JP4014345B2 - プラスチックレンズの染色方法及び染色用基体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラスチックレンズを染色する方法、及び該方法に使用する染色用基体に関する。
【0002】
【従来技術】
従来より、眼鏡用のプラスチックレンズに対して染色を行う方法として、浸漬染色方法(以下「浸染法」という)が多く用いられている。この浸染法は、分散染料の赤、青、黄の三原色を混合して水中に分散させた染色液を調合し、この染色液を90℃程度に加熱し、その中にプラスチックレンズを浸漬して染色を行うものである。
【0003】
また、この浸染法に代わる方法として、気相法による染色方法が提案されている。この気相法は固形昇華性染料を加熱して昇華させ、同じく加熱状態にあるプラスチックレンズを染色するというものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の気相法による染色法では、固形昇華性染料を加熱してレンズの染色を行うことから、染色後の廃液処理等の問題はないものの、レンズ面に染料を定量的に飛ばすのは困難であり、染色濃度の調製が難しいという問題や、濃い色のレンズに染色するのが困難であるという問題もある。また、染色に使用される染料の色相の調合は人為的な面が大きいため、調合した際の色のばらつきが生じ易く、品質管理上大きな問題となっている。
【0005】
また、従来の浸染法おいては分散染料の相互作用や凝集等により、色相のばらつきやムラが発生して安定な染色物が得られないという問題がある。また、使用した染色液を最終的には廃棄しなければならないことから、染料の有効利用ができない上に廃液処理の問題も発生する。さらに浸染法では、染色液を加熱するため、高温多湿でしかも染料による悪臭の存在する環境で染色作業を行うことになり、作業環境が悪いという問題がある。
【0006】
本発明は濃度の調製が容易で常に安定した色相のプラスチックレンズの染色を行うと共に、作業環境を損なわずに快適に染色作業を行う方法を提供することを技術課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0008】
(1) 少なくとも熱源からの熱を受ける加熱面が略黒色にて形成される基体に昇華性色素を溶解又は微粒子分散させた染色用用材を塗布する第一工程と、染色用用材が塗布された基体の塗布面を略真空中にプラスチックレンズの両面に非接触に対向させる第二工程と、前記基体の加熱面を前記熱源にて加熱することにより昇華性色素を昇華させ、該昇華性色素を前記プラスチックレンズに接触させる第三工程と、を特徴とする。
(2) (1)のプラスチックレンズの染色方法において、前記基体の加熱面上には昇華防止用のコーティング処理がされていることを特徴とする。
(3) (1)の第一工程は、前記加熱面以外の面に染色用用材を塗布することを特徴とする。
(4) 一方面からの昇華のみを行うために他方面からの昇華を防止するコーティング処理が前記他方面に施されている基体に、昇華性色素を溶解又は微粒子分散させた染色用用材を前記一方面に塗布する第一工程と、染色用用材が塗布された基体の塗布面を略真空中にプラスチックレンズの両面に非接触に対向させる第二工程と、前記基体の他方面の少なくとも一部を前記熱源にて加熱することにより昇華性色素を昇華させ、該昇華性色素を前記プラスチックレンズに接触させることにより、前記プラスチックレンズを染色させる第三工程と、を特徴とする。
(5) 少なくとも熱源からの熱を受ける加熱面が略黒色にて形成される基体に対して,前記基体の加熱面と反対の面となる印刷面に昇華性色素を溶解又は微粒子分散させた染色用用材を塗布する第一工程と、染色用用材が塗布された基体の塗布面を略真空中にてプラスチックレンズに対して非接触に対向させる第二工程と、前記基体の加熱面を前記熱源にて加熱することにより昇華性色素を昇華させ、該昇華性色素を前記プラスチックレンズに接触させる第三工程と、を特徴とする。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参考にしつつ説明する。図1は使用する染色装置等を示した染色システム概略図、図5は染色方法の流れを示したフローチャートである。
【0018】
(1)印刷基体の作製
初めにプラスチックレンズを染色するための昇華性染料が塗布された印刷基体10を作製する。印刷基体10はパーソナルコンピュータ1(以下PCという)にて所定の色相や色濃度を設定し、その後インクジェットプリンタ2から印刷することにより得られる。
【0019】
昇華性染料として、ウペポ(株)の分散染料インキ赤、青、黄、黒色(いずれも水性)の計4色を使用する。このインキを市販のインクジェットプリンタ用のインクカートリッジにそれぞれ入れ、プリンタ2にこのカートリッジを装着する。プリンタ2は市販(EPSON MJ-520C)のものを使用した。
【0020】
次に、このプリンタ2を使用して所望の色をプリントさせるために、市販されているPC1を使用して、出力する色相及び濃度の調製を行う。色相等の調製はPC1のドローソフトやCCM(コンピュータカラーマッチング)等により行うため、所望する色データをPC1内に保存しておくことができ、必要になったときに何度でも同じ色調が得られるようになっている。また、色の濃淡もデジタル管理されるため、必要なときに何回でも同じ濃度の色を所望することができる。
【0021】
図2はPC1を操作し、プリンタ2にて作製(印刷)した印刷基体10を示した図である。印刷基体10の作製に使用される印刷用紙11は図2(a)に示すように裏面(印刷を行わない面)の全域が黒色となっているものが使用される。このような片面が黒色の紙は、一般に市販されているものを使用することや、両面が白色の紙の片面を黒く塗ることにより使用することができる。また、片面が黒色の紙を使用するのは、後述するプラスチックレンズの染色時において、熱源からの熱を効率よく吸収し、印刷された染料を迅速に昇華させるためである。
【0022】
本実施の形態ではこのような片面が黒色である印刷用紙11を用いて印刷基体10を作製しているが、これに限るものではなく、裏面に黒色に近く熱吸収の良いとされる色や熱伝導率がよいとされる材料が用いられている印刷用紙であればよい。また、印刷用紙11として使用する紙はプリンタに使用できるものであれば特に限定はされないが、紙の厚みが薄いもの等、熱の伝導が良いとされる紙が好適に使用される。
【0023】
なお、印刷用紙11の表面(印刷を行う面)も裏面と同色であっても構わないが、印刷基体10を作製した際の印刷状態が判り易いように白色が好ましい。
【0024】
プリンター2に印刷用紙11を入れ、PC1の操作により、予め設定しておいた色相及び濃度にて印刷を行う。印刷された印刷用紙11の表面には図2(b)に示すように着色層12が円形状に印刷される。着色層12は印刷用紙11上に2つ印刷されるが、これは眼鏡レンズは左右一対となるので、予めペアにして作製しておく方が都合が良いためである。また、印刷される着色層12の直径は実際に染色をするレンズ径よりも長めの方が好ましい。着色層12の直径がレンズ径よりも短い場合、レンズの着色側全面に十分染料が行き渡らない可能性があるからである。
【0025】
また、印刷基体10の作製に使用される印刷用紙11のサイズは特にこだわる必要はなく、プリンタ2に使用可能な紙のサイズを使用すればよい。本実施形態で使用する紙のサイズはA5用紙サイズのものを使用しているが、プリンタ2より出力後、後述する染色用治具に合うように余計な余白部分をある程度切取って使用するものとしている。また、本実施の形態では、着色層12の形状は円形としているが、これに限るものではなく、レンズの染色させたい領域に染料が行き渡るような大きさ、形状であればよい。
【0026】
また、印刷基体10を加熱した際に、染料の昇華時に片面(表面)のみから染料を昇華させるために、裏面からの染料の昇華を防ぐためのコーティングがされていることが好ましい。図2(c)は印刷基体10の断面を表す拡大概略図であるが、この図に示すように印刷用紙11の裏面に通気を阻害するコーティング層13を形成しておく。このコーティング層13の材料には通気を阻害するとともに、ある程度の耐熱性を有しているものであれば使用することが可能であり、例えばオレフィン系の樹脂やポリエチレングリコール等が使用される。
【0027】
このようにコーティング層13を設けることにより、印刷基体10の裏面からの昇華を防止し、効率よくレンズへの染料の蒸着を行うため、所望する濃度が得られ易くなる。
【0028】
(2)プラスチックレンズの染色
図3にプラスチックレンズに染色を行うための真空気相転写機を正面から見た内部該略図を示す。
【0029】
20は真空気相転写機であり、正面にはプラスチックレンズ22や印刷基体10等を出し入れするための図示無き開閉扉が設けられている。真空気相転写機20内部の上部と下部には印刷基体10を熱して染料を昇華させるための熱源としての加熱ランプ21が上部に7本、下部に7本の計14本設置される。本実施形態で使用される加熱ランプ21はハロゲンランプを使用しているが、印刷基体10と非接触にて加熱が可能なものであればこれに限るものではない。
【0030】
また、真空気相転写機20の内部はプラスチックレンズ22を染色するための染色用治具30を載置させる棚23を備えている。棚23には複数個の長方形の開口部23aが設けられており、この開口部23aに染色用治具30を嵌め込むことで、真空気相転写機20内部の中段位置に染色用治具30を支持(載置)しておくことが可能である。
【0031】
染色用治具30には、レンズ22を挟んで印刷基体10がレンズ22の凹面側、凸面側の両面側に取り付けられており、両方向から加熱することにより、レンズ22の凹面、凸面の両面を一度に染色することが可能な機構となっている。
【0032】
印刷基体10と加熱ランプ21との距離は、あまり近すぎると温度ムラが生じてしまい、印刷基体10条の着色層12の全域が均一に昇華されないため、レンズ22の染色がムラになり易い。また、あまり遠いと熱の効果が少なく、染料の昇華に時間が掛かる。したがって、印刷基体10と加熱ランプ21との距離は、好ましくは50mm〜500mmであり、さらに好ましくは150mm〜300mmである。
【0033】
24はロータリーポンプであり、真空気相転写機20内をほぼ真空にさせるために使用する。25はリークバルブであり、このバルブを開くことで、ほぼ真空になった真空気相転写機20内に外気を入れ、大気圧に戻すものである。
【0034】
図4は染色用治具30の詳細を示した正面断面図である。31は開口部23aに嵌め込まれる箱型の基台である。基台31は開口部23aと同形状を有し、嵌め込んで使用されるが、嵌め込む際に基台31の周囲に設けられた縁部31aが棚23に引っかかることにより、開口部23aから落ちないように保持される。基台31の底部31bには、印刷基体10の着色層12の直径よりも充分大きな直径を持つ円形状の開口部31cが2つ設けられており、底部31bに印刷基体10が敷かれると、開口部31c上に印刷基体10の着色層12が位置するようになっている(図では奥行き方向に対して開口部31cが2つ設けられている)。このような機構により、本体20の下部に設けられた加熱ランプ21から光が発せられると、開口部31cを通して印刷基体10に直接当たり、着色層12からの染料の昇華が起こり易いようになっている。
【0035】
さらに基台31上には、敷かれた印刷基体10上の着色層12の各々に、着色層12よりも大きな径を持つ円筒形の間隔調整リング32が着色層12を覆うようにして各々置かれる。リング32は印刷基体10を動かないように押えるとともに、レンズ22と印刷基体10との間隔を調整する役目も持つ。リング32の高さを変えることにより、レンズ22と印刷基体10との間隔を調整することができ、染色後のレンズの濃度を調整することが可能である。
【0036】
リング32の上部にはレンズ22を載置するためのレンズ台34が置かれ、さらにその上に印刷基体10とレンズ22の凹面との間隔を調整するための間隔調整リング33が置かれる。レンズ台34は円筒形を有しており、さらにその内側は図に示すように、レンズ22が下に落ちないようレンズを支えるレンズ支持部34aを備える形状となっている。
【0037】
レンズ台34をリング32上に載せた後、レンズ22の縁をレンズ支持部34aに載せることにより、レンズ22を開口部31c上に保持させておくことができる。35は印刷基体10を押えるための印刷基体押さえである。印刷基体押さえ35の上面には基台31と同じように2つの開口部35aが設けられており、真空気相転写機20の上部に設けられた加熱ランプ21から光が発せられると、開口部35aを通して印刷基体10に直接当たるようになっている。
【0038】
リング32、33の高さはレンズ22の染色状態によって決定すれば良いが、レンズ22に印刷基体10が触れてしまうと、その接触部分だけ濃度・色相が異なってしまい、レンズ22を均一に着色できない。また、反対にレンズ22の染色面と印刷基体10との間が離れすぎると、レンズ22への染色濃度が薄くなってしまい、所望する染色濃度が得られ難くなる。また、気層中で染料の粒子が均一に分散されず、反対に互いに集結するため、レンズ22の染色面にてむらになって蒸着する傾向がある。このような点から、レンズ22の染色面側の幾何中心から印刷基体10までの距離は、好ましくは凸面側では1〜30mm程度であり、凹面側では7〜30mm程度である。
【0039】
また、使用されるレンズ22の材質は、ポリカーボネート系樹脂(例えば、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート重合体(CR−39))、ポリウレタン系樹脂、アリル系樹脂(例えば、アリルジグリコールカーボネート及びその共重合体、ジアリルフタレート及びその共重合体)、フマル酸系樹脂(例えば、ベンジルフマレート共重合体)、スチレン系樹脂、ポリメチルアクリレート系樹脂、繊維系樹脂(例えば、セルロースプロピオネート)、さらにはチオウレタン系やチオエポキシ系等の高屈折率の材料や、その他従来より染色性に劣るとされた高屈折率材料等を用いることができる。
【0040】
以上のような構成を持つ真空気相転写機を使用して以下の操作を行い、レンズ22の染色を行う。
【0041】
図示なき開閉扉を開け、棚23に設けられた開口部23aに基台31を設置した後、(1)において作製された印刷基体10、レンズ22を、図4のように染色用治具30に取り付ける。
【0042】
次に図示なき開閉扉を閉じて真空気相転写機20を密閉した後、ロータリーポンプ24を用いて真空状態にする。このときの真空状態とは0.1〜5kPa付近まで減圧したときのことである。0.1kPaを下回っても差し支えないが、高性能排気装置を必要とする。また、装置内の気圧が高ければ高い程、染料を昇華させるのに必要な温度が高くなるため圧力の上限は5kPaまでが好ましい。さらに好ましくは1〜3kPaである。
【0043】
所定の気圧が得られたら、上部、下部に設置されている加熱ランプ21を点灯させる。着色層12上の染料は100℃以下では昇華し難いため、できるだけ短時間にて高温にすることが望ましい。染料の昇華にあたって、加熱を行う場合の温度をできるだけ高温とするのは、染料の昇華完了時間を短くすることができ、生産性を向上させることができるからである。また、昇温時間が長時間になると、レンズ22自体の温度が上がりはじめてしまい、昇華した染料がレンズに付き難くなってしまう。
【0044】
本実施の形態で使用する印刷用紙11は、裏面が黒色のものを使用しているため、熱の吸収が早く印刷基体10の昇温速度が速くなるとともに、高温になり易い。このため、印刷基体10からの染料の昇華を短時間で終えることができ、生産効率がよくなる。また、短時間で終えることにより、レンズ自体の温度上昇を押えることができる。
【0045】
また、上部に設置されている加熱ランプ21の点灯により、染色用治具30の上部に敷かれた印刷基体10を加熱することができ、下部に設置されている加熱ランプ21の点灯により、染色用治具の底部に敷かれた印刷基体10を加熱することができる。このため、レンズ22の両面が同時に染色することが可能なため、片面のみ染色で得られる濃度よりも濃い濃度が1回の染色で簡単に得られることとなる。
【0046】
さらに、凹面の染色と凸面の染色を別々の印刷基体にて行えるため、レンズ22の凸面側の染色と凹面側の染色を各々異なる色や素材にて行うことが可能である。
加熱が終了したらリークバルブ25を開いて常圧に戻し、真空気相転写機20を開け、レンズ22を取り出す。レンズ22には昇華した染料が蒸着しているが、このままでは取れやすいので、オーブン3に入れ常圧下にて加熱し定着させる。この工程はレンズ22の耐熱温度以下で、できるだけ高温に設定された温度にオーブン3内を加熱し、所望の色相及び濃度を得るために予め定めておいた時間が経過した後にオーブン3内からレンズ22を取り出すといった手順で実行される。加熱温度は90℃未満であると十分な発色ができず、150℃を超えるとレンズが変形し易い。このため加熱温度は、好ましくは90℃以上150℃以下であり、さらに好ましくは110℃以上130℃以下である。また、加熱時間は30分未満では十分な発色ができず、3時間を超えると染料の変質が起こり易いため所望する色相が得られなくなる。このため加熱時間は、好ましくは30分以上3時間以下であり、さらに好ましくは30分以上2時間以下である。
【0047】
以上説明したように、一度に両面側から染色することで短時間に濃い濃度のレンズの染色が可能である。また、本発明のような気層にて行う染色は浸染法に比べ、染色性の低い高屈折率のレンズ材料であっても十分に染色することが可能である。さらに、印刷基体から染料を昇華させてレンズに蒸着させる前に、さらに、印刷基体から染料を昇華させてレンズに蒸着させる前に、レンズ自体に定着を促進させるための前処理を施しておくことにより、オーブンでの定着時間を短くすることができる。上記の前処理にはフェニルフェノール系やナフタレン系、クロロベンゼン系等のキャリヤーと呼ばれる用剤が使用される。
【0048】
(実施例1)
この実施例では、CR−39のレンズを使用した。昇華性インキはウペポ社製の分散染料(水性)を使用し、PC1のドローソフトを使用して色相(U)160、彩度(S)255、明度(V)153に決定した。その後、この色データに基づいて印刷面(表面)が白色、裏面が黒色の印刷用紙(裏面に通気防止のコーティング処理済)に、直径90mmの円形形状を2つ印刷した後、図4に示す染色用治具30に合うように余白部分を切り取り、これを印刷基体とした。印刷基体は1つの染色用治具30に対して2枚作製した。
【0049】
次に、図3に示すように真空気相転写機20の棚23にレンズ22を挟んで印刷基体の印刷面を対抗させた状態で染色用治具30取り付けた。次にロータリーポンプ24を使用して真空気相転写機20内の圧力を1kPaにした。真空気層転写機20内の圧力が1kPaになったら、上下の加熱ランプ21(ハロゲンランプ)を点灯させて、印刷基体から染料を昇華させた。加熱ランプ21と印刷基体10との距離は200mmとした。
【0050】
この時の印刷基体の昇温状態を表1に示す。温度変化は印刷基体の裏面(黒色側)に熱電対を接触させて計測した。印刷基体上の染料は加熱ランプ21の点灯後、45秒ほどで着色層12上の染料はすべて昇華した。
【表1】
【0051】
(比較例1)
この比較例1では、実施例1に対し、両面とも白色の印刷用紙を使用して印刷基体を作製したことのみ異なるだけで、その他はすべて同じ条件とした。この時の印刷基体10の昇温状態を表2に示す。印刷基体上の染料は加熱ランプ21の点灯後、45秒ほど経過しても一部の染料しか昇華されなかった。染料がすべて昇華されるためには点灯から120秒以上を要した。
【表2】
【0052】
(実施例2)
実施例1と同じ条件にてレンズの凹面側、凸面側の同時染色を行った(両面染色)。加熱ランプ21によって印刷基体の温度が250℃になるまで点灯(加熱)を続けた。加熱終了後、染色されたレンズを取り出し、染色されたレンズの色を定着させるためにオーブン内にて125℃、60分程加熱した。表3に色度データを示す。測色は分光光度計((株)村上色彩技術研究所 DOT-3)にて行なった(D65光源、10視野)。ここで、Yは視感透過率を、L*、a*、b*はCIE表色値を示す。また、定着後、外観不良、色むら、色抜け等がなく目的の色と一致しているかという観点で目視観察を行ったが、問題はなかった。
【表3】
【0053】
表3に示すように、レンズの両面を一度に染色することにより、1回の染色で染色濃度が80%近くまで着色できた。
【0054】
(比較例2)
実施例1と同じ条件にてレンズの凹面側のみの染色を行った(片面染色)。上側に設置されている加熱ランプ21のみを点灯させて、印刷基体の温度が250℃になるまで加熱を続けた。加熱終了後、染色されたレンズを取り出し、染色されたレンズの色を定着させるためにオーブン内にて125℃、60分程おいた。表4に色度データを示す。定着後、外観不良、色むら、色抜け等がなく目的の色と一致しているかという観点で目視観察を行ったが、問題はなかった。
【表4】
【0055】
表4に示すように、レンズの片面の染色では、1回の染色で染色濃度が50%程度しか得られなかった。
【0056】
(実施例3)
高屈折率(1.74)のチオエポキシ系のレンズを用いて染色を行った。この実施例では、昇華性インキはウペポ社製の分散染料(水性)を使用し、PC1のドローソフトを使用して色相(U)120、彩度(S)170、明度(V)150とした。その後、この色データに基づいて印刷面(表面)が白色、裏面が黒色の印刷用紙に、直径90mmの円形形状を2つ印刷した後、図4に示す染色用治具30に合うように、余白部分を切り取り、これを印刷基体とした。
【0057】
次に、実施例1と同様な真空気層転写機30、染色用治具30を使用してレンズに染色を行った。染色はレンズの両面ではなく、凹面のみを行うものとした。真空気層転写機20内の圧力は1kPaとし、上側に設置されている加熱ランプ21のみを点灯させて、印刷基体の温度が250℃になるまで加熱を続けた。加熱終了後、染色されたレンズを取り出した後、さらにもう一度同じ工程を行い、レンズの凹面側に2回染料を昇華させ蒸着させた。その後、染色されたレンズの色を定着させるためにオーブン内にて種々の条件を変えて加熱を行った。オーブンの加熱条件は125℃にて1時間、135℃にて1時間、135℃にて2時間、150℃にて2時間の計4条件にて行った。
【0058】
定着後のレンズの染色結果を表5に示す。測色は実施例2と同様に分光光度計にて行なった。ここで、Yは視感透過率を、L*、a*、b*はCIE表色値を示す。また、定着後、外観不良、色むら、色抜け等がなく目的の色と一致しているかという観点で目視観察を行ったが、問題はなかった。
【表5】
【0059】
表5に示すように染色性に劣るとされた高屈折率材料でも、本発明の染色法により、問題なく濃い濃度の染色を行うことができた。
【0060】
また、レンズへの染色を行う前に、レンズ自体を80℃、0.2%の前処理用ののキャリヤー溶液(大和化学工業(株)DK−C)に2分程浸漬した後、前述の条件(表4の発色条件)で同じように染色を行ったところ、すべての条件において加熱時間が半分の時間で同じ視感透過率が得られた。
【0061】
(比較例3)
実施例3と同じレンズにて浸染法により、染色を行った。分散染料Red1g/l、Yellow1g/l、Blue4g/lの染色液を調合し、この染色液を90℃程度に加熱し、その中にレンズを30分浸漬して染色を行った。その後、オーブンで115℃にて1時間加熱して染色を完了させた。表6に染色結果を示す。
【表6】
【0062】
表6に示すように、30分染色で濃度15%程しか得られなかった。さらに浸漬時間、オーブンでの加熱時間等を延ばしたが、あまり変わりはなかった。
【0063】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、濃度の調製が容易で常に安定した色相のプラスチックレンズの染色が迅速に行えると共に、作業環境を損なわずに快適に染色作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】使用する染色装置等を示した染色システム概略図である。
【図2】印刷基体の詳細を示した図である。
【図3】真空気層転写機内部の概略構成を示す図である。
【図4】真空気層転写機内部に置かれる染色用治具の構成を示す図である。
【図5】染色方法の流れを示したフローチャートである。
【符号の説明】
1 パーソナルコンピュータ
2 インクジェットプリンタ
3 オーブン
10 印刷基体
11 印刷用紙
12 着色層
20 真空気層蒸着機
21 加熱ランプ
22 プラスチックレンズ
30 染色用治具
Claims (5)
- 少なくとも熱源からの熱を受ける加熱面が略黒色にて形成される基体に昇華性色素を溶解又は微粒子分散させた染色用用材を塗布する第一工程と、染色用用材が塗布された基体の塗布面を略真空中にプラスチックレンズの両面に非接触に対向させる第二工程と、前記基体の加熱面を前記熱源にて加熱することにより昇華性色素を昇華させ、該昇華性色素を前記プラスチックレンズに接触させる第三工程と、を特徴とするプラスチックレンズの染色方法。
- 請求項1のプラスチックレンズの染色方法において、前記基体の加熱面上には昇華防止用のコーティング処理がされていることを特徴とするプラスチックレンズの染色方法。
- 請求項1の第一工程は、前記加熱面以外の面に染色用用材を塗布することを特徴とするプラスチックレンズの染色方法。
- 一方面からの昇華のみを行うために他方面からの昇華を防止するコーティング処理が前記他方面に施されている基体に、昇華性色素を溶解又は微粒子分散させた染色用用材を前記一方面に塗布する第一工程と、染色用用材が塗布された基体の塗布面を略真空中にプラスチックレンズの両面に非接触に対向させる第二工程と、前記基体の他方面の少なくとも一部を前記熱源にて加熱することにより昇華性色素を昇華させ、該昇華性色素を前記プラスチックレンズに接触させることにより、前記プラスチックレンズを染色させる第三工程と、を特徴とするプラスチックレンズの染色方法。
- 少なくとも熱源からの熱を受ける加熱面が略黒色にて形成される基体に対して,前記基体の加熱面と反対の面となる印刷面に昇華性色素を溶解又は微粒子分散させた染色用用材を塗布する第一工程と、染色用用材が塗布された基体の塗布面を略真空中にてプラスチックレンズに対して非接触に対向させる第二工程と、前記基体の加熱面を前記熱源にて加熱することにより昇華性色素を昇華させ、該昇華性色素を前記プラスチックレンズに接触させる第三工程と、を特徴とするプラスチックレンズの染色方法。
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