JP4014288B2 - 3−アシロキシシクロヘキセンの製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸素の存在下に、シクロヘキセンとカルボン酸をパラジウム及びテルルを活性成分として担持する固体触媒と反応させて3−アシロキシシクロヘキセンを製造する方法に関するものである。更に詳しくは、反応系内の酸素分圧を2〜8kg/cm2 の範囲に保持して、酸素の存在下に、シクロヘキセンとカルボン酸を液相下で、パラジウム及びテルルを活性成分とする固体触媒と反応させて3−アシロキシシクロヘキセンを製造する方法に関するものである。
3−アシロキシシクロヘキセンは、香料、医薬、農薬など有機工業化学の原料として有用な化合物である。さらに通常の方法により加水分解すると3−ヒドロキシシクロヘキセンが得られ、これも有機合成反応の原料として極めて有用な化合物である。
【0002】
【従来の技術】
従来、シクロヘキセンとカルボン酸及び分子状酸素とを液相下で反応させて3−アシロキシシクロヘキセンを製造する方法としては、▲1▼パラジウム化合物、塩化リチウム及び硝酸リチウムからなる触媒の存在下に反応させる方法(特開昭51−8245号公報に記載の方法)、▲2▼酢酸パラジウム、p−キノン及びヘテロポリ酸から成る触媒の存在下に反応させる方法(J.Mol.Catal.A:Chem.,114,113−122(1996))、▲3▼酢酸パラジウム、p−キノン及び遷移金属錯体から成る触媒の存在下に反応させる方法(J.Am.Chem.Soc.,112(13),5160−66(1990))などが開示されている。
【0003】
しかしながら、上記▲1▼、▲2▼及び▲3▼の方法では均一系触媒で反応を行うこと、同時に目的生成物である3−アシロキシシクロヘキセンは、シクロヘキセン及びカルボン酸に対して高い沸点を有することにより反応後の触媒成分の分離回収、生成物の分離精製工程が煩雑になる等の問題があった。
さらに、シクロアルケンとカルボン酸及び分子状酸素とを担持型パラジウム成分及び含窒素酸化物から成る触媒の存在下に反応させて3−アシロキシシクロオレフィンを製造する方法(特開平3−275648号公報に記載の方法)が開示されている。この方法においては、反応系における触媒の状態は、均一であっても、不均一であってもよいことが記載されているが、本発明者らの検討によれば、シクロヘキセンと酢酸を用いた反応系では、パラジウム成分の液中溶出が著しく、実質上は上記▲1▼、▲2▼及び▲3▼の均一系触媒の方法と同様に触媒成分の分離回収の為の煩雑な工程が必要となることが分かった。
【0004】
一方、C3〜C6のオレフィンを低級脂肪酸の存在下にパラジウム、白金のうちの少なくとも一つとテルルまたはビスマスを含有する固体触媒を使用して酸素により酸化してカルボン酸アルケニルエステルを製造する方法(特開昭53−90212号公報に記載の方法)が開示されている。この方法によれば、不均一系触媒を用いて安定な触媒活性を保持できるとの記載があるが、長期間安定的に触媒活性が保持されることを証明する記載は無く、さらに液相系で反応させた際の触媒上の担持金属成分の溶出挙動に関する例示はなされていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
以上のごとく、酸素の存在下に、シクロヘキセンとカルボン酸を液相下で反応させて3−アシロキシシクロヘキセンを製造するに際し、反応液と触媒成分の分離が容易となる簡便な製造方法は知られておらず、工業的には担持金属成分の液中溶出を防止し、かつ3−アシロキシシクロヘキセンを高選択率にて長期間にわたり安定的に製造できる固体触媒を用いた製造方法が望まれるところであった。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意、検討を重ねた結果、酸素の存在下でシクロヘキセンとカルボン酸を液相下で、パラジウム及びテルルを活性成分とする固体触媒と反応させて3−アシロキシシクロヘキセンを連続的に製造する際に、反応器内部の酸素分圧を限定された範囲内に保持することにより、担持金属の液中溶出を防止し、3−アシロキシシクロヘキセンを高選択率にて安定的に、かつ簡便に製造できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は酸素の存在下に、シクロヘキセンとカルボン酸を液相下で、パラジウム及びテルルを活性成分として担持する固体触媒と反応させて3−アシロキシシクロヘキセンを連続的に製造する方法において、反応系内の酸素分圧を2〜8kg/cm2 (以下、圧力は絶対圧力で表示し、kg/cm2 単位を用いる。)の範囲に保持することを特徴とする3−アシロキシシクロヘキセンの製造法である。
【0007】
本発明によれば、通常60%以上、好適には70%以上の高い選択率で3−アシロキシシクロヘキセンを製造することができる。同時に活性成分として担持されるパラジウム及びテルルの液中溶出を大幅に抑制することができる為、反応後の触媒成分の分離回収に係わる煩雑な操作を必要とせず、長期間にわたり安定的に3−アシロキシシクロヘキセンを製造することができる。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明の反応は、液相下において固体触媒上の担持パラジウムが直接の反応活性点となり、シクロヘキセンとカルボン酸イオンより3−アシロキシシクロヘキセンを生成する反応と考えられる。この際、酸素は直接的あるいは触媒を介して間接的にシクロヘキセンのアリル水素及びカルボン酸の解離水素の受容体として作用し水を生成する。このように酸素の存在が反応を円滑に進行させる上で重要な役割を担うであろうことは容易に推察でき、反応に必要な酸素を確保せねば酸素不足により反応速度が低下し、原料シクロヘキセンの転化率を低下せしめるであろうことは容易に推測されることである。しかしながら、本発明者らは、反応系内の酸素量の影響について鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、一定の酸素量以下に反応系を保持すると、3−アシロキシシクロヘキセンの選択率は急激に低下し、酸化脱水素反応によるベンゼンの生成が主となることが判明した。併せてシクロヘキセンの転化速度は向上し、望ましくない生成物であるベンゼンが高収率にて得られるという予想外の事実を見出したのである。また、一定の酸素量以上に反応系を保持すると、酸化脱水素反応によるベンゼンの生成を抑制できるが、固体触媒上に活性成分として担持されるパラジウム及びテルルの液中溶出が抑制できなくなることが判明した。
【0009】
すなわち、本発明の方法は、反応器内部の酸素分圧を限定された範囲内に保持することにより、その目的を達成することができる。つまり、酸素の存在下に、シクロヘキセンとカルボン酸を液相下で、パラジウム及びテルルを活性成分として担持する固体触媒と反応させて3−アシロキシシクロヘキセンを製造する方法において、反応系内の酸素分圧を2〜8kg/cm2 の範囲に保持することを特徴とする3−アシロキシシクロヘキセンの製造法である。反応系内の酸素分圧が2kg/cm2 未満では3−アシロキシシクロヘキセンへの選択率は低下し、酸化脱水素反応によるベンゼンの生成量が増大する。また、反応系内の酸素分圧が8kg/cm2 を越えると固体触媒上に活性成分として担持されるパラジウム及びテルルの液中溶出が抑制できなくなる。反応系内の酸素分圧が2〜8kg/cm2 の範囲に保持されない場合、担持金属の液中溶出を防止すると同時に、3−アシロキシシクロヘキセンを高選択率にて安定的に、かつ簡便に製造することができなくなる。
【0010】
これらの理由は定かではないが、本発明においては固体触媒上に活性成分として担持されるパラジウム及びテルルが適度な酸化状態に保たれることが重要であると考えられる。つまり、反応系内に酸素が不足すると、パラジウムは、より還元状態で安定化しシクロヘキセンの脱水素能が増大している可能性がある。このことは反応基質にシクロヘキセンを用いる本発明の大きな特徴である。また、反応系内に酸素が過剰となると活性成分として担持されたパラジウム及びテルル自身の酸化反応が起こりやすくなり、液中溶出が抑制できなくなることが考えられる。
【0011】
本発明に適用される触媒はパラジウム及びテルルを必須の活性成分として担体に担持した固体触媒である。触媒の調製法は特に限定されるものではなく、担体付き金属触媒調製のためによく知られている方法を用いることができる。特に、適当なパラジウム化合物及びテルル化合物を担体に担持させ、周知の適当な方法により還元して調製することができる。例えば、パラジウム及びテルルの金属、酸化物、水酸化物、塩酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩、錯塩等から選ばれる化合物を適当な溶媒に溶解して固体担体を浸漬し、公知の含浸法、吸着法、共沈法等の担持法により触媒成分を担体に担持させた後、気相下にて水素気流中もしくは還元性化合物を含む気流中で、または液相下にて公知の還元剤、例えば、ホルマリン、ヒドラジン等で還元して調製される。触媒調製の為に用いられるパラジウム化合物としては金属パラジウム、酸化パラジウム、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム及びパラジウムアンミン錯体等が挙げられる。また、テルル化合物としては金属テルル、酸化テルル、塩化テルル、テルル酸、オルソテルル酸等が挙げられる。パラジウム及びテルルは同時にまたは順次に担体上に担持、還元せしめることができる。つまり、パラジウムを予め担持、還元せしめた固体触媒を用いて、テルルを後から担持、還元せしめる調製方法を用いてもよい。触媒調製のために用いられる担体としては、活性炭、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、チタニア、マグネシア、ゼオライト、珪藻土等を用いることができるが、中でも安定性に優れた活性炭をを用いることが好ましい。活性炭は市販のものをそのまま使用してもよいが、硝酸等の酸を用いる通常の洗浄処理を施したものを使用することができる。
【0012】
担体へのパラジウム及びテルルの担持量は、特に限定されず、広い範囲で変化し得るが、パラジウムとテルルの合計量が0.1〜20重量%の範囲が適当であり、より好ましくは0.5〜10重量%の範囲である。担体に担持されるテルルは、触媒中のパラジウムに対するテルルの担持比率で、通常パラジウム1グラム原子に対して0.02〜1グラム原子の範囲から選択され、より好ましくはパラジウム1グラム原子に対し0.03〜0.5グラム原子、更に好ましくは0.05〜0.3グラム原子の範囲である。
【0013】
本発明の方法で、シクロヘキセンと反応させるカルボン酸としては、脂肪族、脂環族、芳香族など任意のものを用いることができるが、工業的には酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸等の低級脂肪族カルボン酸を用いることが好ましく、特に好ましいのは酢酸である。
本発明の方法で用いられるシクロヘキセンの純度には特に制限は無く、例えば若干のシクロヘキサン、ベンゼンを含んでいても、また微量の水を含んでいても特にさしつかえない。
【0014】
本発明の方法における酸化的アシロキシ化反応は、溶媒中あるいは無溶媒下で実施することができる。ここで溶媒としては飽和炭化水素、エーテル、エステル等の不活性溶剤を使用することができるが、通常は低級脂肪族カルボン酸、好ましくは原料として用いるカルボン酸を原料兼溶媒として用いる。この際の溶媒を兼ねる原料カルボン酸とシクロヘキセンの割合は、固体触媒が存在する反応場に供給される初期濃度の比率として、シクロヘキセン1モル当たり原料カルボン酸が5〜500モルの範囲が適当であり、より好ましくは6〜300モルの範囲である。シクロヘキセンに対してカルボン酸の量が少なくなると、反応速度が低下すると同時に、酸化脱水素反応によるベンゼンの生成比が増加し3−アシロキシシクロヘキセンの選択率が低下するので好ましくない。また、シクロヘキセンに対してカルボン酸の量が過剰になると単位反応器容量当たりの3−アシロキシシクロヘキセンの生産性が低下し工業的製法としては実用的でない。
【0015】
本発明の方法では、上述の原料を酸素の存在下に液相下で、パラジウム及びテルルを活性成分として担持する固体触媒と反応させる。本発明で使用する酸素は分子状酸素、すなわち純酸素気体または酸素気体を反応に不活性な希釈剤、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム、炭酸ガス等で希釈した混合気体の形とすることができ、空気を用いることもできる。酸素はこれら不活性気体と任意の混合比率にて、反応系内の酸素分圧を2〜8kg/cm2 の範囲に保持できるような任意の加圧状態として反応系に供給することができるが、酸素濃度は反応系内で気体が爆発組成とならない範囲が好ましい。酸素と不活性気体の混合気体の供給圧力は、任意の反応温度条件下にて反応器内部で反応液が液相を形成し得る反応器内の操作圧力と同一、あるいは以上の圧力であることが好ましい。
本発明の方法では、反応は通常20〜150℃、好ましくは30〜130℃、より好ましくは40〜120℃の範囲で行われる。150℃を越えて高温になると酸化脱水素反応によるベンゼンの生成比率及び高沸点副生物の生成比率が増加し、3−アシロキシシクロヘキセンへの反応選択性を低下せしめるので好ましくない。また20℃未満の低温では、反応速度が低下して好ましくない。
【0016】
本発明の方法では、酸素の存在下に、反応系内の酸素分圧を2〜8kg/cm2 の範囲に保持し、シクロヘキセンとカルボン酸を液相下で、パラジウム及びテルルを活性成分として担持する固体触媒と反応させることにより、担持金属の液中溶出を防止し、3−アシロキシシクロヘキセンを高選択率にて安定的に、かつ簡便に製造できる。この場合、反応系における触媒の状態は不均一であって、反応系の状態は液相であるが、反応を行うにあたっては、上述した如く酸素を含有する気体を用いて反応系に酸素を供給する必要があり、反応系内は実質上、液相と触媒成分である固相及び酸素を含有する気相より構成される。また、反応方式は特に制限はなく回分式、半回分式、連続式などのいずれでもよい。例えば回分式の混合撹拌槽型反応器を用いる場合には、酸素含有気体を反応器内に形成される液相部に直接吹き込んでもよいし、液相部と接触して存在する気相部に導入してもよい。この時、反応系の酸素分圧が常に2〜8kg/cm2 の範囲に保持されるように、反応によって消費される酸素の相当量を連続的あるいは断続的に供給せしめるとよい。また、連続式の固定床型反応器を用いる場合には反応器入口側の酸素分圧を8kg/cm2 以下とし反応器出口側の酸素分圧が2kg/cm2 以上となるように供給酸素量、触媒充填量等の反応条件を管理すればよい。
【0017】
本発明の方法において、用いる固体触媒は実施する反応形態、例えば固定床方式、流動床方式、懸濁触媒方式等に応じて粉末状担体、破砕状担体、粒子状担体及び柱状担体等にパラジウム及びテルルを担持したものを使用することができる。この際、担体の大きさについて特に制限はない。また、該固体触媒の使用量は、実施する反応形態、用いる担体の形状、固体触媒中のパラジウム及びテルルの担持量等によって任意に選ぶことができ特に制限はないが、例えば回分式反応の場合、シクロヘキセン1モルに対して、固体触媒に担持されたパラジウムが0.1グラム原子以下となる量の固体触媒が用いられる。
本発明によれば、通常60%以上、好適には70%以上の高い選択率で3−アシロキシシクロヘキセンを製造することができる。同時に活性成分として担持されるパラジウム及びテルルの液中溶出を大幅に抑制することができる為、反応後の触媒成分の分離回収に係わる煩雑な操作を必要とせず、長期間にわたり安定的に3−アシロキシシクロヘキセンを製造することができる。
【0018】
【実施例】
以下実施例をもって、本発明を更に詳述する。
(実施例1)
1)固体触媒の調製
市販の5%−パラジウム担持カーボン(和光純薬製)を40℃にて12時間、真空乾燥処理した。乾燥処理後のパラジウム担持カーボン5.0gを二酸化テルルの塩酸溶液(0.0375gの二酸化テルルを20mlの6N−塩酸溶液に溶解したもの)と共にガラスフラスコに入れ、ロータリーエバポレーターに設定、ゆっくり撹拌混合しながら、常圧下に温度90℃のオイルバスに浸し濃縮乾固した。ガラスフラスコを取り出した後、氷にて冷却された水浴に浸し、37%ホルムアルデヒド溶液15mlを約1時間かけて滴下した。続いて、30%水酸化カリウム水溶液10mlを約1時間かけて滴下した。さらに約12時間静置した後に減圧吸引濾過し、濾液が中性となるまで熱水で繰り返し洗浄した。含水触媒ケークを磁性皿に移した後、横置きパイレックスガラス中に保持し、N2 を100Nml/分で供給しながら、ゆっくり昇温し、200℃にて2時間乾燥、さらに昇温し400℃にて1時間保持した後、N2 を引き続き供給しながら一夜放冷し、室温下で触媒を回収した。この触媒はパラジウムを4.97重量%、テルルを0.60重量%含有しており、パラジウム1グラム原子に対して0.10グラム原子のテルルを含有する固体触媒を得た。
【0019】
2)シクロヘキセンの酸化的アシロキシ化反応
気相部に自動保圧弁と、さらに排出ガスライン中に酸素濃度計を設置し、ガス自給式撹拌翼及び原料導入ポットを取り付けたSUS316材質の総容量200mlのオートクレーブに、酢酸40gを仕込み、1)で得られた固体触媒0.86gを懸濁させる。さらに原料導入ポットにシクロヘキセン0.82g及び酢酸10gを仕込んだ後、系内を窒素ガスを用いて置換し、撹拌しながら90℃まで昇温した。この後、原料ポットより酢酸に溶解させたシクロヘキセンをオートクレーブ内に瞬時に供給すると同時に、7%の酸素を含有する窒素の混合ガスを気相部に導入し、系内圧力を60kg/cm2 まで昇圧した後、反応を開始した。その後、反応器気相部から連続的にガスパージを行い、排出される気相酸素濃度が7%となるように空気と窒素の混合比を調製した希釈酸素ガスを反応器に連続的に供給し、系内圧力60kg/cm2 (系内酸素分圧4.2kg/cm2 )を保ち2時間反応を行った。
【0020】
反応後、固体触媒を濾別した後に、反応液をガスクロマトグラフィーによって分析したところ、シクロヘキセンの転化率は57.4%であり、3−アセトキシシクロヘキセンの選択率は転化したシクロヘキセン基準で74.8%であることが確認された。一方、ICP発光分光分析により反応液中のパラジウム及びテルルの溶出濃度を測定した。パラジウム及びテルルの溶出濃度は共に0.1ppm以下であった。これらの結果を表1に示す。70%以上の高い選択率で3−アセトキシシクロヘキセンを得ると同時に活性成分として担持されるパラジウム及びテルルの液中溶出を抑制することができた。
【0021】
(実施例2)
実施例1と同じ固体触媒を用いて、系内圧力を36kg/cm2 (系内酸素分圧2.5kg/cm2 )とした他は、実施例1と同様の操作で2時間反応を行った。結果を表1に示す。実施例1と同様、高い選択率で3−アセトキシシクロヘキセンを得ると同時に活性成分として担持されるパラジウム及びテルルの液中溶出を抑制することができた。
(実施例3)
実施例1と同じ固体触媒を用いて、系内圧力を107kg/cm2 (系内酸素分圧7.5kg/cm2 )とした他は、実施例1と同様の操作で2時間反応を行った。結果を表1に示す。実施例1及び2と同様、高い選択率で3−アセトキシシクロヘキセンを得ると同時に活性成分として担持されるパラジウム及びテルルの液中溶出を抑制することができた。
【0022】
(比較例1)
実施例1と同じ固体触媒を用いて、系内圧力を21kg/cm2 (系内酸素分圧1.5kg/cm2 )とした他は、実施例1と同様の操作で2時間反応を行った。結果を表1に示す。酸化脱水素反応によるベンゼンの生成が主となり、3−アセトキシシクロヘキセンを高い選択率にて得ることができなかった。
(比較例2)
実施例1と同じ固体触媒を用いて、系内圧力を130kg/cm2 (系内酸素分圧9.1kg/cm2 )とした他は、実施例1と同様の操作で2時間反応を行った。結果を表1に示す。高い選択率で3−アセトキシシクロヘキセンが得られたが、活性成分として担持されるパラジウム及びテルルの液中溶出を抑制することができなかった。
【0023】
【表1】
【0024】
(実施例5)
1)固体触媒の調製
22〜32メッシュのヤシガラ破砕炭(ツルミコール社製HC−30Sを分級したもの)100gに15重量%の硝酸水溶液500mlを加えて、5時間加熱還流を行った後、デカンテーション及び吸引濾過により硝酸水溶液を除去した。次にイオン交換水を500mlを加えて1時間加熱還流を行った後、デカンテーション及び吸引濾過により洗浄水を除去した。同様の洗浄操作を4回繰り返した後、80℃の温度下で真空乾燥を行い、硝酸前処理をした活性炭を調製した。
【0025】
上記にように処理した活性炭16.0gを、パラジウムを22.3重量%含有する硝酸溶液2.152gと二酸化テルル0.530gを溶解させた30重量%の硝酸水溶液40gに浸漬した。次いで、3時間加熱還流を行った後に約15時間室温まで放冷し、吸着担持処理を実施した。デカンテーション及び吸引濾過を行った後、次いで150℃の温度下で3時間真空乾燥を実施した。担持処理後の触媒を縦型石英ガラス管に全量充填し、窒素気流中200℃において2時間さらに乾燥させ、次いでメタノールを室温で飽和した窒素気流中200℃において2時間、さらにゆっくり昇温し400℃において2時間還元処理を実施した。次いで窒素気流中に400℃において2時間保持した後に、窒素気流下で放冷し、室温下にて触媒を回収した。この触媒はパラジウムを2.60重量%、テルルを0.44重量%含有しており、パラジウム1グラム原子に対して0.141グラム原子のテルルを含有する固体触媒を得た。
【0026】
2)シクロヘキセンの酸化的アシロキシ化流通反応
気相部に排出ガス冷却器及び自動保圧弁と、さらに排出ガスライン中に酸素濃度計を設置したSUS316材質の内容積1000mlのオートクレーブを反応器とした槽型流通反応装置を用いた。ガス自給式撹拌翼の下部に設置されたSUS316材質のワイヤー編み目状ホルダー内に1)で得られた固体触媒8.0gを封入固定し、シクロヘキセンを2重量%含有する酢酸溶液250gを仕込み、7%の酸素を含有する窒素の混合ガスを用いて、系内圧力を60kg/cm2 とし撹拌下に90℃にて1.5時間回分反応を行った。この後、反応器気相部から連続的にガスパージを行い、排出される気相酸素濃度が7%となるように空気と窒素の混合比を調製した希釈酸素ガスを反応器に連続的に供給し、系内圧力60kg/cm2 (系内酸素分圧4.2kg/cm2 )を保持、同時にシクロヘキセンを2重量%含有する酢酸溶液を50g/時で供給して連続的に反応を実施した。反応液は、液面制御抜き出し弁より連続的に取り出した。流通反応開始から4〜5時間、及び49〜50時間の反応液を、固体触媒を濾別した後に、ガスクロマトグラフィーにより反応液組成を、及び、ICP発光分光分析により反応液中のパラジウム及びテルルの溶出濃度を測定した。これらの結果を表2に示す。70%以上の高い選択率にて、かつ安定的に3−アセトキシシクロヘキセンが得られた。同時に活性成分として担持されるパラジウム及びテルルの液中溶出を抑制することができた。
【0027】
(比較例3)
実施例5と同じ固体触媒を用いて、系内圧力を21kg/cm2 (系内酸素分圧1.5kg/cm2 )に保持した他は、実施例5と同様の方法にて連続的に反応を行った。結果を表2に示す。反応初期より酸化脱水素反応によるベンゼンの生成が主となり、3−アセトキシシクロヘキセンを高い選択率にて、かつ安定的に得ることはできなかった。
(比較例4)
実施例5と同じ固体触媒を用いて、系内圧力を130kg/cm2 (系内酸素分圧9.1kg/cm2 )に保持した他は、実施例5と同様の方法にて連続的に反応を行った。結果を表2に示す。反応初期は高い選択率にて3−アセトキシシクヘキセンが得られたが、活性成分として担持されるパラジウム及びテルルの液中溶出を抑制することができなかった。また、3−アセトキシシクロヘキセンの選択率は経時的に低下すると同時に、活性成分の液中溶出は止まらず、安定的に3−アセトキシシクロヘキセンを得ることはできなかった。
【0028】
【表2】
【0029】
【発明の効果】
本発明により、酸素の存在下に、シクロヘキセンとカルボン酸を液相下で、パラジウム及びテルルを活性成分として担持する固体触媒と反応させるに際し、触媒成分の液中溶出を防止し、3−アシロキシシクロヘキセンを高選択率にて安定的に、かつ簡便に製造することができる。これらの実現は3−アシロキシシクロヘキセンの製造を工業的に実施する上で極めて有用となる。
Claims (4)
- 酸素の存在下に、シクロヘキセンとカルボン酸を液相下で、パラジウム及びテルルを活性成分として担持する固体触媒と反応させて3−アシロキシシクロヘキセンを製造する方法において、反応系内の酸素分圧を2〜8kg/cm2 の範囲に保持することを特徴とする3−アシロキシシクロヘキセンの製造法。
- カルボン酸が酢酸であることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の製造方法。
- 固体触媒の担体として、活性炭を用いることを特徴とする特許請求の範囲第1項、または第2項に記載の製造方法。
- 反応温度20〜150℃の条件で反応を行うことを特徴とする特許請求の範囲第1〜3項のいずれか1項に記載の製造方法。
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JPH11315050A (ja) | 1999-11-16 |
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