JP3996744B2 - 薄板鋼部材の接合構造 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、スチールハウス等の薄板鋼建築物における薄板鋼部材の接合構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、スチールハウス等を構築する骨組み構造体として、通常、木材よりも軽量で、反りや捩じれ等に対して耐久性に優れた板厚が0.4mm〜2.0mm程度の鋼板を加工した溝形鋼などの薄板鋼部材が好適に用いられている。
【0003】
従来、薄板鋼建築物における薄板鋼部材の接合手段としては、ボルト接合が一般的に使用されている。このような薄板鋼部材のボルト接合には、支圧接合による中ボルトが広く用いられ、例えば、スチールハウスの屋根トラスの標準ディテールにも含まれている。
【0004】
また、前記したような中ボルトによるボルト接合では、施工性を向上させるために、図7示すように、互いに重ね合わされる薄板鋼部材1,2同士の接合端面部1a,2aの接合部位1個所に真円のボルト孔3を開設し、このボルト孔3に1本の中ボルト4を挿通して、中ボルト4に座金5を介してナット6を螺合させて締結するような接合方法(1本ボルト接合)が望ましい。
【0005】
ところが、スチールハウスの屋根トラスなどのようなトラススパンが大きい場合には、薄板鋼部材1,2同士の1個所の接合部位に加わる力(剪断力)も大きくなるため、1本ボルト接合を確立するためには、ボルト軸径の大きな中ボルト4を用いる必要があり、図9に示すように、ボルト軸径Dが20mm(M20)の太い中ボルト4を用いて接合しなければならいこともある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このため、前記した従来の薄板鋼部材の接合構造にあっては、図9に示すような薄板鋼部材1,2同士の接合部位にボルト軸径Dの太い中ボルト4を用いた場合、ボルト頭部の大きさだけが非常に目立つ。例えば、背丈が90mmで、幅が40mmの標準的な溝形鋼からなる屋根トラスの接合部位に、M20のような太い中ボルト4を用いると、ボルト接合部の形態が滑稽で見苦しく、見る人に違和感を与え、外観を低下させる。
【0007】
また、接合部に加わる剪断力の大小にあわせて、中ボルトのサイズを変更しなければならないことも大きな問題となる。複数の種類の中ボルトを混在させて使用することは、施工性の低下を引き起こすだけでなく、付け間違いによる施工不良の発生原因にもつながる恐れがある。
【0008】
このようなボルト接合部の外観性を高め、かつボルトの混在使用を行わずに施工性を向上させるためには、図7に示すように、例えばM12のようなボルト軸径Dの細い中ボルト4のみを用いて、剪断力の大きい場合でも接合できるようにする必要がある。
【0009】
ところが、図10に示すように、薄板鋼部材1,2に引張力Fが作用、反作用として加わり、それらの接合端面部1a,2a間に剪断力が作用したとき、座金の直径が中ボルトの軸径の2倍程度であると、中ボルト4が引張力Fの作用方向に回転し傾倒する。これにより、ボルト孔3の周辺の薄板鋼部材1,2に面外への膨れ変形(面外変形)が生じ、接合部位の平面性を維持することができないばかりでなく、亀裂破壊も発生し易い。
【0010】
図11は、薄板鋼部材の板厚(t)を1.2mmとし、中ボルトのボルト軸径D(D:M10,M12,M16,M20)に対するボルト1本当たりの剪断力P(kN)との実験結果を示す。この場合、座金の直径dは、ボルト軸径Dの2倍(2M)とする。
【0011】
また、図12は、中ボルトのボルト軸径Dを12mm(M12)とし、薄板鋼部材の板厚(t:8mm,1.2mm,1.6mm,2.3mm,3.2mm)に対するボルト1本当たりの剪断力P(kN)の測定結果を示す。この場合、座金の直径dは、ボルト軸径Dの2倍(2M)とする。
【0012】
すなわち、図11及び図12から明らかなように、薄板鋼部材1,2の接合端面部1a,2a間の接合部位では、中ボルト4のボルト軸径D及び薄板鋼部材の板厚tによってボルト1本当たりの剪断力が大きく影響される。しかし、従来では、薄板鋼部材1,2の接合端面部1a,2aを中ボルト4の締結により拘束(支圧)する座金5の直径dが、ボルト軸径Dに対して約2倍と小径であるため、ボルト支圧力が低いと、接合部位に作用する剪断力Pによる中ボルト4の傾倒回動が生じ、その結果、ボルト孔3の周辺の鋼材が面外へ曲がり出るような変形を生じた時点で、接合部位の強度が決定されることになる。
【0013】
本発明は、前記した事情に鑑みてなされたもので、ボルト接合部位の破壊性状を分析し、薄板鋼部材の接合強度の決定要因がボルトから薄板鋼部材に伝達される支圧力による鋼材の面外変形であることを見い出し、面外変形を拘束することにより、ボルト接合部位に大きな剪断力が作用しても、ボルト軸径を大径化することなく、接合強度(支圧強度)を高めることができる薄板鋼部材の接合構造を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するために、本発明は、次のように構成する。
【0015】
第1の発明は、互いに重ね合わされる薄板鋼部材同士の接合端部に開設したボルト孔に座金を挟んでボルトを挿通し、当該ボルトに前記座金と対となる座金を介してナットを螺合させて締結することにより、前記薄板鋼部材同士の接合を行うにあたり、前記一対の座金の直径は、前記ボルトのボルト軸径の3倍以上、5倍以下からなり、前記一対の座金の板厚は、前記座金の直径の1/16以上、1/8以下からなり、前記薄板部材の板厚は、 0.4 mm以上、 2.0 mm以下からなることを特徴とする。
【0019】
【作用】
本発明に係る薄板鋼部材の接合構造は、中ボルトのボルト軸径の少なくとも3倍以上の直径を有する大径な座金を用いることにより、ボルト支圧力を高めることを可能にしている。このため、薄板鋼部材同士の接合端面部を締結する中ボルトの回転変形及びボルト孔の周囲の面外変形が同時に拘束され、真円のボルト孔が剪断力の作用方向に楕円形に変形するような破壊(支圧破壊)が生じ、接合部位の強度が決定される。これにより、従前のような中ボルトのボルト軸径を太くすることなく、大径な座金によるボルト接合部位の支圧強度の向上が図れるとともに、接合部位の平面性を維持することが可能になる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図1から図6に示す図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明の図示の実施形態において、図7から図10に示す従来構造と構成が重複する部分は同一符号を用いて説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る薄板鋼部材の接合構造の一実施形態を示す。図1に示すように、互いに重ね合わされる薄板鋼部材1,2同士の接合端面部1a,2aの接合部位には、真円のボルト孔3が開設され、このボルト孔3に中ボルト4を挿通するとともに、この中ボルト4に座金5を介してナット6を螺合させて締結してなる構成を有する。
【0022】
そして、前記座金5は、図2に示すように、中ボルト4のボルト軸径D(M)に対して、3倍以上の直径d(3M)を有する。
【0023】
図3及び図4は、本発明における中ボルト4のボルト軸径及び薄板鋼部材の板厚に対するボルト1本当たりの剪断力の測定結果を、図11及び図12に示す従来の測定結果と比較して示す。図3は、薄板鋼部材の板厚(t)を1.2mmとし、中ボルト4のボルト軸径D(D:M10,M12,M16,M20)に対するボルト1本当たりの剪断力P(kN)を示す。この場合、座金の直径dは、ボルト軸径Dの4倍(4M)とする。また、図4は、中ボルト4のボルト軸径Dを12mm(M12)とし、薄板鋼部材の板厚(t:8mm,1.2mm,1.6mm,2.3mm,3.2mm)に対するボルト1本当たりの剪断力P(kN)を示す。この場合、座金の直径dは、ボルト軸径Dの4倍(4M)とする。
【0024】
すなわち、図5に示すように、薄板鋼部材1,2に引張力Fが作用、反作用として加わり、それらの接合端面部1a,2a間に剪断力が作用したとき、中ボルト4のボルト軸径Dの少なくとも3倍以上(本実施例では4倍)の直径dを有する大径な座金5を用いているため、従来よりも、ボルト1本当たりの剪断力を高めることが可能になり、ボルト支圧力の向上が図れる。このため、薄板鋼部材1,2同士の接合端面部1a,2aを締結する中ボルト4の回転変形及びボルト孔の周囲の面外変形が同時に拘束され、真円のボルト孔3が剪断力の作用方向に楕円形に変形するような破壊(支圧破壊)が生じ、接合部位の強度が決定される。
【0025】
なお、図6は、中ボルト4のボルト軸径Dを12mm(M12)として、座金5の直径d(d:1.5M,2M,3M,3.5M,4M,5M)による薄板鋼部材の板厚(t)に対するボルト1本当たりの剪断力P(kN)への影響度を示する。図6(a)は薄板鋼部材の板厚(t)が0.8mm、図6(b)は薄板鋼部材の板厚(t)が1.2mmにおける測定結果である。
【0026】
図6に示す測定結果から明らかなように、ボルト1本当たりの剪断力は、座金5の直径dが中ボルト4のボルト軸径Dの3倍未満(d:1.5M,2M)では剪断力の上昇が期待することができず、3倍以上、5倍以下の範囲とした場合に剪断力の上昇が望めることが分かる。このように、座金5の直径dに対する接合部位の強度の上昇は、ボルト軸径Dの3倍(3M)乃至5倍(5M)の範囲で最も有効に作用する。
【0027】
また、図3及び図4から明らかなように、座金5の直径dによる接合部位の強度は、本発明のような鋼材の板厚(t)が0.4mm〜2.0mm程度の範囲で50%程度の上昇が期待でき、従来の鋼構造分野において使用されているような板厚(t)が2.3mm以上の鋼材では比較的効果が小さい。
【0028】
さらに、鋼材からなる被接合材の板厚が3.2mm以上の従来の軽量鉄骨造におけるボルト接合構造では、座金の厚さが被接合材の板厚よりも薄い場合が多いが、本発明では、座金の厚さを被接合材となる薄板鋼部材の板厚(0.4mm〜2.0mm程度)よりも厚くすることで、接合部位における中ボルト4の回転変形及びボルト孔3の周囲の面外変形に対する拘束効果を高める工夫を施している。
【0029】
これらの座金による拘束効果を効果的に発揮させるためには、接合する薄板綱部材の板厚の最適範囲は、0.4mm〜2.0mmであり、使用する座金の板厚が、その直径の1/16〜1/8となる。
【0030】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る薄板鋼部材の接合構造は、中ボルトのボルト軸径の少なくとも3倍以上の直径を有する大径な座金を用いることにより、ボルト支圧力を高めることができ、これにより、従前のような中ボルトのボルト軸径を太くすることなく、大径な座金によるボルト接合部位の支圧強度の向上を図ることができるとともに、接合部位の平面性を維持することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明に係る薄板鋼部材の接合構造の一実施形態を示し、図1(a)は正面図、図1(b)は側面図である。
【図2】同じく接合部位の要部拡大図である。
【図3】同じく本発明における中ボルトのボルト軸径に対するボルト1本当たりの剪断力の測定結果を示す説明図である。
【図4】同じく本発明における薄板鋼部材の板厚に対するボルト1本当たりの剪断力の測定結果を示す説明図である。
【図5】同じく本発明における接合部位の支圧破壊状態を示す説明図である。
【図6】図6は本発明における座金の直径による薄板鋼部材の板厚に対するボルト1本当たりの剪断力への影響度を示し、同図(a)は薄板鋼部材の板厚が0.8mmおける測定結果を示す説明図、同図(b)は薄板鋼部材の板厚が1.2mmおける測定結果を示す説明図である。
【図7】図7は従来の薄板鋼部材の接合構造を示し、同図(a)は正面図、同図(b)は側面図である。
【図8】同じく接合部位の要部拡大図である。
【図9】図9は従来の薄板鋼部材の接合構造を他の例を示し、同図(a)は正面図、同図(b)は側面図である。
【図10】同じく接合部位の面外変形状態を示す説明図である。
【図11】同じく従来の中ボルトのボルト軸径に対するボルト1本当たりの剪断力の測定結果を示す説明図である。
【図12】同じく従来の薄板鋼部材の板厚に対するボルト1本当たりの剪断力の測定結果を示す説明図である。
【符号の説明】
1 薄板鋼部材
1a 接合端面部
2 薄板鋼部材
2a 接合端面部
3 ボルト孔
4 中ボルト
5 座金
6 ナット
D ボルト軸径
d 座金の直径

Claims (1)

  1. 互いに重ね合わされる薄板鋼部材同士の接合端部に開設したボルト孔に座金を挟んでボルトを挿通し、当該ボルトに前記座金と対となる座金を介してナットを螺合させて締結することにより、前記薄板鋼部材同士の接合を行うにあたり、前記一対の座金の直径は、前記ボルトのボルト軸径の3倍以上、5倍以下からなり、前記一対の座金の板厚は、前記座金の直径の1/16以上、1/8以下からなり、前記薄板部材の板厚は、 0.4 mm以上、 2.0 mm以下からなることを特徴とする薄板鋼部材の接合構造。
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