JP4037035B2 - 風味改善剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、甘蔗由来の蒸留物または画分を有効成分とする、苦味、渋味、酸味、青臭味、エグ味、いがらっぽい味、金属味、レトルト臭に代表される、食品の持つ嫌味を選択的に消去又は低減する風味改善剤に関する。
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
【0002】
食物を味わったとき、我々は多様な味を感じる。これらの味を一般的に甘味、塩味、酸味、苦味の4つの基本的な味として表現している。またこれ以外に、旨味、辛味、渋味、金属味、エグ味、アルカリ味等が味の表現として用いられている。
【0003】
食物は上記のような様々な基本味が複合されて味を呈しているが、その中には好ましくない呈味として感じられるものがある。甘味、塩味、旨味は一般的に食品の好ましい味と考えられ、これらは食品に積極的に付加されることが多い。しかし、苦味、渋味、金属味、エグ味、アルカリ味などは一般的に好ましくない異味または嫌味として扱われることが多い。辛味は食品に意識的に付加することが多いため、一般には異味として扱われない。酸味に関しては、さわやかな酸味は好ましい味として扱われる場合があるが、舌を刺すような刺激のある酸味は異味として扱われ、敬遠される。また苦味に関しては、コーヒーやビール等は苦味を特徴とし、それを好む人の嗜好品であるが、これらの苦味を苦手とする人もおり、またこれら以外の異味・嫌味として存在する苦味、例えば高甘味度甘味料の持つ甘味と共に存在する苦味や、野菜の苦味、健康食品素材の持つ苦味等は通常好ましくない味として認識される。渋味は収斂味とも言われ、タンニン系の味である。この味も茶の様な嗜好品の持つ淡い渋味はある程度好まれる味として認識されるが、渋柿に代表される強い渋味は嫌味として扱われ、一般に敬遠される。金属味は、食品に溶解した金属イオンの呈する味であるが、電気的な味とも言われ、金属イオン以外の例えば高甘味度甘味料や糖アルコールなどもこのような味を持つものがある。エグ味は、いわゆる灰汁の味で、渋味と苦味を複合したような不快味である。いがらっぽい味は、食品を口に入れたときに舌で感じる味ではなく、飲み込んだときあるいは飲み込んだ後にのどを刺激する味で、異味である。アルカリ味は、食品のpHが7付近から少し上になるとアミノ酸類と食塩の味に締まりがなくなり、ぼけたように感じることによる味であるが、実用上食品がこのような高pHになることはあまりないため、この味はあまり重要視されていない。また、青臭味は、野菜の持つ植物臭と渋味・エグ味が複合した不快味である。茎や葉由来の植物臭や、大豆臭は青臭味の一種と考えられる。
【0004】
また、容器由来の風味に影響する因子として、レトルト臭がある。これは直接的には味とはいえないが、味に密接に影響する臭いであり、シンプルな素材のレトルト製品でもレトルト臭が素材に移ってしまい、食品の嫌味となってしまう。また、レトルトのトマト製品や肉製品は、レトルト臭が強調され、他の加工方法で製造されたものと明らかに異なる味になってしまう。このようなことから、レトルト臭も異味の一種として扱うことができる。
【0005】
以上のことから、これまで食品の嫌味として感じられる苦味、酸味、渋味、エグ味、青臭味、レトルト臭等を低減しようという試みが成されてきた。
【0006】
アスパルテームを呈味改善剤として用いたものとして、コーヒー、紅茶の苦味、渋味、エグ味の低減方法(特開昭58−162260号公報)、野菜の青臭味の低減方法(特開昭59−11156号公報)、エグ味、収斂味、苦味の低減されたヨーグルトの製造方法(特開昭59−224650号公報)、アスパルテームとスクラロースを用いたフレーバー剤の苦味を低減した組成物(特開平2−177870号公報)が報告されている。しかし、アスパルテームやステビアのような高甘味度甘味料自体に苦味、後味等の異味があることが知られており、添加量によってはこれらの嫌味が出現してしまうという欠点がある。また、アスパルテームは甘味料であり、上記報告は、実質上アスパルテームで甘味付けすることにより食品の嫌味が低減されるというものである。つまり、風味の改善だけでなく、甘味の付与が伴ってしまう。また、上記の報告のように呈味改善剤としてアスパルテームを使用する方法が研究され報告されている一方で、後に述べるようにアスパルテーム自体の呈味改善方法も研究されているという問題がある。
【0007】
ブラックペッパー、ホワイトペッパーなどのペッパー抽出物を呈味改善剤として用いたものとして、苦味と後味の改善されたビール(特開昭64−55171号公報)およびアスパルテームの後味、渋味の改善方法(特開昭64−63356号公報)が報告されている。しかしペッパー抽出物はかなり限定された用途での風味改善剤であり、汎用性に欠ける。また、添加量によってはペッパー自体の風味や辛味が出現してしまうことが記載されている。
【0008】
苦味、嫌味を有することから呈味改善を求められているステビア甘味料に関しては、ステビアに含まれる配糖体甘味物質であるレバウディオサイドAをステビオサイドの呈味改善に用いる方法(特開昭52−122676号公報)、α−グルコシルレバウディオサイドA及びα−グルコシルステビオサイドをステビア抽出物と併用する呈味改善方法(特開昭63−87959号公報)、昆布エキスをステビア抽出物の呈味改善剤に用いる方法(特開昭57−138357号公報)、プルラン、アルギン酸塩、カラヤガム、キサンタンガムをステビア抽出物の呈味改善剤に用いる方法(特開昭56−55174号公報)、還元澱粉糖化物をステビア抽出物の呈味改善剤に用いる方法(特開昭55−114271号公報)、L−ヒスチジン塩酸塩をステビオサイドの呈味改善剤に用いる方法(特開昭56−11772号公報)、有機酸塩をステビオサイドの呈味改善剤に用いる方法(特開昭60−188035号公報)が報告されている。これらの方法は、ステビア甘味料に限定した呈味改善方法であり、その他の飲食品の呈味改善に用いることができる汎用性のある方法ではない。
【0009】
甘味料、健康食品素材、漢方薬に使用されているグリチルリチン酸またはその塩類は、苦味、嫌味、アク味などを有し、その呈味改善剤として有機酸塩を用いる方法(特開昭60−188036号公報)、レバウディオサイドAを用いる方法(特開昭52−114055号公報)が報告されている。これらもグリチルリチン酸及びその塩類に限定した呈味改善方法であり、その他の飲食品の呈味改善に用いることができる汎用性のある方法ではない。
【0010】
また、大豆加工品の青臭味、苦味、渋味、収斂味を低減する方法として、サイクロデキストリンを添加する方法(特開昭51−148052号公報)、豆乳にアルギニンもしくはリジンを添加した豆乳の製造方法(特開昭56−131341号公報)、大豆加工品中のイソフラボノイドまたはその配糖体にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼまたはプルラナーゼを作用させ糖を付加させることにより呈味改善を行う方法(特開平11−318373号公報)が報告されている。これらの方法も、大豆の青臭味や渋味といった大豆特有の嫌味の改善方法であり、汎用性のある方法ではない。また、糖の付加反応のような物質の構造を変える方法は、反応条件の設定及びその装置が必要であるため、呈味改善剤を添加・混合する方法よりも複雑で手間の掛かる方法である。
【0011】
ポリフェノール類の苦味、渋味を改善する方法として、茶抽出物をキチンに吸着または化学結合させることにより、ポリフェノールの苦味と渋味を消した茶抽出物組成物(特開平5−279264号公報)、茶抽出物または茶飲料に含まれるポリフェノール類を酵素反応によって配糖化することにより渋味を改善した茶抽出物または茶飲料の製造方法(特開平8−298930号公報)、焙炒カカオマスを酸素処理することによりタンニン類を酸化重合させることによりエグ味、渋味を低減させる方法(特開平3−15344号公報)が報告されている。これらも化学的にポリフェノールの構造を変化させる方法であるため、簡便さに欠け、またポリフェノール以外の嫌味物質に対する効果は不明である。
【0012】
健康食品素材の嫌味を低減させる方法として、乾燥したアミ類やオキアミ類の抽出物を健康食品素材の苦味のマスキングに用いる方法(特開平10−179077号公報)、サイクロデキストリンおよび糖類を添加することによりクチナシエキスの苦味、エグ味を低減させた健康飲料(特開平7−8223号公報)、γ−サイクロデキストリンを霊芝抽出物の呈味改善に用いる方法(特開昭58−109424号公報)、蕃果抽出物を添加し、枯れ草臭、青臭味、樟脳臭、苦味を改善したグアバ茶飲料(特開平9−84565号公報)、リンゴ酸により苦味が低減されたキダチアロエ食品(特開平11−225702号公報)、アロエ抽出物に含有される配糖体を酵素により加水分解することにより苦味を低減する方法(特開昭59−192075号公報)が報告されている。これらの方法も汎用性が無かったり、風味改善剤自体の味が付与されてしまうという欠点がある。
【0013】
食品添加物である脂肪酸モノグリセライドの収斂味を天然高甘味度甘味料により改善する方法(特開昭58−47480号公報)、糖蜜をイオン交換樹脂処理して得られる非糖分濃縮物を用いた、塩化ナトリウム代替品である塩化カリウムのエグ味の低減剤(特開平6−14742号公報)、キキョウ根の水または水性溶媒抽出物により、砂糖・食塩代替品の苦味、渋味を低減する方法(特開昭60−9462号公報)、コーヒー豆加水分解物を用いた有機酸含有食品の酸味、渋味、苦味の改善剤(特開平9−94080号公報)が報告されている。これらの方法も用途が限定されており、また呈味改善剤自体の味が付与されてしまうという欠点がある。
【0014】
また、広い範囲の飲食品の呈味改善剤として、ヘスペリジン配糖体またはヘスペリジン配糖体とヘスペリジンの混合物を用いる苦味、渋味、酸味、青臭味、エグ味に対する呈味改善方法(特開平11−318379号公報)、塩類の苦味やエグ味、魚肉の生臭み、植物性タンパクのにおいをマスキングする効果のある酵母エキス組成物(特開昭61−249362号公報)が報告されている。これらの方法は汎用性には優れているが、上市されている呈味改善剤であるヘスペリジン配糖体は、柑橘類から抽出したヘスペリジンを酵素処理したものが使用されるため、コスト的に問題がある。また酵母エキス組成物は、酵母エキス自体の味を有するため、実質的には用途や添加量が限られている。
【0015】
また、レトルト臭および缶臭を低減する方法として、以下の報告が成されている。サイクロデキストリンを添加することによりレトルト臭および焦臭を低減する方法(特開昭60−75266号公報、特開平1−174328号公報)、サイクロデキストリンと植物・動物蛋白加水分解物を添加することによりレトルト臭を低減する方法(特開平2−265445号公報)、植物水溶性蛋白と食用油を添加することにより魚臭および缶臭を低減する方法(特開平1−16550号公報、特開平1−117742号公報)、食品に風味油を添加することによりレトルト臭を低減する方法(特開平6−339364号公報)、酸化水を使用することによりレトルト臭を低減する方法(特開平10−262631号公報)、レトルト臭を低減した茶飲料の製造方法(特開平8−66156号公報、特開平9−172968号公報、特開平11−113491号公報)、レトルト臭の発現がないレトルトおから食品の製造方法(特開平10−33132号公報、特開平8−207号公報)、レトルト臭の無い無菌炊飯米の製造方法(特開平8−256709号公報)、殺菌容器または殺菌方法を改良することによりレトルト臭または缶臭を低減する方法(特開平1−168247号公報、特開平7−222553号公報、特開平8−237号公報)等が報告されている。サイクロデキストリンを単独で使用する方法または酸化水を使用する方法は、広い範囲で応用できるが有効性に問題があるため、他のレトルト臭または缶臭低減剤と併用する必要があるようである。また、蛋白加水分解物や油脂の添加はその味や物性により用途が限られており、特定の食品を対象とするレトルト臭および缶臭の低減方法は汎用性が少ない。
【0016】
以上のことから、無色透明であり、微量で効果が現れ、従って食品に添加したときに味やにおいがほとんど感じられず、安全性が高く、安価に製造できる、汎用性のある風味改善剤が求められている。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の問題点に鑑み、無色または淡色透明であり、食品に添加したときに味やにおいがほとんど感じられず、安全性が高く、低コストで製造でき、汎用性のある風味改善剤を得るべく鋭意検討を重ねてきたが、古来より食品として使用されている甘蔗由来の蒸留物およびそれをカラムクロマトグラフィー処理して得られる画分が、風味改善剤として優れた効果を示すことを見いだし、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明は甘蔗由来の蒸留物を有効成分とする飲食品の風味改善剤であって、甘蔗汁を蒸留して得られる蒸留物を、固定担体として合成吸着剤を充填されたカラムに通液し、該合成吸着剤に吸着された成分を、水、エタノールおよびこれらの混合物から選ばれる溶媒で溶出することによって得られる画分であることを特徴とする風味改善剤である。
【0019】
本発明において好ましくは、上記蒸留物は、10〜50のブリックスを有する甘蔗汁をブリックスが高々65になるまで蒸留して得られる液体である
【0020】
本発明において好ましくは、上記風味改善が、苦味、渋味、酸味、青臭味、エグ味、いがらっぽい味、金属味、またはレトルト臭の低減である。
【0021】
ここで、本発明における甘蔗汁は、甘蔗(サトウキビ)を圧搾して得られる圧搾汁、甘蔗を水で浸出して得られる浸出汁、又は原料糖製造工場における石灰処理した清浄汁および濃縮汁を包含する。
【0022】
本発明の甘蔗由来の蒸留物は、具体的には例えば次のように処理して得ることができる。
【0023】
原料甘蔗汁を、加熱装置を持つタンクに入れ加熱し、得られる蒸気を冷却することにより回収して、液体の甘蔗由来の蒸留物を得る。蒸留は、加熱装置を持ち、蒸気を冷却して液体で回収できるあらゆる装置を使用して行うことができる。本発明に係る蒸留物は、原料甘蔗汁としてブリックス(Bx)が10〜50であるものを使用し、これをブリックスが高々65になるまで蒸留して得られる液体である。
【0024】
蒸留条件としては、50℃〜120℃の温度で、蒸留原料液体が沸騰する圧力を使用することができる。好ましくは、70℃〜120℃の温度で、蒸留原料液体が沸騰する圧力を使用することができる。温度および圧力は、蒸留工程で用いる装置に応じて適宜調整される。例えば、甘蔗汁を遠心式薄膜真空蒸発装置、冷却管を接続したフラスコ、または蒸留機を用いて蒸留する場合には、70℃〜105℃において、240mmHg〜常圧である。50℃より低い温度で蒸留を行うことも可能である。しかしながら、液体として蒸気を回収したい場合には、温度を低くするとそれだけ高い減圧条件にする必要があり、またトラップ内で蒸留温度以下で蒸留物を凝縮させる必要があるので、装置等にコストがかかりすぎる。従って、実験室においては可能であるが、工業的には不利が伴う。蒸留装置としては、例えば、実験室内においては冷却管などに接続したフラスコが、工場においては濃縮缶、結晶缶、効用缶等が用いられる。
【0025】
この段階で得られる甘蔗汁の蒸留物にも風味改善効果があるが、効果が弱いため、工業的に使用するには濃縮を行うことが好ましい。従って、上記のようにして得られた甘蔗由来の蒸留物の風味改善成分を濃縮するために、カラムクロマトグラフィー処理を行う。
【0026】
甘蔗由来の蒸留物を液体として回収し、カラムクロマトグラフィー処理する場合、以下のような方法をとることが好ましい。
【0027】
まず、上記の甘蔗由来の蒸留物は、そのまま、または水で任意の濃度に調整して、固定担体を充填したカラムに通液することができる。固定担体としては、合成吸着剤が好ましい。合成吸着剤としては、好ましくは有機系樹脂を用いることができ、例えば、芳香族系樹脂、アクリル酸系メタクリル樹脂、アクリロニトリル脂肪族系樹脂等が使用できる。このような合成吸着剤は市販されており、例えばダイヤイオン(商標)HP−10、HP−20、HP−21、HP−30、HP−40、HP−50(以上、無置換基系の芳香族系樹脂、三菱化学株式会社製);SP−825、SP−800、SP−850、SP−875、SP−70、SP−700(以上、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂、三菱化学株式会社製);SP−900(芳香族系樹脂、三菱化学株式会社製);アンバーライト(商標)XAD−2、XAD−4、XAD−16、XAD−16、XAD−2000(以上、芳香族系樹脂、株式会社オルガノ製);ダイヤイオン(商標)、SP−205、SP−206、SP−207(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、三菱化学株式会社製);HP−2MG、EX−0021(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、三菱化学株式会社製);アンバーライト(商標)XAD−7HP、XAD−8(以上、アクリル酸系エステル樹脂、株式会社オルガノ製);ダイヤイオン(商標)HP1MG、HP2MG(以上、アクリル酸系メタクリル樹脂、三菱化学株式会社製);セファデックス(商標)LH20、LH60(以上、架橋デキストランの誘導体、ファルマシア バイオテク株式会社製)等が挙げられる。適する合成吸着剤の種類は、通液する甘蔗由来の蒸留物の蒸留方法、濃度、共存物などに応じて適宜選択を行うことができる。
【0028】
固定担体の量は、カラムの大きさ、溶媒の種類、固定担体の種類などによって変化する。固定担体の100〜20,000倍の蒸留物を通液し、有効成分を固定担体に吸着させる。従って、通液しようとする蒸留物の100〜20,000分の1の湿潤体積量の固定担体を使用するのが好ましい。
【0029】
甘蔗由来の蒸留物を上記カラムに通すことにより、通液対象物中の風味改善効果を有する成分は固定担体に吸着される。通液量および通液速度は、甘蔗由来の蒸留物の蒸留方法により異なるが、SV=10〜200(hr-1)が好ましい。甘蔗由来の蒸留物をカラムに通液した後、不純物除去のためカラムを水洗して、樹脂に吸着されずにカラム内に残存している成分を除去することが好ましい。
【0030】
固定担体に吸着された成分は、溶媒により溶出する。溶出溶媒は、水、エタノールおよびこれらの混合物から選ぶことが好ましく、特に、エタノール−水混合溶媒が好ましい。さらに、室温において効率よく目的の効果を有する成分を溶出するためには、50/50〜99.5/0.5(体積/体積)エタノール−水混合溶媒が好ましい。本発明の効果を有する成分は、前記溶媒で溶出される画分に存在する。溶出速度はカラムの大きさ、溶媒の種類、固定担体の種類等によって変化し、特に限定されないが、SV=0.1〜10(hr-1)で溶出し、樹脂の6倍湿潤体積量以内に溶出する溶出量を回収するのが好ましい。なお、SV(Space Velocity、空間速度)は、1時間当たり樹脂容積の何倍量の液体を通液するかという単位である。
【0031】
本発明のカラムクロマトグラフィー処理は、これに限定されるものではないが、好ましくは次のようにして行うことができる。すなわち、無置換基型の芳香族系樹脂あるいはアクリル酸系エステル樹脂を充填したカラムに、カラム温度60〜97℃にて甘蔗由来の蒸留物を通液した後、カラム内を水洗し、ついでカラムに吸着されている成分を、カラム温度20℃〜40℃にて50/50〜99.5/0.5(体積/体積)エタノール−水混合溶媒で溶出させ、エタノール−水混合溶媒での溶出開始時点から集めた溶出液の量が前記樹脂の6倍湿潤体積量以内に溶出する画分を回収する。
【0032】
かくしてカラムから得られた画分(溶出溶媒も含む)をそのまま風味改善剤の有効成分として使用できる。
【0033】
このようにして得られた甘蔗由来の画分は、そのまま風味改善剤として使用されるが、通常は、蒸留水、エタノール水溶液等で2〜500倍に希釈して使用される。
【0034】
本発明の蒸留物および画分は、原液では若干のにおいを有するが、使用する際に希釈されるのでほとんどにおいは感じられなくなる。また原液では味を有するが、使用する際に希釈されるため、有効量での使用では蒸留物の味は発現しない。また、原液は無色または淡黄色透明であるため、使用する際に色の問題はない。
【0035】
本発明の蒸留物および画分の風味改善効果に関する作用機構は不明であるが、本発明の蒸留物は様々な物質が混在する天然物であるため、複数の有効成分が様々な嫌味に対し、複合的に機能を発現していると考えられる。
【0036】
本発明の「風味の改善」または「風味改善」における「風味」とは、味および臭いの各々、味と臭いが複合的に存在するときに感じる感覚、および味とのどへの刺激が複合的に存在するときに感じる感覚の全てを包含する。
【0037】
本発明でいう「風味の改善」とは、飲食品の苦味、渋味、酸味、エグ味、いがらっぽい味、その他の特異味(ビタミンの味、ペプチドの味、野菜の青臭味、酵母の味、魚の生臭い味等)等の呈味、酸臭、青臭み、その他の特異臭(薬臭、魚の生臭み、魚臭、イソ臭、酵母臭、ニラ・ニンニクの臭み、ビタミン臭、納豆の臭み、乳臭さなど)等の臭み、調理・容器臭(レトルト臭、缶臭、乾燥臭、醗酵臭、加熱臭など)およびフレーバーを包含する味と臭いの複合的な風味の改善をいう。
【0038】
本発明に係る甘蔗由来の風味改善剤によって風味が改善される飲食品としては、柑橘類加工品、野菜加工品、健康飲食品、カカオ製品、ハチミツ製品、乳製品、コーヒー・茶もしくはそれらを含有する飲食品、ビール、高甘味度甘味料、糖アルコール、レトルト製品、缶詰を含む飲食品等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0039】
従って、本発明は、本発明の風味改善剤を含む飲食品も提供する。
【0040】
上記飲食品の中で好ましいのは、柑橘類加工品、野菜加工品、生薬含有飲食品、カカオ製品、ハチミツ製品、発酵乳、コーヒー、茶、および高甘味度甘味料、レトルト製品である。
【0041】
本発明の風味改善剤の添加量及び添加方法は、添加される飲食品の種類によって適宜選択することができる。通常の添加量は、飲食品に対して50〜1000ppmであり、好ましくは150〜700ppmであり、この範囲の添加量で十分な風味改善効果を得ることができる。添加量が前記範囲より少ない場合、目的とする風味改善効果が得られず、前記範囲より多い場合には飲食品本来の味が損なわれる。
【0042】
本発明の風味改善剤の添加方法は、風味の改善を必要とする飲食品に混合することにより行われる。加工食品の場合、風味の改善を必要とする原料に直接混合することが望ましいが、混合が困難であるときには、風味の改善を必要とする原料の表面に風味改善剤の溶液を噴霧する、あるいはこのような溶液に浸漬する、あるいは風味改善剤を含む粉末食品あるいはシート状食品を接触させることもできる。
【0043】
本発明の風味改善剤による飲食品の風味改善としては、例えば次のようなものが挙げられる。
【0044】
1.柑橘類加工品の風味改善(苦味及び酸味等の低減)
柑橘類加工品とは、例えばグレープフルーツ、夏みかん、バレンシアオレンジ、ネーブルオレンジ、甘夏、ハッサク、伊予柑、スウィーティー、ザボン、ライム、レモン等の原料柑橘類を加工した飲食品である。その加工形態としては、果汁、果汁含有飲料、ゼリー、ピューレ、ジャム、マーマレード、缶詰、冷菓、キャンディー、果皮の砂糖漬け、フルーツソース等が挙げられる。これらの柑橘類加工品は、原料となる柑橘類に由来する苦味や酸味等が強いが、本発明の風味改善剤を添加することによりこれらの嫌味を低減することができる。
【0045】
2.野菜加工品の風味改善(苦味、渋味、青臭味、酸味などの低減)
野菜加工品とは、例えばトマトジュース、ニンジンジュース、野菜ジュース、および豆乳などの飲料や、これらの素材を含むゼリー、ジャム等の加工品、および漬け物、納豆、総菜のような野菜加工・調理品が挙げられる。これらの野菜加工品は原料野菜由来の青臭味、苦味、渋味、豆臭、納豆の臭み等を有するが、本発明の風味改善剤を添加することによりこれらの嫌味を低減することができる。
【0046】
3.健康飲食品の風味改善(青臭味、苦味、渋味、薬臭、エグ味などの低減)
健康飲食品とは、例えば生薬、ビタミン、ミネラル、その他の天然成分を含む健康食品及び健康飲料などが挙げられる。このような健康飲食品の機能性素材は青臭味、苦味、渋味、薬臭等を有する。また、素材の苦味や薬臭を改善するために砂糖、ハチミツ、高甘味度甘味料などを添加し調味を行っているが、添加量によっては調味のために添加したハチミツのエグ味や高甘味度甘味料の苦味、渋味等が発現し、期待した改善効果が望めない場合もある。また、プロポリスやビタミンEの様な脂溶性の天然成分を配合する場合、乳化剤を添加するが、この乳化剤の薬臭も苦味を増強し、嫌味の原因となる。本発明の風味改善剤を添加することにより、これらの健康飲食品の持つ、青臭味、苦味、渋味、薬臭、エグ味等を低減することができる。
【0047】
4.カカオ製品の風味改善(苦味、渋味、酸味等の低減)
カカオ製品とは、例えばチョコレート、ココア及びこれらを利用した製品が挙げられる。本発明の風味改善剤を添加することにより、原料のカカオ豆に由来する苦味、渋味または酸味を低減することができる。
【0048】
5.ハチミツ製品(エグ味およびいがらっぽい味の低減)
ハチミツ製品とは、例えばハチミツ、ハチミツ入りソース、ハチミツ入りシロップ、ハチミツ入り飲料などが挙げられる。本発明の風味改善剤を添加することにより、これらハチミツ入り製品のハチミツ由来のエグ味及びいがらっぽい味を低減することができる。
【0049】
6.乳製品の風味改善(乳臭さ、発酵臭及び発酵により生じるいがらっぽい味、加工臭の低減)
乳製品としては、発酵乳、発酵乳含有飲料、粉乳などが挙げられる。発酵乳や発酵乳含有飲料は発酵臭や、舌やのどを刺激するいがらっぽい味を有する。また、粉乳を調製する際には、乳臭さが増強され、また加工臭が付加される。本発明の風味改善剤を添加することにより、このような発酵臭、いがらっぽい味、加工臭、乳臭さを低減することができる。
【0050】
7.コーヒーの風味改善(渋味、苦味及び酸味等の低減)
コーヒーまたはコーヒー含有飲料としては、例えばコーヒー牛乳、缶入りコーヒー、缶入りミルクコーヒー、コーヒーゼリー、コーヒー入り菓子などが挙げられる。これらはコーヒー由来の苦味、渋味及び酸味を有する。本発明の風味改善剤を添加することにより、これらの渋味、苦味及び酸味を低減することができる。また、添加量を抑えることにより、ミルクコーヒーなどの乳化剤入りコーヒー製品の乳化剤の風味を低減することができる。
【0051】
8.茶の風味改善(渋味及び苦味の低減)
本発明の風味改善剤を添加することにより、茶または茶含有飲食品の渋味、苦味を低減することができる。
【0052】
9.高甘味度甘味料及び糖アルコール(苦味、金属味の低減)
本発明の風味改善剤を添加することにより、ステビア甘味料、アセスルファムK、サッカリン、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、スクラロース、グリチルリチン、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンなどの高甘味度甘味料、およびキシリトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、ソルビトール、エリスリトール、還元パラチノース、還元水飴、還元麦芽糖水飴などの糖アルコールのもつ苦味、金属味を低減することができる。
【0053】
10.レトルト製品および缶詰製品(レトルト臭および缶臭の低減)
本発明の風味改善剤を添加することにより、レトルト製品および缶詰製品のレトルト臭および缶臭を低減できる。また、レトルトおよび缶詰のトマト製品および肉製品特有の異味を低減することができる。
【0054】
【実施例】
下記に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中「%」は特記のない限り「重量%」である。
【0055】
製造例
原糖工場の製造工程にて得られた甘蔗の圧搾汁(Bx.12.5)2800リットルを250リットル/時の速度で遠心式薄膜真空蒸発装置(商標:エバポールCEP−1、大川原製作所株式会社)に供給し、500〜630mmHgの減圧下で温度90〜95℃で留出する成分を、冷却水温25℃、冷却水量15m3/時間、コンデンサ面積2m2の条件でコンデンサにて冷却し、連続して集めた。原料圧搾汁が約2400リットル、Bx.14.5になったとき、蒸留物の回収を終了した。得られた蒸留液は約400リットルであった。この蒸留液をアンバーライトXAD7HP(商標、オルガノ株式会社)40mlを充填したカラム(カラムサイズ:内径2.6cm、高さ20cm)に、SV=100(hr-1)の流速で通液した。通液終了後、約5分間、同じ流速で水洗した。次に、吸着された成分を、80%エタノール水溶液(エタノール/水=80/20(体積/体積))で溶出した。すなわち、SV=2(hr-1)の流速で通液し、はじめの15mlの溶出液は捨て、その後に溶出液の回収を開始した。80%エタノール水溶液80mlを通液した後、成分の押し出しのため蒸留水を同じ速度で通液し、回収溶出液の総量が100mlになった時点で溶出を終了した。得られた溶出液を、ろ紙(定性ろ紙No.2、東洋ろ紙株式会社製)でろ過し、得られた濾液を甘蔗由来の画分である風味改善剤サンプルとした。このサンプルは、アルコール濃度計(YSA−200、矢崎計器株式会社)で測定した結果、エタノール58%(体積/体積)の、若干レモン色をした透明な液体であった。
【0056】
急性毒性試験
製造例で得られた甘蔗由来の画分を使用して、ラットを用いた単回経口投与毒性試験を行った。Sprague-Dawley系SPFラット(Crj:CD(SD)IGS、日本チャールス・リバー株式会社)の雌雄各16匹を5週令で入手し、約1週間検疫・馴化飼育した。飼育条件は、温度23±3℃、相対湿度50±20%、換気回数1時間10〜15回、照明1日12時間であり、固形飼料(CFR−1(商標)、オリエンタル酵母株式会社)及び飲料水を自由に摂取させて飼育した。その後、健康な動物を選び、6週令で試験に供した。投与時の体重範囲は雄で174〜186g、雌で120〜134gであった。
投与前一晩(約16時間)絶食させたラットに、蒸留水で200mg/mlの濃度になるように調製した甘蔗由来の画分を一定の投与容量(10ml/kg体重)にて1回強制経口投与した。対照群の動物には滅菌蒸留水のみを同様に投与した。投与量は、2000mg/kgの1用量とし、これに対照群を加えて計2群を使用した。1群の動物数は雌雄共に5匹とした。
絶食後の再給餌は、投与6時間後に開始し、その後14日間、上記飼育条件にて飼育した。
結果を以下の表1に示す。
【0057】
【表1】
Figure 0004037035
【0058】
投与後14日間が経過した後、雌雄とも最大投与量の2000mg/kgでも、ラットの死亡は認められなかったので、致死量は2000mg/kgを上回るものと推測される。
飼育中はいずれのラットにおいても異常は認められず、さらに各被検液投与群の雌雄の体重は、対照群とほぼ同等の推移を示し、観察期間中の体重増加も対照群とほぼ同等であった。また、いずれのラットにおいても、解剖学的検査の結果、体外表、頭部、胸部及び腹部の器官・組織に異常は見られなかった。
以上の結果から、製造例で得られた甘蔗由来の画分を使用し、ラットの単回経口投与毒性試験を行ったときの毒性はきわめて弱いものと考えられる。
【0059】
実施例1(グレープフルーツジュースの風味改善)
製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したものを調製し、これを100%グレープフルーツジュース(販売元:雪印乳業株式会社、商標:ドール100%ジュースグレープフルーツ)100mlに1ml添加し、被検液とした。また、対照として甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを用意した。官能検査により被検液と対照の違いをみるため、10人のパネラーに飲み比べてもらった。その結果、対照は柑橘類、特にグレープフルーツ特有の苦味、酸味が強いのに対し、被検液は10人中6人が苦味がかなり減少し、酸味も減少したと答え、残りの4人が差を感じないと答えた。以上のことから、甘蔗由来の画分にはグレープフルーツの苦味と酸味を低減させる作用があることが明らかになった。
【0060】
実施例2(青汁の風味改善)
フリーズドライの青汁(オリヒロ株式会社製、商標:青汁スーパー)1包(2.5g)を100mlの蒸留水に溶かした。製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したものを調製し、これを上記の青汁溶液100mlに1ml添加し、被検液とした。また、対照として、甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを用意した。官能検査により被検液と対照の違いを見るため、10人のパネラーに飲み比べてもらった。その結果、対照は青汁特有の青臭味および苦味が強いのに対し、被検液は10人中7人が青汁特有の青臭味および苦味が減少し無添加のものよりかなり飲みやすくなったと答え、残りの3人は差を感じないと答えた。
以上のことから、甘蔗由来の画分には青汁の青臭味と苦味を低減させる作用があることが明らかになった。
【0061】
実施例3(ニガウリの風味改善)
ニガウリ1本は縦半分に切り、種の部分をくりぬいてから2〜3mmの厚さで斜め切りにした。これを軽く塩でもみ、10分間ほどおいた。ニガウリをサラダオイル大さじ2/3で炒め、しんなりしたらしょうゆ大さじ1、酒大さじ1で味付けし、仕上げに鰹節(5g)で和えた。できあがったものの半分に、製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したもの3mlを添加し、よく混ぜ合わせ、被検サンプルとした。残りの半量は、対照とした。
官能検査により被検サンプルと対照の違いを見るため、10人のパネラーに食べ比べてもらった。その結果、対照はニガウリ特有の苦味が強いのに対し、被検サンプルは10人中8人が苦味が完全に無くなりはしないが減っていると答え、ニガウリを食べたことのない人にも食べやすくなった。残りの2人は差を感じなかった。
以上のことから、甘蔗由来の画分には、ニガウリの苦味を低減させる作用があることが明らかになった。
【0062】
実施例4(豆乳の風味改善)
調製豆乳(マルサンアイ株式会社製)50mlに、製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したもの1mlを添加し、被検液とした。また、対照として、甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを用意した。官能検査により被検液と対照の違いを見るため、10人のパネラーに飲み比べてもらった。その結果、対照は大豆臭、青臭味が強いのに対し、被検液は10人中6人が大豆臭、青臭味が減り、まろやかな味になったと答えた。残りの4人は差を感じなかった。
以上のことから、甘蔗由来の画分には、豆乳の大豆臭、青臭味を低減する作用があることが明らかになった。
【0063】
実施例5(納豆の風味改善)
市販の小分けされた納豆(タカノフーズ株式会社製、商標:おかめ納豆)1カップ(30g)に対し、製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したものを0.3ml添加し、よく混ぜ、被検サンプルとした。また、甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水0.3mlを添加し、よく混ぜたものを対照とした。官能検査により被検サンプルと対照の違いを見るため、10人のパネラーに比べてもらった。その結果、対照は納豆臭が気になるのに対し、被検サンプルは10人中7人が甘蔗由来の画分の添加により納豆臭がやや減り、あっさりした納豆になったと答えた。また、たれの味もさっぱりした味に変化したと答えた。残りの3人は差を感じなかった。
以上のことから、甘蔗由来の画分には、納豆臭を低減し、あっさりした味に変化させる作用があることが明らかになった。
【0064】
実施例6(ローヤルゼリー入り栄養ドリンク剤の風味改善)
市販のローヤルゼリー入り栄養ドリンク剤(各種ビタミン、カフェイン、ローヤルゼリー、各種漢方エキス、ハチミツ配合、ローヤル薬品工業株式会社製、商標:ローヤルゼリン「ゴールド」、医薬品)30mlに、製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したものを1ml添加し、被検液とした。また、対照として甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを用意した。官能検査により被検液と対照の違いを見るため、10人のパネラーに飲み比べてもらった。その結果、対照は甘味が強く、強い甘味で呈味改善しようとしているように感じられ、またビタミンB群の臭いと味が強く、そこに漢方由来のエグ味と刺激のある味が存在していた。これに対し、被検液は10人中6人はビタミンの味と臭いが低減し、きついエグ味が減少し、またのどへの刺激が減り飲みやすくなったと答えた。残りの4人は味の差を感じなかった。
以上のことから、甘蔗由来の画分には、ローヤルゼリー入りドリンク剤のビタミンの味と臭いを低減し、漢方とハチミツ由来のエグ味と刺激味を低減する作用があることが明らかになった。
【0065】
実施例7(高麗人参の風味改善)
高麗人参濃縮液(韓国産、高麗人参製造株式会社製)0.2gを蒸留水で48mlに希釈した。これに製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したものを1ml添加し、被検液とした。また、対照として甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを用意した。官能検査により被検液と対照の違いを見るため、10人に飲み比べてもらった。その結果、対照は苦味、渋味、嫌味、高麗人参臭が強いが、被検液は10人中7人が、飲み込んだ直後までの苦味、渋味、嫌味が消え、人参特有の臭いも減少したと答えた。残りの3人は味の差を感じなかった。
以上のことから、甘蔗由来の画分には、高麗人参濃縮液の苦味、渋味、嫌味、高麗人参臭を低減する作用があることが明らかになった。
【0066】
実施例8(プロポリスの風味改善)
プロポリスエキス(オリヒロ株式会社製、商標:プロポリスエキスリキッド)1mlを蒸留水で1000mlに希釈し、プロポリスエキス溶液を調製した。得られたプロポリスエキス溶液50mlに、製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したもの1mlを添加し、被検液とした。また、対照として甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを用意した。官能検査により被検液と対照の違いを見るため、10人に飲み比べてもらった。その結果、対照は乳化剤の薬品臭および刺激味が強く、またプロポリス由来の苦味、嫌味、刺激味が口中に広がったのに対し、被検液は10人中7人が乳化剤の薬品臭と刺激及びプロポリス由来の苦味、嫌味が低減したと答えた。残りの3人は差を感じなかった。プロポリスエキスは水に不溶性であるため、通常プロポリス製品はエタノールと乳化剤を含み、特に試験に用いた製品はエキス濃度が20%(重量/体積)であるため、高いエタノール含量(56%(体積/体積))と乳化剤の含有による苦味、嫌味が強いものである。
以上のことから、甘蔗由来の画分には、プロポリスエキス製品の苦味、嫌味、薬品臭、刺激味を低減させる作用があることが明らかになった。
【0067】
実施例9(ココアの風味改善)
純ココア(発売元:片岡物産株式会社、商標:バンホーテンココア)4gを熱湯120mlで溶かして冷却後、このココア液100mlに製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したもの1mlを添加し、被検液とした。また、対照として甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを用意した。官能検査により被検液と対照の違いを見るため、10人のパネラーに飲み比べてもらった。その結果、対照は苦味が強かったが、被検液は10人中9人が苦味が無くなり、しかもカカオの風味が残っていると答えた。残りの1人は、差を感じないと答えた。
以上のことから、甘蔗由来の画分には、ココアの苦味を低減させる作用があることが明らかになった。
【0068】
実施例10(ハチミツの風味改善)
ハチミツ(株式会社加藤美蜂園本舗製)30gに、製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したもの0.3mlを添加し、被検サンプルとした。また、対照として甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを用意した。官能検査により被検液と対照の違いを見るため、10人のパネラーに食べ比べてもらった。その結果、対照はエグ味、渋味があり、のどにいがらっぽさが残るが、被検サンプルは10人中9人がエグ味、渋味、いがらっぽい味が無くなり、さっぱりした味になったと答えた。残りの1人は差を感じないと答えた。
以上のことから、甘蔗由来の画分には、ハチミツのエグ味、渋味、いがらっぽい味を低減する作用があることが明らかになった。
【0069】
実施例11(乳酸菌飲料)
乳酸菌飲料(カルピス株式会社製、商標:アミールS)100mlに、製造例で得られた甘蔗由来の画分を水で150倍希釈したもの3mlを添加し、被検液とした。また、対照として甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを用意した。その結果、対照は酸味が強く、特にのどを刺激するとげとげしい酸味が目立ち、またやや乳臭く、のどに乳っぽさが残るが、被検液は10人中6人が舌ですぐに感じる酸味は残るが、のどを刺激するとげとげしい酸味は消え、ややまろやかな味になったと答えた。残りの4人は差を感じなかった。
以上のことから、甘蔗由来の画分には、発酵乳のとげとげしい酸味を低減する作用があることが明らかになった。
【0070】
実施例12(発酵乳の風味改善)
乳酸菌飲料(東洋醗酵乳株式会社製、商標:キュート(プレーン))50mlに、製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したものを1ml添加し、被検液とした。また、対照として甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを用意した。官能検査により被検液と対照の違いを見るため、10人のパネラーに飲み比べてもらった。その結果、対照はのどを刺激するいがいがする酸味と、のどに張り付くような酸味が気になるが、被検液は10人中6人が舌ですぐに感じるすっきりした酸味は残るが、のどを刺激するいがいがする酸味とのどに張り付く酸味は低減され、すっきりした味になったと答えた。残りの4人は差を感じなかった。
以上のことから、甘蔗由来の画分には、醗酵乳のいがいがする酸味とのどに張り付く酸味を低減する作用があることが明らかになった。
【0071】
実施例13(コーヒーの風味改善)
無糖缶コーヒー(サントリー株式会社製、商標:ボス・ブラック)100mlに、製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したものを0.5ml添加し、被検液とした。また、対照として甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを用意した。官能検査により被検液と対照の違いを見るため、10人のパネラーに飲み比べてもらった。その結果、対照は苦味と渋味を感じるが、被検液は10人中9人が苦味が低減され、渋味も抑えられたと答えた。残りの1人は差を感じないと答えた。
以上のことから、甘蔗由来の画分にはコーヒーの苦味と渋味を低減する作用があることが明らかになった。
【0072】
実施例14(茶の風味改善)
緑茶4gに対し、沸騰蒸留水150mlを添加し、3分間抽出した。これを茶こしでこし、得られた抽出液を冷却した。茶抽出液50mlに、製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したものを1ml添加し、被検液とした。また、対照として甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを用意した。官能検査により被検液と対照の違いを見るため、10人のパネラーに飲み比べてもらった。その結果、対照は苦味と渋味を強く感じるが、被検液は10人中6人が、茶の苦味、渋味が低減されていると答えた。残りの4人は差を感じなかった。
以上のことから、甘蔗由来の画分は茶の苦味、渋味を低減する作用を示すことが明らかになった。
【0073】
実施例15(アスパルテームの風味改善)
アスパルテームの0.025%溶液を蒸留水で調製した。これは蔗糖の5%溶液と等甘味度である。この溶液100mlに対して製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したものを0.5ml添加し、被検液とした。また、対照として甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを用意した。官能検査により被検液と対照の違いを見るため、10人のパネラーに飲み比べてもらった。その結果、対照は飲み込んだ後にもわっとした後味、苦味、金属味のような嫌味があるのに対し、被検液は10人中9人が後味、苦味、金属味が減少したと答えた。残りの1人は差を感じなかった。
以上のことから、甘蔗由来の画分はアスパルテームの後味と苦味、金属味を低減する作用を示すことが明らかになった。
【0074】
実施例16(ステビア甘味料の風味改善)
ステビア甘味料(守田化学工業株式会社製、商標:SKスイートZ3)の0.033%溶液を蒸留水で調製した。これは蔗糖の5%溶液と等甘味度である。この溶液100mlに対して製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したものを0.5ml添加し、被検液とした。また、対照として甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを用意した。官能検査により被検液と対照の違いを見るため、10人のパネラーに飲み比べてもらった。その結果、対照は飲み込んだ後にじわっと広がる苦味、後味、金属味があるのに対し、被検液は10人中8人が苦味、後味、金属味が減少したと答えた。残りの2人は差を感じなかった。
以上のことから、甘蔗由来の画分はステビア甘味料の苦味、金属味、後味を低減する作用を示すことが明らかになった。
【0075】
実施例17(レトルト食品−スープの風味改善)
レトルトのスープ(ハインツ日本株式会社製、商標:冷たいジャガイモのスープ)を用い、冷たいレトルト食品のレトルト臭に対する甘蔗由来の画分の影響を調べた。レトルトスープ100mlに、製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したものを1ml添加し、被検液とした。また、対照として甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを用意した。これらをそれぞれ耐熱性バイアルに入れ、蓋をして、オートクレーブで121℃、15分間の加熱殺菌処理を行い、その後冷却した。本実施例は、市販のレトルト製品を用いており既にレトルト臭は発生しているので、本発明の画分のレトルト殺菌に対する熱安定性とレトルト食品に対する風味改善効果を確認するための試験である。官能検査により被検液と対照の違いをみるため、10人のパネラーに飲み比べてもらった。その結果、対照はクリーミーだが乳臭く、レトルト臭が気になった。また、アミノ酸の味が強く、特にグルタミン酸ソーダの味が気になった。一方、被検液は10人中7人が対照との違いを感じ、クリーミーな重たさが無くなり、さっぱりした味になったと感じた。また、乳臭さがなくなり、強い風味や後味が全体的に減り、アミノ酸味がかなり減ったという意見であった。残りの3人は差を感じなかった。
以上のことから、甘蔗由来の画分は冷たいレトルトスープのレトルト臭および乳臭さを低減する作用を持つことが明らかになった。
【0076】
実施例18(レトルト食品−おかゆの風味改善)
レトルトのおかゆ(味の素株式会社製、商標:ちゃんとごはん白がゆ)を用い、シンプルな素材のレトルト食品のレトルト臭に対する甘蔗由来の画分の影響を調べた。おかゆは製品の表示通り温め、100gに対して製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したものを1ml添加し、被検サンプルとした。また、甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを対照サンプルとした。これらをそれぞれ耐熱性バイアルに入れ、蓋をして、オートクレーブで121℃、15分間の加熱殺菌処理を行った。本実施例は、市販のレトルト製品を用いており既にレトルト臭は発生しているので、本発明の画分のレトルト殺菌に対する熱安定性とレトルト食品に対する風味改善効果を確認するための試験である。官能検査により被検サンプルと対照の違いをみるため、温かいうちに10人のパネラーに食べ比べてもらった。その結果、対照はレトルト臭が強く、特におかゆの液部分がかなり臭かったが、被検サンプルでは10人中6人がレトルト臭が減り、味もあっさりしたものになり、添加前より食べやすくなったと答えた。残りの4人は余り差を感じなかった。
以上のことから、甘蔗由来の画分はレトルトのおかゆのレトルト臭を低減する作用を持つことが明らかになった。
【0077】
実施例19(レトルト食品−ミートソースの風味改善)
レトルトのミートソース(日清製粉株式会社製、商標:ママーミートソース)を用い、レトルトのトマト製品に対する甘蔗由来の画分の影響を調べた。ミートソースは製品の表示通り温め、100gに対して製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したものを1ml添加し、被検サンプルとした。また、甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを対照サンプルとした。これらをそれぞれ耐熱性バイアルに入れ、蓋をして、オートクレーブで121℃、15分間の加熱殺菌処理を行った。本実施例は、市販のレトルト製品を用いており既にレトルト臭は発生しているので、本発明の画分のレトルト殺菌に対する熱安定性とレトルト食品に対する風味改善効果を確認するための試験である。官能検査により被検サンプルと対照の違いをみるため、温かいうちに10人のパネラーに食べ比べてもらった。その結果、対照は調味料の味、特にグルタミン酸ソーダの味が強く、トマトのとげとげした酸味がのどを刺激した。これに対し、被検サンプルでは10人中8人が添加しない系と比較して食べやすくなったと答え、酸味全体は強調されるがとげとげした酸味は無くなり、合成的な旨味が低減しマイルドな味になったという意見であった。残りの2人は余り差を感じなかった。
以上のことから、甘蔗由来の画分はレトルトのミートソースのレトルト臭、とげとげした酸味を低減し、旨味を低減しマイルドな味にする作用を持つことが明らかになった。
【0078】
実施例20(レトルト食品−ハヤシソースの風味改善)
レトルトのハヤシソース(明治製菓株式会社製、商標:銀座ハヤシ)を用い、レトルトの肉製品に対する甘蔗由来の画分の影響を調べた。ハヤシソースは製品の表示通り温め、100gに対して製造例で得られた甘蔗由来の画分を蒸留水で150倍希釈したものを1ml添加し、被検サンプルとした。また、甘蔗由来の画分の代わりに蒸留水を添加したものを対照サンプルとした。これらをそれぞれ耐熱性バイアルに入れ、蓋をして、オートクレーブで121℃、15分間の加熱殺菌処理を行った。本実施例は、市販のレトルト製品を用いており既にレトルト臭は発生しているので、本発明の画分のレトルト殺菌に対する熱安定性とレトルト食品に対する風味改善効果を確認するための試験である。官能検査により被検サンプルと対照サンプルの違いを見るため、温かいうちに10人のパネラーに食べ比べてもらった。その結果、対照はコクのある深い味でおいしいが、トマトのとげとげした酸味がややあり、レトルト臭もあった。これに対し、被検サンプルでは10人中7人が食べやすい味になったと答え、トマトのとげとげした酸味が無くなり、まろやかな味になり、レトルト臭も減ったという意見であった。残りの3人は余り差を感じなかった。
以上のことから、甘蔗由来の画分はレトルトのハヤシソースのトマトのとげとげした酸味およびレトルト臭を低減する作用を持つことが明らかになった。
【0079】
【発明の効果】
本発明によれば、甘蔗由来の蒸留物または画分を、苦味、渋味、酸味、青臭味、エグ味、いがらっぽい味、金属味、レトルト臭に代表される嫌味を有する食品に添加することにより、これらの嫌味を低減または消去することができる。しかも、甘蔗由来の蒸留物および画分は植物由来であり、古来からヒトがそのままかじっていた甘蔗、飲用にしていた甘蔗汁などの天然の飲食物中に存在している成分であるため、ヒトの健康を害することなく安全に使用できる。また、本発明による風味改善剤は、ほぼ無色透明であり、また有効添加量では臭いも味もないため汎用性が高く、使用対象物の臭い、色、味に影響を与えない。これらのことから、産業上非常に有用である。

Claims (4)

  1. 甘蔗由来の蒸留物を有効成分とする飲食品の風味改善剤であって、甘蔗汁を蒸留して得られる蒸留物を、固定担体として合成吸着剤を充填されたカラムに通液し、該合成吸着剤に吸着された成分を、水、エタノールおよびこれらの混合物から選ばれる溶媒で溶出することによって得られる画分であることを特徴とする風味改善剤
  2. 前記蒸留物が、10〜50のブリックスを有する甘蔗汁をブリックスが高々65になるまで蒸留して得られる液体である、請求項記載の風味改善剤。
  3. 風味改善が、苦味、渋味、酸味、青臭味、エグ味、いがらっぽい味、金属味、またはレトルト臭の低減である請求項1又は2記載の風味改善剤。
  4. 請求項1〜のいずれか1項記載の風味改善剤を含む飲食品。
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