JP4001108B2 - 硬化物及び塗膜の製造方法 - Google Patents

硬化物及び塗膜の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
(技術分野)
本発明は、硬化物及び塗膜の製造方法に関する。本発明においては、特定のマクロモノマー組成物中のマクロモノマーとビニル単量体とを反応させる。
(背景技術)
ビニル単量体を150〜350℃の温度で重合させて得られるマクロモノマー組成物が公知である。また、これらのマクロモノマー組成物とビニル単量体とを反応させること、即ち、マクロモノマー組成物に含まれるマクロモノマーとビニル単量体とを共重合させて共重合体を得ることも公知である(国際特許出願公開第WO98/47927号、特開平8−3256号)。
【0002】
ところが、上記従来の方法によって得られる共重合体は分子量分布が狭い場合があるか、或いはゲルが生成しにくい場合がある。従って、このような共重合体をラジカル重合により硬化させるコーティング剤として好適に使用できないという問題があった。
【0003】
本発明は、上記のような従来技術に存在する問題点に着目してなされた。本発明の目的は、分子量分布が広い共重合体を得ることにある。本発明のさらなる目的は、ゲルの生成が起り易い共重合体を得ることにある。本発明のさらなる目的は、ラジカル重合による硬化によって、コーティング剤を好適に製造し得る、硬化物及び塗膜の製造方法を提供することにある。
【0004】
(発明の開示)
上記課題を解決するために、本発明の一実施態様によると、マクロモノマー組成物と第1のビニル単量体と重合させて得られる硬化物の製造方法は、アクリロイル基を有する第2のビニル単量体を90質量%以上と、他のビニル単量体を10質量%以下とを含有する混合物を使用して、重合反応液中に含まれる同混合物中の単量体及びその重合体の合計量が60質量%以上となる条件において、撹拌槽型反応器中にて180〜350℃の温度で連続重合させてマクロモノマー組成物を生成する工程と、前記マクロモノマー組成物を、α位に水素原子を有するビニル単量体を含有する第1のビニル単量体とを有機溶剤の存在下にて、又は無溶剤の条件下にて−20〜150℃の温度範囲で反応させる工程とを備え る。このような方法により得られる共重合体は、分子量分布が広く、又はゲルの生成が起り易い。このため、その共重合体をラジカル重合により硬化させて得られる硬化物は、コーティング剤として好適である。
【0005】
本発明の他の実施態様において、第1のビニル単量体は、α位に水素原子を有するビニル単量体を30質量%以上にて、及びその他の共重合用ビニル単量体を70質量%以下にて含有するビニル単量体の混合物であってもよい。このようにすることにより、性能の均一なマクロモノマーを生産性良く得ることができる。
【0006】
本発明の硬化物の製造方法のさらなる実施態様によると、前記のマクロモノマー組成物中のマクロモノマーは、下記の式(1)に示す構造を有するものである。
【0007】
【化3】
Figure 0004001108
式(1)において、Mは単量体単位を意味し、nは重合度を表す自然数であり、Xは−COOR、−CONR、−OR、−OCOR、−OCOOR、−NCOOR、ハロゲン原子、−CN、又は置換基を有していてもよいフェニル基若しくはアリール基である。Rはアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、その他の置換基を有していてもよいアルキル基、フェニル基、ベンジル基、ポリアルキレングリコール基、ジアルキルアミノアルキル基、トリアルコキシシリルアルキル基又は水素原子である。好ましいXは−COOR、フェニル基である。マクロモノマーが式(1)に示す構造を有する場合には、本発明の製造方法における効果をさらに向上させることができる。
【0008】
本発明の硬化物の製造方法の一実施態様では、前記マクロモノマー組成物が180℃以上270℃未満の温度で重合させて得られるものであってもよい。このような温度範囲を適用することにより、得られる共重合体の分解を抑えることができるとともに、着色を抑制することができる。また、上記のマクロモノマー製造用のビニル単量体は、0.1〜20モル%の多官能ビニル単量体を含有するものであってもよい。この場合には、得られる共重合体の分子量分布をさらに広げ、又はゲルの生成をより促進し得る。
【0009】
本発明の硬化物は上記の共重合体をさらに硬化して得られる。本発明によれば、硬化物は、硬化に際して体積収縮が少なく、強度及び耐溶剤性を向上させることができる。本発明の塗膜は、共重合体に塗料用添加剤を添加して得られる塗料を被塗装物に塗布して形成されるものである。本発明によれば、塗料を被塗装物に塗布して硬化させる際に体積収縮が少なく、強度及び耐溶剤性を向上させ得る。
(発明を実施するための最良の形態)
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0010】
本発明の硬化物の製造方法は、マクロモノマー組成物と第1のビニル単量体とを、有機溶剤の存在下、或いは無溶剤の条件下にて−20〜150℃の温度範囲で反応させるものである。このマクロモノマー組成物は、アクリロイル基を有するビニル単量体を、この単量体及び重合体の合計量が重合反応液中に50質量%以上にて含有される条件において、180〜350℃の温度で重合させて得られるマクロモノマーからなる。マクロモノマーと共重合させる第1のビニル単量体は、α位に水素原子を有するビニル単量体を含む。
【0011】
まず、マクロモノマー組成物について説明する。
アクリロイル基を有する第2のビニル単量体は、マクロモノマー組成物を用いて得られる共重合体の分子量分布を広くする、即ち分散度(重量平均分子量/数平均分子量)を大きくするとともに、ゲルの生成を促進するために用いられる。第2のビニル単量体として具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸デシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどのアクリル酸エステル、アクリル酸などが挙げられる。
【0012】
マクロモノマー組成物は、第2のビニル単量体を90質量%以上にて、及びその他のマクロモノマー製造用ビニル単量体を10質量%以下にて含有するビニル単量体の混合物を連続重合させて得られる。この場合の重合反応は好適には撹拌槽型反応器を使用し、単量体及びその重合体の合計量が重合反応液中に50質量%以上にて含まれる条件下で、180〜350℃の温度で行われる。また、第1の単量体は好適には、α位に水素原子を有するビニル単量体を30質量%以上にて、及びその他のビニル単量体を70質量%以下にて含有するビニル単量体の混合物である。
【0013】
マクロモノマーの製造に供される混合物のうち、第2のビニル単量体以外の単量体としては、メタクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリルなどが挙げられる。メタクリル酸エステルの具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル、モノグリセロールメタクリル酸エステル、シクロヘキサンジメタノールモノメタクリル酸エステル、メタクリル酸アルコキシエチル、メタクリル酸アルコキシプロピル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アルキルアミノアルキルエステルなどが挙げられる。
【0014】
さらに、マクロモノマー製造に使用される他のビニル単量体の例には多官能ビニル単量体が挙げられ、その使用量は0.1〜20モル%であることが好ましい。多官能ビニル単量体を使用すると、マクロモノマー組成物を用いて得られる共重合体の分子量分布が広げられ、或いはゲルの生成を促進することができるため望ましい。多官能ビニル単量体の使用量が0.1モル%未満ではそのような効果が十分に得られず、20モル%を越える場合マクロモノマーや共重合体の製造が困難になるおそれがある。そのような多官能ビニル単量体としては、メタクリル酸ジアルキルアミノアルキルエステルなどや、ジメタクリル酸ポリアルキレングリコールエステル、ジメタクリル酸アルキルジオールエステル、ポリアルキレングリコールジアクリル酸エステル、アルキルジオールジアクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0015】
なお、マクロモノマー製造において第2のビニル単量体以外にスチレンを使用する場合には、その使用量は0〜30質量%であることが好ましく、0〜20質量%であることがより好ましく、0〜10質量%であることがさらに好ましい。スチレンの使用量が多すぎる場合は、マクロモノマー組成物とビニル単量体との共重合反応においてマクロモノマーやビニル単量体の反応率が小さくなることがある。スチレンの使用量が30質量%を越えるマクロモノマー組成物を使用した共重合反応の反応率を大きくするためには、マクロモノマー組成物とビニル単量体を高温で長時間反応させる必要がある。そのような例は、国際特許出願公開第WO99/07755号公報の実施例11に記載されている。しかし、こうして得られる共重合体は、数平均分子量、重量平均分子量などの分子量が小さいことがある。さらに、高温で長時間反応させた共重合体は分子量分布が小さいものになりやすい。また、着色がはげしいものになりやすい。従って、マクロモノマー組成物とビニル単量体とを、比較的緩和な条件において反応させ、かつ高い反応率で共重合させるためには、マクロモノマー組成物はできるだけスチレンの含有割合が小さいものが好ましい。
【0016】
また、第2のビニル単量体が90質量%未満、即ち、マクロモノマー製造に使用される第2のビニル単量体以外のビニル単量体が10質量%を越える場合には、得られる共重合体の分子量分布を広くすること及び、ゲルの生成を促進することが困難になる。
【0017】
前記マクロモノマー組成物は、その製造に使用される単量体とこの単量体の重合体との合計量の重合反応液の量に対する濃度(以下、単量体等の濃度ともいう。)が50質量%以上となる条件にて重合された結果得られることが好ましい。これは、マクロモノマー組成物の生産効率が良く、ビニル単量体との共重合反応において反応率の大きいものとなりやすいためである。単量体及びこれらが重合して形成される重合体以外の主たる成分は溶剤である。言い換えると、上記の好適な条件は「本発明におけるマクロモノマー組成物が、マクロモノマー組成物製造における溶剤の使用量が重合反応液の量を基準として50質量%以下となる濃度にて重合されて得られたものである場合は好ましい。」ということと実質的に同等である。単量体等の濃度はより好適には60質量%以上、さらに好適には70質量%以上である。
【0018】
本発明におけるマクロモノマー組成物は、上記のマクロモノマー製造に使用されるビニル単量体を、180〜350℃の温度で重合させて得られるものである。温度が低すぎても高すぎてもマクロモノマーを高収率で得ることができない。このような温度範囲以外の温度にて重合させた場合には、ビニル単量体の重合において末端に二重結合を有していない重合体の生成割合が増えるために、目的とするマクロモノマーの濃度が低くなりやすい。マクロモノマー組成物を製造する反応温度は、180℃以上270℃未満であることが好ましい。マクロモノマー組成物を用いて得られる共重合体の分解を抑えることができるとともに、着色を抑制することができるからである。
【0019】
重合時間は好適には0.05〜2時間であり、より好適には0.1〜1時間である。重合時間が短すぎるとマクロモノマーの収率が低い場合がある。重合時間が長すぎるとマクロモノマー組成物の着色が激しくなる場合がある。
溶剤を使用する場合、原料や生成物の溶解性及び原料や生成物に対する反応性を考慮して適宜選択できる。例えばケトン類、エステル類、エーテル類、アルコール類、セロソルブ類、カルビトール類、脂肪族炭化水素類、脂環族炭化水素類、芳香族炭化水素類、水等が挙げられるが、これらに限定されない。より詳細には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エトキシエチルプロピオネート、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、イソプロピルアルコール、ブチルセロソルブ、エチルカルビトールアセテート、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、水等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本発明におけるマクロモノマー組成物は、上記の条件の範囲で、公知の方法により重合させて製造することができる。重合方法としては連続重合法、バッチ重合法、管状反応器による重合法等が挙げられる。連続重合法のなかでも連続撹拌槽型反応器を使用する連続重合法は好ましい方法である。この方法によれば、マクロモノマーが効率良く得られるため、及び、得られたマクロモノマー組成物と共重合用ビニル単量体とを共重合させる際に反応が円滑に進行し、マクロモノマーや共重合用ビニル単量体の反応率が大きくなりやすいためである。連続重合法によるマクロモノマー組成物の製造は、例えば国際特許出願公開第WO99/07755号、国際特許出願公開第WO01/04163号等に記載されている方法により行うことができる。
【0021】
マクロモノマー組成物の製造において、公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。ラジカル重合開始剤の例としては、過酸化物、アゾ系化合物などが挙げられる。過酸化物の具体例としては、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどのアルキルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド、t−ブチルパーオクトエートなどのパーエステル、パーカーボネート、過硫酸、過酸、ケトンパーオキサイドなどが挙げられる。アゾ系化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル、1−t−ブチルアゾシアノシクロヘキセンなどが挙げられる。さらに、必要に応じて公知の連鎖移動剤を使用することもできる。
【0022】
本発明において、マクロモノマー組成物が、マクロモノマーを60質量%以上の含有率にて含有する場合には、マクロモノマー組成物と第1のビニル単量体との反応において、これらの共重合体の収率が大きくなるために好ましい。マクロモノマーを60質量%以上の含有率にて含有する場合には、末端に二重結合を有していない重合体の含有率が40質量%以下である。さらに、マクロモノマー組成物が、マクロモノマーを70質量%以上の含有率にて含有する場合にはより好ましい。
【0023】
このようにして得られるマクロモノマー組成物中のマクロモノマーは、下記の式(1)に示す構造を有するものである。
【0024】
【化4】
Figure 0004001108
式(1)において、Mは単量体単位を意味し、nは重合度を表す自然数であり、Xは−COOR、−CONR2、−OR、−OCOR、−OCOOR、−NCOOR、ハロゲン原子、−CN、又は置換基を有していてもよいフェニル基若しくはアリール基である。Rはアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、その他の置換基を有していてもよいアルキル基、フェニル基、ベンジル基、ポリアルキレングリコール基、ジアルキルアミノアルキル基、トリアルコキシシリルアルキル基または水素原子である。好ましいXは−COOR、フェニル基である。
【0025】
マクロモノマー組成物が二重結合を有している割合は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下、GPCという。)により求めた分子量及び核磁気共鳴スペクトル(以下、NMRという。)により求めた二重結合濃度から算出できる。
【0026】
次に、本発明の硬化物の製造方法は、マクロモノマー組成物中のマクロモノマーと第1のビニル単量体とを共重合させるものである。
第1のビニル単量体は、α位に水素を有するビニル単量体を含む。α位に水素を有するビニル単量体として具体的には、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシルなどのアクリル酸エステル、アクリル酸などが挙げられる。また、第1のビニル単量体としては、α位に水素原子を有するビニル単量体を30質量%以上にて、及び共重合に使用される他のビニル単量体を70質量%以下にて含有するビニル単量体混合物が好ましく使用される。
【0027】
α位に水素を有するビニル単量体以外のビニル単量体としては、マクロモノマー製造に使用される第2のビニル単量体以外のビニル単量体として上記に記載された単量体と同様のビニル重合体を使用することができる。
【0028】
α位に水素原子を有するビニル単量体が30質量%未満である場合、即ち、第1のビニル単量体のうちのその他の成分が70質量%を越える場合には、マクロモノマー組成物と第1のビニル単量体との共重合により得られる共重合体における分子量分布が小さく、しかもゲルを生成しにくい。
【0029】
マクロモノマーと第1のビニル単量体とを共重合させる方法は特に限定されない。溶液重合法、乳化重合法、分散重合法、塊状重合法等の公知の重合方法を採用することができる。また、共重合は有機溶剤の存在下、又は無溶剤の条件下で行うことができる。溶液重合法に使用する溶剤は水であってもよいし、有機溶剤であってもよいし、それらの混合物でもよい。分散重合法に使用する媒体は水であってもよいし、有機溶剤であってもよいし、それらの混合物であってもよい。溶液重合法は、生成する共重体を成膜して得られる被膜が耐水性、光沢などの優れたものとなりやすいために好ましい重合方法である。
【0030】
重合温度は−20〜150℃の範囲である。0〜130℃が好ましく、10〜100℃がより好ましい。温度が低すぎると反応時間が長く生産性が悪い場合がある。温度が高すぎると得られる共重合体が分子量分布の小さいものとなり、ゲルを生成しにくいものとなったり、着色が激しいものとなる場合がある。
【0031】
重合時間は通常0.1〜30時間であり、0.3〜20時間が好ましく、0.5〜15時間がより好ましく、1〜10時間が特に好ましい。
マクロモノマーと第1のビニル単量体との共重合において、公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。ラジカル重合開始剤としては、ジターシャリブチルパーオキサイド、ターシャリブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤等が挙げられ、過酸化物と還元剤を組み合わせるレドックス開始剤も使用することができる。さらに、必要に応じて公知の連鎖移動剤を使用することもできる。
【0032】
マクロモノマーと第1のビニル単量体との共重合により得られる共重合体は、グラフト共重合体、ブロック共重合体のいずれか、或いは両者が混在したものとなる。もちろん、未反応のマクロモノマーや、第1ビニル単量体同士が重合した重合体等も存在しうる。どのような構造の共重合体がどのような割合で得られるかは、マクロモノマー組成物の組成、第1のビニル単量体の種類、並びに重合条件等によって異なる。
【0033】
以下に、本発明と類似点のある国際特許出願公開第WO98/47927号に記載の技術と本発明の特徴とを対比する。WO98/47927号にはマクロモノマーの含有率が95質量%という高濃度のマクロモノマー組成物も記載されている。しかし、このマクロモノマー組成物は150〜170℃という低い温度で製造されたものである点で本発明と異なる。このようなマクロモノマー組成物は、単量体等の濃度が50質量%未満であることに起因して、その生産性が悪い場合がある。さらに、単量体等の濃度が大きい場合にはマクロモノマー組成物の分子量分布が大きいためにマクロモノマー組成物と共重合用単量体の混合物が高粘度となり、該混合物を塗布して得られる塗膜が平滑性の悪いものになり得る。なお、本発明で用いるマクロモノマー組成物は、マクロモノマー組成物の分子量分布が小さい。また、マクロモノマー組成物と第1の単量体との混合物が低粘度であるため、この混合物を塗布して得られる塗膜が平滑性の良好なものとなりやすい。さらに、このような塗膜は重合反応により分子量分布が大きい重合体又はゲルとなるため、優れた塗膜性能を発揮できるものである。
【0034】
本発明において使用するマクロモノマー組成物は、180〜350℃という高温下で得られたものである。また、重合反応液中に含まれる単量体及び重合体の合計量が50質量%以上となる条件下で得られたものである。従って、本発明は、WO98/47927号の技術とは異なるものである。
【0035】
本発明の共重合体を公知の方法に従ってラジカル重合により硬化させることにより硬化物が得られる。従って、共重合体は、ラジカル硬化型のコーティング剤として好適である。例えば、共重合体に塗料用添加剤を添加して得られる塗料を被塗装物に塗布して硬化させることにより被塗装物表面に塗膜が形成される。塗料用添加剤としては、顔料、充填剤、滑剤、加工助剤、発泡剤、紫外線吸収剤などが用いられる。被塗装物としては、金属、合成樹脂、木材、セラミックスなどが挙げられる。
【0036】
要約すると、本発明の硬化物の製造方法によれば、マクロモノマー組成物は、マクロモノマー製造においてアクリロイル基を有するビニル単量体を含有する反応液を180〜350℃という高温で重合させて得られる。そのようなマクロモノマー組成物をα位に水素原子を有するビニル単量体を含む第1のビニル単量体と共重合を行うことにより、グラフト反応に加えて架橋反応が進行する。このため、得られる共重合体の分子量分布が広くなる。これは、換言すると分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が大きくなるということである。或いは、本発明による製造方法ではゲルの生成が起り易くなる。
【0037】
従って、その共重合体をラジカル重合により硬化させる塗料として使用した場合、その塗料を被塗装物に塗布して硬化させる際に体積収縮が少なく、強度及び耐溶剤性を向上させることができる。
実施例
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明の実施形態をより詳細に説明する。尚、各例において、部は質量部を、%は質量%を表す。
(製造例1 マクロモノマーの製造)
ホットオイルを使用する加熱装置を備えた容量500mlの加圧式攪拌槽型反応器を、3−エトキシプロピオン酸エチルで満たした。反応器内温度は製造例1において250℃に設定した。反応器圧力は圧力調節器を使用して3−エトキシプロピオン酸エチルの蒸気圧以上に設定した。製造例1において、メチルメタクリレート(以下、MMAという。)5部、アクリル酸ブチル(以下、BAという。)95部及びジ−t−ブチルパーオキサイド(以下、DTBPという。)0.1部を秤量し、単量体混合液を調製し、それを原料タンクに貯蔵した。
【0038】
そして、反応器内の圧力を一定に保ちながら、単量体混合液を原料タンクから反応器に連続的に供給した。このとき、単量体混合液の反応器内での滞留時間が12分となるように供給速度を設定した。単量体混合液の供給量に相当する反応液を反応器の出口から連続的に抜き出した。単量体混合液の連続供給中、反応器内温度を248〜250℃に維持した。反応器の出口から抜き出した反応液を薄膜蒸発器に導入して、反応液中の未反応単量体を除去することにより、マクロモノマー組成物が得られた。単量体混合液の供給開始から90分後、薄膜蒸発器の出口から製造例1のマクロモノマー組成物の採取を開始し、60分間採取を行った。供給した単量体のうち86%が重合体として回収された。換言すると、単量体の転化率は86%であった。
【0039】
テトラヒドロフラン溶媒を用いたゲル浸透クロマトグラフ(以下、GPCという。)により製造例1のマクロモノマー組成物の平均分子量を測定した。ポリスチレン換算で、マクロモノマー組成物の数平均分子量(以下、Mnという。)は1790であり、重量平均分子量(以下、Mwという。)は3300であった。また、H−NMRにより、マクロモノマーに含まれる末端エチレン性不飽和結合の濃度を測定した結果、0.88であった。
(製造例2〜9及び比較製造例1,3,4、マクロモノマー組成物の製造)
マクロモノマー製造用ビニル単量体の種類及び量、溶剤、重合開始剤の量及び反応温度を表1のとおりに変更した以外は製造例1と同様の操作によりマクロモノマー組成物を製造した。さらに、製造されたマクロモノマー組成物の平均分子量及びマクロモノマー含有率を分析した。結果を表2に示す。尚、以下の説明において、シクロヘキシルアクリレートをCHA、アクリル酸をAA、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートをHDDA、メチルエチルケトンをMEKという。
【0040】
【表1】
Figure 0004001108
【0041】
【表2】
Figure 0004001108
(実施例1〜8,11及び比較例1,3,4、共重合体の製造)
実施例1〜8では、表3,4に示すように、製造例1〜6のマクロモノマーと、第1のビニル単量体としてのCHA又はMMAと、添加剤としてのパラフィンと、重合開始剤としてのベンゾイルパーオキサイド(BPO)と、還元剤としてのトルイジンとを配合した。これら混合物を基板上に塗工して重合させ、フィルム状に形成された共重合体を得た。比較例1,3,4、実施例11では、表5に示すように、比較製造例1,3,4、製造例9のマクロモノマーを用いた他は実施例1〜8と同様の手順により共重合体を得た。そして、得られたフィルム状の共重合体をテトラヒドロフラン(THF)又はキシレンに溶解させて溶解性を観察した。また、ゲルの生成について目視により、次の基準で評価した。表3〜5に示したゲル生成の基準において、◎とはゲルの生成が顕著に見られた場合であり、○とはゲルの生成が十分に確認できた場合であり、×とはゲルの生成は見られなかった場合である。
以上の結果を表3、表4及び表5に示した。
【0042】
【表3】
Figure 0004001108
【0043】
【表4】
Figure 0004001108
【0044】
【表5】
Figure 0004001108
表3,4に示したように、実施例1〜8ではフィルムをTHF溶解性テストに供しても、その形状が維持され、またゲルの生成も十分に確認できた。一方、表5に示したように、比較例1,3,4ではフィルムのTHF溶解性テスト及びキシレン溶解テストにより、その形状が崩れ、またゲルの生成は見られなかった。実施例11ではフィルムのTHF溶解テストにおいては形状が崩れ、ゲルの残存は確認されなかったが、キシレン溶解テストにおいてはフィルムの形状が維持され、ゲルの残存が十分に確認できた。
(実施例9及び10)
攪拌機、還流冷却器、温度計、及び窒素導入管を備えた反応容器内に、表6に示すように、マクロモノマー(製造例7及び8)を125部及びMEK125部を投入し、窒素雰囲気下で80℃に加熱した。これにアゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNという。)0.14部を投入して重合反応を開始させた。別途調製したエチルアクリレート(以下、EAという。)125部、MEK125部、及びAIBN0.47部からなる単量体混合物を3時間かけて連続的に滴下させた。滴下終了後さらに1時間反応を継続させた。この間反応温度は80℃に保った。
このようにして得られた共重合体はTHFに溶解せず、ゲル化していたため、分子量の測定はできなかった。
【0045】
【表6】
Figure 0004001108
なお、本発明の他の実施形態において、前記共重合体を接着剤、充填剤などの原料として使用するように変更してもよい。
【0046】
本発明の硬化物の製造方法においては、上記の第1のビニル単量体がアクリル酸エステル又はアクリル酸であってもよい。この場合、得られる共重合体の分子量分布をより広く、又はゲルの生成をより起り易くすることができる。
【0047】
共重合において使用される第1のビニル単量体以外のビニル単量体は、多官能単量体を含んでいてもよい。この場合、得られる共重合体の分子量分布をより広く、又はゲルの生成をより起り易くすることができる。

Claims (8)

  1. マクロモノマー組成物と第1のビニル単量体と重合させて得られる硬化物の製造方法であって、
    アクリロイル基を有する第2のビニル単量体を90質量%以上と、他のビニル単量体を10質量%以下とを含有する混合物を使用して、重合反応液中に含まれる同混合物中の単量体及びその重合体の合計量が60質量%以上となる条件において、撹拌槽型反応器中にて180〜350℃の温度で連続重合させてマクロモノマー組成物を生成する工程と、
    前記マクロモノマー組成物を、α位に水素原子を有するビニル単量体を含有する第1のビニル単量体とを有機溶剤の存在下にて、又は無溶剤の条件下にて−20〜150℃の温度範囲で反応させる工程とを備える、硬化物の製造方法。
  2. 前記第1のビニル単量体は、α位に水素原子を有するビニル単量体を30質量%以上と、その他のビニル単量体を70質量%以下とにて含有するビニル単量体の混合物である請求項1に記載の硬化物の製造方法。
  3. 前記マクロモノマー組成物中に含有されるマクロモノマーは、下記の式(1)に示す構造を有し、
    Figure 0004001108
    ここで、Mは単量体単位を意味し、nは重合度を表す自然数であり、Xは−COOR、−CONR、−OR、−OCOR、−OCOOR、−NCOOR、ハロゲン原子、−CN、又は置換基を有していてもよいフェニル基若しくはアリール基を示し、Rはアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、その他の置換基を有していてもよいアルキル基、フェニル基、ベンジル基、ポリアルキレングリコール基、ジアルキルアミノアルキル基、トリアルコキシシリルアルキル基、又は水素原子である請求項1に記載の硬化物の製造方法。
  4. 前記マクロモノマーの製造に供されるビニル単量体が、0.1〜20モル%の多官能ビニル単量体を含有する請求項1に記載の硬化物の製造方法。
  5. 前記Xは−COOR、フェニル基である請求項3に記載の硬化物の製造方法。
  6. マクロモノマーが中和されていないものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の硬化物の製造方法。
  7. マクロモノマー組成物とα位に水素原子を有する第1のビニル単量体とを反応させて得られる硬化物を含有する塗膜の製造方法であって、
    アクリロイル基を有する第2のビニル単量体を90質量%以上と、他のビニル単量体を10質量%以下とを含有する混合物を使用して、重合反応液中に含まれる同混合物中の単量体及びその重合体の合計量が60質量%以上となる条件において、撹拌槽型反応器中にて180〜350℃の温度で連続重合させてマクロモノマー組成物を生成する工程と、
    前記マクロモノマー組成物、前記第1のビニル単量体、及びラジカル開始剤を混合した混合物を基材に塗工する工程と、
    前記混合物を有機溶剤の存在下にて、又は無溶剤の条件下にて−20〜150℃の温度範囲で反応させる工程とを備える、塗膜の製造方法。
  8. マクロモノマー組成物中のマクロモノマーは、下記式(1)に示す構造を有し、
    Figure 0004001108
    式(1)において、Mは単量体単位を意味し、nは重合度を表す自然数であり、Xは−COOR又はフェニル基を示し、Rはアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、その他の置換基を有していてもよいアルキル基、フェニル基、ベンジル基、ポリアルキレングリコール基、ジアルキルアミノアルキル基、トリアルコキシシリルアルキル基又は水素原子である請求項7に記載の塗膜の製造方法。
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