JP4005713B2 - Nb3 Al化合物系超電導線およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、Nb3 Al系超電導線およびその製造方法に関し、特に、優れた臨界電流密度特性を有するNb3 Al系超電導線とこれを得るための製造方法とに関する。
【0002】
【従来の技術】
Nb3 Al系超電導線は、Nb3 Sn、NbTiのような一般的な超電導線と比べ、高磁界における臨界電流密度特性に優れていることから、たとえば、物性研究用NMRマグネット等の超電導材料として実用化が期待されている。
【0003】
従来、Nb3 Al系超電導線の製造方法として、たとえば、NbとAlを所定の組成比率で複合し、相互の拡散距離を数十nm程度まで短くした状態で600〜1050℃の温度に加熱し、これにより固相拡散を起こさせてNb3 Alを生成させる拡散法と呼ばれる製造方法が知られている。
【0004】
しかし、この製造方法によると、1500℃以上の高温においてのみ安定するNb3 Al化合物にとっては、温度不足下での固相拡散となり、このため、化学量論組成からのずれが発生するようになることから、高い臨界電流密度を得ることが難しく、従って、たとえば、要求特性を20T以上の高磁界で満たす必要があるNMRマグネット等に対し、拡散法をもって対処することはほゞ不可能と云える。
【0005】
Nb3 Al系超電導線を得るための他の製造方法として、NbとAlを所定の組成比率で複合し、これを1500℃以上の温度に加熱して直ちに急冷し、これによりNb‐Al過飽和固溶体を生成させ、その後、これを再加熱することにより、Nb3 Al相を析出させる方法が知られている。
【0006】
この製造方法は、加熱温度が高いために化学量論組成からのずれによる臨界電流密度の低下がなく、従って、NMRマグネット等への適用を考えた場合、現状においては唯一の製造方法と云える。
【0007】
通常、この析出法による超電導線の製造は、以下の手順によって行われる。
たとえば、ジェリーロール法の場合であれば、まず、NbとAlのシートを準備して積層巻きした後、これをNbパイプで被覆し、シングル線を作る。
【0008】
次に、得られたシングル線の複数本を再度Nbパイプで被覆し、これに伸線加工等を施すことによってNbとAlのマルチ複合線材とし、その後、これを1500℃以上に加熱し、直ちに急冷する。
【0009】
この加熱、急冷によりNb、Al複合部にNb‐Al過飽和固溶体を生成させた後、さらに、600〜1050℃の温度で再度加熱し、これによりNb3 Alを析出させ、超電導線とするもので、この方法は高い臨界電流密度を有する超電導線の製造が可能であることから、NMRマグネット等の要求に対処可能な製造方法として有望視されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の析出法により製造されたNb3 Al系超電導線によると、Nb3 Al超電導部に他の金属化合物を生成させてしまうことが多く、このため、高い臨界電流密度特性を確保することが難しかった。
【0011】
従って、本発明の目的は、高臨界電流密度特性を安定的に備えたNb3 Al系超電導線とこれを製造するための製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の目的を達成するため、Nb3 Al超電導部と、前記Nb3 Al超電導部の周囲に形成された高融点金属から成る外周部マトリックスとより構成され、前記外周部マトリックスの断面積をA、超電導線の断面積をB、前記Nb3 Al超電導部の断面積をCとしたとき、A/(B−A)=0.01以上、および(B−C)/C=1.3以下となるように構成し、前記外周部マトリックスを0.2mm以下の厚さに構成したことを特徴とするNb3 Al系超電導線を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、上記の目的を達成するため、NbとAlの複合体の周囲に高融点金属の被覆を形成し、これに加熱と冷却とを順に施すことによって前記複合体に基づいたNb‐Al過飽和固溶体を生成させた後、加熱処理することによって前記Nb‐Al過飽和固溶体に基づくNb3 Al相を析出させる超電導線の製造方法において、前記超電導線における外周部マトリックスの厚さを0.2mm以下となるように設定し、前記外周部マトリックスの断面積Aと前記超電導線の断面積Bとの関係(以下、外周部マトリックス比という)をA/(B−A)=0.01以上となるように設定し、前記複合体に相当する部分の断面積Cと前記断面積Bとの関係(以下、複合体マトリックス比という)を(B−C)/C=1.3以下となるように設定することを特徴とするNb3 Al系超電導線の製造方法を提供するものである。
【0014】
上記の複合体を構成するNbおよびAlには、純Nbおよび純Alだけでなく、これらの合金も含まれるが、Nb‐Al過飽和固溶体生成のための加熱時には、これらは、それぞれNb系金属が固溶体となり、Al系金属が溶融体となる。
【0015】
NbとAlの複合体の周囲に形成される高融点金属の被覆は、複合体が以上のような状態を呈するなかで、強度メンバーとしての役割を果たすものであるが、高融点金属による外周部マトリックスの厚さを、特に、0.2mm以下に設定する理由は、これを超えると、加熱急冷時における冷却効果が不充分となり、Nb‐Al過飽和固溶体以外の他の金属化合物を生成させ、超電導線としての臨界電流密度特性を低下させるようになるからであり、この0.2mm以下の厚さ設定は重要な要素となる。
【0016】
臨界電流密度としては、たとえば、21T、4.2Kにおいて200A/mm2 以上を目標値として揚げることができる。
【0017】
Nb‐Al過飽和固溶体以外の金属間化合物には、超電導線を脆化させる性質もあり、従って、これが生成するときには、たとえば、マグネット製作時のコイル巻作業時に断線が多発するようになる。外周部マトリックスの厚さを0.2mmを超えて設定することは、このことからも避ける必要がある。
【0018】
高融点金属の被覆には、加熱の間、NbとAlを分離させずに一体に保持する役割もあり、このためには外周部マトリックス比を0.01以上となるように設定する必要がある。0.01未満に設定する場合には、製品を断線させることなく製造作業を遂行することが不可能となる。
【0019】
本発明の製造方法においては、多くの場合、NbとAlはシート状であり、従って、これらNbとAlのシートは互いに積層巻きされることによって複合体とされるが、NbまたはAlの部材に線状のAlまたはNbを密巻きすることによって複合体を構成してもよい。
【0020】
また、このNb、Al複合体の周囲に高融点金属の被覆を形成するに当たっては、一旦、複合体上に高融点金属による個別の被覆を形成したシングル線材を製造し、このシングル線材の複数本を束ねた上に高融点金属の一括被覆を形成してもよく、あるいは、シングル線材を作らずに、Nb、Al複合体の複数本を束ねた上へ、直接、高融点金属による一括被覆を形成してもよい。
【0021】
シート状のNbとAlを積層して巻く際、高融点金属の中心材を準備して、この上に巻き付けるようにすることは好ましい。
その場合、高融点金属の中心材により形成される中心部マトリックスとしては、その断面積Dと超電導線の断面積Bとの関係(以下、中心材マトリックス比という)をD/(B−D)=0.55以下となるように設定する必要がある。
マトリックス比が0.55を超えると、Nb‐Al過飽和固溶体生成のための加熱の際に断線が生ずるようになる。
【0022】
複合体マトリックス比を1.3以下に設定する理由は、臨界電流密度として前掲した200A/mm2 以上の特性を確保するためであり、これを1.3を超えて設定するときには、冷却時の冷却効果が悪くなって、200A/mm2 以上の電流密度の確保が困難となる。
【0023】
前記した個別の被覆、一括被覆、あるいは中心材を構成する高融点金属としては、Nb、Ta、Cr、Hf、Ir、Mo、Ti、V等が使用される。
【0024】
【発明の実施の形態】
次に、本発明によるNb3 Al系超電導線およびその製造方法における実施の形態について説明する。
図1は、製造過程における製品の形状を示したものである。
【0025】
図1(イ)において、1は、工業用純Nbシート2と工業用純Alシート3を積層し、これを工業用純Nb製の中心材4に隙間なく巻き付けることによって構成したジェリーロール形式の複合体を示す。
5は複合体1上に静水圧押出によりNb管を被せることによって設けられた工業用純Nb製の被覆を示し、この被覆5の上にはCu被覆6が同様にして形成され、これによって複合素線7とされる。
【0026】
図1(ロ)は、複合素線7をダイス伸線により断面6角形に減面加工し、その後、Cu被覆6を除去することによって製造したシングル線材8の構造を示したもので、6角形による密接集合が可能な構造となっている。
【0027】
図1(ハ)は、Nb製の一括被覆9とCu‐Ni合金被覆10とをシングル線材8の集合束の上に形成することによって得られた複合線材11の構造を示す。この複合線材11は、ダイス伸線により所定の寸法に減面加工された後、外周のCu‐Ni合金被覆10が除去され、これにより所定寸法のマルチ複合線材とされる。
【0028】
図1(ニ)は、以上により得られたマルチ複合線材16を加熱し、冷却し、さらに、再加熱することによって製造したNb3 Al系超電導線の断面構造を示したもので、最初の加熱とそれに続く冷却とは、以下に説明する装置を使用して行われた。 なお、図中、12はNb3 Al超電導部、13と14は、いずれもNbから構成された中心材マトリックスと外周部マトリックスを示す。
【0029】
図2は、加熱および冷却に使用された装置の概要を示したもので、15はマルチ複合線材16を送り出すための供給リール、17、18は電極ローラ、19は内部に冷却剤としての液体Ga20を収容した冷却槽を示し、液体Ga20の中には電極ロール18が浸漬させられている。21は巻取リール、22は電源、23は抵抗Rの両端の電位差から電流を測定する電流値測定リード線24と、電極ローラ17、18間の電圧を測定する電圧測定リード線25とを備えた記録計、26はガイドローラを示す。
【0030】
供給リール15から送り出されたマルチ複合線材16は、電極ローラ17と18を通過する間に2000℃で0.1秒間通電加熱され、その後、引き続き液体Ga20によって5000K/秒の冷却速度で冷却された後、巻取リール21に巻き取られる。
【0031】
巻き取られたマルチ複合線材16は、別工程において800℃で10時間再加熱され、これによりNb3 Alを析出させられ、所定のNb3 Al系超電導線となる。
図3は、以上の超電導線製造プロセスをフローチャートにまとめたものである。
【0032】
表1は、図1〜3に基づいて実施された実施例および比較例における超電導線製造のためのパラメータを示す。表2は、これによって得られた各超電導線のマトリックス構成と臨界電流密度特性を示す。個別の被覆5および一括被覆9を構成する高融点金属としては、Nbを使用した。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
表2によれば、本発明による実施例がいずれも200A/mm2 以上の臨界電流密度を示しているのに比べ、比較例の場合には136〜179A/mm2 と200A/mm2 をクリアすることができず、両者間には明確な差が認められる。
【0036】
比較例に共通する点は、複合体マトリックス比と外周部マトリックスの厚さをいずれも本発明の規定値を超えた値に設定している点にあり、本発明が特に前者を1.3以下、後者を0.2mm以下に設定する理由が、これら比較例の特性によって実証されている。
なお、比較例1は、中心材マトリックス比率を本発明の規定値を大幅に超えて設定した例であるが、マルチ複合線材の急熱急冷中に線材切れが頻発し、スムースな作業遂行が不可能であった。表2のマトリックスデータは僅かに得られたサンプルによるものであるが、臨界電流密度の測定は不可能であった。
【0037】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、高融点金属により形成される外周部マトリックスを特定の厚さに設定するとともに、外周部マトリックスの断面積と超電導線の断面積とを特定の比率に設定し、さらに、NbとAlの複合体に相当する部分(超電導部)の断面積と超電導線の断面積とを特定比率に設定することによって、高い臨界電流密度を備えたNb3 Al系超電導線を提供するものであり、従って、たとえば、物性研究用NMRマグネット等の超電導材としてNb3 Al系超電導線を応用する場合に、本発明は有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるNb3 Al系超電導線製造方法の実施の形態における製品の加工経緯説明図であり、Aは部分拡大図を示す。
【図2】図1の実施形態において使用された加熱、冷却装置の説明図。
【図3】図1および図2の実施形態における製造プロセス図。
【符号の説明】
1 複合体
2 Nbシート
3 Alシート
4 中心材
5 被覆
6 Cu被覆
7 複合素線
8 シングル線材
9 一括被覆
10 Cu‐Ni合金被覆
11 複合線材
12 Nb3 Al超電導部
13 中心材マトリックス
14 外周部マトリックス
15 供給リール
16 マルチ複合線材
17、18 電極ローラ
19 冷却槽
20 液体Ga
21 巻取リール
22 電源
23 記録計
Claims (6)
- Nb3 Al超電導部と、前記Nb3 Al超電導部の周囲に形成された高融点金属から成る外周部マトリックスとより構成され、
前記外周部マトリックスの断面積をA、超電導線の断面積をB、前記Nb3 Al超電導部の断面積をCとしたとき、
A/(B−A)=0.01以上、および(B−C)/C=1.3以下となるように構成し、
前記外周部マトリックスを0.2mm以下の厚さに構成したことを特徴とするNb3 Al系超電導線。 - 前記Nb3 Al超電導部は、高融点金属から成る中心材マトリックスの周囲に形成され、前記中心材マトリックスの断面積をDとしたとき、D/(B−D)=0.55以下となるように構成したことを特徴とする請求項第1項記載のNb3 Al系超電導線。
- 前記高融点金属は、Nb、Ta、Cr、Hf、Ir、Mo、TiあるいはVのいずれかにより構成したことを特徴とする請求項第1項あるいは第2項記載のNb3 Al系超電導線。
- NbとAlの複合体の周囲に高融点金属の被覆を形成し、これに加熱と冷却とを順に施すことによって前記複合体に基づいたNb‐Al過飽和固溶体を生成させた後、加熱処理することによって前記Nb‐Al過飽和固溶体に基づくNb3 Al相を析出させる超電導線の製造方法において、
前記超電導線における外周部マトリックスの厚さを0.2mm以下となるように設定し、
前記外周部マトリックスの断面積Aと前記超電導線の断面積Bとの関係をA/(B−A)=0.01以上となるように設定し、
前記複合体に相当する部分の断面積Cと前記断面積Bとの関係を(B−C)/C=1.3以下となるように設定することを特徴とするNb3 Al系超電導線の製造方法。 - 前記複合体は、高融点金属の中心材に巻き付けられ、前記中心材による中心材マトリックスの断面積Dと前記超電導線の断面積Bとの関係をD/(B−D)=0.55以下となるように設定することを特徴とする請求項第1項記載のNb3 Al系超電導線の製造方法。
- 前記高融点金属は、Nb、Ta、Cr、Hf、Ir、Mo、TiあるいはVのいずれかであることを特徴とする請求項第1項あるいは第2項記載のNb3 Al系超電導線の製造方法。
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