JP4888463B2 - フェニルエステルの製造法 - Google Patents

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本発明は、ベンゼンとカルボン酸と分子状酸素を特定の触媒の存在下に反応させて、高収率でフェニルエステルを製造する方法に関する。
ベンゼンとカルボン酸と分子状酸素を特定の触媒の存在下に反応させて、フェニルエステルを製造する方法はよく知られており、触媒として貴金属を用いて気相または液相において検討された例が報告されている。主触媒としてはパラジウムが最もよく知られており、さらにそれのみでは有効でない金属を助触媒として添加する方法も知られている。
例えば担持金属触媒の例としては、特公昭46−33024号公報では、パラジウム金属または白金と金、銀、銅、鉄、マンガン等を用いる方法、また特公昭48−18219号公報では、パラジウム金属または白金とビスマスまたはテルルを用いる方法、特公昭55−15455号公報では、パラジウムとカドミウム、亜鉛、ウラン、錫、鉛、アンチモン、ビスマス、テルル、タリウムからなる群から選ばれた化合物と硝酸を用いる方法が開示されている。
金属の化合物を触媒として用いた例としては、特公昭50−34544号公報では、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウムおよびオスミウムの酸化物、水酸化物、酢酸塩、硝酸塩とアルカリ金属の硝酸塩を組み合わせた触媒を使用する方法、特開昭48−4439号公報では、パラジウム化合物と硝酸、亜硝酸またはこれらの金属塩と金属カルボン酸塩を用いる方法、特公平2−13653号公報では、酢酸パラジウムと酢酸アンチモンとクロム、ニッケル、マンガン、鉄からなる群から選ばれた少なくとも1種の酢酸塩を用いる方法が開示されている。
しかしながら、これらの方法ではベンゼンとカルボン酸と分子状酸素を特定の触媒の存在下に液相で反応させて、フェニルエステルを製造するに際し、パラジウム金属が原料液に溶出し、触媒活性が経時的に低下するという問題点がある。パラジウムは高価な貴金属であるので、そのロスは経済的に大きな負担であり、また、後段にパラジウムの回収工程を設ける場合には、プロセスも煩雑になる。さらに、工業的な観点から、経時的な活性の低下はそれを補償する運転を行わなければならないことを意味し、大きな問題点になる。
一方、反応液に可溶な金属塩を触媒として用いる方法は、後段において金属塩の回収工程を設ける必要があり、さらに反応の進行とともに例えば、パラジウム化合物の場合には、パラジウム化合物が金属として反応器内に析出してしまう問題点がある。この場合でも触媒活性が経時的に低下し、パラジウムのロスが経済的な負担となる。
特開昭63−174950号公報では、液相法反応においてパラジウムとビスマスまたは鉛を触媒として用いた方法において、可溶性のビスマスまたは鉛の化合物を反応系に共存させることが開示されている。この方法によると、可溶性のビスマスまたは鉛化合物が、触媒に担持されている金属状態のビスマスまたは鉛の溶出を防止し、主触媒であるパラジウムの溶出が抑制され、その結果、活性維持に効果があると記載されている。
しかし、反応系への可溶性ビスマスまたは鉛化合物の添加量が多く、フェニルエステルの分離精製工程において、これらの化合物を結晶として回収する工程が必要であることからプロセスとして煩雑になり、実用的ではない。
従って本発明の課題はベンゼンとカルボン酸と分子状酸素をパラジウム触媒の存在下に液相で反応させてフェニルエステルを製造するに際し、パラジウムの溶出を抑制し、より安定にフェニルエステルを製造する方法を提供することである。
本発明者は、前述のような従来技術の課題を解決するため、鋭意検討した。その結果、パラジウム触媒の存在下に、ベンゼンとカルボン酸と分子状酸素を反応させてフェニルエステルを製造するにあたり、アルコール類、アルデヒド類、環式炭化水素、ギ酸のうち少なくとも1種を添加剤として共存させると、従来よりもパラジウム金属の原料液への溶出が抑制され、触媒活性の経時的な低下が抑制できることを見いだし本発明を完成した。
即ち本発明は、パラジウム触媒の存在下に、ベンゼンとカルボン酸と分子状酸素を液相で反応させてフェニルエステルを製造するにあたり、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン又はテトラヒドロナフタレンを添加剤として共存させることを特徴とするフェニルエステルの製造法である。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明においては、公知のパラジウム触媒が使用でき、主触媒はパラジウム金属である。また、触媒に助触媒を添加して使用しても良い。助触媒としては公知の元素を用いることができ、例えば金、銀、銅、鉄、マンガン、カドミウム、亜鉛、ウラン、錫、タリウム、鉛、ビスマス、アンチモン、テルル等を例示できる。パラジウムとそれらの比率は通常用いられる比率で良く、パラジウム1に対して好ましくは0.01〜20、更に好ましくは0.02〜10であるが、助触媒が添加剤の効果を低下させることがない限り、この範囲を逸脱したものであってもかまわない。
パラジウム触媒を調製する際のパラジウムの原料は特に制限はなく、例えばパラジウム金属、ヘキサクロロパラジウム酸アンモニウム、ヘキサクロロパラジウム酸カリウム、ヘキサクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム、テトラクロロパラジウム酸カリウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラブロモパラジウム酸カリウム、酸化パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、ジニトロサルファイトパラジウム酸カリウム、クロロカルボニルパラジウム、ジニトロジアンミンパラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物、テトラアンミンパラジウム硝酸塩、cis−ジクロロジアミンパラジウム、trans−ジクロロジアミンパラジウム、ジクロロ(エチレンジアミン)パラジウム、テトラシアノパラジウム酸カリウム、パラジウムアセチルアセトナート等を例示できる。
触媒は、好ましくはそれ自体反応に不活性な担体に担持されて使用される。好ましい担体としては活性炭やシリカを例示できる。担体を使用するときのパラジウムの担持量は、担体の重量に対して、0.01〜10wt%、好ましくは0.1〜5wt%である。この範囲であると経済的、かつ十分な活性が得られるので好ましい。
本発明に使用される触媒の調製方法は特に限定されることはなく、担体に触媒成分を担持させる従来公知の方法、例えばいわゆる含浸法、イオン交換法、沈着法、混練法等が例示できる。
含浸法で調製する場合、例えば、助触媒を用いる場合には、パラジウム原料と助触媒成分の原料を同時に溶解して含浸担持しても良く、いずれか一方を含浸担持した後、残りの原料を含浸担持しても良い。
担持後は含浸法またはイオン交換法における公知の方法に従ってデカンテーション、濾過、加熱または減圧加熱等の操作で溶媒を除去する。溶媒を除去後、乾燥するにあたり、加熱乾燥、減圧乾燥等を用いることができる。
乾燥後、還元を行うが、その前に焼成を行っても良い。焼成を行う場合には、酸素または窒素、ヘリウム、アルゴン等で希釈した酸素、さらには空気を用いて通常200〜700℃で行われる。
触媒への還元は、公知の方法が用いられる。例えば、還元剤として水素、一酸化炭素、エチレン、或いは、メタノール等を用いた気相還元法や、ヒドラジン水和物、ホルマリンあるいはギ酸等を用いた液相還元法が使用できる。気相還元法の場合、還元温度は100〜700℃、好ましくは、200〜600℃で行われる。
ベンゼンとカルボン酸と分子状酸素を反応させてフェニルエステルを製造する際、パラジウムが溶出する原因を定かではないが敢えて推定すれば、反応中にパラジウムが酸化され、最終的には酢酸パラジウムとして溶出すると思われる。
共存させる添加剤の作用は、従って定かではないが、フェニルエステルを製造する際に反応中に酸化されようとするパラジウムを金属状態に維持して、パラジウムの溶出を抑制することと考えることもできる。そのため、添加剤として用いることができるものは、ベンゼンとカルボン酸と分子状酸素を反応させてフェニルエステルを製造する反応条件下で、酸化されようとするパラジウムを金属状態に維持できるものであれば良いと考えられ、本発明においては、アルコール類、アルデヒド類、環式炭化水素、ギ酸からなる群より選ばれた少なくとも1種である。アルコール類としては、炭素数1〜10のアルコールであり、具体的に例を挙げるとメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、アミルアルコール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2,2−ジメチル−1−ブタノール、3,3−ジメチル−1−ブタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ヘプタノール、1−オクタノール、2−メチルヘプタノール、2−エチルヘキサノール、1−ノナノール、イソノニルアルコール、1−デカノール等が例示できるが、なかでもエタノールが好ましい。また、アルデヒド類としては、炭素数1から10までのアルデヒドであり、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、2−メチルブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ピバルアルデヒド、カプロンアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、2−メチル−n−バレルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、カプリルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、トリルアルデヒド、フタルアルデヒド、ペラルゴンアルデヒド、カプリンアルデヒド等が例示できるが、なかでもアセトアルデヒドが好ましい。また、環式炭化水素の例を具体的に挙げると、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、テトラヒドロナフタレンが例示できるが、なかでもシクロヘキセンが好ましい。
添加剤の添加量は、添加剤の効果とフェニルエステルを製造する形式によって異なるので、一概に範囲を限定することはできないが、好ましくはベンゼン1に対してモル比で、0.00001〜10である。
本発明に用いられるカルボン酸は、炭素原子が10個以下のカルボン酸であるが、好ましくは、酢酸、プロピオン酸等の低級カルボン酸である。
ベンゼンとカルボン酸の比率は自由に変えることができる。好ましいベンゼン/カルボン酸比は、モル比で1/0.1〜1/100の範囲であれば良い。
本発明の製造法において、ベンゼン、カルボン酸および分子状酸素との反応は触媒の存在下、液相の状態で行われる。本発明において液相とは、触媒の表面が原料液で覆われていることを意味し、反応方法は特に限定されない。例えば、固定床流通型反応器、流動床流通反応器、回分式反応器、懸濁床等を用いることができる。
使用する触媒量は、反応方法により異なるため一律には規定できないが、経済性を勘案すると、例えば、固定床の場合、単位触媒体積、単位時間当たりのベンゼンとカルボン酸の合計供給量(LHSV)として、0.1〜50h−1の範囲、好ましくは0.1〜30h−1となる触媒量が好ましく、また、懸濁床の場合には、触媒濃度は、原料に対し0.05〜30重量%の範囲が好ましい。
反応温度は100〜300℃、好ましくは100〜250℃である。
反応圧力は、反応温度で触媒表面が原料液で覆われていれば良く、好ましくは10〜100気圧である。
本発明においては、酸素を酸化剤として用いる。酸素は、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで希釈しても良く、空気も使用できる。酸素の供給量は、反応温度、触媒量等によって最適量が変わるが、触媒を通過した位置でのガス組成が爆発範囲以下であれば良い。
反応時間は、反応温度、圧力、触媒量等の設定の仕方、または反応方法によって変わるため一概にその範囲を決めることは困難であるが、懸濁床での回分式、半回分式の場合、0.5時間以上が必要である。また、懸濁床による連続式反応、または、固定床連続式反応においては、滞留時間は0.03〜10時間であれば良い。
パラジウム触媒の存在下に、ベンゼンとカルボン酸と分子状酸素を液相で反応させてフェニルエステルを製造するにあたり、環式炭化水素を添加剤として共存させることによって、原料液にパラジウム金属が溶出することを抑制でき、触媒活性の経時的な低下を抑制できる。
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
触媒の調製1
蒸留水16gに酒石酸3.55gを溶解し、ここに酸化アンチモン0.49gを加え溶解させた。続いて8.26wt%硝酸パラジウム水溶液7.27gを加えた。この水溶液にシリカ(富士シリシア社製キャリアクトQ−30)を20g加えて含浸した。その後、50℃で減圧下乾燥して、100℃で3時間真空乾燥、400℃で5時間空気焼成を経て、400℃で5時間水素還元した。パラジウムのシリカに対する担持量は3wt%、アンチモンのパラジウムに対する添加量は、モル比で3/5であった。
触媒の調製2
8.26wt%硝酸パラジウム水溶液7.27gを秤量し、テルル酸0.13g、蒸留水を加えて全量を21mlとした。この水溶液にシリカ(富士シリシア社製キャリアクトQ−30)を20g加えて含浸した。その後、50℃で減圧下乾燥して、100℃で3時間真空乾燥、400℃で5時間空気焼成を経て、400℃で5時間水素還元した。パラジウムのシリカに対する担持量は3wt%、テルルのパラジウムに対する添加量は、モル比で1/10であった。
実施例1
触媒の調製1の方法で調製した触媒10mlを内径13mmのSUS316製の反応管に詰め、触媒層温度190℃、反応圧力20atmで、ベンゼンと酢酸の等モル混合液を2.2g/min、酸素を27Nml/min、窒素を183Nml/minで連続的に供給して反応した。なお供給する原料液には、メタノールをベンゼン、酢酸及びメタノールの混合割合が、モル比で49:49:2となるように調整したものを用いた。
反応開始後5時間目と50時間目に反応生成物を捕集し、ガス成分と液成分に分離後、それぞれガスクロマトグラフィーで分析した。添加剤の効果の指標には、5時間目の酢酸フェニル生成量に対する50時間目の酢酸フェニル生成量の比(50hr/5hr)を用いた。
また、反応開始から50時間目までの反応液中に溶出したパラジウム量を原子吸光分析法により測定した。パラジウムの溶出量は、触媒に担持されているパラジウムの総量に対する割合で示した。
これらの結果を表1にまとめた。
実施例2〜6
添加剤としてエタノール、2−プロパノール、2−ブタノール、ギ酸、シクロヘキサンを使用した以外は実施例1と同様にして反応を行った。それらの結果を表1にまとめた。
実施例7
添加剤としてエタノールを使用したこと及びその供給量をベンゼン、酢酸及びエタノールの混合割合が、モル比で45:45:10となるように調整したこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1にまとめた。
実施例8
添加剤としてシクロヘキセンを使用したこと及びその供給量をベンゼン、酢酸及びシクロヘキセンの混合割合が、モル比で49.925:49.925:0.15となるように調整したこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1にまとめた。
実施例9
添加剤としてシクロヘキセンを使用したこと及びその供給量をベンゼン、酢酸及びシクロヘキセンの混合割合が、モル比で49.75:49.75:0.5となるように調整したこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1にまとめた。
比較例1
添加剤を供給しないこと以外は実施例1と同様に反応を行った。その結果を表1にまとめた。
Figure 0004888463
実施例10
触媒の調製2の方法で調製した触媒を用いたこと、添加剤としてエタノールを使用したこと及びその供給量をベンゼン、酢酸及びエタノールの混合割合が、モル比で49:49:2となるように調整したこと以外は実施例1と同様にして反応した。その結果を表2にまとめた。
実施例11
供給量をベンゼン、酢酸及びエタノールの混合割合が、モル比で45:45:10となるように調整したこと以外は実施例10と同様にして反応した。その結果を表2にまとめた。
実施例12
添加剤としてシクロヘキセンを使用したこと及びその供給量をベンゼン、酢酸及びシクロヘキセンの混合割合が、モル比で49.875:49.875:0.25となるように調整したこと以外は実施例10と同様にして反応した。その結果を表2にまとめた。
実施例13
添加剤としてシクロヘキセンを使用したこと及びその供給量をベンゼン、酢酸及びシクロヘキセンの混合割合が、モル比で49.75:49.75:0.5となるように調整したこと以外は実施例10と同様にして反応を行った。その結果を表2にまとめた。
実施例14
添加剤としてアセトアルデヒドを使用したこと及びその供給量をベンゼン、酢酸及びアセトアルデヒドの混合割合が、モル比で49.75:49.75:0.5となるように調整したこと以外は実施例10と同様にして反応を行った。その結果を表2にまとめた。
比較例2
添加剤を供給しないこと以外は実施例10と同様に反応を行った。その結果を表2にまとめた。
Figure 0004888463

Claims (1)

  1. パラジウム触媒の存在下に、ベンゼンとカルボン酸と分子状酸素を液相で反応させてフェニルエステルを製造するにあたり、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン又はテトラヒドロナフタレンを添加剤として共存させることを特徴とするフェニルエステルの製造法。
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