JP3999459B2 - 光触媒膜の清浄化方法及び清浄化装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光触媒膜の表面を清浄化する方法、及び清浄化させる装置に関するものであり、例えば、版面に光触媒膜を用いた印刷用版材において、版面に残留するインキ等の除去に好適に適用できるものである。
【0002】
【従来の技術】
酸化チタン(TiO2)等の光触媒は、自己のバンドギャップエネルギーよりも高いエネルギーをもつ光が照射されると、表面に付着した有機物を分解して親水化するという性質を有している。こうした光触媒を表面に含む膜(光触媒膜)を種々の材料にコートすれば、当該材料に防汚機能や環境浄化機能等を付与することができる。例えば当該材料が屋外用途の場合には、太陽光線に含まれる紫外線が光触媒膜に照射されることにより、光触媒効果によって付着していた有機物が分解され、光触媒膜の表面から除去される。そのため、例えば自動車のミラーに光触媒膜を貼付すれば、表面の汚れを分解して水に対する塗れ性を向上させるので、降雨時においても良好な視界を確保することができる。その他にも、住宅用建材に適用する等の用途が考えられており、光触媒膜に関する応用技術は、近年大きな注目を集めている。
【0003】
中でも特に注目を集めているのが、こうした光触媒膜を、オフセット印刷法等に用いる印刷用版材に適用しようとする技術である。
これまで、印刷に用いる版としては、陽極酸化アルミニウムを親水性の非画線部とし、その表面上に感光性樹脂を硬化させて形成した疎水性の画線部を有する、いわゆるPS版(Presensitized Plate)が一般的に用いられてきた。このPS版を用いて印刷用版を作成するには、複数の工程が必要であり、このため版の製作には時間がかかり、コストも高くなるため、特に少部数の印刷においては印刷コストアップの要因となっていた。また、PS版では現像液による現像工程を必要とし、手間がかかるだけでなく、現像廃液の処理が環境汚染防止という観点から重要な課題となっていた。そして最重要の課題は、一つの絵柄の印刷が終われば、その版は実質的に使い捨てなければならないことであり、頻繁に版を交換するコストの低減もさることながら、省資源化の観点から、改善が求められていた
。
【0004】
こうした事情から、印刷用版材の表面を光触媒膜とし、再利用可能に構成することが考えられている。なお、「再利用可能な印刷用版材」とは、現状の有版の印刷機において印刷用版材は使い捨てであるのに対し、何らかの方法で再生し、繰り返し利用できる印刷用版材を意味する。
【0005】
このような技術内容の発明に関しては、例えば特開2000−62335号公報において開示されている。この発明においては、印刷工程のデジタル化に対応しつつ、再利用が可能であるような印刷用版材、及びその再生方法について開示している。この発明では、印刷用版材として、基材上に酸化チタン光触媒を含むコート層を形成したものを利用している。
【0006】
版作製時の初期状態においては、印刷用版材の表面が疎水性を示す状態に調整しておく。この調整とは、当該表面にオクタデシルトリメトキシシラン等の疎水化剤として作用する化合物(有機物)を塗布することにより行われる。この表面に、紫外線を照射し、表面の一部を親水性を示す表面に変換する。この変換は、印刷しようとする画像に準拠したデジタルデータに基づいて行われる。これにより、疎水性の部分を画線部、親水性の部分を非画線部として利用することができる。印刷が終了したら、クリーニング工程として、版材表面に付着したインキや湿し水を拭き取り、前記化合物を再び塗布して、コート層表面が再び疎水性を示す、版作製時の初期状態となるように変換する。
こうすることにより、印刷用版材の作製及び再生を繰り返し行い、印刷用版材の再利用を可能にするとともに、印刷時間の大幅な短縮やコスト削減を図るものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
印刷が終了した段階では、版材表面にはインキや疎水化剤といった有機物が付着しているため、上記発明においては、クリーニング工程にてインキを除去し、少なくとも疎水化剤の塗布層のみが版材表面に残存するようにして、新たに版材表面の全面に疎水化剤を塗布するようにしている。
こうしたクリーニング工程においてインキを払拭除去する場合、通常は、肉眼での観察によってインキが完全に除去されたか否かを判断している。すなわち、肉眼で版材表面上に残留するインキが確認できなければ、インキの払拭除去は完了したと判断している。
【0008】
しかし、本発明者らが鋭意検討した結果、印刷用版材が新品同様の状態であればこれで問題ないが、繰り返し使用を重ねていくと問題があることが判明した。すなわち、版材表面をミクロに観察すると、肉眼では認識できない程の極めて薄い層をなしたインキが版材表面に堆積し残留している場合があり、こうした残留インキの層は、印刷用版材の作製・再生を繰り返すほど厚くなり、塗布層の形成の工程で悪影響を及ぼすこととなるのである。
【0009】
こうした残留インキは、その下地となる光触媒膜を被覆してしまう。次の塗布層形成工程において塗布される疎水化剤は、版材表面に強固に付着させる必要があることから、主として、下地である光触媒膜の表面に存在する水酸基(OH)と結合するように設計されている。しかしながら、残留インキが版材表面を覆っている状態では、疎水化剤は水酸基と結合することができず、塗布層は残留インキの上に堆積しただけの状態となる。このような、版材表面に十分付着していない塗布層は、印刷時に湿し水等に流されて版材表面から簡単に剥離してしまう。そのため、その画線部としての機能を十分に発揮できなくなるという問題があった。
【0010】
塗布層を理想的に形成するには、塗布前の版材表面が清浄であること、すなわち版材表面の残留インキ層を分子レベルでほぼ完全といえるまで分解除去し、下地である光触媒膜の表面に水酸基が形成されるようにすること、が必要となる。こうした清浄さを簡便に表す指標として、水との接触角が10°以下となるような表面状態が必要であるが、上記発明において、クリーニング工程の後に版材表面と水との接触角を計測すると、90°程度の疎水的な表面状態を示す場合があった。この場合には、版材表面の清浄化が不十分であって、塗布層の形成を正常に実施することは困難である。
【0011】
このように、インキ等の有機物が光触媒膜表面を覆っていると、肉眼視した限りではほぼ完全に清浄であっても、ミクロでみると清浄とはいえない場合があり、その結果、種々の悪影響を及ぼすこととなる。しかし、インキ等は一般に分子量の非常に高い有機物であり、比較的分子量の低い疎水化剤等の有機物と比較して、格段に分解除去しにくいものである。これまで、光触媒膜に付着した高分子有機物を、効果的に分解除去する方法は、確立されていなかった。
【0012】
本発明者らは鋭意検討の結果、このような高分子有機物を効果的に分解除去し、光触媒膜を清浄化できる手法を見出した。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、光触媒膜に残留する、払拭のみでは除去しきれない有機物を分子レベルで分解除去し、光触媒膜をほぼ完全といえるまで清浄化することのできる光触媒膜の清浄化方法及び清浄化装置を提供すること、を目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、所定の波長を有する光が照射されることで表面が親水性を示す光触媒膜の、前記表面のうちの少なくとも一部に有機物が付着して、疎水性を示す部分が存在している光触媒膜を清浄化させる方法であって、前記表面から有機物を払拭除去する第1の有機物除去工程と、前記表面に光を照射し、前記表面に残留している有機物を分解除去する第2の有機物除去工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光触媒膜の清浄化方法であって、前記光は、380nm以下の波長を有する紫外線であって、該紫外線を、前記第2の有機物除去工程で、照射強度1mW/cm2以上で且つ照射時間90分間以内で照射することを特徴とする。
【0016】
このような方法によって、光触媒膜の表面に残留する有機物、特に、分解が困難な高分子量の有機物を有効に分解し、分子レベルで光触媒膜表面から除去することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の光触媒膜の清浄化方法であって、前記第2の有機物除去工程を、前記表面に洗浄液を接触させた状態で行うことを特徴とする。
【0018】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の光触媒膜の清浄化方法であって、前記第2の有機物除去工程を、前記表面に洗浄液を連続的あるいは間欠的に供給しながら行うことを特徴とする。
【0019】
このように、光触媒膜表面を洗浄液で洗浄しながら光照射を行うようにしているので、高分子量の有機物の分解が途中までしか進まなくとも、洗浄液に可溶あるいは分散可能となる程度まで低分子量化させれば、洗浄液とともに光触媒膜表面から除去することができる。そのため、有機物の分解除去を、短時間でほぼ完全に行うことができる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、光触媒膜の清浄化装置であって、光が照射されることで表面が親水性を示す光触媒膜の、前記表面のうちの少なくとも一部に有機物が付着して、疎水性を示す部分が存在している光触媒膜を清浄化させる装置であって、前記表面に光を照射し、前記表面に残存する有機物を分解して除去する光源を備えていることを特徴とする。
【0021】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の光触媒膜の清浄化装置であって、前記表面に洗浄液を連続的あるいは間欠的に供給する洗浄液供給装置を備えたことを特徴とする。
【0022】
光触媒膜の清浄化装置をこのような構成としたことで、請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒膜の清浄化方法を、好適に実施することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る光触媒膜の清浄化方法及び清浄化装置の実施の形態について、図1乃至図6を用いて説明する。なお、以下に述べる第1及び第2の実施形態においては、光触媒膜を印刷用版材に適用した例について説明することとする。すなわち、「光触媒膜の清浄化方法」とは、版面(印刷用版材の表面)を清浄化するための方法をいい、「光触媒膜の清浄化装置」とは、版面を清浄化するための装置をいうこととする。
【0024】
[第1の実施形態]
先ず、第1の実施形態について、図1、図3及び図4を用いて説明する。
ここで用いる印刷機Xには、図1に示すように、印刷用版材Pと、版面清浄化装置(光触媒膜の清浄化装置)Aと、が備えられている。これらの他に印刷機Xには、図示しない版胴、インキングローラ、ブランケット胴、コーティング装置、書き込み装置あるいは乾燥装置といった、従来の印刷機に備えられている構成要素も、備えられている。
【0025】
印刷用版材Pは、アルミニウム、ステンレスあるいはチタン等からなる基材1上に、酸化チタン(TiO2)等の光触媒を含むコート層(光触媒膜)2が積層された構成となっている。この印刷用版材Pは、印刷機Xの版胴に巻き付けて装着されている。なお、以下において、コート層2の表面を版面(光触媒膜の表面)と称し、符号2aで表す。
【0026】
版面清浄化装置Aは、版面2aを清浄化するためのもので、版面2aに紫外線を照射する紫外線ランプ(光源)7と、版面2a上の有機物を払拭除去する版クリーニング装置(図示省略)と、が備えられている。版クリーニング装置の構成としては、一般的な印刷機に設けられているクリーニングローラであってもよいし、他のものであってもよい。
【0027】
この印刷機Xを用いた、版の作製及び印刷の方法、及び版面の清浄化方法について、以下に説明する。
先ず、コーティング装置を用いて、親水性の版面2aのほぼ全面に、疎水化剤として作用する有機物(以下、「疎水化剤」という)からなる塗布層を形成し(図示省略)、版面2aを疎水性としておく。この状態を、「版作製時の初期状態」とする。
そして、書き込み装置を用いて、版面2aに対して画像を書き込み、「版の作製」を行う。この画像の書き込みは、画像に関するデジタルデータに対応するようにして、書き込み装置から版面2aに紫外線を照射することにより行う。すなわち、紫外線が照射された部分においては、塗布層を形成している有機物が光触媒効果により分解されて、親水性の部分が形成されるのに対し、紫外線が照射されなかった部分においては、有機物は分解されずに疎水性のままである。このように、印刷する画像に対応して、疎水性部分と親水性部分とを版面2aに現出させることで、版の作製が完了する。
【0028】
版の作製が行われた版面2aに、インキングローラからインキ及び湿し水を供給して、印刷を行う。このとき、疎水性部分にはインキが付着して画線部が形成され、親水性部分にはインキが付着せず非画線部が形成されて、画像が浮かび上がるので、通常の印刷工程を実行することが可能となる。
【0029】
印刷が終了したら、版面2aを清浄化させて、版の再生を行う。この「版面の清浄化」とは、版面上のインキをほぼ完全といえるまで除去し、版面全面を親水化させることをいう。また「版の再生」とは、清浄化された版面に塗布層を形成し、版作成時の初期状態に戻すことをいう。
【0030】
版面2aの清浄化は、インキ払拭工程(第1の有機物除去工程)と、インキ分解工程(第2の有機物除去工程)と、を経ることにより行われる。
インキ払拭工程において、版クリーニング装置を版面2aに当接させ、有機溶剤を用いて、版面2aに付着しているインキ及び湿し水を払拭除去する。この払拭除去は、肉眼ではインキの残留が認識できない程度まで行う。すなわち、このインキ払拭工程は、従来例において示したクリーニング工程とほぼ同一の工程である。
【0031】
このように、版クリーニング装置を用いてインキ等を払拭除去した後も、版面2aには、インキが極めて薄い層をなして付着、残留している。こうした残留インキ(有機物)を符号3として、図1に示している。なお実際には、残留インキ3は、肉眼では認識できない程度の微量なものであり、図1においては模式的に表現しているものである。
残留インキ3は、非常に高い分子量を有する高分子有機物であって、容易には分解し得ないものであり、版面2aに付着・残留させたままでは、版面2aの親水化を阻害するとともに、再び塗布する疎水化剤の充分な付着を阻害することとなる。
【0032】
このような版面2aに対して、続くインキ分解工程で、紫外線ランプ7を用いて紫外線(光)Lを照射する。この紫外線Lの照射を長時間続けると、光触媒効果によって残留インキ3は分子レベルまで分解され、版面2aから除去される。残留インキ3の下側に層をなしている疎水化剤も、同様に分解除去される。
【0033】
ここで照射する紫外線Lは、使用する光触媒膜のバンドギャップエネルギーよりも大きな光子エネルギーであればよく、380nm以下の波長を有するものが好適である。紫外線Lを放射する光源の形態、紫外線Lを版面に導入する形態に関しては、特に問わない。また、紫外線Lを照射する時間は、紫外線Lの照射強度、波長、光触媒の効率、残留インキ3の質と量に依存するので、残留インキ3の分解除去を完了するのに必要な照射時間をあらかじめ調べておけばよい。本発明者らの検討によれば、照射強度1mW/cm2以上で且つ照射時間90分間以内といった照射条件で照射すれば、殆ど全ての残留インキ3は分解除去できることが判っている。
【0034】
残留インキ3がほぼ完全に分解除去され、版面の清浄化が完了したら、親水性となっている版面2aに、再び疎水化剤を塗布して塗布層を形成し、版作製時の初期状態に戻す。こうすることで、版の再生が終了する。
【0035】
ここで、インキ分解工程の実施例について説明する。
用いた紫外線ランプ7は、出力200Wの低圧水銀ランプであり、その放出光の主成分は波長254nmの紫外線である。版面2aの照射位置における照射強度は、23mW/cm2である。この紫外線を、90分間照射した。
【0036】
紫外線Lの照射時間と版面2aの接触角との関係を、図3に示す。この図における版面2aの初期状態は、インキ払拭工程終了後のものである。この図から明らかなように、紫外線照射に伴い、版面2aの残留インキ3及び疎水化剤が、光触媒効果により分解除去されて、次第に水との接触角が小さくなっている。そして、90分間紫外線照射した場合には、接触角が5°以下となって充分な親水性を示し、表面が清浄化されたことを示している。
なお、この接触角の測定は、JIS R 3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に基づいて行った。
【0037】
次に、この版面2aに塗布層を形成したときの接触角の変化を、図4に示す。この図に示す初期状態、すなわち「塗布前」の状態は、図3において版面2aに紫外線を90分間照射した後のものである。この版面2aに、従来例におけると同様の方法で化合物を塗布し、塗布層が形成された「塗布後」の状態とした。このとき、水との接触角は40°程度になった。
その後、従来例と同様の印刷方法で、版面2aに絵柄を書き込み、印刷した結果、良好な印刷ができた。
【0038】
本実施形態に係る版面の清浄化方法においては、版面2aからインキ等の有機物を払拭除去するインキ払拭工程と、版面2aに光を照射して版面2aの残留インキ3を分解除去するインキ分解工程と、を含むようにするとともに、インキ分解工程における紫外線Lの照射時間及び照射強度を最適に制御するようにしている。そのため、版面2aに残留する残留インキ3のような高分子有機物を有効に分解し、分子レベルで版面2aから除去して、版面2aをほぼ完全といえるまで清浄化(クリーニング)させることができる。これにより、版の再生における信頼性を高めて、版の繰り返し使用における耐久性を高いものとできるとともに、再生効率を高めることができる。
【0039】
また、本実施形態に係る版面清浄化装置Aは、印刷機Xに備えられるように構成しているので、印刷用版材Pを版胴に取り付けたまま、印刷機X上で好適に版面2aを清浄化させることができる。
【0040】
[第2の実施形態]
第2の実施形態を、図2、図5及び図6を用いて説明する。
本実施形態における版面の清浄化方法は、上記第1実施形態における版面の清浄化方法と比較して、インキ分解工程(第2の有機物除去工程)のみが異なっている。また、本実施形態における版面の清浄化装置は、上記第1実施形態における版面清浄化装置に、洗浄液供給装置を付加した構成となっている。そのため、第1実施形態と共通する構成要素については、同一の符号を付して、その詳しい説明は省略する。
【0041】
印刷機Yには、図2に示すように、印刷機Xに備えられている版面清浄化装置Aに替えて、版面清浄化装置Bが備えられている。印刷機Yのその他の構成要素は、印刷機Xと同一である。
【0042】
版面清浄化装置(光触媒膜の清浄化装置)Bは、版面2aを清浄化するためのもので、紫外線ランプ(光源)7と、版面2a上の有機物を払拭除去する版クリーニング装置(図示省略)の他に、洗浄液供給装置4が備えられている。なお、図2においては、洗浄液供給装置の構成要素のうち、ノズル部分のみを符号4として図示している。
洗浄液供給装置4は、版面2aに洗浄液5を連続的あるいは間欠的に供給するものである。この洗浄液5の好適なものの例として、水、アルコール、あるいは水とアルコールとの混合物が挙げられる。これらに、界面活性剤を加えたものを用いてもよい。
【0043】
この印刷機Yを用いた、版面の清浄化方法について説明する。
なお、インキ払拭工程(第1の有機物除去工程)は、上記第1実施形態におけると同一工程であるので、インキ除去工程(第2の有機物除去工程)についてのみ説明する。
【0044】
上記第1の実施形態におけると同一の方法による版の作製及び印刷を経て、印刷が終了した後、洗浄液供給装置4を用いて版面2aに洗浄液5を連続的に供給しながら、紫外線ランプ7を用いて紫外線Lを照射する。
【0045】
洗浄液供給装置4から供給された洗浄液5によって、紫外線Lの照射中、版面2aは常に洗浄液5と接触した状態、つまり濡れた状態となっている。
このように、版面2aに紫外線照射することで分解が進んだ残留インキ3のうち、洗浄液5に可溶あるいは分散可能な性質を持つに至った分解生成物は、洗浄液5に溶解・分散され、版面2aから脱離される。ここでは、洗浄液5の性質から、水溶性を有する分解生成物が溶解されることとなる。
さらに、常に洗浄液5が供給され続けるために、版面2a上の洗浄液5は順次版面2aから脱離していく。図2においては、版面2aから脱離して流れ去っていく洗浄液を、符号6で示している。この洗浄液6には、残留インキ3の分解生成物が溶解しているので、この分解生成物は、版面2aから順次除去されていき、版面2aは清浄化される。
【0046】
ここで、インキ分解工程の実施例について説明する。
用いた紫外線ランプ7は、出力15Wの低圧水銀ランプであり、その放出光の主成分は波長254nmの紫外線である。このランプの仕様は、東芝製GL15、直管40cmで、管中心から7cmの距離に照射対象物、すなわち版面2aを配置した。版面2aの照射位置における照射強度は、3〜6mW/cm2であった。この紫外線を、30分間連続的に照射した。この紫外線照射は、洗浄液供給装置4から版面2aに水を連続供給し続け、版面2aを常に濡らした状態としながら行った。
【0047】
紫外線Lの照射時間と版面2aの接触角との関係を、図5に示す。この図における版面2aの初期状態は、インキ払拭工程終了後のものである。この図から明らかなように、版面2aの残留インキ3及び疎水化剤が光触媒効果により分解除去されて、水との接触角が5°以下となるまでに要する時間は、上記第1実施形態の場合と比較して、大幅に短縮されている。
なお、接触角の測定方法は、上記第1実施形態におけると同様である。
【0048】
次に、この版面2aに塗布層を形成したときの接触角の変化を、図6に示す。この図に示す初期状態、すなわち「塗布前」の状態は、図5において版面2aに紫外線を30分間照射した後のものである。この版面2aに、従来例におけると同様の方法で化合物を塗布し、塗布層が形成された「塗布後」の状態とした。このとき、水との接触角が120°以上となる疎水性の状態に調整することができた。このような良好な塗布層は、清浄な版面2aに対してのみ実現することから、30分の紫外線照射によって、版面2aは十分に清浄化されたといえる。
そして、従来例と同様の印刷方法で、版面2aに絵柄を書き込み、印刷した結果、非常に良好な印刷ができた。
【0049】
版面2aの残留インキ3を除去するに際し、紫外線照射による光触媒効果を利用した分解除去を試みると、残留インキ3を低分子量化させる程度までの分解、すなわち分解生成物としての中間生成物となるまでの分解は、比較的短時間で進行する。しかし、この中間生成物が最終生成物となるまで分解を行って、ほぼ完全といえるまで除去するためには、さらに長時間の紫外線照射を必要とする。この「最終生成物」とは、例えば二酸化炭素(CO2)や水(H2O)等のような、版面2aには残留しない形態にまで分解された化合物、すなわちそれ以上分解させなくともよい化合物をいう。
【0050】
中間生成物の中には、界面活性剤として作用するものもあるので、こうした中間生成物が版面2aを覆っている状態にあっては、その界面活性剤的効果により、水との接触角が小さい、濡れのよい親水性の状態を示すことがある。このような状態において、濡れが良いことを理由に版面2aの清浄化が達成されたと誤認して、次の工程である塗布層の形成を行うと、不十分な結果となる。すなわち、これら中間生成物が、塗布層の疎水化剤と光触媒の水酸基(OH)とが結合することを阻害し、塗布層は単に残留インキ3上に堆積されただけとなる。このような、版面2aに十分付着していない塗布層は、印刷時に湿し水等に流されて版面2aから簡単に剥離してしまうことで、その画線部としての機能を十分に発揮できず、不鮮明な印刷しかできなくなる場合がある。
【0051】
このように、紫外線照射による光触媒効果のみで、高分子有機物を最終生成物となるまで分解しようとすると、長時間を要する。そのため、本実施形態に係る版面の清浄化方法においては、インキ分解工程で、版面2aに洗浄液5を連続的あるいは間欠的に供給して版面2aを洗浄しながら紫外線照射を行うようにしている。このようにしているので、インキ等の高分子有機物の分解が途中までしか進まず、中間生成物となった状態であっても、洗浄液5に可溶あるいは分散可能となる程度まで低分子量化させていれば、洗浄液5とともに版面2aから除去することができる。そして、画線部であった部分においては疎水化剤の分解が進行しているので、分解された疎水化剤の表層に堆積した状態の残留インキ3は、分解された疎水化剤ごと洗浄液5で洗い流されて、版面2aから脱離させることができる。そのため、短時間で版面2aをほぼ完全といえるまで、より理想的に清浄化させることができ、版の再生における信頼性を更に高めるとともに、版の再生時間を短縮でき、再生効率ひいては印刷効率を非常に高いものとすることができる。
また、光触媒効果による分解反応における、分解対象物の総量を減量化することができるので、紫外線Lの照射時間や照射強度といった紫外線照射条件を緩和させることができる。そのため、紫外線照射を短時間で終了させることができ、省エネルギー化を図ることができる。
【0052】
また、本実施形態に係る版面清浄化装置Bは、印刷機Yに備えられるように構成しているので、印刷用版材Pを版胴に取り付けたまま、印刷機Y上で好適に版面を清浄化させることができる。
【0053】
版面2aの清浄化は、版面2aと洗浄液5とが常時接触した状態であれば可能であるが、洗浄液5に溶解・分散した残留インキ3や疎水化剤は、版面2aから消滅したわけではないので、洗浄液5を連続的あるいは間欠的に版面2aに供給して版面2aから洗い流すようにすることが、より好ましい。洗浄液5が乾いた後には、脱離した残留インキ5や疎水化剤が再び版面2aに堆積してしまうからである。
【0054】
本実施形態においては、ノズルを用いて版面2aに洗浄液5を供給するようにしているが、こうしたノズル以外にも、例えば湿し水供給機構のようなローラーを用いて、洗浄液5を供給するようにしてもよい。
また、紫外線Lは、必ずしも連続的に版面2aに照射し続ける必要はなく、間欠的な照射であってもよい。
【0055】
なお、上記第1及び第2の実施形態においては、印刷用版材の表面に光触媒膜を適用した場合を例にとって説明したが、本発明に係る光触媒膜の清浄化方法及び清浄化装置はこうした用途に限定されるものではなく、光触媒膜を有する物品の表面を清浄化させる方法として、広く適用可能であることは、いうまでもない。
例えば、光触媒膜を、自動車用トンネルにおける街路灯カバーに適用した場合にも、十分に適用が可能である。こうした街路灯カバーは、自動車の排気ガス等の塵埃により、有機物が付着し易く、特にトンネル内等においては顕著である。このように汚れが付着した街路灯カバーの表面は、街路灯によって照射される紫外線の照射時間や照射強度を制御する、あるいは街路灯カバーを洗浄するためのシャワーの如き装置を備えることで、十分に清浄化させることができる。
また例えば、ガラス等に適用した場合には、紫外線照射によってガラス表面に任意の画像を形成し、その後消去することができる。すなわち、水が付着する部分を繰り返し制御することで、水によって任意の画像をガラス表面に現出させる事が可能となり、インテリア製品やバス・トイレタリー製品への応用も考えられる。
【0056】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る光触媒膜の清浄化方法及び清浄化装置においては、上記の如き構成を採用しているので、光触媒膜に残留する、払拭のみでは除去しきれない有機物を分子レベルで分解除去し、光触媒膜をほぼ完全といえるまで清浄化することのできる光触媒膜の清浄化方法及び清浄化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る光触媒膜の清浄化装置の第1の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】 本発明に係る光触媒膜の清浄化装置の第2の実施形態を示す概略構成図である。
【図3】 本発明に係る光触媒膜の清浄化方法の第1の実施形態における、インキ分解工程の実施例について示すグラフ図である。
【図4】 本発明に係る光触媒膜の清浄化方法の第1の実施形態における、塗布層形成工程の実施例について示すグラフ図である。
【図5】 本発明に係る光触媒膜の清浄化方法の第2の実施形態における、インキ分解工程の実施例について示すグラフ図である。
【図6】 本発明に係る光触媒膜の清浄化方法の第2の実施形態における、塗布層形成工程の実施例について示すグラフ図である。
【符号の説明】
A,B 版面清浄化装置(光触媒膜の清浄化装置)
P 印刷用版材
X,Y 印刷機
1 基材
2 コート層(光触媒膜)
2a 版面(光触媒膜の表面)
3 残留インキ(有機物)
4 洗浄液供給ノズル(洗浄液供給装置)
5,6 洗浄液
7 紫外線照射ランプ(光源)
L 紫外線(光)
Claims (6)
- 所定の波長を有する光が照射されることで表面が親水性を示す光触媒膜の、前記表面のうちの少なくとも一部に高分子有機物からなるインキが付着して、疎水性を示す部分が存在し、かつ清浄化後に表面に疎水化剤を塗布した塗布層が形成される光触媒膜を清浄化させる方法であって、インキを残して前記表面からインキを払拭除去する第1の有機物除去工程と、前記表面に光を照射し、前記表面に残留しているインキを分解除去する第2の有機物除去工程と、を含むことを特徴とする光触媒膜の清浄化方法。
- 前記光は、380nm以下の波長を有する紫外線であって、該紫外線を、前記第2の有機物除去工程で、照射強度1mW/cm2以上で且つ照射時間90分間以内で照射することを特徴とする請求項1に記載の光触媒膜の清浄化方法。
- 前記第2の有機物除去工程を、前記表面に洗浄液を接触させた状態で行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光触媒膜の清浄化方法。
- 前記第2の有機物除去工程を、前記表面に洗浄液を連続的あるいは間欠的に供給しながら行うことを特徴とする請求項3に記載の光触媒膜の清浄化方法。
- 光が照射されることで表面が親水性を示す光触媒膜の、前記表面のうちの少なくとも一部に高分子有機物からなるインキが付着して、疎水性を示す部分が存在し、かつ清浄化後に表面に疎水化剤を塗布した塗布層が形成される光触媒膜を清浄化させる装置であって、インキを残して前記表面からインキを払拭除去する版クリーニング装置と、前記表面に光を照射し、前記表面に残存するインキを分解して除去する光源とを備えていることを特徴とする光触媒膜の清浄化装置。
- 前記表面に洗浄液を連続的あるいは間欠的に供給する洗浄液供給装置を備えたことを特徴とする請求項5に記載の光触媒膜の清浄化装置。
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