JP4023123B2 - ほうろう用鋼板とその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、台所用品、電気製品、建材などに用いられるほうろう用鋼板、特に表面疵が少なく、耐爪飛び性、密着性、耐泡性および加工性が優れたほうろう用鋼板とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
素地金属を鋼板とするほうろう製品は、システムキッチンの流し台、浴槽などの水周り用品、暖房器具や電気製品、鍋やケトルなどの家庭用品、さらには、建築用パネルなどが種々の用途に用いられる。鍋、ケトル、浴槽などに用いられるほうろう用鋼板には優れた加工性が要求される。
【0003】
通常2回掛け以上のほうろう製品は、鋼板を成形加工し、溶接などにより製品形状に組み立てた後、脱脂、酸洗などからなる前処理を施し、下釉薬を施釉して焼成し(下塗り)、次いで上釉薬を施釉し、焼成(上塗り)して製造される。上記上塗りに続いてさらにその上に着色釉薬を施して焼成する場合もある。
【0004】
このように、一般的にほうろう製品は、2回または3回以上の焼成をおこなう「2回掛けほうろう」によって製造されるが、ほうろう工程を短縮するために、下塗りをおこなわないで、前処理した素地鋼板に直接上塗りを行なって製品とする「1回掛けほうろう」製品も製造される。
【0005】
これらの方法により製造されるほうろう製品に発生する様々な欠陥の内で、素地金属である鋼板にも原因があると考えられる欠陥としては、爪飛び、密着性不良、泡立ち、焼成歪みなどがある。
【0006】
爪飛びは焼成後から一週間程度までの間にほうろう層が損傷し、三日月状の割片が剥離する現象である。爪飛びは、ほうろう焼成などの過程において鋼板中に侵入し固溶していた水素が、冷却後に気体となって鋼板と釉薬との界面に集合し、水素ガスによる圧力でほうろう層が破壊されるために発生すると考えられる。
【0007】
密着性不良は、ほうろう面に衝撃が加わった場合などにほうろう層が剥離し、素地鋼板の露出にも至る現象であり、釉薬と素地鋼板との組合せの不適正、あるいは鋼板前処理の不適正などに起因して発生すると考えられる。
【0008】
泡立ちは、焼成中に鋼板に含有されている炭素と釉薬との反応により生じる気体や、鋼板表面の疵部などに残留した物質の気化などにより、ほうろう層に気泡が残存し、ほうろう面に多数のピンホールが生じる現象である。
【0009】
焼成歪みは、炭素を少量含有する鋼の変態温度がほうろうの焼成温度近傍にあって、変態温度近傍では焼成時の昇温にともなう熱膨張が非直線的になるので、これが原因で製品形状が歪む現象である。
【0010】
従来より素地金属である鋼板のほうろう性の良否は、これら全ての性能がその用途に対して満足すべきものなのか否かに基づいて判断されてきた。
2回掛けほうろうの場合、下釉薬として鋼板との密着性が良好なCo を含む釉薬を用い、上釉薬には緻密で綺麗な表面が得られる釉薬を用いることができる。このような下釉薬を用いることにより、ほうろう層の密着性を確保し、爪飛びを抑制し、さらに泡立ちが下釉薬の範囲内で止まることによって隠蔽効果も高めることができる。従って2回掛けほうろうによれば、ほうろう性と良好な外観を兼ね備えた製品が容易に得られる。
【0011】
1回掛けほうろうの場合には、製造工程が短縮できる反面、製品性能は素地金属の影響を強く受けるという難点がある。Co などを含有する釉薬は濃く着色するため、外観を重視する上釉薬に用いることが出来ない。このため、1回掛けほうろうの釉薬は2回掛けの下釉薬に比較して密着性が劣る傾向にあり、爪飛びも発生しやすい。
【0012】
このような問題に対して、特公昭57-49089号公報には鋼中酸素含有量を高めた連続鋳造によるほうろう用鋼の製造法が提案されている。爪飛び防止には、介在物を多くすることにより、鋼板の水素吸収能を向上させることが重要であるが、上記方法は、生産性に優れた連続鋳造方法においてこれを実現しようとしたものである。
【0013】
近年、ほうろう製品の性能向上の観点から、素地金属であるほうろう用鋼板にも表面疵の低減が求められている。表面疵は、高酸素溶鋼との反応により耐火物の一部が損傷して溶鋼中に侵入した外来性大型介在物と、溶鋼に添加したAl などで生成した大型非金属介在物(10ミクロン以上)とによって発生する。いずれの介在物も酸素含有量の低減により減少させることができるが、前述したように爪飛び防止のためには介在物量を低減することができず、表面疵低減と爪飛び防止との両立は困難とされてきた。
【0014】
この対策として、例えば特開平9-272914号公報には、表面疵低減と爪飛び防止とを両立させるために、Al 添加量を適正化する方法が示された。ここでは、Al 添加量は少ないほどよいとされている。また、その他の技術においてもAl 含有量は上限が規制されており、Al 含有量は可能な限り低いことが望ましいとされている。
【0015】
特開平5-5128号公報には、耐泡、耐黒点性に優れた直接1回掛けほうろう用冷延鋼板の製造方法として、質量%で(本発明においては化学組成を表す%表示は質量%を意味する)Ni :0.010 〜0.040 %、P:0.003 〜0.015 %、S:0.005 〜0.020 %、Cu :0.005 〜0.045 %、( P+S)/ Cu :0.5 〜1.0 を含有する高酸素鋼が提案されている。
【0016】
特開平6-57374 号公報には、C:0.0050%以下、Al :0.010 %以下、N:0.0200%以下、B:0.0030%超〜0.0200%、O:0.020 超〜0.100 %、Nb :0.030 〜0.100 %を含有し、かつ、B/ N ≧1 、Nb/C≧7 をそれぞれ満足する、プレス加工性と溶接性に優れたほうろう用鋼板が提案されている。
【0017】
特開平7-109524号公報には、V:0.010 〜0.060 %、Nb :0.004 〜0.030 %、Mo :0.01〜0.050 %の1 種または2 種以上を含有する冷間圧延鋼板を特定条件で焼鈍する加工性の優れたほうろう用鋼板の製造方法が提案されている。
【0018】
特開平10-102222 号公報には、Cr を酸素の0.5 〜1.3 倍含有する、深絞り性に優れた直接1回掛けほうろう用冷延鋼板が提案されている。
特許第3111834 号公報には、Mn 、P、S、Cu 、Oなどに加えてSn :0.0005〜0.01%を含有し、さらに、V:0.004 〜0.07%、Nb :0.004 〜0.04%の内の1種または2種を含有する耐ふくれ性に優れた連続鋳造によるほうろう用鋼材が提案されている。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
前述したように、近年、素地金属である鋼板に対する品質要求は、年々高まっており、加工性に加えて、表面疵が無いことと、繰り返し焼成をおこなった後においてもほうろう性(特に、密着性、耐爪飛び性など)が良好な鋼板が要求されるようになっている。
【0020】
また、ほうろう時に生じた外観欠陥の手直しのため施釉と焼成を繰り返しておこなう場合があり、例えば、1回掛けほうろうであっても、実際には焼成回数が合計で4回にもおよぶ場合がある。このように焼成回数を重ねると、そのたびにほうろう層の密着性が低下し、爪飛びも発生しやすくなる。特に1回掛けほうろう用の釉薬では繰り返し焼成による密着性低下が著しく、その改善策も求められていた。
【0021】
本発明者らの検討結果によれば、特開平9-272914号公報などにあるように、Al 、Si といった強い脱酸力を有する物質を溶鋼に添加しない場合、あるいはその濃度を低位に抑制した場合、以下の問題が生じる。
【0022】
炭素濃度が数十ppm と低く、かつMn などの弱脱酸元素しかない溶鋼中では酸素濃度が不安定となり、溶鋼中に酸素を安定させる脱酸元素が存在しないことから、酸素は溶鋼中にわずかに存在する脱酸元素と反応し、O- Mn-Fe-Al 系、O- Mn-Si 系、O- Mn-Mg 系、O- Fe-Mn 系など多種の介在物を同時に形成する。これらの介在物の組成、介在物大きさも様々であるが、このうちの大型介在物が表面欠陥の原因となる。
【0023】
酸素濃度および介在物の大きさが制御できなければ、安定した耐爪飛び性も得られない。すなわち、従来技術にあるように、単純に酸素濃度を上昇させ、脱酸元素濃度を低減させると、溶鋼中酸素の反応性を制御できないため、介在物制御が不安定となる。この結果、耐爪飛び性が不安定となる。
【0024】
特開平5-5128号公報で提案された高酸素鋼によるほうろう用鋼板では、介在物の大きさ、組成が様々で、大型介在物も生成するため、繰り返し焼成をおこなった後の爪飛び性および密着性は十分ではない。
【0025】
特開平6-57374 号公報、特開平7-109524号公報、特許第3111834 号公報などにより提案されたほうろう用鋼板は、B、Nb 、V、Mo 等を添加して、固溶炭素や固溶Nを析出物として固定することにより、加工性を改善するものである。しかしながらこれらの方法では多量に生成した析出物、酸化物が前処理の酸洗時に鋼板表面に残存し、直接1回掛けにおいて泡や黒点が生じやすくなる。このため、ほうろう用鋼板に対する現在の厳しい品質要求が満せない。
【0026】
特開平10-102222 号公報で提案されたほうろう用鋼板は、特開平5-5128号公報により提供されるほうろう用鋼板と同様に、繰り返し焼成後に所望のほうろう性を得ることはできなかった。
【0027】
以上述べたように、ほうろう用鋼板には、密着性、耐泡立ち性、耐爪飛び性に優れ、プレス加工性にも優れた鋼板が求められているが、従来の鋼板は、これらの性能を十分に兼ね備えたものではなかった。
【0028】
本発明の目的とするところは、表面疵が少なく、耐爪飛び性、密着性、耐泡立ち性および加工性が優れたほうろう用鋼板とその製造方法を提供することにある。さらに詳しくは、2回掛けのみならず1回掛けほうろうにも好適で、繰り返し焼成によっても良好なほうろう性が維持できるほうろう用鋼板とその製造方法を提供することにある。
【0029】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ほうろう用鋼板の表面欠陥低減とほうろう用鋼板に必要な各種性能との両立を実現する方法について種々研究を重ねた結果、以下に示す知見を得た。
【0030】
(a) ほうろう掛け後の繰り返し焼成により、密着性が低下し、爪飛びが生じやすくなるが、耐爪飛び性を向上させるには、微細な介在物を大量に生成させればよい。しかしながらこれと同時に表面欠陥を低減するには大型介在物、特にAl 2 3 系介在物を低減する必要がある。これらを満足し、耐爪飛び性を向上させる効果があり、かつ、表面欠陥をもたらさない微細な介在物としては、Fe-Mn-O系介在物が好適である。
【0031】
(b) ほうろう用鋼の製造に際しては、通常、転炉で粗脱炭した後、RH等の真空脱ガス装置で脱炭をする。真空脱炭では脱炭速度を向上させるために酸素濃度が高い方が望ましいことはよく知られているが、酸素濃度を過度に高くしすぎると脱炭後も多量の酸素が残留し、これを目標の酸素濃度まで低減するには大量のAl 、Si などの脱酸剤を要する。この高酸素濃度と大量脱酸剤添加により、表面疵の原因となる大型介在物が多量に生成する。
【0032】
一方、溶鋼の酸素濃度が低すぎると脱炭反応が停滞するうえ、介在物に対しても悪影響が生じる。すなわち、溶鋼の酸素濃度が低すぎると、Mn に比較して強い脱酸力を有するAl は、2 Al +3 O→Al 2 3 なる反応により、Al-O系介在物を生成し、Mn +O→Mn O という化学反応が進行せず、上記Fe-Mn-O系介在物が生成しにくくなる。
【0033】
このような状態を回避するには、脱酸元素濃度と酸素濃度をバランスよく制御する必要があり、真空脱炭処理を行い、精錬を終了した溶鋼のMn 濃度と酸素濃度の比(Mn/O)を適正範囲に調整することが重要である。
【0034】
本発明者らの研究結果によれば、上記調整を行い、鋼板の化学組成(質量%)をMn/Oが2 以上、19以下の範囲になるように調整すれば、Al-O系介在物を生成せず、Fe-Mn-O系介在物を生成させることができる。
【0035】
また、上記介在物の形態制御を安定して行なわせるには、Al 、Si 、Ca 、Mg などの脱酸剤を効果的に用いることが重要である。これにより酸素濃度を容易に適正範囲に調整することができ、微細なFe-Mn-O系介在物が大量に生成できる。
【0036】
(c) 繰り返し焼成後に加速される爪飛びは、軽度の曲げ加工などが施された部分において、結晶粒が非常に粗大になった部分から発生する傾向が強い。これを改善するには、鋼に微量のSn を含有させるのが有効である。これは、鋼中に微量のSn を含有させると繰り返し焼成時において結晶粒の粗大化を抑制する作用があり、これを通じて、耐爪飛び性が改善されるものと推測された。
【0037】
また、鋼に微量のCr 、V、Mo などを含有させると、耐爪飛び性をさらに向上させることができる。これは、これらの元素が鋼中の酸素と結合して微細な介在物を形成する作用によるものと推測された。
【0038】
さらに、泡欠陥に対して敏感でない用途に対しては、Nb 、B、Ti からなる群の内の1種または2種以上を適量含有させることも耐爪飛び性および加工性の改善に有効である。
【0039】
(d) 鋼を熱間圧延する際の仕上圧延前の板内の温度変動を小さくすること、さらに連続焼鈍での焼鈍時間を制御することにより、鋼板の加工性とほうろう性をより一層向上させることができる。
【0040】
本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は下記(1) 〜(3) に記載のほうろう用鋼板、および (4)、(5) に記載のその製造方法にある。
【0041】
(1)質量%で、C:0.0050%以下、Mn:0.0070〜1.00%、P:0.005〜0.025%、S:0.005〜0.050%、N:0.0050%以下、O:0.03〜0.10%、Cu:0.015〜0.060%、Ni:0.001〜0.100 %、Sn:0.0003〜0.02%を含有し、
さらにCaおよび/またはMgを合計で0.0001〜0.0025%含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、
かつ、Mn/O:2〜19、Cu/P:1.0〜4.0、P/S:0.2〜2.0の関係を満足する鋼組成からなることを特徴とするほうろう用鋼板。
【0042】
(2)さらに、前記鋼組成が、質量%で、Al:0.0003〜0.0040%またはSi:0.002〜0.024%を含有することを特徴とする上記(1)に記載のほうろう用鋼板。
(3)さらに、前記鋼組成が、質量%で、Cr:0.001〜0.100%、V:0.001〜0.100%およびMo:0.001〜0.100%からなる群の内の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載のほうろう用鋼板。
【0043】
(4)さらに、前記鋼組成が、質量%で、Nb:0.001〜0.100%、B:0.0001〜0.0100%およびTi:0.001〜0.100%からなる群の内の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のほうろう用鋼板。
【0044】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の鋼組成を備えたスラブに、1000〜1250℃で均熱した後、熱間圧延を行い、仕上温度を850〜950℃とする仕上圧延を行い、次いで450〜700℃で巻取り、酸洗後、圧延率70〜90%で冷間圧延を行ってから、750〜900℃に加熱し、120秒以内保持する焼鈍を行うことを特徴とするほうろう用鋼の製造方法。
【0045】
(6)前記熱間圧延が、粗圧延後、板内の温度変動が140℃以下になるように加熱した後、仕上圧延を行うことを特徴とする上記(5)に記載のほうろう用鋼の製造方法。
【0046】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。まず、鋼の化学組成を限定する理由は次のとおりである。
【0047】
炭素 (C) :炭素含有量が0.0050%を超えるとほうろうの泡欠陥を生じる傾向があり、またプレス加工性も悪くなる。従って炭素含有量は製品性能上は低いほど好ましいが、炭素を過度に低減するには製鋼段階での処理時間が長くかかり、製鋼コストも上昇する。そこで、炭素含有量は0.0050%以下とする。望ましくは0.0020%以下である。
【0048】
Mn :Mn は酸素を含有する介在物を生成し、ほうろう性の向上に寄与するため、本発明においては必要な元素である。Sによる熱間脆性を防止する作用もある。これらの効果を確保するためにMn は0.0070%以上含有させる。望ましくは0.1 %以上である。
【0049】
他方、Mn には鋼の変態点を低下させる作用があり、焼成温度範囲で変態が生じないようにするために、Mn は過度に含有させないほうがよい。また過度にMn を含有させると鋼の加工性も損なう。このためMn 含有量の上限は1.00%とする。望ましくは0.50%以下である。
【0050】
P:Pはほうろう前処理における酸洗の際に、鋼板の溶解速度を大きくする(言い換えれば酸洗減量を大きくする)作用がある。P含有量が0.005 %に満たない場合には、酸洗が不十分となり、ほうろうの密着性が損なわれる。これを避けるためにPは0.005 %以上含有させる。望ましくは0.007 %以上である。他方、P含有量が0.025 %を超えると酸洗減量が過大になり、ほうろうの泡立ち欠陥が生じやすくなる。これを避けるためにP含有量の上限は0.025 %とする。望ましくは0.020 %以下である。
【0051】
S:SはMn と結合してMn S 介在物を形成し、鋼中で水素を捕捉して爪飛びの発生を抑制する作用がある。また酸洗速度を速め、酸洗後の鋼板表面を粗らくしてほうろうの密着性を向上させる効果もある。これらの効果を得るために、Sは0.005 %以上含有させる。望ましくは0.010 %以上である。
【0052】
他方、過度に介在物が増すと鋼板の加工性を損なう。このため、S含有量は0.050 %以下とする。望ましくは0.030 %以下である。
N:Nは不可避的不純物であり、歪み時効を生じ鋼板の加工性を損なうので、少ないほうがよい。本発明ではN含有量は0.0050%以下とする。
【0053】
酸素 (O) :酸素は鋼中の水素を捕捉して耐爪飛び性を向上させる微細な介在物の構成元素であり、ほうろう用鋼板、特に、爪飛び欠陥が発生しやすく鋼板への要求の厳しい1回掛けほうろう用鋼板では、重要な元素である。本発明においては所望のほうろう性を確保するために酸素含有量は0.03%以上とする。酸素含有量が0.03%に満たない場合には、介在物個数が不十分となり、爪飛び欠陥が多発する。望ましくは0.04%、さらに望ましくは0.045 %以上である。ただし、2回掛けほうろう用途の場合は、下塗りで密着性に優れた釉薬を使用できるので、この場合の鋼板の酸素含有量の下限は100ppmまで適用可能である。
【0054】
鋼の酸素含有量が0.10%を超えると表面疵が増し、加工性も損なわれる。従って酸素含有量は0.10%以下とする。望ましくは0.085 %以下である。
Cu :Cu は、酸洗減量を小さくするが、酸洗後の鋼板表面に微細な凹凸を形成し、ほうろうの密着性を向上させる効果がある。その含有量が0.015 %に満たない場合には密着性向上効果が十分でなく、一方、0.060 %を超えると鋼の溶解速度が低下しすぎ、上記凹凸が十分に形成されないために良好な密着性を得ることができない。したがってCu 含有量は0.015 %以上、0.060 %以下とする。望ましくは同様の観点から0.020 %以上、0.050 %以下である。
【0055】
Ni :Ni にはほうろうの密着性や耐爪飛び性を向上させる作用がある。これは、ほうろう前処理の酸洗時に結晶粒界が優先的に酸洗され、これにより結晶粒界に鋼中のNi が濃化し、Ni フラッシュ処理時にNi 析出が容易になるため、と推定される。結晶粒が細粒であるとその効果はより顕著になる。Ni 含有量が0.001 %に満たない場合には上記効果が得られず、0.100 %を超える場合には上記効果が飽和する。そのためNi 含有量は0.001 %以上、0.100 %以下とする。望ましくは0.01%以上、0.06%以下である。
【0056】
Sn :Sn は鋼中に固溶し転位の生成を促進することにより、繰り返し焼成後においても、結晶粒の粗大化を抑制し、耐爪飛び性を向上させる作用がある。この効果を確保するために、Sn を0.0003%以上含有させる。
【0057】
他方、過度にSn を含有させると鋼が脆化し易くなり、表面疵が生じ易くなる。従ってその含有量は0.02%以下とする。望ましくは0.01%以下である。
Al 、Si 、Ca およびMg :これらの元素はいずれも鋼の脱酸作用があり、適量含有させることにより、溶鋼の酸素濃度を適正範囲に容易に制御することが可能となり、表面欠陥が無く、かつ耐爪飛び性に優れたほうろう用鋼板を得ることができる。
【0058】
Al の場合は、Al 含有量が0.0003%に満たない場合には、酸素濃度が制御できず、耐火物の激しい損傷と他種類の介在物生成により表面欠陥が多発する。また、酸素含有量、介在物ともに不安定となるため爪飛びも安定して抑制できない。
【0059】
他方Al 含有量が0.0040%を超えると、Al-O系とAl-Mn-O系との2種類の介在物が生成する。Al-Mn-O系介在物は大型化しやすいため、それ自体が表面疵の原因になるほか、微細介在物量を減少させて耐爪飛び性も低下させる。また、2種類の介在物が生成することにより、酸素含有量制御が不安定となり耐火物損傷による庇も発生する。
【0060】
Al 含有量が0.0003〜0.0040%の範囲にある場合、Fe-Mn-O系を主体として微量のAl を含有した小径の介在物となる。このため、表面疵を発生することなく爪飛びを防止する効果が得られる。
【0061】
Si の場合は、その含有量が0.0020%に満たない場合には酸素濃度制御が困難であり、Si 含有量が0.0240%を超えて高くなるとSi-Mn-O系介在物とSi-O系介在物が生成し、このうちSi-O系介在物によって表面疵が発生する。Si 含有量が0.0020〜0.0240%の範囲にある場合、Fe-Mn-Oを主体として微量のSi を含有した、微細に分散しやすい介在物が形成される。
【0062】
Ca とMg はともに酸素と非常に強い反応性を有し、Ca および/またはMg の合計含有量が0.0001%以上である場合には、Al 、Si と同様にFe-Mn-Oを主体として微量のCa および/またはMg を含有する微細な介在物を生成させることが可能となる。Ca とMg は共に脱酸特性が近似しているため、それぞれ単独で用いても、両者を同時に含有させても構わない。
【0063】
他方、Ca および/またはMg の濃度が合計で0.0025%を超えると大型のCa-O、Ca-O- S 、Ca-S、Mg-O、Mg-Ca-Oなどの介在物が生成するのでよくない。
【0064】
以上述べたように、Al 、Si 、Ca およびMg はいずれも酸素濃度の制御、微細な介在物の形成の点で類似の作用がある。従って本発明においては上記効果を得るために、Al :0.0003%以上、0.0040%以下、Si :0.002 %以上、0.024 %以下、Ca および/またはMg の合計含有量:0.0001%以上、0.0025%以下からなる群の内の1種または2種以上を含有させるものとする。
【0065】
Mn/O:微細なFe-Mn-O系介在物を生成させるために、鋼板のMn 含有量と酸素含有量(質量%)の比(Mn/O)を2 以上、19以下とする。その理由は、Mn/Oが2 に満たない場合にはMn 濃度が酸素濃度に対して低くなり、酸素濃度が高くなりすぎるので表面疵が増し、加工性も損なわれる。また、Mn/Oが19を超えて高くなると酸素濃度に対してMn 濃度が高くなりすぎ、酸素濃度が低くなりすぎるので、爪飛び欠陥が多発するからである。
【0066】
Cu/P:Cu は酸洗減量を低減させるのに対し、Pは酸洗減量を増加させる作用がある。それら相互の影響を踏まえて密着性を向上させるために、Cu とPの比( Cu/P、単位は質量%である) が1.0 以上、4.0 以下になるようにCu および/またはP含有量を調整する。すなわちほうろうの密着性はCu/Pが1.0 に満たないか、あるいは4.0 を超える場合には劣化する。望ましくは1.5 以上、3.5 %以下である。
【0067】
P/ S :PもSも酸洗減量を大きくする元素であるが、PとSの密着性に及ぼす影響には相互作用があり、その含有量比P/ S( 単位は質量%である) が0.2 に満たないか、あるいは2.0 を超える場合には、密着性が劣ったり、泡立ちなどを発生しやすい。これを避けるためにP/ S を0.2 以上、2.0 以下に限定する。この効果は酸洗減量だけではなく、酸洗後の表面状態にも関係していると考えられる。
【0068】
Cr 、V、Mo :これらの元素はいずれも必須元素ではないが、酸素と接合して介在物を形成し、鋼中の水素を捕捉して爪飛びを抑制する効果がある。従って、さらに耐爪飛び性を向上させたい場合にはこれらの元素を含有させるのがよい。
【0069】
上記効果を得るにはいずれの元素の場合でも0.001 %以上含有させるのが望ましい。他方これらの元素の含有量が0.100 %を超えると鋼板のプレス加工性が損なわれる。従ってこれらの元素を含有させる場合には、いずれの元素の場合でも0.100 %以下とするのが望ましい。
【0070】
Nb 、Ti 、B:これらは必須ではないが、いずれの元素とも0.001 %以上含有させると耐爪飛び性を向上させる作用がある。また、これらの元素は炭素あるいはNと結合して機械的性質を改善する作用もある。従ってこれらの効果を得たい場合には、Nb およびTi については0.001 %以上、Bについては0.0001%以上含有させるのが望ましい。
【0071】
しかしながらこれらの元素を過剰に含有させると泡欠陥を生じる。このため、これらの元素を含有させる場合には、Nb およびTi については0.100 %以下、Bについては0.0100%以下とするのが望ましい。
【0072】
なお、例えば、直接1回掛けほうろうのような泡欠陥に対して十分配慮する必要がある場合には、これらの元素は含有させないか、含有させてもその量は少なく制限するのが望ましい。
【0073】
上記以外はFe および不可避的不純物である。
次に、本発明のほうろう用鋼板の好適な製造方法を説明する。
所望の鋼組成を有するスラブは、公知の転炉で溶製した溶鋼を真空脱炭処理し、これを公知の連続鋳造法により鋳造して製造する。
【0074】
真空脱炭では、溶鋼の酸素濃度を過度に高くすると表面疵の原因となる大型介在物が多量に生成し、過度に低くするとAl-O系介在物を生成し、Mn 系介在物が生成しなくなる。従って脱酸元素濃度と酸素濃度をバランスよく制御するのが重要である。そのためには、真空脱炭処理後のMn 濃度と酸素濃度の比 (Mn/O) が適正な範囲になるように、Si 、Al 、Ca および/またはMg の内の1種以上の元素の濃度を調整して酸素濃度を適正範囲に調整するのがよい。
【0075】
スラブの製造方法は連続鋳造法に限定する必要はなく、鋼塊を分塊圧延してスラブとする方法など、公知の方法が適用できる。
得られたスラブには、公知の熱間圧延装置により熱間圧延を施す。
【0076】
熱間圧延におけるスラブ加熱温度は1000℃以上、1250℃以下が好適である。スラブ加熱温度が1000℃に満たない場合には圧延荷重が増大して圧延困難となり、1250℃を超える場合には介在物の形態が変わって耐爪飛び性が低下し、スケールロスによる歩留低下も生じるのでよくない。
【0077】
熱間圧延の仕上圧延終了温度(仕上温度)は、850 ℃以上、950 ℃以下とするのがよい。仕上温度が950 ℃を超えると冷間圧延後焼鈍して得られる鋼板の加工性(引張試験における伸び値やr値で判断される)が悪くなり、850 ℃に満たない場合にはAr3変態点を下回り、冷間圧延後焼鈍して得られる鋼板のほうろう性と加工性が悪くなる。
【0078】
熱延鋼板の結晶粒は細粒であるのが好ましく、これを得るには、仕上温度はAr3変態点の直上とするのが望ましい。そのためにはスラブ加熱温度を低くするのが有効であるが、その際、圧延前の板温度の変動が過度に大きくなると圧延中に変態が生じやすくなり、圧延トラブルを生じる。
【0079】
これを避けるために、圧延前の板温度の板内の温度変動(板巾方向および長手方向での温度変動)を140 ℃以下にするのがよい。さらに同様な目的のため、いわゆるコイルボックスを適用して保温あるいは加熱することや粗バー同士を接合して連続的に圧延することも有効である。
【0080】
巻取温度は450 〜700 ℃とする。巻取温度が700 ℃を超えると熱延鋼板の結晶粒径が粗大化し、最終的に得られるほうろう用鋼板の結晶粒径が大きくなり、十分な耐爪飛び性が得られない。伸び値やr 値が悪くなりプレス加工性も損なわれる。他方、巻取温度が450 ℃に満たない場合には固溶炭素が微量に残存し、冷間圧延後の焼鈍時にプレス加工性に好ましい結晶方位の形成が阻害される。より望ましくは、同様の観点から、470 ℃以上、550 ℃以下である。
【0081】
熱間圧延した鋼板は表面のスケールを除去するために公知の方法により酸洗した後、冷間圧延して所望の板厚を有する冷延鋼板とする。
冷間圧延の圧下率が70%に満たない場合には、介在物の周辺に空洞が形成されず、耐爪飛び性などのほうろう性が向上しない。また得られる鋼板の加工性も十分ではない。
【0082】
他方、圧下率が90%を超えると、圧延負荷が増大して冷間圧延が困難になるうえ、加工性改善効果も飽和する。また、介在物が過度に延伸されて、長片/短片の比が10を超えると耐爪飛び性が損なわれる。このため、冷間圧延における圧下率は、70%以上、90%以下とするのがよい。
【0083】
冷間圧延を終了した鋼板には焼鈍を施す。焼鈍方法は、従来の箱焼鈍法やオープンコイル焼鈍法でも構わないが、良好な耐爪飛び性を得るためには、連続焼鈍法を適用するのが望ましい。連続焼鈍は加熱時間が短くてすむため、冷間圧延において介在物近傍に生じた微小な空隙が消失することなく焼鈍後も鋼板中に残存し、鋼中水素の捕捉に寄与するからである。
【0084】
連続焼鈍温度は750 ℃以上、900 ℃以下、この温度範囲内における鋼板の保持時間(焼鈍時間)は120 秒以下とするのがよい。焼鈍温度が750 ℃に満たない場合には加工性が十分ではない。また、900 ℃を超えると結晶粒が粗大化して、加工性や耐爪飛性が損なわれる。望ましくは同様の観点から、830 ℃以上、880 ℃以下である。
【0085】
焼鈍時間は数秒程度以上あれば焼鈍の目的は達成できるが、120 秒を超えると、焼鈍温度が900 ℃を超えた場合と同様に、加工性や耐爪飛び性が劣化する。従って焼鈍時間は120 秒以下とするのがよい。
【0086】
焼鈍方法は連続焼鈍に限定する必要はなく、コイル焼鈍やオープンコイル焼鈍などの公知のバッチ焼鈍であっても同様に適用できる。
上記以外は公知の方法によればよい。
【0087】
本発明にかかるほうろう用鋼板の用途としては、シムテムキッチン、鍋、ケトルなどの厨房用品、浴槽や洗面台、各種の建材などの加工成形品である。これらの加工に耐えうる加工性を有するか否かは、引張試験値により判断することができ、特に伸び値との相関が強い。
【0088】
具体的には、本発明者らの経験によれば、これらの加工性は伸び値:44%以上が一つの指標となる。以上述べた本発明に係るほうろう用鋼板は、44%以上の伸び値を有しており、加工性が良好である。
【0089】
このため、この本発明にかかるほうろう用鋼板は、特に1回掛けほうろうないしはそれ以上のほうろう掛けを主とする用途に好適に適用できる。
【0090】
【実施例】
(実施例1)
転炉で粗脱炭した溶鋼を真空脱ガス処理した後、連続鋳造して、種々の化学組成を有するスラブとし、これらを1200℃に均熱した後熱間圧延して厚さが4.5mm の熱間圧延鋼板を得た。熱間圧延時の仕上温度は880 〜900 ℃、巻取温度は530 ℃であった。これらの熱間圧延鋼板を塩酸を10質量%含有する90℃の酸洗溶液に40〜50秒浸漬して酸洗した後、圧下率85%の冷間圧延を施して厚さが0.7mm の鋼板とし、850 ℃で100 秒間均熱する連続焼鈍を施し、次いで伸び率が0.8 %の調質圧延を施して冷延鋼板を得た。
【0091】
得られた鋼板の化学組成を表1に示す。
【0092】
【表1】
Figure 0004023123
【0093】
各鋼板から、巾:75mm、長さ:200 mmの試験片を切り出し、冶具と鋼板の接触部での泡の発生を評価するため、ステンレス(SUS316L) 製の冶具を取り付けて、以下に記す条件で酸洗してNi フラッシュ処理を施し、その後、1回掛けほうろうおよび繰り返し焼成試験を行い、酸洗減量、ほうろうの密着性、耐爪飛び性および泡立ちの発生の有無を調査した。
【0094】
酸洗;Fe を約5 質量%、硫酸を17質量%含有する酸洗溶液(温度:78℃)に5 分間浸漬、
Ni フラッシュ;Ni SO4 ・7 H2 Oを12g/リットル、Fe を0.5 質量%含有し、pHが2.8 である溶液(温度:82℃)に5 分間浸漬、
施釉:試験片の両面に市販の釉薬(日本フェロー社、1553B )を片面当たり約100 μm の厚さにスプレーにより塗布、
焼成:820 ℃×6 分、
繰り返し焼成:上記施釉と焼成からなる工程を再度実施。
【0095】
ほうろう焼成後の試験片は、表面欠陥の有無を目視検査し、ついで、200 ℃で8 時間保持する爪飛び促進試験をおこない、爪飛び欠陥の発生状況を調査した。
また、各鋼板から、JIS Z2201 に規定される5号引張試験片を、鋼板の圧延方向に平行な方向から採取し、引張試験を行って加工性を評価した。表2 にこれらの調査結果を示す。
【0096】
【表2】
Figure 0004023123
【0097】
表1および2の結果からわかるように、本発明の規定する条件を満足する試番(試験番号)1 〜18の鋼板は、引張試験において良好な伸び値を示し、ほうろう性についても1回焼成、繰り返し焼成共に良好な結果であった。またこれらの鋼板は、表面疵もなく、良好な外観を呈していた。
【0098】
これに対し試番19はNi およびP/ S が本発明の規定する範囲を上回り、さらにTi が本発明の規定する範囲を上回ったため、密着性、耐泡性、伸び値がいずれもよくなかった。試番20はMn/Oが高すぎ、酸素とSn の含有量が本発明の規定する範囲を下回ったため、繰り返し焼成後の耐爪飛び性がよくなかった。試番21はCu/PとBが本発明の規定する範囲を上回ったため、密着性と耐泡性がよくなかった。試番22はMn/Oが低すぎたうえ、Cr とNb の含有量が本発明の規定する範囲を上回ったため、耐爪飛び性、密着性、耐泡性と伸び値がいずれもよくなかった。試番23は炭素およびVの含有量が本発明の規定する範囲を超えたため、耐爪飛び性、密着性、耐泡性と伸び値がよくなかった。試番24は酸素、Mo およびSn 含有量が本発明の規定する範囲を超えたため、耐泡性と伸び値がよくなかった。試番25はCu/Pが本発明の規定する範囲を下回りさらに、Cu 、Ni およびCr の含有量も本発明の規定する範囲を下回ったため、耐爪飛び性、密着性、耐泡性がいずれもよくなかった。
【0099】
試番26はSi 、Al 、Ca 、Mg のいずれも含有していなかったために大径の介在物が発生し、表面疵、耐爪飛び性がよくなかった。試番27はAl 含有量が高すぎたために大径のAl-Mn-O系介在物が多数発生し、表面疵、耐爪飛び性がよくなかった。試番28はSi 含有量が高すぎたためにSi-O系介在物が生成して表面疵、耐爪飛び性がよくなかった。試番29は( Ca +Mg)含有量が高すぎたために大径のCa-O、Ca-O- S 、Ca-S、Mg-O、Mg-Ca-Oなどの介在物が生成して表面疵、耐爪飛び性がよくなかった。試番30はSn 含有量が高すぎたために鋼が脆化しやすくなり表面疵がよくなかった。試番31はSn 含有量が低すぎたために耐爪飛び性がよくなかった。試番32はMn/Oが低すぎたために表面疵と加工性がよくなかった。試番33はMn/Oが高すぎた耐爪飛び性がよくなく、表面疵と加工性もよくなかった。
【0100】
(実施例2)
表1に記載の鋼C、EおよびGの化学組成のスラブを実験室的規模でスラブ加熱温度、熱延仕上圧延前の板温度変動、仕上温度、熱延巻取温度などを種々変更して熱間圧延し、酸洗した後、冷間圧延圧下率、焼鈍温度および焼鈍時間などを種々変更して焼鈍済みの冷間圧延鋼板を作製し、さらに伸び率0.8 %の調質圧延を施して厚さが0.7mm の冷延鋼板を得た。得られた鋼板について実施例1に記載したのと同じ方法でほうろう性と引張特性を評価した。
【0101】
圧延、焼鈍条件と得られた鋼板の諸性能を表3に示す。
【0102】
【表3】
Figure 0004023123
【0103】
表3からわかるように、適正な条件で作製した鋼板は引張特性、ほうろう性共に良好であった。これに対し、試番49は焼鈍温度が高すぎるため結晶粒径が細粒とならず耐爪飛び性と伸び値がよくなかった。試番50は焼鈍時間が長すぎたために耐爪飛び性がよくなかった。試番51は、巻取温度が低すぎたうえ、焼鈍温度も低かったために伸び値がよくなかった。試番52は仕上圧延前の板温変動が大きかったために細粒化が不十分で耐爪飛び性、伸び値共によくなかった。試番53は冷圧率が低すぎたために耐爪飛び性がよくなかった。試番54は加熱温度が高すぎたために耐爪飛び性がよくなかった。試番55および試番56は仕上温度が好ましくなかったので加工性がよくなかった。
【0104】
なお、実施の形態および各実施例の説明では、1回掛けほうろうの場合を例にとったが、本発明は、1回掛けほうろうには限定されず、もちろん2回掛けほうろうにも同様に適用できる。
【0105】
以上詳細に説明したように、本発明に係るほうろう用鋼板を用いれば、表面が良好で、密着性、耐爪飛び性、耐泡立ち性などにも優れたほうろう製品を得ることができる。その性能は、繰り返し焼成を行なう場合においても十分に発揮される。
【0106】
【発明による効果】
本発明に係るほうろう用鋼板は、加工性に優れ、表面外観が良好であるうえ、耐爪飛び性、密着性、耐泡性にも優れる。さらに、ほうろう製品の製造に際して行われる繰り返し焼成によっても、密着性、耐爪飛び性さらには泡立ち性などのほうろう性の低下が小さいという優れたほうろう性を備えている。本発明に係るほうろう用鋼板は、2回掛け以上のほうろう用途だけでなく、1回掛けのほうろう用途にも十分に使用することができる。従って、本発明に係るほうろう用鋼板を使用すれば、システムキッチンや台所器物、家電部品等に用いる綺麗なほうろう部品を容易かつ確実に製造することができるので、工業的な価値が大きい。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.0050%以下、Mn:0.0070〜1.00%、P:0.005〜0.025%、S:0.005〜0.050%、N:0.0050%以下、O:0.03〜0.10%、Cu:0.015〜0.060%、Ni:0.001〜0.100 %、Sn:0.0003〜0.02%を含有し、
    さらにCaおよび/またはMgを合計で0.0001〜0.0025%含有し、
    残部がFeおよび不純物からなり、
    かつ、Mn/O:2〜19、Cu/P:1.0〜4.0、P/S:0.2〜2.0の関係を満足する鋼組成からなることを特徴とするほうろう用鋼板。
  2. さらに、前記鋼組成が、質量%で、Al:0.0003〜0.0040%またはSi:0.002〜0.024%を含有することを特徴とする請求項1に記載のほうろう用鋼板。
  3. さらに、前記鋼組成が、質量%で、Cr:0.001〜0.100%、V:0.001〜0.100%およびMo:0.001〜0.100%からなる群の内の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のほうろう用鋼板。
  4. さらに、前記鋼組成が、質量%で、Nb:0.001〜0.100%、B:0.0001〜0.0100%およびTi:0.001〜0.100%からなる群の内の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のほうろう用鋼板。
  5. 請求項1〜のいずれかに記載の鋼組成を備えたスラブに、1000〜1250℃で均熱した後、熱間圧延を行い、仕上温度を850〜950℃とする仕上圧延を行い、次いで450〜700℃で巻取り、酸洗後、圧延率70〜90%で冷間圧延を行ってから、750〜900℃に加熱し、120秒以内保持する焼鈍を行うことを特徴とするほうろう用鋼の製造方法。
  6. 前記熱間圧延が、粗圧延後、板内の温度変動が140℃以下になるように加熱した後、仕上圧延を行うことを特徴とする請求項に記載のほうろう用鋼の製造方法。
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