JP4023988B2 - コークス炉の炉壁診断方法および診断装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コークス炉の燃焼室または炭化室の炉壁煉瓦の凹凸部位を、炉上から非接触で容易かつ精度良く判定する炉壁診断方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
〈コークス炉の構造〉
現在広く普及している室炉式コークス炉にあっては、炭化室と燃焼室とが交互に多数並列に設けられている。炭化室、燃焼室は、耐火煉瓦を組み合わせて築造されている。燃料ガスを燃焼させるための燃焼室の上部には、内部を覗くことのできる覗き穴が設けられている。炭化室に装入孔から装入された石炭は、その両側に位置する燃焼室から炉壁を介して熱を得て乾留される。乾留終了後のコークスは、押出機により炭化室から窯出しされて消火され、製品コークスとなる。
【0003】
〈炉壁の診断〉
コークス炉寿命の判断指標の一つとして、コークス炉の燃焼室または炭化室の壁(炉壁)の煉瓦の損傷状態を目安とすることがある。炉壁の損傷の原因には、煉瓦の目地開き、亀裂、および角欠け、欠損等の進行により炭化室壁の平滑性が損なわれること、また石炭乾留時に発生する炭素が炉壁に付着、成長して厚く層を形成することなどがある。このような原因により、炉壁には凹凸を生ずるようになるが、凹凸の有無および凹凸の部位を知ることは、炉壁の損傷状態の把握および長寿命化のためのダメージ低減対策(たとえば補修や炭素焼き落とし)を講ずる上で重要である。
【0004】
〈炉壁の診断方法〉
コークス炉炭化室の炉壁の損傷状態を非接触で知る方法として、光学的距離計を利用して炭化室の炉幅などを測定する方法が提案されている。
【0005】
(イ)炭化室装入孔から測定装置を挿入する方法
特開昭63−191005号公報には、光源から所定方向に光を出射し、その出射光を反射面にて反射し、反射した光を炭化室壁面の第1測定点へ投射し、第1測定点からの反射光を前記反射面に入射し、その入射光に基き所定点から第1測定点までの第1距離を検出する一方、前記反射面の方向を変化させて光源からの光を反射し、反射した光を第1測定点と対向する壁面における第2測定点へ投射し、第2測定点からの反射光を位置を変化させた反射面に入射し、その入射光に基き所定点から第2測定点までの第2距離を検出し、さらに第1距離と第2距離とに基いて、第1測定点から第2測定点までの炭化室幅を算出するようにしたコークス炉の炭化室幅測定方法および装置が示されている。そして実施例においては、その第1図のように、炭化室の上部に開口する装入口(装炭口)から、台車に支持された水冷ランスを下降させ、その水冷ランスの先端に取り付けられた測定装置によって測定を行っている。
【0006】
(ロ)炭化室の窯口から測定装置を挿入する方法
特開昭62−293112号公報には、押出機のラムまたはラムビームにそれぞれの側壁に指向する1対または複数対の非接触式距離計を設け、またラム移動機構にラムの水平移動量検知計を設け、両測定信号を同定して表示する表示手段を具備したコークス炉炭化室巾測定装置が示されている。非接触式距離計としては、レーザ光、マイクロ波などの距離計があげられ、実施例では近距離測定用レーザ反射式変位計を用いている。
【0007】
特開平3−269209号公報には、押出機の押出ラムまたはラムビームに炭化室の両側壁に指向するように設けられた1対の非接触式の距離センサを用いてそれぞれの側壁までの距離を検出する工程と、前記押出機に取り付けられた位置測定手段を用いて前記ラムビームと前記炭化室との相対的な位置関係から前記距離センサの偏れ量を検出する工程と、この偏れ量に基いて前記側壁までのそれぞれの距離測定値を補正する工程とからなるコークス炉炭化室の側壁面プロフィルの測定方法および装置が示されている。非接触式の距離センサとしては、従来技術の説明の中で先の特開昭62−293112号公報でレーザ光やマイクロ波などの非接触式の距離センサを用いていることを引用していることから、そのようなものを用いていると思われる。
【0008】
実開昭63−145840号公報(実公平4−54208号公報)には、押出機の作動部に設置され、光源から光を炭化室の壁面へ投射し、壁面からの反射光に基き炭化室幅を測定する装置であって、光源からの光を出射し、その反射光に基き距離を算出する距離計と、光源からの出射光を反射して炭化室の両壁面それぞれへ投射すると共に、これらの壁面からの反射光を距離計へ反射する反射鏡と、その反射鏡と同一平面上に設けられた撮像用反射面と、その撮像用反射面に反射された映像を撮影する撮像装置と、これら距離計と反射鏡と撮像用反射面と撮像装置とからなる装置主要部を弾力的に保持する緩衝手段と、その装置主要部の冷却手段とを備えたコークス炉の炭化室幅測定装置が示されている。距離計としては、実施例においては、レーザ光を出射する光源と、測定対象からの反射光を入射する検出器とからなる光学的距離計を用いている。
【0009】
(ハ)炭化室の窯口から測定装置を挿入する方法(光学的距離計は炭化室の外に配置)
特開平5−180623号公報には、炭化室の窯口から炭化室内に水平移動可能な液体または気体冷却式のゾンデを挿入し、前記測定装置に設けられた2つの光学式距離計に内蔵されている光源から光を投射し、投射された光をゾンデ先端部内に設けられたミラーを経て、その先端部両側面の投射孔から炭化室の両壁面に投射し、両側面からの反射光によって前記2つの光学的距離計の各々から炭化室の両側面の各々までの距離を検出し、予め知られている前記2つの光学式距離計の各々から前記ミラーまでの距離に基いて、前記炭化室の幅を算出するようにしたコークス炉における炭化室の幅の測定方法が示されている。光学的距離計としては、実施例においては、光源を内蔵するレーザ光による距離計を用いている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上記(イ)のように炭化室装入孔から測定装置を挿入する方法、あるいは上記(ロ)のように炭化室の窯口から測定装置を挿入する方法は、測定装置の挿入および熱からの保護のために特別の付帯装置を設けなければならないので、測定装置全体が大きくなったり、移動に複雑な制御を必要としたり、固定し取り付けられた測定用検出器の数が限られている場合には、検出器の近傍のみしか測定できないことから、測定部位が制限されたりするなどの不利がある。装置が大掛かりとなることは、移動を簡単には行いがたいので、コークス炉の操業の支障にもなる。
【0011】
この点、上記(ハ)のように、炭化室の窯口から測定装置を挿入するが、光学的距離計は炭化室の外に配置する方法は、光学的距離計自体は高温にさらされないものの、炭化室の窯口から炭化室内に水平移動可能な液体または気体冷却式のゾンデを挿入しなければならず、またゾンデ先端部内にミラーを設けなければならないので、上記(イ)および(ロ)の場合と同様にやはり装置が大掛かりとなり、操作性も劣る。
【0012】
加えて、上記(イ)、(ロ)、(ハ)のいずれの場合も、炭化室の幅に関する情報を得ることはできても、燃焼室の炉壁についての情報を得ることはできないという限界がある。
【0013】
本発明は、このような背景下において、コークス炉の燃焼室または炭化室の炉壁煉瓦の凹凸部位を、炉上から非接触で容易かつ精度良く判定する炉壁診断方法を提供することを目的とするものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明のコークス炉の炉壁診断方法の1つは、
コークス炉の測定対象室(2) の炉壁(3) の状態を炉上からの測定により診断する方法であって、
前記の測定対象室(2) が燃焼室(2X)または空窯状態にある炭化室(2Y)であり、その燃焼室(2X)の覗き穴(4) またはその炭化室(2Y)の装入孔(5) から内部を覗くように炉上に位置させたレーザ距離計(1) からレーザ光を発して、その燃焼室(2X)またはその炭化室(2Y)の炉壁(3) を走査すること、
その走査に際しては、炉上に位置させたレーザ距離計(1) のレーザ光照射部(11)を、基準点(12)回りに回動または回転させることにより照射角度αを連続的にまたは断続的に変化させながら、そのレーザ光照射部(11)からレーザ光を発して測定対象室(2) の炉壁(3) を走査すること、この場合、炉上に位置させたレーザ距離計(1) は、そのレーザ光照射部(11)を含めて、燃焼室(2X)の覗き穴(4) または炭化室(2Y)の装入孔(5) の内部には入り込まないようにすること、
前記の走査により、レーザ光照射角度αと、基準点(12)から炉壁(3) の照射部位までの距離dとの関係を直接的にまたは間接的に示す情報を得、その情報に基いて炉壁(3) の凹凸状況を知ることによりその炉壁(3) の診断を行うこと、
前記の基準点(12)から鉛直方向下方に向かう線を基準線とするとき、基準線とレーザ光軌跡とのなす照射角度αのうち、測定対象室(2) の炉長方向の角度成分τと、炉幅方向の角度成分θとを用いて、距離dとの関係を直接的にまたは間接的に示す情報を得ること、 対照情報と、実際の測定により得られた炉壁(3) の状態とを対比して、実炉の炉壁(3) の凹凸状況を把握すること、
を特徴とするものである。
【0015】
本発明のコークス炉の炉壁診断方法の他の1つは、
コークス炉の測定対象室 (2) の炉壁 (3) の状態を炉上からの測定により診断する方法であって、
炉上に位置させたレーザ距離計(1) のレーザ光照射部(11)を、基準点(12)回りに回動または回転させることにより所定の照射角度αに設定可能とし、前記レーザ距離計(1) を水平方向に移動させながら、そのレーザ光照射部(11)からレーザ光を発して測定対象室(2) の炉壁(3) を走査すること、
その走査により、レーザ距離計(1) の移動距離Lと、基準点(12)から炉壁(3) の照射部位までの距離dとの関係を直接的にまたは間接的に示す情報を得、その情報に基いて炉壁(3) の凹凸状況を知ることによりその炉壁(3) の診断を行うこと
を特徴とするものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳細に説明する。
【0017】
〈測定対象室(2) 〉
本発明のコークス炉の炉壁診断方法は、コークス炉の測定対象室(2) の炉壁(3) の状態を炉上からの測定により診断する方法にかかるものである。
【0018】
コークス炉の測定対象室(2) としては、まず燃焼室(2X)があげられる。燃焼室(2X)の上部には覗き穴(4) があるので、炉上からその覗き穴(4) を通して内部にレーザ光を発することができる。覗き穴(4) の直径は、たとえば120mmである。
【0019】
コークス炉の測定対象室(2) としては、炭化室(2Y)もあげられる。炭化室(2Y)の上部には石炭装入のための装入孔(5) がたとえば5個あるので、炉上からその装入孔(5) を通して内部にレーザ光を発することができる。なお炭化室(2Y)が石炭装入工程から乾留工程を経てコークス窯出し工程にあるときは、レーザ光を炉壁(3) で走査することができないので、本発明においては空窯状態にある炭化室(2Y)を走査の対象とする。装入孔(5) の直径は、たとえば440mmである。
【0020】
〈レーザ光の走査方法/その1〉
そして本発明においては、炉上に位置させたレーザ距離計(1) のレーザ光照射部(11)を、基準点(12)回りに回動または回転させることにより照射角度αを連続的にまたは断続的に変化させながら、そのレーザ光照射部(11)からレーザ光を発して測定対象室(2) の炉壁(3) を走査する。
【0021】
そしてその走査により、レーザ光照射角度αと、基準点(12)から炉壁(3) の照射部位までの距離dとの関係を直接的にまたは間接的に示す情報を得、その情報に基いて炉壁(3) の凹凸状況を知ることによりその炉壁(3) の診断を行う。
【0022】
より具体的に述べると、基準点(12)から鉛直方向下方に向かう線を基準線とするとき、基準線とレーザ光軌跡とのなす照射角度αのうち、測定対象室(2) の炉長方向の角度成分τと、炉幅方向の角度成分θとを用いて、距離d(またはそのdに相関する距離、たとえば炉底からの高さ、以下同様)との関係を示す情報を得るようにする。理解を容易にするため、以下、いくつかの態様をあげてみる。
【0023】
(イ)τ=0に固定すると共に、θが変化するようにすれば、測定対象室(2) の片側または両側の炉壁(3) を鉛直方向に走査することができる(後述の図2や図6を参照)。
【0024】
(ロ)τを0以外のある値に設定すると共に、θが変化するようにすれば、τを0に固定したときとは違う位置において炉壁(3) を鉛直方向に走査することができる。この方法は、燃焼室(2X)の覗き穴(4) や炭化室(2Y)の装入孔(5) の直下から外れた炉壁(3) を走査できる点でメリットがある。
【0025】
(ハ)上記(イ)のように、まず、τ=0に固定すると共に、θが変化するようにして走査して、炉壁(3) の凹凸部位を発見してから(その凹凸の縦方向の形状がわかる)、その凹凸部位に相当するθ範囲で何点かθを固定してτを変化させれば、その凹凸の横方向の形状を知ることができる。
【0026】
(ニ)さらに一般化し、τとθの双方を適当な任意に組み合わせとなるように面状に走査すれば、炉壁(3) の一定領域を走査することができると共に、炉壁(3) に関する凹凸部位の立体的なマップを作成することができる。
【0027】
上記(イ)〜(ニ)のような走査を行うことにより、角度α(τ、θ)と距離dとの相関関係が得られるので、対照情報(たとえば、凹凸のない炉壁を想定して予め作成した想定線や想定プロフィール、築炉当初の炉壁設計図、過去に実測したデータなど)と、実際の測定により得られた炉壁(3) の状態とを対比すれば、実炉の炉壁(3) の凹凸状況を定量的に把握することができ、また視覚的に把握するように工夫することもできる。
【0028】
レーザ距離計(1) に、入力、演算、記憶、表示、出力を行うパソコンのような装置を接続すれば、ごく簡単な操作により、炉壁(3) の凹凸状況が把握できるので、炉壁の診断を容易に行うことができる。この場合、パソコン等によるデータ処理により、後述の図10のように、炉壁(3) の一定領域にわたってリアルな三次元画像を表示または出力するようにして、凹凸部の部位や形状を視覚化することもできる。
【0029】
〈レーザ光の走査方法/その2〉
上記のレーザ光の走査方法にあっては、炉上に位置させたレーザ距離計(1) のレーザ光照射部(11)を、基準点(12)回りに回動または回転させることにより所定の照射角度αに設定可能とし、ついで前記レーザ距離計(1) を水平方向に移動させながら、そのレーザ光照射部(11)からレーザ光を発して測定対象室(2) の炉壁(3) を走査することもできる。
【0030】
そしてその走査により、レーザ距離計(1) の移動距離Lと、基準点(12)から炉壁(3) の照射部位までの距離dとの関係を直接的にまたは間接的に示す情報を得、その情報に基いて炉壁(3) の凹凸状況を知ることによりその炉壁(3) の診断を行う。
【0031】
この「その2」の方法も、先の「その1」の方法と同様に採用しうるが、燃焼室(2X)の覗き穴(4) や炭化室(2Y)の装入孔(5) の大きさに制限があるので、適用する場が限られることがある。
【0032】
〈診断を行うための装置〉
上記診断を行うための装置としては、好適には、レーザ距離計(1) を備えた装置が用いられる。レーザ距離計(1) の原理は、出・反射光の位相差から距離を測定するもの、つまり、照射光と戻ってくる波の位相差に基いて演算処理されるものである。レーザ距離計(1) はコークス炉の炉上に位置させて用いるので、測定対象室(2) の熱の影響を受けにくく、特別の冷却手段を要しない。ただし、測定時にはエアをスカーフィングするなど何らかの手段を講じて、炉内からの熱を遮断する方が望ましい。
【0033】
本発明においては、レーザ距離計(1) として、移動可能な架台(13)に、基準点(12)回りに回動または回転可能にレーザ光照射部(11)が設けられているものを用いる。架台(13)は、車輪を備えていることが好ましい。またレーザ距離計(1) に付帯する手段として、レーザ光による炉壁(3) 走査時のレーザ光照射角度αを設定する手段と、基準点(12)から炉壁(3) の照射部位までの距離d(またはそのdに相関する距離)を測定する手段と、それらの照射角度α(τ、θ)と距離d(またはそのdに相関する距離)との関係を演算する手段とを備えているようにする。
【0034】
【実施例】
次に実施例をあげて本発明をさらに説明する。実施例1および3は、測定対象室(2) が炭化室(2Y)であるときおよび燃焼室(2X)であるときの双方に適用できる。実施例2は、炭化室(2Y)には適用できるものの、覗き穴(4) が小さい燃焼室(2X)には適用しがたい。
【0035】
実施例1(モデル例)
図1は、本発明の炉壁の診断方法に用いる炉壁診断装置の一例を示した説明図である。図2は、その図1の装置を用いて炉壁の診断を行う方法の一例を示した原理図である。
【0036】
図1において、車輪付きの移動可能な三角形の枠状の架台(13)に、レーザ距離計(1) の主要部をなすレーザ光照射部(11)が設けられている。このレーザ光照射部(11)は、架台(13)の三角形の枠の頂点にあたる基準点(12)回りに回動または回転可能に取り付けられている。レーザ距離計(1) の制御と測定データの採取のために、パソコン(14)も設置されている。
【0037】
レーザ光照射部(11)の回動または回転は、上記の基準点(12)から鉛直方向下方に向かう線を基準線とするとき、図示せざる駆動手段により、基準線とレーザ光軌跡とのなす照射角度がαとなるようにされている。この照射角度αは、測定対象室(2) の炉長方向の角度成分τと、炉幅方向の角度成分θとに分けられるが、この実施例1においては、図2のように、τは0に固定され、θを変化できるようにしてある。図2には、炉壁(3) が凹凸を有する場合も示してある。dはレーザ光軌跡の長さである。
【0038】
図3に、図2において凹凸のない炉壁(3) を想定し、レーザ光照射部(11)をθが0°近くから45°になるまで回動させたときのθとdとの関係をモデル的に示したグラフを示す。このグラフの曲線が、凹凸のない炉壁(3) を示す対照線となる。なおこの図3は、図2において、基準点(12)が炉上よりHb =225mmだけ高い位置にあり、基準線が両炉壁(3), (3)間の中央鉛直方向にあり、基準線と各炉壁(3), (3)間の距離W,Wがそれぞれ225mmで、基準点(12)から炉底までの高さH1 +H2 +H3 が6000mmである場合を示してある。
【0039】
図4は、図2において凹凸のある炉壁(3) を想定したときのθとdとの関係を、図3と同様にモデル的に示したグラフである。図2のように炉壁(3) に凸部があるときは、レーザ光がその凸部にさしかかったときに曲線が下側にずれる。また、図2のように炉壁(3) に凹部があるときは、レーザ光がその凹部にさしかかったときに曲線が上側にずれる。従って、図3の対照線と対比すれば、凹凸部の位置が判明し、その凹凸部の概略の大きさや形状も判明する。
【0040】
実施例2(モデル例)
図5は、先の図1の装置を用いて炉壁の診断を行う方法の他の一例を示した原理図である。
【0041】
この実施例は、図5のように、θおよびHb を一定にして、基準点(12)を水平方向に移動させていく場合を示してある。移動距離をLとし、凹凸のない炉壁(3) を想定して、そのLとdとの関係を予め求めておけば、実際の測定対象室(2) につき同様の操作を行ったときに、炉壁(3) に凹凸があるかどうか、炉壁(3) のどの部位に凹凸があるかがわかる。
【0042】
実施例3(モデル例)
図6は、先の図1の装置を用いて炉壁の診断を行う方法のさらに他の一例を示した原理図である。
【0043】
図7は、図6において、レーザ光照射部(11)を回動させたときのθとdとの関係をモデル的に示したグラフである。
【0044】
図7の太線は、凹凸のない炉壁(3) を想定してレーザ光の走査を行ったときのθとdとの関係を示したものであり、これが対照線となる。図7の細線は、凹凸のある炉壁(3) を想定してレーザ光の走査を行ったときのθとdとの関係を示したものである。なお図7の太い点線は、凹凸のない炉壁(3) を想定してレーザ光の走査を行ったときの炉底からの高さとθとの関係を示したものである。
【0045】
図7によれば、θを高角度から低角度に変化させていくとき、θが34°と22°の辺りで細線が太線から下側に乖離していることがわかる。このときのθに基いて、レーザ測定点の炉底からの高さ(照射位置)を示す太い点線を見て図の右側の目盛を読めば、炉底からの高さがそれぞれ1550mm、1050mmの位置に凸部があることがわかる。この位置が図6の2個所の凸部に相当する。
【0046】
実施例4(実炉例)
図8は、コークス炉の燃焼室(2X)の覗き穴(4) からレーザ光を走査したときの測定順とdとを実測したときの関係を示したグラフである。
【0047】
横軸は、炉底から順に垂直な炉壁(3) に向けてレーザ光をあて、一定の角度でθを低角度から高角度に変化させていったときの各測定点の順番である。縦軸dは、レーザ光軌跡の長さである。
【0048】
図8において、測定順1から7までは、レーザ光が燃焼室(2X)底部を走査している段階である。測定順8から11においては、燃焼室(2X)底部には段差やガス孔やエアー孔があるため、θの割にはdが長くなっている。測定順11を過ぎたところから、レーザ光は炉壁(3) を走査する。凹凸のない垂直な壁面であれば、一定角度で照射角度を変化させた場合、先の図7の例のようにθに対してdの変化は滑らかな曲線となるが、測定順11から12において急激な変化が見られることは、炉壁(3) の測定順12に相当する部分に凸部の先端や角があたっていることを示している。なお、測定順17〜20においては、レーザ光は測定対象外の部分(燃焼室(2X)内の最上部から覗き穴(4) の間、つまり、補助フリューダンパーや小径孔部分)を走査している。
【0049】
以上の測定順とレーザ光による燃焼室(2X)の走査部分との関係をまとめると、次のようになる。
測定順 1〜 7:底部
測定順 8〜11:底部ガス孔またはエアー孔
測定順12〜16:炉壁(3) をレーザ光が底部側から走査中
(測定順12においては測定順11からの変化が大)
測定順17〜20:測定対象外の部分
【0050】
燃焼室(2X)の場合には、覗き穴(4) は非常に小さいため、θを余り大きくできない。この場合、測定精度を高く考えなければ、レーザ光軌跡の長さdは基準点(12)から炉壁(3) の凸部までの距離とほぼ同じと考えることができる。従って、図8より、基準点(12)よりほぼ 6.5mの下方の部位に凸部が1個所あると判定することができる。また、炉底から基準点(12)までの距離から測定値dを差し引くことによって、この凸部の炉底からの高さを知ることができる。
【0051】
実施例5(マップ作成例)
コークス炉の炭化室(2Y)の装入孔(5) から内部を覗くように炉上に設置したレーザ距離計(1) からレーザ光を発して、その炭化室(2Y)の一方の炉壁(3) を走査した。このときには、図9のように、装入孔(5) からレーザ光を発しうる範囲において、τを種々に設定し、そのτについてθを変化させて炉壁(3) を鉛直方向に走査した。走査範囲は、炉上から装入孔(5) を通してレーザ光を照射しうる炉壁(3) の任意の範囲であり、矩形、円形など任意に領域を選択することができる。
【0052】
得られたデータをパソコンで処理することにより、τおよびθを炉長方向の高さおよび炉幅方向の長さに変換すると共にグラフ化して、図10の三次元マップを出力した。図10から、炉壁(3) に存在する凹凸部の位置および概略の形状を直感的かつ視覚的に把握することができる。
【0053】
【発明の効果】
本発明によれば、コンパクトな炉壁診断装置で、コークス炉の燃焼室または炭化室の炉壁煉瓦の凹凸部位を、炉上から非接触で容易かつ精度良く判定することができ、炉壁の診断が達成できる。従って、監視、補修、その他の必要な対策を講ずることができる。
【0054】
また、レーザ距離計(1) を備えた装置は軽量かつコンパクトであり、装置の移動も容易であるので、コークス炉の操業に支障を来すことなく、炉壁診断のための走査、測定が可能である。しかも炉上で取り扱うので、装置に特別の冷却装置を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の炉壁の診断方法に用いる炉壁診断装置の一例を示した説明図である。
【図2】 図1の装置を用いて炉壁の診断を行う方法の一例を示した原理図である。
【図3】 図2において凹凸のない炉壁(3) を想定し、レーザ光照射部(11)をθが0°近くから45°になるまで回動させたときのθとdとの関係をモデル的に示したグラフである。
【図4】 図2において凹凸のある炉壁(3) を想定したときのθとdとの関係をモデル的に示したグラフである。
【図5】 先の図1の装置を用いて炉壁の診断を行う方法の他の一例を示した原理図である。
【図6】 先の図1の装置を用いて炉壁の診断を行う方法のさらに他の一例を示した原理図である。
【図7】 図6において、レーザ光照射部(11)を回動させたときのθとdとの関係をモデル的に示したグラフである。
【図8】 コークス炉の燃焼室(2X)の覗き穴(4) からレーザ光を走査したときの測定順とdとを実測したときの関係を示したグラフである。
【図9】 炭化室(2Y)の装入孔(5) からθおよびτを変化させながら炉壁(3) を走査するときの一例を示した説明図である。
【図10】 図9の方法により得られた三次元マップ図である。
【符号の説明】
(1) …レーザ距離計、
(11)…レーザ光照射部、(12)…基準点、(13)…架台、(14)…パソコン、
(2) …測定対象室、
(2X)…燃焼室、(2Y)…炭化室、
(3) …炉壁、
(4) …覗き穴、
(5) …装入孔
Claims (2)
- コークス炉の測定対象室(2) の炉壁(3) の状態を炉上からの測定により診断する方法であって、
前記の測定対象室(2) が燃焼室(2X)または空窯状態にある炭化室(2Y)であり、その燃焼室(2X)の覗き穴(4) またはその炭化室(2Y)の装入孔(5) から内部を覗くように炉上に位置させたレーザ距離計(1) からレーザ光を発して、その燃焼室(2X)またはその炭化室(2Y)の炉壁(3) を走査すること、
その走査に際しては、炉上に位置させたレーザ距離計(1) のレーザ光照射部(11)を、基準点(12)回りに回動または回転させることにより照射角度αを連続的にまたは断続的に変化させながら、そのレーザ光照射部(11)からレーザ光を発して測定対象室(2) の炉壁(3) を走査すること、この場合、炉上に位置させたレーザ距離計(1) は、そのレーザ光照射部(11)を含めて、燃焼室(2X)の覗き穴(4) または炭化室(2Y)の装入孔(5) の内部には入り込まないようにすること、
前記の走査により、レーザ光照射角度αと、基準点(12)から炉壁(3) の照射部位までの距離dとの関係を直接的にまたは間接的に示す情報を得、その情報に基いて炉壁(3) の凹凸状況を知ることによりその炉壁(3) の診断を行うこと、
前記の基準点(12)から鉛直方向下方に向かう線を基準線とするとき、基準線とレーザ光軌跡とのなす照射角度αのうち、測定対象室(2) の炉長方向の角度成分τと、炉幅方向の角度成分θとを用いて、距離dとの関係を直接的にまたは間接的に示す情報を得ること、
対照情報と、実際の測定により得られた炉壁(3) の状態とを対比して、実炉の炉壁(3) の凹凸状況を把握すること、
を特徴とするコークス炉の炉壁診断方法。 - コークス炉の測定対象室 (2) の炉壁 (3) の状態を炉上からの測定により診断する方法であって、
炉上に位置させたレーザ距離計(1) のレーザ光照射部(11)を、基準点(12)回りに回動または回転させることにより所定の照射角度αに設定可能とし、前記レーザ距離計(1) を水平方向に移動させながら、そのレーザ光照射部(11)からレーザ光を発して測定対象室(2) の炉壁(3) を走査すること、
その走査により、レーザ距離計(1) の移動距離Lと、基準点(12)から炉壁(3) の照射部位までの距離dとの関係を直接的にまたは間接的に示す情報を得、その情報に基いて炉壁(3) の凹凸状況を知ることによりその炉壁(3) の診断を行うこと
を特徴とするコークス炉の炉壁診断方法。
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