JP4016461B2 - オレフィンの選択的エポキシ化法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アリル位が塩素置換された脂肪族オレフィンの選択的エポキシ化法に関するものである。本発明で得られるエポキシ化合物は、反応性の高いアリル位の塩素とエポキシ環からなる2官能性化合物であり、新規なエポキシ樹脂原料、樹脂改質剤、および農医薬等の各種合成中間体原料として極めて有用な化合物である。
【0002】
【従来の技術】
アリル位が塩素置換されたエポキシ化合物、例えばエピクロルヒドリンを製造するには、アリルクロライドを出発原料とし過カルボン酸による直接エポキシ化法、アリルクロライドのクロルヒドリンを経由するクロルヒドリン法、および、過酸化水素とある種のチタン含有合成ゼオライト触媒による直接エポキシ化法等が知られている。しかしながら、過カルボン酸による直接エポキシ化法では、酸化剤の再生プロセスが必要であることや酸化剤−有機物系が爆発性であり反応操作や設備上の問題がある。また、クロルヒドリン法では、副生する塩化カルシウムや多量の廃水処理の問題がある。
【0003】
一方、過酸化水素とある種のチタン原子含有合成ゼオライト触媒による直接エポキシ化は、例えば、特公平4-5028 号公報、米国特許第4,833,260 号明細書に開示されているが、目的エポキシドに対する選択率は一般に高いものの、水およびアルコールを含むプロトン性溶媒中でエポキシ化反応を行なうと、上述の合成ゼオライト骨格上に存在する酸性水酸基の触媒作用によって、原料オレフィンのオリゴマー化や重合反応が生じ、さらに、生成したエポキシ環の開環反応やさらにこの開環生成物と溶媒アルコールの縮合によるエーテル化反応等がエポキシ化反応と併発して起こる。この結果、上記のチタン原子含有合成ゼオライト触媒では、これらの副反応によって生成する分子形状の大きな副生物が、触媒の活性点に通じる“ チャンネル" と称する反応基質や生成物の通路を閉塞させ、エポキシ化活性が短時間で低下し失活するという問題を生じる。
【0004】
米国特許第4,824,976 号明細書には、上記の問題を解決するため、反応前または反応中に適当な酸中和剤を用いてチタン原子含有合成ゼオライト触媒を処理することによって、合成ゼオライト骨格上に存在する酸性水酸基を中和し、これによってエポキシ生成物の選択率の向上を図ることが記載されている。この方法によれば、例えば、アリルクロライドのエポキシ化反応の場合、選択率の向上が認められるが、エポキシ化の反応性は酸中和剤の前処理によって低下し、前処理を行なわないチタン原子含有ゼオライト触媒を使用した場合と比べエピクロルヒドリンの生成速度が著しく減少する。
【0005】
また、特開平8-225556号公報には、エポキシ環の開環反応の抑制方法として、非塩基性塩を用いて触媒を処理することにより上記の合成ゼオライト骨格上に存在する酸性水酸基を中和し、これによってエポキシ生成物の選択率の向上を図ることが記載されている。しかし、この方法によっても、上記と同様の選択率の向上は認められるが、エポキシ化の反応性は低下し、前処理を行なわない触媒を使用した場合に比べオレフィンオキサイドの生成速度が著しく減少することは避けられない。
【0006】
さらに、これらの従来技術では、反応溶媒としてメタノールのようなアルコール類、または、アセトン等の有機溶媒が好ましく、これらを添加しない場合は、エポキシ化の反応性が著しく低下することが示されている。また、例えば、メタノールを溶媒として用いると、原料オレフィンが炭素数3〜9の低級オレフィンの場合は、殆どの場合、原料オレフィンおよび/または、生成エポキシドとメタノールおよび水が、共沸組成を形成するので、特に生成物の回収が困難となり、この触媒プロセスを実用化する際大きな問題となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、チタン原子含有ゼオライト触媒(チタノシリケート触媒)によるオレフィンのエポキシ化反応において、主反応であるエポキシ化反応の活性を低下させることなく、エポキシ環の開環を抑制し、副反応生成物による触媒“チャンネル”の閉塞を抑止する方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、すなわち、下記一般式(1)で示される炭素数3〜9の脂肪族オレフィンと過酸化水素、または反応系中で過酸化水素を生成する化合物とをチタノシリケート触媒の存在下で反応させるにあたり、助触媒として一価のタリウム化合物を用いることを特徴とするオレフィンの選択的エポキシ化法である。
【0009】
【化2】
(式中、R1 、R2 およびR3 は水素原子、またはC1 〜C2 のアルキル基を示し、それぞれ同一であっも異なっていてもよい。)
【0010】
本発明に用いられる一般式(1)で示される脂肪族オレフィンとしては、アリルクロライド、メタリルクロライド、1−クロロ−2−ブテン、1−クロロ−3−メチル−2−ブテン、1−クロロ−2−ペンテン等が挙げられ、工業的にはエポキシ化反応によりエピクロルヒドリンを生成するアリルクロライド、または、メタリルクロライドが有用である。また、過酸化水素としては通常、過酸化水素水が使用され、過酸化水素を生成する化合物としては例えば尿素の過酸化水素付加化合物、あるいはt−ブチルハイドロパ−オキサイド等が挙げられる。
【0011】
本発明に用いられるチタノシリケート触媒は、一般式: xTiO2・(1-x)SiO2(式中のxが0.002〜0.20)で示される組成のチタン原子含有合成ゼオライト触媒(TS−1と称される)組成の場合、特に効果が大きいが、一価のタリウム化合物の助触媒としての効果は、この範囲に限られるものでなく、一般にエポキシ化活性を有するチタノシリケート触媒であれば同様の助触媒効果を示すことが可能である。
【0012】
また、本発明に用いられるチタノシリケート触媒は、その結晶構造が、MFI、MELまたはBEAの場合に一般に高いエポキシ化活性を示すので、これらの結晶構造を有するチタノシリケート触媒の場合に一価のタリウム化合物の助触媒としての添加効果が特に顕著に発現する。しかし、本発明が適用可能なチタノシリケート触媒の結晶構造はこれらに限られるものでなく、メソポアと呼ばれる大孔形骨格を有するチタノシリケート触媒であれば結晶性であっても、非晶性であっても同様な助触媒効果を示すことが可能である。
【0013】
本発明ににおいて助触媒として用いられる一価のタリウム化合物は、タリウムのハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、りん酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩等の一価のタリウム塩や一価の水酸化タリウムであり、特に対アニオンは制限されるものではない。一価のタリウム塩としては、ハロゲン化物と硝酸塩が優れた添加効果を示し、さらにこれらの中で弗化タリウム(一価)が最も優れている。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明に使用されるチタノシリケート(チタン原子含有合成ゼオライト)の調製にあたっては、酸化ケイ素、酸化チタン、含窒素有機塩基および水でなる反応混合物を調製する。酸化ケイ素源はテトラアルキルオルトケイ酸エステル、好ましくは、オルトケイ酸テトラエチルまたは単にコロイド状のシリカでもよい。酸化チタン源は、テトラアルコキシチタン、好ましくは、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、または、テトラブトキシチタンの中から選ばれる化合物、または、四塩化チタンやオキシ塩化チタンのような無機化合物でもよい。有機塩基は、水酸化テトラアルキルアンモニウム、または、臭化テトラアルキルアンモニウムの中から選ばれる化合物、特に好ましくは、水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウムである。各試薬の混合物を撹拌し、得られた沈殿より溶媒を除去した後オートクレーブに移し、130〜200℃、自己圧力、1〜30日の条件下で、チタノシリケート前駆体の結晶が形成されるまで水熱処理する。次いでこれらの結晶を母液から分離し水で注意深く洗浄、乾燥した後、空気中で500〜800℃で焼成することにより目的とするチタノシリケート触媒が得られる。
【0015】
一般式(1)で示されるオレフィンに対するチタノシリケ−ト触媒の好ましい仕込み濃度は、0.5〜20重量%であり、2〜15重量%で最も高いオレフィン基準のエポキシ化選択率、および収率が得られる。用いる水溶液中の過酸化水素の好ましい濃度は1〜60重量%であるが保存性や操作性の面から10〜40重量%が好ましい。助触媒となる一価のタリウム化合物のチタノシリケート触媒に対する仕込み量は、0.1〜20重量%であり、0.5〜10重量%が好ましい。タリウム化合物による処理方法は、タリウム化合物を適当な溶媒、例えば、水やアルコールに溶解してチタノシリケート触媒を加えスラリー溶液を調製し、このスラリー溶液を撹拌してチタノシリケートの細孔の中にタリウム化合物を取り込み、その後、ろ過、または、遠心分離とデカンテーション等により触媒を分離して、要すれば洗浄、乾燥して反応系に導入することができる。もちろん、タリウム化合物をチタノシリケート触媒と別個に反応系に直接導入して反応させることもできる。
【0016】
エポキシ化反応は、適当な溶媒の存在下で行なうことができる。適当な溶媒としては、水、メタノールやイソプロピルアルコールのような低級アルコール、アセトン、等の有機溶媒、または、これらの混合物が挙げられる。なお、本発明においては、後述のように単一溶媒として水を使用する方法が原料オレフィンの種類により特に有利であり、この場合、過酸化水素水中に含まれる水をそのまま利用することができる。
【0017】
本発明のエポキシ化反応の反応温度は、0〜150℃で、好ましくは10〜80℃で行なうことができる。しかし、タリウム化合物を助触媒として使用しない従来法では、エポキシ化反応と並行して高温で優勢となる触媒上の酸点が関与したエポキシ環の開環、原料オレフィンのオリゴーマー化や重合などの副反応が起こるため、反応温度が、40℃以上になるとエポキシ選択率が著しく低下する。これに対して、タリウム化合物を助触媒として使用した場合は、触媒中の副反応サイトとなっている酸点が選択的かつ効果的にブロックされ、これら酸点が関与するエポキシ環の開環反応、原料オレフィンのオリゴーマー化や重合反応がほぼ完全に抑制されるため、反応温度を60℃としても、エポキシ選択率が殆ど低下することなく、短時間でエポキシ化反応を完結させることができる。エポキシ化反応の反応圧力は、大気圧〜20気圧という広い圧力範囲で行うことができる。また、反応方法は連続流通式、回分式のいずれの方法でも可能である。
【0018】
エポキシ化反応終了後、チタノシリケート触媒、または一価のタリウム化合物で処理したチタノシリケート触媒を、ろ過あるいは遠心分離等の方法によりエポキシ化反応混合物から分離した後、回収されたチタノシリケート触媒は次のエポキシ化反応において有効に利用することができる。触媒分離後の反応液は、水層と有機層の二層に分離しており原料および生成物の99%以上が有機層にある。含水量が0.1〜0.8重量%のため、分液後、そのまま、もしくは、微量残留した触媒を精密ろ過で除去した後、蒸留で直接原料の回収および生成物の精製が可能である。
【0019】
【作用】
以下、本エポキシ化反応について考察する。一価のタリウム化合物を助触媒として用いた場合は、アルカリ金属やアルカリ土類金属を助触媒として用いた場合に比べてオレフィンの反応性を低下させることなく酸点をブロックしエポキシ環の開環をほぼ完全に抑制できることが認められた。これは一価のタリウムの電荷が+1と最小であり、かつこの+1の電荷が重元素に起因する厚い外殻電子の遮蔽を受けることにより"Si-O(δ-)Tl( δ+)" なる結合における結合分極による電場勾配が、タリウム原子よりも低周期に位置し外殻電子の遮蔽が卑なアルカリ金属(Na,K)やアルカリ土類金属(Mg,Ca,Sr,Ba)に比して小さくなり、この結果、活性点に通じるゼオライト中のチャンネルや活性点付近の疎水性の低下が少なくなったためと推察される。さらに、一価のタリウムで酸点をブロックした場合は、これをブロックしない場合の"Si-O(-)H(+)"という結合における結合分極による電場勾配よりさらに勾配が小さくなるため、1価のタリウムで処理しない場合に比べて逆に疎水性が増し活性が向上するという、酸点ブロックと合わせて二重の効果が得られる。
【0020】
本発明のエポキシ化反応において、液相中の溶媒が水のみである場合、反応液相中のアリルクロライド骨格を持つオレフィンが、二重結合炭素に少なくとも1以上のメチル基が置換したオレフィンである場合に、特に高いエポキシ化活性が得られる。これは、一般式(1)中のR1 、R2 およびR3 が全て水素である場合のアリルクロライドでは、アリル位に置換された塩素原子の効果により二重結合の電子供与性が低下し、この結果、過酸化水素中の酸素の二重結合への親電子的攻撃により進行するエポキシ化の反応速度が低下するのに対して、R1 、R2 およびR3 の1つ以上がメチル基の場合は、この置換メチル基の二重結合への電子供与効果によって、二重結合の親電子性を回復させるためであると推察される。例えば、β-メチルアリルクロライド(メタリルクロライド)では、メタノール溶媒を添加しない、より単純な反応液相で最も効率良くエポキシ化反応を実施することができるため、未反応オレフィンおよびエポキシ生成物を蒸留で容易に高純度に分離することができる。
【0021】
また、上に示したオレフィンとして、例えばメタリルクロライドなどを用いる場合、メタノール等の溶媒の添加によって、エポキシ化反応の速度は低下するが、タリウム化合物の助触媒としての効果、すなわちエポキシ環の開環反応、原料オレフィンのオリゴマー化や重合反応をほぼ完全に抑制するという効果は影響を受けないので、目的に応じて、例えば反応液相を単一相とする等のためにメタノール等の任意の溶媒を添加することができる。
【0022】
【実施例】
以下、実施例、比較例により本発明を具体的に説明する。なお、例中、組成%はいずれも重量%である。
触媒調製例1
Cogel溶液調製:ジムロート、温度計および滴下ロートを備えた1L−セパラブルフラスコに、2-プロパノール(IPA)100grを入れ、これにオルトケイ酸テトラエチル(アルドリッチ社製>99.999%)93gr を室温、撹拌下で添加した。一方、IPA 70.4gr に、0.05N-塩酸水溶液17.5grを加え、これを滴下ロートに入れ室温、撹拌下で滴々加え、無色透明溶液を得た。つぎに、IPA 49.0gr に、チタン酸テトラブチル(アルドリッチ社製)5.44gr を加え、これを滴下ロートに入れ、室温、撹拌下で滴々加えた。添加により溶液は、淡黄色透明溶液となった。さらに、アルドリッチ社製の20%-テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド( 以下、「TPAOH 」と称する)23.5gr を滴下ロートに入れ、この水溶液を室温、撹拌下で滴々加え、寒天状沈殿318gを得た。
【0023】
沈殿の濃縮乾固:この寒天状沈殿を1L−ナスフラスコに移し、水流ポンプ減圧下80℃のロ−タリ−エバポレ−タ−で溶媒を留去した。さらに、110 ℃のオイルバス上で2時間乾燥処理し、白色沈殿35.1grを回収した。この白色沈殿をアルミナ製自動乳鉢で粉砕した。
【0024】
水熱合成反応:粉砕後の沈殿31.098grをテフロン(商標名)製内筒を入れた500ml-SUS 製オートクレーブに入れ、これに20%-TPAOH34.8gr を添加した。撹拌なしで、30〜170 ℃まで2時間で昇温し、170 ℃で24時間反応させた。170 ℃での圧力は、約17Kg/cm2であった。反応後、沈殿をろ過し、沈殿に脱イオン水を添加し洗浄を行なった。洗浄液がN/10-AgNO3水溶液で白濁しなくなるまで洗浄を繰り返した後、沈殿をろ過し、120 ℃恒温乾燥機中で4時間乾燥した。
【0025】
焼成:乾燥後の沈殿を磁性坩堝に入れ、マッフル炉で空気雰囲気下550℃で3時間焼成し、純白の焼成品を得た。このチタノシリケート触媒は、仕込み基準でSiO2/TiO2=28.4(式量比)であった。
【0026】
比較例1
300ml硝子オートクレーブに、触媒調製例1で調製した触媒(以下、単にチタノシリケート触媒(A)という)1.001gを入れ、これに、メタノール22.42gと35%-過酸化水素水36.61gを添加し、さらに、メタリルクロライド61.80gを加えた後、圧力計付きの栓ネジで密封した。スターラー で撹拌下40℃の湯浴で2時間反応させた。反応後、硝子オートクレーブを氷冷した後、触媒を分離し、反応生成物をガスクロマトグラフ、および、残存過酸化水素をヨードメトリー法により分析定量した。この分析法は、以下の各例でも同様にして行なった。反応結果を以下の各例と共に表1に示す。
【0027】
比較例2
100ml硝子オートクレーブ を使用し、チタノシリケート触媒(A)2.003g、35%-過酸化水素水10.7g 、メタリルクロライド16.5g とし、メタノールを加えないこと以外は、比較例1と同様にしてエポキシ化反応を行なった。
【0028】
触媒調製例2(弗化タリウム処理触媒)
100ml 硝子オートクレーブに、チタノシリケート触媒(A)1.5gを入れ、これに、2%- TlF 水溶液18.5g を加え密栓した。撹拌しながら40℃の湯浴で2時間処理した。これにメタノール40.2g を添加し良く撹拌した後、触媒を遠心分離し(6000rpm、30分)、上澄み液をデカンテーションで除いた後、沈殿2.6gを得た。この沈殿に脱イオン水53.3g を添加し、室温中で30分間マグネチックスターラーで撹拌洗浄した。洗浄後、このスラリーを遠心分離し(6000rpm 、45分)、湿潤沈殿2.4gを得、これを17時間風乾し、TlF処理触媒1.511gを得た。
【0029】
実施例1
50ml硝子オートクレーブに、上記の弗化タリウム処理触媒1.511gを入れ、これに、35%-過酸化水素水8.5gを添加し、さらに、メタリルクロライド12.5g を加えた後、撹拌下40℃の湯浴で2時間エポキシ化反応を行なった。
【0030】
実施例2
50ml硝子オートクレーブに、チタノシリケート触媒(A)1.004gを入れ、これに、35%-過酸化水素水5.4gおよび2%-TlF水溶液1.381gを添加し、2分間撹拌した。このスラリーに、メタリルクロライド8.6gを加えた後密封し、撹拌下40℃の湯浴で2時間エポキシ化反応を行なった。
【0031】
実施例3
50ml硝子オートクレーブに、チタノシリケート触媒(A)1.001g、35%-過酸化水素水5.7g、2%-TlF水溶液1.473g、メタリルクロライド8.7gを使用し、60℃の湯浴で30分間反応させた以外は実施例2と同様にしてエポキシ化反応を行なった。
【0032】
触媒調製例3(硝酸タリウム処理触媒)
チタノシリケート触媒(A)2.0gを100ml-硝子オートクレーブに入れ、これに2%-TlNO3水溶液32.2gを加え、密栓した。これを60℃の湯浴に入れ、撹拌下、2時間処理した。処理後硝子オートクレーブを水冷・開封し、これにメタノール41.0g を添加し数分撹拌した。このスラリーを遠心分離し(6000rpm 、30分)、上澄み液をデカンテーションで除去した後、脱イオン水52.0g を加え、室温で洗浄した。洗浄後の触媒を遠心分離し(6000rpm 、40分)、16時間風乾した後、70℃のガス循環乾燥器で3時間乾燥し、2.05g の硝酸タリウム処理触媒を得た。
【0033】
実施例4
上記の硝酸タリウム処理触媒1.008g、35%-過酸化水素水5.5g、メタリルクロライド8.8gを使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ化反応を行なった。
【0034】
実施例5
チタノシリケート触媒(A)1.007g、35%-過酸化水素水5.6g、2%-TlNO3水溶液3.678g、メタリルクロライド8.6gを使用した以外は実施例2と同様にしてエポキシ化反応を行なった。
【0035】
触媒調製例4(塩化タリウム処理触媒)
チタノシリケート触媒(A)2.1gを300ml-硝子オートクレーブに入れ、これに0.49%-TlCl水溶液113.6gを加え、密栓した。これを60℃の湯浴に入れ、撹拌下2時間処理した。処理後このスラリーを触媒調製例3と同様にして遠心分離を行ない、脱イオン水で洗浄した後、乾燥し、1.88g の塩化タリウム処理触媒を得た。
【0036】
実施例6
上記の塩化タリウム処理触媒1.004g、35%-過酸化水素水6.3g、メタリルクロライド8.8gを使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ化反応を行なった。
【0037】
比較例3
100ml 硝子オートクレーブに、チタノシリケート触媒(A)2.006gを入れ、これに、35%-過酸化水素水11.4g およびLiF14mg を添加し、2分間撹拌した。このスラリーに、メタリルクロライド16.7g を加えた後密栓し、撹拌下40℃の湯浴で2時間エポキシ化反応を行なった。
【0038】
触媒調製例5(水酸化ナトリウム処理触媒)
チタノシリケート触媒(A)1.504gを100ml-硝子オートクレーブに入れ、これに2%-NaOH 水溶液3.4gを加え、密栓した。これを40℃の湯浴に入れ、2時間処理した。処理後このスラリーを触媒調製例3と同様にして遠心分離を行ない、脱イオン水で洗浄した後、風乾し、1.306gの水酸化ナトリウム処理触媒を得た。
【0039】
比較例4
上記の水酸化ナトリウム処理触媒1.306g、35%-過酸化水素水6.9g、メタリルクロライド10.9g を使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ化反応を行なった。
【0040】
触媒調製例6(炭酸カリウム処理触媒)
チタノシリケート触媒(A)2.046g、2%-K2CO3水溶液7.6gを使用した以外は、触媒調製例5と同様にして炭酸カリウム処理触媒1.848gを得た。
【0041】
比較例5
上記の炭酸カリウム処理触媒1.848g、35%-過酸化水素水9.9g、メタリルクロライド15.4gを使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ化反応を行なった。
【0042】
触媒調製例7(塩化カルシウム処理触媒)
チタノシリケート触媒(A)1.447gを30ml硝子オートクレーブに入れ、これに2%-CaCl2水溶液8.8gを加え密栓した。以下の操作は触媒調製例5と同様にして塩化カルシウム処理触媒1.302gを得た。
【0043】
比較例6
上記の塩化カルシウム処理触媒1.302g、35%-過酸化水素水7.0g、メタリルクロライド11.2g を使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ化反応を行なった。
【0044】
触媒調製例8(酢酸バリウム処理触媒)
チタノシリケート触媒(A)1.526g、2%-Ba(CH3COO)2水溶液21.3g を使用した以外は、触媒調製例5と同様にして酢酸バリウム処理触媒1.920gを得た。
【0045】
比較例7
上記の酢酸バリウム処理触媒1.920g、35%-過酸化水素水10.2g 、 メタリルクロライド16.0g を使用した以外は、実施例1と同様にしてエポキシ化反応を行なった。
【0046】
比較例8
100ml 硝子オートクレーブに、チタノシリケート触媒(A)0.498gを入れ、これに、35%-過酸化水素水19.9g を添加し、さらに、常圧で蒸留した沸点45.0〜45.5℃の留分のアリルクロライド( 以下、ACと称す)26.4gを加えた後、撹拌下40℃の湯浴で2時間反応させた。反応後、硝子オートクレーブを氷冷した後、触媒を分離し、反応生成物をガスクロマトグラフ、および、残存過酸化水素をヨードメトリー法により分析定量した。(以下、各例も同様)反応結果を以下の各例と共に表2に示す。
【0047】
比較例9
チタノシリケート触媒(A)0.498g、メタノール11.1g 、35%-過酸化水素水18.1g 、AC26.0g を使用した以外は、比較例8と同様にしてエポキシ化反応を行なった。
【0048】
比較例10
50ml硝子オートクレーブを使用し、チタノシリケート触媒(A)1.013g、35%-過酸化水素水6.2g、AC9.1gを使用した以外は、比較例8と同様にしてエポキシ化反応を行なった。
【0049】
実施例7
50ml硝子オートクレーブを使用し、チタノシリケート触媒(A)1.003g、35%-過酸化水素水6.3g、メタノ−ル4.0g、2%-TlF水溶液1.154g、AC8.6gを使用した以外は、比較例8と同様にしてエポキシ化反応を行なった。
【0050】
比較例11
50ml硝子オートクレーブを使用し、チタノシリケート触媒(A)1.018g、35%-過酸化水素水6.3g、AC8.8gを使用し、反応温度を60℃、反応時間を1時間とした以外は比較例8と同様にしてエポキシ化反応を行なった。
【0051】
実施例8
50ml硝子オートクレーブを使用し、チタノシリケート触媒(A)1.013g、35%-過酸化水素水6.2g、2%-TlF水溶液1.507g、AC8.9gを使用し、反応温度を60℃、反応時間を1時間とした以外は比較例8と同様にしてエポキシ化反応を行なった。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
上記各数値の計算方法は次式による。
(1) MAC、ACの反応率
(添加したMAC、ACのモル数−生成物中のMAC、ACのモル数) ×100/添加したMAC、ACのモル数
(2) 過酸化水素反応率
(添加した過酸化水素のモル数−生成物中の過酸化水素のモル数)×100/添加した過酸化水素のモル数
(3)MEP、EPの選択率
生成物中のMEP、EPのモル数×100/反応したMAC、ACのモル数
(4)ジオール選択率
生成物中のジオールのモル数×100/反応したMAC、ACのモル数
(5)炭素収支
(生成物中のMAC、ACのモル数+生成物中のMEP、EPのモル数+生成物中のジオールのモル数)×100/添加したMAC、ACのモル数
【0055】
以上の各実施例、比較例に示されるように、本発明法は、チタノシリケート触媒のみ使用した場合に比べエポキシ化物の生成速度は大差ないが選択率が優れている。また、助触媒としてアルカリ金属またはアルカリ土類金属を使用した場合と比べエポキシ化物の生成速度が促進されている。チタノシリケ−ト触媒のみの場合、溶媒としてメタノ−ルの添加は、メタリルクロライドのエポキシ化反応においては効果がなく寧ろ選択率の低下が認められる(比較例1)。これに対し、アリルクロライドのエポキシ化反応においてはエポキシ化物の生成速度が非常に促進されるが選択率は十分でない(比較例9)。また、本発明法においては、反応温度を60℃まで高めても十分な選択率が保持されたまま生成速度が促進される(実施例3、8)。
【0056】
【発明の効果】
本発明によればオレフィンの過酸化水素によるエポキシ化反応を行なうにあたり、チタノシリケート触媒の助触媒として一価のタリウム化合物を使用することにより、エポキシ化活性を低下させることなく、生成されるエポキシ化合物の開環反応のみならず、原料オレフィンのオリゴマー化や重合反応がほぼ完全に抑制されるので、触媒中の細孔内へのエポキシ開環生成物、および、オリゴマーや重合物等の蓄積による閉塞を防止することが可能となり、エポキシ化反応の生成速度と共にその選択率を高めることができる。また、触媒活性再生のためのいかなる処理も行なうことなく長期間の繰り返し使用が可能となる。
Claims (8)
- 一般式(1)で示される脂肪族オレフィンがアリルクロライド、メタリルクロライド、1−クロロ−2−ブテン、1−クロロ−3−メチル−2−ブテンまたは1−クロロ−2−ペンテンである請求項1に記載のエポキシ化法。
- チタノシリケート触媒が一般式: xTiO2・(1-x)SiO2( 式中のx は0.002〜0.20) で示される化合物である請求項1に記載のエポキシ化法。
- チタノシリケート触媒がMFI、MELまたはBEAの結晶構造を有する請求項3に記載のエポキシ化法。
- 一価のタリウム化合物がタリウムのハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、りん酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩および水酸化物から選ばれた少なくとも一種である請求項1に記載のエポキシ化法。
- 一価のタリウムのハロゲン化物がタリウムのフッ化物または塩化物である請求項5に記載のエポキシ化法。
- 請求項1記載のオレフィンのエポキシ化反応を行なうにあたり、一価のタリウム化合物で処理したチタノシリケート触媒を用いるか、または一価のタリウム化合物とチタノシリケート触媒を別個に反応系に導入することを特徴とする方法。
- 請求項1記載のオレフィンのエポキシ化反応を行なうにあたり、反応相が液相であり、該液相中の溶媒が水であることを特徴とする方法。
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