JP2004183075A - 耐摩耗部材およびそれを用いた転動部材 - Google Patents
耐摩耗部材およびそれを用いた転動部材 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】高面圧下で部材同士が接触する転動部材に用いることのできる耐摩耗性および疲労強度に優れた耐摩耗性部材およびそれを用いた転動部材を提供する。
【解決手段】Fe基、Co基およびNiの基いずれかの金属マトリックス中に硼化物および/または炭化物からなる、平均粒径0.5〜10μmの硬質粒子を35〜75体積%分散含有してなり、Hv700以上の硬度を有する耐摩耗性部材、またはさらにその表面に窒化処理層、浸炭処理層および浸炭窒化処理層のいずれかの表面硬化処理層を設けたことを特徴とする。
【選択図】 なし
【解決手段】Fe基、Co基およびNiの基いずれかの金属マトリックス中に硼化物および/または炭化物からなる、平均粒径0.5〜10μmの硬質粒子を35〜75体積%分散含有してなり、Hv700以上の硬度を有する耐摩耗性部材、またはさらにその表面に窒化処理層、浸炭処理層および浸炭窒化処理層のいずれかの表面硬化処理層を設けたことを特徴とする。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、転動部材に用いる金属マトリックスと硬質粒子からなる耐摩耗性に優れた耐摩耗部材およびそれを用いた転動部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、軸受、歯車、カム、自在継手、ロール、リングなど、ころがり、回転、摺動する箇所に用いられる部材には、特に部材表面における優れた耐摩耗性および疲労強度が必要とされる。そのため、合金鋼からなる部材を浸炭焼入れ処理して表面硬度を高める方法(例えば、特許文献1参照)や、浸炭焼入れ処理して硬度を高めた後、ショットピーニングを施して疲労強度を向上させ、さらに研削仕上げして表面を平滑にする方法(例えば、特許文献2参照)が行われている。
【0003】
また、焼入れ鋼を溶製する際に、表面をチル組織化して硬質化し、さらに窒化処理またはショットピーニング処理により、疲労強度を向上させる方法(例えば、特許文献3参照)が行われている。
【0004】
しかしながら、上記の方法は、使用状況が厳しくなり、部材同士がより高面圧、かつ、より高速で接触しながら使用される場合においては、部材自体の耐摩耗性が不十分であること、潤滑油の油膜切れにより部材が同士の直接接触することによる凝着、熱発生により部材が加熱されることによる硬質相の軟化や早期の剥離などが生じ、いずれも満足する特性が得られていない。
【0005】
一方、熱間伸銅ダイスなどに適用する部材として、複硼化物からなる硬質相とCoやNiなどの金属相からなる、高温強度、耐酸化性、および高温における耐摩耗性など、高温における優れた特性を有する部材(例えば、特許文献4および5参照)が開発されている。
【0006】
これらの部材は粉末冶金法を用いて製造されるが、特に高温における特性を向上させることを目的としているため、硼化物の組成や存在比率を厳しく管理する必要があり、適正な特性を有する部材を製造するために焼結条件を厳しく管理しなくてはならない。
【0007】
本出願に関する先行技術文献情報として次のものがある。
【0008】
【特許文献1】
特開平11−315901号公報
【特許文献2】
特開2002−188702号公報
【特許文献3】
特開2000−002307号公報
【特許文献4】
特開平05−005152号公報
【特許文献5】
特開平05−214479号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明においては、高面圧下で部材同士が接触する転動部材に用いることのできる耐摩耗性および疲労強度に優れた耐摩耗部材およびそれを用いた転動部材を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の耐摩耗部材は、金属マトリックス中に平均粒径:0.5〜10μmの硬質粒子が35〜75体積%分散含有しており、Hv700以上の表面硬度を有する耐摩耗部材であり、
金属マトリックスを構成する金属が、Fe基、Co基およびNi基のいずれかであること、
硬質粒子が硼化物および/または炭化物であること、
硼化物がCr、Mo、W、Fe、CoおよびNiのいずれか2種以上を含む硼化物であること、
炭化物がTi、V、Nb、Ta、CrおよびWのいずれか1種以上を含む炭化物であることを特徴とし、
また、上記のいずれかの耐摩耗部材の表面に、窒化処理層、浸炭処理層および浸炭窒化処理層のいずれかを設けてもよい。
【0011】
また、本発明の転動部材は、上記のいずれかの耐摩耗部材を用いた転動部材であり、
軸受部材、歯車、カム、自在継手、ロール、リングなどに好適に適用することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
本発明の耐摩耗部材は、特に部材同士が高い面圧を受けて高速で接触する軸受、歯車、カム、自在継手、ロール、リングなどの転動部材に適用することを目的としており、部材表面の耐摩耗性および疲労強度に優れている必要がある。そのため、部材表面の硬度はHv700以上であることが好ましく、Hv850以上であることがより好ましい。Hv700未満であると短期間で摩耗してしまうので、部材が短寿命となる。
【0014】
また、本発明の耐摩耗部材は、部材同士が高い面圧を受けて高速で接触することにより、高温に加熱されることもあるので、高温において表面硬度が低下したり、面圧の変化や加熱冷却の繰り返しによる疲労によるクラックが生じにくい材質であることが好ましい。そのため、本発明の耐摩耗部材は、金属マトリックス中に硬質粒子が分散含有して構成されている。硬質粒子は平均粒径:0.5〜10μmの大きさで、金属マトリックス中に35〜75体積%含有されていることが好ましい。平均粒径:0.5μm未満の硬質粒子は得られにくく、コスト高になる。平均粒径:10μmを超えると疲労強度が低下する。また、硬質粒子が金属マトリックス中に35体積%未満でしか含有されていないと、Hv700以上の表面硬度が得られない。75体積%を超えて含有されていると、疲労によるクラックが生じやすくなる。
【0015】
金属マトリックスとしては、硼化物や炭化物との結合強度に優れていることから、Fe基、Co基およびNi基のいずれかであることが好ましく、またはこれらのいずれかの金属にこれらの金属以外の金属を含有させた合金基の金属マトリックスを用いることもできる。
【0016】
硬質粒子としては、硬度および耐摩耗性を向上させる観点から、硼化物および/または炭化物を用いることが好ましい。特に、硼化物は耐摩耗性に加えて自己潤滑性も兼ね備えており、同一組成の部材が接触する用途の部材を提供するのに好適である。硼化物としては、Cr、Mo、W、Fe、CoおよびNiのいずれか2種以上を含む複硼化物とすることにより、マトリックス金属との結合性が向上し、部材の使用中に硼化物粒子が脱落したり、マイクロクラックなどが発生しにくくなる。これらの複硼化物としては、Mo2FeB2、Mo2(Fe,Cr)B2、Mo2NiB2、Mo2CrB2、Mo2(Cr,Ni)B2、WCoB、(W,Cr,Co)Bなどを上げることができ、これらのいずれか1種、または2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
炭化物としては、Ti、V、Nb、Ta、CrおよびWのいずれか1種以上を含む炭化物が硬度が高く、好適に用いることができる。これらの炭化物としては、TiC、VC、NbC、TaC、Cr3C2、WCなど、およびこれらの相互固溶体や混合物を用いることが好ましい。
【0018】
本発明の耐摩耗部材は、上記の金属マトリックスに用いる金属と上記の硼化物および/または炭化物を粉体化し混合し、公知の粉末冶金法を用いて圧粉、焼結して焼結体として製造することができる。また、薄板状の焼結体を作成し、これをターゲットとして合金鋼などの芯材部材の表面にイオンプレーティング法などを用いて被覆することにより、製造してもよい。また、上記の硼化物および/または炭化物を芯材部材に溶射して被覆することも可能である。
【0019】
上記のようにして作成した耐摩耗部材の表面に、公知の窒化処理、浸炭処理、および浸炭窒化処理のいずれかの方法を用いて窒化処理層、浸炭処理層、浸炭窒化処理層を形成させてもよい。公知の窒化処理として、例えば、プラズマ窒化法、イオン窒化法、ガス窒化法あるいは塩浴窒化法が適用でき、浸炭処理として、ガス浸炭法、塩浴浸炭法、イオン浸炭法、真空浸炭法が適用でき、更に、浸炭窒化法としては、ガス浸炭窒化法、塩浴浸炭窒化法が適用できる。このようにして表面硬度をさらに高め、かつ疲労強度を向上させることができる。
【0020】
このようにして得られる耐摩耗部材の表面は、凝着を防止するため研削加工を施してもよい。研削加工後の表面粗さは平均粗さ(Ra)で0.01〜0.5μmであることが好ましく、0.05〜0.2μmであることがより好ましい。表面粗さを0.01μmより小さく仕上げるには研磨に長時間を要し、コスト高となる。表面粗さが0.5μmを超えて粗いと短時間で部材同士が凝着するようになる。
【0021】
このようにして得られる本発明の耐摩耗部材は、耐摩耗性および疲労強度に優れているので、部材同士が高い面圧を受けて高速で接触する転動部材に好適に適用することができる。転動部材としては軸芯およびボールベアリングやローラーベアリングなどの軸受部材、歯車、カム、自在継手、圧延や金属板等の硬質材料の搬送に用いられる各種のロール、コンプレッサーや真空ポンプ等のシールに用いるリングなどの用途に好適に用いることができる。
【0022】
【実施例】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明する。
【0023】
耐摩耗性部材の供試材を粉末冶金法を用いて作成した。すなわち、原料粉末として表1に示す金属粉、硼化物粉、炭化物粉などを用い、これらの粉末を、硼化物粉および/または炭化物粉が表1に示す体積%となるように配合した後、振動ボールミルによりアセトン中で混合粉砕した。次いで、乾燥、造粒し、プレス成形した後、真空中で1423〜1773Kの温度で30分間加熱し焼結体を作成した。一部の焼結体については、その後、プラズマ窒化処理、ガス浸炭処理、塩浴を用いる浸炭窒化処理を施した。次いで、これらの焼結体および表面硬化処理を施した焼結体の表面を研削加工した。このようにして、試料番号1〜26で示す供試材を作成した。表1においては、窒化処理は、真空度102Paの窒素ガス雰囲気中で、520℃、5時間行った。浸炭処理は、真空度102Paの窒素ガス99体積%とメタンガス1体積%の混合ガスを含んだ雰囲気中で、1000℃、2時間行った。浸炭窒化処理は、真空度102Paのアンモニアガス9体積%と一酸化炭素ガス91体積%の混合ガスを含んだ雰囲気中で、600℃、4時間行った。
【0024】
【表1】
【0025】
このようにして作成した供試材の特性を下記のようにして評価した。
【0026】
[硬質粒子径]
供試材を走査顕微鏡で4000倍の倍率で10視野観察し、視野中に認められる代表的な硬質粒子の径を観察し、その平均値を硬質粒子径とした。
【0027】
[表面硬度]
マイクロビッカース硬度計を用い、荷重:50gで表面硬度(Hv)を測定した。
【0028】
[表面粗さ]
供試材の表面粗さを表面粗さ計を用い、JIS B0601に準じて平均粗さ(Ra、μm)を測定した。
【0029】
[耐摩耗性、耐凝着性 、耐クラック性]
大越式摩耗試験機を用い、下記の試験条件で供試材表面に摺動試験をほどこした後、各特性を評価した。
【0030】
<試験条件>
荷重:20kgf、滑り速度:4.5m/秒、滑り距離:135m、潤滑剤:無し、雰囲気:大気中、試験温度:室温
<耐摩耗性の評価>
試験後の供試材の摩耗重量から摩耗体積(mm3)を求めた。0.30mm3以下を本発明の対象とした。
【0031】
<耐凝着性の評価>
試験後の供試材の摩耗部分を光学顕微鏡を用いて50倍の倍率で観察し、凝着の有無で耐凝着性を評価した。
【0032】
<耐クラック性>
試験後の供試材の摩耗部分を光学顕微鏡を用いて200倍の倍率で観察し、クラックの有無で耐クラック性を評価した。
【0033】
これらの特性評価結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
表2に示すように、本発明の耐摩耗性部材は硬質粒子径が小さく、表面硬度が高く、耐摩耗性、耐凝着性、耐クラック性に優れている。そのため、軸芯およびボールベアリングやローラーベアリングなどの軸受部材、歯車、カム、自在継手、圧延や金属板等の硬質材料の搬送に用いられる各種のロール、コンプレッサーや真空ポンプ等のシールに用いるリングなどの用途に好適に用いることができる。
【0036】
【発明の効果】
本発明は、Fe基、Co基およびNi基のいずれかの金属マトリックス中に硼化物および/または炭化物からなる、平均粒径1〜10μmの硬質粒子を35〜75体積%分散含有してなり、Hv700以上の硬度を有する耐摩耗性部材、またはさらにその表面に窒化処理層、浸炭処理層および/または浸炭窒化処理層のいずれかの表面硬化処理層を設けた耐摩耗性部材である。本発明の耐摩耗性部材は硬質粒子径が小さく、表面硬度が高く、耐摩耗性、耐凝着性、耐クラック性に優れているので、部材同士が高い面圧を受けて高速で接触する軸芯およびボールベアリングやローラーベアリングなどの軸受部材、歯車、カム、自在継手、圧延や金属板等の硬質材料の搬送に用いられる各種のロール、コンプレッサーや真空ポンプ等のシールに用いるリングなど、各種の転動部材として好適に適用することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、転動部材に用いる金属マトリックスと硬質粒子からなる耐摩耗性に優れた耐摩耗部材およびそれを用いた転動部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、軸受、歯車、カム、自在継手、ロール、リングなど、ころがり、回転、摺動する箇所に用いられる部材には、特に部材表面における優れた耐摩耗性および疲労強度が必要とされる。そのため、合金鋼からなる部材を浸炭焼入れ処理して表面硬度を高める方法(例えば、特許文献1参照)や、浸炭焼入れ処理して硬度を高めた後、ショットピーニングを施して疲労強度を向上させ、さらに研削仕上げして表面を平滑にする方法(例えば、特許文献2参照)が行われている。
【0003】
また、焼入れ鋼を溶製する際に、表面をチル組織化して硬質化し、さらに窒化処理またはショットピーニング処理により、疲労強度を向上させる方法(例えば、特許文献3参照)が行われている。
【0004】
しかしながら、上記の方法は、使用状況が厳しくなり、部材同士がより高面圧、かつ、より高速で接触しながら使用される場合においては、部材自体の耐摩耗性が不十分であること、潤滑油の油膜切れにより部材が同士の直接接触することによる凝着、熱発生により部材が加熱されることによる硬質相の軟化や早期の剥離などが生じ、いずれも満足する特性が得られていない。
【0005】
一方、熱間伸銅ダイスなどに適用する部材として、複硼化物からなる硬質相とCoやNiなどの金属相からなる、高温強度、耐酸化性、および高温における耐摩耗性など、高温における優れた特性を有する部材(例えば、特許文献4および5参照)が開発されている。
【0006】
これらの部材は粉末冶金法を用いて製造されるが、特に高温における特性を向上させることを目的としているため、硼化物の組成や存在比率を厳しく管理する必要があり、適正な特性を有する部材を製造するために焼結条件を厳しく管理しなくてはならない。
【0007】
本出願に関する先行技術文献情報として次のものがある。
【0008】
【特許文献1】
特開平11−315901号公報
【特許文献2】
特開2002−188702号公報
【特許文献3】
特開2000−002307号公報
【特許文献4】
特開平05−005152号公報
【特許文献5】
特開平05−214479号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明においては、高面圧下で部材同士が接触する転動部材に用いることのできる耐摩耗性および疲労強度に優れた耐摩耗部材およびそれを用いた転動部材を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の耐摩耗部材は、金属マトリックス中に平均粒径:0.5〜10μmの硬質粒子が35〜75体積%分散含有しており、Hv700以上の表面硬度を有する耐摩耗部材であり、
金属マトリックスを構成する金属が、Fe基、Co基およびNi基のいずれかであること、
硬質粒子が硼化物および/または炭化物であること、
硼化物がCr、Mo、W、Fe、CoおよびNiのいずれか2種以上を含む硼化物であること、
炭化物がTi、V、Nb、Ta、CrおよびWのいずれか1種以上を含む炭化物であることを特徴とし、
また、上記のいずれかの耐摩耗部材の表面に、窒化処理層、浸炭処理層および浸炭窒化処理層のいずれかを設けてもよい。
【0011】
また、本発明の転動部材は、上記のいずれかの耐摩耗部材を用いた転動部材であり、
軸受部材、歯車、カム、自在継手、ロール、リングなどに好適に適用することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
本発明の耐摩耗部材は、特に部材同士が高い面圧を受けて高速で接触する軸受、歯車、カム、自在継手、ロール、リングなどの転動部材に適用することを目的としており、部材表面の耐摩耗性および疲労強度に優れている必要がある。そのため、部材表面の硬度はHv700以上であることが好ましく、Hv850以上であることがより好ましい。Hv700未満であると短期間で摩耗してしまうので、部材が短寿命となる。
【0014】
また、本発明の耐摩耗部材は、部材同士が高い面圧を受けて高速で接触することにより、高温に加熱されることもあるので、高温において表面硬度が低下したり、面圧の変化や加熱冷却の繰り返しによる疲労によるクラックが生じにくい材質であることが好ましい。そのため、本発明の耐摩耗部材は、金属マトリックス中に硬質粒子が分散含有して構成されている。硬質粒子は平均粒径:0.5〜10μmの大きさで、金属マトリックス中に35〜75体積%含有されていることが好ましい。平均粒径:0.5μm未満の硬質粒子は得られにくく、コスト高になる。平均粒径:10μmを超えると疲労強度が低下する。また、硬質粒子が金属マトリックス中に35体積%未満でしか含有されていないと、Hv700以上の表面硬度が得られない。75体積%を超えて含有されていると、疲労によるクラックが生じやすくなる。
【0015】
金属マトリックスとしては、硼化物や炭化物との結合強度に優れていることから、Fe基、Co基およびNi基のいずれかであることが好ましく、またはこれらのいずれかの金属にこれらの金属以外の金属を含有させた合金基の金属マトリックスを用いることもできる。
【0016】
硬質粒子としては、硬度および耐摩耗性を向上させる観点から、硼化物および/または炭化物を用いることが好ましい。特に、硼化物は耐摩耗性に加えて自己潤滑性も兼ね備えており、同一組成の部材が接触する用途の部材を提供するのに好適である。硼化物としては、Cr、Mo、W、Fe、CoおよびNiのいずれか2種以上を含む複硼化物とすることにより、マトリックス金属との結合性が向上し、部材の使用中に硼化物粒子が脱落したり、マイクロクラックなどが発生しにくくなる。これらの複硼化物としては、Mo2FeB2、Mo2(Fe,Cr)B2、Mo2NiB2、Mo2CrB2、Mo2(Cr,Ni)B2、WCoB、(W,Cr,Co)Bなどを上げることができ、これらのいずれか1種、または2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
炭化物としては、Ti、V、Nb、Ta、CrおよびWのいずれか1種以上を含む炭化物が硬度が高く、好適に用いることができる。これらの炭化物としては、TiC、VC、NbC、TaC、Cr3C2、WCなど、およびこれらの相互固溶体や混合物を用いることが好ましい。
【0018】
本発明の耐摩耗部材は、上記の金属マトリックスに用いる金属と上記の硼化物および/または炭化物を粉体化し混合し、公知の粉末冶金法を用いて圧粉、焼結して焼結体として製造することができる。また、薄板状の焼結体を作成し、これをターゲットとして合金鋼などの芯材部材の表面にイオンプレーティング法などを用いて被覆することにより、製造してもよい。また、上記の硼化物および/または炭化物を芯材部材に溶射して被覆することも可能である。
【0019】
上記のようにして作成した耐摩耗部材の表面に、公知の窒化処理、浸炭処理、および浸炭窒化処理のいずれかの方法を用いて窒化処理層、浸炭処理層、浸炭窒化処理層を形成させてもよい。公知の窒化処理として、例えば、プラズマ窒化法、イオン窒化法、ガス窒化法あるいは塩浴窒化法が適用でき、浸炭処理として、ガス浸炭法、塩浴浸炭法、イオン浸炭法、真空浸炭法が適用でき、更に、浸炭窒化法としては、ガス浸炭窒化法、塩浴浸炭窒化法が適用できる。このようにして表面硬度をさらに高め、かつ疲労強度を向上させることができる。
【0020】
このようにして得られる耐摩耗部材の表面は、凝着を防止するため研削加工を施してもよい。研削加工後の表面粗さは平均粗さ(Ra)で0.01〜0.5μmであることが好ましく、0.05〜0.2μmであることがより好ましい。表面粗さを0.01μmより小さく仕上げるには研磨に長時間を要し、コスト高となる。表面粗さが0.5μmを超えて粗いと短時間で部材同士が凝着するようになる。
【0021】
このようにして得られる本発明の耐摩耗部材は、耐摩耗性および疲労強度に優れているので、部材同士が高い面圧を受けて高速で接触する転動部材に好適に適用することができる。転動部材としては軸芯およびボールベアリングやローラーベアリングなどの軸受部材、歯車、カム、自在継手、圧延や金属板等の硬質材料の搬送に用いられる各種のロール、コンプレッサーや真空ポンプ等のシールに用いるリングなどの用途に好適に用いることができる。
【0022】
【実施例】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明する。
【0023】
耐摩耗性部材の供試材を粉末冶金法を用いて作成した。すなわち、原料粉末として表1に示す金属粉、硼化物粉、炭化物粉などを用い、これらの粉末を、硼化物粉および/または炭化物粉が表1に示す体積%となるように配合した後、振動ボールミルによりアセトン中で混合粉砕した。次いで、乾燥、造粒し、プレス成形した後、真空中で1423〜1773Kの温度で30分間加熱し焼結体を作成した。一部の焼結体については、その後、プラズマ窒化処理、ガス浸炭処理、塩浴を用いる浸炭窒化処理を施した。次いで、これらの焼結体および表面硬化処理を施した焼結体の表面を研削加工した。このようにして、試料番号1〜26で示す供試材を作成した。表1においては、窒化処理は、真空度102Paの窒素ガス雰囲気中で、520℃、5時間行った。浸炭処理は、真空度102Paの窒素ガス99体積%とメタンガス1体積%の混合ガスを含んだ雰囲気中で、1000℃、2時間行った。浸炭窒化処理は、真空度102Paのアンモニアガス9体積%と一酸化炭素ガス91体積%の混合ガスを含んだ雰囲気中で、600℃、4時間行った。
【0024】
【表1】
【0025】
このようにして作成した供試材の特性を下記のようにして評価した。
【0026】
[硬質粒子径]
供試材を走査顕微鏡で4000倍の倍率で10視野観察し、視野中に認められる代表的な硬質粒子の径を観察し、その平均値を硬質粒子径とした。
【0027】
[表面硬度]
マイクロビッカース硬度計を用い、荷重:50gで表面硬度(Hv)を測定した。
【0028】
[表面粗さ]
供試材の表面粗さを表面粗さ計を用い、JIS B0601に準じて平均粗さ(Ra、μm)を測定した。
【0029】
[耐摩耗性、耐凝着性 、耐クラック性]
大越式摩耗試験機を用い、下記の試験条件で供試材表面に摺動試験をほどこした後、各特性を評価した。
【0030】
<試験条件>
荷重:20kgf、滑り速度:4.5m/秒、滑り距離:135m、潤滑剤:無し、雰囲気:大気中、試験温度:室温
<耐摩耗性の評価>
試験後の供試材の摩耗重量から摩耗体積(mm3)を求めた。0.30mm3以下を本発明の対象とした。
【0031】
<耐凝着性の評価>
試験後の供試材の摩耗部分を光学顕微鏡を用いて50倍の倍率で観察し、凝着の有無で耐凝着性を評価した。
【0032】
<耐クラック性>
試験後の供試材の摩耗部分を光学顕微鏡を用いて200倍の倍率で観察し、クラックの有無で耐クラック性を評価した。
【0033】
これらの特性評価結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
表2に示すように、本発明の耐摩耗性部材は硬質粒子径が小さく、表面硬度が高く、耐摩耗性、耐凝着性、耐クラック性に優れている。そのため、軸芯およびボールベアリングやローラーベアリングなどの軸受部材、歯車、カム、自在継手、圧延や金属板等の硬質材料の搬送に用いられる各種のロール、コンプレッサーや真空ポンプ等のシールに用いるリングなどの用途に好適に用いることができる。
【0036】
【発明の効果】
本発明は、Fe基、Co基およびNi基のいずれかの金属マトリックス中に硼化物および/または炭化物からなる、平均粒径1〜10μmの硬質粒子を35〜75体積%分散含有してなり、Hv700以上の硬度を有する耐摩耗性部材、またはさらにその表面に窒化処理層、浸炭処理層および/または浸炭窒化処理層のいずれかの表面硬化処理層を設けた耐摩耗性部材である。本発明の耐摩耗性部材は硬質粒子径が小さく、表面硬度が高く、耐摩耗性、耐凝着性、耐クラック性に優れているので、部材同士が高い面圧を受けて高速で接触する軸芯およびボールベアリングやローラーベアリングなどの軸受部材、歯車、カム、自在継手、圧延や金属板等の硬質材料の搬送に用いられる各種のロール、コンプレッサーや真空ポンプ等のシールに用いるリングなど、各種の転動部材として好適に適用することができる。
Claims (13)
- 金属マトリックス中に平均粒径:0.5〜10μmの硬質粒子を35〜75体積%分散含有しており、Hv700以上の表面硬度を有することを特徴とする耐摩耗部材。
- 金属マトリックスを構成する金属が、Fe基、Co基およびNi基のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗部材。
- 硬質粒子が硼化物および/または炭化物であることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗部材。
- 硼化物がCr、Mo、W、Fe、CoおよびNiのいずれか2種以上を含む硼化物であることを特徴とする請求項3に記載の耐摩耗部材。
- 炭化物がTi、V、Nb、Ta、CrおよびWのいずれか1種以上を含む炭化物であることを特徴とする請求項3に記載の耐摩耗部材。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の耐摩耗部材の表面に、窒化処理層、浸炭処理層および浸炭窒化処理層のいずれかを設けたことを特徴とする耐摩耗部材。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の耐摩耗部材を用いたことを特徴とする転動部材。
- 転動部材が軸受部材であることを特徴とする請求項7に記載の転動部材。
- 転動部材が歯車であることを特徴とする請求項7に記載の転動部材。
- 転動部材がカムであることを特徴とする請求項7に記載の転動部材。
- 転動部材が自在継手であることを特徴とする請求項7に記載の転動部材。
- 転動部材がロールであることを特徴とする請求項7に記載の転動部材。
- 転動部材がリングであることを特徴とする請求項7に記載の転動部材。
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