JP4030438B2 - 免疫学的測定方法および免疫クロマトグラフィー法測定キット。 - Google Patents

免疫学的測定方法および免疫クロマトグラフィー法測定キット。 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、免疫学的測定方法および免疫クロマトグラフィー法測定キットに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、免疫学的測定方法において、測定操作の簡便化と短時間化が可能な免疫クロマトグラフィー法が注目されており、各種の免疫クロマトグラフィー法測定キットが開発されている。ここで、免疫クロマトグラフィー法とは、免疫クロマトグラフィーテストストリップ(以下、単に「テストストリップ」とも称する)の展開メンブレン上を被検液を展開させ、該展開メンブレン上に設けた、検出用抗原または検出用抗体が固定化された検出部位上で、被検液に含まれる抗原又は抗体を捕捉し、これを検出する方法である。
【0003】
その検出手法としては、サンドイッチ法、すなわち、上記展開メンブレン上を、被検液に随伴させて、被検液中の抗原または抗体に対応する標識抗体または標識抗原(以下、これらを単に「標識体」とも総称する)も展開させ、該標識体と結合した被検液中の抗原または抗体を検出用抗体または検出用抗原にて捕捉し、この補足された抗原または抗体に結合する標識体を検出する手法を採用するのが、迅速かつ簡便に測定を行うことができる等の理由から有利である。この場合、使用するテストストリップとしては、
i) 被検液を一時的に吸収し保持するための被検液保持部、
ii) 標識抗体または標識抗原が一時的に保持された標識体保持部、並びに
iii) 検出用抗体または検出用抗原が固定化され、前記被検液保持部に一時的に吸収し保持された被検液および該被検液に随伴して前記標識体保持部より流出した標識抗体または標識抗原が展開される展開メンブレン部
が、この順序で配置された構造をしたものを用いるのが一般的であり、且つ効率的である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、このようなテストストリップを用いてサンドイッチ法により免疫学的測定を行おうとした場合、簡便且つ迅速に測定を行える反面、その迅速性ゆえに反応時間が短くなり、結合型と遊離型の分離も不十分になり、検出感度が不足する問題が生じていた。また、免疫クロマトグラフィー法では被検液を毛管現象により展開するので、被検液や標識体の展開性を、測定(各テストストリップ)毎に一定に制御することが難しく、検出結果の再現性にも問題があった。
【0005】
このため、こうした免疫クロマトグラフィー法において検出感度を高めるための種々の検討がなされており、その施策の一つとして、抗原抗体反応を促進することや、展開中における標識体の分散性を高めることが行われている。例えば、一般に、抗原抗体反応は、水溶性高分子の存在下では、反応性が高まることが知られており、ラテックス凝集法等の免疫学的測定方法では、これを反応促進剤(増感剤ともいう)として測定系に存在させることが行われているため(例えば、非特許文献1、特許文献2参照)、この技術を免疫クロマトグラフィー法にも応用することが試みられている(例えば、特許文献3,4参照)。また、同水溶性高分子は、標識体の凝集を抑制するため、これを分散剤として、免疫クロマトグラフィー法の測定系に存在させることも試みられている(例えば、特許文献5参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平01−63865号公報
【非特許文献1】
Clinical Chemistry 20:1071−6,1974.
【特許文献2】
特開昭58−47256号公報
【特許文献3】
特開2002−148266号公報
【特許文献4】
特開2002−31639号公報
【特許文献5】
特開平05−133956号公報
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来、これらの方法において、使用される水溶性高分子は、重量平均分子量が1万〜100万程度の大きいものが一般的であり、1万未満の重量平均分子量のものを、その実施例等において具体的に使用した例は知られていない。そうして、このように高分子量の水溶性高分子を用いた場合、測定感度は、ある程度には増感されるものの今一歩十分ではなく、また、検出可能になるまでの測定時間の短速化も十分ではなく、測定結果の再現性も依然として十分に満足できるものではないことが多かった。
【0007】
特に、これらの公知技術において、実施例等で具体的に使用されている水溶性高分子の多くは、テストストリップ上において標識体保持部等に乾燥・保持させておき、被検液の展開中に溶解させる形態のものであり(例えば、前記特許文献5)、この場合においては、テストストリップに乾固された該水溶性高分子を、毛管現象により展開する被検液に溶解させる際の溶解力が弱く、該水溶性高分子を十分、且つ高度な再現性で溶解させることが困難であり、上記問題がより顕著に発生していた。
【0008】
以上の背景にあって、本発明は、前記一般的な構成にあるテストストリップを用いてサンドイッチ法により免疫学的測定方法を実施するに際して、高感度で、短時間に再現性良く測定が行える方法を開発することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を続けてきた。その結果、特定の範囲の比較的低分子量の水溶性高分子を用い、且つこれを、テストストリップ上において乾燥・保持させるのではなく、予め被検液に溶解させて使用する手法と組合わせて使用することにより、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の部位
i) 被検液を一時的に吸収し保持するための被検液保持部、
ii) 標識抗体または標識抗原が一時的に保持された標識体保持部、並びに
iii) 検出用抗体または検出用抗原が固定化され、前記被検液保持部に一時的に吸収し保持された被検液および該被検液に随伴して前記標識体保持部より流出した標識抗体または標識抗原が展開される展開メンブレン部
を有し、これらの部位が上記順序で配置された免疫クロマトグラフィーテストストリップを用いて、被検液中の抗原または抗体を検出する免疫学的測定方法において、予め被検液に、重量平均分子量が2000〜9000である非イオン性水溶性高分子を溶解させることを特徴とする免疫学的測定方法である。
【0011】
また、本発明は、(a)前記構成のテストストリップ、および
(b)1種または2種以上の被検液の調製用試薬からなり、該(b)被検液の調製用試薬の少なくとも1種に、重量平均分子量が2000〜9000である非イオン性水溶性高分子が含まれてなる免疫クロマトグラフィー法測定キットも提供する。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の免疫学的測定方法では、テストストリップとして、i) 被検液を一時的に吸収し保持するための被検液保持部、ii) 標識抗体または標識抗原が一時的に保持された標識体保持部、並びにiii) 検出用抗体または検出用抗原が固定化され、前記被検液保持部に一時的に吸収し保持された被検液および該被検液に随伴して前記標識体保持部より流出した標識抗体または標識抗原が展開される展開メンブレン部が、この順序で配置された構成のものを使用する。
【0013】
こうしたテストストリップは、上記構成のものであれば公知のものが制限なく使用可能であるが、一般には、図1および図2の概略図に示されるものが使用される。すなわち、このテストストリップは、1が被検液保持部であり、その端部に被検液が供給される。また、2は標識体保持部(コンジュゲートパッド)であり、標識抗体または標識抗原が保持された部位が設けられている。さらに、3は展開メンブレンであり、被検液の展開方向の下流に検出用抗体または検出用抗原が固定化された部位(検出部位5)を有している。そして、これらの各部は多孔性支持体により形成されており、これらは順に毛管流により連絡可能な状態で 配置されている。
【0014】
したがって、上記テストストリップでは、被検液保持部1に被検液を供給すると、被検液が毛管流により標識体保持部2へ流れ、ここで該被検液の流れに標識体が随伴して展開メンブレン部3へ流れていく。そして、この流れの過程で反応した、被検液中の抗原または抗体と標識体の複合体を、展開メンブレン3の検出部位5に固定されている検出用抗体または検出用抗原で捕捉し、捕捉された標識体を検出することにより、被検液中の抗原または抗体の有無またはその多賓を測定することができる。このときに標識体が被検液と共に正常に展開されていることは、上記検出部位5の下流のコントロール判定部位6に標識体と反応する抗原または抗体を固定化しておき、この位置で標識体が検出されることにより確認することができる。
【0015】
上記テストストリップにおいて、被検液保持部1は、供給した被検液を適量保持する目的で、ある程度大きな保持容量を有する部材で形成することもできる(このような目的で使用する被検液保持部1をサンプルパッドと呼ぶこともある)。また、被検液の展開性を向上する目的で、展開終了後の被検液を保持するために、展開メンブレン部3の下流に吸収部4を設けることもできる。更に、外界からの汚染を防止する目的で、上記テストストリップを適当な容器(ハウジングと呼ぶことがある)に収納し使用することもできる。
【0016】
なお、図1および図2中に示される各寸法(長さ)は、単に大きさの目安を示すものであり、本発明の免疫クロマトグラフィー法で使用するテストストリップの大きさは、これら図に示される値に限定されるものではない。
【0017】
標識体保持部2に保持させる標識体を構成する抗体および抗原は、被検液に含まれる抗原または抗体に免疫学的に反応するものが適宜に使用される。その保持量は、標識物質の種類や、抗体の反応性を勘案して、通常、0.001〜100μg/テストストリップの範囲から適宜に採択すればよい。
【0018】
これらの抗体および抗原は、化学的、物理学的、生化学的に検出可能とするべく従来公知の標識処理が施される。該標識処理に使用する標識物質としては、放射性物質として放射性ヨード、放射性炭素等が、酵素としてペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ガラクトシダーゼ等が、各種色素類として、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミン等の蛍光色素類が、コロイドとして金コロイド、炭素コロイド等が、各種粒子としては着色ラテックス粒子等が使用出来る。
【0019】
標識体保持部2への上記標識体の保持は、特に制限されるものではなく、該部位に標識体を添加して乾燥させればよいが、この部位から脱離し易くするためには、サッカロース等の糖類や水溶性分子を予め塗布、乾燥した後で該標識体を添加してから乾燥させる、或いは標識体を該糖類や水溶性分子と混合してから塗布し乾燥させるのが好適である。このような目的で糖類や水溶性分子を使用する場合には、重量平均分子量が2000以下の糖類や水溶性分子を使用することが好ましい。重量平均分子量が2000以下の糖類や水溶性分子を使用した場合は、脱離性を高める目的で使用する限りにおいては、一般に被検液中の該糖類や水溶性分子の濃度は抗原抗体反応の促進効果にほとんど影響を及ぼさないため、測定の再現性をより高度に保つことができる。
【0020】
展開メンブレン部3に保持させる検出用抗体および検出用抗原は、被検液に含まれる抗原または抗体に免疫学的に反応するものが適宜に使用される。その保持量は、抗体の反応性や検出部位5の形態を勘案して、通常、0.01〜1000μg/テストストリップの範囲から適宜に採択すればよい。
【0021】
これらの検出用抗体または検出用抗原の展開メンブレン部3への固定化方法は特に限定されず、従来公知の物理的吸着法や共有結合法が何ら制限無く使用できるし、他のタンパク質等と混合して固定化することもできる。また、展開メンブレン部3への他の成分の非特異的吸着を抑制するため、検出用抗体または検出用抗原を固定化後の展開メンブレン部3を公知の方法によりタンパク質、脂質、高分子化合物等によりブロッキング処理することもできる。このブロッキング処理に用いるタンパク質等は特に限定されるものではないが、一般的な免疫学的測定方法において、非特異的反応を抑制する目的で使用されている牛血清アルブミン(以下BSAと略すこともある)、スキムミルク等が好適である。また、被検液が展開メンブレン部3を均一に展開するように、被検液の展開メンブレン部3への 浸透性を調整するために、展開メンブレン部3の表面に親水性重合体や界面活性剤等を被覆または含浸させることもできる。
【0022】
なお、展開メンブレン部3において、検出用抗体および検出用抗原を固定化する部位は、図1および図2に示される如くに必ずしもライン状である必要はなく、スポット状等任意の形状をとることができる。更に、検出部位5を支持体上に複数設置することで、複数の分析対象物質を同時に検出する、或いは同一の分析対象物質を複数の検出部位で検出することもできる。
【0023】
同様に、展開メンブレン部3に前記コントロール判定部位6を設ける場合においても、その位置、順、形状、数等は適宜に設定できる。
【0024】
図1および図2のテストストリップにおいて、前記各部材を構成する多孔性支持体の素材は特に限定されず、各部材の目的に応じて吸湿性材料、多孔質材料、繊維質材料等から適宜選択される。例えば、被検液保持部1としては、濾紙、吸取紙、ガラスフィルター等を用いるのが好適であり、標識体保持部2としてはガラス繊維布、ポリプロピレン不織布、ガラスフィルター等を用いるのが好適である。また、展開メンブレン部3としてはニトロセルロース、或いは酢酸セルロースを含むニトロセルロース等を用いるのが好適であり、吸収部4としては濾紙、吸取紙等を用いるのが好適である。
【0025】
本発明の最大の特徴は、以上の構成のようなサンドイッチ法によるテストストリップを用いて、被検液中の抗原または抗体を検出するに際して、予め被検液に、重量平均分子量が2000〜9000である非イオン性水溶性高分子(以下、単に「特定非イオン性水溶性高分子」とも略する)を溶解させることにある。このように比較的低分子量の非イオン性水溶性高分子を用い、且つこれを、テストストリップ上において乾燥・保持させるのではなく、予め被検液に溶解させて使用する手法と組合わせて使用することにより、被検液中の抗原または抗体を、極めて高感度で迅速に測定することが可能になる。また、その測定の再現性も極めて良好になる。
【0026】
ここで、使用する水溶性高分子は、非イオン性であることが必要であり、イオン性水溶性高分子を使用した場合には、安定的な検出が行えなくなるおそれがある。例えば、カチオン性水溶性高分子を使用した場合には、標識体として、金コロイド標識抗体や抗原、或いは抗体または抗原感作ラテックス粒子等を使用した際には、これらの粒子が通常帯びている負の表面ゼータ電位が打ち消され、粒子同士の凝集が生じ易くなる。また、アニオン性水溶性高分子を使用した場合には、被検液の展開性が悪くなる場合がある。
【0027】
また、上記非イオン性水溶性高分子の重量平均分子量が2000〜9000、特に3000〜8500であることも極めて重要である。重量平均分子量が2000未満の場合は、抗原抗体反応の十分な反応促進効果を得ることが困難になる。また、重量平均分子量が9000より大きい場合は、十分な反応促進効果が得られるまでに被検液中の非イオン性水溶性高分子濃度を高めた場合に、被検液の展開性が悪くなり検出部位の発色が一定となるまでに長時間を要するようになったり、或いはテストストリップ間で標識体の検出強度にバラツキが生じたりするようになる。
【0028】
被検液に溶解させる水溶性高分子の濃度は、十分な反応促進効果が得られ、且つ水溶性高分子を溶解した被検液の展開性を良好に保つ観点から、0.01〜20質量%、より好適には0.5〜10質量%であるのが好ましい。
【0029】
上記非イオン性水溶性高分子の種類としては、公知のものが特に制限なく使用できるが、具体的にはポリエチレングリコール(以下PEGと略すこともある)、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(以下HPCと略すこともある)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース類;デンプン、デキストラン等の多糖類;ポリビニルアルコール(以下PVAと略すこともある)、ポリビニルピロリドン(以下PVPと略すこともある)、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子などを例示できる。これらの水溶性高分子は、一定の分子量のものを単独で使用してもよいし、所望の展開性や反応促進効果が得られるように、分子量分布や分子構造等の異なる複数のものを適宜混合して使用することもできる。
【0030】
上記非イオン性水溶性高分子のうち、ポリアルキレングリコール類および/またはセルロース類を使用した場合は、特に高い反応促進効果が得られ好適である。中でも、ポリエチレングリコールを使用した場合は、重量平均分子量や分子量分布の異なるものを容易に入手でき、これらを適宜混合することで被検液の粘性、展開性、反応促進効果を容易に所望の程度に調整することができるため最も好ましい。
【0031】
本発明において、上記2000〜9000の重量平均分子量を有する非イオン性水溶性高分子は、予め、被検液に溶解させて使用する。すなわち、このように比較的低分子量の非イオン性水溶性高分子を使用したとしても、これをテストストリップに乾燥・保持する方法では、毛管流として展開される被検液への溶解性や混合の均一性が十分ではなく、その効果を十分且つ安定的に発揮させることが困難である。これに対して、本発明では、上記の如く水溶性高分子を予め、被検液に溶解させておくことにより、この問題を解消し、前記したような優れた効果を達成することが可能になる。
【0032】
被検液に特定非イオン性水溶性高分子を溶解する方法は、特に限定されず、該水溶性高分子の固体、或いは所定濃度の溶液(以下、「水溶性高分子原液」と表記することもある)を必要量添加する方法を適宜に採択すればよい。水溶性高分子原液は、精製水;生理食塩水等の各種塩溶液;トリスヒドロキシメチルアミノメタン(以下「トリス」と略すこともある)緩衝液、リン酸緩衝液等の各種緩衝液等の水性液体に、特定非イオン性水溶性高分子の必要量を溶解することにより調製される。
【0033】
次に、本発明の免疫学的測定方法が測定対象とする抗原または抗体を説明する。本発明において、上記抗原または抗体は、公知のものが制限無く対象になる。例えば、抗原としては、アルブミン、ヘモグロビン、プロテインA等のタンパク質や糖タンパク質;高比重リポタンパク質、低比重リポタンパク質等の脂質タンパク質;アルカリ性ホスファターゼ、リパーゼ、アミラーゼ等の酵素タンパク質;各種糖類;核酸;レセプター;各種微生物抗原等が例示される。また、抗体としてはIgG、IgA、IgM等の免疫グロブリンが例示される。
【0034】
本発明では、これらの抗原または抗体が、前記テストストリップを毛管現象により展開可能な状態で溶解、分散、または懸濁されている水性液体が被検液とされる。これらの抗原または抗体を含む採取対象物としては、例えば、微生物の培養液、微生物の懸濁液、食品およびその懸濁液、咽頭ぬぐい液、唾液、血漿、血清、尿等の体液、或いは歯垢の懸濁液等が挙げられる。
【0035】
これらの採取対象物からの被検液の調製は、測定対象とする抗原または抗体の性状や分析の目的に応じて適宜に行えばよい。例えば、採取対象物が、血液、尿、唾液等の体液、或いは環境水等の水性液体の場合、これらを採取し、そのまま被検液として使用することも可能である。通常は、前記採取対象物を、適宜に、希釈、溶解、懸濁等の処理を施して使用するのが一般的である。被検液中に、抗原抗体反応を阻害する物質が共存している場合等には、阻害物質の分解処理、検出対象の抗原または抗体の抽出処理や精製処理等を施して、被検液を調製すればよい。
【0036】
微生物(細菌、リケッチア属(Rickettsiae)、クラミジア属(Chlamydia)、マイコプラズマ属(Mycoplasma)、及び単細胞真核生物を指す)を免疫クロマトグラフィー法で分析する場合は、一般に採取した試料中に含まれる微生物濃度が小さい為に、免疫クロマトグラフィー法の感度が不足する場合がある。このような場合には、その測定感度を向上させるために、微生物菌体に結合または付着した、或いは該菌体内に含まれる特定の抗原を抽出処理したものを被検液として使用するのが好ましいが、これを本発明の免疫学的測定方法により測定することにより、さらに高感度で測定が行えるため好適である。
【0037】
本発明の方法を適用するのに最も好適な被検液としては、糖鎖抗原を有する微生物から該糖鎖抗原を亜硝酸抽出法により抽出した液(以下、単に「亜硝酸抽出溶液」とも言う)が例示できる。すなわち、亜硝酸抽出法は、短時間に且つ高い効率で、微生物から血清型多糖抗原等の特異性の高い糖鎖抗原を抽出できるので(武井勉.阪大医学雑誌.35:93−109,1990.)、微生物を免疫クロマトグラフィー法にて分析する場合には有利である。しかしながら、亜硝酸抽出法においては高濃度の亜硝酸塩水溶液を酸性条件下で使用することから、亜硝酸抽出溶液には亜硝酸に由来する塩や中和により生じた塩が高濃度に含まれる。その為、該亜硝酸抽出溶液は、免疫クロマトグラフィー法における展開性が十分でない。このような被検液に、本発明の方法を適用することにより、前記効果を特に顕著に発揮させ、希釈等により被検液の塩濃度を下げることなく、良好に被検液を展開させて、高感度に上記糖鎖抗原を検出することできる。
【0038】
この場合、糖鎖抗原を有する微生物としては、齲蝕関連菌であるのが好ましい。すなわち、近年、歯牙の齲蝕のリスクを診断するために、口腔内より採取した唾液や歯垢中に存在する齲蝕関連菌濃度を測定することが試みられている。これらの齲蝕関連菌の多くは、糖鎖抗原を有する微生物であるが、唾液や歯垢中に10〜10個/ml程度に微量にしか含まれておらず、さらに通常は、不溶性グルカンに覆われた凝集状態で存在しているため、免疫クロマトグラフィー法における展開性が著しく悪い。したがって、唾液や歯垢の懸濁液をそのまま被検液として使用しても、該齲蝕関連菌の測定感度は極めて低くなるので、上記の如くに糖鎖抗原を亜硝酸抽出法により抽出して、得られた亜硝酸抽出溶液を被検液として本発明の測定方法に適用する方法が最も適している。
【0039】
なお、唾液や歯垢の懸濁液は、遠心分離法や濾過法により処理し、その不溶性画分を分離し、被検液の調製に供するのが高感度な測定を行う観点から好ましい。
【0040】
ここで、上記齲蝕関連菌としては、具体的には、ミュータンスレンサ球菌に属する細菌(ストレプトコッカス・ミュータンスやストレプトコッカス・ソブリヌスを例示できる)、ラクトバチルス属に属する細菌、アクチノミセス属に属する細菌を挙げることができる。
【0041】
亜硝酸抽出法は、微生物に亜硝酸水溶液を作用させる従来公知の方法を制限無く採用することができる。この亜硝酸水溶液は、一般的には亜硝酸塩水溶液と酸水溶液とを混合することで調製できる。このような亜硝酸塩水溶液としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等の水溶液が、酸水溶液としては酢酸、プロピオン酸、クエン酸等の有機酸水溶液や硝酸、塩酸等の無機酸水溶液を使用することができる。
【0042】
得られた亜硝酸抽出溶液は、残留する酸により酸性を呈しているため、中和してから被検液とするのが好ましい。この中和に使用する塩基性水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、トリス水溶液等の各種塩基を含む水溶液、或いはトリス−塩酸緩衝液、ホウ砂−ホウ酸緩衝液、グリシンアミド−水酸化ナトリウム緩衝液等の各種緩衝液を使用することができる。中和処理後の被検液のpHは、免疫クロマトグラフィー法において抗原抗体反応を十分に行わせる観点からpH6.0〜10.0になるよう調整するのが良い。
【0043】
糖鎖抗原を有する微生物に亜硝酸を作用させる方法は特に限定されず、例えば、該微生物を含む液体試料を採取し、該液体試料の所定量に対し所定量の亜硝酸水溶液を添加し、所定の温度下(通常は10〜60℃)にて所定時間(通常は0.5〜30分)反応させた後、中和する方法が採用できる。また、液体試料に遠心分離や濾過処理等を施して不溶性画分(菌体を含む画分)を採取し、該不溶性画分に対し亜硝酸水溶液と塩基性水溶液を順に作用させる方法を採用することも可能である。
【0044】
本発明において、上記説明したような被検液の調製は、(a)前記構成のテストストリップと(b)抗原または抗体の採取対象物から被検液を調製する際に使用する種々の調製用試薬からなる免疫クロマトグラフィー法測定キットを用いて実施するのが好ましい。その場合において、特定非イオン性水溶性高分子は、(b)被検液の調製用試薬の構成試薬の一つとして、錠剤等の固形物として設けても良いが、操作を効率的に行うには、(b)1種または2種以上からなる被検液の調製用試薬において、その少なくとも1種に含有させるのが好ましい。この場合、調製用試薬に含有させる特定非イオン性水溶性高分子の濃度は、最終的に得られる被検液中において該水溶性高分子が所望濃度になるように調整しておくことが必要である。特定非イオン性水溶性高分子を含有させておく調製用試薬としては、抗原または抗体を含む採取対象物に対して使用する調製用試薬の如何なるものであっても良い。
【0045】
前記したように被検液に含有される抗原が、糖鎖抗原を有する微生物の該糖鎖抗原であり、被検液が、上記糖鎖抗原を有する微生物から該糖鎖抗原を亜硝酸抽出法により抽出することにより調製する場合においては、特定非イオン性水溶性高分子は亜硝酸水溶液からなる抽出液および/または中和用塩基性水溶液に含有させておくのが好適である。
【0046】
上記特定非イオン性水溶性高分子を含有させた調製用試薬には、必要に応じて抗菌剤や酸化防止剤等の公知の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で少量含有させても良い。
【0047】
本発明において、前記構成のテストストリップを用いて、上記の予め特定非イオン性水溶性高分子を溶解させた被検液を免疫クロマトグラフィー法により測定する具体的手順は、例えば以下のような手順が、迅速簡便に測定を行えることから好ましい。即ち、まず、予め特定非イオン性水溶性高分子を溶解させた被検液(例えば100〜200μl)を分取し、前記テストストリップの被検液保持部1に添加し、所定時間(例えば1〜30分)静置した後、該ストリップの検出部位5およびコントロール判定部位6の着色の有無あるいはその状態により判定することにより、被検液中に検出対象とする抗原または抗体が存在するか否か、或いはその量を知る方法である。
【0048】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0049】
製造例1〔ストレプトコッカス・ミュータンスに対するポリクローナル抗体の作製〕
(1)[菌体試料懸濁液の調製]
ブレインハートインフュージョン(以下「BHI」と略すこともある)(DIFCO社)3.7gを100mlの超純水に溶解後、オートクレーブ処理し、BHI液体培地を調製した。BHI液体培地2ml中でIngbritt(ストレプトコッカス・ミュータンス、血清型c)を37℃、5時間、嫌気条件下(N:H:CO=80:10:10)で培養した後、培養液を4000g、5分遠心処理し、上清の培地成分を除去し菌体沈殿を回収した。
【0050】
次いで、沈殿物を5mlのリン酸生理食塩緩衝液(pH7.4)(以下PBSと略すこともある)に懸濁し、同様の遠心分離をする操作を3回行い、沈殿物を洗浄した。その後得られた菌体沈殿をPBSに懸濁し、A600=1.0に調整しIngbritt菌体試料懸濁液とした。なお、該菌体試料懸濁液を超音波処理後、適宜希釈した後にBHI培地プレート上に添加し、生じたコロニー数を計数し菌体試料懸濁液の希釈倍率を乗じることで該菌体試料懸濁液の菌体濃度を求めたところ、約1×10個/mlであった。
【0051】
(2)〔ストレプトコッカス・ミュータンスに対する抗血清の作製〕
免疫は以下のように実施した。
【0052】
第1週は0.5mlのIngbritt菌体試料懸濁液を、5日連続で5回ウサギに対し耳介静脈注射した。第2週は1.0mlの該菌体試料懸濁液を、5日連続で5回ウサギに対し耳介静脈注射した。第3週は2.0mlの該菌体試料懸濁液を、5日連続で5回ウサギに対し耳介静脈注射した。第4週は第3週と同様に免疫した。力価の上昇をスライドグラスを利用した菌体の凝集反応の程度により確認後、最終免疫より1週間後に、定法に従い採血しストレプトコッカス・ミュータンスに対する抗血清を得た。
【0053】
(3)〔ストレプトコッカス・ミュータンスに対するポリクローナル抗体の精製〕
オートクレーブ処理したBHI液体培地1L中でIngbrittを37℃、12時間、嫌気条件下で培養した。培養液を4000g、5分遠心処理し、上清の培地成分を除去し菌体沈殿を回収した。次いで、沈殿物を100mlのPBSに懸濁させて、同様の遠心分離をする操作を3回行い、沈殿物を洗浄した。
【0054】
Ingbritt菌体を洗浄した後、0.1M トリス塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁しA600=15に調整した。ここにプロナーゼ(和光純薬社)を5mg/mlとなるように添加し、37℃で1時間保温した。反応終了後、遠心分離し菌体沈殿を回収した。次いで、沈殿物を20mlのPBSに懸濁して、同様の遠心分離をする操作を3回行い、沈殿物を洗浄した。次いで20mlの0.1M グリシン塩酸緩衝液(pH2.0)で3回洗浄し、更に20mlのPBSで3回洗浄し、プロテアーゼ処理菌体懸濁液(A600=12.5)を調製した。
【0055】
次いで、該プロテアーゼ処理菌体懸濁液と(2)で調製した抗血清0.5mlとを混合し、4℃、60分反応させた。混合液を4000g、5分遠心分離し、菌体を回収した。この菌体を10mlのPBSに懸濁し、同様の遠心分離をする操作を3回行い洗浄した。
【0056】
次いで、0.5mlの0.1M グリシン塩酸緩衝液(pH2.0)に菌体を懸濁し、吸着した抗体を溶出し、遠心分離により上清を回収し、1Mトリス−塩酸(pH9.0)を添加しpH7.4に調整した。同様の溶出操作を4回行い、各画分のタンパク質量を280nmの吸光度により測定した。
【0057】
次いで、あらかじめPBSで平衡化した1mlのプロテインA−セファロース(アマシャムファルマシアバイオテク社)を充填したカラムに上記溶出液を添加し、5ml洗浄後、5mlの0.1Mグリシン−塩酸緩衝液(pH3.0)にて溶出し、直ちに1Mトリス−塩酸(pH9.0)を添加しpH7.4に調整した。IgGの溶出画分は、A280を測定することで確認した。
【0058】
以上により、抗血清(0.5ml)をプロテアーゼ処理菌体により精製したポリクローナル抗体を1mg得た。
【0059】
実施例1〔ストレプトコッカス・ミュータンスの糖鎖抗原を含む被検液の調製と免疫クロマトグラフィー法による分析(1)〕
(1)〔遠心分離法を使用した亜硝酸抽出法による被検液の調製〕
製造例1(1)で調製した1×10個/mlのIngbritt菌体試料懸濁液をPBSで1000倍希釈し、1×10個/mlのIngbritt菌体試料懸濁液を調製した。この、1×10個/mlのIngbritt菌体試料懸濁液1mlをサンプリングチューブに分取し、10000g、10分間遠心分離し、上清を除去した。沈殿に、125μlの2M亜硝酸ナトリウム水溶液と125μlの0.5M酢酸水溶液を添加し、良く混合後室温で10分間放置した。次いで、750μlの0.5Mトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)を添加し、良く混合し反応を停止した。次いで、10000g、10分間遠心分離し、上清(亜硝酸抽出溶液)を回収した。該亜硝酸抽出溶液を、1×10個/mlのIngbritt抗原抽出原液とした。
【0060】
12.5mlの2M亜硝酸ナトリウム水溶液と12.5mlの0.5M酢酸水溶液を混合し、室温で10分間放置した。次いで、75mlの0.5Mトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)を添加し、良く混合し反応を停止した。このようにして調製した亜硝酸抽出溶液を、検体希釈液とした。
【0061】
2gのポリエチレングリコール6000(数字は重量平均分子量を示す)を全量10mlとなるよう検体希釈液に溶解し、20%PEG6000を含む検体希釈液を調製した。100μlのIngbritt抗原抽出原液と780μlの検体希釈液及び120μlの20%PEG6000を含む検体希釈液を混合することで、終濃度2.4%のPEG6000を含む1×10個/mlのIngbritt抽出抗原を含む被検液を得た。
【0062】
同様の方法にて、PEG3000、及びPEG8000を含む検体希釈液とIngbritt抗原抽出原液、及び検体希釈液を適宜混合し、所定の重量平均分子量のPEGを所定の濃度で、且つ1×10個/mlのIngbritt抽出抗原を含む被検液を得た。
【0063】
同様に、陰性コントロールとして各種PEGを含む検体希釈液と検体希釈液を適宜混合し、所定の重量平均分子量のPEGを所定の濃度で含み、Ingbritt抽出抗原を含まない被検液を得た。
【0064】
(2)〔金コロイド標識されたストレプトコッカス・ミュータンスに対するポリクローナル抗体の調製〕
コロイド粒径が40nmの市販金コロイド溶液(British BioCell International社)10mlに100mMKCOを2μl添加し、pHを9.0に調製後、0.22μmフィルター処理した。金コロイド溶液の520nmの吸光度を測定したところ、A520=1.0であった。
【0065】
次いで、1mg/mlに調整した製造例1(3)で調製したポリクローナル抗体の2mMホウ酸緩衝溶液(pH9.0)64μlを、上記金コロイド溶液に撹拌しながら添加し、室温下5分放置した。次いで、10%スキムミルク−2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)を1.1ml撹拌しながら添加し(スキムミルク終濃度1%)、室温下30分放置した。次いで、反応溶液を10℃、10000g、30分遠心処理し、上清を除去後、2mlの2mMPBS(pH7.4)を添加し、下層の金コロイド画分を再懸濁した。該再懸濁した画分の520nmの吸光度を測定したところ、A520=4.9であった。得られた金コロイド画分(以下、「金コロイド標識抗体」と表記することもある)は、4℃にて保存した。
【0066】
(3)〔免疫クロマトグラフィーテストストリップの作製〕
ニトロセルロースメンブレン(MILLIPORE社、Hi−Flow Plus Membrane、HF180、25mm×6mm)からなる展開メンブレン部3上の検出部位5及びコントロール判定部位6上に、それぞれ1mg/mlの製造例1(3)で調製したポリクローナル抗体及び抗ウサギIgG(H+L)ポリクローナル抗体(ICNファーマシューティカルズ社)1μlをスポットし、インキュベーター内で37℃、60分乾燥し抗体を固定化した。該抗体固定化メンブレンを1%スキムミルク−0.01%TritonX100水溶液中で室温下、5分振とうした。次いで、該メンブレンを10mMリン酸緩衝液(pH7.4)中で室温下、10分振とう後取り出し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。
【0067】
また、標識体保持部2であるコンジュゲートパッド(MILLIPORE社、7.5mm×6mm)を0.5%PVA−0.5%ショ糖水溶液中で1分間振とう後取り出し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。該コンジュゲートパッド2に(2)で調製した金コロイド標識抗体をA520=1.0に調整したものを25μl添加し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。更に、被検液保持部1であるサンプルパッド(MILLIPORE社、17mm×6mm)を1%Tween20−PBS水溶液中で1分間振とう後取り出し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。尚、展開終了後の被検液を保持するための吸収部4である吸収パッド(MILLIPORE社、20mm×6mm)は未処理のまま用いた。
【0068】
このように調製した、図1に示すような免疫クロマトグラフィーテストストリップの各構成部分をプラスチックの支持台上に配置し、図2に示すような免疫クロマトグラフィーテストストリップを組み立てた。
【0069】
(4)〔免疫クロマトグラフィー法における被検液の分析〕
免疫クロマトグラフィーテストストリップのサンプルパッド2上に、(1)で得られた各種被検液100μlを添加し、5分、10分、20分、30分後にスポット発色の有無と強度を判定した。測定は、各被検液ごとに5回行った。判定は、固定化抗体スポット上に捕捉された金コロイドの程度を4段階(+++:発色強度が強い、++:発色強度が中程度、+:発色強度が弱い、−:発色しない)に目視で識別した。また、(1)にて調製したIngbritt抗原抽出原液を検体希釈液にて10倍希釈することで、1×10個/mlのIngbritt抽出抗原を含みPEGを含まない被検液を得、該被検液並びに検体希釈液だけを上記と同様の操作により分析した。結果を表1、表2に示した。
【0070】
【表1】
Figure 0004030438
【0071】
【表2】
Figure 0004030438
【0072】
表1、表2より、重量平均分子量が3000、6000、8000のポリエチレングリコールを使用した場合は、それぞれ5回の測定の全てにおいて測定開始後5分以降発色強度は変化せず、短時間に、且つ再現性よく判定することができた。Ingbritt抽出抗原を含まない被検液並びに検体希釈液では非特異的発色は検出されなかった。
【0073】
比較例1〔ストレプトコッカス・ミュータンスの糖鎖抗原を含む被検液の調製と免疫クロマトグラフィー法による分析〕
実施例1(1)にてPEG1000、PEG12000、及びPEG20000を使用すること以外は、実施例1(1)〜(4)と同様の操作を行った。結果を表3、表4に示した。
【0074】
【表3】
Figure 0004030438
【0075】
【表4】
Figure 0004030438
【0076】
表3から、重量平均分子量が1000のポリエチレングリコールを使用した場合は、ポリエチレングリコール濃度を実用上十分高くした場合も十分な増感効果が得られなかった。また、重量平均分子量が12000のポリエチレングリコールを使用した場合は2回の測定において、更に重量平均分子量が20000のポリエチレングリコールを使用した場合は5回の測定において測定開始後5分以降発色強度が経時的に強くなり、発色強度の再現性が悪かった。
【0077】
比較例2〔ポリエチレングリコールを乾固した免疫クロマトグラフィーテストストリップを使用したストレプトコッカス・ミュータンスの糖鎖抗原を含む被検液の分析〕
(1)〔遠心分離法を使用した亜硝酸抽出法によるポリエチレングリコールを含まない被検液の調製〕
実施例1(1)で調製した、1×10個/mlのIngbritt抗原抽出原液を、検体希釈液で10倍希釈することで、1×10個/mlのIngbritt抽出抗原を含む被検液を得た。
【0078】
(2)〔ポリエチレングリコールを乾固した免疫クロマトグラフィーテストストリップの作製〕
金コロイド標識抗体を実施例1(2)と同様に作製した。ニトロセルロースメンブレン、サンプルパッド、及び吸収パッドは実施例1(3)と同様の処理を施した。
【0079】
標識体保持部2であるコンジュゲートパッド(MILLIPORE社、7.5mm×6mm)を0.5%PVA−0.5%ショ糖水溶液中で1分間振とう後取り出し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。実施例1(2)で調製した金コロイド標識抗体に、A520=1.0、終濃度9.6%となるようPEG6000を添加した。コンジュゲートパッド2に、該金コロイド標識抗体を25μl添加し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。同様に、20.0%のPEG3000或いは8.8%のPEG8000を含む、A520=1.0の金コロイド標識抗体25μlを添加し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。
【0080】
このように調製した、図1に示すような免疫クロマトグラフィーテストストリップの各構成部分をプラスチックの支持台上に配置し、図2に示すような免疫クロマトグラフィーテストストリップを組み立てた。
【0081】
(3)〔免疫クロマトグラフィー法における被検液の分析〕
免疫クロマトグラフィーテストストリップのサンプルパッド2上に、上記比較例2(1)で得られた被検液100μlを添加し、5分、10分、20分、30分後にスポット発色の有無と強度を判定した。測定は、各被検液ごとに5回行った。判定は、実施例1(4)と同様に行った。結果を表5に示した。同様に、検体希釈液を分析した結果を表6に示した。
【0082】
【表5】
Figure 0004030438
【0083】
【表6】
Figure 0004030438
【0084】
表5、表6より、重量平均分子量が3000、6000、8000のポリエチレングリコールを乾固した免疫クロマトグラフィーテストストリップを使用した場合は、測定開始後5分以降発色強度が経時的に強くなり発色が安定せず、短時間に、且つ再現性よく判定することができなかった。
【0085】
実施例2〔ストレプトコッカス・ミュータンスの糖鎖抗原を含む被検液の調製と免疫クロマトグラフィー法による分析(2)〕
(1)〔遠心分離法を使用した亜硝酸抽出法による被検液の調製〕
実施例1(1)と同様に、1×10個/mlのIngbritt抗原抽出原液及び検体希釈液を調製した。
【0086】
2gのデキストラン(重量平均分子量6000)を全量10mlとなるよう検体希釈液に溶解し、20%デキストランを含む検体希釈液を調製した。100μlのIngbritt抗原抽出原液と780μlの検体希釈液及び120μlの20%デキストランを含む検体希釈液を混合することで、終濃度2.4%のデキストランを含む1×10個/mlのIngbritt抽出抗原を含む被検液を得た。
【0087】
同様の方法にて、それぞれ重量平均分子量6000のPEG、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を含む検体希釈液とIngbritt抗原抽出原液、及び検体希釈液を混合し、終濃度2.4%の上記水溶性高分子を含み、且つ1×10個/mlのIngbritt抽出抗原を含む被検液を得た。
【0088】
(2)〔免疫クロマトグラフィーテストストリップの作製〕
実施例1(2)、(3)の方法に従い、免疫クロマトグラフィーテストストリップを組み立てた。
【0089】
(3)〔免疫クロマトグラフィー法における被検液の分析〕
免疫クロマトグラフィーテストストリップのサンプルパッド2上に、上記(1)で得られた各種被検液100μlを添加し、5分、10分、20分、30分後にスポット発色の有無と強度を判定した。測定は、各被検液ごとに5回行った。判定は、実施例1(4)と同様に行った。結果を表7に示した。同様に、終濃度2.4%の(1)の各種水溶性高分子を含む検体希釈液調製し、同様に分析した。結果を表8に示した。
【0090】
【表7】
Figure 0004030438
【0091】
【表8】
Figure 0004030438
【0092】
表7、表8より、ポリエチレングリコール又はヒドロキシプロピルセルロースを使用した場合は、特に高い発色強度が得られ、且つ、短時間に再現性よく判定することができた。
【0093】
実施例3〔免疫クロマトグラフィー法測定キットを使用した唾液からのストレプトコッカス・ミュータンスの検出〕
(1)〔唾液の採取と培養法による唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス濃度の測定〕
被験者にパラフィンペレットを5分間噛ませ、分泌された唾液を滅菌容器に吐き出させることで回収した。
【0094】
得られた唾液を40W、10秒間超音波処理した後、適宜希釈して、100μlをミチス・サリバリウス・バシトラシン(以下、「MSB」と表記することもある。)固体培地上に添加し、37℃、嫌気条件下、48時間培養した。MSB固体培地上に生じるコロニー数を計数し、唾液の希釈率から、ストレプトコッカス・ミュータンス濃度を個/mlとして算出した。MSB固体培地上には主としてストレプトコッカス・ミュータンスとストレプトコッカス・ソブリヌスが、また、一部の口腔内細菌が生育する。コロニーの形態学的分類、及び形態学的に識別不可能なコロニーに関しては、該コロニーを純粋培養後、ミュータンスレンサ球菌の血清型特異的な抗体を利用した免疫学的測定方法及び、糖発酵試験等の生化学的方法により、ストレプトコッカス・ミュータンスをストレプトコッカス・ソブリヌス及び他の口腔内細菌と識別し、ストレプトコッカス・ミュータンス濃度を測定した。
【0095】
(2)〔濾過装置を使用した亜硝酸抽出法による被検液の調製〕
SCカートリッジ8(マルエム社)に直径12mmの円形に切り取ったガラス繊維濾紙9(アドバンテック東洋社、GA−100)をセットし、図3の構造の濾過装置7を作製した。
【0096】
(1)で採取した唾液0.5mlを濾過装置7に添加し、シリンジをセットした蓋10を閉めてシリンジにより加圧濾過した。蓋10を開け、濾過装置7に500μlの0.1M NaOH水溶液を添加し同様に濾過した。次いで、200μlの1M酢酸水溶液と200μlの4.8%PEG6000を含む2M亜硝酸ナトリウム水溶液を混合し、0.5M酢酸−1M亜硝酸ナトリウム−2.4%PEG6000水溶液を調製した。250μlの0.5M酢酸−1M亜硝酸ナトリウム−2.4%PEG6000水溶液を濾過装置7に添加し、直ちにシリンジで加圧し濾過した。室温で2分間放置した後、2.4%のPEG6000を含む0.5Mトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)150μlを添加し、加圧濾過することで約150μlの濾液を回収した。このようにして得られた濾液を、終濃度2.4%のPEG6000を含む被検液とした。
【0097】
同様に、10%PEG3000を含む2M亜硝酸ナトリウム水溶液と5%のPEG3000を含む0.5Mトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)、4.4%PEG8000を含む2M亜硝酸ナトリウム水溶液と2.2%のPEG8000を含む0.5Mトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)をそれぞれ使用し、上記PEG6000の場合と同様の操作に従い所定の重量平均分子量のPEGを所定の濃度で含 む被検液を得た。
【0098】
(3)〔免疫クロマトグラフィーテストストリップによる被検液のストレプトコッカス・ミュータンスの測定〕
実施例1(2)、(3)の方法に従い、免疫クロマトグラフィーテストストリップを作製した。該免疫クロマトグラフィーテストストリップのサンプルパッド1上に、(1)で得られた各種被検液100μlを添加し、5、10、30分後のスポット発色の有無と強度を判定した。判定は、実施例1(4)と同様に行った。
【0099】
免疫クロマトグラフィーテストストリップの判定結果と、(1)の培養法により得られた唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス濃度とを比較した。結果を表9に示す。
【0100】
【表9】
Figure 0004030438
【0101】
表9より、重量平均分子量が3000、6000、8000のPEGを添加した場合は、発色が短時間に(5分以内に)飽和し、以降で判定は変わらなかった。被検液中に含まれる糖鎖抗原濃度は、唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス濃度に相関することから、迅速、簡便に、且つ再現性良く糖鎖抗原濃度、言い換えれば、唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス濃度を測定できた。
【0102】
比較例3〔PEGを使用しない免疫クロマトグラフィー法による唾液からのストレプトコッカス・ミュータンスの検出〕
(1)〔唾液の採取と培養法による唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス濃度の測定〕
実施例3(1)の方法に従った。
【0103】
(2)〔濾過装置を使用した亜硝酸抽出法によるPEGを含まない被検液の調製〕
SCカートリッジ8(マルエム社)に直径12mmの円形に切り取ったガラス繊維濾紙9(アドバンテック東洋社、GA−100)をセットし、図3の構造の濾過装置7を作製した。
【0104】
(1)で採取した唾液0.5mlを濾過装置7に添加し、シリンジをセットした蓋10を閉めてシリンジにより加圧濾過した。蓋10を開け、濾過装置7に500μlの0.1M NaOH水溶液を添加し同様に濾過した。次いで、250μlの0.5M酢酸−1M亜硝酸ナトリウム水溶液を濾過装置7に添加し、直ちにシリンジで加圧し濾過した。室温で2分間放置した後、0.5Mトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)150μlを添加し、加圧濾過することで約150μlの濾液を回収した。このようにして得られた濾液を、PEGを含まない被検液とした。
(3)〔免疫クロマトグラフィーテストストリップによるPEGを含まない被検液のストレプトコッカス・ミュータンスの測定〕
実施例1(2)、(3)の方法に従い、免疫クロマトグラフィーテストストリップを作製した。該免疫クロマトグラフィーテストストリップのサンプルパッド1上に、(2)で得られた被検液100μlを添加し、5、10、30分後のスポット発色の有無と強度を判定した。判定は、実施例1(4)と同様に行った。
【0105】
免疫クロマトグラフィーテストストリップの判定結果と、上記比較例3(1)の培養法により得られた唾液中のストレプトコッカス・ミュータンス濃度とを比較した。結果を表10に示す。
【0106】
【表10】
Figure 0004030438
【0107】
表10より、PEGを添加しない被検液を分析した場合は、発色強度が不足しており、陽性の判定が得られるまでに長時間(10〜30分)を要した。
【0108】
【発明の効果】
本発明によれば、免疫クロマトグラフィー法において、極めて高感度に測定を行うことができる。加えて、検出部位の発色のテストストリップ間差を無くすことができるので、被検液中の分析対象物質の濃度を、短時間に、再現性良く測定することが可能な免疫クロマトグラフィー法に基づく免疫学的測定方法を提供できる。本発明によれば、従来その測定を再現性良く実施することが困難であった亜硝酸抽出溶液のような、展開性の悪い被検液中に含まれる分析対象物質を短時間に、再現性良く、高感度に測定できる。
【0109】
また、本発明によれば、免疫クロマトグラフィーテストストリップ及び被検液の調製用試薬からなる、迅速、且つ簡便に実施可能で、短時間に且つ再現性良く被検液中に含まれる分析対象物質を測定可能な免疫クロマトグラフィー法測定キットが提供される。このようなキットを使用し、例えば唾液中のミュータンスレンサ球菌等の齲蝕関連菌濃度などを、再現性良く短時間に、高感度に測定することができる。
【0110】
このように、本発明により、免疫クロマトグラフィー法に基づく迅速且つ正確な免疫学的測定方法、並びに免疫学的測定キットを提供できるので、環境分析や臨床検査の分野に与える影響は計り知れない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本図は、本発明の免疫クロマトグラフィー法で使用するテストストリップの各部材の概略図である。
【図2】本図は、本発明の免疫クロマトグラフィー法で使用するテストストリップの側面図である。
【図3】本図は、本発明の免疫クロマトグラフィー法キットで使用する唾液処理用の濾過装置の側面図である。
【符号の説明】
1・・・被検液保持部
2・・・標識体保持部
3・・・展開メンブレン部
4・・・吸収部
5・・・検出用抗体または検出用抗原が固定化された部位(検出部位)
6・・・コントロール判定部位
7・・・濾過装置
8・・・SCカートリッジ
9・・・ガラス繊維濾紙
10・・蓋

Claims (6)

  1. 下記の部位
    i) 被検液を一時的に吸収し保持するための被検液保持部、
    ii) 標識抗体または標識抗原が一時的に保持された標識体保持部、並びに
    iii) 検出用抗体または検出用抗原が固定化され、前記被検液保持部に一時的に吸収し保持された被検液および該被検液に随伴して前記標識体保持部より流出した標識抗体または標識抗原が展開される展開メンブレン部
    を有し、これらの部位が上記順序で配置された免疫クロマトグラフィーテストストリップを用いて、被検液中の抗原または抗体を検出する免疫学的測定方法において、予め被検液に、重量平均分子量が2000〜9000である非イオン性水溶性高分子を溶解させることを特徴とする免疫学的測定方法。
  2. 重量平均分子量が2000〜9000である非イオン性水溶性高分子が、ポリアルキレングリコール類および/またはセルロース類である請求項1に記載の免疫学的測定方法。
  3. 被検液が、糖鎖抗原を有する微生物から該糖鎖抗原を亜硝酸抽出法により抽出した液である請求項1または請求項2に記載の免疫学的測定方法。
  4. 糖鎖抗原を有する微生物が、齲蝕関連菌である請求項1〜3に記載の免疫学的測定方法。
  5. (a)下記の部位
    i) 被検液を一時的に吸収し保持するための被検液保持部、
    ii) 標識抗体または標識抗原が一時的に保持された標識体保持部、並びに
    iii) 検出用抗体または検出用抗原が固定化され、前記被検液保持部に一時的に吸収し保持された被検液および該被検液に随伴して前記標識体保持部より流出した標識抗体または標識抗原が展開される展開メンブレン部
    を有し、これらの部位が上記順序で配置された免疫クロマトグラフィーテストストリップ、および
    (b)1種または2種以上の被検液の調製用試薬からなり、
    該(b)被検液の調製用試薬の少なくとも1種に、重量平均分子量が2000〜9000である非イオン性水溶性高分子が含まれてなる免疫クロマトグラフィー法測定キット。
  6. 被検液に含有される抗原が、糖鎖抗原を有する微生物の該糖鎖抗原であり、該被検液が、上記糖鎖抗原を有する微生物から該糖鎖抗原を亜硝酸抽出法により抽出することにより調製されるものであり、且つ重量平均分子量が2000〜9000である非イオン性水溶性高分子が含まれてなる被検液の調製用試薬が、亜硝酸水溶液からなる抽出液および/または中和用塩基性水溶液である請求項5記載の免疫クロマトグラフィー法測定キット。
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