JP4010473B2 - ロータリーコンプレッサー用ベーン - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、家電用エアコンやカーエアコン、冷蔵庫等に用いられるロータリーコンプレッサーの構成部品であるロータリーコンプレッサー用ベーンに関する。
【0002】
【従来の技術】
エアコンや冷蔵庫等の冷媒の吸入、圧縮を行うコンプレッサーには、体積効率、省動力、低騒音に有利なことからロータリーコンプレッサーが用いられている。
【0003】
ロータリーコンプレッサーは、図1および2の断面図に示されるように、モーターの回転運動を主軸ピン部を介してロータに伝達し、このロータがシリンダ内で偏心回転することで、シリンダに保持されたベーンで区切ったシリンダ内の部分で冷媒ガスを圧縮するものである。
【0004】
また、別のロータリーコンプレッサーとして、図3の断面図に示されるように、ベーンがロータに保持されたロータリーコンプレッサーもある。なお、本コンプレッサーを示す図3においては、シリンダ、ロータ、ベーンおよび主軸のみを図示した。ベーンがロータに配置されたこのようなコンプレッサーの他の形態として、図4のロータとベーンの斜視図に示されるように、ベーンの摺動端が両端に形成されるとともにロータを径方向に貫通しているものもある。このとき、それぞれのベーンは、ロータ内を径方向に運動できる。
【0005】
ベーンは、ロータあるいはシリンダの摺動面に摺接するために、摺動面に摺接しない端部側がガスやスプリングにより押圧されることで摺動端が押しつけられている。また、ベーンとこのベーンを保持するロータあるいはシリンダが摩耗するとコンプレッサーの圧縮性能が低下するため、ベーンやベーンを保持するロータあるいはシリンダといった摺動部品には高い耐摩耗性が要求されている。
【0006】
このベーンは、たとえば、鋼材(ステンレス系、工具鋼)、焼結合金、アルミニウム複合材等の材質よりなる基材にCrN被膜のような表面硬質被覆膜をPVD法や、CVD法により被覆したものがある。
【0007】
また、ロータあるいはシリンダには、一般的には鋳鉄が用いられている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、近年の環境問題の高まりにともなって、オゾン層を破壊するフロンガスが廃止される方向にあり、エアコンや冷蔵庫に用いられる冷媒ガスにおいても特定フロンから分子内に塩素を有しない代替フロンに切り替えがすすめられている。特定フロンのように分子内に塩素を有する化合物は一般に極圧性をもち、潤滑にとっては有益であることが知られているが、この代替フロンは、分子内に塩素を有しないため潤滑性が特定フロンより劣っている。
【0009】
さらに、代替フロンは、分子が極性をもつため親油性に乏しく、従来の特定フロン使用時に潤滑油として用いられていた鉱油とはほとんど溶けあわなくなっている。このため、代替フロン使用時には合成油が潤滑油として用いられるが、合成油は潤滑性に大きな影響をもつ油膜維持効果において、要求される高圧および高せん断速度下における粘度が劣っている。このように代替フロンおよび代替フロン使用時に用いられる合成油は潤滑性に劣るため、ロータリーコンプレッサーの摺動部品であるベーンの摺動端と摺動面の摩耗が増大するようになっていた。
【0010】
また、表面硬質被覆膜であるCrN被膜を施した摺動部材においては、CrN被膜は相手部材の鉄合金との摺動や被膜同士の摺動においては、微視的な凝着が生じて、摺動部材の摩耗が進行することがわかった。特に、混合・境界潤滑条件下での摺動では摺動面の表面の被膜が相手部材の凹凸部と接触しているので、凝着が進行しやすいという問題を有していた。摺動面に凝着が生じると、ベーンの摩耗が進行するようになる。
【0011】
さらに、表面硬質被覆膜が被覆されないような場合である鉄系材料同士の摺動においては、その表面の接触から巨視的な凝着が生じ、摺動面で鉄系材料同士に摩耗が生じるようになる。
【0012】
このように、ベーンの摺動端と摺動面との間に摩耗や凝着がおこると、ロータリーコンプレッサーの圧縮性能が低下するようになっていた。
【0013】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、摺動面において摩耗や凝着が生じにくいロータリーコンプレッサー用ベーンを提供することを課題とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明者らはロータリーコンプレッサー用ベーンについて検討を重ねた結果、本体を硬質基材とし、本体の摺動面に(002)配向したCr2N構造を有する皮膜を被覆することで上記課題を解決できることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明のロータリーコンプレッサー用ベーンは、作動空間を形成するシリンダとシリンダの作動空間内に配置されて回転するロータとの一方に摺動自在に保持され他方の摺動面と当接摺動する摺動端部をもつ板状のロータリーコンプレッサー用ベーンであって、Hvが400以上のFe系合金からなる本体とこの本体の少なくとも摺動端部の表面部に一体的に形成された(002)配向したCr2N構造を有し、Cr、NおよびCから構成されている被膜とからなることを特徴とする。
【0016】
なお、Fe系合金は、Feマトリックスとこのマトリックス中に分散保持されたCr、W、Mo、Vの1種または2種以上の元素の炭化物、窒化物または炭窒化物からなる硬質粒子を含有するものであることが好ましい。
【0017】
さらには、ロータリーコンプレッサー用ベーンは、摺動自在に保持される保持孔との対向面に硬質表面処理が施されていることが好ましい。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明のロータリーコンプレッサー用ベーンは、摺動面と当接摺動する摺動端部をもつ板状に形成されている。
【0019】
本発明のベーンは、摺動端部における厚さ方向の断面形状が半球状となっている板状の形状をしていることが好ましい。つまり、ベーンの摺動端部の断面が半球状となっていることで、ローターあるいはシリンダとなめらかに摺動できる。この半球状とは、端部が先端方向になめらかなR形状を形成している状態を示すものであり、必ずしも半円状となっていなくてもよい。また、ベーンの板状部は、摺動端部がロータあるいはシリンダと摺動するときに摺動端部がベーンののびる方向に往復運動しやすいように背向する側面同士が平行な板状に形成されている。
【0020】
本発明のロータリーコンプレッサー用ベーンの本体部は、Hvが400以上のFe系合金により形成される。Fe系合金は、Feマトリックスとこのマトリックス中に分散保持されたCr、W、Mo、Vの1種以上の元素の炭化物、窒化物または炭窒化物からなる硬質粒子とからなることが好ましい。
【0021】
また、本体部の硬度は、Hvが400以上である。ベーンの側面部にはロータとの摺動により横荷重が加わることからHvが400未満ではベーンが変形あるいは摩耗するといった不具合が発生するようになる。
【0022】
本体部のFeマトリックス中に分散保持されるCr、W、Mo、Vの1種以上の元素の炭化物、窒化物または炭窒化物からなる硬質粒子としては、Hvが800〜2000の粒子であることが好ましい。このような硬質粒子としては、たとえば、Cr−C、Cr−N、W−C、Mo−C、VーC、W・Mo−C等からなる粒子をあげることができる。
【0023】
この硬質粒子の分散量としては、面積率で5〜60%が好ましい。分散量が5%より少ないと耐摩耗性向上に効果が見られず、60%より多いとベーン本体の強度が低下するようになる。
【0024】
本発明のロータリーコンプレッサー用ベーンは、本体部の少なくとも摺動端部の表面部に一体的に形成された(002)配向したCr2N構造を有し、Cr、NおよびCから構成された被膜が形成されている。ベーンの摺動端部の表面部は、摺動条件が厳しいことから硬質皮膜を被覆させることでベーンの耐摩耗性を高めており、この硬質被膜として(002)配向したCr2N被膜が用いられる。このとき、(002)配向したCr2N被膜は、Cr2N結晶構造において(002)面がベーン表面と平行になるように形成されている。また、この硬質被膜は、ベーンの全表面に被覆されていてもよい。硬質被膜が摺動端部だけでなく板状部にも被覆されることで、コンプレッサーの使用時にベーンが保持された保持空間内で摺動する往復運動したときに摩耗がおさえられる。
【0025】
Cr2Nは、六方晶構造を有するものである。また、図5に示されるように六方晶構造の(002)配向したCr2N被膜では、摺動がCr原子面とN原子面が交互に積層した(002)面方向で発生する。このため、(002)配向したCr2N被膜では、摺動面のCrとNのすべりが生じやすくなっているため、凝着と摩耗がおこりにくくなっていると考えられる。
【0026】
摺動面に被覆されるCr2N被膜は、被膜の表面でCr2N構造が同定できるものであればよい。すなわち、この構造が同定できるものであれば、たとえば、FeやOといった元素が少量固溶していてもよい。
【0027】
摺動面に被覆されるCr2N被膜は、その厚さが1〜30μmであることが好ましく、より好ましくは、3〜15μmである。
【0028】
本発明における(002)配向したCr2N被膜の確認は、X線回折により確認することができる。ここで、Cr2N粉末のX線回折チャート(ASTMパウダーデータカード35−0803)を図6に示した。
【0029】
(002)面配向とは、(002)のピーク強度が他の指数のピークより高いことであり、より好ましくは下記計算式X002において好ましくは40〜100%であり、より好ましくは60〜100%である。
【0030】
002={(IF002−0.103)/0.897}×100
ここで、IF002=I002/(I110+I002+I111+I112+I300+I113+I302+I221)であり、IhklはX線回折強度である。
【0031】
ロータリーコンプレッサー用ベーンは、摺動自在に保持される保持孔との対向面に硬質表面処理が施されていることが好ましい。すなわち、保持孔との対向面に硬質表面処理を施すことにより、本発明のベーンは、保持孔との対向面における耐摩耗性が向上する。なお、この硬質表面処理は、Cr2N被膜の形成されていない面に形成されることが好ましい。詳しくは、本発明のベーンは、ロータリーコンプレッサーに用いられるときに、ロータリーコンプレッサーの作動空間を形成するシリンダあるいはロータの一方に形成された保持孔に、保持孔の開口部の軸方向に往復動可能に保持される。このロータリーコンプレッサーが稼働したときには、ベーンは、保持孔内で軸方向に往復運動をする。このとき、ベーンの保持孔との対向面が保持孔を形成する壁面との間に摩擦を生じる。このため、ベーンの対向面に硬質表面処理を施すことで、ベーンが往復動をしても摩耗による寸法精度の低下等の問題が生じることをおさえることができる。
【0032】
硬質表面処理としては、たとえば、窒化処理、浸炭処理、浸炭窒化処理、N、C等のイオン注入処理、あるいはNi−P、Ni−Bメッキ等のメッキ処理をあげることができる。
【0033】
(002)配向したCr2N被膜をFe系合金基材に被覆する方法としては、特許第2584217号に開示された流動層炉法において、反応温度を800〜1000℃に設定して行うことで、Cr2N被膜を形成することができる。また、このような流動層炉法以外にも、粉末パック法やPVD法により行うこともできる。このとき、Cr2N被膜を形成したくない表面には、マスキングを施して、表面が露出しないようにしておく。すなわち、マスキングを施した状態で被膜を形成させることで、所望の表面にCr2N被膜を形成することができる。
【0034】
ここで、流動層炉法を用いてCr2N被膜を被覆させるときには、硬質表面処理は、Cr2N被膜を被覆した後に施されることが好ましい。すなわち、流動層炉法は、800〜1000℃もの高温が要求されるため、このような高温においては、硬質表面処理が施されていても、熱により変質してしまい、表面処理の意味をなさなくなるためである。
【0035】
また、流動層炉法以外のCr2N被膜の形成方法においても、硬質表面処理は、Cr2N被膜を被覆した後に施されることが好ましいが、Cr2N被膜が流動層炉法よりも低い温度で処理される場合は、その温度で変質しない限り、Cr2N被膜の処理以前に硬質表面処理を施しても良い。
【0036】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【0037】
(実施例1)
本実施例は、表面に(002)配向したCr2N被膜を有するロータリーコンプレッサー用ベーンである。すなわち、長方形状の平板のうち一辺になめらかなR形状を有する摺動端部が形成された本体部1と、この本体部1の表面に形成された(002)配向したCr2N被膜2と、から構成される。ここで、本体部1は、0.98wt%のCと、0.3wt%のSiと、0.4wt%のMnと、16.4wt%のCrと、残部がFeとから構成されたFe系合金により形成され、かつ合金の硬度がHv(1.0)で550であった。また、(002)配向したCr2N被膜2の厚さは、8μmであった。さらに、摺動面の表面粗さは、Rz0.7μmであった。ここで、このロータリーコンプレッサー用ベーンの摺動端部の断面を図7に示した。
【0038】
本実施例のロータリーコンプレッサー用ベーンは、Fe系合金よりなる本体部を形成し、この本体部に軟窒化処理を施した後に、Cr2N被膜を付与することで製造された。
【0039】
詳しくは、Fe系合金を本体部の概略形状に引き抜いた後に、所定の寸法に切削加工した後に580℃、4時間の軟窒化処理を施した。その後、この本体部に流動層炉反応を行った。この反応条件としては、反応温度が1000℃、処理時間が1時間、処理剤が粒度♯100〜150のCr粉および粒度♯80のアルミナ粉、反応促進剤のNH4Clを供給量が8g/hrで、攪拌用アルゴンガスが流量4L/min・cm2であった。
【0040】
なお、流動層炉反応は、1000℃でアルゴンガスによって処理剤粉末が流動している流動層炉中に、軟窒化処理を施したFe系合金ベーンを投入し、1時間後、この流動層炉から取り出し、窒素ガス中で冷却することで本実施例のベーンが得られた。
【0041】
なお、本実施例のベーン表面に形成されたCr2N被膜における(002)配向の確認は、X線回折により行われ、ASTMパウダーカード35−0803で(002)に強く配向していることが確認された。このとき、X線回折の測定条件としては、Cu管球、管電圧が30kV、管電流が150mAであった。
【0042】
本実施例のベーンは、その表面に(002)配向したCr2N被膜を有することから、耐摩耗性が向上しており、摩耗によるロータリーコンプレッサーの性能の低下を防止できる。
【0043】
(実施例2)
実施例2は、摺動端部にのみ(002)配向したCr2N被膜が被覆している以外は実施例1と同様なロータリーコンプレッサー用ベーンである。すなわち、実施例2のロータリーコンプレッサー用ベーンは、一つの辺がなめらかなR形状の摺動端部に形成された板状部材よりなる本体部1と、摺動端部を被覆する(002)配向したCr2N被膜2とから構成される。ここで、本体部1およびCr2N被膜2は、実施例1と同様であった。このロータリーコンプレッサー用ベーンの摺動端部における断面の様子を図8に示した。
【0044】
本実施例のベーンは、(002)配向したCr2N被膜を形成するときに、摺動端部以外の側面部にマスキングを施した状態で流動層炉反応を生じさせた以外は、実施例1のベーンと同様な手段により形成された。
【0045】
詳しくは、まず、実施例1と同様な手段により軟窒化処理を施した本体部を形成した。ここで、軟窒化処理における反応条件は、実施例1の時と同じ条件であった。
【0046】
つづいて、この本体部を摺動端部のみが露出するように、その他の側面をマスキングした状態で流動層炉反応を生じさせた。詳しくは、箱状容器に摺動端部が露出した状態で収納保持した状態ですることで行われた。なお、このとき、複数のベーンをスペーサを介して積層させた状態で、箱状容器に保持することで複数のベーンにCr2N皮膜を被覆した。このスペーサは、CrN処理が施された鉄板よりなる。図9に本実施例のベーンの流動層炉反応時のマスキングの様子を示した。
【0047】
流動層炉反応後に、箱状容器から、ベーンを取り出して実施例2のベーンが得られた。その後、Cr2N被膜の施されていない側面部に、研削等の機械加工を施して、面精度を向上させた。
【0048】
本実施例のベーンは、摺動端部に耐摩耗性の高い(002)配向したCr2N被膜を有することから、ロータあるいはシリンダとの間に生じるベーンの摩耗が抑えられている。さらに、摺動端部以外の本体部には、硬質なCr2N被膜が形成されていないため、Cr2N被膜付与後に機械加工を行うことで、より高い寸法精度を実現できる。
【0049】
(実施例3)
実施例3は、(002)配向したCr2N被膜が摺動端部に形成されているとともにそれ以外の表面に硬化処理が施されている以外は、実施例2と同様なロータリーコンプレッサー用ベーンである。すなわち、本実施例のベーンは、一つの辺部になめらかなR形状を有する摺動端部が形成された板状部材よりなる本体部と、摺動端部を被覆する(002)配向したCr2N被膜とから構成される。なお、本体部およびCr2N被膜は、実施例1および2と同様のCr2N硬度や被膜を有していた。
【0050】
本実施例のベーンは、実施例2のベーンを作製した後に、窒化処理を施すことで製造された。すなわち、実施例2と同様の手法により作製されたベーンを作製した後に、このベーンに窒化処理を施して製造した。窒化処理を施すことで、Cr2N被膜が形成されていない表面の耐摩耗性が向上した。ここで、窒化処理条件は、580℃、1時間であった。この窒化処理温度(580℃)は、Cr2N被膜を被覆するための流動層炉反応の反応温度より低い温度であり、形成されているCR2N被膜に変質を生じさせるものではない。このため、摺動端部以外の側面に硬化処理を付与できる。
【0051】
本実施例のベーンは、摺動端部にCr2N被膜を有することでベーンの耐摩耗性が向上し、ロータリーコンプレッサーとしての寿命が向上している。また、窒化処理を施すことで、ベーンが保持される保持孔とベーンの摺動端部以外の側面との間に摩耗が生じにくくなっている。このため、高い寸法精度を保ちかつ耐摩耗性に優れたロータリーコンプレッサー用ベーンが得られた。
【0052】
(評価)
(Cr2N被膜耐摩耗性試験)
実施例1のベーンと同様に作製されたローラーに耐摩耗性試験を施し、実施例1のベーンの評価とした。
【0053】
耐摩耗性試験は、ローラーをディスクに摺動させるローラー/ディスク摩耗試験機を用いて行われた。本試験は、図10に示されるように、ローラをディスクに押しつけた状態でディスクを回転させることでローラーとディスクを摺動させた試験である。なお、この摺動時に潤滑油を含んだ冷媒が摺動面に供給されている。また、本試験における摺動は、余分なミスト状の潤滑油を含んだ冷媒が除去される程度に排気された状態で行われた。
【0054】
ローラーは、図11に示されるように、ディスクと同じ大きさのリング状の円板表面に3本のローラーがそれぞれのなす角が120度となるような位置に、径方向の向きで配置されている。また、2本のローラーの間には、この円板を貫通する貫通孔が開口しており、この貫通孔から潤滑油を含んだ冷媒が摺動面に導入される。
【0055】
ローラーは、実施例のベーンと同様の方法で作成されたものであり、直径が6mmの円柱状の基材にCr2N被膜を厚さ8μmで被覆したローラーであり、その表面粗さは、Rz0.7μmであった。また、ディスクには、FC200よりなる円板が用いられた。また、冷媒にはR134aが、潤滑油にはエステル油が用いられた。
【0056】
試験条件としては、ローラーをディスクに押しつける荷重が90kgfであり、ディスクの回転速度が1.0m/s、試験時間が1時間であった。
【0057】
また、試験の比較例として、実施例と同様の基材よりなる円柱にさまざまな表面処理を施したローラーを作製した。
【0058】
(比較例1)
本比較例は、所定形状の円柱にPVD法により立方晶CrN被膜を被覆して作製したローラーである。なお、本比較例の表面粗さは、Rz0.6μmであった。
【0059】
(比較例2)
本比較例は、所定形状の円柱にPVD法により立方晶TiN被膜を被覆して作製したローラーである。なお、本比較例の表面粗さは、Rz0.7μmであった。
【0060】
(比較例3)
本比較例は、所定形状の円柱にクロマイジング法によりCrC被膜を被覆して作製したローラーである。なお、本比較例の表面粗さは、Rz0.7μmであった。
【0061】
(比較例4)
本比較例は、1180℃での焼入れ、560度での焼戻しの熱処理を施した高速度鋼を所定形状の円柱状に形成したローラーである。なお、本比較例には、表面処理が施されていない。なお、本比較例の表面粗さは、Rz1.2μmであった。
【0062】
ここで、試験結果を図12に示した。
【0063】
図12より、本発明の実施例は比較例に比べてローラ材の比摩耗量も少なく、耐摩耗性が高いことがわかる。このため、摺動面にCr2N被膜を形成することで耐摩耗性の高いロータリーコンプレッサー用ベーンが得られる。
【0064】
(窒化処理耐摩耗性試験)
実施例2のベーンと同様に作製された試験片に耐摩耗性試験を施し、実施例2のベーンの評価とした。詳しくは、実施例2のベーンにおける窒化処理による耐摩耗性の評価を行った。
【0065】
耐摩耗性試験は、窒化処理を施したブロック状の試験片をリング部材の外周面に押し付けた状態でこのリング部材を回転させ、試験片およびリング部材の摩耗量を計測するブロック/リング摩耗試験機を用いて行われた。この評価試験を図13に示した。
【0066】
詳しくは、リング部材は、中心軸が水平方向に配置された円柱状の部材であり、この円柱の中心軸を回転軸として回転する。ブロック状の試験片は、円柱状のリング部材の上方からリング部材の軸芯方向に向かって、すなわち、鉛直下方に押し付けられる。また、リング部材と試験片の潤滑のために、リング部材は、下半分がオイルにつかるように配置されている。このため、リング部材が回転すると、オイルが試験片との摺動部に供給される。
【0067】
この試験における試験条件は、R407C冷媒雰囲気下、1.0m/sの回転速度、480Nの荷重、エステル油のオイル、オイル−冷媒混合比95:5wt%、初期温度80℃、試験時間200min、リング材質がHRC40〜50の焼き入れFC250であった。
【0068】
ブロック状の試験片は、焼き入れを行ったSUS404Cに570℃、2時間の窒化処理を施したブロック状の試験片を用いた。
【0069】
また、試験の比較例として、焼き入れを行ったSKH51よりなる試験片(比較例5)、焼き入れを行ったSKD61よりなる試験片(比較例6)の試験片に耐摩耗性試験を行い、リングおよび試験片の比摩耗量を測定した。測定結果を図14に示した。
【0070】
図14より、本実施例の窒化処理を施した試験片の測定結果は、試験片およびリングの比摩耗量が小さいことがわかる。比較例5は、試験片の比摩耗量は小さいがリング比摩耗量が大きくなっていることから、耐摩耗性は大きいが同時に相手材攻撃性も向上している。逆に、比較例6は、リング比摩耗量は小さいが、試験片の比摩耗量はかなり大きく、耐摩耗性に劣っている。
【0071】
本試験により、窒化処理を施した試験片は、高い耐摩耗性を有するとともに相手材攻撃性が低いことがわかる。このため、ロータリーコンプレッサー用ベーンの摺動端部以外の側面部に窒化処理を施すことで、ロータリーコンプレッサーの寿命を長くできる。
【0072】
このことから、本発明におけるロータリーコンプレッサー用ベーンも耐摩耗性が高くなっている。本発明のベーンは、摺動端部が耐摩耗性にすぐれていることから、ロータリーコンプレッサーに用いても、摩耗がおこりにくいため、コンプレッサーの性能の低下がおこりにくくなっている。
【0073】
【発明の効果】
本発明のロータリーコンプレッサー用ベーンにおいて、摺動面に形成された(002)配向したCr2N被膜は、Cr原子の面とN原子の面が摺動面に対して交互に積層しており、摺動方向に滑りやすい。このため、摺動面にて凝着がおこりにくく、面間のすべりが生じやすいのでベーンとロータの摩耗が進行しにくくなっている。このため、本発明のロータリーコンプレッサー用ベーンを用いたロータリーコンプレッサーは、ベーンとロータの摩耗が進行しにくくなっているため、長寿命となる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ロータリーコンプレッサーのシリンダの軸方向の断面図である。
【図2】 ロータリーコンプレッサーのシリンダの径方向の断面図である。
【図3】 ベーン式のロータリーコンプレッサーの断面図である。
【図4】 ベーン式のロータリーコンプレッサーに用いられるベーンとロータを示す図である。
【図5】 Cr2Nの六方晶構造の図である。
【図6】 Cr2N粉末のX線回折チャート(ASTMパウダーデータカード35−0803)である。
【図7】 本発明の実施例1のベーンの断面図である。
【図8】 本発明の実施例2のベーンの断面図である。
【図9】 本実施例2のベーンの製造時におけるCr2N被膜を被覆するときのマスキングの様態を示した図である。
【図10】 ローラー/ディスク摩耗試験の様子を示した図である。
【図11】 ローラが配置された円板表面を示す図である。
【図12】 ローラー/ディスク摩耗試験における摩耗量の測定結果を示す図である。
【図13】 ブロック/リング摩耗試験の様子を示した図である。
【図14】 ブロック/リング摩耗試験の摩耗量の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
1…本体部 2…Cr2N被膜

Claims (3)

  1. 作動空間を形成するシリンダと該シリンダの作動空間内に配置されて回転するロータとの一方に摺動自在に保持され他方の摺動面と当接摺動する摺動端部をもつ板状のロータリーコンプレッサー用ベーンであって、
    Hvが400以上のFe系合金からなる本体と、該本体の少なくとも該摺動端部の表面部に一体的に形成された(002)配向したCr2N構造を有しCr、NおよびCから構成されている被膜と、からなることを特徴とするロータリーコンプレッサー用ベーン。
  2. 前記Fe系合金は、Feマトリックスと該マトリックス中に分散保持されたCr、W、Mo、Vの1種以上の元素の炭化物、窒化物または炭窒化物からなる硬質粒子とからなる請求項1記載のロータリーコンプレッサー用ベーン。
  3. 前記ロータリーコンプレッサー用ベーンは、摺動自在に保持される保持孔との対向面に硬質表面処理が施されている請求項1記載のロータリーコンプレッサー用ベーン。
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