素値「61」を有している。いま、パラメータi=1として、第1番目の画素値「61」に着目する。図11のステップS4では、この画素値「61」が、5ビットの最も近い画素値「64」に変換され、ステップS5では、差分値d(1)=61−64=−3が求まる。そして、ステップS7において、第2番目の画素値が、61−3=58なる演算で求まった新たな画素値「58」に更新される。図12(b) は、この時点での各画素の画素値を示すものであり、二重枠内の画素値は、すでに間引き処理が完了した5ビットで表現された画素値を示している。
【0048】
次に、パラメータi=2として、第2番目の画素値「58」に着目する。ステップS4では、この画素値「58」が、5ビットの最も近い画素値「56」に変換され、ステップS5では、差分値d(2)=58−56=+2が求まる。そして、ステップS7において、第3番目の画素値が、61+2=63なる演算で求まった新たな画素値「63」に更新される。図12(c) は、この時点での各画素の画素値を示すものである。
【0049】
続いて、パラメータi=3として、第3番目の画素値「63」に着目する。ステップS4では、この画素値「63」が、5ビットの最も近い画素値「64」に変換され、ステップS5では、差分値d(3)=63−64=−1が求まる。そして、ステップS7において、第4番目の画素値が、61−1=60なる演算で求まった新たな画素値「60」に更新される。図12(d) は、この時点での各画素の画素値を示すものである。
【0050】
更に、パラメータi=4として、第4番目の画素値「60」に着目する。ステップS4では、この画素値「60」が、5ビットの最も近い画素値「56」に変換され(画素値「64」でもよい)、ステップS5では、差分値d(4)=60−56=+4が求まる。そして、ステップS7において、第5番目の画素値が、61+4=65なる演算で求まった新たな画素値「65」に更新される。図12(e) は、この時点での各画素の画素値を示すものである。
【0051】
このような処理を繰り返してゆけば、原画像を構成していた8ビットの画素値は、すべて5ビットの画素値に間引かれることになるが差分値が隣接画素へと繰り越されてゆくため、画素値の平均はほぼ同じになる。そして、前述したように、個々の画素についての差分値が、ノイズ成分と同じ機能を果たすことになる。実際、図12に示す例では、もとの原画像が図12(a) に示すような平網画像であるにもかかわらず、図12(e) に示すように、修正画像としては、画素値「64」と「56」とが交互に出現する結果となっており、画素ピッチ(セルピッチ)と同じ空間周波数をもったノイズ成分が付加された画像が得られている。すなわち、印刷物上には、個々のセルの大きさの空間的分布に、セルのピッチと同程度の空間周波数を有するノイズ成分が付加された画像が表現されることになる。一般の階調画像について、この手法を適用した場合にも、本質的には同じ効果が得られ、この階調画像の印刷物上の所定の微小領域内を観察すると、平均的な大きさを有する標準セルを基準として、この標準セルよりも大きなセルとこの標準セルよりも小さなセルとが、空間的にほぼ交互に配置されている状態が実現できる。
【0052】
この間引き処理を利用してノイズ成分を付加する手法では、最終的に印刷物上に得られるセルの大きさは32段階に凝縮され、セルの大きさはとびとびになり、いわゆる量子化が進むことになる。このようなセルの大きさの量子化は、一見したところ「腐食方式の画質に近付ける」という本発明の目的に逆行する処理のようにも考えられるが、本願発明者が実際に実験を行ったところ、本発明の所期の目的を達成する上で十分な効果が見られた。これは、おそらく、肉眼で観察不能な微小なセルについては、256段階の画素値に基づいて256通りの大きさをもったセルを使い分けたところで、視覚的には無意味であるという理由によるものと考えられる。すなわち、画素値「61」に対応する大きさのセルと、画素値「62」に対応する大きさのセルとの相違は、肉眼では何ら識別することはできないが、画素値「56」に対応する大きさのセルと画素値「64」に対応する大きさのセルとを交互に配置した場合には、視覚的に画質に関連した何らかの認識が行われるものと考えられる。
【0053】
以上、nビットで表現される画素値を(n−k)ビットに間引く処理を行うことによりノイズ成分を付加する手法を説明したが、この原理に基づくノイズ成分の付加処理は、必ずしもビット数を間引く方法に限定されるものではない。一般論としては、n階調で表現される画素値を(n−k)階調に間引く処理を行うことができれば、ノイズ成分を付加することが可能である。ビットを間引く方法では、処理後の画素値は、たとえば、32,64,96,…といった2のべき乗の倍数値に限定されることになるが、n階調で表現される画素値を(n−k)階調に間引く一般的な方法を採れば、より自由度の高い画素値を得ることが可能になる
§5. より効率的なノイズ成分の付加処理(その2)
ここでは、原画像に対してノイズ成分を付加するための別な手法を提案する。いま、図13(a) に示されているように、M行N列の画素配列として原画像Pが用意されている場合を考える。この原画像Pを構成する個々の画素には所定の画素値が定義されている。ここでは、この原画像P上のm行n列目の画素の画素値をP(m,n)と表すことにする。このような原画像Pに対して、図13(b) に示すような修正用ノイズ画像Aを用意する。この修正用ノイズ画像Aは、原画像Pと同様に、M行N列の画素配列からなり、たとえば、m行n列目の画素には、画素値A(m,n)が定義されている。このような修正用ノイズ画像Aを用意することができれば、原画像P上の個々の画素のもつ画素値を、修正用ノイズ画像A上の対応位置にある画素のもつ画素値によって修正することにより、図13(c) に示すように、M行N列の画素配列からなる修正画像Pを得ることができる。この修正画像P上のm行n列目の画素の画素値をP(m,n)と表すことにすれば、この画素値P(m,n)は、たとえば、
(m,n)=P(m,n)+A(m,n)
なる式で求めることができる。もちろん、画素値P(m,n)を定義するための式は、上式に限定されるものではなく、関数fを用いて、
(m,n)=f(P(m,n),A(m,n))
なる形式で表現される任意の一般式を用いればよい。
【0054】
このような手法により得られる修正画像Pの特性は、どのような修正用ノイズ画像Aを用いたかによって大きく左右される。本願発明者は、当初、この修正用ノイズ画像Aとして、最も典型的なホワイトノイズ画像を用いることを考えた。たとえば、図14に示すように、M行N列の画素配列を定義し、各画素の画素値として全くランダムな値を定義すれば(たとえば、各画素ごとに発生させた乱数を、そのまま画素値として採用すればよい)、ホワイトノイズ画像Wが得られる。このホワイトノイズ画像Wでは、m行n列目の画素の画素値W(m,n)は、他の画素の画素値とは全く無関係に定義されたノイズ値となる。このようなホワイトノイズ画像Wの画素値の空間的分布には、あらゆる空間周波数成分が含まれている。たとえば、図14において、第m行目に並んだ複数の画素のもつ画素値を一次元分布としてとらえ、画素値の空間的変動を示すグラフをフーリエ変換すると、画素の解像度に基づいて定まる理論的に可能な空間周波数の全範囲にわたって、ほぼ均一な空間周波数分布が得られる。
【0055】
しかしながら、このようなホワイトノイズ画像Wを、そのまま修正用ノイズ画像Aとして用いた場合、最終的に得られるグラビア印刷物には、いわゆるザラザラ感が見られ、必ずしも好ましい結果にはならない。既に述べたように、本発明で付加するノイズ成分の空間周波数は、できるだけセル配置の空間周波数に近付けるのが好ましい。本願発明者は、ホワイトノイズ画像Wに対して、所定の空間フィルタを用いたフィルタリング処理を行うことにより、セルの空間周波数に近い周波数成分をもったノイズ画像を生成できることに着目し、フィルタリング処理後のノイズ画像を修正用ノイズ画像Aとして用いることにより、本発明として好ましい結果が得られることを見出だした。
【0056】
たとえば、図14に示すM行N列の画素配列からなるホワイトノイズ画像Wに適用するために、図15に示すような3行3列の空間フィルタFを定義する。ここでは、この空間フィルタFの行をα=−1,0,1と表し、列をβ=−1,0,1と表すことにし、α行β列の位置に定義されたフィルタ値をφ(α,β)と表すことにする。このような空間フィルタFを、図16に示すように、ホワイトノイズ画像W上のm行n列目の画素に適用し、
A(m,n)=Σ(φ(α,β)・W(m+α,n+β))
(但し、Σはα=−1,0,1、β=−1,0,1についての総和)
なる演算で新たな画素値A(m,n)を求めるようにし、この新たな画素値A(m,n)をもった修正用ノイズ画像を、図13(b) に示す修正用ノイズ画像Aとして用いればよい。このようなフィルタリング処理後に得られる修正用ノイズ画像Aは、セルの空間周波数に近い周波数成分をもったノイズ画像になるため、この修正用ノイズ画像Aを用いて、原画像Pを修正画像Pに変換すれば、ザラザラ感のない自然な画質をもったグラビア印刷物を得ることができる。
【0057】
図17は、本願発明者が実際に用いた空間フィルタFのフィルタ値の具体例を示す図である。このような空間フィルタFを用いた場合、m行n列目の画素値A(m,n)は、
Figure 0004040722
なる式により得られることになる。
【0058】
なお、上述の演算を行う際、通常は、ホワイトノイズ画像Wを格納するための第1の画素配列と、修正用ノイズ画像Aを格納するための第2の画素配列とを用意し、第1の画素配列内の画素値W(i,j)を読出して参照しながら、上式の右辺の演算を行い、その結果として得られた画素値A(i,j)を第2の画素配列内へ書き込むという処理が行われる。
【0059】
§6. 本発明に係るグラビア印刷物
以上、本発明に係るグラビア印刷方法を述べてきたが、ここでは、このような印刷方法によって得られるグラビア印刷物の特徴を述べておく。図18および図19は、いずれも機械彫刻方式でセル形成が行われたグラビア印刷版を用意し、このグラビア印刷版を用いて印刷を行うことにより得られた印刷物の印刷面の部分拡大図である。いずれの図も、いわゆる平網部分(階調のない単一濃度の領域として表現された部分)を拡大したものであるが、図18は、従来の手法によって得られたグラビア印刷物を示し、図19は、本発明の手法によって得られたグラビア印刷物を示す。別言すれば、図18に示すグラビア印刷物は、図1に示すグラビア印刷版による印刷結果を示し、図19に示すグラビア印刷物は、図7に示すグラビア印刷版による印刷結果を示している。
【0060】
グラビア印刷版上の各セルの形状と比べて、グラビア印刷物上の各網点の形状は若干異なっているが、これは凹状のセル内に蓄積されたインキが紙面上に転写されて網点を形成する際のインキの物理的ふるまいに基づくものである。このように、個々のセルと個々の網点とは、形状は若干異なるものの、位置および大きさに関しては、互いに対応した関係にある。図18と図19とを比べると、網点のピッチは両者で同じであるが、個々の網点の大きさに関しては大きな相違がみられる。すなわち、図18に示す従来のグラビア印刷物では、個々の網点の大きさ(面積)がほぼ一定であるのに対し、図19に示す本発明のグラビア印刷物では、個々の網点の大きさの空間的分布に、網点のピッチの2〜3倍程度の周期をもったノイズ成分が付加されている。たとえば、一次元の空間的分布を調べるために、図19に示すように、任意の座標軸Zを定義し、この座標軸Z上に配置された網点の大きさの分布に着目すると、網点の配置ピッチの2〜3倍程度の周期で、網点の大きさが大きくなったり小さくなったり変化していることがわかる。すなわち、網点の大きさにランダム性が付加されていることになる。
【0061】
本願発明者は、セルのピッチの2〜5倍の周期をもったノイズ成分を用いると、効果的であることを見出だした。とくに、セルのピッチの2〜3倍の周期をもったノイズ成分を付加すると非常に効果的である。たとえば、図9に示すノイズ成分の周期Lが、セルのピッチの2倍程度であるとすると、1つのセルは基準値より大きくなり、これに隣接するセルは基準値より小さくなる。
【0062】
図20は、任意の座標軸Zを横軸にとったとき、この座標軸Z上に配置された網点の面積を示すグラフである。このグラフにおいて、Z軸上の距離pは、網点の配置ピッチを示しており、個々の棒グラフが個々の網点の面積を示している。いま、平均的な大きさを有する標準網点を定義し、この標準網点の面積を図の破線で示した値とすれば、図示のグラフのように、標準網点よりも大きな網点と標準網点よりも小さな網点とが、空間的にほぼ交互に配置されていることがわかる(厳密に交互になるとは限らないが、標準網点よりも大きい網点が現れたら、近々小さな網点が現れる、というように、ほぼ網点の配置ピッチに等しい周期で大きくなったり小さくなったりしている)。
【0063】
もともと平網部分は、階調表現を行う必要のない領域であるため、原理的には同一の大きさの網点を配置すれば十分であり、わざわざ網点の大きさにランダム性を付加する必要はない、と考えられていた。したがって、原画像上の平網部分は、いずれも同一の画素値をもった画素の集合によって構成されている。しかしながら、本願発明者は、このような平網部分においても、網点の大きさにランダム性をもたせることにより、機械彫刻方式を採りつつ、疑似的に腐食方式のグラビア印刷物に近い画質をもった印刷物を実現することができることに気が付いたのである。上述した本発明に係る手法により、ノイズ成分の付加を行えば、原画像上では同一の画素値をもった画素の集合によって構成されていた平網部分も、修正画像上では、個々の画素ごとに画素値にランダム性が付加されることになる。したがって、グラビア印刷物上では、平網部分であるにもかかわらず、ランダムな大きさの網点が形成されることになる。このように、平網部分の網点の大きさがランダム性を有するというグラビア印刷物は、機械彫刻方式の版を用いて印刷されたグラビア印刷物に関する限り、現時点で公知ではない。
【0064】
もっとも、網点の大きさがランダム性を有するという本発明の特徴は、平網画像だけでなく、一般の階調画像においても意味を有する。景色や人物など、一般的なカラー写真に基づく原画像では、個々の画素の画素値は、当然ながら部分部分によって異なっている。しかしながら、機械彫刻方式の版を用いて印刷された従来のグラビア印刷物では、階調画像に関しても、所定の微小領域内を観察する限り、ほぼ等しい画素値をもった画素の集合によって構成されている。たとえば、図18に示す例のように、横幅900μmほどの微小領域内を拡大鏡で観察すると、平網画像であっても、階調画像であっても、隣接配置された網点の大きさはほぼ同じであることがわかる。景色や人物などのモチーフを示す階調画像であっても、グラビア印刷物上に表現する以上、「肉眼で観察したときに当該モチーフが認識できる」という前提が必要になる。このため、階調画像であっても、図18に示すような微小領域を観察する限り、網点の大きさはほぼ等しくなる。もちろん、階調画像の場合、画像全体をマクロ的に観察すれば、ある部分は大きな網点が集まっており、別なある部分は小さな網点が集まっている。ただ、このグラビア印刷物を通常の態様で観察した際に、肉眼ではモチーフの一部を構成する領域としては識別することができない微小領域を考え、このような微小領域内においてミクロ的に観察すれば、網点の大きさはほぼ一定になっている。
【0065】
これに対し、本発明に係るグラビア印刷物では、たとえば、図19に示す例のように、横幅900μmほどの微小領域内を拡大鏡で観察すると、平網画像であっても、階調画像であっても、隣接配置された網点の大きさに相違が生じている。この図19に示す例では、横幅900μmほどの微小領域内において、平均的な大きさを有する標準網点を定義したとすれば、標準網点よりも大きな網点と標準網点よりも小さな網点とが、空間的にほぼ交互に配置されていることがわかる。別言すれば、通常の態様で観察した際に肉眼では識別することができない微小領域内において、網点の大きさがランダム性を有していることになり、互いに隣接する任意の2つの網点に着目したときに、この2つの着目網点の大きさが相違しており、かつ、着目する網点ごとに、相違の態様がランダムになっている。もちろん、このランダム性によっては、肉眼では、画像としての濃淡分布を認識することはできない。すなわち、グラビア印刷物上に、図19に示すようなランダムな大きさをもった網点の集合が形成されていたとしても、このグラビア印刷物を通常の態様でマクロ的に観察した場合、この網点の大小分布は、そのまま画像の濃淡分布として認識されるわけではない。
【0066】
このように、本発明に係るグラビア印刷方法で得られる印刷物上には、平網画像であれ、階調画像であれ、ミクロ的な意味で、網点の大きさにランダム性が見られることになる。グラビア印刷物上の画像を構成する網点の大きさに、このようなミクロ的なランダム性を付加すると、画像から認識されるモチーフ自体は変わらないものの、その画質には影響が現れる。すなわち、ミクロ的なランダム性を付加することによって、「立体感に富む」、「人間の肌の表現力に優れる」といった腐食方式によるグラビア印刷物の画質を、機械彫刻方式によるグラビア印刷物において疑似的に表現することが可能になる。このように、肉眼では1つの領域としては識別することができない微小領域内において、網点の大きさがランダム性を有するグラビア印刷物は、機械的に彫刻してなる凹版を用いたグラビア印刷物としてはこれまでに存在しないものであり、そのような物理的構造を有するグラビア印刷物自体が新規なものである。
【0067】
最後に、網点の大きさがミクロ的な意味でランダム性を有するグラビア印刷物なるものが、グラビア印刷物としてはこれまでに存在し得なかった理由について考察しておく。既に述べたように、平網画像は、階調変化のない平網部分から構成される画像であり、当然ながら、ほぼ同一の大きさをもった網点の集合によって表現されるものであり、従来の機械彫刻方式によるグラビア印刷物では、網点の大きさにランダム性が生じる余地はない。一方、階調画像については、画像をグラビア印刷システムに取り込む場合、通常、景色や人物などの写真を、スキャナ装置などを利用して光学的に読み込むことにより、原画像となるデジタルデータを用意する処理が行われる。ところが、この光学的な読み込み段階では、もとの写真画像の高い空間周波数成分を除外する処理が行われる。
【0068】
図21は、この高い空間周波数成分の除外処理の概念を説明するための空間周波数特性を示すグラフである。このグラフの横軸は、画像の空間周波数fを示し、縦軸は、各周波数成分の振幅(0〜1の範囲に規格化)を示している。ここで、特性Aは、もとの写真画像の空間周波数特性を示し、特性Bは、スキャナ装置で入力した後のデジタルデータとしての原画像の空間周波数特性を示している。図示のとおり、特性Aに含まれていた周波数f=π以上の高周波成分(図にハッチングで示す部分)が、特性Bではカットされていることがわかる。ここで、周波数軸は画像のサンプリング周波数に基づいて正規化されており、f=2πがサンプリング周波数に対応する。別言すれば、特性Bでは、サンプリング定理を満たすように、画像のサンプリング周波数の1/2に相当する高周波部分がカットされていることになる。
【0069】
このように、スキャナ装置による画像の取り込み時において、図21にハッチングで示す高周波部分をカットするのは、印刷時に、モアレ縞が発生するのを抑えるためである。通常、このような高周波部分のカットは、スキャナ装置の光学系の設定によって行われる。すなわち、光学系のアパーチャー開口度の設定により、カットオフ周波数の値が定められる。実際には、モアレ縞などを抑えるため、サンプリング定理を満たすように、原画像の解像度を考慮してアパーチャー開口度が設定されることになる。結局、デジタルデータとして取り込まれた原画像の空間周波数特性は、図21の特性Bのようなものとなり、f>πなる高周波成分fは一切カットされていることになる。しかも、この特性Bはベッセル関数で近似されるように、なだらかな減衰特性を呈するため、f<πなる周波数成分fであっても、πに近い高い周波数成分の振幅は非常に小さくなる。
【0070】
このような理由から、従来の一般的な機械彫刻式のグラビア印刷方法で印刷されたグラビア印刷物には、f>πなる高周波成分fは含まれておらず、また、f<πなる周波数成分fであっても、πに近い高い周波数成分もわずかしか含まれていない。したがって、従来のグラビア印刷物には、平網画像の部分はもちろん、階調画像の部分においても、網点の配置ピッチ程度のミクロ的な観点では、網点の大きさにランダム性が見られることはない。
【0071】
本発明に係るグラビア印刷方法は、スキャナ装置によって光学的な取り込みを行う際に除外(カットもしくは低減)された高い空間周波数f(ただし、f≦π)を有するノイズ成分を、デジタルデータの段階で付加することを目的とするものであり、原画像から修正画像を得る処理は、図21の特性Bで示される空間周波数特性を有する原画像を、特性Aで示される空間周波数特性をもった画像に近付ける処理と言うことができる。このような高い空間周波数を有するノイズ成分は、肉眼ではモチーフとして直接認識することはできないが、「立体感に富む」、「人間の肌の表現力に優れる」といった腐食方式によるグラビア印刷に近い画質を与える効果を有している。このように、光学的な取り込み時に失われた高い空間周波数成分をもったグラビア印刷物は、機械彫刻方式のグラビア印刷物としては、これまでに存在しない新規な印刷物である。
【0072】
以上、本発明を図示する実施形態に基づいて説明したが、本発明はこの他にも種々の形態で実施可能である。特に、ノイズ成分を付加する手法は、上述の実施形態で述べた手法に限定されるものではなく、この他にも種々の方法を採ることが可能である。
【0073】
また、上述した実施形態では、彫刻針(ダイヤモンド針)を用いた打刻により版胴面に多数のセルを形成して凹版を作成する機械彫刻方式を例にとった説明を行ってきたが、本発明に係るグラビア印刷方法は、必ずしも機械彫刻方式による凹版作成を前提とするものではない。本発明の基本的な技術思想は、物理的方法によりセル形成を行うグラビア印刷であるにもかかわらず、化学的方法によりセル形成を行うグラビア印刷に近い画質を得る点にある。したがって、本発明におけるセルの形成方法は、機械彫刻方式に限定されるものではなく、物理的な方法によりセルを形成することができれば、どのような方法を採ってもかまわない。本発明は、たとえば、レーザを用いてセルを彫刻するグラビア印刷方法にも適用可能であり、いわゆる電子彫刻方式によってセルを形成するグラビア印刷方法に広く適用可能である。
【0074】
【発明の効果】
以上のとおり本発明に係るグラビア印刷方法によれば、原画像にノイズ成分を付加してセル形成を行うようにしたため、物理的な彫刻方式を採りつつ、疑似的に化学的な腐食方式のグラビア印刷物に近い画質をもった印刷物を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】機械彫刻方式の工程で作成されたグラビア印刷版の部分拡大図である。
【図2】腐食方式の工程で作成されたグラビア印刷版の部分拡大図である。
【図3】機械彫刻方式で作成された版と、腐食方式で作成された版とについて、セルの大きさ分布を比較するためのグラフである。
【図4】平網画像からなる原画像と、これにノイズ成分を付加した修正画像と、についての画素値の空間分布を示すグラフである。
【図5】階調画像からなる原画像と、これにノイズ成分を付加した修正画像と、についての画素値の空間分布を示すグラフである。
【図6】本発明に係るグラビア印刷方法を実施するためのシステム構成例を示すブロック図である。
【図7】本発明に係るグラビア印刷方法で作成されたグラビア印刷版の一例を示す部分拡大図である。
【図8】本発明に係るグラビア印刷方法に用いられる正規分布のノイズ成分を示すグラフである。
【図9】本発明に係るグラビア印刷方法に用いられる所定の空間周波数をもったノイズ成分を示すグラフである。
【図10】本発明に係るグラビア印刷方法で利用される画素値の間引き処理の概念を説明するための図である。
【図11】本発明の一手法に基づくノイズ成分の付加処理の手順を示す流れ図である。
【図12】図11に示す手順を具体的な画素列について実施した場合の画素値の変遷を示す図である。
【図13】本発明の別な手法に基づくノイズ成分の付加処理の基本原理を示す図である。
【図14】図13(b) に示す修正用ノイズ画像Aを生成するために用いるホワイトノイズ画像Wを示す図である。
【図15】図14に示すホワイトノイズ画像Wに適用するための空間フィルタFの一例を示す図である。
【図16】図14に示すホワイトノイズ画像Wに、図15に示す空間フィルタFを適用した状態を示す図である。
【図17】図15に示す空間フィルタFに対して、具体的な数値を定義した例を示す図である。
【図18】図1に示す従来の機械彫刻方式のグラビア印刷版を用いて印刷されたグラビア印刷物の部分拡大図である。
【図19】図7に示す本発明に係る機械彫刻方式のグラビア印刷版を用いて印刷されたグラビア印刷物の部分拡大図である。
【図20】本発明に係るグラビア印刷物における網点面積の分布を示すグラフである。
【図21】スキャナ装置による光学的な画像取り込み時に、画像のもつ空間周波数成分がカットされる状態を説明するグラフである。
【符号の説明】
10…グラビア印刷用画像データ生成装置
20…ノイズ成分付加装置
30…セル彫刻装置
31〜34…グラビア印刷版
A…修正用ノイズ画像
A(m,n)…修正用ノイズ画像を構成する画素の画素値
C,M,Y,K…原画像データ
,M,Y,K…修正画像データ
F…空間フィルタ
L…ノイズ成分の周期
P…原画像
P(m,n)…原画像を構成する画素の画素値
…修正画像
(m,n)…修正画像を構成する画素の画素値
W…ホワイトノイズ画像
W(m,n)…ホワイトノイズ画像を構成する画素の画素値

Claims (5)

  1. 所定のピッチで配列された複数のセルを彫刻することにより凹版を作成し、この凹版を用いて印刷を行うグラビア印刷方法であって、
    それぞれ所定の画素値を有する画素の配列によって構成される原画像を用意する段階と、
    前記原画像を構成する個々の画素の画素値にノイズ成分を付加することにより修正画像を作成する段階と、
    前記修正画像を構成する個々の画素の画素値に応じた大きさのセルを彫刻することにより凹版を作成する段階と、
    この凹版を用いて印刷を行う段階と、
    を有し、
    前記修正画像を作成する段階において、
    前記原画像の画素配列に対応した画素配列を有し、個々の画素にランダムなノイズ値が定義されたホワイトノイズ画像を用意し、
    このホワイトノイズ画像に対して、所定の空間フィルタを用いたフィルタリング処理を行うことにより、個々の画素に所定の空間周波数をもったノイズ値が定義された修正用ノイズ画像を生成し、
    前記原画像の個々の画素がもつ画素値を、前記修正用ノイズ画像の対応する画素がもつ画素値によって修正することにより、修正画像を作成することを特徴とするグラビア印刷方法。
  2. 請求項1に記載の印刷方法において、
    画素ピッチの2〜5倍の周期をもったノイズ成分を含む修正用ノイズ画像を生成することを特徴とするグラビア印刷方法。
  3. 請求項1または2に記載のグラビア印刷方法を用いて製造されたグラビア印刷物。
  4. 所定のピッチで配列された複数の網点によって画像が表現されたグラビア印刷物であって、
    個々の網点の大きさの空間的分布に、網点のピッチの2〜5倍の周期をもったノイズ成分が付加されていることを特徴とするグラビア印刷物。
  5. 請求項4に記載のグラビア印刷物において、
    所定の微小領域内において、平均的な大きさを有する標準網点を定義したときに、前記標準網点よりも大きな網点と前記標準網点よりも小さな網点とが、空間的にほぼ交互に配置されていることを特徴とするグラビア印刷物。
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